カニバリゼーションとは?カニバっているの使い方やその意味をマーケティング視点で解説

2022/08/03
マーケティング カニバリゼーション カニバリゼーションとは?カニバっているの使い方やその意味をマーケティング視点で解説

マーケティング活動をしていて、「カニバっている」という言葉を聞いたことはありませんか?

「聞いたことはあるけど、なんとなく知ったふりをして本当はよく分かっていなかった……。」という方も多いのではないでしょうか? 筆者の私もカニ(蟹)のことだとしばらく本当に思っていました。

「カニバっている」とは「カニバリゼーション(共食い)」という言葉を、マーケティング用語として利用し、さらにそれを省略したものです。

マーケティングにおけるプロモーション活動は広範囲におよびます。組織的なマーケティング活動がまだ根付いていない日本では、その広範囲な活動範囲が明確に定義されていないことが多く、マーケティング担当者同士で行っている活動が「共食い」を起こすことがあります。

そんな分かりづらい「カニバリゼーション」について、本記事では言葉の意味や語源、その種類とメリットデメリットを、実際にカニバリゼーションを活用した企業の成功事例を踏まえ、マーケティングの観点から分かりやすく解説します。

カニバリゼーションとは

カニバリゼーション(Cannibalization)とは、自社の新しい製品やサービスが、自社の既存製品やサービスの需要、シェアを侵食してしまう現象のことを指すマーケティング用語です。

英語圏では後述する「カニバリゼーション」という言葉がもつもとの意味と区別するため、「マーケットカニバリゼーション(Market cannibalization)」や「コーポレートカニバリズム(Corporate cannibalism)」と呼ばるのが一般的です。日本語ではカニバリゼーションが発生していることを通称として「カニバっている」と称すことがあります。

カニバリゼーションが発生すると、自社製品・サービスの売上げや利益が減少してしまうだけでなく、マーケットシェアを失ってしまう危険性もあります。企業としては売上げやシェアを伸ばしたいと思いこそすれ、自社製品どうしでそれらを「喰い合わせる」事態は避けたいと思うのが一般的です。そのため、カニバリゼーションは基本的には避けるべき事態と認識されています。

しかし、中にはあえて自発的にカニバリゼーションを発生させることで、自社の売上げやシェアを伸ばすことに成功している企業もあります。本記事の後半で詳細を紹介しますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

英語の語源と日本語での言い換え

英語の「Cannibalism」は、もともと「食人」つまり呪術的信仰や宗教儀礼などから、人間が人間の肉を食べる行為や習慣を指す、文化人類学上の言葉です。

また「食人」の「同種・同族を食べる」という意味が派生して、生物学上では「種内捕食」つまり「共食い」全般を指す言葉として使われます。

他には、航空機や自動車などの補修をする際、他の同型機から部品を使い回して修理することを「Cannibalize(動詞)」と言い、これは日本語では「共食い整備」と言います。

これらの意味が転じて、マーケティングの世界でも自社の製品やブランドどうしがお互いの売上げやシェアを自滅的に「喰い合って」いる状況のことを「カニバリゼーション(Cannibalization)」と呼ぶようになりました。

ちなみに「-ation」には「〜すること・〜している状態」などといった意味がありますので、「カニバリゼーションしている」では意味が重複してしまいます。「カニバってるって何の略? 」と聞かれたら、「カニバリゼーションが起きてる」もしくは「カニバライズしてるってことですよ」と答えると、より自然に伝わるでしょう。

マーケットカニバリゼーションの仕組み

マーケットカニバリゼーションは、基本的に企業が新しい製品やサービスをリリースした時などに発生します。

たとえば、ある企業が自社の売上げやシェアを伸ばすことを目的として、新しい製品をリリースするとします。これまでの既存製品の流れを無視して、全く別のジャンルの製品をリリースする場合は話が別ですが、既存製品から派生した新製品をリリースするのであれば、理想的なのは少量の既存顧客と大量の新規顧客を取り込むことでしょう。

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(出典:Emerald Insight)

この時、既存製品と新製品でターゲットとする顧客が重なっている領域では、既存製品がもともと持っていたシェアを新製品が侵食する形となり、カニバリゼーションが発生します。

カニバリゼーションの規模が予想通りであれば問題はありません。しかし、既存製品と新製品で当初意図していたよりも大きく需要が重なってしまったり、あるいは新製品の需要が完全に既存製品の需要と重なったりしてしまう場合には、もともと既存製品が持っていたシェアを新製品が置き換えるだけという形となり、結果的に期待していただけの売上げやシェアの拡大が得られなくなってしまいます。

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(出典:Emerald Insight)

新製品で大きくコスト削減ができているなら話は別です。しかし、新しい機能や革新的なイノベーションの追加などで既存製品よりもコストがかかってしまっている場合、このようなカニバリゼーションは企業にとって売上げやシェア拡大ができないだけでなく、利益も大きく損失してしまう危険性を孕むため注意が必要です。

カニバリゼーションの種類

ここまで紹介した内容を振り返ると、カニバリゼーションがもつリスクの面が目立ってしまい、「カニバリゼーション=悪いもの・避けるべきもの」という印象が強いかもしれません。

しかし、カニバリゼーションには時と場合によってさまざまな種類があり、企業によっては意図的にカニバリゼーションを発生させるマーケティング戦略を用い、逆に自社の売上げや利益またはシェアの拡大に成功しているケースもあります。

この項では、ビジネスシーンで考えられるカニバリゼーションの種類について、良いもの・悪いものをひっくるめていくつか例を紹介します。

定期的カニバリゼーション

実は意図的かつ定期的にカニバリゼーションを起こしている企業は多く、その中でも日常生活で馴染み深い事例は、Apple社やSamsung社などによるスマートフォン市場でしょう。

iPhoneやGalaxyなどのスマートフォンは毎年もしくは数年単位で新しいモデルが発表されています。しかし、これらニューモデルのターゲットが全くの新規顧客であることは珍しく、ニューモデルの購入者のほとんどは既存モデルの所有者です。一見、ニューモデルと型落ちモデルでは大規模なカニバリゼーションが発生しており、意味がないように思えます。

しかし、携帯電話は定期的に買い換えるユーザーが多いため、定期的に既存のシェアをニューモデルで一新することにより、ユーザーの買い替え時にうまく噛み合うと他社からの乗り換えが期待できます。

大量の既存シェアとのカニバリゼーションと引き換えに少量の新規シェア拡大を狙うといった、市場が飽和しているスマートフォン市場ならではのマーケティング戦略です。

ディスカウントによるカニバリゼーション

卸業者などの中間流通業では、しばしば商品の値引きセールなどのキャンペーンが行われます。これら値引きの多くは、さらに大きな利益を見込める新商品の販売スペースを確保するために、既存商品に対して行われているケースがほとんどです。しかし、注意しないと危険なカニバリゼーションを引き起こしかねません。

たしかに、既存商品を値引きにより早く売り切り、シェアは重なっているが大きな利益が見込める新商品の販売にスムーズに移行することができれば、新旧商品のカニバリゼーションによりシェアは拡大せずとも、売上げや利益の増加に繋がるでしょう。

しかし、たとえ当初の新製品の見込み利益が既存商品を上回るものだったとしても、顧客が商品の値引きに慣れ「あたりまえのこと」と捉えてしまうと、そもそも新製品を企業が希望する価格で購入してくれない可能性が高まります。

値引き商法はやりすぎると、顧客からの執拗な値引き交渉を受けざるを得なくなる可能性があります。その結果、シェアは既存顧客とカニバってしまい、かつ利益も当初の期待ほど得られない、という事態を招きかねないので注意が必要です。

eコマース移行におけるカニバリゼーション

今や従来の販売方法に加え、オンラインで自社製品の販売を行う企業も増えていることでしょう。

オンラインで気軽に購入できるメリットが受け入れられ、それまで対面で行なっていたのとは別に新規の顧客を獲得できれば良いですが、対面で製品やサービスを販売していた顧客がオンラインに移行しただけでは、オンライン販売が対面販売のシェアを喰っただけ……となってしまいます。

とはいえ、オンライン販売に移行することで営業コストなどの低減ができるかもしれません。その場合はカニバリゼーションが発生しても、企業が結果的に得る利益は増加するでしょう。

意外とメリットもあるカニバリゼーション

新しい製品やサービスのリリースによるカニバリゼーションは、時に企業に大きな損失を与えうる危険なものになり得ます。

しかし逆に、最終的な企業の売上げ・利益・シェアの確保もしくは拡大が見込めているのであれば、カニバリゼーションは必ずしも「悪いもの・避けるべきもの」ではありません。

この項では企業が積極的にカニバリゼーションを発生させることのメリットに絞って紹介します。

新しいデマンドを世に出せる

企業がカニバリゼーションを積極的に行うことは、同じ池の鯉に餌を与え続ける行為にも思え、ある意味需要(デマンド)を新しく創出する「デマンドジェネレーション」の真逆を行っているかのようにも思えます。

しかし実際には、カニバリゼーションをうまく活用することは新しいデマンドを創出することにおいても非常に役に立ちます。

たとえばPC業界の最大手であるIBMは1963年、自社製品の既存ユーザーが多くの時間を費やしてしまっているある機能に目をつけ、その機能を素早く簡単に使用できるようにした新製品をリリースしました。

この新製品のリリース時にIBMがターゲットとしたのは、実際に既存製品を使用していた既存ユーザーです。しかし、今まで多くのユーザーにとって時間がかかっていた作業を早く済むようにしたことで、それまで手がつけられなかった作業に取り掛かれるという、新しいデマンドを創出したのです。

これによりIBMは、既存製品が持っていたシェアはもちろん、新規のシェアも多く取り込むことに成功しています。

デマンドジェネレーションについては、当サイトのこちらの記事でも紹介していますので、あわせてご一読ください。

マーケットシェアの防衛に役立つ

カニバリゼーションを積極的に発生させることは、競合他社から自社のマーケットシェアを防衛する「守りの施策」としても有効です。

Airbnb社がオンラインでの民泊事業を開始しホテル業界へ参入してきたとき、すでにホテル業界で大きなシェアを占めていたマリオット・インターナショナル社は、Airbnb社に対抗し自社でも民泊事業の開始に踏み切りました。

この新しい民泊事業はマリオット社自身の従来のホテル事業のシェアを「喰って」しまうものでしたが、この犠牲により同時にAirbnb社に自社のシェアを奪われることをある程度防ぐこととなりました。

このように新たな脅威となり得る新興企業がマーケットに参入してくる前に、あらかじめシェア(自社がすでに保有している分を含む)を喰い潰してしまう、というのもシェア防衛のための有効なマーケティング施策となり得ます。

自社内やディーラー間での競争を促進できる

先の防衛的な活用にもつながりますが、意図的にカニバリゼーションを発生させることは、自社内やディーラー間での競争を促進し、自社が保有するマーケットシェアを盤石なものにするのにも効果的です。

たとえばApple社のiPhoneは、日本ではNTTドコモ、au、ソフトバンクの3大キャリアで販売されています。これは一見すると、iPhoneのシェアを日本という限られた「池」の中で3大キャリアどうしが喰い合うという構造となっており、壮絶なカニバリゼーションが繰り広げられていることは明らかです。

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(出典:Statista)

では、共食いが激しい日本のiPhoneシェアはボロボロなのか……? というと全く逆です。世界的統計調査会社であるStatista社による統計によると、日本におけるiPhoneシェア率は60%以上であり、これほどiPhoneのシェア率が高い国は世界でも他に例を見ません。

日本でこれほどiPhoneがシェアを盤石にしているのには他にもさまざまな理由が考えられますが、その大きな要因のひとつに3大キャリアが国内のシェアをめぐって激しくしのぎを削っている構図があるのは間違いないでしょう。

カニバリゼーションのメリットとデメリット比較

メリットについて多く語ってきましたが、カニバリゼーションはやはり危険な面も孕んでいます。

たとえば、高品質を売りにしているメーカーが同じターゲット向けに低価格の新商品をリリースするというのも、ネガティブなカニバリゼーションを生んでしまう危険がある事例のひとつです。

価格に注意を向けすぎるあまり新しいデマンドの創出に失敗し、それまで自社のブランドが築き上げてきた信頼やイメージに傷をつけてしまう可能性があります。

最悪のケースでは新製品が旧製品の市場を食い漁った結果、顧客が離れてしまい、新旧製品ともに市場からフェードアウトしてしまう……なんてこともあるかもしれません。

カニバリゼーションを発生させるうえでのメリットとデメリットについてしっかりと把握しておくことは、上記のようなリスクを避けるうえでも大切となるでしょう。

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(出典:Investpedia)

カニバリゼーションの活用事例

では最後に、カニバリゼーションを上手く活用し、売上げやシェアの拡大に成功している企業の事例を見ていきましょう。

事例1:Apple Inc.

カニバリゼーションを意図的に、かつ意欲的に起こしている企業としてApple社の例は欠かせません。

創設者であるスティーブ・ジョブス(Stive Jobs)氏が遺した名言のひとつに、「If you don’t cannibalize yourself, someone else will.(自分自身を喰い続けなければ、他の誰かに喰われるだけだ)」という言葉がある通り、Apple社は常に自社がもつ既存製品のシェアを新製品で塗り替えてきました。

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(出典:Minimalist Quotes)

この意志は現在のCEOであるティム・クック(Tim Cook)氏にも引き継がれており、クック氏はiPadのリリースにあたり「iPadがMacのシェアを喰うだろうことはわかっているが気にしない。タブレット市場にはそれだけの価値があるし、ついでにWindowsのシェアもつまんでくれたら最高だ」と述べています

事実として、先に紹介したiPhoneにしてもiPadにしても、Apple社は自社のシェアを「共食い」しつつも着々とシェアを伸ばし、常に業界のトップを走り続けています。

事例2:The Procter & Gamble Company

Apple社の事例に続き、アメリカのP&G(The Procter & Gamble Company)社もカニバリゼーションを上手く活用し成功を収めた企業のひとつです。

1837年の設立以来、1世紀にも渡り動物性・植物性オイルを使用した石鹸を製造し、業界でのトップシェアを盤石としていたさなか、P&G社は1930年代に突然、合成洗剤の開発に乗り出します。

創始者であり当時のチェアマンであったウィリアム・プロクター(William Procter)氏は、「合成洗剤の開発によって、石鹸ビジネスは滅亡するだろう。しかし石鹸を滅亡させるのであれば、それはP&Gの手によって成されるべきだ」という名言を遺しています

彼の言葉の通り、のちの1946年に発売された「Tide」はP&G社が保有していた石鹸シェアを瞬く間に喰いつぶすこととなりました。ただ、それにあわせてコルゲート(Colgate)社をはじめとする当時の競合石鹸メーカーたちのシェアをも乗っ取り、以来永きに渡り洗濯用洗剤業界のトップシェアを占有することとなっています。

ちなみにこの戦いに敗れたコルゲート社は以降石鹸の製造をストップしており、現在は歯磨き粉のメーカーとなっています。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

カニバリゼーションは自社の既存シェアを「共食い」するという性質上、活用の仕方を誤ると売上げや利益の拡大を阻害する要因となってしまったり、時には企業に損害をもたらしてしまったりする危険性を孕みます。しかし反面、上手く活用できれば自社にさらなるシェア拡大をもたらす可能性もある、いわば「諸刃の剣」のようなものです。

またカニバリゼーションは同時に、企業が新しい製品やサービスをリリースする際には、ある程度避けては通れないものでもあります。上手く付き合うためには、事前に入念なマーケティングリサーチを行い発生を予想しておくことが大切になるでしょう。

当ブログでは効果的なマーケティングリサーチのやり方についても紹介しておりますので、ぜひあわせて読んでいただき、マーケティングの戦略立てに役立ててください。

戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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