顧客セグメンテーションを行う際の分類軸とフレームワーク、具体的な企業例を紹介

2024/07/05
BtoBマーケティング 顧客セグメンテーション 顧客セグメンテーションを行う際の分類軸とフレームワーク、具体的な企業例を紹介

「セグメンテーション」は、マーケターなら頻繁に活用する言葉ではないかと思います。

マーケティングの権威である、あのPhilipe・Kotoler(フィリップ・コトラー)氏の開発した「STP分析」の「S=セグメンテーション」であることからもわかるように、セグメンテーションはマーケティング戦略の初期に行う、成功を左右する非常に重要なステップです。

どのように市場を定義するのか? どのように顧客をグループ分けするか? 市場や顧客は、それを定義するマーケターによっていろいろな姿を見せてくれます。高度な分析を行えば、今まで気づかなかった新しい顧客グループを見つけることもできるでしょう。

本記事では、マーケティングでよく活用する「顧客セグメンテーション」とはどのような手法か、マーケットセグメンテーションとの違い、企業の顧客セグメンテーション事例などを紹介します。

セグメンテーションとは

Segmentation(セグメンテーション)」とは、分割、区分、細分化を意味する英単語です。一般にマーケティング領域では、セグメンテーション=市場や顧客を分類する意味で活用されています。

セグメンテーションとペルソナの違い

セグメンテーションとペルソナの違いを簡単に説明します。まず、セグメンテーションとは、大きな集団を細分化、グループ分けすること。分類指標はさまざまですが、セグメンテーション後は特定のグループになり、個人ではありません。

セグメンテーションとペルソナの違い

一方、ペルソナとは自社の典型的な顧客の特徴をわかりやすくプロファイリングした「1名の顧客像」。現実には存在しない顧客モデルです。一般に理想的な顧客のペルソナを作成しますが、企業によっては複数のペルソナを作成する場合もあります。その際も1ペルソナ1人のプロファイルです。

集団vs.個人、現実の顧客グループvs.架空の人物像と対比するとわかりやすいでしょう。

HubSpotのペルソナの例

HubSpotのペルソナの例

(出典:HubSpot)

【プロフィール】

  • プロのマーケター(役員、ディレクター、マネージャー)
  • 中規模企業勤務、小規模のマーケティングチーム(1~5人)
  • 商学部卒、MBA保有(バブソン大学出身)
  • 42歳、既婚、2人の子供がいる(10歳と6歳)

顧客セグメンテーションとマーケットセグメンテーションの違い

顧客セグメンテーションとマーケットセグメンテーションは、マーケティング戦略の基盤として重要な役割を果たす概念ですが、そのアプローチや目的には明確な違いがあります。

そもそもマーケットセグメンテーションとは、市場全体を異なる特性やニーズを持つ顧客グループに分割する手法です。新規市場の開拓や新商品開発のためのターゲット市場を特定するために使用されます。具体的な分類軸には以下のようなものがあります。

  • 地理的セグメンテーション
  • デモグラフィックセグメンテーション
  • サイコグラフィックセグメンテーション
  • 行動セグメンテーション

たとえば「地理的セグメンテーション」では、顧客の嗜好や購買行動が異なるアジアと北米市場に分類する、「デモグラフィックセグメンテーション」では、高収入層向けの高級ブランドと低所得層向けの低価格ブランドで分類する、といった具合です。それぞれ、ターゲット市場が大きく異なります。

マーケットセグメンテーションの主な目的は、市場全体を理解し、ターゲット市場を特定することで、新規顧客の獲得や新商品の開発を効果的に行うことです。

それに対して顧客セグメンテーションとは、既存の顧客データをもとに、顧客を異なる特徴や行動パターンを持つグループに分割する手法を指します。既存の顧客をより深く理解し、どのセグメントが多くの利益をもたらしているのか、各セグメントに適したマーケティング戦略はどのようなものかなどを見極めることが目的です。

つまり、顧客セグメンテーションは既存顧客のデータをもとに既存顧客をセグメントに分けるのに対し、マーケットセグメンテーションは、市場全体を異なるニーズや特性を持つ顧客グループに分割するという違いがあります。

マーケティング戦略においては、大枠の方向性を決める際にまずマーケットセグメンテーションを実施。その後のペルソナ作成段階や、見込み客ごとの行動による施策設定の際に、顧客セグメンテーションをすることもあります。

取引後の既存顧客に対するマーケティングでは、顧客セグメンテーションが重要です。

顧客セグメンテーションの5W

顧客セグメンテーションを効果的に行うためには、5W(Who、What、Where、When、Why and How)の視点から分析を行うことが重要です。これにより、顧客の特性や行動パターンを深く理解し、最適なマーケティング戦略を策定できます。以下に、それぞれの視点について詳しく解説します。

Who(誰)

「誰が」製品やサービスを購入しているのかを理解することは、顧客セグメンテーションの出発点です。

顧客の年齢、性別、職業、所得、教育レベル、家族構成などのデモグラフィック情報を収集し、ターゲット顧客像を明確にしましょう。BtoBにおいては、顧客企業の業界、企業規模、役職、部門、ビジネスモデル、ライフサイクルなどの情報も必要になります。

たとえば、ソフトウェア企業が中小企業をターゲットにする場合、従業員数が50〜200名の企業に焦点を当て、マーケティング戦略や製品改善などに注力するとよいでしょう。

さらに、顧客企業のビジネスライフサイクルや業務フローも重要な要素です。

たとえば、スタートアップ企業と成熟企業では、必要とするソリューションや購買動機が大きく異なります。スタートアップ企業は成長志向が強く、スケーラビリティやコスト効率を重視する傾向があるのに対し、成熟企業は安定性や既存システムとの統合性を求める傾向があるためです。

自社の製品やサービスを利用する顧客は、どのような人/企業であり、どのような課題を抱えているのかを明確にすることで、各種施策を効果的に推進できるようになります。

What(何を)

「何を」顧客が購入しているのかを把握することで、どのような製品やサービスに対する需要があるのかを理解できます。この情報をもとに、特定の製品カテゴリーやサービスに対する需要を見極め、開発やプロモーション活動に活かします。

たとえば、自社ソフトウェアの活用状況を分析した結果、営業管理機能がよく使われていると判明したとします。この場合、営業チーム向けのウェビナーやトレーニングセッションを開催し、営業管理機能の効果的な活用方法を紹介したり、この機能を強調したマーケティングキャンペーンを展開し、潜在顧客にアピールしたりできるでしょう。

Where(どこで)

「どこで」顧客が製品やサービスを購入しているのか、またはどのようなチャネルを通じて情報を得ているのかを分析します。オンラインチャネル、直接販売、パートナー経由の販売など、さまざまな購買チャネルを理解することで、各セグメントに最適なアプローチを設計します。

たとえば顧客分析の結果、ウェブサイトから直接購入する顧客が多いと判明したら、サイト改善やコンテンツマーケティングへの注力がよいでしょう。一方、パートナー経由での導入が多ければ、パートナーとの連携強化が考えられます。

このように「どこで」の理解は、顧客が利用する購買チャネルや情報収集の方法を特定し、各チャネルに最適なアプローチを設計するための基盤となります。

When(いつ)

「いつ」顧客が商品やサービスを購入するのかを把握することも、顧客セグメンテーションで重要なステップです。季節的な需要や特定のイベント時期、さらに業界特有の購買サイクルを理解することで、適切なタイミングでプロモーション活動を行い、効果を最大化することができます。

たとえば、既存顧客分析をする中で、年度末や四半期末に契約が集中する、もしくは特定のイベントの時期に売上げが伸びると判明するかもしれません。このように顧客が購入する時期を把握すれば、マーケティングに費やす予算を調整し、費用対効果の向上が見込めます。

Why and How(なぜ、どのように)

「なぜ」顧客がその商品やサービスを購入するのか、「どのように」購買プロセスを経て購入に至るのかを理解することは、効果的なセグメンテーションの鍵となります。顧客の購買動機や購買プロセスを詳しく分析することで、より的確なマーケティング戦略を立てることができます。

たとえば、ある化粧品ブランドが顧客の購買動機を調査したところ、「オーガニック成分であること」「動物実験を行っていないこと」が重要な要素であることが分かったとしましょう。この場合、ブランドはこれらの要素を強調した広告キャンペーンを展開し、エコフレンドリーなブランドイメージを確立するというアプローチが考えられます。

また、口コミやレビューを重視する顧客が多い場合、既存顧客に依頼をし、事例記事の制作やSNS、レビューサイトでの評価を高める施策を講じることが有効です。

顧客が「どのように」購買に至るかを理解するためには、購買プロセス全体を追跡し、各ステージでの顧客の行動や感情を分析する必要があります。

たとえば、BtoB向け製品を提供する企業の場合、顧客の情報収集から購入に至るまでの各ステップ(製品デモや社内稟議など)を詳細に分析し、どの段階で離脱が発生しているかを特定します。これにより、離脱ポイントでの改善策を講じ、購買プロセスをスムーズに進めることが可能です。

Why and How(なぜ、どのように)

顧客セグメンテーションを行う代表的な目的

顧客セグメンテーションは、主に既存顧客のマーケティング戦略を最適化し、売上げを拡大するために活用されます。

既存顧客を適切にセグメンテーションし、どのようなグループ(セグメント)があるか把握し、各グループに適したマーケティングを行うことで売上げ拡大につなげます。

アップセルやクロスセルが可能な企業群を見つけるため

全顧客の何割が、さらに購入してくれるでしょうか? できるなら購入可能性の高い企業群にアプローチしたいものです。BtoBの場合、ある程度は企業規模で保有予算が把握できるでしょう。しかし、それだけではなく自社プロダクトとの適合具合も重要です。

例えば、直近の購入金額、購入頻度、売上げの上昇基調、購入している商品の種類、アンケート結果の回答傾向などから自社の商品・サービスに対する満足度が高く、アップセル、クロスセルが可能そうな顧客を特定できます(分析手法は後述)。

解約(チャーン)しやすい企業群を見つけるため

顧客の何割かは離脱していきます。理由はさまざまですが「〇カ月サービスを活用しなければ離脱する」「カスタマーサクセスチームのオンボーディング途中でログインしなくなった」「売上げが下降基調」など、企業ごとに解約につながる顧客の特徴があります。

特定のツールなどを活用し早期に解約しやすい企業群が抽出できれば、その層に向けたマーケティング施策や営業対応によって、解約率(チャーンレート)を抑さえることができます。

ロイヤルカスタマーになりやすい企業群を見つけるため

企業にとってロイヤルカスタマーの数は、事業成長と比例します。企業が成長するためには、ロイヤルカスタマーになる可能性のある顧客グループを特定し、特別なマーケティングキャンペーンを実施することで、ロイヤルカスタマーになってもらうことが非常に重要です。

例えばRFM分析では、購入金額、購入頻度、直近購入日の3つの指標をスコア化してロイヤルカスタマーを特定できます。

RFM分析

このスコアの近似値にいる層は、ロイヤルカスタマーになりやすい企業群としてグループ化できるでしょう。

効果的なマーケティング活動を行うため

顧客セグメンテーションを活用することで、企業は各セグメントに対して最適なマーケティング活動を行い、リソースの無駄を最小限に抑えられるようになります。

たとえば、中小企業のIT担当者がコスト効率の高いソリューションを求めているなら、導入による具体的なコスト削減率や生産性の向上率などを数値で提示するとよいでしょう。一方、大企業の経営層が導入における効果を重視するなら、実際の効果をイメージさせる導入事例や個別プレゼンテーションなどが効果があるかもしれません。

このように、各セグメントの特性に応じたマーケティング戦略を展開することで、効果的にターゲット顧客にアプローチし、マーケティング活動の成果を最大化できます。また、セグメントごとの成果を分析し、戦略を継続的に最適化することで、さらに高いROIを実現することが可能です。

顧客理解をするため

顧客セグメンテーションの大きな目的は、深い顧客理解にあります。これまで述べたように、アップセルの提案、ロイヤルカスタマーの醸成、解約防止、マーケティングの最適化は全て顧客の理解ができていないと効果は最大化できません。

顧客は誰で、どのような課題を抱え、どこで情報収集をし、どのように購買に至るのか。これらの要素を理解することが始まりです。ペルソナやカスタマージャーニーのフレームワークを活用しながら顧客セグメンテーションをおこない、顧客理解を深めましょう。

顧客セグメンテーションの種類・分類軸

顧客セグメンテーションでは、顧客を異なる特性や行動にもとづいて分類します。以下に、代表的なセグメンテーションの種類とそれぞれの分類軸について詳しく説明します。

人口統計的セグメンテーション

人口統計的セグメンテーションは、年齢、性別、収入、職業、教育レベルなどのデモグラフィックデータをもとに顧客を分類する方法です。BtoB企業においては、所属業界や企業規模、抱える課題などで分類します。人口統計的セグメンテーションは比較的簡単に分類でき、ターゲットを理解しやすいです。

地理的セグメンテーション

地理的セグメンテーションは、顧客の居住地や地域にもとづいて分類する方法です。地域ごとの気候、文化、経済状況などの違いを考慮することで、地域特有のニーズに対応したマーケティング戦略を立てることができます。

たとえば、グローバル展開をしている製造業の場合、各地域の購買行動や嗜好を考慮する必要があります。アジア市場のセグメントと北米市場のセグメントに対して、同じマーケティング戦略を推進しても、期待した効果は得られないでしょう。

心理的セグメンテーション

心理的セグメンテーションは、顧客のライフスタイル、価値観、興味・関心などにもとづいて分類する方法です。顧客の内面的な動機や行動パターンを理解することで、よりパーソナライズされたマーケティング戦略を展開できます。

たとえば、過去の購買履歴やアンケート調査、ヒアリング調査などから顧客を大きく成長志向、コスト効率重視志向、技術志向にセグメント分けできたとします。

積極的に投資を行う成長企業にはアップセル・クロスセルの提案をし、コスト効率重視志向にはコスト削減の具体的な事例やROI(投資対効果)分析を提供する、技術志向には最新機能のベータ版を優先的に提供しフィードバックをもらうなどの施策が考えられます。

顧客の内面的な動機や行動パターンを理解することで、各セグメントにパーソナライズ化したコミュニケーションを実施し、顧客満足度の向上や売上げの増加を図ることができます。

ニーズにもとづくセグメンテーション

ニーズにもとづくセグメンテーションは、顧客の具体的なニーズや要求にもとづいて分類する方法です。主に以下の軸でセグメンテーションを行います。

  • 機能的ニーズ

機能的ニーズにもとづくセグメンテーションは、顧客が特定の機能や性能を求めている場合に適用されます。たとえば、同じMAツールでも使いやすい基本的な機能を求めるセグメント、高度なカスタマイズや詳細な分析ができるセグメントなどです。

  • 感情的ニーズ

感情的ニーズにもとづくセグメンテーションは、顧客の感情的な満足や自己実現を目指す場合に適用されます。たとえば製品を導入して、ブランドイメージを向上させたい、顧客と深い信頼関係を構築したいなどです。

  • 状況的ニーズ

状況的ニーズにもとづくセグメンテーションは、顧客が特定の状況や条件下で必要とする製品やサービスに対応する場合に適用されます。分かりやすい例が、新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークへの移行が進んだことで、ウェブ会議ツールの需要が高まったことです。このように、顧客を取り巻く環境の変化に伴い、新たなニーズが生まれ、それに対応する製品・サービスが求められます。

機能面、感情面、状況面での顧客ニーズを掘り下げて把握し、適切な対応ができれば顧客満足度は高まります。また、ニーズに合わせて製品・サービスを最適化できるため、無駄な開発コストを抑えられる可能性があります。

テクノグラフィックセグメンテーション

テクノグラフィックセグメンテーションは、顧客の技術に対する態度や使用状況にもとづいて分類する方法です。テクノロジーの使用頻度や興味関心を分析することで、新しいテクノロジーに敏感な顧客セグメントを見つけ出します。

テクノグラフィックセグメンテーションを考える際は、イノベーター理論を参考にするとよいでしょう。イノベーター理論は、Everett・Rogers(エベレット・ロジャース)氏が提唱した理論で、技術や革新的な製品の普及過程を示しています。イノベーター理論では、消費者を以下の5つのセグメントに分類します。

イノベーター理論-1

  • イノベーター(Innovators):新しい技術や製品をいち早く採用する層。全体の2.5%。
  • アーリーアダプター(Early Adopters):イノベーターの次に新しい技術を採用する層。全体の13.5%。
  • アーリーマジョリティ(Early Majority):新しい技術を早めに採用するが、リスクを避けたいと考える層。全体の34%。
  • レイトマジョリティ(Late Majority):多数が新技術を採用した後に追随する層。全体の34%。
  • ラガード(Laggards):最も遅く新しい技術を採用する層。全体の16%。

イノベーター理論にもとづけば、全体顧客の2.5%を占めるイノベーターに対しては、新技術のプロトタイプやベータ版を提供し、フィードバックを収集することが効果的です。また、特典や限定オファーを通じて、新技術の初期導入を促進します。

イノベーターの次に技術を採用するアーリーアダプターは、リーダー的存在であり、新技術の採用によって競争優位性を獲得しようとします。このセグメントに対しては、イノベーターや先行投資して成功している顧客事例、導入によるメリットを強調し、信頼感と期待を醸成していくことが重要です。

顧客セグメンテーションを行うために用いられる代表的分析方法

ここでは、顧客セグメンテーションを行うためによく用いられる分析手法を5種類紹介します。

RFM分析

RFM分析は、顧客をRecency (直近の購入日)、Frequency (頻度)、Monetary (購入金額)の3つの指標で、セグメンテーションする分析方法です。

  • Recency(リーセンシー):直近でいつ製品・サービスを購入したか
  • Frequency(フリークエンシー):どれくらいの頻度で購入しているか
  • Monetary(マネタリー):どのくらいの金額を使っているか

RFM分析2

「ロイヤル顧客」だけでなく、「優良顧客」「ポテンシャル顧客」「リピート顧客」「休眠しかけている顧客」など、顧客層をかなり細かくセグメンテーションできるため、各層にきめ細やかなマーケティング施策を実施できます。

デシル分析

デシル分析とは、顧客をある一定期間の購入金額あるいは販売個数などにもとづき、10等分にセグメンテーションするシンプルな分析手法です。


単純な方法ですが、パレートの法則(20:80の法則)でいう上位2割を見出すことができます。大抵の企業で売上げの8割を占めている上位20%の顧客グループにフォーカスしてマーケティング施策を行ったり、営業リソースを配分したりすることで、効率よく売上げを上げることができます。

デシル分析の仕組み

クラスター分析

クラスター分析とは、さまざまな特徴を持つ混在したビッグデータを、客観的な数値基準、類型性によっていくつかのクラスター(グループ)に分ける、機械学習・データマイニング手法のひとつです。

「教師なし学習」といって人間が分類基準を指定せず、純粋にデータから近似性のみで顧客セグメンテーションできるため、人のバイアスに影響されない結果が出て、新しい顧客グループの発見につながることもあります。

「階層クラスター分析」と「非階層クラスター分析」2つの手法がありますが、いずれも広告やDMの配信先のセグメンテーション、ブランドのポジショニング分析のほか、さまざまなマーケティング施策に活用できます。

非階層クラスタリング図

非階層クラスタリング図

(出典:政府統計局

上記の3手法は、ExcelやCRMのセグメンテーション機能でも実施可能です。

以下は、顧客アンケートを活用するセグメンテーション手法です。

NPS(ネットプロモータースコア)

NPS(ネットプロモータースコア)は、ユーザーのたった1つの質問「この企業(製品サービス、ブランド)を友人や同僚に勧める可能性はどれくらいありますか?」に対する回答のスコアで、顧客を以下3つのグループにセグメンテーションできます。0〜10の11段階で評価してもらい、数値によって以下の基準で分類します。

  • 0〜6は「批判者」
  • 7~8は「中立者」
  • 9~10は「推奨者」

シンプルな方法ですが、業績との相関関係が高いということで世界の多くの企業で活用されています。

NPS(ネットプロモータースコア)

(引用元:https://markitone.co.jp/column/importance-of-nps/

CPM分析

CPM分析とは、顧客をコスト(Cost)、利益(Profit)、維持(Maintenance)の3つの指標でセグメンテーションする分析方法です。それぞれの指標を以下のように定義します。

  • Cost(コスト):顧客を獲得するためにどれくらいのコストがかかっているか
  • Profit(利益):顧客が企業にもたらす利益の総額
  • Maintenance(維持):顧客を維持するためにどれくらいのコストがかかっているか

CPM分析は、顧客獲得から維持までが重要となるSaaSビジネスに有効なフレームワークです。

たとえば、高コスト・高利益・高維持のセグメントは、顧客獲得コストも維持コストも高いですが、それに見合うだけの高い利益をもたらす顧客です。大企業のクライアントがこれに該当します。このセグメントには、パーソナライズされたサービスや専任サポートを提供し、顧客ロイヤルティを強化する施策が適しています。

一方、高コスト・低利益・高維持のセグメントは、顧客獲得コストも維持コストも高いが、利益が少ない顧客です。たとえば、サポートに多くのリソースを必要とする小規模企業がこれに該当します。このセグメントには、効率的なサポート体制やコスト削減策を導入し、収益性を改善する必要があります。

低コスト・高利益・低維持のセグメントは、顧客獲得コストが低く、利益が高く、維持コストが低い理想的な顧客です。口コミや紹介で獲得した顧客がこれに該当します。このセグメントでは、感謝の意を示す特別なキャンペーンやロイヤルティプログラムを展開することで、さらに多くの紹介を促進します。

このように、コスト、利益、維持の3つの指標を用いて顧客をセグメンテーションすることで、顧客ごとの収益性を詳細に理解し、効率的なマーケティング戦略を設計できます。各セグメントの特性に応じたパーソナライズされた施策を展開することで、顧客満足度の向上や売上げの増加へとつなげられるでしょう。

顧客セグメンテーションの実践ステップ

顧客セグメンテーションを効果的に実施するためには、系統立てたステップを踏むことが重要です。以下に、顧客セグメンテーションの基本的な実践ステップを詳しく解説します。

STEP①:分析するデータの収集を行う

顧客セグメンテーションの第一歩は、分析に用いるデータを収集することです。質の高いデータが集まるほど、セグメンテーションの精度が向上します。まずは、以下のような顧客データを収集しましょう。

  • デモグラフィックデータ: 年齢、性別、収入、職業、教育レベルなどの基本的な人口統計情報
  • 企業データ: 所属業界、企業規模、従業員数、収益などの企業情報
  • 行動データ: 購買履歴、ウェブサイトの訪問履歴、製品やサービスの利用履歴、カスタマーサポートへの問い合わせ履歴など
  • 心理的データ: 顧客のライフスタイル、価値観、興味関心、技術志向など、顧客の心理的側面に関する情報
  • 過去の取引データ: 購入日、購入金額、購入頻度、契約更新履歴、支払い履歴など

このようなデータは、CRM(顧客関係管理)システムやGoogle Analyticsなどのウェブ解析ツールなどから得られます。また、自社内にペルソナをはじめとした顧客に関する資料があれば、この段階で確認しておきましょう。

STEP②:分析軸の選定

十分な量のデータを収集したら、次に分析軸を選定します。デモグラフィックや購買頻度、購入金額、技術志向などさまざまな観点から分析軸を考えてみましょう。

たとえば、BtoBのソフトウェア企業が分析軸を選定する際には、以下のような基準を用いるとよいでしょう。

  • デモグラフィック軸: 顧客企業の業界や規模にもとづいたセグメンテーション
  • 行動軸: ウェブサイトの利用頻度や製品の使用状況にもとづいたセグメンテーション
  • 心理的軸: 顧客企業の技術志向やビジネス目標にもとづいたセグメンテーション
  • トランザクション軸: 購買頻度や購入金額にもとづいたセグメンテーション

STEP③:自社にあるデータをもとに分析してみる

最後のステップは、選定した分析軸にもとづいて、自社にあるデータを分析することです。先にご紹介したRFM分析やクラスター分析などのフレームワークを用いましょう。これにより、具体的な顧客セグメントを特定し、各セグメントに対する適切なマーケティング施策を立案できます。

たとえば、ソフトウェア企業が自社のデータを分析する際、RFM分析を行って、高頻度で高額の契約を更新する企業を特定したとしましょう。このセグメントには、ロイヤルティプログラムや特別割引を提供し、長期的な関係を強化する施策が考えられます。

またはデシル分析を活用して、売上げの上位20%を占める顧客を特定し、専任のアカウントマネージャーを配置して重点的にサポートします。

これらのステップを踏むことで、顧客の特性や行動パターンを深く理解し、各セグメントに合わせたマーケティング施策を展開できます。顧客満足度の向上や売上げの増加を実現するためには、データ収集から分析までのプロセスを徹底し、継続的に改善することが重要です。

顧客セグメンテーションの例

ここでは、顧客セグメンテーションを行い事業に活かした例を紹介します。

MetLife生命

メットライフ生命

(出典:メットライフ生命

メットライフ生命は、アメリカ合衆国に本拠を置く世界最大級の生命保険会社のひとつです。

2015年にそれまでの人口統計やライフステージにもとづく顧客セグメンテーションから、人口統計、企業統計、態度、ニーズタイプの情報を組み合わせて、抽出するクラスタ分析により顧客をセグメンテーションしました。

具体的には、5万人以上の顧客にインタビューと調査を行い、ビッグデータのクラスタリング技術を利用して、新たな顧客グループのセグメント化を進め、市場投入のアプローチを再構築し業績を伸ばしました。(参考:https://d3.harvard.edu/platform-rctom/)

レゴグループ

レゴグループ

(出典:レゴグループ

レゴグループは、デンマークに本拠を置く、世界有数の玩具メーカーです。レゴブロックを中心とした製品で知られており、子供から大人まで幅広い年齢層に人気があります。

以前は顧客の購入と使用にもとづいて6つの異なるペルソナを識別していましたが、そのうちブランドとより深い関わりをもつ3つのペルソナに該当する顧客を、一つのグループとしてセグメンテーションしました(この場合、ペルソナを識別指標として活用しています)。

  • 「名前と住所を知っている人たち」
  • 「レゴを購入したことがあり、レゴショップやレゴパークに行ったことがある人」
  • 「過去12カ月間にレゴを買ったことがある人」

さらにこの新しい顧客グループに対し、彼らが頻繁に使用するソーシャルネットワーク上でオンラインコミュニティを構築。彼らの写真やビデオの投稿、新製品のアイデアなどを資産として活用することで、レゴは世界第4位の玩具メーカーへと成長を遂げました。

(参考:https://barnraisersllc.com/

Zenefits

Zenefits

(出典:Zenefits

見込み客のセグメンテーションを、高度なプラットフォームを活用して行うこともできます。人事系SaaSを提供するZenefits社は、マーケティングにFacebookを活用するにあたり、顧客データを Clearbit Advertising (ターゲティングに役立つプラットフォーム)のデータと組み合わせ、新たな顧客グループをセグメンテーションすることに成功しました。

具体的には、ファースト パーティ データ ソースから抽出したカスタム オーディエンスを Clearbit の人口統計・会社統計属性で強化したものです。新しくカテゴライズできた顧客グループは以前より企業規模が大きく(33%拡大)、かつ見込み客から有望なリードへのコンバージョン率も20%増加しました。

カインズ

カインズ

(出典:カインズ

ホームセンターのカインズは、顧客のニーズが多様化し、従来の一括りの価値提供では対応できなくなった現状を踏まえ、顧客セグメントを再構築しました。この背景には、モノが余り、情報が溢れる現代の消費者環境があります。

同社は2018年3月に大規模な組織改革を実施し、従来の「品番単位の商品別組織」から「顧客提供価値をベースとした組織」へと転換します。この改革により、顧客を以下3つのセグメントに分類しました。

  • ライフスタイル

ターゲット:自分のライフスタイルにこだわり、生活をより良くしたいと考える顧客。

提供価値:ライフスタイルに合った「こだわりのモノ」を提供し、生活の質を向上させる商品やサービス。

  • 日用雑貨

ターゲット顧客:日常的に消費する商品を便利に、すぐに購入したいと考える顧客。

提供価値:効率的な購買行動をサポートする商品やサービス。日用品の迅速な提供。

  • プロ

ターゲット顧客:職人や専門家で、現場で必要な物を早く安く調達したい顧客。

提供価値:QCD(品質、価格、納期)を重視し、専門的な商品を迅速に提供。

顧客セグメンテーション後、顧客ニーズに合わせた価値提供を実現するためにDXを積極的に導入します。具体的には、アプリ「Find in CAINZ」を導入し、顧客が店内で必要な商品を簡単に見つけられるようにしました。このアプリは、商品を入力するだけで店内のどこにあるかを示し、在庫状況も確認できる機能を持っています。

これらの取り組みにより、カインズは顧客満足度の向上とリピート率の増加を実現しました。特に「ライフスタイル」セグメントにおいて、こだわりのある顧客に対するパーソナライズされたサービスが好評を得ています。

まとめ

顧客セグメンテーションとは、顧客をある特徴で複数のグループ(セグメント)に分類することを指します。「ロイヤル顧客」の特定はもちろん、「ポテンシャル顧客」「リピート顧客」「チャーンの可能性が高い顧客」「アンタッチャブルな顧客」など、企業の方針によってさまざまなセグメンテーションが可能です。

重要な顧客や、ポテンシャルの高い顧客に集中してマーケティングのリソースを投下すれば、費用対効果のよいマーケティングを行えるでしょう。また、SaaSにおいてはチャーン率が重要なので、チャーンしそうな顧客を特定するセグメンテーション(自社基準が必要)を行い、早期に対応することでリテンション率を向上させることができるはずです。

いろいろな指標で顧客のセグメンテーションを行い、自社の顧客がどのようなグループで構成されているか(どのようなモザイクになっているか)全体像をつかみましょう。きめ細かいマーケティングができるだけでなく、新製品開発、営業戦略にも役立ちます。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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