ボストン・コンサルティング・グループが提唱する「プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)」は、事業の成熟度と市場の成長性を分析するためのフレームワークであり、事業を「金のなる木」「花形」「負け犬」「問題児」の4つのカテゴリーに分類します。
これらのカテゴリーは直接的な表現で、社内で口に出すのがはばかられそうではありますが、それぞれが持つ戦略的な意味合いを深く理解することで、大きな価値を生み出せるようになります。
特に注目すべきは「金のなる木」です。ネーミングからもイメージできる通り、「金のなる木」に相当する部門は、企業の稼ぎ頭、屋台骨、ドル箱のような存在であり、企業の財務基盤を支える重要な役割を担っています。
とはいえ、必ずしも目立つ事業が「金のなる木」とも限りません。華やかに見える事業は赤字で、「金のなる木」に相当する部門は地味ということもあります。それでは、この「金のなる木」に相当する事業にはどのような特徴があるのでしょうか?
本記事では、プロダクトポートフォリオマネジメントの基本概念、「金のなる木」の意味と社内での役割、考え方をマーケティングに応用する方法、AmazonやSansanなど異なる業界の7社の事例をもとに「金のなる木」がどのように企業成長に貢献しているかを探ります。
「金のなる木」とは、プロダクトポートフォリオマネジメント(Product Portfolio Management、略してPPM)における「最も収益性の高い事業」に位置する象限です。
英語表記は「cash cow(現金になる牛)」。つまり、毎日ミルクを絞れる乳牛のように安定したキャッシュフローを生み出し、他の成長可能性を秘めた事業への投資源となり得るのです。
「プロダクトポートフォリオマネジメント(Product portfolio management)」とは、1970年代に、米国のボストン コンサルティング グループ (BCG)が開発した事業分析フレームワークです。「BCGマトリクス」と呼ばれることもあります。
プロダクトポートフォリオマネジメントは、企業内のリソースをどこに投資するかや、製品マネジメント、ブランドマーケティングの方針を決める際などに有用なフレームワークです。
このフレームワークでは、相対的市場シェアと市場成長率を軸に、事業を4つのカテゴリーに分類します。それぞれのカテゴリーは以下の通りです。
ちなみに「相対的市場シェア」とは、いわゆる通常のシェアではなく、業界トップ企業のシェアに対するシェアで、以下の計算式で出します。
要は、「うちの会社はトップ企業のシェアに対し〇%くらいシェアを持っているか? 」を出すことです。シェアや正確な収益がわからないときは「売上げ」で計算しましょう。ここではプロダクトポートフォリオマネジメント(BCGマトリクス)を簡易的に説明しましたが、詳しくはこちらでご確認ください。
プロダクトポートフォリオマネジメントにおける「金のなる木」の役割は、企業の安定した収益源としての位置づけです。このカテゴリーにある事業は、市場内で確固たる地位を築き、大規模な追加投資を必要とせずに、持続的に利益を生み出す能力を持っています。ここでは、「金のなる木」の立ち位置について詳しく見ていきましょう。
「金のなる木」に相当する部門は、市場内でゆるぎないシェアをもっており、大規模な追加投資をせずとも利益を継続的に上げることができます。「金のなる木」の部門は企業の稼ぎ頭であり、この部門で得た資金は、他の成長可能性を秘めた事業に投資されます。
「問題児」から「花形」へ、そして「花形」から「金のなる木」へと、事業を成長させるサイクルは、企業の持続的な成長に不可欠です。プロダクトライフサイクルの理解にもとづき、現在の「金のなる木」が将来的に市場から退くことを見越して、多くの利益を出せているうちに次世代の収益源を育成することが求められます。
「金のなる木」に相当するプロダクトは、大きなシェアをもっており、市場でブランドが確立できているため、過剰なマーケティング予算の投入は必ずしも収益増に直結しません。むしろ、コスト効率の良い運用が収益性を高める鍵となります。
しかし、商品やサービスの質を維持・向上させるための適切な投資は必要です。商品・サービスの改善や、新しいテクノロジーの活用、マーケティング施策の切り口を変えるなどで「金のなる木」の寿命をできるだけ延ばす努力も必要です。
たとえばBtoCなら、カルビーのポテトチップうす塩味は14回も味を変えているとのこと。何十年も変わらないように見えて変化しているからこそ、嗜好の変化の速い市場で残り続けているのでしょう。後述しますが、BtoBだとリクルート社の国内新卒市場向けサービスなどもあてはまると考えられます。
プロダクトポートフォリオマネジメントにおける「金のなる木」以外のカテゴリーには、「問題児」「花形」「負け犬」という3つの象限があります。これらは企業の製品ポートフォリオを分析し、戦略的な意思決定を行う上で重要な役割を果たします。ここからは3つの象限について見ていきましょう。
問題児(Problem Child)とは、市場自体が急速に成長していながらも、市場シェアが低いために利益を生み出せていない製品サービスです。「問題児」のシェアが伸びていれば、市場の成長が鈍化したときに「金のなる木」や「花形」になる可能性がありますが、その逆に投資に見合わない「負け犬」になる可能性もあるのです。
問題児は「クエスチョンマーク」とも呼ばれますが、それは花形にも負け犬にもなりうるからであり、市場シェア拡大に向けて必要な投資に値するかどうかを判断するために、注意深く分析しなければならないためです。
問題児に属する製品サービスは、市場での認知度を高め、シェアを拡大するための戦略的なマーケティングが求められます。
たとえば、Facebook広告や交通広告、CM、展示会への出展、ウェビナー、媒体への露出などの、具体的な製品サービスを探していない見込み客にアプローチできる施策が有効です。これらの施策でニーズを作り出し、見込み客に対してメルマガなどを発行して、興味関心を高めると成果が見込めます。
花形は、急成長市場で高い市場シェアを持つ製品サービスです。その名のとおり将来性があり、潜在的に高い利益を生むと考えられます。プロダクトポートフォリオマネジメントにおける花形のゴールは、市場の成長が収まったときに「金のなる木」になることです。
市場が成長段階にあるということは、多くの競合が参入しているということ。競争力を保ち、最終的に「金のなる木」として残るためには、多くの予算やリソースを投下して、製品改善や市場シェアの拡大をしなければいけません。そのため、花形は高い市場シェアを持つ一方、多くのキャッシュを消費する傾向にあります。
負け犬とは、成長率が低い、あるいは全く成長しない市場において、シェアが低い製品サービスを指します。通常、収益性が高いとは見なされないため、プロダクトポートフォリオマネジメントでは負け犬から撤退するべきだと考えられることが多いです。
たとえば、2023年に製薬会社が新型コロナ感染症のワクチンを開発しても、自社に残されたシェアは存在しません。負け犬となっている製品サービスがある場合、撤退やリソースの削減をするか、別に市場を活性化する方法を模索する必要があります。
プロダクトポートフォリオマネジメントにおいては、問題児が負け犬になることがあれば、市場の成長が収まったとき、競合と圧倒的な差をつけられることで花形が負け犬になることもあります。
PPMのフレームワークをマーケティング戦略に適用することで、企業はマーケティングリソースの配分を最適化し、投資対効果(ROI)を最大化することが可能です。
たとえば、メールマーケティングが安定した収益を生み出している「金のなる木」として機能している場合、その収益を新しいデジタル広告戦略やコンテンツマーケティングの充実に再投資することが考えられます。これにより、現在は成果が出ていない「問題児」のマーケティングチャネルを、将来の「花形」へと成長させることができます。
未開拓のマーケティング領域、たとえばSNSマーケティングや交通広告などは、初期段階では「問題児」と見なされることがありますが、適切なデータ分析と戦略立案により、将来的には「花形」へと成長する可能性を秘めています。
一方、過去には効果的であったものの、現在ではコストが増大し効果が薄れている広告戦略は「負け犬」として再評価し、そのリソースを削減することで、より成果を出している「花形」や「問題児」への投資を増やすことが賢明です。マーケティング活動においても、定期的に各チャネルの収益性を分析し、継続的に高い収益をもたらす「金のなる木」を育成することが重要です。
「金のなる木」は安定して利益を創出する製品サービス・施策ですが、金のなる木の創出で満足していては、ビジネスに危機を招いてしまいます。ここからは、「金のなる木」を継続する際に気を付けるべき2つのポイントを見ていきましょう。
「金のなる木」で得た利益は、「花形」や「問題児」への投資へとつながります。万が一、投資額以上の利益が出ていなければ、企業の存続に影響が出てしまうため、定期的に売上げと利益の確認をし、適切な投資をしなければいけません。
事業全体の売上げと利益の確認はされますが、マーケティング施策の売上げと利益の算出はされているでしょうか。マーケティング予算にも限りがあるため、各施策の売上げと利益を確認し、適切な投資をしなければいけません。
なおマーケティング施策の売上げを算出するには、まずはその施策によって生じた直接的な収入を計算します。たとえば、メールマーケティングキャンペーンによって100万円の製品が売れた場合、そのキャンペーンの売上げは100万円となります。
利益の算出には、その施策にかかったコストを売上げから差し引きましょう。同じメールマーケティングキャンペーンで、キャンペーンにかかったコスト(デザイン、コピーライティング、メール送信プラットフォームの使用料など)が20万円だった場合、利益は売上げ100万円からコスト20万円を差し引いた80万円となります。
このようにマーケティング施策の売上げと利益を計算することで、各施策の貢献度を可視化し、費用対効果を評価して、リソースの最適化ができます。
「金のなる木」は成熟した業界に属するため、将来的にさらなる売上げを高めていくのは困難です。1つの「金のなる木」だけに頼り切ってしまうと、企業の成長は止まり、衰退してしまいます。
たとえば、Nokiaは携帯電話市場のリーダーとして君臨していましたが、スマートフォンへの移行を過小評価し、ソフトウェアの重要性を認識しなかったため、AppleやSamsungなどに顧客が流れ、合計50億ユーロを超える損失を出しています。
また、フィルム市場とカメラ市場の王座にいたKodakは、デジタルカメラの普及に適応できず、顧客がデジタル画像よりも印刷された画像を好むという信念を維持し続けた結果、2012年に破産を申請。その後は自己再生に努めていますが、かつての栄光を取り戻すには至っていません。
Kodakの後を追い続け、デジタル化にうまく適応した富士フィルムの社長古森重隆氏は、著書「魂の経営」の中でKodakと富士フィルムを分けた要因として、以下を挙げています。
つまり、Kodakは1つの「金のなる木」に固執し、「花形」や「問題児」などの育成を怠ったことが衰退のひとつの要因となったわけです。これらの事例からもわかる通り、新たな「金のなる木」を育成しなければ、市場ニーズの変化に対応できず、事業は衰退してしまいます。
ここでは、「金のなる木」の事例として7社のポートフォリオを解説します。
(出典:AmazonのAWS公式HP)
Amazonの「金のなる木」と言えば、オンラインショップをイメージするかもしれません。しかし、実はAmazonの利益の源泉は「クラウドプラットフォームサービスAWS」です。Amazonの利益の74%がAWS、26%がECや他事業という驚くほどの差があります。
BCGマトリクスの2指標で見るAWS
クラウドプラットフォーム市場は依然として成長を続けており、1位のAWSのシェアは2位のMicrosoftのAzure、3位のGooglecloudを合計しても及びません。4位にはアリババクラウドがつけていますが、上位3社で寡占している状況。すでに新規参入者が入る余地が少ない安定市場です。
(出典:Statista)
近年は、AWSで得た利益を「アレクサ」「Amazonプライム」などほかの新規事業に投資している構図です。
同じ「金のなる木」の象限にいても、AWS事業はトップシェアで安定しているものの、市場自体も伸びているため、ポートフォリオ上は花形寄りの位置。逆にトップシェアでも市場頭打ちぎみのオンラインショップは、AWSより下の位置になるイメージかと考えられます。
(academia.edu/を参考に当社で作成)
(出典:https://azure.microsoft.com/ja-jp/)
Microsoftの「金のなる木」は? と聞かれれば、皆さんも「Office(オフィス)製品」「Windows」がすぐ思い浮かぶのではないでしょうか? 正解です。
ただ、Microsoftの最近の一番の稼ぎ頭は、クラウドサービス「Azure(アジュール)」です。Microsoftは少なくとも3本の「金のなる木」をもっています。
以下は、Geekwire社によるMicrosoftの事業別利益のグラフですが、Azure事業は、2019年から「Office(オフィス)」を上回る利益を出しています。Microsoft社の事業の中でもっとも大きな「金のなる木」です。
(出典:Geekwire.com)
Office事業とWindowsは、説明の必要がないほどに世界で圧倒的シェアをもっており、デファクトスタンダードとなっている、少ない投資で利益を出せる「金のなる木」です。
Azureの場合は、AmazonのAWSと同じくクラウドサービス市場自体もまだ成長中。自社シェアも業界2位ですが、1位のAmazon、3位のGoogleとともに業界を寡占しているといわれるほど市場は安定しています。
BCGマトリクスの2指標で見るAzure
Microsoftは、Office、Windows、Azureの3本の「金のなる木」で得た利益を、問題児の間に位置しているゲーミング事業、SNSなどに投資しているかたちです。インターネットエクスプローラー、エッジは負け犬に位置すると考えられます。
(出典:リクルート)
リクルートホールディングス(HD)の2022年3月期連結の売上げ、利益は過去最高だそうです。リクルートも、メディア事業、派遣事業、HTtech事業などで、さまざまな「金のなる木」の事業をもっている優良企業です。今回はリクルートの主力事業である人材領域のメディア事業にしぼって解説します。
2021年、求人業界界隈の人にとってはエポックメーキングな出来事がありました。新卒サイト「リクナビ」が業界3位になったのです。1位は「マイナビ」、2位は「キャリタス」です。
採用メディアの中でも新卒情報サイトは、東大生の就職情報を載せる「大学新聞専門の広告代理店」からはじめたリクルートの基幹事業であり、長きにわたり「金のなる木」であり続けてきました。
3位になった理由として、リクナビの内定辞退予測サービスの炎上、新しいタイプのサービスの登場の影響などさまざまな分析がされています。ただ、その後のリクルートの動きを見る限り、能力的にはできるはずながらも、奪回に向けて驚くようなサービスを打ち出しているようにも見受けられません。
私たちは、これは成熟しかつ少子化で、今後あまり成長しない国内新卒領域市場で堅牢なシェアを持つ(落としたとはいえトップ近辺)「リクナビ」に、もう必要以上に投資しない判断をしていると分析しています。
BCGマトリクスの2指標で見る「リクナビ」
リクルートは2010年代からIndeed、Glassdooをはじめ海外有力求人サイト(兼HRテクノロジー企業)を次々と買収、すでに売上高海外比率が55.5%、HRテクノロジーの売上げも急成長中です。世界に軸足を移したリクルートにとって、国内向けの「リクナビ」とは、維持しつつも必要以上な投資はせず利益を出す、純然たる「金のなる木」の役割なのでしょう。
(出典:クラウドワークス)
「クラウドワークス」とは、クラウドワークス株式会社が提供する、企業や自治体とフリーランス、副業人材をマッチングさせるオンラインプラットフォームです。クラウドワークスの総契約額は2021年度が約150億円。業界トップ企業として業界内で安定した地位を築いており、黒字化したクラウドワークス事業は、「金のなる木」になっています。
BCGマトリクスの2指標でみる「クラウドワークス」
クラウドソーシング業界は、2010年代からの新しい業界なので急成長してきましたが、近年はある程度認知され成長スピードは緩やかになりつつあります。
直近の市場調査データは出ていませんが、副業、フリーランスという就労形態を国が主導するような動きもあり、今後もある程度成長すると予測できますが、副業の実態データを見る限り、歩みは遅そうです。
クラウドワークスは、「金のなる木」であるクラウドワークス事業(マッチングサービス)
で得た利益を、周辺事業や次の柱としているビジネスSaaS事業「CrowdLog(クラウドログ)」に投資しています。CrowdLogは、2022年2月時点で導入企業550社以上、ARR2億円を突破、年間成長率は200%なので「花形」として成長していきそうです。
(出典:ラクスル株式会社)
ラクスル株式会社は、2018年に東証マザーズ上場以来、順調に売上げを上げ続けており、2022年も好調に推移しています。ラクスル社には「ラクスル」「ノバセル」「ハコベル」の3つの事業があります。このうち「金のなる木」は、国内オンライン印刷サービスの「ラクスル」です(グラフの黒)。
(出典:ラクスル株式会社 会社概要)
BCGマトリクスの2指標で見るラクスル事業
デジタル印刷市場は世界的には成長していながらも、国内は横ばい状態が続いています。また、デジタルシフトは当然業界内であるものの、ペーパーレス時代、印刷業界自体が大きく成長する業界ではありません。
このようなある種の成熟業界の中に、ファブレス型ビジネスモデルを持ち込み、手堅くシェアを伸ばしブランディングにも成功したラスクルは、そこで得た利益を、より大きな市場向けのサービス「ノバセル」「ハコベル」の両事業に投資してきました。(2022. 2月よりノバセルは分社化)。
(出典:ラクスル株式会社 会社概要)
ラクスルが「金のなる木」、TVCM運用型広告という新たな市場を作った(つまりシェア1位)ノバセルは花形、トラック物流プラットフォームという伸び行く市場で、まだシェアが低いハコベルが問題児となるでしょう。
(出典:ファーストリーディング)
ファーストリーディングは、ユニクロやGUなどのアパレル事業を展開するメーカーです。ファーストリーディングの「金のなる木」といえば、ユニクロ事業でしょう。国内ユニクロ事業は安定して成果をあげながら、2023年8月期には海外ユニクロ事業の売上げ収益は5割を超え、営業利益の約6割を占めるほど成長しています。
かつて米欧では赤字が重なり、進出と撤退を繰り返していましたが、SNSマーケティングやブランド戦略が功を奏し、国内ユニクロの売上げを上回る結果となりました。
BCGマトリクスの2指標で見るファーストリーディング
ファーストリーディングの「花形」は、営業利益の7%を占めるGUです。2024年8月期の業績予想では、グローバルに事業固めを加速し、ブランドポジションを築くと述べられていることからも、海外市場でのGUが花形になると考えられます。
そして、「問題児」に分類されるのが、セオリー、プラステ、コントワー・デー・コトニエの3ブランドで構成されるグローバル事業。セオリーは収益を大幅に伸ばしているため、「問題児」の中でも「花形」より。一方、プラステとコントワー・デー・コトニエは赤字が続いているため、「負け犬」よりと言えます。
(出典:Sansan株式会社)
Sansan株式会社の「金のなる木」は、名刺管理サービスのSansanです。同社が市場を作り上げてきたこともあり、2019年度の売上金額シェアは市場の83.5%と圧倒的優位に立っています。そしてSansanが「花形」として注力しているのが、クラウド請求書受領サービスの「Bill One」です。
BCGマトリクスの2指標で見るBill One。
Sansanによれば国内企業数約200万社に対して、Bill Oneの有料契約件数は343件とのこと。そのため、多くの開拓の余地が眠っているのです。すでに大きな市場シェアを獲得していることを踏まえると、Bill Oneは「金のなる木」に近い「花形」と考えられます。
そのほかにも、Sansan株式会社は名刺作成サービスやデータ統合ツール、セミナー管理システムなどさまざまな製品を展開しています。
なお、ここでは直近の公開資料をもとに分析していますが、本来であればIR情報から収益源の事業を見出して行うのが正しいアプローチですので、興味のある方はより掘り下げた分析をおすすめします。
上記7社の事例のように、ポートフォリオ上にマッピングすると「金のなる木」の象限内にあっても、負け犬に近かったり、花形に近かったりとさまざまです。
4象限の項目をプロダクトライフサイクルのフレームに当てはめると、わかりやすくなるかと思うのですが、多くの商品・サービスは、生まれて成長して成熟期を迎え、衰退し、市場からフェードアウトするサイクルをたどります。
現在の売上げ数字だけでなく、市場の伸び具合、市場内のシェアを正しく把握して次の「花形」、「金のなる木」を見つけましょう。
「プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)」は、複数の事業を「金のなる木」「花形」「負け犬」「問題児」の4象限に分類します。適切なリソース(人、モノ、金)の割り振りや、マーケティング施策を決めるのに役立ちます。
もちろん、変数の多いビジネスの世界で、2つの指標だけで戦略を決められるものではなく、実際は他社の動向やニーズの変化などを踏まえたうえでプランニングしなければいけません。負け犬事業でも他社に入り込まれないため、継続が必須な事業もありますし、Microsoftが得意なバンドル戦略(抱き合わせでセットで売る)が有効なときもあります。
それでも、事業の現在地を把握するという意味でPPMは重要です。前提を間違えば戦略の方向性がずれてしまいかねないからです。現在の各事業の立ち位置をしっかりとらえて、社内に「金のなる木」を育てていきましょう。