5Forces(ファイブフォース)分析の具体例5つを一挙紹介!

2021/10/28
5Forces 5Forces(ファイブフォース)分析の具体例5つを一挙紹介!

ビジネスには敵・味方がつきものです。同盟もあれば離反もあり、昨日の敵は今日の友といった関係性の変化もよく起こります。

SaaS業界のような急成長市場は、大企業~スタートアップまで大小さまざまなプレイヤーが入り乱れています。参入者も続々と増えるので業界の変化が非常に速く、市場で優位性を確保するために各社の動きは戦略的です。

一例をあげれば、Slackは創業から急成長していたSaaSユニコーンの代表格ですが、2019年にはMicrosoft社のOfficeバンドル戦略によりあっという間にTeamsにユーザー数を追いぬかれる状況になっていました。

対抗策としてSlackは2020年にEUに対しMicrosoftを独禁法違反で提訴同2020年末にはsalesforce社とのM&Aに同意し、まさしく「共通の敵」を前に手を組んだかたちです。

TeamsがSlackのユーザー数を超えた図

(出典:theverge.com

MicrosoftのOfficeバンドル戦略は強力で、CRMなどのBtoBクラウド市場で着実にシェアを拡大しています。Zoomに対しても「新たな脅威」と捉えている社内情報が漏洩するなど(英語)、成長筋の企業にとっては何かと動向が気になる企業です。

ここまで派手は絵図ではなくとも、SaaS業界の特性上「ある領域では戦略的パートナー、別な領域ではライバル」といった構図は珍しくないでしょう。

業界内にどのような企業が存在し、どことパートナーシップを結び、どこをベンチマークすればよいか、自社の立ち位置を常に把握しながら勝つ戦略を立てて実行していく必要があります。さらに年々高くなる顧客の要求度にも敏感でなければなりません。

このような複雑で勢力図がわかりづらい業界の分析には「5Forces分析」が役立ちます。本記事では、5Forces分析の定義と実際のSaaS企業の分析例を紹介します。

5Forces(ファイブフォース)分析とは

5Forces(ファイブフォース)分析とは、業界のポテンシャルや構図を5つの競争要因の力関係をひも解いて分析するフレームワークです。

5つの力

  • 競合企業の脅威(Rivalry)
  • 代替品の脅威(Substitutes)
  • 新規参入者の脅威(Entry)
  • 供給者の脅威(Suppliers)
  • 購入者・顧客の力(Buyers)

経営・マネージメントの巨匠であるマイケルポーター5Forces(ファイブフォース)分析は、自業界内でシェアを拡大するための戦略構築に役立ちます。また、新規参入を検討している業界の成長性把握、参入して成功できる可能性の分析にも適しています。


SaaS企業における5Forces(ファイブフォース )とは?

SaaS市場は歴史も浅く、まだ急成長市場です。すでにビッグカンパニーが確固たる基盤を築いているものの、業界自体が成長しているため参入企業はどんどん増えています。

多くの企業がM&Aに積極的なため、業界の勢力図が短期で変わりやすいところが特徴です。前述のように各社ある領域では提携して補完しあい、ある領域では競合しており業界構造が複雑でわかりづらい業界です。

ベルギーのゲント大学が公開しているSaaSのビジネスモデルとイノベーションについての論文では 、以下のような見解を出しています。

「SaaS市場で成功するためには、SaaSエコシステム(機能するすべてのSaaSイネーブラ、ユーザー、開発者、利害関係者の複雑な関係性)を徹底して分析する必要があり、その手法には5Forces分析が最も適している」

5Forcesのテンプレート

(出典:Software as a Service:Study and Analysis of SaaS Business Model and Innovation Ecosystems - UNIVERSITEIT GENT FACULTEIT ECONOMIE EN BEDRIJFSKUNDE ACADEMIEJAAR 2009 – 2010

以下に、SaaS企業5社の5Forces分析事例を掲載します。いずれも2021年10月時点のデータをもとにしたものです。

HubSpotの5Forces(ファイブフォース)分析

HubSpot公式HP

HubSpotは2006年に創業。2021年10月時点で世界120か国以上でサービスを展開し、8万6,000社以上の顧客を持つSaaS企業です。

競合企業の脅威

中程度。HubSpotはマーケティング製品のシェアNo.1企業であり、無料で提供しているCRMも、Salesforceと並ぶトップクラスのプラットフォームとして評価されています。

Salesforceは大企業に強く、HubSpotは中堅~中小企業を軸にシエアを拡大しながらエコシステムを構築しています。2社とも独自の哲学、カルチャーのもと異なる市場を軸に展開してきたため、激突するというより、ある程度すみ分けてきた状態だと言えます。

もちろん、HubSpotにとってSalesforce、Microsoftなど大手ベンダーは、エンタープライズ市場では脅威です。

日本でも最近、三菱重工業のHubSpot Service Hub導入がニュースになりましたが、稀少な例だからニュースになるということでもあります。エンタープライズ市場ではHubSpotはチャレンジャーのポジションであり、競合企業の力は「強」です。

SMB市場には、Hubspotの価格帯、使いやすさ、きめ細かいサポートがマッチしており顧客満足度はかなリ高く(英語)、さまざまな競合企業が存在するものの脅威は中程度と言えます。

新規参入者の脅威

弱い。HubSpotはインバウンドマーケティングの提唱者であり、すでにマーケティング製品のトップベンダーとしてのブランドを築き上げています。

顧客満足度の高さ、1,000を超える代理店ネットワーク、8万5,000人を超えるユーザーコミュニティ、HubSpotブログによる豊富なナレッジの提供(一般にマーケティングについて調べようとWeb検索をするとかなりの確率でHubSpotのブログを見つけます)、新規参入者がここを崩すのは簡単ではないでしょう。

代替品の脅威

中程度。HubSpotにとって、懸念されるのは一般にマーケティング製品、特にマーケティングオートメーション導入に成功する企業が多くないという現実です(海外も60%が導入失敗)。

現実には「オートメーション」とまでは言えない製品・サービスのため、多くの顧客の誤解を招いたのかもしれません。いずれにせよ、導入が難しい製品・サービスには何か隙があります。たとえば、マーケティング領域を細分化した革新的なツールが登場したり、現状のマーケティングオートメーションの重要機能のみを取り込んだセールスクラウド(つまり、実質MAが無料)が増えたりすれば脅威でしょう。

供給企業の力

弱。そもそもSaaS企業は製造業と異なり、部品や原材料などが不要です。ストレージ、データベースサービスもすでにコモディティ化しているため価格交渉力は強くありません。

顧客の力

中程度。HubSpotは、HubSpot Appsを活用し連携できるサービスを増やしエコシステムを構築してきました。国内だけでも500以上の連携アプリがあります。

無料CRMという強力な軸、比較的低価格なサービス、シームレスな他社システムとの連携、さらにコミュニティマーケティングにより顧客との関係性強化に注力しており、中堅~中小企業が他サービスに移行する力は強くないと考えられます。

HubSpotのAPI連携

(出典:HubSpot

Salesforceの5Forces(ファイブフォース)分析

Salesforce公式HP

(出典:Salesforce.com

Salesforceは「SaaSの王者」「to BのGAFA」と呼ばれる業界のリーディングカンパニーです。顧客管理システム(CRM)を中心にカスタマーサービス、マーケティングオートメーション、アナリティクスなどのクラウドサービスを提供しています。

競合企業の力

中程度。2020年のApps Run The Worldの調査では、クラウドCRMのシェアはトップがSalesforceで48.4%です。2位はマイクロソフト、3位はSAP、4位はアドビ、5位はオラクルと大手企業がずらりと並びます。

Top10CloudSoftwareVendors

(出典:Apps Run The World

しかし、昨今の他社の成長率は無視できません。2020年の米国の統計を見ると2位のMicrosoftの成長率は目覚ましいものがあります。前述のようにSalesforceがSlackを買収したのは、Microsoftへの対抗策という見方が有力です。

Top SaaS Vendor growth

(出典:70 SaaS Statistics You Must Learn: 2020/2021 Market Share Data Analysis

シェア6位以降のZendesk、HubSpot、Veevaもそれぞれ強い領域を持っているプラットフォーマーです。切り替えを促すのは簡単ではありません。シェアは圧倒的ですが競合企業の脅威は中程度と解釈できます。

新規参入者の脅威

SaaS市場ですでにトップベンダーとなったSalesforceの巨大さの前に、新規参入者の力は弱いと言えます。特に先進国エンタープライズ市場は法令順守、データ保護、機密性を重視します。トップベンダーへの発注を好むので、新規参入者にとってハードルは高いでしょう。

ただし、新興国市場においては先進国と異なる慣習もあれば企業の規模、予算も異なります。各国で次々と登場する新規参入スタートアップの力は強いと言えます。

代替品の脅威

中程度。米国ではこの10年でVertical(バーティカル)SaaSの市場規模が3倍以上に拡大しています。独自の慣行、法律が関係する業界では、Vertical(バーティカル)SaaSが支持されつつあります。

Salesforceにはシステムを業種別に特化した「業種別クラウド」がありますが、ある程度のカスタマイズか業界専用かどちらかという選択で、後者を選ぶ企業も今後増えていくことが予想されます。

ホリゾンンタルとバーティカルSaaSのシェア

(参照:Finances online

供給企業の力

Salesforceは、一貫して自社のシステムに必要な先端技術を持った企業をM&Aにより内製化していきます。電力コスト以外の脅威は見当たりません。

顧客の力

中程度。世界的なDX推進のトレンド、コロナパンデミックによるリモートワークの推進、SaaS市場は今後大きな成長が期待できます。しかし、1週回って大企業を中心に「オンプレミス回帰の動き」も出てきています。

データの資産化、セキュリティ面の不安がおもな理由であり、エンタープライズ市場を主力とするSalesforceには無視できない傾向でしょう。

それでも外部への発注時に、トップベンダーを選択する傾向のあるエンタープライズ市場においては、Salesforceは強い立場であることは変わりなく顧客の力は中程度だと言えるでしょう。

SMB市場では、もともとSalesforceの価格帯は比較的高めです。多機能がゆえに顧客のITリテラシーとマッチしない面もあり、いまだ顧客の力は強いと言えます。

monday.comの5Forces(ファイブフォース)分析

Monday.com公式HP

(出典:monday.com

monday.comは、2012年に創業されたチームマネジメントツールを提供するユニコーン企業です。2021年10月時点ですでに2万社以上の顧客企業を抱え、190以上の国でユーザーを抱えます。

競合企業の脅威

中程度。競合企業には、Asana、Click up、Wrike、Notionなどがあります。同社ブログにおいてレビュー比較サイト「G2」上の競合3社との比較表が掲載されています。

以下の4つの「Ease of」カテゴリーのすべてでClickUpとAsanaを上回ります。しかし、数値がかけはなれてはいないため、競合企業の力も中程度以上あると言えるでしょう。

Monday.com vs Asana click up

(出典:monday.com

新規参入者の脅威

SaaS業界ではフリーミアム戦略で拡販する戦略をとる企業が多いのですが、Monday.comは海外では無料プランなし、現在もユーザー2人しか無料プランを活用できません。

サービスへの自信の現れですが、機能のキャッチアップも速い業界なため、今後同様の機能水準でフリーミアム戦略をとる企業が出てくれば脅威になるでしょう。

代替品の脅威

弱。monday.comは、プログラミング不要、ローコードでカスタマイズ可能なワークマネジメントプラットフォームです。ノーコードと解釈されることもあります。現状、大きな代替品の脅威は見当たりません。

顧客の力

Monday.comは大企業~中小企業マーケットで支持されています。収益の65%は10ユーザー以上の契約、中規模の契約35%は小規模な契約からです。

コードフリーの環境を提供しており、各部門ごとの仕事内容にあわせてテンプレートも用意されています。使い勝手が良いうえに顧客満足度も高く、現状顧客の脅威は弱めでしょう。

slackの5Forces(ファイブフォース)分析

Slack公式HP

(出典:Slack

Slackは、評価額10億ドルに到達するまでの期間が世界最速(1.25年)の企業であり、創業者が語るようにローンチしてすぐプロダクトマーケットフィットして成功したSaaS企業です。

競合企業の脅威

中。Slackの競合にはMicrosoft teams、Zoom、discordがあります。日本ではチャットワークです。Slackは顧客満足度が高く、現在も十分成長しているサービスですが、前述のように後発のMicrosoftのteamsにユーザー数で追い抜かれました

しかし、Salesforce傘下に入ったことで資本力は増強され、Salesforceのサービスと連携でき強みが増します。2021年のリリースでは新たな製品イノベーションとしてクリップ、Slackコネクトの機能強化、GovSlackを発表されています。競合企業の脅威は中程度におさまっていると言えるでしょう。

新規参入者の脅威

中程度

ビジネスチャットは戦国時代と表現されます。チャットをサービスとして付加できるサービスが多くなると、ビジネスチャット自体で勝負するというより、他サービスとの連携のしやすやセキュリティが焦点になるでしょう。エコシステム同士の競合となる場合、脅威は中程度です。

代替品の脅威

各種オンライン会議システムにはすでにチャットサービスがついています。メールからチャットへと言われた時代もありましたが、ユーザーがチャットとメールを手軽に使いわけるようになった今、メールフォーム上にチャット機能が付加されたサービスが出れば、ビジネスチャットの存在感は薄れていくでしょう。

供給企業の力

弱。Salesforceとの合併によりSlackの交渉力は増しています。サプライヤーの交渉力は以前より低下するでしょう。

顧客の力

中程度。フォーチュン100社のうち77%がSlackを使用しています。試用版から有料版への転換率は30%であり、Slackの顧客満足度は非常に高いことを表しています。

ただしSlackの顧客はIT企業が多く、もともとエンジニアに評価が高かったビジネスチャットという特性があります。

companies are using Slack

(参照:saasscout.com

日本でチャットワークが普及しているように、Slackは非エンジニアにとって使いこなしづらい面があります。セキュリティをそれほど重視しない企業に、Slackの魅力は伝わりにくく、市場の裾野を広げるのはやや難しいかもしれません。

もちろん、Salesforceとタッグを組んでエンタープライズ市場でシェアをさらに拡大することは疑いようがありません。

(参照:Slack、openviewpartners.comsaasscout.com

Zoomの5Forces(ファイブフォース)分析

Zoom公式HP

(出典:Zoom

Zoomは今や「オンライン会議の代名詞」となった企業です。Web会議システム自体は昔からありましたが、Zoomは機能性の高さはもちろん、登場のタイミングがコロナ禍とうまい具合に重なり、まさしくプロダクトマーケットフィットしたSaaS企業だと言えるでしょう。

競合企業の脅威

強。Zoomのライバルには、Microsoft teams、Webex、GoToMeeting、skype、スラック、Google meetなどがあります。Zoomのシェアはグローバルでも国内でも1位です。202年のGartner社のMagic Quadrant for Meeting SolutionsでもZoomは6回目のマーケットリーダーに位置づけられました。

Zoom share

(出典:Financesonline

しかし、競合企業の脅威は小さいとは言えません。前述のようにMicrosoftがライバル視しているというリーク情報も漏洩しています。競合のSlackはSalesforceの資本が入り、より多機能になりました。

BtoB市場へのZoomの影響力を増していくために、今後どのような企業と提携するかが鍵でしょう。

新規参入者の脅威

強。2020年時点では、Google meet、Microsoftのteamsのバンドル戦略はzoomにとっては、新規参入企業という存在だったかもしれません。

Zoomはskype等に比べてアカウントを作成する手間がない点が当初便利でしたが、今ならGmailを送りながら簡単にGoogle meetを開催できます。参加者もGmailのアカウントを持っていれば1クリックで会議に参加可能です。

GoogleはGoogle meetを有料から無料に切り替えてユーザー数拡大を図っています。世界で支持されているZoomですが、各国のプラットフォーマーが本気で新規参入してくると脅威は大でしょう。

代替品の脅威

弱。オンライン会議システムの代替品としては、電話会議システム、ビジネスチャット、音声SNSなどがあります。直接の脅威というよりは用途に応じて使い分けられていくため、相対的にZoomの使用頻度が減ることが考えられます。もっとも、オンライン会議システムの市場自体がまだまだ成長途上。多少住み分けが進んでもZoomに与える代替品の影響はそれほど大きくないでしょう。

供給企業の力

中程度。ZoomはSalesforce同様、自社に必要な技術を持つ企業をM&Aで内製化しています。2020 年 には暗号化技術を加速させるためにファイル共有サービス「Keybase」を買収、2021年にはAIを活用したリアルタイム翻訳技術を開発するKites GmbHを買収しました。

しかし2021年10月、一旦合意までこぎつけていた米国のコンタクトセンターFIve9の買収が白紙になっています。

理由は不明ですがZoomについては米当局が国の情報漏洩を懸念しているという説もあるため、今後米国でのM&Aはハードルが高くなる可能性があります。その他の国の先端技術を持つ企業は、これまでより強い立場になるでしょう。

顧客の力

強。Zoomは急成長するさなか、さまざまな問題が起こり、セキュリティ面での信頼が低下しました。また、顧客は今や数多くの選択肢を持っているため、Zoom、Slack、Google meetなどを用途に応じて使い分けられます。

他サービスも使いやすいため「Zoomはやや難しい」「初期の設定がやや手間」という印象を持つユーザーも出てきました。もちろん、通信の安定性、価格面、データ通信料の少なさなどまだまだ断トツの優位性がありますが、選択肢が多くなっているので顧客の力は強まっています。

※上記はいずれも2021年10月時点のデータをもとに分析したものです。

まとめ

次から次へと登場する新サービス、頻繁に行われるM&A、新たなテクノロジーのトレンドなど、SaaS業界は変化しながら巨大に成長している真っ最中です。

よくGAFAすら将来安泰ではないと言われるように、どの企業が勝者になるのか誰も正しくは予測できません。チャンスも多いのですが、混沌している業界なだけにリサーチが甘いと足元をすくわれる可能性があります。

5Forces分析は、SaaS市場を把握するのに適したフレームワークです。マクロ環境分析と合わせて行い、市場の変化を常にキャッチアップしながらビジネスを進めていきましょう。

戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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