新規の事業を立ち上げたり製品・サービスを開発する際には、潜在的なニーズやビジネスの収益予測が欠かせません。新規ビジネスの正当性を投資家にアピールするためには、十分な市場規模があるかどうか、見込み客はどのくらいいるのかを予想して、具体的に数値化させることが求められます。
スタートアップ企業が増加しCVC数が増加しているように、市場環境を定義し、投資家に対して論理的に説明できるようになることが、新規事業の協力者を増やすためには必要になってきます。この市場環境を定義し、新規事業や製品・サービスを提供する先を明確にするための指標のひとつがTAM、SAM、SOMです。
本記事では企業のマーケティングや営業の担当者様向けに、TAM、SAM、SOMのそれぞれの概要や計算方法、ターゲティングを絞り込む上で知っておくべきことを解説します。TAM、SAM、SOMを活用する際にお役立てください。
TAMとは『ある市場で獲得できる可能性のある最大の市場規模』のことでです。『Total Available Market』の略となります。具体的には、ある製品・サービスが100%の対象となる市場を獲得した際に、得られる架空の年間収入を表すために使用されます。
TAMにはそれぞれ
・Total →全体の ・Available →利用可能な ・Market→市場 |
という意味があります。TAMは事業自体が持っている最大規模のポテンシャルを把握できる指標です。ポイントは実現可能な最大市場規模を計測することで、いまここに存在する市場だけではなく、将来的な市場の意味合いも含んでいます。
そのため、1年間の市場全体で、どれだけのお金が動くのかを表すことが可能なのです。TAMの対象範囲は以下の2点。
・同じ製品・サービスでも違うアプローチの製品・サービスは含む ・製品・サービスが異なっていても同じ市場をターゲットとした製品・サービスは含む |
上記のとおり、かなり幅広い対象が市場規模になります。TAMは同じニーズを満たす代替品なども、商品の市場規模の中に含んできます。直接的ではないけれど、間接的なライバルも把握できるところが大きな特徴です。
例えばSaaS企業の場合だとTAMの時点では、業界型のSaaSと水平型SaaSの競合が市場規模ではなく、SaaSという大きなくくりが市場規模の中に入ってきます。
また、基本的にTAMは投資家や外の人に自分の事業領域が魅力的であることを伝えるための数値です。自社が行っている事業領域は、これだけのお金が動いているということをわかりやすく伝えることができます。
SAMとは『Serviceable Available Market』の略で、顧客セグメントの需要を示す指標になります。具体的には、TAMの中でターゲティングした部分の需要を表しており、その市場に関わる特定の製品・サービスが獲得し得る市場規模のことです。
TAMは製品・サービスに関わる市場の全てが対象であるのに対し、SAMは自社が関わる市場のみに限定した時のポテンシャル評価になります。例えば、TAMは現時点では1番非現実的な市場規模を数値化したものですが、実際は同じ事業領域でも、現実的に自社では実現できない製品・サービスがあります。
SAMはそれらを排除して、より現実的かつ、具体的に自社製品・サービスのフルポテンシャルを明示したものなのです。
SOMは『Serviceable obtainable Market』の略です。実際に製品・サービスを持って市場に参入した時に、自社でアプローチして獲得できるであろう市場規模を表した数値で、言い換えると自社の売上目標ともいえます。
SAMは自社が関わる市場規模のことですが、SOMはその中で自社がアプローチ可能な市場範囲に限定したものです。一言で表現すると『シェア率』とも言い換えられるでしょう。SOMは自社が実際に到達できる市場規模を示した、もっとも現実的な数値になります。
これがそのまま売上目標として扱われることがありますので、投資家などの外向けにも、社内などのうち向けにも、直近で目指すべき最大売上目標として明確に示すことができる数値です。
TAM、SAM、SOMはそれぞれ、市場規模を表す指標です。TAM、SAM、SOMは包括関係にあり、TAMという大きなくくりの中にSAMがあり、さらにSAMというくくりの中にSOMがあるという関係性です。
例えば音声コンテンツの例でいうと、音声コンテンツの市場全体がTAMになります。音声コンテンツという定義の元では、ラジオアプリやVoicy、Podcastなどの音声プラットフォーム、オーディオブック、音声配信サービス、配信アプリなど幅広い競業が数値の指標となります。
次にSAMは実際にその中で自社がアプローチできるであろうターゲットが対象となります。TAMで設定した市場規模から、さらに絞り込むイメージです。最後にSOMは、アプローチした上で獲得できそうな市場規模を設定します。
そのため、TAMでは市場全体を包括し、SAMではアプローチする市場を選定して、SOMでアプローチした後に集客できそうな市場規模を確認するということです。
ライドシェアサービスのUberを例に挙げて解説します。
Uberは、自社アプリの運営を介してさまざまなサービスを消費者に提供しています。そのひとつがタクシーサービスで、アプリを使って乗り物を手配できます。また、アプリ経由で食べ物を頼んでレストランから配達してもらうサービスもあります。ここでは、「ライドシェア」に焦点を絞って説明します。
TAM:
UberのTAMは、都市部におけるタクシー市場です。具体的には、自家用車やレンタカーを使った移動の代替手段となることを目指していると言えます。例えば「子供や、年配の親の送迎」「カップルの外出」といった利用シーンが想定されます。
SAM:
Uberの初期のSAMは、スマートフォンを使用するアメリカのタクシー市場でした。これは、Uberが実際に提供できるサービスの範囲を示しています。
SOM:
Uberの初期のSOMは、アメリカの大学生や他の学生コミュニティ(※)でした。これは、Uberが短期間に実際に獲得できる市場の一部を示しています。
※ライドシェア会社は、ドライバーにとって柔軟な稼働ができることと、収入源を得られる点が魅力です。ドライバーは自分でスケジュールを設定し、忙しい時間帯でもより多くの収入を得て、すぐに支払いを受けられます。それゆえ、アメリカの社会では「夏休みの現金を稼ぎたい大学生にとっては理想的」との見方が見受けられます。
Facebookを例に挙げて解説します。
TAM:
Facebookの初期のTAMは、アメリカの大学生でした。
Facebookが初期に公表した資料によると「我々のターゲットは、全米の1500万人の大学生。彼らの購買力は850億ドルを超えており、サービスや商品に使うお金を持っています。彼らは年間でレストランや食品に210億ドル、自動車に90億ドル、服に50億ドル、携帯電話に40億ドル、その他の便益に460億ドルを費やすでしょう。大学生はまた、積極的な就職活動をしています。」という旨を記しています。
これは、Facebookが理論的にサービスを提供できるすべての人々を含みます。
SAM:
Facebookの初期のSAMは、アメリカの大学生や、他の学生(13歳以上の中学生・高校生)のコミュニティでした。これは、Facebookが実際にサービスを提供できる範囲を示しています。
SOM:
Facebookがサービス提供を開始した当初、アメリカのハーバード大学に所属し、この大学のドメインのメールアドレスを持つ学生に限定して会員獲得が行われました。
ドイツのSaaS「Lean-Case」の事例を見てみましょう。このSaaSは、起業家やスタートアップ企業に向けた製品で、ビジネスの成長をシミュレートし、ビジネスプランを作成するためのツールです。
TAM:
Lean-Caseの場合、そのTAMは全世界のMicrosoft Officeのユーザー数であるとされています。ビジネスプランニングや収益予測、アイデア評価のためにExcelを使用しているユーザーをターゲットとし、ExcelからLean-Caseへの移行を促したいからです。
Microsoft は世界中で60万社にOffice製品を提供しており、12億人を超える Microsoft Office ユーザーがいます。
Microsoft Officeの2人に1人のユーザーが Excel も使用していると仮定すると、ビジネス成長のシミュレーションのためにLean-Caseを購入できる可能性があり、世界中で6億ユーザーのTAMが得られます。
SAM(Serviceable Addressable Market):
事業計画、収益予測、アイデア評価の目的でExcelを活用するユーザーは、世界中のすべてのExcelユーザーのうち2%のみであると推定されています。
6億ユーザーのTAM に基づくと、世界中で1200万ユーザーのSAM (Lean-Caseの対象となる市場セグメント)が得られます。
SOM(Serviceable Obtainable Market):
限られたリソースを考えると、特定の市場と、企業内の特定部署(事業計画、収益予測、アイデア評価などを担当する部署)に属するユーザーのみをターゲットにできるとLean-Case社は考えています
同社の試算では、SAM(1200 万ユーザー)の1% にLean-Caseを販売することが可能になり、6年間で12万ユーザーの SOM (2~4 年で獲得できる現実的な市場部分) が得られる(1万社)というシミュレーションです。
なお、ヨーロッパには多数のコンサルティング会社、企業イノベーター、アクセラレーターが存在するため、 SOMにおけるヨーロッパのシェアは約50%であると推定されます。ユーザーあたり年間300ユーロの平均収益を適用すると、37億5000万ユーロの大規模な世界市場 (SAM) と、Lean-Case収益の可能性3750万(SOM)が見込まれると計算しました。
(出典:TAM, SAM, SOM: fundamental market size metrics)
TAM、SAM、SOMは以下のようなシーンで利用されます。
・投資家の投資基準 ・新規事業を立ち上げる際の市場把握 ・SaaS 事業のTAM分析 ・事業計画の作成 |
それぞれ解説します。
TAM、SAM、SOMは投資家の判断基準に関わる重要な数値です。例えば、投資家にとって事業を見る時の重要なポイントは以下の2点になります。
・高い成長性が期待できる事業か ・想定されるリスクはできるだけ減らせるか |
TAM、SAM、SOMはこれらの投資基準に関わります。そのため、経営者にとっても、投資家にとっても市場の認識の相違を防ぐのが役割です。また事業のアッパー(成長の余地)を決めたり、ダウンサイド(失敗の可能性)を決めたりする際の判断材料にもなります。
また投資家はもちろん、事業の製品・サービスを作る側からしても、前例のない新しい製品・サービスを見積もる際に、TAM、SAM、SOMが重要な指標となります。その理由は、スタートアップ企業がこれらの指標を正しく把握していないと、資金提供の確らしさを正当化することが難しくなるからです。
ただし一方で、TAM、SAM、SOMはどのようにでも切り出すことが可能、ということもできます。例えば、マネーフォワード社のIR情報資料を見ると、想定市場規模がとてつもなく大きいことがわかります。
一方で、2021年末時点で最も時価総額の高いSaaS企業である株式会社ラクスのIR情報では、非常にTAM、SAM、SOMが限定的に書かれていることが見て取れます。
新規事業を検討する際、その市場の大きさを把握するためにTAM、SAM、SOMを計算します。これにより、事業の可能性、成長の見込み、必要な投資などを評価することが可能です。例えば、新たな製品やサービスを開発する前に、その製品やサービスがどの程度の市場規模を持つ可能性があるかを評価するために使用します。
TAM、SAM、SOMは市場戦略を策定する際にも利用されます。例えば、製品の価格設定、販売チャネルの選定、マーケティング活動の計画などを行う際に、これらの数値を基に戦略を考えます。
また、競合他社との比較や市場のトレンド分析にも利用可能。特にSaaSのビジネスモデルでは、SaaS事業を展開する際は継続利用を続けて貰うためのマーケット分析が重要であり、その分析にTAM、SAM、SOMの試算が数値的な根拠として役立つでしょう。
TAMを活用してターゲットとすべき顧客層を常に解像度高く理解し、そのニーズを満たすことで、サービスの長期的な利用を促進できます。
事業計画を作成する際にもTAM、SAM、SOMは重要な役割を果たします。これらの数値を用いて、事業の目標設定、戦略策定、リソースの配分などを行うためです。また、投資家やステークホルダーに対するプレゼンテーションの際にも、事業の可能性を示す重要な指標となります。
一例として、クラウド会計ソフト「freee」の事業計画書でもTAMの計算が示されています。
(出典:フリー[4478]:事業計画及び成長可能性に関する説明資料 2021年12月21日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞 )
『SaaS』とは『Software as a Service』の略で、必要な機能を必要な時に利用できるソフトウェアサービスのことです。このSaaSのマーケット分析を行う際にTAM、SAM、SOM分析が利用されます。
例えば、キャリアメールやGmail、SMS、LINEなどのメッセージ手段は、インターネット上でいつでもアクセス可能です。そのため、わざわざソフトを購入して、クライアントにインストールする手間は必要ありません。
SaaSサービスはすでに、インフラと言えるほど一般化されているものもあります。このような分野に参入する際、市場規模を予測するには先行サービスを参照する必要があるのです。
また、画期的で斬新なメールサービスを新たに提供しようとした際、パソコンやスマホ、タブレットなどの通信媒体を持つ全ての人を顧客対象とするのは無理があるでしょう。この場合は、SAM、SOMの指標を参考に、まずはキャリアメールの何割のユーザーが獲得できそうか、など既存の市場からできるアプローチを考えます。
このように、企業によってTAM、SAM、SOMの定義や粒度は異なる置き方をすることを理解し、完全なる精度でTAM、SAM、SOMを作らなければいけない、という考え方は必ずしも必要ではないことを覚えておくことも重要です。
TAM、SAM、SOMの計算方法をそれぞれ解説します。
TAMとは、その製品・サービスの市場における全ての需要を足した数値です。そのため計算式は以下のようになります。
・TAM =平均収益×製品・サービスの総市場数 |
TAMの場合、計算しても大雑把な数値にしかならないという特徴があります。そのためTAMの正確な計算は難しいケースが多く、予想も含んだ数字になります。
以下に、一般的なステップを用いて、Salesforceの情報を用いて仮想的な例を示します。
市場の定義:
まず、Salesforceの市場を定義します。Salesforceは、顧客関係管理 (CRM) ソリューションを提供するクラウドベースのプラットフォームです。
そのため、市場は「全世界の企業や組織」であると定義できます。これらの企業や組織は、顧客データの管理、営業、マーケティング、サービス、およびその他のビジネスプロセスを効果的に行うためにSalesforceのようなCRMツールを必要としています。
顧客数の推定:
次に、全世界の企業数を推定します。これは、各国の企業数の統計データや、国際機関の報告から推定することもできます。
しかし、企業の定義、規模、地域、産業などによってその数は大きく変動します。また、新たに設立されたり、倒産したり、合併したりする企業が常に存在するため、企業数は常に変動しています。
全世界の企業数を推定することは難しいですが、Salesforceの公式サイトによれば、Salesforceは世界15万社以上に提供されています。しかし、これはSalesforceの顧客数であり、全世界の企業数を示すものではありません。
非上場企業の数や小規模な企業、自営業者を考慮すると、全世界の企業数は数千万社から数億社と推定されます。ここでは、全世界には2億社の企業があると仮定してみましょう。
平均収益の推定:
それぞれの企業がSalesforceにどれくらいの費用をかけているかを推定します。これはSalesforceの価格プランや、企業の規模による利用状況から推定可能です。
Salesforceでは小規模企業から大手企業まで、さまざまな価格帯のプランが提供されています。ここでは、企業が年間で平均して約120万円をSalesforceに支払っていると仮定しましょう。
TAMの計算:
最後に、TAM = 平均収益 ×企業数を計算します。
TAM = 120万 ×2億社 = 240兆円となります。
SAMはTAMの中で狙うべきターゲットを絞った市場規模です。そのため、計算式は以下のようになります。
・SAM=平均収益 × 特定の顧客セグメント市場数 |
上記のとおり、ターゲットを絞ることで、TAMよりもサイズダウンした市場規模の結果となります。広範囲な製品・サービスジャンルの中で絞り込むこともあれば、ターゲット属性で絞り込むこともあるでしょう。
例:SalesforceのSAMの計算例
Salesforceの顧客あたりの年間平均売上は約120万円と仮定します。また、全市場(TAM)のうち60%(1.2億社)が顧客セグメントと仮定します。
平均収益×特定の顧客セグメント市場数を計算します
SAM = 120万円 × 1.2億社 =144兆円となります。
SOMはSAMの市場の中で、実際に獲得できる市場規模のことになります。具体的な算出方法は以下のとおりです。
・SOM=平均収益 × 自社が取得できる市場数 |
例:SalesforceのSOMの計算例
Salesforceの顧客あたりの年間平均売上は約120万円と仮定します。また、全市場(TAM)のうち40%(8000万社)が自社が取得できる市場数と仮定します。
平均収益 × 自社が取得できる市場数を計算します。
SOM=120万円×8000万社=96兆円
TAM、SAM、SOMの計算へのアプローチ方法は、マクロな視点から計算する『トップダウンアプローチ』と『ボトムアップアプローチ』の2種類があります。それぞれ解説します。
(引用元:https://www.thepowermba.com/en/blog/tam-sam-som)
トップダウンアプローチとはマクロの視点から考える分析方法のことです。市場全体のターゲットから対象としない市場を除いていくため、主にTAMの計算の際に使われます。例えば市場データの中から、獲得したい割合を計算していきます。
このアプローチでは、全体の市場規模から始めて、その中で自社が取り得る市場規模(
TAM)を計算します。全体の市場規模は、業界レポートや市場調査データなどから取得。その後、自社が取り得る市場規模を計算するために、特定のセグメントや地域、顧客層などに焦点を絞ります。
また、トップダウンアプローチでTAM、SAM、SOMを計算する際には以下の2点に注意しましょう。
①自分の認識と調査内容がズレていないか ②使用する情報やデータは新しいか |
それぞれ解説します。
調査対象の会社によっては、調査カテゴリーの分類が一般的でなかったり、言葉のニュアンスが異なっていたりする場合があります。その場合は計算結果にズレが生じるため、調査方法などを十分に精査した上でデータを使用することが大切です。
トップダウンアプローチは公表されているデータを活用しますが、例えばこのデータが20年前のものであると、信憑性がなくなります。その結果、実用性のあるデータとして使うことはできないでしょう。ですので、数値を算出する場合は比較的新しいデータを使用する必要があるのです。
例えば、Salesforce(CRMソフトウェア)が全世界のCRM市場規模(TAM)を計算する場合、全世界の企業がCRMソフトウェアに投じる総額を調査します。その後、Salesforceが提供できる地域や言語、業種などに焦点を絞ってSAMとSOMを計算します。
ボトムアップアプローチとは、ミクロな視点から考える分析方法のことです。製品・サービスの需要の大きさを顧客ひとり単位のデータから計算する方法で、主にSAMやSOMを算出する時に利用します。
具体的には、顧客にアンケート調査を行い、実際に顧客になりそうなターゲット層の潜在ニーズを把握して、その数値を分析して計算するという手順です。
このアプローチでは、個々の販売機会から始めて、全体の市場規模(SAM、SOM)を計算します。個々の販売機会は、製品の価格、顧客の数、販売量などから計算。その後、これらの販売機会を合計して全体の市場規模を計算します。
ボトムアップアプローチを行う際に注意したい点は以下の2つです。
①アンケートの規模は大きすぎないか ②質問内容は曖昧でないか |
それぞれ解説します。
数値を算出する際に、はじめから大きな規模でアンケートを行うと、本質的な質問ができなかったり、内容に偏りが出てしまったりします。アンケートは1度行うと、同じ人にもう1度答えてもらうのは難しいため、ある程度は対象の属性を絞る必要があります。そのため、大規模なアンケートには注意する必要があるのです。
人によって解釈が異なる質問内容では、正確なデータを収集できません。例えば『いまは、▲▲に興味を持っていますか』などの曖昧な質問は、人により解釈が異なります。そのため、質問内容は誰が見ても同じ解釈ができるように注意を払う必要があるのです。
例えば、Slack(チームコミュニケーションツール)が全世界のチームコミュニケーション市場規模(TAM)を計算する場合、まず1つの企業がSlackに投じる平均的な費用を計算します。全世界の企業の数を調査して、これらを掛け合わせてTAMを計算します。
その後、Slackが提供できる地域や言語、業種などに焦点を絞ってSAMとSOMを計算します。
これらのアプローチは、それぞれ異なる視点から市場規模を評価します。トップダウン方式は全体的な視点から、ボトムアップ方式はより詳細な視点からの市場規模の評価です。どちらのアプローチを使用するかは、利用可能なデータやビジネスの特性によります。
新規事業で市場規模を把握し、具体的なアクションを起こすためのフレームワークとしてTAM、SAM、SOMは有効な指標です。TAMとは『獲得できる可能性のある最大規模』のことで、大きなくくりの市場規模が対象となります。
また、SAMは『実際にその製品・サービスがアプローチできる市場規模』のことです。ボトムアップアプローチで計算していきます。
SOMは『実際にその製品・サービスが獲得できる、もしくはすでに獲得している市場規模」のことで、直近で目指すべき売上目標として使われます。
それぞれは包括関係にありTAMの中にSAMがあり、SAMの中にSOMがあるという関係性です。市場が伸びているか、その市場の中で勝てる見込みはあるか、競合は強いのか弱いのかといった要素を分析できます。ビジネスにぜひお役立てください。