外部の力を借りる「チャネルマーケティング」とは?BtoBでも利用できる打ち手を紹介

2021/11/26
BtoBマーケティング チャネルマーケティング 外部の力を借りる「チャネルマーケティング」とは?BtoBでも利用できる打ち手を紹介

ビジネスは素晴らしい製品・サービスを作るだけでは成長しません。別記事で紹介していますが50%ルール(英語)といって、エネルギーの半分を売るための仕掛けを作り、営業に向けることが大切です。

しかし、スタートアップや中小ベンチャーは、多くの場合人材不足。そもそも初期は1人2~3役をこなせる少数で固めることが多いので、営業人材を多く抱えている企業は少ないでしょう。人材というより、完全に人数が足りません。

ビジネスにはタイミングが重要です。PMFが実現でき、自社のマーケティングチームが安定、ここから加速に力を入れる必要があります。そうなると、「いかに外部の販売チャネルを活用できるか」を本格的に考え始めるタイミングが訪れます。

そのときに考えるべき打ち手のひとつが「チャネルマーケティング」です。外部のチャネル(販売パートナー)をマーケティングに取り入れるメリットは数多くあります。もちろん、リスクや難しい面もありますが、成長するスピード、スケールを加速させることが可能です。
本記事では、BtoBでこそ利用できるチャネルマーケティングとは何か? 具体的な打ち手をご紹介します。

チャネルマーケティングとは?

チャネルマーケティングとは、自社の製品・サービスを市場に投入する際に、有力なチャネルに働きかけて効果的なマーケティング施策を行うことです。

BtoBでも、昔から多くの企業は直販だけでなく、代理店などの外部パートナーと協力しあいビジネスを伸ばしてきました。

外部チャネルの力を借りれば、営業部門が弱小でも、まったく営業販売部門を持たずとも、市場に製品・サービスを投入できます。直販部門が強力なら、さらに良い成果を上げられるでしょう。

例:

  • 自動車メーカーと自動車ディーラー
  • 各メーカー、ソフトウェア企業と販売代理店
  • メーカーとデパート、スーパー、ECショップ(BtoC)
  • メーカーと商社、海外現地代理店
  • IT企業とアフィリエイター、他

チャネルと一口にいってもさまざまな形態があり、ビジネスモデルも違えば契約形式も違います。

オフラインとオンライン(デジタルチャネル)のチャネルがあり、ご存知のとおりデジタル化に伴い、オンライン上のチャネルが増えつつあります。

チャネルマーケティングのイメージ

チャネルマーケティングにおいては、数多くのチャネルから自社に合うチャネルが何なのかをまずは見極める必要があります。その後にパートナーを正しく見極め、WinWInとなるパートナーシップを形成していけるかが成功の肝となります。

合わせて自社のペルソナが滞留している場所でありながら、自社努力では届かない場所にいる人たちに製品サービスを認知してもらいたい、などの視点からも考えることが大切です。

チャネルマーケティングが用いられる背景

マーケティングにおいて、チャネル戦略は重要な要素のひとつです。ICT系BtoB企業であれば、伝統的にシステムインテグレーターなどの開発企業と手を組み、見込み客を紹介してもらう、製品サービスを紹介してもらう、などのことが行われてきました。

では、なぜ近年さらにチャネルマーケティングが重要視されているのでしょうか。これは多様なチャネルが登場したことが背景にあることと同時に、買い手が行うマーケティング活動では、どうしても届くことができない(届きづらい)ペルソナや企業が存在するためです。

たとえば、地図用のナビゲーションのソフトウェアを開発する企業の場合、理想としては買い手が直接問い合わせを行い、直販で事業が成立することが望ましいでしょう。しかし、これまでナビゲーションのソフトウェアを利用したことのない買い手の場合、そもそもそのようなビジネスが存在しているかどうかを知ることが非常に難しいのが一般的です。

そのような場合、付き合いのある開発会社や、いわゆるシステムインテグレーターなどの企業経由で、該当ソリューションを探すことがあります。その際はチャネルマーケティングを行い、開発会社やシステムインテグレーターなどを販売パートナーなどにすることが有効なチャネル開拓の手段となります。

つまりチャネルマーケティングは、売り手側のマーケティング活動が行われていないことにより、買い手側にうまく届くことができないが故に、必要になるとも言い換えられます。

また、SaaSなどのサブスクリプションモデルであれば、事業成長により多くのトラクションが必要になるなどの、別の背景からチャネルマーケティングを行うことも有効なマーケティング戦略になります。

マーケティングの4Pの「Place」との関係性

チャネルは、マーケティングミックスの4PでいうとPlace(場所、流通)にあたります。マーケティングミックスといわれるように、他の3つのP(製品・サービス、価格、プロモーション)の関係性、影響度合いを考慮し、自社に適したチャネルを決める必要があります。

4PのPlaceには直販チャネルも含まれますが、ここでは外部チャネルのみにフォーカスします。以下が重要ポイントです。

  • どのチャネルが自社の製品・サービスにマッチする顧客層を抱えているか?
  • どのチャネルなら自社の見込み客層と出会えるか
  • どのチャネルを活用すると自社のブランディングにつながるか?

SaaS企業の場合、オンライン上のチャネルが重要なことはもちろんです。一方で、導入~運用までに専門知識が必要な製品サービスでもあるため、ユーザー企業へのコンサルティング、導入後のカスタマーサクセスまで委託できる、オフラインの代理店チャネル施策も必要です。

4Pについては以下の記事もご覧ください。
・マーケティングの基本中の基本「4P」とは? BtoB SaaS企業も理解しておくべきその基本と事例を紹介

マーケティングの4Cの「Convenience」との関係性

チャネルは、マーケティングミックス4Cでいうと「Convenience(コンビニエンス/利便性)」にあたります(4Cは4Pを顧客視点から見たフレームワークです)。

4C視点で理想的なチャネルマーケティングとは、以下のようなチャネルです。

・顧客が速やかに製品・サービスの情報を入手できる

・資料にわかりやすい説明がある、

・多様な支払い方法から選べる

・すぐ製品・サービスを購入でき、納品が早い

・トラブルがあったときにすぐフォローしてくれる

この自社の力だけでは何十年かかるかもしれないことが、チャネルマーケティングなら短期間で実現できます。結果、より顧客の利便性が高まり、満足してもらえるようになります。

小さい企業でも地方の無名企業でも、もし全国に拠点を持つ代理店がチャネルになってくれれば、日本全国に製品・サービスを売れる可能性が高まります。

オンライン上で専門知識や豊かな知見・ノウハウを発信できる企業・個人にチャネルになってもらえれば、多くの見込み客は製品・サービスについての情報を得やすくなります。

4Cにおけるチャネル

マーケティング4Cについては以下の記事もご覧ください。

マーケティングの基本中の基本「4C」とは? その基本と事例を紹介

チャネルマーケティングのメリットとデメリット

チャネルマーケティングは、企業にもチャネルパートナーにも、顧客企業にもメリットがあります。

メリット

チャネル・マーケティングのメリットは多々あります。

チャネルを増やせば広い範囲の見込み客層にリーチできます。他社パートナーが抱えている顧客、見込み客、カバーしているエリアなど、自社だけではリーチできない層に製品サービスを知ってもらえるからです。

また、零細スタートアップにとって、すでに信頼を獲得した大手チャネル扱ってもらえばブランディングにもなります。

すぐ売上げにならなくても、多くの見込み客の目に触れ、知ってもらい、検討してもらえる機会が増えるので、扱ってもらうだけでも宣伝効果があります。

自社でマーケティング施策を企画し実行したり、営業マンを雇って同じことをする場合の費用と成果が出るまでの期間を考えれば、有力なチャネルと提携することがいかに素晴らしいか理解できるでしょう。

  • コストパフォーマンス
  • ブランディング効果
  • 知名度向上
  • 自社だけでリーチできない層へのアプローチ

デメリット

一方、デメリットもあります。チャネルマーケティングはそう簡単ではありません。

対立することもある

そもそも作る側と売る側は視座が違います。社内ですら営業と製造は決して仲がよくないケースは珍しくありません。これが、企業同士だとよりシビアです。

メーカー側が「高いマージンを取るのに一生懸命売ってくれない」と思えば、代理店側が「こっちの人材を動かして宣伝もうちもちで長期間かけて受注してこのマージン……」と思うなどのすれ違いが起きます。

売れたら問題が解決するかといえばそうでもなく、古くはダイエー・松下戦争、最近なら楽天と出店者の対立に見られるように、力関係が互角でも力関係に差がありすぎても、利益配分についてのイザコザは起きています。

あまり表面化はしませんが、お互いの情報・ノウハウが共有されることで「庇を貸して母屋を取られる」事態になったケースも、決して珍しくはないでしょう。

もちろん、それは当初のチャネルパートナーの見極めの甘さ、契約形態の甘さが大きな原因です。慎重にパートナーを選び、相手のメリットも考えてチャネルマーケティングを進めないと大事に発展する場合があると覚えておきましょう。

コントロールが難しい

チャネルパートナーは自社の従業員ではありません。メーカー側によほどの力があるか、同じ系列企業である場合をのぞき、売ってもらえるかどうかは彼らとのパートナーシップが良好であり、メリットを真に認識してもらえているかにかかっています。

特に代理店は「メーカーの代理店」という意識だけでなく「顧客の代理店」という心情が強いものです。売って儲かるかだけでなく、自社の顧客に喜んでもらえるかをシビアに見定めます。

メーカー側は「代理店契約を結んだからきっと売ってくれるはず」と思いがちですが、契約後の適切な情報提供や働きかけがされなければ、売るモチベーションは上がらず、様子見になるかもしれません。

これはキックバックを行うときですら、あまり変えることができません。キックバックをするにしても、チャネルパートナーにも本業があることがほとんであり、キックバック自体が収益源になることはほとんどないからです。

SaaS企業であれば、初年度の10%のMRRをキックバックするなどがありますが、これはチャネルパートナー対して、自社の直販営業チームに対してのマーケティング支援と同等レベルのコミットを行う必要があります。

事例資料を配布したり、製品サービスのアップデート情報を常に共有したりする必要があるなど、それ相応の自社努力が求められます。しっかり売ってもらうためにはそれなりのサポート、努力が必要です。

ブランドイメージ

もし、チャネルパートナーの従業員がHPやSNSなどで正しくない情報を顧客に伝えたり、コンプライアンスに反するような言動をしたりすると、長年築き上げてきたブランドに傷がつきます。スタートアップなら、最初からマイナスイメージを持たれてしまうでしょう。

令和になっても、迷惑営業をものともしない営業スタイルをとる企業は少なくありません。それをよしとするなら別ですが、何かあればSNSでさらされるようなご時世、企業イメージを損ねるチャネルパートナーと組むのはさけるべきです。

また、Webページや資料などのコンテンツは、企業のブランドイメージを伝えるものなので、チャネルパートナーがオリジナルな資料を作成する場合の取り決めなどもしておいたほうがよいでしょう。

情報共有・分析の難しさ

意外に難しいのは情報共有です。別の法人同士なので、活用しているITツール、フレームワークは異なるケースがあり、ITリテラシーも違います。数字の共有、分析、フィードバックといった一連の作業が当初スムーズに進まないかもしれません。数字が正確でないと、売るための対策に悪影響が生じます。

以上のようなデメリットは、多くの場合、初期の段階できちんと調べて、自社とマッチングする企業を選び、お互いのコンセンサスを得て、詳細でわかりやすい契約書を締結すればある程度回避できます。

チャネル選びの際にはお互いの提携のメリットを明確にした上で、自社の価値観を理解してくれる企業、カルチャー的にあまりかけはなれていない企業、一般的な礼節を備えた企業を選びましょう。

代表的なチャネルマーケティングのチャネルと進め方とは?

ここでは、BtoB企業の代表的な外部チャネルについて紹介します。

リセラー(代理店)

リセラー(Reseller )とは、再販業者 、販売代理店のことを指します。つまり自社では製品・サービスを作らず、仕入れて販売する企業です。BtoBの場合、専門性が高いためソフトウェアの代理店、建設機械の代理店、広告代理店など業界に特化している傾向があります。

どのようなリセラー(代理店)が適しているかは、製品・サービスの専門性、価格、見込み客層が影響します。SaaS企業の場合、リセラーを厳選し「認定制度」を設ける傾向があります。

例えばAdobeの場合、「プラチナ」「ゴールド」「サーティファイド」の3種類のリセラー認定制度があります。HubSpotの場合、「ダイヤモンド」「プラチナ」「シルバー」「ゴールド」などの認定があり、Webサイトでパートナー企業も紹介しています。

HubSpot

HubSpotのリセラー制度

(出典:HubSpot

アフィリエイト

アフィリエイトとは、企業や個人が自社サイトやブログなどのリンクで製品・サービスを紹介してくれる仕組みです。アフィリエイターは、リンクがクリックされると課金されコミッションを得ることができます。

近年、アフィリエイトで稼ぐために中身の薄いブログが乱立したこともあり、怪しい印象があるかもしれませんが、大手企業もたくさん活用しているチャネルマーケティングの有効な手法です。

以下は法人対象のMicrosoftのアフィリエイトプログラムです。ページには、プログラムの仕組み、紹介機関、手数料などが簡潔に明記されています。

Microsoft365アフィリエイト プログラム

Microsoft365のアフィリエイトプログラム

コンサルタント

コンサルタントも有力な販売チャネルです。なぜなら、コンサルティングに従事する人たちは、常に顧客の問題解決のためにさまざまな解決手法を探しているからです。顧客に有益な情報提供をしようと思っています。

代理店と違いセールスするわけではありませんが、コンサルタントという知識産業に従事する人たちの客観性にもとづいた紹介は、顧客から信頼を得やすい点が長所です。コンサルタントも、顧客に良い情報を提供することでコミッションを得られます。

チャネルマーケティングの進め方

ここでは、チャネルマーケティングのステップを解説します。

チャネルマーケティングの進め方

1. チャネルの選択

まず、どのチャネルを活用するか選択しましょう。市場調査を実施し、自社の見込み客が多そうなチャネルを絞りこみ選定します。

その上で各チャネルでのパートナー候補を探します。一チャネルではなく複数のチャネルを選択して問題ありません。SaaS企業の場合、多くはマルチチャネル戦略で成功しています。

2. アプローチ

候補の企業をリストアップして、アプローチします。自社の製品・サービスの価値を理解している企業、自社の見込み客層を持っている企業、そして自社が相手に対してメリットを与えられるかを確認し交渉します。

チャネルパートナー募集のプレスリリースも同時に打ちましょう。アフィリエイトの場合は、自社Webサイトに専用ページを設けます。

3. 契約する

リセラー(代理店)、アフィリエイト、コンサルタントなど、それぞれの販売マージン、価格決定権、契約期間、販促資料の提供、販売後のフォロー体制などの契約を交わします。アフィリエイトの場合は、オンラインで契約締結ができるようにしましょう。

業界、製品・サービスの種類によって代理店契約のフォーマットはさまざまです。SaaSなど新しい業界は、業界を専門とする弁護士さんのサポートなどを受けてひな形を作ることをおすすめします。

4. マーケティング施策~運用

前述のとおり代理店契約を結んだら、あとは勝手に代理店が自分で考え自分で売ってくれるわけではありません。専属代理店なら別ですが他社製品・サービスも扱う代理店の場合、売ってもらう努力をしなければ、それこそ「案内するアイテムが一つ増えた」位の認識かもしれません。

マーケティング戦略を立案し、売ってもらうための情報提供を行い、製品・サービスのトレーニングを実施します。質問に対する速やかで適切なフィードバックをする体制を整えましょう。各キャンペーンのKPIの設定、効果測定、フィードバックを行いながら、パートナー企業が売上げを伸ばせるようにサポートしていきます。

相手が個人アフィリエイターであれ、大手リセラーであれ、リレーションシップ形成に最初からエネルギーを注ぎましょう。

まとめ

チャネルパートナーの契約は、ビジネスでありながら実に人間的な面があります。素晴らしいパートナー企業と出会えて、一緒にビジネスを大きくする喜びを味わえるかもしれません。

逆に協力してもらえなかったり、互いに経費だけ使って成果がなかったりすると、しまいには軋轢が起きてしまうかもしれません。

チャネルマーケティングにおいては、適切なチャネル選びと、各チャネルパートナーの求めるものの理解、適切な期待値を持つことが大切です。その上で売ってもらうための仕掛けを作り、サポートする努力を惜しみなくします。

あらゆるチャネルを検討することが大切です。GoogleやMicrosoftなどの資金力のある企業ですら、オンライン上で網の目のようにアフィリエイトチャネルをはりめぐらす努力をしています。なぜなら、オンライン上ではアフィリエイトなど個人の小さなチャネルも、数が集まれば強力だからです。まず、自社が活用できるどのようなチャネルがあるかから見直してみましょう。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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