デモグラフィックデータとは?マーケティングの基本のきをサイコグラフィックデータと比較し解説

2023/04/10
BtoBマーケティング デモグラフィックデータ サイコグラフィックデータ デモグラフィックデータとは?マーケティングの基本のきをサイコグラフィックデータと比較し解説

「沈没船ジョーク」をご存じでしょうか?

沈没しかけている船の船長が、乗り合わせるさまざまな国の人たちを海に飛び込ませようと、それぞれの国民性を利用して説得を試みる話です。

船長は、アメリカ人には「飛び込めばヒーローになれます。」といい、ドイツ人には「飛び込むのがルールです。」といい、フランス人には「決して飛び込まないでください。」といい、イタリア人には「さきほどもの凄い美人が飛び込みました。」といい、われらが日本人には「皆さんもう飛び込んでます。」といいます。すると全員無事に海に飛び込んでくれ、難を逃れました、という話です。

こちらの書籍で引用されたことでご存じの方もいるかもしれない、この「沈没船ジョーク」。倫理的な正誤は別として、「国」という属性別に仕訳けた乗客に対してもっとも「刺さる」アプローチを行った船長は、マーケティングの観点から見て100点満点といえるのではないでしょうか?

この話で船長が乗客の振り分けに使用した「国」という属性は、今回ご紹介する「デモグラフィックデータ」のひとつです。ぜひ最後までお読みいただき、自社のマーケティング活動にお役立てください。

デモグラフィックデータとは

Demographics

(出典:Investpedia

デモグラフィックデータ(Demographics)とは、顧客の年齢、性別、人種、年齢や職業など、その人個人を表す事実をベースとした統計学的情報のことで、日本語では「人口統計学属性情報」と呼ばれます。

その考え方

デモグラフィックデータについて理解するには、まず先に「STP理論」について知っておくとわかりやすいかと思います。

STP.webp (1)

(出典:Oxford College of Marketing

STP理論(STP分析)とは、アメリカの経済学者Philip Kotler(フィリップ・コトラー)氏が提唱したマーケティング理論で、企業のマーケティング活動を「S:セグメンテーション」「T:ターゲティング」「P:ポジショニング」の3つの過程に分けて考える理論です。

そしてデモグラフィックデータは、このSTPの最初の過程である「セグメンテーション」で使用されるデータのひとつ、と捉えられます。

「属性情報」と呼ばれる通り、マーケティングにおいて顧客をその特徴ごとにグループ分けする(セグメンテーション)際に、デモグラフィックデータは振り分けの指標のひとつとして使用されます。

セグメンテーションで市場や顧客を細かく細分化し評価・分析することで、自社製品にマッチしている顧客の層とそうでない層を明確に分類します。本当に自社がターゲットとするべき層を見極める(ターゲティング)ことができ、さらにはターゲティングしたセグメントにおける自社の最適な立ち回りを検討する(ポジショニング)ことにもつながるのです。

そのため、STPの入り口であるセグメンテーションを左右する指標のひとつ「デモグラフィックデータ」は、企業のマーケティング活動の成否に大きくかかわる重要なデータとなります。

STP理論については、当ブログのこちらの記事でも詳しく紹介していますので併せてご一読ください。

デモグラフィックデータの代表的なセグメント

それでは、デモグラフィックデータにはどのようなものがあるのでしょうか? ここでは、デモグラフィックデータの代表的なセグメントについていくつか紹介します。

性別

顧客の性別に関する情報は、デモグラフィックデータにおける非常に大きな要素のひとつです。

総務省統計局によると、2022年8月現在の日本の総人口は約1億2,508万人。そのうち男性は約6,081万人(49%)、女性は約6,427万人(51%)となっています。また、国連による世界統計でも総人口に対する男女比率はおおよそ50:50と日本の統計とほぼ似たような数字です。

性別の違いにより顧客の購買行動は非常に大きく変化します。たとえば、以下はForbesによる女性の購買行動の特徴の一例です。

  • 一般消費における購買意思決定の70-80%は女性によるもの
  • 女性はネットで「ハウツー動画」を見る割合が男性に比べ50%高い
  • 旅行に関する消費の70%は女性によるもの
  • 持ち家の購入者で既婚夫婦に次いで多いのは独身女性(18%)で独身男性(9%)の倍

このように、性別は顧客の嗜好や習慣、意思決定の特徴を推測する上で非常に有用なデータとなりえます。顧客がどのような思考や経験を経て自社製品にたどり着くのか、「カスタマージャーニー」を分析するうえでも、顧客を性別ごとに細分化することは有意義に働くでしょう。

また最近では、男女の分類に加えて「LGBT」の購買行動の分析の重要性も提唱されています。データ取得の難易度が少し上がりますが、可能であればこちらも検討すべきでしょう。

年齢

性別と同じく顧客の購買行動を大きく左右するデモグラフィックデータのひとつが、顧客の年齢に関する情報です。

同じ人でも年齢と共に嗜好とするものは変化していきます。たとえば、小さい頃は虫が大好きだったのに、大人になった今は見るのも嫌だという人は多いのではないでしょうか? ほかにも、好きな色は年齢によって特徴が分かれるという下図のようなデータもあります。

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(出典:Scott Design Inc.

また顧客を年齢により世代別に分類することは、顧客の購買力や思考パターン、さらには市場のトレンドなどを分析するのにも有用です。

たとえば、「ミレニアル世代(Y世代)」は1981-1996年に生まれた世代のことを言いますが、この世代は比較的若い段階でIT革命を経験しており、前の世代の「X世代」に比べ格段にデジタルに親しみがあるという特徴があります。さらに、ミレニアル世代はすでにアメリカのテック系BtoBバイヤーの約60%を占めており、今後世代交代が進んでいくにつれ購買力はさらに大きくなっていくでしょう。

Z世代はミレニアル世代の後、1996-2015年に生まれた世代のことです。この世代は物心ついた時にはすでにIT技術が普及していた、生まれながらのデジタルネイティブであるという特徴があります。アメリカではすでに労働人口の25%を占めており、今後10年の間で購買力・影響力ともにどんどんと大きくなっていく世代です。

このように年齢は、企業がマーケティング戦略を練るうえで短期的だけでなく中・長期的な方針を決定する指標として、非常に有用なデータとなり得ます。

家族構成

家族構成によっても顧客の購買行動は変化します。

たとえば、顧客が一人暮らしか家族とともに暮らしているかというのも重要です。一人暮らしであればある程度自由に製品やサービスの購入意思決定ができるかもしれません。しかし、高齢の両親や小さい子供をもつ顧客は、一人暮らしの顧客と比べて抱える課題や必要とする製品は異なってくるでしょうし、責任感から意思決定が慎重になるかもしれません。

また、同じく顧客が未婚か既婚か、兄弟の有無やペットを飼っているかどうかというのも自社が提供する製品やサービスによっては重要な要因になり得ます。

国籍や文化

国籍や文化の違いもデモグラフィックデータとして細分化できる要素のひとつです。国籍が違えば文化が違ってきます。そして文化が違えば、好まれやすいものごとや嫌われがちなものごとも変わってきます。

たとえば、2005年の研究では、スイス・ドイツの人々は平均的に新しい経験を求める傾向が強く、反対に香港・アイルランド・クウェートはその傾向が低いという結果が出ています。また2007年の別の研究では、日本・アルゼンチンの人々は神経症傾向が高く、反対にコンゴ・スロベニアの人々はその傾向が低いというデータも出ています。

本記事の冒頭でご紹介した「沈没船ジョーク」も、この国籍や文化による特徴の違いを面白おかしく言い表したものです。

上記はほんの一例ですが、国籍や文化によって好まれる製品やサービス、マーケティングのアプローチは異なると理解するのには十分でしょう。

ただ一点、ジョークになっていることからもわかりますが、国籍や文化の分析は非常に先入観によるバイアスがかかりやすい要素であるため、実際にターゲットの分類・分析を行う際は注意が必要です。

職業・年収

顧客の職業や年収もデモグラフィックデータのひとつです。職業や職種による顧客の分類は、自社製品のターゲットをはっきりとさせる上で重要になります。

たとえば自社が、BtoBで顧客管理ツール(CRM)や営業支援ソフト(SFA)を販売する会社だとしたら、多くの潜在顧客や既存顧客を抱える会社の営業マネージャーといった顧客層の優先度がおのずと高くなります。反対に開発・研究がメインとなる技術者層は、分類により優先度を下げた方がよいかもしれません。

また、顧客の年収はそのまま顧客の購買力に直結します。BtoBの場合は個人ではなくアカウント(会社)別の売上げを基準にしてもよいかもしれません。いくら気に入ってくれても、自社の製品やサービスを購入できる予算がなければ、最終的に受注は見込めません。個人の年収や会社の売上げをもとに分類を行い、優先度別に効率的なアプローチを試みましょう。

デモグラフィックデータとサイコグラフィックデータの違い

デモグラフィックデータとよく似たものに、「サイコグラフィックデータ」があります。ここではサイコグラフィックデータの意味とデモグラフィックデータとの違いについて紹介します。

サイコグラフィックデータとは

サイコグラフィックデータ(Psychographics)とは、日本語で「心理的属性情報」といい、顧客の特性や興味・関心、社会的な立場や意見、行動原理など心理的な背景や要素に関する情報のことをいいます。

その考え方とデモグラフィックデータとの違い

デモグラフィックデータとサイコグラフィックデータ、さらにジオグラフィックデータ(地理的属性情報)とビヘイビアルデータ(行動学的属性情報)の4つは全て代表的な「マーケットセグメンテーション」の分類指標です。

Market-segmentation (2)

(出典:Oberio

この中でもサイコグラフィックデータは異質です。ほかの3つの属性情報が結果や事実をベースとした顧客の情報を追うのに対し、サイコグラフィックデータではその結果や事実に対する顧客の心理的な背景や理由を重視します。

たとえば、ある顧客に対するデモグラフィックデータ、サイコグラフィックデータ、さらにはビヘイビアルデータは下記のようなものとなるかもしれません。

デモグラフィックデータ

(人口統計学属性情報)

サイコグラフィックデータ

(心理的属性情報)

ビヘイビアルデータ

(行動的属性情報)

事実

背景や心理

結果

35歳 男性

チームのリーダーとして貢献したい

リーダーシップのセミナーを受講

既婚 子持ち

家族が安心して暮らせる環境を整えたい

マイホーム購入を検討中

◆◆会社営業課長

部下のマネジメントが上手くいかない

残業する部下を残して帰れない

業務効率化ツールについてネットで情報収集

会社利益○億円

業務改善にはある程度コストをかけられる

業務改善の予算を申請

 

デモグラフィックデータ、サイコグラフィックデータ、そしてビヘイビアルデータは、顧客の行動原理や需要を評価、予測するのに適している指標です。

自社製品の購入に至るまでの顧客の行動プロセスをマッピングする「カスタマージャーニーマップ」を作成するのにも役立つため、HubSpotではこれらの属性情報に重点を置くことを推奨しています。顧客のセグメンテーションを行う際には、特に重点を置いてみてはいかがでしょうか。

サイコグラフィックデータに影響を与える要因

最後に、サイコグラフィックデータに影響を与える要因について代表的なものを紹介します。

性格

身の回りで起こるさまざまなものごとにどのように反応をするかは、個人の性格によって決まります。

たとえば生活や仕事で何かしら困難なことに出会ったとき、積極的に課題の追及を行い解決の糸口を見つけようと模索する性格の人であれば、自社が発信する情報やマーケティングアプローチに対して積極的に耳を傾けてくれる可能性が高いでしょう。

反対に問題から目をそむける癖のある人は、課題解決につながるかもしれない情報を目の前にしても行動を起こしてくれないかもしれません。

ライフスタイル

ライフスタイルは、その人がどのような生活を送っているか、もしくはどのような生活を望んでいるかを表すものです。顧客のライフスタイルを分析することは、その顧客が社会の中における自分自身をどのように客観視しているかを知ることにつながります。

ライフスタイルはその人の人間関係、職業、ライフステージなどさまざまな要因から影響を受けるため、単体として捉えるよりもほかの要因との全体的な組み合わせで捉えるのが良いでしょう。

社会的ステータス

当然ですが、日本において明確に国民の階級を分ける制度はありません。しかし私たちは、「中流・上流階級」という言葉をよく聞くように、しばしば自身の社会における立ち位置を気にしてしまい、それをもとに購買の意思決定をすることも少なくありません。

ライフスタイルと同じく、個人の主観的な社会的ステータスも目に見えるものではなく、その人の職業や人間関係などの要因によって影響を受けます。そのため、やはりほかの要因を注意深く分析しないと捉えるのが難しいでしょう。

習慣

習慣は個人が心理的に「やらないと気が済まない」と生活の中で繰り返す行動のことです。

たとえば車好きな人であれば、毎週決まった時間に決まった洗車場で洗車をしないと気が済まない、という人もいるかもしれません。

習慣は一度身につくと、辞めることが逆に心理的ストレスとなるため、顧客の購買に関する行動を予測するのに非常に有用なデータです。

興味

どのようなことに興味をもつかは千差万別、人それぞれです。しかし興味をもつ分野別に顧客を分類することは可能です。

特定の製品やサービスの購入を検討する層は、何かしらの共通の興味や課題を持ち合わせている可能性が高いです。そのため、自社製品を購入する顧客はどのようなものやことに興味を持つ傾向があるのかを分析し、セグメントごとに優先度をつけてアプローチを行うことで効率的なマーケティング効果が期待できます。

まとめ

デモグラフィックデータは、あくまでマーケティングのSTPのなかの最初の過程「セグメンテーション」で使用される顧客分類指標のひとつです。単体でもデータ収集から一定効果が期待できますが、やはりほか3つのセグメンテーションデータと併せて活用することでさらなる効果が期待できるものでもあります。

とはいえ、顧客の心理状況の深堀りが必要なサイコグラフィックデータ、顧客の何かしらの行動を分析するビヘイビアルデータと比べ、デモグラフィックデータとジオグラフィックデータは顧客の現在の情報をもとにするため、データの入手難度は比較的低いです。

まずはデモグラフィック・ジオグラフィックのデータを入手し、サイコグラフィック・ビヘイビアルへと深堀りを進めていくのがよいでしょう。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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