BtoB企業スタートアップ企業が知っておくべき「トラクション」とは?

2021/11/30
BtoBマーケティング トラクション スタートアップ BtoB企業スタートアップ企業が知っておくべき「トラクション」とは?

スタートアップ企業の方は、投資家へのピッチ(プレゼンテーション)のときはどのような資料を作成しているでしょうか? ピッチ大会などに参加されたことはありますか? 

スタートアップにとって、エンジェルやベンチャーキャピタルから支援を受けられるかはひとつの関門です。投資に値する企業だと、簡潔・明確に自社の成功可能性を伝えなければなりません。

そのためには「トラクション」の現状や、今後の行方のアウトラインをしっかりと盛り込むことが重要です。

なぜならトラクションは、現状の財務状況と今後の成長性、チームメンバーと同じく投資家が投資先を選ぶ際の有力な基準だからです。

本記事では、BtoBスタートアップ企業が知っておくべき「トラクション」とは何か?

トラクションについてのおすすめ本、トラクションを獲得する手法について解説します。

トラクションとは?

トラクション(traction)とは、直訳すると「牽引する力」という意味です。

Traction= ”引っぱること、牽引(けんいん)、牽引力、(道路に対するタイヤ・滑車に対するロープなどの)静止摩擦、交通輸送、収縮、(骨折治療などの)牽引”(出典:Weblio)

ビジネス英語では、get  tractionでプロジェクトなどがどんどん進行している様子、gain tractionでビジネスが勢いにのっている、支持されていることなどを表します。

スタートアップ企業にとってのトラクションとは?

ただスタートアップの世界では、トラクションは「牽引力」という意味だけでなく「事業成長の可能性を示す初期の実績」という意味でよく使われます。

米国では投資家への説明資料(ピッチ)に、トラクションが盛り込まれることは一般的であり、テンプレートの必須項目といってもよいでしょう。

トラクションの記載例

(出典:Slide members -Traction Template

例えば、SaaSスタートアップの初期実績としてのトラクションには、以下があります。

  • トラクション例:顧客数、成長率、MRR ARR CAC LTV CS 、etc

スタートアップ企業は、実績豊富とまではいかない段階で投資家に説明することも多いので、必ずしも明確な指標というわけではなく「成長の兆し」「可能性を示す初期指標」という解釈まで含まれます。

なぜトラクションが重要かというと、以下のCB INSIGTSのデータでわかるように、スタートアップがうまくいかない理由の多くは、マーケットニーズがないからです。

トラクションは、その製品・サービスのニーズが市場にあるかどうかを示す指標。投資家が投資先企業を選ぶときの有力な基準になります。もちろん起業家にとっても、Go to marketに移行するために必ず意識すべき重要事項です。

スタートアップが失敗する理由

トラクションをまとめた書籍

もっとも経営者の立場としては「初期の実績が重要なことはは百も承知 。トラクションを獲得するまでが大変なんだ」というところかと思います。

では、トラクションを獲得するためには具体的に何をすればよいでしょうか?

まず、トラクションを得るための手法についてまとめた書籍を紹介します。今のところ日本で出ているトラクション関連本はこの2冊だけです。

それぞれトラクションの定義はやや異なり、一冊は「トラクション=牽引力」、もう1冊は「トラクション=初期の顧客数」という視点よりで書かれていますが、いずれも事業をスケールさせるノウハウが詰まった良書でレビューも高評価です。

「TRACTION トラクション ビジネスの手綱を握り直す 中小企業のシンプルイノベーション」

「TRACTION トラクション ビジネスの手綱を握り直す 中小企業のシンプルイノベーショ

(出典:Amazon

  • 著者:全世界で130,000社以上の企業が導入しているEOS(Entrepreneurial Operating System)の開発者ジーノ・ウィックマン氏。
  • 内容:事業をトラクションさせる(牽引する)ために、経営に欠かせない「ビジョン」「データ」「プロセス」「トラクション」「課題」「人」の6つのモジュールとビジネスの課題を解決する20のツールで構成されるEOSを紹介。EOSは米国で「大企業はMBA、中小企業の経営戦略はEOS」といわれる実績のあるメソッド。ビジョン・トラクションシートなどのツール説明をしながら、中小企業がイノベーションを起こすステップをわかりやすく解説しています。
「トラクション ―スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル」

「トラクション ―スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル」

(出典:楽天ブックス

  • 著者:「あなたを追跡しない検索エンジンDuckDuckGo(ダックダックゴー)」の創業者Gabriel Weinberg(ガブリエル・ワインバーグ)氏、スタートアップの大成功と失敗の両方を経験した成長コンサルタントのJustin Mares(ジャスティン・メアーズ)氏の共著。
  • 内容:「トラクション推進力を得るために十分な顧客)」という視点で、トラクションを獲得するためのフレームワークと19の顧客獲得チャネルを紹介しています。トラクションを獲得するためにどのチャネルで何をすればよいかが事例つきで紹介されています。
    「モノづくりとトラクション(顧客を掴む)の重要度は50%ずつと考える」「どのチャネルに対しても、まずは等しく可能性を考える」など、スタートアップ企業に役立つアドバイスが満載です。

スタートアップがトラクションを生むためのチャネル19個

ここでは、書籍「トラクション ―スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル」に紹介されているチャネルについて簡単に解説します。ただし、多少日本の市場にあわせてまとめています。

1.バイラルマーケティング

バイラル・マーケティング(Viral marketing)とは「Viral=ウィルス」のように評判が速く拡散する仕掛けを事前に組み込むマーケティング手法です。一見、自然発生的に大ヒットしたかのように見えるプロダクトも、実はバイラル・マーケティングの成功だったケースは珍しくありません。

もともとは、Hotmailがメール下部に「P.S. Hotmailで無料電子メールを入手しよう」というメッセージを入れ、送信者の意図に関わらずhotmailが使われると自動的に宣伝される仕組みを採用したことが由来です。

商品自体に仕組みが埋め込む手法を「一次的バイラルマーケティング」と呼び、「紹介キャンペーン」のように口コミとインセンティブを活用して拡散させる手法を「二次的バイラルマーケティング」と呼びます。

成功例:AmazonDropbox(英語)Hotmail、他

二次的バイラルマーケティングの場合、インセンティブ目当ての利用者が増えて予定よりコストがかかりすぎた失敗例もあります。バイラルマーケティングについてより知りたい人は、こちらの本もおすすめです。

2.PR

PRとはパブリック・リレーションズ( Public Relations)の略で、対外的な広報業務のことを指します。具体的には各メディアに自社の事業について定期的に発信して、良好な関係性を保ち、記事としてとりあげてもらったり、自社を理解してもらったりすることでフェアな報道がされることを目指します。

広告とは違い、有料で何かを掲載するのではなく、消費者や社会全般に有益な情報を発することでメディアに無償で記事でとりあげてもらう活動です。メディアで取り上げられることで、企業の知名度アップ、信頼度アップにつながります。オンラインのメディア、無料プレスリリースサイトなどを活用すれば同時にSEO対策にもなるでしょう。

3.規格外

規格外とは、常識的な発想を超えた型破りの事業活動、宣伝方法を指します。「トラクション ―スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル」では、以下などが紹介されています。

  • will it blend? Blendtec社がブレンダーでゴルフボールとかiPhoneを次々破壊する動画 
  • zappos社 規格外で感動するほどに親身なカスタマーサポート

日本の場合、攻撃的なパフォーマンスを受け入れる土壌はあまりないため、Zappos社のけた外れに親切な接客やカスタマーサポートあたりが見習いやすいかもしれません。

4.SEM

SEM(サーチ・エンジン・マーケティング)とは、インターネットで検索エンジンを活用するユーザに対してのマーケティングです。

Googleなどの検索エンジンで上位に上がるための「検索エンジン最適化 (SEO)」、検索キーワードに応じて広告を表示させる「検索連動型広告」、流入したユーザーのコンバージョン率を上げるための「ランディングページ最適化 (LPO)」、アクセス解析にもとづく改善などのマーケティングなどを指します。

5.ソーシャル/ディスプレイ広告

ソーシャル(SNS)広告とは、SNSへの投稿をもとに自動的に生成される広告です。各SNSのユーザーは個人情報を詳細に登録しているケースが多いので、年代、性別、エリア、学歴、興味ある分野などでセグメントして広告を配信できます。SNS広告は、拡散されると大量のトラフィックを自社サイトに誘導することが可能です。

ディスプレイ広告とは、検索エンジンのバナー広告のことであり、検索キーワードに対応して表示できます。サイズが比較的大きく、多くの人の目にとまりやすいでしょう。

価格が高そうな印象がありますが、広告表示は無料でクリックされた料金だけ課金される成果報酬型であり意外にリーズナブルです。写真、動画、GIFなどさまざまな形式があります。

6.オフライン広告

オフライン広告とは、新聞や紙媒体(一般誌、業界誌)の広告、駅貼りポスター、電車の中吊り広告、チラシ、看板広告などオンライン広告以外の広告のことです。

オンライン広告と違って効果測定が難しい面はありますが、多くの人が目にするため幅広い層に自社の製品・サービスを知ってもらえます。BtoBであれば業界新聞、業界誌への広告は読者層が絞られているため、効率的に見込み客、顧客に訴求できるでしょう。

7.SEO

SEO(Search Engine Optimization)とは「検索エンジン最適化」のことです。具体的には、GoogleやYahoo!などの検索エンジンで、特定のキーワードで検索されたときに検索上位に表示されるためのマーケティングです。

各検索エンジンは独自のアルゴリズムで自動的に表示順位が決まる仕組があります。また、ユーザーに有益なサイトを上位表示するために、アルゴリズムを定期的にアップデートします。

SEOは、検索エンジンのアルゴリズムの仕組みを理解した上で「サジェスト」「関連キーワード」「共起語」などを参考に見込み客の入力するキーワードを想定し、その解答になる有益なコンテンツを作成することが基本です。

8.コンテンツマーケティング

コンテンツマーケティング とは、見込み客にとって価値ある有益なコンテンツを継続的に作成し、興味関心を持ってもらい、ブランディングやリードジェネレーションにつなげていくマーケティング手法です。

コンテンツは本来、制作物全般を指す言葉ですが、日本ではコンテンツマーケティング=オウンドメディアと解釈されることが一般的です。

コンテンツマーケティングは成果が出るまで時間がかかりますが、軌道にのると無料コンテンツが24時間365日インターネット上で情報を発信するため、有料広告よりもコストパフォーマンスに優れた見込み客獲得手法になります。

9.メールマーケティング

メールマーケティングとは、メールで継続的に顧客、見込み客に情報を配信することで既存顧客のリテンション、アップセル、クロスセル、新規見込み客の獲得につなげるマーケティング手法です。

メールマーケティングは単独でも有用ですが、他マーケティング施策(イベント告知、オウンドメディアの新記事案内等)と組み合わせて活用できる使い勝手のよい手法です。何よりテキスト主体の媒体なので低コストで運用でき、ROI(費用対効果)に優れています。

10.エンジニアリングの活用

エンジニアのリソースを使って顧客を獲得するマーケティング手法です。成功している企業は、Webサイトにマイクロサイトを構築したり、Webサイトに埋め込む単機能のアプリウィジェットを開発したり、無料ツールを作成したりして毎月多数のリードを獲得しています。

11.ブログ広告

ブログ広告とは、インターネット上にあるさまざまな企業や個人のブログに広告を掲載することです。

少し古いデータですが2007年の米国テクノラティ社の調査では、世界のブログ数は約7,000万件以上、しかも日本が最多です。その後のインターネット速度の向上、スマートフォンの普及を考慮すると、日本でのブログ広告活用は2021年の今も有効だと考えられます。

広告を出す手法には以下があります。

・アフィリエイト(ASP)※後述

Googleアドセンス

世界のブログ数

(画像引用:総務省

12.ビジネス開発(パートナーシップ構築)

ビジネス開発とは、自社のリソースだけでなく、外部企業とのパートナーシップを構築し、お互いに利益をもたらす戦略的関係を構築しながら事業を伸ばすことです。

スタートアップの場合、一般に「人、モノ、金」のリソースが不足しています。そのため、自社の技術を補完するような技術を持つ企業、販路を確保するために営業を任せられる企業と提携し、互いに補完し合い、それぞれの強みをより活かせるパートナーシップ形成が理想的です。ジョイントベンチャーがわかりやすい例でしょう。

13.営業

営業とは、製品サービスを見込み客や顧客に販売する活動です。昔からある「御用聞き営業」に始まり「企画営業」「ソリューション営業」「インサイト営業」など、営業の呼称が分岐しているように、業界や製品サービスの種類によって営業スタイルはさまざまです。

BtoB営業の場合、複雑な課題に対して解決策を提案する営業スタイルが多く、成約まで半年~3年かかることは珍しくありません。

小規模企業では営業部門の人数を多く抱えられない課題も生じます。その場合、直販ではなく代理店営業主体にする(代理店に営業を委託し自社はサポート)、営業代行会社に委託するなどの方法があります。

14.アフィリエイトプログラム

アフィリエイトプログラムは、インターネット上にある各種サイト、ブログ、SNS、YouTube、メールマガジンなどの運営者と提携し、成果報酬型で広告を掲載する手法です。

以下の課金モデルがあります。

  • クリック課金(広告をクリックしたときだけ課金)
  • インプレッション型(ブログに表示された回数に対して課金)
  • 成果報酬型(購入金額の何%かのマージン、資料請求1件につき手数料支払い等)

アフィリエイトプログラムは、一般にアフィリエイト・サービス・プロパイダ企業(ASP)を通して広告を配信します。ASP企業によって初期費用、月額費用、得意領域が違うので、自社に合うASPを選択することがポイントです。

15.アプリストア、SNS

GAFAと呼ばれるプラットフォームは、桁違いのユーザー数を保有しています。Facebookなどは日本の人口をはるかに超えるユーザー数です。

また、App Store、Google Playなどのオンラインアプリストアを活用すれば、自社アプリケーションを世界のユーザーに普及させることができます。メガプラットフォームの活用はユーザーに自社製品・サービスを知ってもらえる早道です。

トラクション ―スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル」では、エバーノートがApp Storeから数百万人の顧客を獲得したことが紹介されています。

16.展示会

展示会とは、一つの会場に多くの企業の製品・サービスが一同に展示されるイベントです。出展企業の一般的な目的は以下のとおりです。

  • 新製品・サービスの紹介
  • 商談機会の創出
  • 企業の認知度の向上

大規模なリアルの展示会は、訪問者にとってみれば1日で各社の新製品・サービスを効率よく見てまわり、試して、資料収集もできる便利な場です。企業も、1日で多数の見込み客情報(名刺等)を獲得できます。

会場内に商談スペースが設けられることも多く、目的がはっきりした企業同士がフランクに出会える貴重な場です。コロナ禍以降はリアル・オンライン融合型の展示会も増えるなど、展示会チャネルはより多様になっています。

17.オフラインイベント

オフラインイベントとは前述の展示会をはじめ、リアルで行われる見本市、カンファレンス、セミナー、業界・会社関係なく同じ職種の人が集まるMeet up(ミートアップ)などがあります。

外部のイベントは、テーマによって見込み客層がある程度想定できるので、効率よいマーケティングができます。また、広告宣伝を運営企業に任せられる点がメリットです。

18.講演

スタートアップにとって、CEOや幹部社員の講演は認知度を上げる手っ取り早い手法のひとつです。なぜなら講演料がたとえ無料であっても、多くの人に自社の社名、事業内容を知ってもらえるからです。

さらに、アライアンスを組める企業と出会える、就職希望者と出会える、見込み客と出会える、既存顧客とのリレーションシップを形成できる、投資家に自社を知ってもらえるなど、さまざまなメリットがあります。

リアルな講演は、良くも悪くもオンラインの動画より感情を動かし、来場者に強い印象を与えます。昨今は聴衆に強い印象を与える講演であればSNSで評判が拡散されるので、1日だけの講演であっても、昔より宣伝効果が持続するでしょう。

19.コミュニティ構築

製品・サービスのユーザーコミュニティを立ち上げたり、自然発生的にできたユーザーコミュニティを支援することもトラクションを得る有効な手法です。

ユーザーコミュニティには、顧客エンゲージメントの向上、ユーザー同士で教えあうことによるカスタマーサポート的な面、ユーザーコミュニティからの意見を既存の製品・サービスの改良や新規事業に活かせるなどのメリットがあります。

ユーザーにとっても、例えばSaaSのように専門知識が必要なサービスは、活用の段階で疑問がわくことも多いでしょう。その一方で同じユーザーなら、企業には直接聞きづらいことでも気軽に聞きやすい点が魅力です。

AmazonのAWS SalesforceHubSpotZendeskなど、短期間で大きく急成長したSaaS企業は、ユーザーコミュニティを支援し続け、顧客との信頼関係を強固にし、ユーザーの意見を事業に活かしながら成長してきたことは間違いありません。

まとめ

スタートアップ企業にいる人なら、トラクションという言葉は耳慣れなくとも、初期の実績が重要なことも、トラクションを得るための手法も知っていることのほうが多いかと思います。

ただし、知っていることと実行して成果を上げることはまったく別物です。また、実行するためのメソッドは、あまり世の中に出回っていません。そういった意味でご紹介した2冊はノウハウや具体的に何を優先してすべきかが書かれているおすすめ本です。

今一度、自社がトラクションを生むための手法を見直し、試してみましょう。意外なチャネルが、御社の事業を牽引してくれる可能性があります。

戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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