BtoB SaaSのマーケティングを担当している方は、顧客分析にどの手法をお使いでしょうか?
顧客分析手法には「ABC分析」「デシル分析」などさまざまな分析手法がありますが、BtoB・BtoCを問わずよく活用されている手法は「RFM分析」です。
RFM分析は3つの指標を用いて分析することで、現状の「優良顧客(ロイヤルカスタマー)」「安定顧客」「成長中の顧客」「離脱中の顧客」などを特定できます。顧客層ごとに適したマーケティング戦略を立てる際に役立つ方法です。
一般に企業の売上げの8割を占めるのは、1~2割の顧客と言われています。マーケティング担当者が、限られた予算の中で成果をあげるためには、とくに「現在の優良顧客」「これから優良顧客になる顧客」を見出して、効率的なアプローチを実施する必要があるでしょう。
本記事では、RFM分析とはどのような手法か? 目的と使い方、使う際のステップについて解説します。
RFM分析とは?
RFM分析は、もともと米国の通信販売会社が、カタログを発送する顧客を選別するために導入した手法です。Recency (直近の購入日)、Frequency (頻度)、Monetary (購入金額)の3つの指標で、顧客データを分析・ランクづけします。
ちなみにABC分析は、「売上実績」などの1指標のみで分析する手法です。それと比較してRFM分析は「R」と「F」の指標があることで、変動する顧客の状況をより正しく分析できるのが特徴です。
3つの指標
- Recency(リーセンシー):直近でいつ製品・サビスを購入したか
- Frequency(フリークエンシー):どれくらいの頻度で購入しているか
- Monetary(マネタリー):どのくらい金額を使っているか
RFM分析の目的と使い方
RFM分析の目的は、顧客の購買履歴を分析して「優良顧客」を発掘すること。そして顧客層を細かくカテゴライズし、それぞれの層に適したマーケティング施策を実施することで、売上げ拡大、ROI向上につなげることです。
RFM分析では、数値が類似しているグループを特定できます。何段階で分けるかによって、かなり細かく分類が可能です。たとえば各指標を3段階に分ければ、3×3×3の27グループに分けられます。
分け方は、RFM分析の目的によって自由に設定できます。シンプルにロイヤルカスタマー層の特定のみに活用しても、細かくカテゴライズしてマーケティング施策を練ってもかまいません。
日本では、よく優良顧客(企業の8割の売上げを占める2割の顧客)の特定に活用されます。RMFの3指標がすべて高スコアの顧客は、企業がもっとも大事にすべき「ロイヤル顧客」です。
マーケティング先進国の米国では、RFM分析で顧客を4~10グループ以上に分けて、よりパーソナライズされたマーケティング活動を行うことも珍しくありません。
4グループに分ける例:
米国のマーケティング支援企業ADMIRED marketing社は、Eコマース企業として、以下のようにセグメントを高・中・低(価値)の3つに分類し、顧客を4グループに分ける例を紹介しています。
「High value customers(価値の高い顧客)」
「Repeated customers(リピート顧客)」
「New(新規顧客)」
「One time(一度きりの顧客)」
(参照:https://admired.marketing/customer-channel-optimisation)
11グループ分類とマーケティング施策の例:
米国のカスタマーエンゲージメントプラットフォーム企業MoEngage社は、以下のように11種類に顧客をカテゴライズして、それぞれに適した戦略を立てることを推奨しています。
(参照:moengage.com)
- Champions(チャンピオン)
- Potential(ポテンシャル顧客)
- Loyalists(ロイヤリスト)
- Recent Users(最近の顧客)
- Can't Lose them(失ってはならない顧客)
- Needs Attention(注意すべき顧客)
- Loyal Customers(ロイヤルカスタマー)
- Price sensitive(価格に敏感な顧客)
- About to Sleep(休眠しかけている顧客)
- Hibernating(休眠顧客)
- Lost Customers(失った顧客)
上記はあくまで例です。顧客を何グループに分けるかも、呼称を「A~C顧客」とするか「VIP顧客」「優良顧客」「チャンピオン」などにするかもルールがあるわけではありません。自社のRFM分析を行う目的にもとづいて最適な区分を決め、わかりやすいネーミングをつけましょう。
優良顧客を見つけるRFM分析の構成要素
ここでは、RFM分析の構成要素を解説します。
RFM分析の構成要素:R(Recency)
Recencyは、直訳すると「最近」という意味です。
RFM分析における「R(Recency)」は、もっとも最近購入した日時を意味します。
直近で購入している顧客はニーズがあり、製品・サービスに満足すればリピーターになる可能性があると解釈できます。Rの数値が低い顧客(最近買っていない顧客)は離脱中の可能性があります。
ただ「最近」の定義は企業ごとに異なります。毎月売上げられる製品・サービスであれば先月が最近かもしれません。
2~3年に1回売上げがたつ製品・サービスなら昨年であっても最近でしょう。実際にRFM分析する場合は自社基準で「最近」を定義する必要があります。
RFM分析の構成要素:F(Frequency)
Frequencyは直訳すると「頻繁に」という意味です。
RFM分析における「F(Frequency)」は、一定期間内にどのくらい頻繁に製品・サービスを購入しているかを表します。
頻繁に製品・サービスを購入している顧客は、製品・サービスとマッチングしている可能性が高い常連顧客です。Fが低い(たまにしか購入しない顧客)はニーズ自体が少ないかそれほど製品・サービスを気に入っていない可能性があります。
一度だけ大きな取引に至った顧客(Mの高い顧客)でも、Fがかなり低い場合は製品・サービスに不満足でリピートしていない、資金状況が変化した、あるいはニーズが充足したなどの可能性が考えられます。
RFM分析の構成要素:M(Monetary)
Monetaryは直訳すると「通貨、金銭」という意味です。
RFM分析におけるM(Monetary)は、一定期間の累計購入金額を意味します。
当然、企業にとって購入金額大きい(売上げ金額が大きい)ほど上位顧客となるでしょう。Mの指標が高いということは、顧客の資金力が潤沢であること、製品・サービスに満足していることを意味します。
上記のように1つの指標だけではロイヤル顧客を特定することは難しいため、RFM分析では3指標、2指標を組み合わせて分析します。
RFM分析の進め方
ここでは、RFM分析の進め方を紹介します。
ステップ1.目的の確認
まず、RFM分析を使う目的を明確にします。RFM分析は、設定次第でいくらでも精緻な分析が可能ですが、目的によってはそこまで細かく分類する必要がない場合もあります。
目的が明確でないと分析の対象データを何年間分にするか、顧客を何グループに分けるかが決めづらくなります。柔軟に使える分析手法だけに、最初の設定がポイントです。
目的例:
- 現在の優良顧客(上位20%の顧客)の特定
- 急成長の顧客の特定
- 離脱しつつある顧客の特定
- コストをかけるべきでない顧客の特定
- 全顧客のグループ分けとマーケティング戦略策定
顧客データの整頓
なお、RFM分析にかぎらず正しい分析結果を導き出すには、一定のデータの「量」が必要です。また、データの「質」も重要です。データに偏りがないことが大切であり、顧客データが各部門に点在している場合、統合してからRFM分析をする必要があります。
さらに、全角・半角の指定や住所、年月日などの表記ルールがばらばらだと、データが重複していることが多いため、一度名寄せをしてデータを整理整頓します。名寄せについてはこちらの記事をご覧ください。
・名寄せとは?BtoB企業であれば知っておくべきデータマネージメントの重要性
ステップ2:ランクづけのルール設定
RFM分析を行うためには、自社独自の「R」「F」「M」のルールを決める必要があります。なぜなら「優良顧客」の基準は、企業ごとに異なるからです。
たとえば購入金額のランクを5ランクに分ける場合、最も高いランク「5」の条件を「100万円以上」に設定する企業もあれば「1,000万円以上」に設定する企業もあるでしょう。
同様にR(最近)とF(頻繁)の定義も、各社のセールスサイクルによってかなり異なります。あくまで、自社の製品・サービスの価格帯、実績を考慮して決めましょう。
例)
- R:直近に購入している顧客から5→1にランク付け(3ランクの場合は3→1)
- F:購買頻度の高い顧客からら5→1にランク付け(3ランクの場合は3→1)
- M:購入金額の大きな顧客からら5→1にランク付け(3ランクの場合は3→1)
以下は、SaaS企業の例ではありませんが、5ランク、3ランクに分けた場合の例です。
5ランク
(画像出典:アドバンリンク株式会社)
3ランク
(出典:Mtame)
ステップ3:顧客をグループにわける
エクセルやGoogleスプレッドシート、ITツール(CRM、RFM専用ツール)などでRFM分析を行います。
CRMには、RFM自動分析機能がついているものもあります。ついていない場合、データベースから顧客の購入履歴をエクスポートしたり、データとしてスプレッドシートに取り入れたりします。
ステップ2で定めた数値にもとづき、各顧客のスコアを出しましょう。近似した数値の顧客をグループに分けします。なお、RFM分析は3指標ありますが分析の目的によっては1指標だけ、2指標だけを活用しても問題ありません。
例:
- 優良顧客 - RFMの3指標とも高い(5-5-5)
- 離脱しつつある顧客 - Rが低くFMは高い(ex,1-5-5、2-5-5)
- 安定顧客 - Mはそれほど高くないがFとRが高い(ex,5-5-3、5-4-2)
- 休眠顧客 - RFMの3指標すべて低い(1-1-1)
顧客スコアのイメージ
(出典:Cxl.com)
ステップ4:顧客をグループごとにマーケティング戦略を立案
分析結果が出たら、顧客のグループごとに有効なマーケティング戦略を立案します。
各グループのニーズ、を踏まえたアプローチをして、PDCAを回していきましょう。
優良顧客に対してはマーケティング予算を集中的に投下し、他社に奪われないようにするのが大事です。離脱傾向の見える顧客に対しては、何かしらの特典を提供したり逆に不満足なポイントがないかリサーチし可能であれば、製品・サービスを改善し、離脱をくいとめるように試みます。
休眠顧客に対しては掘り起こしのアプローチをする、逆にアプローチ自体を停止しマーケティングコストを削減する2つの選択肢があります。
まとめ
マーケティング施策を成功させるには、顧客理解がポイントです。顧客を理解するためには直に顧客とコミュニケーションをとることも重要ですが、データを分析し数値からシビアに傾向を判断することも重要です。顧客の動向は常に変化します。
RFM分析を定期的に行い、自社の最優良顧客はどの企業か? ロイヤル顧客に育成すべき顧客はどの企業か? 離脱傾向が見られる顧客にはどう対応するか、などをつかみましょう。
顧客層にパーソナライズされたマーケティング施策を実施すれば、顧客満足度の向上、リテンションが期待できます。引いては売上げ・収益の増加、ROIの向上につながるでしょう。