【BtoB SaaS企業向け】PEST分析とは?マクロ環境の分析が大切な理由

2021/01/28
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PEST分析とは、米国の経営学者Philip Kotler(以下コトラー)氏が提唱したマクロ環境分析のフレームワークです。PESTは、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の頭文字からとられています。

新型コロナウイルスの影響による世界経済の混乱を見てのとおり、グローバル社会において世界各国は緊密に連携しています。ひとたびマクロ環境が激変すれば、各国の経済は大きな打撃を受けることに。

SaaSなど伸びる業界もあれば、オフラインでの事業活動を主軸においていたトラディショナルな業界が急失速する......。業績に明暗が分かれ、それまでの勢力図も一変してしまいます。

もちろん、新型コロナウイルスのような天災や不意の惨事は予測できませんが、起きたあとのビジネス環境の変化はある程度予測できるものです。

ビジネスで成功するには、自業界だけでなく、世界経済の流れや社会の大きな潮流をとらえていち早く波にのる必要があります。また、大きな潜在的脅威にきづいたならば早期に事業縮小・撤退の決断をしなければなりません。

今回は、経営戦略を立てる際に必須であるマクロ環境分析フレームワーク「PEST分析」について解説します。

PEST分析の基本とは?

PEST分析とは、企業が戦略を構築する際の「調査・情報収集」→「課題の明確化」→「仮説構築」→「仮説検証」→「戦略策定」というパイプラインにおいて、「調査・情報収集」「課題の明確化」のフェーズで活用するフレームワークです。

PEST分析の目的

PEST分析の目的は、政治、経済、社会、テクノロジーの領域を分析することで自業界に大きな影響をもたらす変化をつかみ、新たに投資すべき市場、撤退すべき市場を見極めることです。PEST分析の提唱者コトラー氏は「市場を再定義する」と表現しています。

例えば、海外市場に進出する場合、新興国には先進国とは異なる政治、経済、社会環境がありビジネスに影響を及ぼしています。マクロな外部環境を分析することは、市場全体の構造を理解するために非常に重要なことです。

SaaS事業者であれば、市場の占有率を高めることが事業の勝敗を決めると言っても過言ではなく、自社の努力だけではどうにもならないマクロの外部環境を味方につけることは非常に大切です。

例えば、HubSpotがマーケティング製品を中心に創業期の活動を行ったのも、明確にPESTのTとSが変化していることを理解していたからでした。

これまでの購買活動が売り手中心だったのに対して、ネット検索、SNSの台頭によって買い手自らで購買活動の大半を終わらせるように技術革新によって社会活動が変化した、ここを見逃さずにインバウンドマーケティングというコンセプトを作りました。

このようにPEST分析の最終目標は、企業を長期に存続させ、独自の立ち位置を作り、収益を最大化させることにあります。

イメージ

PEST分析の図表
(参考:グロービス)
 

PEST分析を行うにあたっての前提

PEST分析は、あくまでマクロ環境を分析するフレームワークなので、ミクロ環境を分析するフレームワークや目的ごとに他のフレームワークと併用することが一般的です。

PEST分析の結果を戦略に落とし込む際には、業界分析ができるミクロ環境分析フレームワークの5Forcesや3C、自社の組織力、資金力、人材リソースなどを分析できるSWOT分析などと組み合わせて活用することが前提となります。

PEST分析の頭文字から知れること

PEST分析の頭文字P、E、S、Tのそれぞれの意味を解説します。

PESTのP(政治)

Pは、Politics、Politicalを意味します。以下の項目を分析します。

  • 政治体制の変化とその影響
  • 法律の変更(規制の強化・緩和)
  • 政治の腐敗
  • 国の経済ビジョン
  • 税制

政治とは、いわばビジネスの上部構造に位置するルールメーカーです。国内外問わず政治体制の変化、行政の方針は企業のビジネスに大きな影響を与えます。

近年はグローバル化が進みGAFAなどの巨大企業が、一国より大きいパワーを持つと言われるようになりました。政治経済のトリレンマと言われるように「国家主権」「民主主義」「グローバリゼ-ション」の3つは同時に実現できず、国とグローバル企業との実質上の綱引きが生じています。国家は企業のパワーが強くなりすぎると規制に動きます。

また、ビジネス市場の変化があまりに速くなると常に法が現実を後追いするかたちになります。つまり、現行法には触れなくても問題が顕在化して、ひとたび政治が決断すれば法整備が進み「ルールチェンジ」となります。企業は将来的な法規制も予測しながら、倫理観を持ってビジネスに取り組む必要があるでしょう。

逆に、国が特定の産業振興に力を入れたり規制緩和することで市場が急拡大することもあります。近年の宇宙産業振興ユニコーン支援、身近な例では働き方改革推進によるテレワーク関連市場の成長もその一例だと言えます。

いずれにせよ、政治的な動きは企業にとって大きな機会、大きな脅威になることが多いため情報を常に収集する必要があります。

PESTのE(経済)

Eは、Economyを意味します。以下の項目などを分析します。

バブル崩壊、リーマンショック、新型コロナウイルスによる景気失速など、長期スパンでみれば景気は好景気と不景気を繰り返します。景気の先行きはさまざまな兆候に表れるでしょう。

景気動向指数には先行指数、一致指数、遅行指数があります。長期スパンで経済の動向を把握することで、現時点から中長期の景気予測を踏まえて、経営戦略、事業戦略を立てられるでしょう。

PESTのS(社会)

SはSociety意味します。社会の変化、トレンド、人口動態などの影響を指します。すでに予測ができ大きく変えられないものと、常に変化していくものの両方を把握します。

【確実に予測できること】

  • 人口動態

【ある程度予測、把握できること】

  • 天候、自然災害のリスク
  • 流行や世論
  • ライフスタイルの変化
  • 世代交代による価値観の変化
  • 消費者の購買行動の変化

例えば、国の人口構造は移民政策をとったところでそうそう大きく変化するものではありません。日本の場合は少子高齢化は少なくとも中長期的には変わらないことを前提に、ビジネスを進める必要があります。

一方大きく変化することもあります。インターネットやスマートフォン、SNSの登場は消費者の価値観やライフスタイルや購買行動を大きく変化させました。

これからは新型コロナウイルスの影響により、ニューノーマルと呼ばれる新たな社会生活のスタイルも普及していくでしょう。この様な変化に合わせた商品開発、サービス提供が企業に求められていきます。

PESTのT(技術)

TはTechnologyを意味します。

  • インフラ(エネルギー、情報通信)
  • 技術的なトレンド
  • 革新的なテクノロジーの登場
  • 研究開発への投資レベル

通信ネットワークが整備され、AI、IoT、ビッグデータの活用が進むことで、社会の在り方そのものが大きく変化することが予測されています。

日本を支える巨大産業である自動車業界すら、自動運転技術の登場によりニーズの激減が予測されており、トップメーカーであるトヨタ自動車とソフトバンクが提携するという一昔前には想像もつかなかった戦略に打って出ました。

テクノロジーの変化のパターンは指数関数的と言われ、下記の図のようにある段階まではゆるやかで実感しにくく、ある時点で急激に変化します。手遅れにならないように、早期に変化に気づき未来を見据えた戦略構築に着手する必要があります。

 

テクノロジーの変化を表した図表

(参照:総務省)

 

政治、経済、社会、テクノロジーはそれぞれ密接に絡み、相互に影響しあいます。PEST分析は、この4領域の大きな変化を俯瞰して捉え、未来を予測し、自社の戦略構築に活かすためのフレームワークです。

PEST分析活用には他の分析方法を組み合わせる必要性がある

PEST分析は、マクロな環境を分析するフレームワークなので、実際に戦略を立てる際はほかのフレームワークと組み合わせて活用します。ここでは、5ForcesSWOT分析を紹介します。

5ForcesとPEST分析の関連性

5Forces(5フォース)とは、企業の5つの脅威を分析する業界分析に近いフレームワークです。

分析項目:

  • Entry(他業界からの新規参入)
  • Rivalry(競合企業の脅威)
  • Substitutes(代替品の脅威)
  • Suppliers(供給者の脅威)
  • Buyers(購入者・顧客)

ビジネスにおいて競合企業の動き、新規に参入する企業の動き、顧客の購買行動の変化などは短期的に業績に影響する重要な要素です。マクロな外部環境分析ができるPEST分析とあわせミクロな外部環境分析ができる5Forcesを行うことでより現実的で具体的な戦略を導きだすことができます。

SWOT分析とPEST分析の関連性

SWOT分析とは、どちらかと言えば内部環境分析に近いフレームワークです。

分析項目:

  • Strength(強み)
  • Weakness(弱み)
  • Opportunity(機会)
  • Threat(脅威)

いかに世界経済や業界の動向がわかり、どこにビジネスチャンスがあるかを発見しても、自社にリソースがなければ計画そのものが無謀であり、実現はほぼ不可能です。

PEST分析とSWOT分析を組み合わせることで、現時点で自社が強みを活かせそうな機会、中期的になら上手く活用できそうな機会を可視化し、世界経済のうねりのなかで自社の強みを最大限活かせる領域にリソースを投下する戦略を描くことができるでしょう。

海外SaaS BtoB企業のPEST分析の例

ここでは、海外SaaSベンダーのHubSpot、Salesforce、Zendeskを実際にPEST分析してみます。

3社ともSaaS業界のリーディングカンパニーであり、クラウドアプリケーション市場のシェアではSalesforceが圧倒的であるものの、HubSpotはマーケティング領域ソフトウェア、Zendeskはカスタマーサポート領域ソフトウェアのトップベンダーです。

現在の3社の売上高はHubSpotが674.9百万米ドル(2019)、Salesforceが171億米ドル(2020)、Zendeskが816百万米ドル(2019)です。

2020年の新型コロナウイルスの影響により、3社とも顧客の多くが影響を受け低成長となる脅威と、DX化が世界的に加速することによる顧客獲得の機会を同時に迎えていますが、2020年8月時点では追い風が吹いている状況です。

米国内外ハイテク企業が上場するNASDAQでは新型コロナウイルスの環境下でも、IT業界やSaaS業界は市場最高値の更新を続けています。

 

クラウドCRMの市場占有率

(参照:appsruntheworld.com)

 

HubSpotのPEST分析

 

HubSpotのトップページ

 

HubSpotは、2006年に設立されたマーケティング領域のトップクラウドベンダーです。スモールビジネス市場がおもなターゲット。新型コロナウイルスの影響で世界経済が失速した2020年1Qの決算も黒字です。

PEST分析:

■P(政治)

  • EUの規制強化(プライバシー関連法案等)の影響

■E(経済)

  • 世界各国、特に米国GDP成長率の低下
  • 新型コロナウイルスの影響によるスモールビジネス市場の縮小
  • 新型コロナウイルスの影響によるDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速
  • 新興国のSaaS市場の勃興(SMB分野に強いHubSpotにプラスの影響)

■S(社会)

  • ギグエコノミーの増加
  • デジタルネイティブ世代の台頭
  • 人権、ジェンダーに関する意識の高まり
  • 個人情報保護についての意識の高まり

■T(テクノロジー)

  • AI、IoT、ビッグデータによる自社サービスの進化
  • 最新テクノロジーへの投資によるコストの増大
  • 新たな市場参入者の増加

Salesforce.comのPEST分析の例

 

Salesforceのトップページ

 

Salesforceは、1999年に設立されたクラウド業界のリーディングカンパニーでありCRM、SFA領域のトップベンダーです。幅広い領域でサービスを展開していますが、メインとする市場は比較的大手企業であり、主要市場は米国、欧州、日本です。

PEST分析:

■P(政治)

  • 米国と中国との対立-Aribabaと提携維持、中国進出企業の撤退による売上げ低下の懸念
  • 米国の政治体制の不安定さ(各地のデモ、暴動)
  • プライバシー関連法の規制強化
  • 新興国における知的財産の保護水準の状況

■E(経済)

  • 世界的なDX加速の流れ
  • 世界的なSaaS市場の成長
  • 新型コロナウイルスの影響による米国、EU、日本のGDP成長率の低下
  • 新興国における垂直統合型CRM、低価格類似品の増加

■S(社会)

  • デジタルネイティブ世代の台頭
  • 人権、ジェンダーに関する意識の高まり
  • 個人情報保護についての意識の高まり

■T(テクノロジー)

  • AI、ビッグデータ、IoTー自社のソフトウェアのイノベーション
  • 技術革新によるコスト増
  • テクノロジー分野におけるバリューチェーン構造への影響
  • 技術革新による世界的なSaaS市場の成長。海外ローカライズCRMの台頭

世界的にDXが進んだことは「SaaS業界の王者」とも言われるSalesforceにとって大きな機会であることはまちがいありません。一方で、世界各国のSaaS市場が伸び現地のスタートアップ企業が急成長するでしょう。

営業領域のSaaSは、その国のビジネス慣習とマッチするかが重要であるため、ローカルSaaS企業が基盤を固めると、Salesforceの今後の海外展開時の参入障壁となる可能性はあるでしょう。

ZendeskのPEST分析の例

 

Zendeskのトップページ

 

Zendeskとは、2007年創業のカスタマーサービス領域のトップクランドベンダーです。160か国でビジネスを展開しています。

PEST分析:

■P(政治)

  • 行政のデジタル化加速

■E(経済)

  • 進出国のGDP成長率の低下
  • 新型コロナウイルスの影響による新興国コンタクトセンターの稼働減
  • 世界的なDX化の加速
  • ホスト国のコアインフラの整備

■S(社会)

  • ニューノーマルによるライフスタイルの変化
  • 顧客の購買行動の変化、複雑化
  • ソーシャルメディアやEコマースの成長
  • CtoCマーケットの拡大(Zendeskの顧客事業への影響)
  • 5Gの身体への影響についての懸念及び抗議活動の活発化
  • 個人情報保護についての意識の高まり

■T(テクノロジー)

  • AI技術の進化ー主要事業のカスタマーサービスソフトウェアの革新、顧客体験向上に寄与
  • 機械翻訳の精度の飛躍的向上によるサービスの品質向上
  • 技術革新によるコスト増の影響
  • テクノロジー分野におけるバリューチェーン構造への影響
  • 5Gー顧客体験の向上、速度の向上

カスタマーサービス領域を主軸とするZendeskは、企業規模の差や世界各国のビジネス慣習にあまり影響されない事業形態です。そのため、2社よりも2020年の景気失速の影響は小さく、むしろこの機にDX化の加速や先端AI技術への投資によって、業界での基盤をさらに強めていく可能性があります。

PEST分析のやり方

Step1:目的の定義

PEST分析は、市場をとりまくマクロ環境の分析フレームワークですが、最終的には戦略を策定するために活用します。最初にPEST分析の目的を明確にすることで、正しい情報を集められます。以下の点を明確にしましょう。

  • 中長期的戦略か? 短期的戦略か?
  • 総合的な分析か、新しい市場発見のためか、内在する脅威の把握か?

Step2:情報を集める

P・E・S・Tの各要素にあてはまる情報を集め分類します。公的機関、研究機関のデータや情報に加え、大手メディアが報道するリアルタイムな情報から直近のニュースも組み入れます。

大きな変化があるときは「この変化は自分の業界にどう影響しそうか?」「新しいビジネスチャンスになるのではないか?」「自社に危険ではないか?」という視点でとらえます。

推奨サイト:

Step3:5ForcesとSWOT分析を行う

PESTで洗い出された情報を機会(プラスの影響)と脅威(マイナスの影響)に振り分けます。一つのトピックスが自社にとって大きな機会にも脅威にもなり得るため、それぞれを記載し分類します。

つづいてミクロ環境分析である5Forces分析SWOT分析を行い、具体的に自社の強みを機会にどう活かしていくか、直近もしくは中長期の脅威にどう対応していくかを決めていきます。当初に立てた目標に沿って優先順位も決めていきます。

Step4:戦略シナリオを構築する

目的に沿って戦略シナリオを構築します。戦略のシミュレーションは複数用意します。フレームワークを活用した戦略構築はあくまで、現在起点の予測にもとづいたものなので、大きな環境変化があれば再度分析する必要がありますが、二重三重のストーリーをシミュレーションしておくことで、戦略変更をスピーディに行えるメリットがあります。

まとめ:

企業が時流にのって成長するか、市場が縮小するなか必死で努力しても業績が頭打ちになるかは、結果だけを見れば大きな差があります。

しかし、従業員の努力の量がそう大きく違うわけではありません。時代の潮流を見極めてタイミングよく市場に参入する、あるいは撤退する。この決断ができたかどうかが成否をわけるといっても過言ではないでしょう。

PEST分析を活用して業界をとりまくマクロ環境を分析し、未来を予測したうえで、自社が大きく成長できそうな市場を見つけていきましょう。

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