「ビジネスはポジショニングが8~9割」「ポジショニングこそが重要」と言われるほどポジショニングは重要です。特にマーケターの方なら、ポジショニングの重要性は、日常の業務で体感することが多いのではないかと思います。
しかし、どのようにポジションをとるのか? そのオンリーワンのポジションを普通の中小企業の商品がどうやってとるのか? というのが悩ましいところでしょう。
マーケティング施策をたてるときや、新製品を企画するときに必要な手順のひとつに、ポジショニングマップ作成があります。ポジショニングマップを作成する目的は、自社の差別化のポイントを把握するためです。
また、競合他社が良い商品を出してきた際の、業界の構図の把握にも役立ちます。変化の激しいマーケットのなかで、自分たちのプロダクトは今どのポジションにいるかを把握するのはとても重要。ポジショニングマップを、上手に活用できるようになりましょう。
本記事では、差別化を明確にするポジショニングマップとは? 正しい作り方と活用方法をご紹介します。
ポジショニングマップとは
ポジショニングマップとは、その名のとおり、市場での自社やプロダクトのポジション(位置)を表すマップ(地図)です。ポジショニングマップに自社の位置と他社の位置をマッピングすると、自社を相対的に判断できるため、自社の独自性、とるべき戦略が見えやすくなります。
一般には2軸の指標で作成します。以下は、最もよくある「価格」「機能」のポジショニングマップなので、見たことのある方も多いでしょう。
「価格」×「機能」のポジショニングマップ
他にも以下のような指標でポジショニングマップを作成できます(業界によって指標は異なります)。
- 「価格」×「エンタープライズ⇔SMB」
- 「価格」×「顧客満足度の高⇔低」
- 「価格」×「UI、デザイン」
- 「価格」×「操作性」
- 「機能」×サポート体制、他
発展の背景とその考え方
実は、ポジショニングマップはコンセプトストラテジー(製品戦略)のひとつであり、新規事業企画の初期の段階で活用するものです。
日本では、製品やサービスを作った後に取り組む企業が多いのですが、市場に新たなサービスを送り出すときから差別化を意識し、オンリーワンのポジションのプロダクトを作ることができれば、事業の成功率はより高くなるでしょう。
もちろん、オンリーワンの商品を出してもライバル企業が必ず真似してきますし、市場が飽和することもあります。他社がこれまでの常識を覆すような、革新的サービスをリリースしてくるかもしれません。
業界内のポジションは常に変化していくので、常に自社のポジションを把握していることが重要です。状況にあわせてどのような営業・マーケティング戦略をたてるかにも、ポジショニングマップは役立ちます。
変動する市場のポジショニングマップを作成する過程で、新たな市場を発見することもあるでしょう。ライバル企業の次の動きも予測できます。
バリュープロポジションを知ることが重要
ポジショニングマップを作成するには、まず自社のバリュープロポジション(自社だけの独自性、価値)を知ることが大切です。
バリュープロポジションとは、自社が思う自社の強みではなく、顧客ニーズがあり、競合他社ではできない、あるいは非常に弱い、自社だけが提供できる価値と、3つの条件を満たしているものです。
いわば相対的な自社の価値を、まず知る必要があります。バリュープロポジションを明確にすると、製品企画、マーケティング、サービスのクオリティなどで競争上の優位性を確立しやすくなります。
ポジショニングマップの作り方
ここでは、基本的なポジショニングマップの作成ステップを解説します。
ステップ1. 自社の顧客像が重要視するポイントを列挙
まず、自社の顧客像が、商品を購入するにあたって重要視するポイント(KBF:顧客の購買動機)を列挙します。おそらく、ほとんどの業界で「価格」は重要なポイントでしょうが、それ以外もたくさんあるはずです。業界やプロダクトによってさまざまですが、SaaSなら以下のポイントがあげられます。
SaaSの購買動機(KBF)
- 価格(安い⇔高い)
- 機能(シンプル⇔多機能)
- 操作性(簡単⇔難しい)
- エコシステム(拡張性)
- 操作の簡易さ(簡単⇔複雑)
- サポート体制(セルフ⇔充実)
- 顧客層(大企業向け⇔SMB向け)
- セキュリティ
ステップ2. 他社(競合)の製品サービスの重要ポイントを列挙
次に、ライバル企業の製品サービスの重要ポイントを列挙します。自社で買ってもよさそうなお客様が、なぜ他社を選ぶか? 思い込みではなく、競合他社サイト、レビューサイトなどを活用してポイントを探し出しましょう。自社の営業スタッフのヒアリングも重要です。SaaSなら、レビューサイトG2、日本のITReviewなどが参考になります。
競合企業の重要ポイント例
- 高価格である
- 大手企業が望む機能を満たしている
- 大手企業の顧客満足度が非常に高い
- 営業(コンサルタント)が優秀である
- ブランド力がある
- セキュリティが堅牢、他
ステップ3. 指標を決めて比較表作成
顧客の重要視するポイント、競合他社が持つセールスポイント、などを参考にして、市場から見た自社のレベルを把握する指標をいくつかピックアップします。指標はできるだけ数値で測れるものがベストです。
以下のように比較表を作ります。3~5段階評価くらいで数字をつけてもよいですし、図のように◎〇△×をつけて差をつけてもよいでしょう。
ステップ4. ポジショニングマップを作成する
指標を2つピックアップして、比較表のスコアをもとにポジショニングマップを作成します。
例:「価格」×「エンタープライズ⇔SMB」
他にも以下のように何パターンか作成することが大事です。機能や価格では他社と差がなくても顧客満足度、サポート体制などでは差がある可能性があります。
他社の顧客満足度、機能などがわからない場合はレビューサイトを活用しましょう。例えば、以下はレビューサイトG2の「CRM」のグローバルマップです。ジャンル別に検索し「Grid」をクリックすれば表示されます。しかも、最新情報が反映されているので便利です。
■CRMの「市場での存在感」×「顧客満足度」
(出典:G2)
日本の水平型SaaSベンダーでも、もっと小さい市場を対象にしていると思いますが、大枠な市場の構図を理解していると、感覚がつかみやすいかと思います。海外勢が入ってこない国内SaaS領域なら、日本のレビューサイトからスコアを拾ってもよいでしょう。
ポジショニングコンセプトを固める
ポジショニングマップで、おおよその自社の特徴が見えてきたら「ポジショニングコンセプト」をまとめましょう。
例えば、以下の特徴が出たとします。
- 他社より機能が少ない
- 価格が安い
- サポート体制はセルフサービ
- 顧客満足度はSMB領域で意外に高い
このような特徴が出たなら、いわゆる「身の丈SaaS的コンセプト」で中小、フリーランス領域に強いポジショニングかもしれません。「その機能、必要ですか? 」なんてキャッチコピーがあう商品かもしれません。ポジショニングマップを見ながらポジショニングコンセプトをまとめます。
ポジションのコンセプトをテストする
ポジションのコンセプトがおおよそ決まった時点で、顧客に受け入れられるかをシミュレーションするテストをします。
コンセプト・テストとは?
コンセプト・テストは、ターゲットとなる顧客層のモニター製品コンセプトを提示し、その反応を見るテストです。
- プロトタイプ
- 商品ののデザイン
- パッケージデザン
- ブランド名
- 価格(高、中、低)
などを評価してもらうことができます。項目ごとにスコアをつけてもらい、「この商品を買いたいと思いますか? 」と入れる場合もあります。
テストを受けてもらう最適な人は?
コンセプトテストは適切な人に回答してもらう必要があります。自社のペルソナとかけ離れていてはまったく意味がありません。
SaaSでも中小企業と大企業の担当者は望んでいることが大きく異なります。テストをしてくれる層がペルソナに近似していれば、その反応は市場での反応と限りなく近くなるでしょう。ユーザーコミュニティから集う等、適切な人に協力してもらいます。
テストの実施~分析
参加者に、複数の仮コンセプトのサンプルを見せてスコアをつけてもらいます。参加者が最初にコンセプトを知ったときの反応は、市場での反応に近いため、そのコンセプトで進めた際の売れ行きが想像できます。
また、新製品企画の場合は複数のコンセプト案(価格、機能、名称も仮設定)をランク付けしてもらい、コンジョイント分析を行うことで、それぞれの項目などの購入にどのくらい影響があるかを分析できます。
さらに、各要素を、どの程度の水準まで引き上げれば顧客が支持するかをシミュレーションできるため、最適なコンセプトにまとめることができます。
一連の手順を図で表すと以下の流れです。
まとめ
ビジネスは、市場の陣地とり合戦のようなもの。いちはやく有望市場を見つけてビジネスを進めることも大事です。相手が陣地を変えたなら、こちらも変えなければならないことが多いでしょう。
ポジショニングマップは一度作成しておわりではなく、経営者やマーケターの方なら定期的に作成してシミュレーションするとよいかと思います。
比較的作成できる手法ながら、市場での自社の現在位置を把握でき、新規製品開発の際も、新たな市場を見つけたいときにも、他社が新商品を出してきたときにも役立ちます。
まずは、現在の市場での自社プロダクトのポジショニングマップを作成して、今後の市場戦略を考えていく習慣をつけるとよいでしょう。