IT企業のみならず、最近では自動車メーカーや飲食店などでも導入が進むサブスクリプションモデル。名前をよく聞きようになったものの、その内容をはっきりと理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。
この記事では、サブスクリプションモデルの基礎から具体例、さらにはビジネスモデルがもたらす変化について触れていきます。
サブスクリプションモデルは、商品やサービスの利用期間に応じて毎月もしくは毎年といった単位で利用料を支払ってもらう形式のビジネスを指します。一度売って終わりではなく、長期間、商品やサービスを利用してもらうことで利用料を継続的に積み上げていくことが可能です。
有名なサービスとしては、Netflixやhuluなどの定額制動画配信サービスなどが挙げられるでしょう。以下、買い切りモデルとサブスクリプションモデルの違いを整理してみました。
比較項目 | 買い切りモデル | サブスクリプションモデル |
支払い | 一括 | 月額、年額 |
顧客 | 新規開拓を重視 | ニーズ対応で関係構築を重視 |
企業収入 | バラつきあり | 安定的 |
利用データ取得 | 売上ベースで把握する | 利用状況などを細かく見られる |
もともとIT業界では、ソフトウェアをパッケージとして提供してきましたが、現在は初期費用を抑えるかたちで、月額もしくは年額単位で利用料を支払うサブスクリプションモデルのサービスも増えてきました。
さらに最近では、IT業界に限らず飲食店やアパレルなどでもサブスクリプションモデルを導入するケースが増えています。
1つにはユーザーの消費行動の変化が挙げられるでしょう。「所有から利用へ」という言葉は、今や当たり前に聞くようになりました。とくに若い世代を中心にものを所有することへの関心が薄れている現状が、サブスクリプションモデルの増加を後押ししているといえるでしょう。
デジタルネイティブといわれる若い世代は、物心ついた頃からパソコンやスマホが身近にあり、ネットやSNSを当たり前のように使いこなしています。無料で楽しめるゲームやアプリ、コミュニケーションツールなどが増えたために、モノを購入することで欲を満たす必要はなくなりました。
お金を使わない消費スタイルがサブスクリプションモデルの普及を加速させたといえるでしょう。またこうした所有ではなく利用する消費スタイルが増えていけば、企業としてもモノを売って利益を出すことが難しくなり、必然的に利用が前提となるサブスクリプションモデルを導入せざるをえません。
さらに従来の売り切りのビジネスは、消費者の需要や景気後退などの外部環境に左右される側面もあります。その点、サブスクリプションは解約されなければ継続的に利益が積み上がる仕組み。業績の安定を求める企業側のメリットもあり、サブスクリプションサービスが増加したと考えられます。
前述したように、サブスクリプションモデルを採用する企業はNetflixやHuluなどの動画配信サービス以外にも多数存在します。今回は、BtoC向けとBtoB向けのそれぞれで、代表的なサービスの一部を紹介していきます。
(参照元:Oisix(オイシックス))
eコマースサイトを運営するOisixでは、毎週17品ほどの食材を自宅に配送するサブスクリプションサービスを展開。本格的な料理を調理できる食材セットから成る「Kit Oisix」やOisixが取り扱う3000点から旬の野菜や食材をセレクトする「おいしいものセレクトコース」をはじめとした、主に3種類の定額コースを用意しています。
(参照元:KINTO(キントー))
トヨタ自動車が始めたサブスクリプション「KINTO」は、自動車所有にかかる費用や税金、メンテナンスや修理代も含めて、毎月定額で自動車がレンタルできるサービスです。月額料金は車種によって異なりますが、車1台が月額およそ3万円から10万円ほどで利用できます。
(参照元:OYO LIFE(オヨライフ))
インド発のホテルベンチャーOYOとヤフー株式会社の合弁事業として始まった賃貸のサブスクリプションサービスOYO LIFE(2020年7月現在はヤフーと合併解消)。物件探しから契約、また家賃の支払いなどがスマホ1つで完結するサービスです。
従来の賃貸契約のように敷金・礼金を含む、初期費用がかからない点が最大のポイント。月額料金は物件によって変動しますが、毎月の家賃に光熱費や、家具・家電のレンタル費などが毎月一定額で利用可能です。
(参照元:Adobe Creative Cloud(アドビクリエイティブクラウド))
IllustratorやPhotoshopなど、クリエイター向けサービスを展開しているアドビはもともと売り切りでサービスを展開していましたが、サブスクリプションの導入へとビジネスモデルを転換。
その結果、2016年度に58億5400万ドルだった売上は、2017年度には73億150万ドル、そして2018年度には90億3000万ドルへと、好調な業績を維持しています。
(参照元:Microsoft Office 365)
WordやExcelなど、今やビジネスシーンで欠かせないツールを提供するマイクロソフトは、アドビと同様にもともと売り切り型のモデルを採用していました。しかし高額な料金やアップデートの遅さなどの課題から、サブスクリプションサービスを導入。月額1,000円〜2,000円程度でOfficeソフトを利用できるようになりました。
(参照元:freee(フリー))
2019年12月に上場を果たした国内フィンテックベンチャーの代表的な存在「freee」が提供するクラウド会計ソフトも、BtoB向けのサブスクリプションサービスです。個人事業主をはじめ多くの中小企業に支持され、16万社以上の有料ユーザーを獲得。クラウド型会計ソフトとしては、国内シェアナンバーワンを誇ります。
では、サブスクリプションモデルのメリットやデメリットは何か。顧客と企業、それぞれのケースで見ていきましょう。
顧客側のサブスクリプションのメリットとしては、
などが挙げられるでしょう。
基本的に初期費用を抑えられるため、利用するハードルは下がります。いろいろなサービスを試しやすくなるともいえるでしょう。いらなくなったら解約できる手軽さもメリットかもしれません。
一方でデメリットとしては、
などが挙げられます。
サブスクリプションのサービスは毎月一定額がカード払いなどで引き落とされるため、解約しない限りは、利用の有無に限らず料金が発生。また、継続的に料金がかかるため、長期間利用する場合は購入するよりもコストが高くなってしまう可能性があります。
対して企業側のサブスクリプションのメリットは
などが挙げられます。
解約されない限り、継続的に売上が積み上がるモデルのため、企業にとっては安定した業績が期待できます。また利用者のデータを収集しながら、その結果をサービスに反映して、都度改善していくことも可能です。
一方でデメリットは
などが挙げられます。
売り切りの場合は、購入してもらった時点で多額の売上を確保できるかもしれませんが、サブスクリプションの場合は初期費用を抑える分、売上を拡大させるのに時間がかかります。また、継続的に利用してもらうためにも、購入後も顧客の満足度を下げない施策を定期的に実施していく必要があるでしょう。
X as a Serviceの略で「XaaS(ザース)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これはあらゆるソフトウェアをインターネットを介して提供するクラウド型サービスの総称で、さらに「SaaS(サス)」や「IaaS(アイアース)」「PaaS(パース)」「MaaS(マース)」などに分かれます。
主にBtoB企業がサブスクリプションモデルを導入するときに、使用される言葉といえるでしょう。それぞれがどのようなサービスを指すのかわかるように、以降で具体例を紹介していきたいと思います。
「SaaS」は「Software as a Service」の略。これまでパッケージで提供されていたソフトウェア製品をクラウドで提供する形態を指します。つまりクラウド化されることで、インターネットにつながる環境さえあれば、いつどこからでも利用できるサービスの提供が可能です。
freeeのように、業務で利用されるような類のSaaSはBtoB SaaSと分類され、売り切りで提供されていた会計ソフトをクラウド型サービスで提供する形態などは、まさにSaaSといえます。どのパソコンやスマホからもサービスにアクセスできるため、インストール型のソフトのように特定のパソコンでしか利用できないといった物理的な制限もありません。
そのほか身近に使用する機会が多いものでいうと、「Gmail」や「Dropbox」なども該当します。
(参照元:Gmail)
(参照元:Dropbox)
Gmailはアカウントさえ持っていれば、メールソフトをインストールすることなくどのデバイスでも閲覧可能。Dropboxもクラウド上に保存されているデータにどのデバイスからでもアクセス・ダウンロードができます。
IaaSは「Infrastructure as a Service」の略です。各種システムの稼動に必要な仮想サーバをはじめとしたITインフラを、インターネット上で提供する形態を指します。
例えば、Amazonが提供している「AWS(Amazon Web Service)」はIaaSの1つ。サーバーやストレージ、データベースやセキュリティシステムなどのクラウドサービスを利用できるのが特徴です。
(参照元:AWS(Amazon Web Service))
またGoogleが運用しているIaaSとして「GCP(Google Cloud Platform)」もあります。GmailやYouTubeなど、Googleの主要サービスで用いているインフラをそのまま利用可能な点がポイントです。
(参照元:GCP(Google Cloud Platform))
そのほか国内だと「さくらクラウド」などもあります。もともとサーバーのレンタルサービス「さくらインターネット」から派生したサービスで、国内産のため日本語のサポートが充実しています。
(参照元:さくらクラウド)
PaaSは「Platform as a Service」の略です。PaaSを一言で表現するなら、アプリケーションを実行するためのプラットフォーム。つまりインターネット上でアプリケーションを公開するためのプラットフォーム構築にかかる作業を、代行してくれるサービスといえるでしょう。
代表的なサービスとしては「Google App Engine」や「Microsoft Azure」「Heroku」などがあります。
(参照元:Google App Engine)
(参照元:Microsoft Azure)
(参照元:Heroku)
例えばGoogle App Engineであれば、「PHP」「Python」「Java」といったプログラミング言語で開発したサービスを、Googleのインフラで実行し、保管することが可能です。
MaaSは「Mobility as a Service」の略で、移動のサービス化を意味します。MaaSの定義としては、スマホアプリを使って経路の検索から最適な移動手段の予約、さらに決済までを完結できるシステムを指すことが一般的です。
現在、自宅から目的地までの経路や利用すべき交通手段などを検索することは可能です。しかし、実際の移動は、タクシーや電車、カーシェアなどの移動手段を自分で手配する必要があるでしょう。
このように検索のみならず、移動手段の予約や決済までを1つのアプリで完結できるサービスを「MaaS」といいます。ちなみにMaaSは、あらゆる交通手段が対象。例えば現在首都圏を中心に普及が進むタクシー配車アプリなども「MaaS」の要素を持ちます。
まだまだサービスの普及例は少ないといえますが、代表的なものだと北欧フィンランドのスタートアップ企業が手掛ける「Whim(ウィム)」が有名です。
(参照元:Whim(ウィム))
Whimには、該当地域の公共交通機関をはじめ、タクシーやカーシェアリング、サイクルシェアといった複数の移動手段が一元登録されています。アプリで目的地を設定すると、最適な移動手段や経路を提案してくれるとともに、各交通手段の予約なども可能です。
なお料金体系は、月額無料の「Whim To Go」、月額数千円の「Whim urban」、月額数万円の「Whim Unlimited」の3つから成り、Whim Unlimitedの場合は基本的にほぼすべての移動手段が無料で利用できるといいます。
そのほか、国内ではまだ実験段階ですが、トヨタ自動車と西日本鉄道が2018年11月から福岡県福岡市で実証を行っている「my route(マイルート)」や、高速バス大手として知られるWILLERが提供する「WILLERS」などが具体例として挙げられるでしょう。
(参照元:my route(マイルート))
(参照元:WILLERS)
最後にサブスクリプションモデルが普及したことによる、世の中の変化について改めてまとめてみました。
少し古いデータとなりますが、内閣府が行った世論調査(2014年)によると今後の生活において「物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」と答えた人の割合は63.1%。
対して「まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい」と答えた人は31.0%であり、物質的な豊さから離れて、体験の豊かさを求める動きは今後も加速していくでしょう。
とくに現在はテクノロジーの進展により、モノがデジタル化されたことで、モノではなくサービスを買う機会が増えてきました。例えば、CDやDVD、また雑誌なども、現在はスマホで視聴・閲覧できるサブスクのサービスを利用する機会が多いのではないでしょうか。
サブスクリプションモデルの普及によって、モノ消費ではなくコト消費(サービスや体験)は、今後もさらに進むと考えられます。
これまでの売り切り型のビジネスモデルの場合、いかに新規で購入する顧客を増やすかが大切でした。そのため企業は広告やマーケティングなどを通じて、潜在顧客に認知してもらい、新規顧客の獲得に注力していたことでしょう。
しかし、現在は所有ではなく利用が前提となり、サブスクリプションモデルが急速に普及したことで、新規顧客の獲得ではなく既存顧客にいかに利用し続けてもらうかに注力する必要も出てきました。
そのため従来はマーケティングや営業が主力で、カスタマーサポートは補佐的な役割が大きかったかと思います。しかしこれからは「カスタマーサクセス」という言葉を聞くようになった通り、商品やサービス導入後もいかに顧客に向けて能動的なサポートを行っていくかも大切な視点となるでしょう。
また顧客維持に注力する点で言うと、(マーケティング)ファネルに代わり顧客支援の新しいモデルとして登場した「フライホイール」の考え方も役立ちます。
フライホイールでは新規顧客の獲得ではなく、既存顧客がいかに売上を上げてくれる循環を作り出せるかが鍵を握ります。そのため既存顧客にリピートし続けてもらったり、口コミによって新たな顧客を獲得してもらったりするためにも、カスタマーサポートに注力。
サービスの継続を決定するタイミングとなる例えば導入後6ヵ月目や、更新のタイミングなど、前述したように能動的なサポートを行う姿勢が大切といえます。
ここまで紹介したように、長期間サービスを利用してもらうためにも、顧客との継続的な関係構築がますます重要な時代になったといえるでしょう。
「所有から利用へ」といったユーザーの消費行動の変化などを背景に、普及しているサブスクリプションモデル。ただサブスクリプション自体は、1つのビジネスモデルに過ぎず、企業においてはあくまでも顧客にどういった体験価値を提供するかが重要となります。
そのため、これまで売り切りで提供していたモノを、そのまま定額での利用に移行するのではなく、そのモノの提供によってどのような体験を提供するかまでセットで考えることが大切だといえるでしょう。