ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?向いている企業とそうでない企業

2021/04/13
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米国で2000年代から普及してきたABM(アカウントベースドマーケティング)。

「案件の規模が拡大した」「ROIが改善した」などポジティブな統計結果が多数でており、興味を持っている経営者、マーケティング担当者の方も多いのではないかと思います。

2020年に米国のABMプラットフォーム企業Terminusが行ったABMに関する調査「2020 STATE OF ABM REPORT(英語)」では、テクノロジー企業、ソフトウェア企業、製造、サービスなどの幅広い業種から回答がよせられ、その94.2%がABMを導入しているという結果が出ました。

米国では、全業種での割合ではありませんが、ABMがスタンダードなマーケティング施策になっている様子が読み取れます(レポートではコロナウイルス感染症の影響が導入を加速させたと分析されています)。

本記事では、「ABMとは何か?」「なぜ注目されてきたのか?」「ABMに向いている企業とそうでない企業」について解説します。

ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?

パレートの法則でよく知られるとおり、企業収益の約80%は既存顧客の一部企業から得られます。ABMとは、このような自社製品・サービスのニーズが極めて高く、予算を豊富に持つ見込み客のみをターゲットに行うマーケティング施策です。

初期の段階で、マーケティング部門と営業部門が最重要となる「ターゲットアカウント(企業)」「ステークホルダー(決裁権者及び関係者)」を絞り込み、連携してアプローチしていきます。ターゲットの絞り込みの精度は、企業によって多少異なり、2000年代初頭にABMというコンセプトを打ち出した米国ITSMA社は、ABMを以下の3種類に分類しています。

  • 戦略的ABM:個々のアカウント向けに高度にカスタマイズされたマーケティングプランを作成して1対1で実行。

  • ABM Lite:軽くカスタマイズされたプログラムを1対少人数のアカウントグループ(通常は一度に5~10アカウント)に向けて実行。

  • プログラマティックABM:対個人ではなくアカウントベース。1対多であり、数百または数千の識別されたアカウントに対する細かいターゲティング、分析、パーソナライズなどのアプローチを最新のテクノロジーで実行。



    ABMのタイプとアプローチ方法

(出典:ITSMA

 

別に新しい考えではないABM(アカウントベースドマーケティング)

ABMとは、自社にそれほど価値をもたらさない見込み客に時間・労力をかけるのではなく、大きな取引になる可能性の高い企業にのみリソースを集中させていくマーケティング戦略です。言ってみれば従来から多くの日本企業が行ってきた営業アプローチと、土台の思考は何ら変わりありません。

日本でも多くの企業が公には出さずとも取引企業をランクづけして、大きな売上が見込める企業に対しては、優秀な営業マンが担当(場合によっては複数人のチームを作って担当)します。経営者、役員もときに営業に同行し、ときに接待を行い取引先の経営層、担当者個人と深く強固な関係性を築いてきたかと思います。

ゆえにABMのコンセプトは、日本で理解されやすいといえるでしょう。ABMはマーケティング施策の中でも、営業よりの施策です。データベースマーケティングを活用し、より有効な見込み客に効率よくアプローチしています。

ではなぜABM(アカウントベースドマーケティング)が注目されるのか?

ABMが近年注目されてきた理由は2点。一つは、BtoBにおいても顧客の購買行動の前工程がオンラインにシフトしたこと(BtoB企業の担当者の購買プロセスの57%がオンライン上で完結する時代になりました)。

もう一つは、マーケティングテクノロジーの急激な進化にあります。BtoB企業もBtoCと同様に、見込み客の担当者に対してオンライン上のタッチポイントでパーソナルな顧客体験を提供してリードを獲得できるようになりました。

従来の営業戦略を、AI等を搭載した先端テクノロジーを活用することでより精度高く実現できるようにしたのがABMだといえるでしょう。

では、当初からポテンシャルの高い見込み客だけに絞ってマーケティング施策を行うとどのような成果が得られるでしょうか?

2017年にABM Leadership Alliance(調査・報告書はTOPO)が企業幹部50名に行った「ABM: State Of The Market」によると、ABMを導入した企業の年間平均契約額は、171%増加しています。ABMは初期の利用者にも大きなリターンをもたらしています。

 

(ABM平均契約額グラフ)

 

ABMによる平均契約額の変化

 

(出典:ABM in action

 

また、前述のTerminusの2020年レポートでも「企業の需要創出の約80%がABMプログラムを通じてもたらされ全体の収益の73%がABMに起因している」というデータがでています。また、「ABM導入初期の企業が収益の約3分の1をABMのプログラムから得ている」とレポートされています。

ABMは、ターゲット企業が大きいだけに時間がかかるプロセスだといわれますが、実際には短期間で成果を得ている企業も多いことに驚かされます。

 

ABMの成熟度

 

(Terminus

 

自社にABM(アカウンドベースドマーケティング)が向いているのかを見極めるには

ABM(アカウントベースドマーケティング)は、自社のリソースを一部の企業に絞り込む戦略をとるため、向いている企業とあまり向いていない企業が存在します。

自社製品サービスを導入できる企業規模は?

貴社の事業はエンタープライズマーケットが 対象でしょうか? それとも SMBマーケットを狙っているでしょうか? エンタープライズ向けの製品サービスであり、1社の売上高が莫大であれば(例:1社で100社分、1つのマーケットとみなせるくらいい大きい)、リソースを注ぎ込む価値はあります。

BtoB SaaS企業でわかりやすい例は、Workdayではないでしょうか。彼らのマーケティング施策は非常にシンプルで、ターゲットとなりうる企業に対してABM(と人力)を仕掛け100社の導入でARRが100億円に到達した企業です。

つまり、1社1億円/年の取引ということでABMを仕掛けやすかった、とくに課金モデルがユーザー課金で膨大なユーザーがいる企業に対してABM(と人力)だったことも合わせてよかった点です。

ほかの企業にリソースを割かないという決断は、場合によっては貴重な既存顧客を失ってしまう可能性もあります。また、景気の影響で取引上位企業の顔並びが変動しやすい業界にもあまりおすすめできません。

一定規模のアカウントにフォーカスすれば、相当な売上高が期待できる製品・サービスを扱っている企業、たとえば米国では、IT、コンサルティング、サービスなどの業界が、とくにABMの恩恵を受けるといわれています。

逆に、前述したWorkdayのようなユーザー課金ではない従量課金型SaaSは、基本価格から大きく価格が高くなることが起こりづらく、取引サイズが大きくなりづらいため、ABMの特性を考えると相性はあまり良くありません。

営業チームが明確なデータを持っているのか

ABM(アカウントベースドマーケティング)は、対象企業を絞り込むことが前提なので、すでに営業ターゲットとなる”有効な”データベースを作り上げているかどうかが重要になります。

ABMツールを提供するベンダーが企業リストを提供してくれるケースもあります。しかし、どのような企業が自社にとって大きな価値をもたらす企業かを分析し、ターゲットアカウント設定をするためには現時点での顧客データが必要です。

一般的に良くあるターゲットアカウントの絞り込み要素(企業属性)は、企業収益、従業員数、企業居住地域、業界、(関係部署の)予算、意思決定に関する情報、課題、ビジネスゴールetc などです。

このような重要顧客のセグメントができていれば、業界や企業規模などを参考に自社が優位性を持ちえる新たなターゲット企業をより見つけやすくなるでしょう。また、このような属性情報を中心とした企業プロフィール(ICP:Ideal Customer Profile)に合わせて、カスタマージャーニーも作り上げることが大切です。

データが名刺のような紙ベース、または各営業担当者が各々で利用するITツールに点在している場合、データの統合からはじめる必要があるので時間がかかります。そもそも企業データが少なすぎる場合は、ターゲットの絞り込みはある程度の精度でよく、まず先に幅広い見込み客を集め数を増やしていく戦略をとる必要があるでしょう。

マーケティングチームにABMの実装能力があるか

貴社にマーケティング部門はあるでしょうか? あったとしても日本企業のマーケティング部門領域は、どちらかといえば広告宣伝、ブランディングよりのことが多いのではないかと思います。

前述のとおり、営業部門はターゲット企業を絞り込んで新規開拓営業を行う戦略を昔から実施していますが、おそらくオフライン施策がメインです。多くの企業でABMを実装できるデジタルマーケティングのスキルが高い人材がいない課題があります。

BtoB SaaSの領域の人であればわかりやすいかもしれませんが、ABMをマーケティングチームが行うためには、マーケティング側も営業が活用しているCRMについての知識をある程度持ち合わせていることが必要です。

加えて、データマネージメントの考え方、サードパーティーのデータを購入するのであれば、マーケティング側で利用しているツールとの連携が必要です。またマーケティングオートメーション(MA) + サードパーティーデータ + CRMというツールの”サンドウィッチ”的なの構造を理解しないといけません。

施策を実行できる人材がいなければABMも成功しません。ABMはマーケティング部門と営業部門が連携して取り組む施策であり、社内での立ち回りも大変です。何よりもまず人材を育てなければなりません。

ABM(アカウンドベースドマーケティング)のメリット

ここでは、ABMのメリットを紹介します。

インバウンドで獲得し難い企業へアプローチできる

インバウンドマーケティングは、ターゲットを初期にABMのように明快に選別せず、幅広い層に価値あるコンテンツ、SEO、優れた顧客体験を提供しながら大量の見込み客を惹きつけ、リードジェネレーション、リードナーチャリング、リードクオリフィケーションというステップを踏むことが多くあります。

また、リードジェネレーションとリードナーチャリングの途中までをマーケティング部門が担当することが一般的なため、該当工程にいる見込み客に対して企業が1対1で張り付くことが難しくなり、途中のプロセスで一定数の見込み客が離脱する前提としてプロセスが作られています(The Modelの前提ともなっている)。インバウンドマーケティングとABMの違い

一方で、ABMは施策のターゲットを自社に価値ある企業と定めて、対象に絞り込んだ専門的な情報を届けていくことができます。インバウンドマーケティングのみでは獲得が難しかった有望見込み客に直接リーチする機会を増やせ、早い段階から1対1に近い状態で見込み客と接点を持つことが可能です。

マーケティング部門、営業部門、企業によってはカスタマーサービス部門が連携して顧客体験の提供に尽力するため顧客エンゲージメントの向上、さらなる収益拡大が期待できます。

 

 

3種類のABM

(出典:Drift.com

 

ROIが測りやすく、案件を大きくできる

ABMは、ターゲット企業が少数であり、かつ営業部門と連携して行う施策のため、各アカウントの投資収益率(ROI)を測定することが容易です。

前述したABMの分類の一つ「戦略的ABM」では、マーケティング担当者と営業担当者がついになってターゲットアカウントのために活動を行います。そのため、アカウントについての情報共有が行いやすく、どのような事例を作ったのか、営業資料を作ったのかなど、初年度の収益やコストを緊密にトラックしてROIを計測することとができるため、常にマーケティング施策を検証・改善できます。

ABMの基本性質にそのような特徴があるため、ITSMAの調査ではB2Bマーケターの87%が、ABMがROIの面で他のマーケティング投資を上回ると報告しており、ABMを利用している企業の91%が平均案件サイズを増加させたとしています。

 

ABM の平均案件サイズ

 

平均案件サイズが大きくなりやすいのもABMの特徴。これは前述した「ランド アンド エクスパンド戦略」がABMの基本で、日本語にするなら「小さく導入して頂き、時間と共に横展する」と理解するとわかりやすいかもしれません。

たとえば、ABMでターゲットアカウントとなりうるBtoB企業であれば、一企業の中に複数事業部を持っていることが普通であり、事業部はまるで別会社のような状態になっていることが一般的です。

ABMは、ランド(小さく導入して頂き)、アンド(関係性を作り次に)、エクスパンド(既存部署や別部署にアップセルやクロスセルを行う)ことが考えの基本にあります。インバウンドマーケティングではそのようなアクションはお客様へ依存する度合いが強いため難しくなります。

チャネルがシンプルなためマネジメントしやすい

通常のインバウンドマーケティングは、オンライン上で自社に少しでも興味・関心を持った見込み客をより多く集め、購買ファネルにそってコンテンツを各チャネルで提供しながら見込み客と信頼関係を醸成し、リードを獲得していきます。

近年のWeb上にはさまざまなメディアが増え続け、チャネルの数も増える一方です。チャネルが多様化しマーケティング施策は複雑になり、見込み客のニーズを確認し絞り込んでいくことに多大な労力を要します。

また、筆者自身がHubSpotでマーケティングを行っていたため実感値としてあるのですが、コンテンツからROIを図るのは大変難しいものがあります。従来型のマーケティング施策の代表格である、展示会やセミナーというのは、基本的には一回行えば完結するためROIの測定期間を定義することによって費用対効果を把握することが可能です。

しかし、ブログ記事やeBookなどのインデックス型のコンテンツは、基本的には未来永劫インターネットの世界に残り続けることが可能であり、とくに認知のコンテンツは検討の段階のコンテンツの入り口となることが多くあります。

そのため、測定をする際にマーケティングキャンペーンの設計を行った上で、キャンペーン単位のROI測定をすることが欠かせなくなりキャンペーンで活用しているチャネルのマネジメントが難しくなります。

その点、ABMは対象が少数の企業であるため、チャネルもシンプル。自社の優良顧客になりうる企業のみに集中できるため、各施策をマネジメントしやすいメリットがあります。

リテンション、新規事業の創出につながる

ABMは、今やリードジェネレーションをはじめとする顧客創出活動だけに有効なのではありません。 前述のTerminus社の2020年のレポートでは、ABMプログラムの活用は「顧客維持(リテンション)」に向けて大きくシフトしています。75%の企業が顧客マーケティングにABMを利用しています(2019年は38%)。

既存顧客との信頼関係が強化されるということは、売上が伸びるだけではなく新たな需要が身近な関係性から生まれてきているということです。同調査では「ABMで最も効果的な面」の第1位は「新規事業の創出」となっています。

2位は「リードジェネレーション」。すでにリードジェネレーションはABMの重要な要素ではありますが一部となっています。

ABMはアカウントのエンゲージメントを向上させて、新たなビジネスを創出し収益を拡大するなど、ビジネス全体に大きく寄与する点にメリットがあります。

 

ABMの効果

(参照:Terminus

まとめ

日本でも数年前から注目されつつあるABM(アカウントベースドマーケティング)。新規の見込み客創出の段階から、明確な戦略のもとターゲットを決めてアプローチしていくマーケティング施策は、先行する米国において大きな成果を生み出しています。

ただし、ABMのコンセプトは日本でもなじみやすい内容ではあるものの、実行となるとAIを搭載したABMツールの活用、マーケティング部門と営業部門の連携が重要になってくるため、どの企業にも向いている施策とはいえません。実行の難易度が高い施策です。

しかし、もしABMに適している場合、新規開拓のみならず既存顧客のリテンション、新規事業の創出など企業にとって幅広いメリットをもたらす施策だといえるでしょう。

戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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