現在のようなデジタル社会では、データを有効活用できるかどうかでマーケティング成果が大幅に変わります。もちろん、そんなことは百もご承知でしょう。それでもデータに関する業務は地味であり面倒であり、あらゆる業務の根幹でありながら、ついつい後廻しにされがちです。
何しろ、昔とは違い企業が収集できるデータが膨大なので、データマネジメントの難易度が高まっているのも悩ましいところ。マーケターとしても、どのデータを選んでどう分析すればよいのか悩む状況ではないでしょうか?
実際、データの品質は重要であり、データ分析のリーディングカンパニーDun &Bradstreet社 の「第 7 回年次 B2B マーケティング データ レポート」によると、データ品質への投資を増やした B2B 企業の 100% で全体的なパフォーマンスが向上、約 94% が販売・マーケティングのパフォーマンスも向上したそうです。
本記事では、データベースマーケティングとは何か? BtoBマーケティングで扱うデータの種類、データ品質管理のポイント、データベースマーケティングであげられる成果について解説します。
データベースマーケティングとは、顧客や見込み客のデータを一元管理し、それぞれの顧客に適したマーケティングを行い、売上げ向上につなげる考え方です。
BtoB企業が扱うデータを大別すると、マスデータ、トランザクションデータ(取引データ)、インテントデータ(Web上の行動データなど)があります。マーケティング部門では、主に以下の顧客データを収集します。
このようなデータベース上のデータを分析し、マーケティング戦略立案に活かします。例えば、顧客層ごとあるいは個々の顧客にパーソナライズされたマーケティングを行い売上げ拡大につなげたり、新規見込み客の属性データや行動履歴データなどをもとに、適切なチャネルにマーケティングメッセージを届け顧客化を促進したりします。
データベースマーケティングは、ダイレクトマーケティングの一種です。考え方自体はシンプルであり、顧客データをもとにビジネスを進める(そのお客様が好みそうな商品を提案する、必要そうな情報を提供しコミュニケーションを深める)という話です。
言わば商売の基本であり、古くは日本の越中富山の薬売りなども行っていますし、現在のデータベースマーケティングに活用されているRFM分析も、元は米国の通販会社が生み出した手法です。
(出典:イラストAC)
今の時代でも退職時の顧客リスト持ち出しが騒ぎになるように、顧客データベースとは企業にとって宝、門外不出にしたい売上げの基盤なのです。
データベースマーケティングは、昔はカタログマーケティング、テレマーケティングなどが主体でしたが、昨今はSNSマーケティング、メールマーケティングなどデータを収集したり、分析・アプローチしたりする手法が多様化しています。
その分データを使いこなす能力によって、成果に差がつきやすくなっていると言えるでしょう。
ここでは、データベースマーケティングを行う一般的な目的を解説します。
データベースマーケティングでもっとも多い活用目的は、今のところ既存顧客のカテゴライズでしょう。
顧客にはさまざまな層があります。例えば、パレートの法則(80:20の法則)で言われるように、多くの会社で売上げの8割を占めるのは2割の既存顧客。このロイヤル顧客(優良顧客)の特定にも活用できます。
また、RFM分析などを行えば、かなり顧客層を細分化できます。「チャンピオン顧客」「ロイヤル顧客」「リピート顧客」「新規顧客」「休眠顧客」など呼び名は企業によってさまざまですが、自社の戦略にあった分類が可能です。
ちょっと難易度は高いのですがクラスター分析を活用すれば、今まで想定していなかった新しい顧客グループ(市場)を発見できる可能性もあるでしょう。顧客層ごとに異なるマーケティング施策を展開することで、よりマーケティングの成果を上げることができます。
データベースマーケティングで高度な顧客セグメンテーションを実施することで、コンバージョン率が最大5倍向上するというデータがあります。
(出典:Tutor2u.net)
データベースマーケティングは、リードジェネレーション、リードナーチャリングにも有効です。メルマガ登録、ウェビナー参加、コンテンツダウンロードなどをきっかけに接点ができたリードのデータを蓄積します。
近年のITツールを活用すれば、メルマガの開封状況、よく訪問する自社サイトのページ、デモ視聴などがわかるので、見込み客の関心度が把握できます。適切なタイミングで適切な情報提供を行えば、自社への興味・関心度をさらに持ってもらえ、案件化につなげやすくなります。
MAのリードスコアリングを使いこなせる場合は、以下のように配点を行ってそれを合計し、見込み客の関心度を数値で可視化できます。
一般に、お客様は購入する前は業者をそれほど信用せず、あまりにパーソナライズされた提案をされると警戒します。しかし、購入後は一転して、痒い所に手が届くサービスを期待する傾向があります。
「そんなことも情報共有されていないの? 」と怒りを買うことすらあるでしょう。そう考えると、マーケティングやセールスよりも、カスタマーサポートこそがデータベースマーケティングの威力を発揮できる領域かもしれません。
カスタマーサポートのレベルの高さは重要で、リテンション率に相当に影響します。2022年のZendesk社のレポートによると、顧客の60 %以上は不快な対応を一度経験しただけで他社に乗り換えてしまうそうです。
もちろんスタッフの品質、優れたシステムも必要ですが、蓄積された良質のデータベースがなければカスタマーサポートの品質は上がりません。
以下は、Zendesk社の別なデータですが、顧客がカスタマーサービスを不満に思うのは「やりとり中の保留時間」が1位です。3位には「何度も同じ情報を繰り返す必要がある」、4位には「エージェントが顧客情報を整理してもっていない」という回答が並んでいます。
(出典:Zendesk)
顧客データベースを整備して、会員コードを伝えれば、カスタマーサポートスタッフがすぐ顧客情報にアクセスし、どのような商品・サービスをどのくらいの期間活用しているか、これまでの問合せ履歴、前回の対応などを踏まえて対応できることがベストです。このようなパーソナライズされたサポート体験は顧客満足度を高めます。
意外と足元が手薄になりがちなデータベースマーケティング。もしかしたらスタート地点に立つ前に、準備をする必要があるかもしれません(その状態でもスタートは切れますが、後で壁にぶつかります)。
前述のようにデータが膨大に集まりやすい時代は、データの品質が重要。データ品質への投資を増やした B2B 企業の 100% は全体的なパフォーマンスが向上、約 94% が販売・マーケティングのパフォーマンスも向上しています。
(出典:KoMarketing)
以下、データベースマーケティングを進める基本ステップから解説します。
最初のステップはデータの定義を決めることです。言い換えれば、自社のデータ収集のルール、データの入力の基準の統一です。基本として以下は統一しましょう。
Excel管理であれSaaSであれ必要です。MAやCRMを活用する場合は(もしくは将来的に使う場合)、データは自動処理となるのでデータの入力形式や、データの名称の定義を決めておかないと、データが重複するなどしてSaaSを使う意味があまりなくなります。
例えば、日本の企業の役職などは企業によって課長、副課長、所長、副所長、補佐などバラエティに富んでいます。ここも「役員」「ゼネラルマネージャー」「マネージャー相当職」「一般」にカテゴライズすると、ツール類の連携がスムーズです。
社内ルールを統一したとしても、実際に集めたデータが綺麗に統一されていないことはよくあります。中には、展示会来場者のメモに近い手書きアンケート情報などもあるでしょう。
そのため、データを使う前には必ずクレンジング(大掃除)が必要です。
抽出したデータを、前項のように決めた定義にもとづいて揃えなおしましょう。名寄せと呼ばれる作業です。重複しているデータ、まったく使えないデータを削除します。Excelなどを使い自社で行うことも可能ですし、有料データクレンジングツールを活用してもよいでしょう。
見込み客であれ既存顧客であれ、時間の経過とともに購買心理・行動は変化します。行動履歴などをもとに、その変容に合わせデータに階段をつけましょう。そうすると、現在顧客がどのステージにいるかをすぐつかめるようになります。
BtoBの場合、衝動買いはほぼなく、購入決定するまでに一定のステップを踏んでいきます。そのため、リードライフサイクルに合わせて階段をつけると、届けたいマーケティングメッセージを必要なタイミングで届けることができます。
既存顧客についても、最初はお試しで利用した顧客が、商品・サービスを気に入りリピーター顧客となり、さらにはロイヤルカスタマーになるなど、顧客は段階を踏んでいきます。自社にとって重要なロイヤル顧客に変化していくことを想定し、階段を設定すると顧客とのリレーションシップマーケティングが実施しやすくなります。
5段階の例
もちろん、企業規模、業種等によってある程度取引額のMaxは決まります。
しかし、SaaSは少数の既存顧客対象のビジネスではなく、数多くのカスタマーに長期利用してもらうビジネスモデル。多数の既存顧客にアプローチして、それぞれの顧客単価を上げることが大切です(そもそも重点顧客はセールスチームがサポートしてもいるでしょう)。
次に、各階段に合わせたコンテンツを用意します。見込み客、顧客に分けて解説します。
見込み客向けのコンテンツ
前述の階段にある「トラフィック」「サブスクライバー(リード未満の潜在見込み客)」「リード」「MQL(有望見込み客)」「SQL(営業案件となった有望見込み客)」向けに適したコンテンツを作成しておきます。
階段ごとのコンテンツ例
→入門ガイド、チェックリスト、業界レポート、短時間の動画
→成果事例(業界別、規模別、テーマ別、etc)、ホワイトペーパー
→デモの閲覧、FAQ、見積シミュレーション、フリーミアム紹介頁
これまでの記事でよく使っているファネルにあてはめるとこんな感じです。大切なのは見込み客の変化に合わせてどのステージでもコンテンツが用意されていることです。
一方、既存顧客に対してはサービスの活用がスムーズに進むサポートコンテンツ、顧客エンゲージメントを高めるコンテンツを送付します。継続してコンテンツを送ることで、お礼の気持ちやサポートする姿勢を感じてもらうことが大切です。こちらも前述の階段に応じて中身を変えましょう。
最後が、コンテンツを適切なデータに対して届けるステップです。見込み客も既存顧客も一人の人間なので、心理も行動も変容していきます。
リストが少なく、コンテンツもメルマガということであれば、Excelで管理してメール配信ツールを利用してもよいでしょう。しかし、リストが多く日々変容する行動データやトランザクションデータの経過を手動で追うことは困難なので、ツールを活用しキャッチアップすることが望ましいでしょう。
入力定義やルールが統一されている段階であればMAやCRMを活用し、見込み客、顧客に向けて、適切なコンテンツを配信します。一般に、MAはマーケティング用、CRMは既存顧客管理用、SFAは営業部門が追う見込み客データベースと区分けできますが、ツールによってはすべてカバーできます。
以下はおすすめ2ツールです。
(出典:HubSpot)
HubSpotのマーケティングソフトウェアは、CRMやSFAの機能もあるため、1つのプラットフォームでデータを一元管理できます。別々のツールを同期させる苦労もなく効率的です。
機械学習による予測型リードスコアリングモデルがあり、見込み客の行動スコアは随時更新されるため、適切なタイミングで適切なコンテンツを送付できます。データが自動更新されるメリットはマーケターにとって大きいものです。
(出典:Salseforce)
Sales CloudはSFA機能、CRM機能のあるSaaSです。コラボレーション機能とマーケティング支援機能が組み込まれているため、顧客の行動、マーケティングエンゲージメント履歴、などの一元管理が可能。新規リード、既存顧客向けにデータベースマーケティングを実施できます。
データマーケティングは、目的決定→データを収集→データクレンジング→マーケティング戦略の立案・実施、というステップで進めていきます。
近年は収集できるデータ量が膨大になっているため、データベースマーケティングで成果をあげるためにはデータの品質管理がカギ。スタート地点でしっかり社内データの定義や入力ルールを決め、社内のMA、CRMなどのデータも同期させましょう。データの品質を向上すればマーケティング成果も向上します。
何より、相手に意味のない内容をコンテンツを送ったり、必要ないタイミングで送ったり、複数の部署からアプローチしたりしてガッカリさせることが減るでしょう。データをセグメンテ―ションし、コンテンツを配信する際は、データの先に生身の感情を持った人間がいることを意識することが大切です。
機械的にアプローチを行うのではなく、望まれているタイミングで、望まれている情報を届けて喜んでもらうためにデータを活用するという視点を常に持っていただければと思います。