コロナ禍やウクライナ危機、円安などをはじめ、マクロな環境の変化が激しい時代に事業を存続させるためには、マクロな環境分析を考慮した戦略立案が欠かせません。その際に役立つフレームワークのひとつに「PEST分析」が挙げられます。
PEST分析は、企業を取り巻く外部環境を分析するための考え方ですが「PEST分析をしてみたが、事業戦略の立案にそこまで役立った感じがしない」というケースは往々にしてあるでしょう。それもそのはずで、PESTだけでなくほかの分析フレームワークも含めて、過剰に効能が期待されているきらいがあるのです。
基本的にほとんどのフレームワークは「分析するために必要な情報を集めて現状を把握する」ことがメインの役割。自分たちが進もうとしている市場の変化を正しく把握しなければ、正しい戦略など描きようもないからです。
逆にいえば、フレームワークを活用し重要な情報を網羅して可視化すれば、何らかのインサイトを得られ、戦略の方向性を見出しやすくなるでしょう。
そこで本記事では、PEST分析の「弱点」について論考し、SaaS・BtoBのマーケターがPEST分析をより有意義に役立てるためのポイントを解説します。マーケターがPEST分析をする際に避けるべきポイントもみていきましょう。
PEST分析とは、企業をとりまくマクロな環境(例:世界の政治や経済の動向、最新テクノロジーの動向、社会の価値観の変化など)、つまり「自社ではコントロールできない環境変化」を分析するためのフレームワークです。
PEST分析では、以下の4つの領域の動向を分析し、自社を取り巻くマクロ環境を明確化します。
事業戦略を策定する際には、市場特性や競合他社、顧客ニーズについて調査をし、仮説立てを行なった上で全体ストーリーを描くのがセオリーです。PEST分析は、そのような戦略策定の前提となる調査を、よりロジカルに進めるためのフレームワークともいえます。
例えば、SaaS・BtoB企業がPESTの4要素について分析する場合、以下の要素がピックアップされるでしょう。
SaaS・BtoB企業のP(政治) |
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SaaS・BtoB企業のE(経済) |
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SaaS・BtoB企業のS(社会) |
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SaaS・BtoB企業のT(技術) |
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企業の事業活動は、さまざまな機会(チャンス)や脅威に囲まれています。PEST分析の目的は、短期、中期目線で事業のチャンスや潜在的な脅威を把握し、事業戦略に活かすことです。自社を取り巻くマクロ環境のなかでも特に影響の大きい政治や経済、社会、テクノロジーについて分析します。
SaaS・BtoB企業にとってPEST分析を用いたマクロ環境の分析は、事業戦略を図る上で大いに役立ちます。例えば、T(技術)に着目してみると、米Octoparseは2023年に注目するべきテクノロジーとしてAI(人工知能)やIoT、クラウドコンピューティングなど、10分野を挙げています。
こういった技術トレンドはSaaS系企業にとって最重要な要素のひとつであり、最新技術を活かしたプロダクトを開発して競争優位性を獲得することもあれば、逆に競合他社に先をいかれてしまうケースもあるでしょう。
さらに、P(政治)の例も挙げると、2023年4月には米OpenAIのCEOであるSamuel H. Altman(サム・アルトマン)氏が来日し、岸田総理大臣と面会を果たしました。加えて、同年7月には「岸田首相、生成AI開発へデータ提供支援」という報道もされています。
(出典:Ledge.ai「ChatGPT開発のOpen AI サム・アルトマン氏が岸田総理と面会、日本進出を示唆」)
この出来事から推察されるのは、OpenAI社(EUでの規制強化もあり)は日本市場への関心度が非常に高く、日本のSaaS企業との競合可能性が高まったということです。
PEST分析は、このようにして自社に関わる外部環境を網羅的に分析するためのフレームワーク。トレンドを捉え、自社が採るべき戦略を正しく描くことで、時流に乗ったプロダクト開発が可能です。
逆にいえば、マクロな環境に対する理解を欠くことが、自社事業を展開する上でいかにリスキーかお分かりいただけたでしょう。
PEST分析は間違いなく有用であり、誰にでも活用しやすいフレームワークだと思いますが、いくつか弱点や誤解されている点があります。例えば、以下のようなものです。
各弱点について、下記より個別に解説します。
弱点1:トピック選びはマーケターの能力に依存する
PEST分析は、政治や経済、社会、テクノロジー領域から自社に影響を与える要素を抽出します。ここで問題なのは、その抽出する人物の思考回路によってトピック選びに偏りが生じがちなことです。
ビジネスパーソンの場合「業界内のことには非常に詳しくても、あまり国際政治に興味がない」「為替のことはよく知らない」「業界に関する法律の変化に疎い」といったケースは往々にしてあるでしょう。
人によってマクロ環境への関心度合、情報量も異なります。広く深くバランスよく関心や情報を持っている人のほうが少ないかもしれません。
自社の事業活動に影響を与えるトピック選びなので、いざ分析してみればそこそこできるのですが、人によっては「抜け、漏れ」が生じるケースは多々あります。活用する人によっては重要な情報を見落としてしまい、分析の精度が低くなる点が弱点です。
そのためPEST分析を行う際には、異なる視点や専門性を持つ複数のメンバーが内容をチェックし、より包括的で多角的な分析に繋げることが求められるのです。例えばマーケティングに留まらず、営業や製品開発、経営陣からのフィードバックも得ることで、多様な視点からトピックを抽出できるでしょう。
特にBtoB企業は、マーケティングのみを切り取っても複雑な組織図となっているのが特徴。下記は株式会社SmartHRのマーケティング組織図ですが、このように異なる視点を持つメンバーが混在する組織においては、さまざまな意見を取り込む恩恵はより大きいといえます。
(出典:ferret One「【開催レポート】ユニコーン企業「SmartHR」を支えるマーケ組織とは?」)
今さらいうまでもなく、大きな自然災害、ウクライナ危機のようなことがあれば、ビジネスをとりまく環境は急激に、しかも大きく変化します。
例えば日本の人口減少のように、あまり予測が変わらない要素もありますが、政治、経済、テクノロジーなどの変化は目まぐるしいのが実際のところ。ゆえに、大きな出来事がおきれば過去のPEST分析の結果はあまり役に立たなくなります。
PEST分析は一度分析したら終わりではなく、定期的に分析し、社会やテクノロジートレンドなどが大きく変化したら、事業戦略を根本的に変える必要があるでしょう。
例えば伊藤忠商事は、新型コロナウイルスやSDGsへの対応などを踏まえたPEST分析を行っています。
(出典:伊藤忠商事「PEST分析(2030年までのマクロ環境要因)」)
同社がこのような形でPEST分析を行っているのは、マクロ環境要因の影響を踏まえたリスク・機会を十分に把握し、時間・環境の変化に応じて柔軟な対応や変革を進めるためとのことで、マクロ環境の急激な変化を念頭に置いているといえるでしょう。
加えていえば、PESTに関する情報はスポットで収集するのではなく、日頃から集めておく必要があるといえます。毎日とはいわず月次や年次、四半期ごとなど、決められたタイミングでマクロ環境に関する情報を収集し、蓄積するだけでも、戦略策定で必要な仮説の解像度は大幅に上がるはずです。
PEST分析などに代表される戦略フレームワークにできることは、現時点での情報の整理整頓、つまり現状把握およびそこからの近未来の予想、市場の可能性の把握程度にすぎません。
PEST分析を行ったからといって、自動的に戦略が定義されるわけでないのです。「現実にどの市場で何をするか」という戦略を立てるのは、マーケター自身となります。もちろん、市場をどう捉えるかは戦略に大きく影響するので有効なのですが、過度な期待は禁物です。
自社にもし事業戦略策定のノウハウが存在しない場合、別のフレームワークを活用するという選択肢もあります。例えば、BIP株式会社のビジネスプランニングのためのフレームワーク「BP-ViMoSA(ビーピー・ビモーサ)」などはよい参考例です。
(出典:Kernel Consulting「ビジネスプランニング最強のフレームワーク:BP-ViMoSA」)
BP-ViMoSAはビジョン策定やビジネスモデル設計、プラン作りに役立てるためのフレームワークで、以下の要素から成り立っています。
段階別に抽象的なレベルから事業の実行段階にまで踏み込んでいくことで、具体的な事業戦略を策定可能。「単体では戦略策定に繋がらない」というのは、PEST分析に留まらない弱点ではあるのですが、分析の際には必ず「分析結果をどう役立てるのか」という視点を持ちましょう。
PEST分析は汎用的なフレームワークであるため、4つの要素の重要性は同等に扱われています。例えば派遣業界や資格業界のように、法規制の変化の影響が大きい業界もあれば、SaaSなどIT業界のように、テクノロジーの変化の影響が大きい業界があるなど、活用者によって優先順位が異なるのです。
この優先順位のわかりにくさも問題といえます。分析者は、自社にとってどの要素の優先順位が高いのかを決めなければいけません。指導者がいないと等分に力を割いてしまう可能性があります。
国内SaaS事業であれば、世界の政治体制の変化はさほど影響を受けません。世界の景気動向はほかの業界同様それなりに影響を受けますが(もちろん、SaaSの費用対効果面からプラスの場合もある)、圧倒的に影響するのは、テクノロジーの変化でしょう。
新たなテクノロジーが自社にどう影響するかを見逃さず、PEST分析のトピックに入れる必要があります。なぜなら、革新的なICTなどはエクスポネンシャル・テクノロジー(指数関数的な発展を特徴とする)といわれ、下の図のようにあるポイントで急激に変化するため、乗り遅れないことが大切なのです。
(出典:総務省)
自社にとって4要素のうち、どの要素が重要か優先順位をつけないと、4要素とも常に変化するために分析も際限がなくなります。この優先順位のわかりづらさも、PEST分析の弱点のひとつだといえます。
マーケターのマクロ環境との向き合い方について、米経営学者Philip Kotler(フィリップ・コトラー)・Kevin Lane Keller(ケビン・ケラー)共著の「マーケティング・マネジメント」では、以下のように述べられています。
“マーケターは、変化を危険な脅威ではなく利益を生む機会に変えるため、タイミングを逃さず行動できるように、トレンドを見極めるスキルを磨く必要がある”
(出典:Amazon)
つまり特定の一要素に捉われず、環境全体を俯瞰して見極め、分析する必要があるということ。さらに同書では、そのためのスキルとして次の5つが挙げられています。
以上の手法でマクロレベルでのトレンドを捉えることで「自社にとって何が問題か? 」の優先順位をつけることが可能。マクロな環境は非常に複雑かつ煩雑ですので、しっかりとした視点を持った分析を心がけましょう。
PEST分析はあくまで政治、経済、社会、テクノロジーなどのマクロ環境分析です。しかし、企業に影響する環境因子はそれだけではありません。同業界のトップ企業の動向、自社を追い上げる新興企業、あるいは業界外ながら競合する代替サービスまで踏まえなければ、機能するマーケティング戦略は描けないでしょう。
自社の強み・弱みも把握しなければいけません。例えば、昨今はAI市場が有利でも自社の人材スキルが追いついていなければ進出できませんし、医療業界、建設業界は大きな市場ですが特有の慣行があり、業界の専門知識も必要になります。実際の戦略立案には、自社の分析も求められるのです。
ゆえに本格的に事業戦略ストーリーを描くときには、SWOT分析や5Ferces(業界内分析フレームワーク)などと組み合わせるのが一般的です。
SWOT分析とは、米経営学者のHenry Mintzberg(ヘンリー・ミンツバーグ)氏によって提唱された、企業の内外に存在する要素を分析するためのフレームワークです。SWOTの各要素については、以下のとおりです。
<SWOT分析の分析項目>
SWOT分析は、完全にマクロな環境を分析するPEST分析とは違い、企業の「内外」にある要素を明確化するためのフレームワークです。そのためSWOT分析の各要素は「内部環境 = S(強み) × W(弱み)」「外部環境 = O(機会)× T(脅威)」にも分けられます。
つまりSWOT分析を用いれば、PEST分析では不十分であった自社の内部環境についても分析できるのです。事業戦略を策定する際には、マクロ/ミクロな外部環境で見つけたチャンスを活かすためにも、しっかりと自社の強み/弱みを評価しましょう。
5Forcesは、米経営学者Michael Porter(マイケル・ポーター)氏によって提唱された、企業にとって脅威となる5つの要素を分析するフレームワークです。
5Forcesなら、他業界からの新規参入企業や競合他社、サプライヤーの動向を分析することで、「自社がどのような競争優位性を確立できるのか」について検証できます。つまり、PEST分析で特定されたマクロ環境の変化が、5Forcesで評価した競争状況にどのように影響するかについて理解できるのです。
例えば、PEST分析で新たな技術動向( = Technological)を特定した場合、その技術が業界の新規参入(= Entry)や競合企業からの脅威(= Rivalry)を高める可能性があると推察可能になります。このようにして、自社が置かれた環境要因を踏まえた最適な戦略を立案するのに役立てられるでしょう。
ここからは、PEST分析をする際に避けるべきことを紹介します。具体的には、以下のとおりです。
次項より、個別にみていきましょう。
PEST分析を行い、情報収集をした上で各トピックを入れ込む段階でPEST分析終了としてしまうケースがあります。もちろん、自分の覚え書きのようなイメージで使っているときは問題ないのですが、実際に仮説まで立ててみなければ不十分でしょう。
仮説を立ててみることで、はじめて疑問点が出るものです。あるいは、特定領域の情報が不足していると気づくことも多々あります。それが5〜10行の文章であれ、仮説を立ててストーリーを描くことが重要なのです。
ビジネスパーソンの間では「仮説思考」の重要性についてたびたび論じられます。仮説思考とは逆算思考ともいわれ、限られた情報から確度の高い結論を設定し、それに基づいて戦略ストーリーを策定する考え方のこと。ただし、「考えるだけ」では実際のビジネスには役立ちませんので、以下のように「調査→立案→実行→検証→改善」のサイクルを回す必要があります。
(出典:FUJIFILM「限られた情報しか得られないなかで、課題解決に向けてとにかく動く方法。」)
PEST分析を行う際にも、同様のスタンスが求められます。例えば、2023年1月には「2023年度デジタル予算は微減の1.2兆円、デジタル庁の一括計上は200億円増」という報道がされました。このトピックを基に、SaaS・BtoB企業視点で仮説立てを行ってみると、以下のようなことが考えられます。
<仮説1>
<仮説2>
<仮説3>
PESTで収集した各情報を基にして、このような仮説立てを行えば、より成功可能性の高い戦略立案ができるでしょう。
とはいえ、同じ重要トピックを見ても、そこでどのような戦略を描くかは人によって異なるでしょう。お伝えしたいのは、初心者・上級者に関わらず、100点の分析や予測、戦略立案などは出来ないということです。
PEST分析に限らず、戦略を立てる際の情報収集に延々と時間をかけてしまう人がいます。しかし、情報は常に変化するのでどこかで打ち切らないと、時間ばかりを消費してしまうものです。
情報収集においてもパレートの法則(20:80の法則)が当てはまります。つまり「今の分析に重要な情報は2割くらいである」と多少の割り切りが必要なのです。
特にインターネットで情報収集する際は2次情報、3次情報が多く、無駄に時間を消費します。そういった情報には原典が存在しますので、まずは原典(第1次情報)にあたる習慣をつけましょう。例えば、政府が公開している統計情報や大手シンクタンクの調査結果などは、信憑性のある1次情報です。
(出典:e-state)
国内外を問わず、SaaS・BtoB企業がマクロ環境の情報収集を行う際に参考になる、1次情報源としてのチャネルは以下のようなものが考えられます。
分析の種類 |
参考になる1次情報のチャネル |
P(政治) |
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E(経済) |
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S(社会) |
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T(技術) |
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さらに、権威性のある企業(例:Gartner、Forresterなど)が公開している調査レポート、業界の第一人者のプレゼンテーションなども重要な1次情報源となります。特に海外情報を得る際には、英語やその他の言語のニュースメディアも活用することが重要です。
SaaS企業が特定のテクノロジー分野に関する情報を集める場合には、GitHubやStack Overflow、テック系のニュースサイトやブログ(例:TechCrunch、Wiredなど)も役立ちます。
信頼に足るチャネルから情報を収集し、効率的にPEST分析を進めましょう。
情報収集を行う場合、インターネット、つまりオンラインチャネルのみに頼って調査を行うことは禁物です。オンライン上にある情報は紙の情報よりは速いものの、誇張した情報、フェイク情報も多いのが昨今。加えていえば、あらゆる情報がオンラインで手に入るとも限りません。
事業戦略の構築あるいは事業の撤退、このような決断をする際はリアルな人(例:顧客、自社の現場スタッフなど)やアナログな情報源から得られる情報は非常に重要です。顧客インタビューであれ、営業スタッフやカスタマーサポートからのヒアリングであれ、話を直接聞くなかで何かしらのインサイトを得られることが多いでしょう。
例えばSaaS企業であれば、デプスインタビューによるカスタマー情報の収集が代表的。デプスインタビューとは、インタビュアーと対象者の1対1のインタビュー形式で行う定性調査方法です。「どのようなプロセスを経てその自社サービスを導入したのか? 」「実際に使用してみて、どう感じているか? 」など、顧客の“本音”を明らかにできます。
結果的に、市場内ニーズのトレンドやニーズを掴めるケースもあるでしょう。このようなコア情報は、単純なデスクトップ検索で取得するのは困難であるため、PEST分析を行う際にも留意することが大切です。
さらには、各業界誌やメーカーカタログを参照するという選択肢もあります。SaaS企業なら、日経BP社から出版されている日経コンピューターや日経NETWORKが参考になるでしょう。
(出典:日経コンピューター)
こういった紙媒体の冊子には、インターネット上では拾えない情報も掲載されていますので、より高精度なPEST分析を行う上では有用です。
PEST分析用に情報収集はできても、どう解釈してよいかわからない内容もあるでしょう。例えば法改正の情報などは、条文だけ読んでも一般ビジネスパーソンはなかなか理解できず、解釈をあやまってしまうリスクがあります。
PEST分析の目的によっては、外部専門家の助けを借りることが大切です。具体例として、インターネットリサーチ事業を行うGMOインターネットグループの企業であるGMOリサーチ株式会社が挙げられます。
(出典:GMOリサーチ株式会社)
同社は、国内のオンライン調査ではアンケートモニター数5000万人以上を対象にした大規模な調査が可能です。サンプルパネル市場では日本で1位、世界で9位の実績を誇っています。アジア16の国と地域を対象にした調査にも対応していて、大規模な回収もニッチターゲットへアプローチできることが特徴です。
自社ではリソースが足りない大規模調査であっても、同社のような専門企業に依頼することで、信頼性の高いデータを集められるでしょう。
不思議なことに、情報が集まれば集まるほど、知識が深まれば深まるほど理解がすすむのではなく、かえって全体像がわからなくなることがあります。PEST分析を行う際にも同様のことがいえるため、情報収集にのめり込みすぎないことがポイントです。
収集した情報からインサイトを得て戦略ストーリーを描くことが目的ですので、情報収集・分析のフェーズにのめり込みすぎることは避けましょう。
以上を踏まえると、PEST分析は以下の手順のなかで行うことで、情報分析に固執する事態を避けることができます。
つまり「分析の前に解くべき“問い”」を設計するということです。このような論点抽出には経験と勘、ひらめきが要求されるといわれています。
(出典:EL BORDE by Nomura「論点をハズさない、コンサルの問題設定力―なぜ日本人は“ズレた”提案をしてしまう?」)
これは一見すると身も蓋もないことのように思えますが、常に情報を収集し続け「自分の頭のなかにデータベースを作っておくべき」ということです。それにより、いざ解決するべき課題が表れ「何を分析するべきか? 」という状況になった際に、脳内のデータベースが論点になりうる仮説を導き出してくれるでしょう。
PEST分析は、数あるマーケティングフレームワークのなかでも、重要度の高いものです。俗に戦略のミスは戦術でカバーできないと言われますが、PEST分析はその戦略の方向性を決める際に活用するフレームワークであるためです。
しかし、PEST分析にはいくつか弱点もあります。活用する人の情報収集力によって分析結果はぶれますし、マクロ環境のみの分析なので、それだけでは精緻な戦略ストーリーを描けません。そのため、ほかのフレームワークと組み合わせて活用する必要もあります。
それでも、戦略の方向性を決める際にきわめて有用なのがPEST分析。進む方向を決める際、その道が追い風が吹く環境か、それとも逆風が激しいルートなのかをおおよそ浮かび上がらせてくれます。PEST分析の長所だけでなく、弱点を理解した上で活用し、ぜひ追い風が吹く道を選んでいただきたいと思います。