アンゾフマトリクスとは?市場と製品から考える成長戦略図

2022/01/14
マーケティング分析 アンゾフマトリクス マーケティング戦略 アンゾフマトリクスとは?市場と製品から考える成長戦略図

Alfred Chandler(以下チャンドラー)氏の「組織は戦略に従う」という言葉をご存知の方は多いと思います。

ちなみに「戦略は組織に従う」という言葉はご存じでしょうか? こちらは米国の経営学者であり「戦略的経営の父」と呼ばれるH. Igor Ansoff(以下アンゾフ)氏の有名な言葉です。

両氏は対立していたわけではありません。アンゾフ氏はチャンドラー氏に敬意を示しつつも自らの米軍、ロッキード社などの実務経験から、組織学習と組織能力の向上があって最適な経営戦略が実現できると提唱しました。

米軍、ロッキード社での経営幹部経験、フィリップス、GE、ガルフ、IBMなどのグローバル企業のコンサルティングを実施してきたアンゾフ氏の考え方は非常にプラクティカルです。

今回は、アンゾフ氏が提唱した有名な戦略フレームワーク「アンゾフマトリクス」を紹介します。

アンゾフマトリクスとは?市場と製品から考える成長戦略図

アンゾフマトリクスとは、イゴール・アンゾフ氏が事業多角化の4つの戦略を示したマトリクスです。アンゾフマトリクスの図

(画像引用:https://slidehunter.com/powerpoint-templates

発展の背景と利用の用途

アンゾフマトリクスは1957年にアンゾフ氏が、1957年にハーバード・ビジネス・レビュー誌に寄港した論文『"Strategies for Diversification 』で紹介した「事業多角化戦略の定義」が発展してできたフレームワークです。

その後、1965年に発刊された『Corporate Strategy(邦訳:企業戦略論)』において提唱されます。その後も『Strategic Management(邦訳:戦略経営論)』など氏の著書において、広くビジネス社会に普及していきます。

アンゾフ氏は、米国空軍やロッキード社での実務で、事業の多角化戦略に対する経営者の理解力のなさも指摘しているので、何十年か前の米国もそのような企業がほとんどだったのでしょう。アンゾフ氏こそが、現代の戦略経営や企業戦略の大枠を作ったと言われています。

現代でも、アンゾフマトリクスは別名「成長マトリクス」「事業拡大マトリクス」とも呼ばれながら、事業収益拡大を目指す多くの経営者、マーケティング担当者に有効活用されています。

SaaS企業もPMFが実現され、本格的にプロダクト戦略を練り上げる際に、どの市場を狙いにいくのか、どの製品でいくのか、などを考える必要が出てくるため、方向性を体系的かつ、自社組織に明示する際に大変役立ちます。

アンゾフの『戦略経営論』

(出典:Amazon

アンゾフマトリクスを構成する4つの象限

アンゾフマトリクスは事業の成長戦略を、以下のように市場(既存市場と新規事業)と製品(新規製品と既存製品)の掛け合わせてで4種類に分類します。

  • 新規市場×新規製品=多角化戦略
  • 既存市場×新規製品=新規市開拓戦略
  • 既存製品×既存市場=市場浸透化戦略
  • 新規製品×既存市場=新製品開発戦略

アンゾフマトリクスの具体例

(出典:経済産業省

市場の切り口

市場の切り口(マーケットインの思考)で捉えると、4戦略は以下のように捉えられます。(マーケットインとは、まず市場のニーズを軸に製品・サービスを開発する姿勢を指します。)

新規市場を軸に考える

新規市場×新規製品投入

多角化戦略と呼ばれます。新しい市場をセグメントし、さらにその市場に合わせた最適な製品・サービスを開発する必要があるため、もっともリスクの高い戦略です。以下の4種類の戦略があります。

  • 水平型多角化:既存市場と似た市場(隣接)に、既存技術を活かした新製品を投入
  • 垂直型多角化:既存市場と似た市場(川上・川下)に、既存技術を活かした新製品投入
  • 集中型多角化:既存技術を活かした新製品を、これまでとまったく違う新規市場に投入
  • 集成型多角化:既存技術と関連のない新製品を、これまでとまったく違う新規市場に投入

(参照:経済産業省野村総合研究所

新規市場×既存製品投入

既存製品・サービスを開発する必要はなく、既存の製品のニーズがありそうな新しい市場を探すセグメンテーションが鍵です。

SaaS業界であれば、隣接している業界のSaaS製品を投入します。例えば、Zendeskがヘルプデスク対象のサービスから営業領域に進出しプラットフォーム化したように、単領域から複数領域、プラットフォームになるなどの例があてはまります。手堅い戦略です。

既存市場を軸に考える

既存市場×新規製品
すでに軸足を置いている既存市場であれば、顧客ニーズも把握しやすいため、既存市場に新しいを投入する「新規製品開発戦略」は、比較的リスクが小さい戦略だと言われています。

SaaS業界でいえばコンサルティングサービスを製品化、HubSpotがCMS業界で圧倒的シェアを持っているWordPressに対して、HubSpot CMSを投入したような事例がここに該当します。

既存市場×既存製品
既存市場に既存の製品を浸透させていく「市場浸透戦略」は、多くの企業が日常的に行っている業務です。製品ライフサイクルの成長期には極めて有効で、もっともリスクの低い戦略です。

製品のアップデート、既存の市場内での新規開拓への注力、他社より効果的なプロモーション、最適な価格の提供によりシェアを拡大できます。しかし市場が成熟して飽和状態になると、いかに営業・マーケティングに力を入れても成長が鈍化しします。

製品の切り口

同じ4象限でも製品を切り口に考えると、プロダクトアウト型の思考で考えることもできます。

※プロダクトアウトとは、マーケットのニーズをもとに製品開発するマーケットインとは異なり、すでに自社にあるリソース(技術、サプライチェーン)を軸に製品・サービスを作ることです。

例えば開発部門が高精度のセンサー機能を開発した⇒これを生かしてどこかの市場で売れないか? という発想で、比較的大手企業がとる戦略です。

既存製品を軸に考える

既存製品×新規市場

既存製品を違うマーケットに売っていく戦略です。大企業だけではなく中小企業も対象にする、国内向け製品を海外に拡販する、あるいは男性向け製品・サービスを女性向けに販売するなど、目の前の製品を軸に売れそうなマーケットを選択し、拡張する戦略が相当します。

新製品・サービス開発に要する期間もコストもかからず、比較的リスクが低い戦略であり、SaaSでは異なる企業セグメントに対して既存製品を投入するなどがここに該当すると考えることができます。

既存製品×既存市場

(市場の切り口と同じく)製品の改良、サービスの向上を軸に、既存市場で浸透する戦略を進めます。

新規製品を軸に考える

新規製品×既存市場

これまでの技術を活かしたり既存製品に関連する新製品サービスは、すでに構築した顧客網に受け入れられやすいメリットがあります。例えば、展示会運営事業者がオンライン展示会運営を企画するなどです。まったく新しい切り口の製品・サービスによって需要を創造していける可能性もあります。

既存製品が製品ライフサイクルの衰退期、市場が急激に縮小するケースでは、この戦略は顧客とのつながりを維持するために必要です。

例えば、コロナ禍になり海外英語留学事業は相当の打撃を受けましたが、何割かの事業者はオンライン留学事業、英語コーチング事業にシフトし、価格帯をあまり下げずにビジネスを展開しています。

新規製品×新規市場
多くのSaaSスタートアップをはじめとしたベンチャー企業があてはまるでしょう。新しいテクノロジーで開発できた新製品を、これまた新しい市場に投入するもっともハイリスクハイリターンの戦略です。ただ、マクロ環境の変化で新市場が生まれるときには大きなチャンスがあります。

アンゾフマトリクスの事例

既存商品×既存市場での戦略は、日々みなさまが進めている戦略なので割愛させてください。ここでは、3種類のアンゾフマトリクス上の多角化戦略を紹介します。

新規市場×新規製品の成功例:キャディ株式会社

キャディ株式会社HP

  • 新規製品:製造業における日本初の受発注プラットフォーム
  • 新規市場:日本の中小製造業界
  • 経緯:マッキンゼー出身の創業者が、巨大ながら手つかずの製造業の調達領域市場に、日本ではまだ存在しなかった受発注プラットフォームを投入。市場、投資先から絶大な支持を得てシェアNo.1を確立し成長中です。

日本の各業界に存在する多重下請け構造という解決しづらい領域を、最新テクノロジーを活用してソリューションした成功した事例でもあります。

新規製品×既存市場の事例:グローリー株式会社

グローリー株式会社HP

  • 新製品:顔認証システムのよる入管管理システム、セキュリティサービス
  • 既存市場:長年にわたり紙幣・硬貨の自動入出金機などを流通業、銀行など金銭をカウントする多くの業界に提供。近年は通貨の識別サービスから誕生した「顔認証システム」による入管管理システムなどの関連サービスを展開し成功しています。

既存製品×新規市場の事例:Terra Motors株式会社

Terra Motors株式会社HP

  • 新製品:電動(EV)で走るモーターバイク(東南アジア向けにカスタマイズ)
  • 新規市場:東南アジア、新興国
  • 戦略:2010年渋谷で創業:EVモーターバイクを製造し、設立2年目で国内No1のシェアとなり、ベトナム、インド、台湾など2輪の需要が大きいアジア新興国を中心にグローバル展開し成功ました。創業者は、当初からグローバル志向の持ち主です。
    アンゾフマトリクスでは、新規製品を新規市場に投入するのはもっとも難易度の高い戦略と言われます。しかし日本の規制の厳しさ、人口減少、保守的な国民性などを考慮すれば革新的な製品・サービスを、将来有望な新規市場を投入したことは飛躍のきっかけになったことがうかがえます。

まとめ

企業にとって、事業の多角化、新製品・サービスの開発、新規市場の創出は大きく成長していくために必ず必要なことですが、いずれも難易度の高いミッションです。

しかし言葉のイメージは華やかで、誰もが重要だと思うミッションでありながら、具体的にどのように優先順位をつけて取り組むべきか漠然としている領域でもあります。

アンゾフマトリクスは一見シンプルですが、多角化の要諦がわかりやすく活用しやすいフレームワークです。中長期的な経営戦略を立てるとき、新たな収益源を確保するために事業戦略を構築する際にぜひ活用してみましょう。

戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

サービスを詳しく知りたい方はこちら

資料請求