インターネットが普及しはじめた2000年前後、それまでのような不特定多数にむけた「マスマーケティング」に対して、これからの主流は、情報を受け取ってもよいと許可した見込み客だけにメッセージを送る「パーミッションマーケティング」だという新たな概念の提示がされ、当時の界隈の人々から大きな驚きと称賛をもって受けとめられました。
現在ではごく当たり前に誰もが自らSNSをフォローし、好きなブランドのメルマガに登録することで自分が必要な情報のみを受け取っています。今回は、インバウンドマーケティングの根本思想でもある「パーミッションマーケティング」について解説します。
パーミッションマーケティングは、ユーザーとの信頼関係作り、ロイヤルティの向上、引いてはマーケティング成果につながる実効性のある手法。ただし、同意の取り方はクリアで公平でないと、思うような成果につながらないこともあります。
本記事を読んでいただき、今一度ユーザーの同意のもと、ユーザーが望むコンテンツを届けるマーケティングとは、具体的にどのような活動なのかを確認していただければ幸いです。
パーミッション マーケティングとは「事前に許可を得た見込み客とインタラクティブ(双方向)なやりとりができるマーケティング全般」を指します。
(単語の意味)
たとえば一般的なメールマガジンなどは、メール配信に同意したユーザーに配信しています。これは「オプトイン」と呼ばれるパーミッションマーケティングのひとつです。SNS上でのユーザーやファン、顧客とのやりとりも事前に同意がありインタラクティブなので、パーミションマーケティングに該当します。
事前に許諾を得た相手のみに向けたパーミッションマーケティングは、ユーザーが製品・サービスに関心を持っている可能性が高く、以下の長所があります。
パーミッションマーケティングは、1999年に当時の米国のYAHOO! 副社長Seth Godin(以下ゴーディン)氏の書籍『Permission Marketing』によって提唱されました。
ゴーディン氏は、その頃に成功したマーケティング施策の多くが、顧客の同意を求めるキャンペーンであることに気付き、パーミッションマーケティング(相手の許可を得て行うマーケティング)を、次世代のマーケティングとして強く提唱します。
なお、ゴーディン氏が提唱するパーミッションマーケティングの概念は、以下の要素が必要だと定義されています。
(出典:Amazon)
実は、インターネット登場以前から一部の企業は、事前同意を得た見込み客にDMを送るようなマーケティング活動を実施していました。しかしそれは少数派であり、圧倒的にマスマーケティング(特定の人に絞らず、多くの人に向けて行う宣伝)が主流でした。
そのためかゴーディン氏は、同書で、昔ながらの不特定多数に向けたCMや広告、勧誘電話、ダイレクトメールなどを「土足マーケティング」「インタラプションマーケティング(邪魔なマーケティング)」と呼んで非効率さを指摘しています。
インバウンドマーケティングとは、価値あるコンテンツを作成しメッセージを発信することで、見込み客に「見つけてもらう」マーケティング活動全般です。
見込み客を惹きつけて出会いを創出し、関係性を育み、成果につなげていくマーケティング手法をいいます。こちらはHubSpotの創業者、Brian Halligan(ブライアン・ハリガン) 氏、Dharmesh-shah(ダーメッシュ・シャア) 氏が2009年、共著の『INBOUND MARKETING』にて提唱しました。
インバウンドマーケティングとは、ゴーディン氏のパーミッションマーケティングをより広い視座でとらえています。
パーミッションを得るためのさまざまなノウハウや関係性ができてから、常に相手に価値あるコンテンツを送り信頼関係を深め自社のファン、顧客になってもらい、さらには製品・サービスの推奨者になってもらうプロセスまでを提示した循環型のマーケティング思想です。
いわゆる狩猟型のアウトバウンドマーケティング(マス広告、CM等)に対して、農耕型のマーケティング手法ともいわれます。
(出典:Amazon)
具体的には、オンライン上でさまざまなコンテンツ経由でメッセージを発信し見込み客をひきつけて、ある段階で自社からの直接のメッセージを受け取ってよいという「許諾」を得ます。
たとえば、魅力的なメールマガジンを配信している企業は、ユーザーのメールアドレスの登録を求めます。オウンドメディアや企業HPにあるホワイトペーパー、導入ガイドをダウンロードするためには、会社名、氏名、メールアドレスなどの提供の許可(パーミッション)を求めます。
インバウンドマーケティングは、本質の部分はパーミッションマーケティングと同じです。ただ、ゴーディン氏の提唱したパーミッションマーケティングは、1999年にある種予測というスタンスで描かれた概念です。
ブライアン・ハリガン 氏らが提唱したインバウンドマーケティングは、それから約15年後の2014年に世界へ提唱されました。その間のインターネットの普及もあり、インバウンドマーケティングは世界中に浸透し、今やアウトバウンドマーケティングと並ぶスタンダードなマーケティング手法として認識されています。
パーミッションマーケティングが、ユーザーの同意を得てからコミュニケーションを行うのに対し、インタラプションマーケティング(邪魔なマーケティング)とは、消費者の同意なくメッセージを届けるマーケティングです。
前述したとおり、ゴーディン氏は、著書で旧来のCMや広告、勧誘電話などを「インタラプションマーケティング」と表現しました。このようなマーケティングは人の意識や行動を中断させストレスを感じさせるからです。テレビ番組の「今、良いところだったのに」というタイミングで入るCMなどは代表的でしょう。
とはいえ、現在はオンライン上でも目立つようになってきました。たとえば、YouTube視聴中に頻繁に入る動画広告、ニュースメディアの記事に覆いかぶさるようなバナー広告を邪魔に感じた人は多いでしょう。もしかしたら、その中にはcookieに同意したユーザーに対するリターゲティング広告も含まれているかもしれません。
しかし、仮に許可を得ていたとしても、消費者がよくわかっていなかった場合、あるいは企業が低品質なクリエイティブをスパムのように届ける場合、受け取り側はインタラプションマーケティングと感じるでしょう。後述しますが、パーミッションマーケティングの「許可」にもレベルがあるので配慮が必要です。
逆にいえば、旧来のインタラプションマーケティングといわれる広告やCMもタイミングや品質に配慮すれば認知度アップに効果的です。以下に両者の違いをまとめました。
パーミッションマーケティングは、あらかじめ相手からの許可を得てメッセージを送るため、相手も自然に情報を受け入れてくれます。個人の意思を尊重したマーケティングなので信頼関係を醸成しやすく、ユーザーにとっても企業にとってもメリットがあります。
パーミッションマーケティングでは、メルマガ登録、SNSフォロー、アプリ通知の許可について、都度ユーザーが判断します。許可した時点で何かしらの関心・期待をもっていることが多く、情報も歓迎されやすいところがメリット。BtoCであれば好きなブランドの新商品やセール情報などは喜ばれるでしょう。情報を届けることで、ますますブランドに好感をもってもらえます。
BtoBなら仕事に役立つ情報、専門的なレポート、ケーススタディを提供することで信頼されていきます。その結果、問い合わせや申込につながることも少なくありません。
継続的に価値のある情報を提供することで信頼関係が深まり、ブランドのファン、見込み顧客を作ることができます。顧客満足度や顧客ロイヤルティも向上し、リピート購入や口コミ効果も期待できます。
個人情報保護に関する法律は、年々厳しくなっています。グローバルビジネスを展開する企業は個人情報保護法だけでなく、海外のデータ保護法のGDPR(EUの一般データ保護規則)やCRPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)も意識しなければなりません。
GDPRの運用は非常に厳しく、2022年には、NTTデータスペインが罰金を科せられました。2025年には欧州委員会自らが規則を順守しなかったとして、EUの裁判所が賠償金の支払いを命じるなどの徹底ぶりです。
CRPAは、米国カリフォルニア州でビジネスを行う事業者もしくは同州の居住者の個人情報を扱う事業者が対象ですが、個人情報の範囲は広く消費者の権利が相当に保障されています。
国内ビジネスだから関係ないともいえません。これらの法律は該当地域の居住者のデータを収集すると拠点を持っていない事業者も対象になる場合があります。現在はWebサイトを持てばオンライン上で世界とつながれる時代。翻訳アプリを使えば誰もが海外のサイトを見れます。
現時点でトラブルになる可能性は低いのですが、仮に自社サイトに米国カリフォルニアに住んでいるユーザーが大量(10万人以上)にアクセスして、そこで個人データを集めても問題になるリスクがないとは言い切れません。
2023年には、インドで「GDPRをモデルにしたデジタル個人情報保護案PDPA」が可決されたように、同様のデータ規制を行う国が増えることも十分考えられます。
「パーミッションマーケティング」は相手の同意を得て行うマーケティングなので、正しく実施すれば、こうした厳しい法規制や予想外のトラブルへの対応策にもなります。
たとえば、Webサイトで個人情報を収集する場合「Cookieを使用しますか?」と確認し、使用目的を明確にしてユーザーの同意(許可)を得ることや、オプトアウト(解約のしやすさ)を明確にすることなどを徹底すれば、ブランドイメージも向上しますし、リスクヘッジにもなります。
CDPRとCRPAの特徴
GDPR(欧州一般データ保護規則) |
CRPA(旧CCPA:米国カリフォルニア州消費者プライバシー法) |
|
運営組織 |
欧州連合(EU) |
米国カリフォルニア州 |
対象事業者 |
・EUのデータを取り扱うすべての組織 ※拠点がなくとも、EU域内Aのデータ主体に対しserviceを提供する事業者は対象 |
・10万人以上のカリフォルニア州居住者の個人情報を扱う事業者 ※拠点がなくとも州の住民の個人情報を扱ってビジネスを行う事業者は対象 |
対象となるデータ |
氏名、ID番号、オンライン識別子、直接的または間接的に個人を特定するデータ |
オンライン識別子、IPアドレス、メールアドレス、社会保障番号、Cookie識別子など、健康関連情報、財務関連情報、社会保障関連情報、人種、民族の出自、信条などのデータ |
消費者の権利 |
・データ取得に消費者の同意が必要 ・個人情報を削除する権利 |
・どのような個人情報を収集するか知る権利と削除する権利 ・個人情報の販売を拒否する権利 ・オプトアウト権、告訴権など |
(CCPAとGDPR|Usercentrics Cookiebot、カリフォルニア州個人情報保護規則と対応すべきポイント|PWC、カリフォルニア州 消費者プライバシー法(CCPA)の概要|株式会社NTTデータ先端技術、誰が「個人情報の警察」になるのか。アメリカで進むプライバシー規制と提言-Businessinsiderusinessinsider、総務省を参考に弊社が作成)
同意を得た人だけにアプローチするパーミッションマーケティングは、不特定多数に実施するマーケティングよりも対象に商品やブランドに関心のある人が多く含まれているため、広告やメール、SNSのメッセージに高い反応が期待できます。
追加のキャンペーンや情報提供も受け入れてもらいやすく、今すぐのニーズはなくとも何となく関心がある層に継続的にメッセージを送ることで、関心度を高めてもらえます。その結果、問い合わせや購買につながる可能性が高まるでしょう。
情報が不要な人にはメッセージを送らないためマーケティングコストも抑えられ、長期的な視点で効率的でコスパがよく、高いマーケティングROIが実現できる手法です。
パーミッションマーケティングは、相手に情報送信許可を得て行うマーケティング活動です。ただし、何でもスパムのように送ってよいわけではありません。どの程度の信頼関係にもとづいて許可を得ているかを意識して実施することがポイント。ゴーディン氏は許可のレベルを5種類にわけ定義しました。
見込み客がその企業の製品・サービスに興味があるという段階ではなくとも、状況によって個人情報提供を許可されるレベルです。たとえば、以下のような状況で多くの人は個人情報を提供したり、メッセージの受信を許可したりします。
みなさんも、ネットサーチをしていて若干でも関心があるコンテンツのダウンロードに個人情報提供を求められ「また、いらぬメルマガが増えてしまうがしょうがない……」と思ったことが一度くらいあるのではないかと思います。
「Situational permission(状況的許可)」の場合、喜んで個人情報提供に同意するユーザーばかりでなく、いたしかたなく提供しているケースも多く、リードの量を集めるには良い手法ですが、チャネルやオファーのタイミングを間違えるとリードの質は低下するので注意しましょう。
企業のブランドが信頼されていると、見込み客は安心して(良い情報が届くだろう)との予測のもと、メッセージを受け取ることに同意します。これは、その企業がそれまで培ってきたブランドの力です。たとえば、Nike、Apple、スターバックス、マクドナルド社などの企業には、世界中で多くのユーザーが喜んで個人情報を提供するでしょう。
実際、優良企業はメールマガジン一つ、企業ブログのコンテンツ一つにも予算と人材を投資しますので、優れたコンテンツが届いたり、特典があったりと期待を裏切らない内容です。
補足すると、スタートアップや中小企業でも、コンテンツのクオリティを上げることで自社ブランド力を高めて、遭遇した見込み客の許諾を得られる可能性があります。
オンライン上のコンテンツは、内容がよければあまり企業規模を意識されません。「よいコンテンツだ、どこの会社だろう。やっぱり大手だ」となるか「よいコンテンツだ。どこの会社だろう。従業員10人のスタートアップ、なかなかすごいな」となる違いだけだからです。
CMをうつなど大きな予算をかけられない中小企業でも、メルマガだけブログだけにしぼって高品質のコンテンツを発信することで、ニッチな領域でブランド力を高められます。
企業の営業マン、販売スタッフ、カスタマーサポート担当などとの個人的な信頼関係がベースにあって、個人情報の提供を許可するケースです。直接依頼されて同意するケースもあれば、自発的にメールマガジン等に申し込むこともあります。
詳細なプライベート情報を提供してもらえることもあります。たとえば、保険や不動産の営業マンが顧客と会話を重ねるなか、人間性を信頼され将来の計画や不安、家族構成や財務状況などを打ち明けられることがあります。
BtoBも同様で、担当者が抱えている深刻な課題、社内の購買関係のネットワークなどは、営業マンが「パートナー」として認識されることで、開示してもらえるようになるケースが珍しくありません。
企業のブランドではなく担当者との関係性で許可するパターンの場合、顧客が「この人なら大丈夫」と感じたための許可であり、担当が変わるとうまくいかないこともあります。
ポイントが付与されるため、許可するケースです。たとえば、ポイントがたまると金銭と交換されたり、豪華賞品が手に入ったりするなどの特典があることに、魅力を感じてのパーミッションです。マイレージサービス、楽天、アマゾンのポイントシステムほか、多くの企業がポイントパーミッションマーケティングを実施しています。
BtoBはあまり多くはないですが、SaaS企業の「30日間無料トライアル」「今月末まで初期費用無料」「初年度ライセンス料50%オフ」などはポイントのための許可に相当するでしょう。
たとえば、以下はSalesforce社の中小企業向け「Salesforce Starter / Pro Suite」の期間限定「トライアル登録&ライセンス購入が40%OFF」のセール。予算があまりない中小企業にとって魅力的です。
期間内に無料トライアルに申し込むためには、企業名、担当者の役職や氏名、予算、メールアドレスなどの情報を提供し、Salesforce のマーケティング情報を受け取ることを許可する必要があります。
最も高度なパーミッションマーケティングレベルです。「点滴許可レベル亅とは、たとえば医療処置中に医師が患者から与えられている高い信頼、処置にかかる費用まですべてを信頼してまかされているレベルの許諾です。
ビジネスの世界においても企業が医師のようにすべてを任せられると判断されれば、見込み客の信頼のもと最高レベルのマーケティング戦略を実行できます。簡単にいうと「予算もプランも、基本的に御社にすべて任せますよ」といってもらえるレベルです。
SaaS業界のように専門知識が必要で、かつテクノロジーや業界トレンドの変化が速い業界においては、目指すべきパーミッションマーケティングのひとつでしょう。
このレベルになると顧客に対する深い知識が必要なことはもちろん、一ベンダーであっても他社商品も含めてコンサルティングできるレベルが求められます。代理店や独立系マルチベンダーであれば、顧客に合わせて各ベンダーの最適なツールを都度提案する「購買代理店」的ポジションです。
自社にとっていつもベストな判断をしてくれる、自社への貢献を最優先してくれるパートナーとして信頼されると、依頼しなくとも社内のさまざまな情報を提供してもらえます。
パーミッションマーケティングは、目標設定とターゲティング、オプトイン・オプトアウトの仕組み構築、パーソナライズされたマーケティングの設計、情報提供を通じたエンゲージメントの向上、成果の分析・検証といった手順で進めます。あわせてコンプライアンス体制も整えることが必要です。
パーミッションマーケティングの実施にあたっては、どのような対象にどのような成果を期待するのか目標とターゲットを明確にしましょう。それにより、どのようなアプローチで進めるべきかが明確になります。
ターゲットを明確にするためには、ペルソナ作成が有効です。自社サービスに最適な顧客層のニーズが明確になり、チャネルや適切な同意取得のためのアプローチ方法を選択しやすくなります。
たとえば、ターゲットが若年層ならSNSを、ビジネス層ならメールマーケティングを優先するなど、戦略が具体的になります。ペルソナ作成初心者の方はHubSpotの無料ツールや、各社が出しているテンプレートを利用するとよいでしょう。
例:
目標 |
ターゲット |
同意取得のアプローチ方法 |
リード獲得 |
新規ユーザー |
メルマガ登録、資料ダウンロード、ウェビナー申込のタイミングで提示 |
ロイヤルティ向上 |
新規・既存 |
SNSフォロー促進、良質なコンテンツを提供 |
ブランディング |
新規・既存 |
SNSフォロー促進、メルマガ登録 |
売上向上 |
既存ユーザー |
上記他、特典、ポイント付与等 |
パーミッションマーケティングでは、ユーザーに「価値がある」「信頼できる」「面白そう」と感じてもらうオファーを適切なタイミングで提示し、自発的に同意してもらう仕組みが必要です。チャネルやユーザーの関心度に応じて、以下のようなオプトイン手法があります。
チャネルごとのオプトインの方法 |
手法 |
ブログ訪問者にメールマガジン登録を提案 |
ポップアップ |
ホワイトペーパーや事例集、テンプレートなどのダウンロードを促す |
ポップアップ、メルマガやSNSでの案内 |
メディアの記事の前半を無料購読、中盤から会員限定とし「会員登録」を促す |
記事の中盤に「会員登録フォーム」を設ける |
サイト訪問者にcookieの使用の同意をとる |
ポップアップ、フォーム入力時 |
LPで無料ウェビナー、無料トライアル、特別相談会の提案 |
自社サイト・LPの申込フォーム入力時に同意をとる |
オプトインを段階的に深めることで、ユーザーとの信頼関係を強化できます。たとえば、メールマガジン登録で初期の同意を得た後、価値あるコンテンツを提供しつつ信頼を築き、ホワイトペーパーのダウンロードなどで追加の情報提供同意を得る流れがあります。
以下は、当社がブログ訪問者にポップアップで出しているメールマガジン登録フォーム。接点づくりのためなので、氏名とメールアドレスだけというシンプルなフォームで情報提供に同意をいただく一般的なパターンです。
例1:メールマガジン登録フォーム
次は、より役立つコンテンツ提供と個人情報提供に同意いただくパターン。Chatworkの例です。メルマガで日ごろ情報提供をし、たまにこのような課題についての資料の無料コンテンツダウンロードの案内をすると効果的です。
例2:チャットワークのメルマガ広告>
クリックすると、ランディングページに移行。ランディングページではコンテンツの価値を簡潔に伝え、フォームには氏名やメールアドレスなどの必要最小限の項目を設定してあります。ページ下部にプライバシーポリシーへのリンクと同意チェックボックスを配置し、コンプライアンスを確保しつつ、透明性のある同意取得を実現しています。
例3:チャットワークのランディングページ
オプトインを通じて収集したデータを活用し、パーソナライズなコミュニケーションを設計します。同じチャネルから登録していても、ユーザーは一人ひとり関心を持っている商品も、関心度の高さも異なるもの。ユーザーのフォーム入力情報や行動履歴(広告クリック、閲覧ページ、メール開封率など)をもとに、たとえば以下のようにセグメントを分けます。
そして各セグメントにチャネルの形式(メール、SNS、プッシュ通知など)にそったメッセージを作成し価値を提供していきます。
パーミッションマーケティングでは、ユーザーが企業を信頼し、相談や購入に至るまで、継続的なエンゲージメントを築くことが不可欠です。
ユーザーの心理は、AIDMAの法則やAISASの法則で示されるように、段階的に変化します。オプトインを得た時点のユーザーは、以下の図の「関心」段階に入りかけたあたりでしょう。大半のユーザーは欲求にまでいたらないので、価値ある情報提供を通じてエンゲージメントを構築していく必要があります。
メルマガなら、「役立つ情報」「成功事例」「無料ウェビナーの招待」などを織り交ぜた配信スケジュールを立てるとよいでしょう。SNSやコミュニティであれば、日ごろからコメントや質問に丁寧に返信したり、意見を募ったりするなど関係性を大切にすることでブランドへの愛着(ロイヤルティ)が醸成されます。
情報提供を7割くらいにし、たまにウェビナーや資料ダウンロードをプッシュすることで関心度が高まったユーザーから追加の同意を得ていきます。なお、どのチャネルでも過度な配信や一方的な情報提供はオプトアウトにつながりかねないので、データを見ながら頻度やタイミングを調整しましょう。
AIDMAの法則
パーミッションマーケティングの成功には、顧客データを効果的に管理し、戦略的に活用することが不可欠です。セグメントごとにメッセージを配信するのは手動では難しいため、MA(マーケティングオートメーション)やCRM(顧客管理システム)の導入が有効です。
MAを活用すると、Web上の行動履歴や、送信メールの開封の有無などがわかるので、その反応をもとに適切な内容のメールを適切なタイミングで配信できます。スコアリング機能で高関心のユーザーを特定できるので、営業チームとの連携もスムーズになります。
CRMを活用すると、顧客ごとの購買履歴、問い合わせ履歴、メール反応などのデータを一元管理できるので、既存顧客に対するタイミングのよい案内ができます。
HubSpotの無料CRM
(出典:https://www.hubspot.jp/products/crm)
CRMやMAのデータを活用した分析と改善のサイクルを継続的に実施し、成果を上げていきます。主要KPIを定期的にモニタリングし、反応が悪かったら原因を分析し次の施策に活かすことで、よりユーザーに喜ばれる情報を提供していけるようになります。
アンケートやNPS(Net Promoter Score)調査、SNS上のコメントを通じて顧客の満足度、ニーズや意見を収集し改善につなげることも大切です。
個人情報を提供するときに不安を感じたことのある人は多いでしょう。貴社のユーザーも同様です。
不安を払拭してもらうためにも「収集するデータの目的と使用方法」を明確に伝え、安心してデータを預けられる体制を整える必要があります。日本の個人情報保護法だけでなくGDPRやCCPAに抵触してしまわないように、以下の点を徹底しましょう。
コンプライアンス対応の主要施策
法律は頻繁に改正されるので、関連法規やガイドラインの変更に常に目を配り、対応できる体制を整える必要があります。法改正やガイドラインの変更には迅速に対応することが求められるので、同意管理プラットフォーム(CMP)を活用するほうが現実的でしょう。
無料サービスもあるので、まずは法規制対応への第一歩として活用しながら知見を積んでいくことをおすすめします。
メールやSNS、コミュニティなどのチャネルなら「配信停止」や「退会」を簡単に実行できるようにしましょう。たとえば、以下はAutomemoのメルマガ配信停止フォーム。簡単にオプトアウトでき、個人情報の取り扱いを再確認できる説明を掲載しています。ユーザーの好感度や信頼度アップにつながる解約フォームの例です。
オプトアウトの例:Automemoのメルマガ解約HPフォーム
ここでは、パーミッションマーケティングの事例を紹介します。
HubSpotはマーケティング領域SaaSのトップベンダーであり、インバウンドマーケティングの提唱者としてのブランドも築き上げている企業です。
たとえば、マーケティングについて何か学ぼう、知らない用語を調べようと思った人は、かなりの確率でHubSpotのブログに出会います。
そして、深い知見をわかりやすく解説してある多くの記事に驚き、ブログに再訪するようになるでしょう。メールアドレスを登録してマーケティングに役立つメールマガジンの読者となり、HubSpotのコンテンツで学び続け、最終的に多くの人がツールを導入します。
HubSpotのマーケティングの根底には、創業者のマサチューセッツ工科大学の大学院で同期だったブライアン・ハリガン氏とダーメッシュ・シャア氏の「消費者は企業のマーケティング担当者や営業担当者に邪魔されることは望んでおらず、ただ力になってもらいたいと思っている」という考え方があります。
そのため、あくまで記事の品質で対象者を惹き付け個人情報のオファー(パーミッション)のタイミングも性急でなく自然です。一度パーミッションをとった後の継続したアプローチも徹底したユーザーに価値ある情報を届けることに徹している、いわばお手本のようなブログです。
Zendesk社は、カスタマーサポート領域SaaSのトップベンダーであり、近年は営業領域などにもサービスを提供しているSaaSプラットフォーマーです。
Zendeskも企業ブログで価値あるコンテンツを発信し、来訪者にメールマガジンに申し込んでもらうパーミッションの手法をとっています。ここまでは、よくある普通のパターンです。
特筆すべきはZendeskメールマガジンのクオリティです。適度にパーソナライズされた文章、イベントなどへの誘い方、発行回数のタイミングなどが、ハイレベルで(リードのレベルにあった緩急の付け方で)自然に好感をもてるようになる品質です。
今や、オプトインメールを活用したパーミッションマーケティングは、多くの企業が実施していますが、どれほど上手く活用しているかは企業により異なります。
みなさんも、たくさんのメールマガジンを登録していると「興味ない情報が連日送られてくる」「何も購入しないで読み続けるのは気が引ける」など、発行企業に対しあれこれ感想を持ったこともあるでしょう。
メールマーケティングは頻繁でもだめですが疎遠でもいけません。押しつけがましくてもだめ、かといって存在を忘れられるほど印象が薄くては意味がないので、加減がなかなか難しいものです。
この点、Zendesk社は内容の品質はもちろん、絶妙なタイミングで、心の琴線にふれるようなメッセージが届くので、一読をおすすめします。このスタンスは、おそらくユーザーにならない層までもファンにしているでしょう。
SNSは比較的パーミッションが得やすいメディアです。中でもFacebookは、SNS黎明期に登場したこともあって会員数が多く、企業はFacebook上でさまざまなユーザーに自社のページからメッセージを発信することで、ユーザーに「いいね」をもらい、つながる(パーミッションを得る)ことができます。
また、投稿に対しユーザーがコメントを記入し、それにリプライするなどのインタラクティブな交流が可能です
企業アカウントでなく、企業内のマーケティング担当者や営業担当者が個人アカウントで活動する際も、まず潜在的なファン、見込み客層に「友達リクエスト」を送信して同意を得ることから始めます。
ただしFacebookの場合、パーミッションの敷居が低いことやビジネス専用SNSではないため、そこからリードを絞り込む継続した活動が重要です。
ビジネスマンの愛読メディア『ダイヤモンド・オンライン』が2021~2022年の年末年始にかけて実施していたキャッシュバックキャンペーンは、前述の5種類のキャンペーンの中の「Points permission(ポイントによる許可)」に近いのではないかと思います。
このキャンペーンに申し込むと、年間プラン1万9800円が1万4800円に、3年プラン5万4800円が4万4800円になるキャンペーンです。
ダイヤモンド社はご存知のとおり、日本の老舗出版社です。「Brand trust(ブランドの信頼による許可)」のみでパーミッションを得ることもできるわけですが、年末年始という時期なので「Points permission(ポイントによる許可)」レベルのマーケティングを、あわせて実施したということでしょう。
上記の例はブログ、メールマガジン、SNSの例ですが、他にも動画、Rssフィードなどさまざまなパーミッションを得る手法があります。
パーミッションマーケティングには注意点もあります。ゴーディン氏は、著書でパーミッションマーケティングで効果を発揮するための5つの原則の一つに以下を掲げています。
つまり、「一度許可を得たからいいだろう」とばかりに、相手の気持ちも想像せず自分本位のマーケティングを行うのはパーミッションマーケティングではありません。ゴーディン氏は著書で「パーミッションマーケティングは恋愛と同じ」といっていますが言いえて妙です。
パーミッションマーケティングの最初のパーミッションとは「連絡してもいいよ」と1回いってもらっただけの話です。その後の対応で、いくらでも相手の心情は変化します。パーミッションマーケティングの効果が出ず、行き詰ったときには、「継続してパーミッション(相手からの同意)がとれているのだろうか」とプロセスを見直してみましょう。
通常の人間関係とは異なり、顔の見えないインバウンドマーケティングで「No」の意思表示をしてくれる人はわずかで、大半は何もいわずにオプトアウトするかメッセージそのものをスルーする行為に出ます。
相手が欲しがっている情報が届いてるか? 相手が参加したくなるイベントの案内をしているか? 相手に何かしらのプレゼントを贈っているか? をチェックするのが大事です。相手が受け取りたいのはセールスレターではないことを思い出しましょう。
(参照:Hubspot.com、Permission marketing)
1999年のゴーディン氏の予測から、はや25年以上たちます。氏の予測をはるかに超えてインターネット上のマーケティングの世界は進化し、競争が激化しているのではないかと思います。
インバウンドマーケティングを成功させるには、その本質である相手からのパーミッションをいかに得るか(リード化するか)、そして長期的な関係性を継続させていけるかにかかっています。
基本姿勢は、ゴーディン氏が著書で述べたコンセプト通りで正解ですが、それを実現するには、自社の顧客層がどこにいるか、誰に向けて、どのレベルのコンテンツを作成するかを真剣に考える必要があります。
その上で、パーミッションを得る相手も、その後メールマガジン、ブログ、SNSの投稿を読むのも、生身の人であることを忘れずマーケティング施策を進めていただければと思います。