顧客セグメンテーションの基本を例を用いてわかりやすく解説

2023/01/09
BtoBマーケティング 顧客セグメンテーション 顧客セグメンテーションの基本を例を用いてわかりやすく解説

「セグメンテーション」は、マーケターなら頻繁に活用する言葉ではないかと思います。

マーケティングの権威である、あのPhilipe・Kotoler(フィリップ・コトラー)氏の開発した「STP分析」の「S=セグメンテーション」であることからもわかるように、セグメンテーションはマーケティング戦略の初期に行う、成功を左右する非常に重要なステップです。

どのように市場を定義するのか? どのように顧客をグループ分けするか? 市場や顧客は、それを定義するマーケターによっていろいろな姿を見せてくれます。高度な分析を行えば、今まで気づかなかった新しい顧客グループを見つけることもできるでしょう。

本記事では、マーケティングでよく活用する「顧客セグメンテーション」とはどのような手法か、マーケティングセグメンテーションとの違い、企業の顧客セグメンテーション事例などを紹介します。

セグメンテーションとは

Segmentation(セグメンテーション)」とは、分割、区分、細分化を意味する英単語です。一般にマーケティング領域では、セグメンテーション=市場や顧客を分類する意味で活用されています。

セグメンテーションとペルソナの違い

セグメンテーションとペルソナの違いを簡単に説明します。まず、セグメンテーションとは、大きな集団を細分化、グループ分けすること。分類指標はさまざまですが、セグメンテーションした結果は特定のグループになり、個人ではありません。

セグメンテーション

一方、ペルソナとは自社の典型的な顧客の特徴をわかりやすくプロファイリングした「1名の顧客像」。現実には存在しない顧客モデルです。一般に理想的な顧客のペルソナを作成しますが、企業によっては複数のペルソナを作成する場合もあります。その際も1ペルソナ1人のプロファイルです。

集団vs.個人、現実の顧客グループvs.架空の人物像と対比するとわかりやすいでしょう。

HubSpotのペルソナの例

奥地さま_02_本文_【BtoB企業向け】ペルソナの作り方とその実例 のコピー

(出典:HubSpot)

【プロフィール】

  • プロのマーケター(役員、ディレクター、マネージャー)
  • 中規模企業勤務、小規模のマーケティングチーム(1~5人)
  • 商学部卒、MBA保有(バブソン大学出身)
  • 42歳、既婚、2人の子供がいる(10歳と6歳)

マーケットセグメンテーションとの違い

「マーケティングセグメンテーション」とは市場を分類すること。「顧客セグメンテーションとは顧客を分類することです。

市場とは、顧客の特性だけでなく、例えばグローバル市場、国内市場、男性市場といった具合に対象が広くなり、大きな分類です。おもなセグメンテーション手法には、以下4つがあります。

  • 地理的セグメンテーション
  • 人口統計学的セグメンテーション
  • サイコグラフィック・セグメンテーション(人格や性格の特徴)
  • 行動セグメンテーション(行動傾向による識別)

一方、顧客セグメンテーションはあくまで顧客の属性、特徴による分類です。おもに以下の3つの手法が活用されます。

  • ポストホック:マーケティング目的で行われた調査に基づいて、同じ属性を持つ顧客グループをセグメンテーション
  • ニーズベース:特定の商品やサービスを購入する理由の違いで顧客をグループ化
  • バリューベース:顧客がビジネスにもたらす価値によってグループ化

マーケティング戦略においては、大枠の方向性を決める際にまずマーケットセグメンテーションを実施。その後のペルソナ作成段階や、見込み客ごとの行動による施策設定の際に顧客セグメンテーションをすることもあります。

取引後の既存顧客に対するマーケティングでは、顧客セグメンテーションが重要になります。

顧客セグメンテーションを行う代表的な目的

顧客セグメンテーションは、おもに既存顧客のマーケティング戦略を最適化し、売上げを拡大するために活用されます。

既存顧客を適切にセグメンテーションし、どのようなグループ(セグメント)があるか把握し、各グループに適したマーケティングを行うことで売上げ拡大につなげます。

アップセルやクロスセルが可能な企業群の抽出

全顧客の何割がさらに購入してくれるでしょうか? できるなら購入可能性の高い企業群にアプローチしたいものです。BtoBの場合、ある程度は企業規模で保有予算が把握できるでしょう。しかし、それだけではなく自社プロダクトとの適合具合も重要です。

例えば、直近の購入金額、購入頻度、売上げの上昇基調、購入している商品の種類、アンケート結果の回答傾向などから自社の商品・サービスに対する満足度が高く、アップセル、クロスセルが可能そうな顧客を特定できます(分析手法は後述)。

解約(チャーン)しやすい企業群の抽出

顧客の何割かは離脱していきます。理由はさまざまですが「〇カ月サービスを活用しなければ離脱する」「オンボーディング途中でログインしなくなった」「売上げが下降基調」など、企業ごとに解約につながる顧客の特徴があります。

特定のツールなどを活用し早期に解約しやすい企業群が抽出できれば、その層に向けたマーケティング施策や営業対応によって、チャーン率を抑さえることができます。

ロイヤルカスタマーになりやすい企業群の抽出

企業にとってロイヤルカスタマーの数は事業成長と比例します。企業が成長するためには、ロイヤルカスタマーになる可能性のある顧客グループを特定し、特別なマーケティングキャンペーンを実施することで、ロイヤルカスタマーになってもらうことは非常に重要です。

例えばRFM分析(後述)では、購入金額、購入頻度、直近購入日の3つの指標をスコア化してロイヤルカスタマーを特定できます。

ロイヤルカスタマーの抽出

この、ロイヤルカスタマーのスコアの近似値にいる層は、ロイヤルカスタマーになりやすい企業群としてグループ化できるでしょう。

顧客セグメンテーションを行うために用いられる代表的分析方法

ここでは、顧客セグメンテーションを行うためによく用いられる分析手法を4種類紹介します。

RFM分析

RFM分析は、顧客をRecency (直近の購入日)、Frequency (頻度)、Monetary (購入金額)の3つの指標で、セグメンテーションする分析方法です。

  • Recency(リーセンシー):直近でいつ製品・サービスを購入したか
  • Frequency(フリークエンシー):どれくらいの頻度で購入しているか
  • Monetary(マネタリー):どのくらい金額を使っているか

RFM分析 (1)

「ロイヤル顧客」だけでなく、「優良顧客」「ポテンシャル顧客」「リピート顧客」「休眠しかけている顧客」のほか、顧客層をかなり細かくセグメンテーションできるため、各層にきめ細やかなマーケティング施策を実施できます。

デシル分析

デシル分析とは、顧客をある一定期間の購入金額あるいは販売個数などにもとづき、10等分にセグメンテーションするシンプルな分析手法です。
単純な方法ですが、パレートの法則(20:80の法則)でいう上位2割を見出すことができます。大抵の企業で売上げの8割を占めている上位20%の顧客グループにフォーカスしてマーケティング施策を行ったり、営業リソースを配分したりすることで、効率よく売上げを上げることができます。

デシル分析の仕組み

クラスター分析

クラスター分析とは、さまざまな特徴を持つ混在したビッグデータを、客観的な数値基準、類型性によっていくつかのクラスター(グループ)に分ける、機械学習・データマイニング手法のひとつです。

「教師なし学習」といって人間が分類基準を指定せず、純粋にデータから近似性のみで顧客セグメンテーションできるため、人のバイアスに影響されない結果が出て、新しい顧客グループの発見につながることもあります。

「階層クラスター分析」と「非階層クラスター分析」2つの手法がありますが、いずれも広告やDMの配信先のセグメンテーション、ブランドのポジショニング分析のほか、さまざまなマーケティング施策に活用できます。

非階層クラスタリング図

非階層クラスター分析の図-1

(出典:政府統計局

上記の3手法は、ExcelやCRMのセグメンテーション機能でも実施可能です。

以下は、顧客アンケートを活用するセグメンテーション手法です。

NPS(ネットプロモータースコア)

NPS(ネットプロモータースコア)は、ユーザーのたった1つの質問「この企業(製品サービス、ブランド)を友人や同僚に勧める可能性はどれくらいありますか? 」に対する回答のスコアで、顧客を以下3つのグループにセグメンテーションできます。0〜10の11段階で評価してもらい、数値によって以下の基準で分類します。

  • 0〜6は「批判者」
  • 7~8は「中立者」
  • 9~10は「推奨者」

シンプルな方法ですが、業績との相関関係が高いということで世界の多くの企業で活用されています。

NPSの計算方法 (1)

(引用元:https://markitone.co.jp/column/importance-of-nps/

顧客セグメンテーションの例

ここでは、顧客セグメンテーションを行い事業に活かした例を紹介します。

MetLife生命

メットライフ生命は、2015年にそれまでの人口統計やライフステージにもとづく顧客セグメンテーションから、人口統計、企業統計、態度、ニーズタイプの情報を組み合わせて、抽出するクラスタ分析により顧客をセグメンテーションしました。

具体的には、5万人以上の顧客にインタビューと調査を行い、ビッグデータのクラスタリング技術を利用して、新たな顧客グループのセグメント化を進め、市場投入のアプローチを再構築し業績を伸ばしました。(参考:https://d3.harvard.edu/platform-rctom/)

レゴグループ

レゴグループは、顧客の購入と使用に基づいて6つの異なるペルソナを識別していましたが、そのうちブランドとより深い関わりをもつ3つのペルソナに該当する顧客を、一つのグループとしてセグメンテーションしました(この場合、ペルソナを識別指標として活用しています)。

  • 「名前と住所を知っている人たち」
  • 「レゴを購入したことがあり、レゴショップやレゴパークに行ったことがある人」
  • 「過去12カ月間にレゴを買ったことがある人」

さらにこの新しい顧客グループに対し、彼らが頻繁に使用するソーシャルネットワーク上でオンラインコミュニティを構築。彼らの写真やビデオの投稿、新製品のアイデアなどを資産として活用することで、レゴは世界第4位の玩具メーカーへと成長を遂げました。

(参考:https://barnraisersllc.com/

Zenefits

見込み客のセグメンテーションを高度なプラットフォームを活用して行うこともできます。人事系SaaSを提供するZenefits社は、マーケティングにFacebookを活用するにあたり、顧客データを Clearbit Advertising (ターゲティングに役立つプラットフォーム)のデータと組み合わせ、新たな顧客グループをセグメンテーションすることに成功しました。

具体的には、ファースト パーティ データ ソースから抽出したカスタム オーディエンスを Clearbit の人口統計・会社統計属性で強化したものです。新しくカテゴライズできた顧客グループは以前より企業規模が大きく(33%拡大)、かつ見込み客から有望なリードへのコンバージョン率も20%増加しました。

(参考:https://clearbit.com/customers/zenefits

まとめ

顧客セグメンテーションとは、顧客をある特徴で複数のグループ(セグメント)に分類することを指します。「ロイヤル顧客」の特定はもちろん、「ポテンシャル顧客」「リピート顧客」「チャーンの可能性が高い顧客」「アンタッチャブルな顧客」など、企業の方針によってさまざまなセグメンテーションが可能です。

重要な顧客や、ポテンシャルの高い顧客に集中してマーケティングのリソースを投下すれば、費用対効果のよいマーケティングを行えるでしょう。また、SaaSにおいてはチャーン率が重要なので、チャーンしそうな顧客を特定するセグメンテーション(自社基準が必要)を行い、早期に対応することでリテンション率を向上させることができるはずです。

いろいろな指標で顧客のセグメンテーションを行い、自社の顧客がどのようなグループで構成されているか(どのようなモザイクになっているか)全体像をつかみましょう。きめ細かいマーケティングができるだけでなく、新製品開発、営業戦略にも役立ちます。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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