今や航空業界では当たり前となっている「マイレージ」を初めて導入したのは、アメリカン航空といわれています。マイレージはエコノミー、ビジネスなどの座席のクラスとは別に、「アドバンテージプログラム」という仕組みを開発し「自社のサービスを利用すればするほど価格がお得になる」「搭乗時のサービスのランクが上がる」などのサービスを受けられる仕組みです。
アメリカン航空に限らず特定の航空会社のマイレージプログラムに加入し、頻繁にそのサービスを利用している、という人は多いのではないでしょうか。
このような方々はある航空会社にとって「LTV(ライフタイムバリュー)の高い」優良顧客といえるでしょう。反対に、旅行のたびに最安値の航空会社を都度選んでいるというあなたは「LTVが低い」と企業側からは思われているかもしれません。
このように、マーケティング文脈ではLTVの必要性については頻繁に議論されており、BtoBビジネスでも重要な存在です。一方で、抽象度の高い概念でもあることから、LTVについて詳細には把握できていないという方もいらっしゃるはず。
この記事では、分かりづらいLTVの意味や考え方、計算方法、期待できる効果、さらに実際に企業がLTVを高める方法まで分かりやすく説明します。
LTVとは、「Lifetime value(ライフタイムバリュー)」の略で、「顧客生涯価値」を意味する用語です。ある顧客が自社との取引開始から終了までに「どれだけの利益をもたらすか」を表す指標として使われています。
英語圏では「Customer lifetime value」と呼ばれ、「CLV」「CLTV」と省略されるのが一般的です。
LTVは顧客がビジネスにもたらす長期的な価値を測る尺度であり「マーケティング戦略の策定」「収益予測」「顧客獲得・維持」などに関する意思決定を行う際に役立てられます。
その他の指標(例:成約率や顧客維持率など)と比べて、正確な数値計測が難しいのがLTVの特徴です。しかし、多くのマーケターからその重要性について議論されており、2023年現在は業界でも膨大な顧客データへアクセスが容易になったことから、正確なモデリング方法への関心も高まっています。
LTVと似た概念に「 CP(顧客収益性)」が挙げられます。CPとは「Customer profitability」の略で、ある顧客に対して一定期間サービスを提供することで会社が生み出す利益のこと。正確には、特定期間内の顧客から得られる収益と獲得コストの差から計算されます。
各顧客が会社にもたらす利益を計算し「どの顧客との関係が他よりも優れているか」を算出するという点で、CPはLTVと同じように思えるかもしれません。
しかし、両者は起点とする時間軸が異なります。CPが「過去」に視点をおいた利益指標であるのに対し、LTVの視点は「未来」へと向いています。つまり、過去の一定期間(例:前期、前年度)の記録から顧客関係における収益性を算出したものがCP。取引開始から(まだ訪れていない)取引終了までの価値の将来を見据えた尺度がLTVと捉えましょう。
そのため、マネージャーが方針決定を行う上で参考にする指標として、LTVはCPよりも優れているという認識が一般的です。しかし、過去の収益と費用の記録から現実的に算出することが容易なCPに対して、LTVは将来の未確定な要素を多く含むため、現実味のある数字を算出することが難しいともされています。
Antonia Estrella-Ramón、Manuel Sánchez-Pérez、Gilbert Swinnen、Koen Vanhoof共著の論文
「Article A marketing view of the customer value: Customer lifetime value and customer equity」によれば、LTVとCPの違いは以下のように定義されています。
LTV |
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CP |
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(参考:EconStor「A marketing view of the customer value: Customer
lifetime value and customer equity」を基に、当社にて作成)
LTVを高めていくことは、BtoBのSaaS系企業にとっても非常に重要です。その理由としては、次のものが考えられます。
以下より、個別に解説します。
一般的にLTVの計算やその分析による方針決定の効果が高いとされているのは、顧客との関係性が重要とされる業界や分野です。例を挙げると、銀行業界や保険業界、電気通信業界に加え、SaaSを含むほとんどのBtoBビジネスもこれに含まれます。
理由として、これらの業界や分野では、顧客と取引を開始する際に必ずといっていいほど契約書を締結することが挙げられます。顧客としっかりと契約を結んで取引を行う場合は、契約書が不要なケースに比べて、顧客との取引期間が長い傾向にあるため、その分算出したLTVへの対策を反映しやすくなります。
反対に、契約を締結しない一部消費財のBtoCビジネスなどでは、顧客ひとりが商品を購入するのは1回きりというケースも少なくないでしょう。顧客の母数もBtoBビジネスに比べ膨大な量になるので、そもそも各顧客に対してLTVを算出して長期スパンで対策を練ること自体が、スジが悪い場合が多いのです。
もちろん、BtoCビジネスでも「リピーターを主なターゲットとしている」「商品を購入する顧客の行動や特徴に大きな偏りがある」といったケースでは、顧客グループ別にLTV分析を行える場合もあります。
とはいえ、やはりBtoBビジネスの方がLTV分析による効果を容易に期待できるケースは多いと考えられますので、積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。
LTVを計算する大きな目的のひとつは、取引中の各顧客の価値を金銭的に算出し、優先順位をつけることです。
「自社と取引してくれている顧客に優劣をつける」というのは心苦しいのが実情。しかし営業リソースが限られているなか、より利益を生み出しやすいとされる顧客に優先的に営業をかけるのは、企業が安定して売上げを拡大していく上では必要なことでしょう。
カスタマーエクスペリエンスにおける権威であるDon Peppers(ドン・ペパーズ)氏とMartha Rogers(マーサ・ロジャーズ)氏も、著書である『One to One企業戦略 - 顧客主導型ビジネスの実践法』において「すべての顧客は平等であって平等ではない」と記しています。実ビジネスでは心情とは別に、実際の収益性を優先しなければならないのです。
LTVを計算する別の目的として、顧客セグメンテーションを行うというものがあります。企業はLTVを基準に顧客を細分化し特定のグループに分類することで、利益が見込める可能性が高い顧客を絞り込むことが可能。加えて、それらの顧客グループにある共通点を発見することにも繋がるでしょう。
例えば、「LTVが高い顧客は決まって同じような特徴を持っている」「同じようなマーケティング・営業施策を行なっている顧客はLTVが高い」といった傾向を見つけられれば、新規開拓を行う企業は同様の特徴を持つ企業に絞りつつ、効果的と思われる施策を転用し全体のLTVを引き上げていけます。
LTVを算出する方法はさまざまなものがありますが、一般的には以下の計算式で算出します。
(出典:HubSpot「How to Calculate Customer Lifetime Value (CLV) & Why It Matters」)
この計算式を使って、LTVを算出する手順は以下の5ステップに分けられます。
それぞれの手順について、具体的にみていきましょう。
まずは、上の計算式の顧客価値(CV)を算出するための要素のひとつである「平均購入単価(APV)」を算出するのが最初のステップです。APVを算出することで「顧客が平均的にどの程度の金額を購入に費やしているか」を明確化できます。
計算方法としては、過去のある一定の期間内(例:半年、1年など)でその顧客から得たトータルの利益を総合し、同じ期間内の購入回数で割った数字が平均購入単価となります。
(出典:HubSpot「How to Calculate Customer Lifetime Value (CLV) & Why It Matters」)
ただし「単価」とありますが、「トータルの売上げ」ではなく「トータルの利益」を用いて計算を行わないといけない点には留意しましょう。
APVの計算に利益を用いる理由は、実際に顧客が支払った金額を反映させることにあります。売上げを用いてしまうと、たとえ計算結果が大きくなったとしても、いくら利益を得たのかが結果に反映されません。ここを間違えてしまうと、この後の顧客価値(CV)の計算結果もおかしくなってしまいます。
次のステップは、顧客価値(CV)算出のもうひとつの要素である、平均購入頻度(APFR)の算出です。APFRは、特定の期間内の総購入回数を顧客数で割ることによって計算され、平均的な顧客がどれだけ頻繁に購入しているかが分かります。
なお、1社の顧客のみを対象としてLTVを算出する場合には、ステップ1で設定した期間内の購入回数がそのまま平均購入頻度となるので計算は不要です。
(出典:HubSpot「How to Calculate Customer Lifetime Value (CLV) & Why It Matters」)
例えば、「ある顧客セグメントに対するLTVを算出したい」「複数の顧客が対象となる」などの場合は、トータルの購入回数をセグメント内の顧客数で割って平均の購入頻度を計算する必要があります。
高いAPFRは、顧客が継続的に製品やサービスを利用し、ビジネスと深い関係を持っていることを意味します。これは、LTVが高くなる可能性を示唆しており、長期的な顧客価値を見積もる上で大切です。
ステップ3では、ステップ1と2で算出したAPVとAPFRをかけ合わせてCV(顧客価値)を算出します。CVは、特定の顧客が一定期間内にビジネスにもたらす平均的な価値を表します。これは、顧客がビジネスにとってどれだけ価値があるかを示す指標であり、LTV計算の基礎といえるでしょう。
(出典:HubSpot「How to Calculate Customer Lifetime Value (CLV) & Why It Matters」)
CVは、顧客が将来にわたってビジネスにどれだけの収益をもたらすかを予測するのに役立ちます。高いCVを持つ顧客は、一般的に長期的に高いLTVを持つ傾向があります。
LTVを算出する過程で、CVを理解することで、マーケティングやカスタマーサービスなどのリソースを収益性の高い顧客に集中させるといったプランの実施も可能です。
ステップ4では、LTV算出のもうひとつの要素であるACL(平均取引期間)の算出を行いましょう。ACLは、顧客がビジネスとどのくらいの期間取引を続けるかを示す指標。この期間は「顧客との関係がどのくらい続くか」「その間にどのくらいの価値が生まれるか」を予測する上で重要な数値です。
このステップでも、1社を対象とする場合はその顧客との取引継続期間(年数)がそのままACLとなるため計算は不要です。
(出典:HubSpot「How to Calculate Customer Lifetime Value (CLV) & Why It Matters」)
数社まとめてのLTV算出をする場合にのみ、対象とする顧客の総数でトータルの取引継続期間を割る計算が必要となります。
長期間にわたる顧客関係は、一般的により多くの収益をもたらします。そのため、ACLを把握することで、将来的な収益予測をより正確に行えるでしょう。
これまでのステップで正確な数値の算出ができていれば、あとは揃った要素を使って「CV × ACL」の計算式に当てはめればLTVを算出できます。
(出典:HubSpot「How to Calculate Customer Lifetime Value (CLV) & Why It Matters」)
ここで、CVはステップ3で算出された顧客一人当たりの平均的な価値であり、ACLはステップ4で算出された顧客とビジネスの平均的な取引期間を用いています。
LTVの算出は、ビジネスが顧客一人ひとりからどの程度の価値を得ることができるかを測るための重要なプロセスです。
LTVが高い顧客は、ビジネスにとって長期的に大きな価値をもたらす可能性が高く、点を当てることでビジネスの成長と収益性を最大化できますので、丁寧に予測値を算出しましょう。
上記に紹介した方法の他にも、HubSpot社が提供する無料計算ツール「Customer Service Metrics Calculator」を使用すると、LTVの算出が簡単に行えます。このツールを利用することで、LTVを起点としたビジネスの意思決定をサポートし、顧客関係の最適化に役立てることができます。
(出典:HubSpot)
英語のツールではありますが、無料でLTVの他にもさまざまな指標値の計算ができるツールですので、まずは試しに使用してみましょう。
LTVは、BtoB SaaS企業でも重要なユニットエコノミクスを計算するためのいち要素でもあります。
ユニットエコノミクスは、LTVとCAC(顧客獲得単価)の比率から、ビジネスの持続可能性と効率を測る指標です。そのため、算出に必要な計算式は以下のとおりです。
LTVがCACを上回る場合、ビジネスは健全であり、投資に見合ったリターンが得られていると考えられます。逆に、CACがLTVを上回る場合は、ビジネスモデルの持続可能性が疑われます。
BtoB SaaS企業は、初期投資の回収に時間がかかるため、顧客との長期的な関係と継続的な収益が特に重要です。LTVを最大化し、CACを最小化することで、SaaS企業は持続可能な成長を達成できます。この考え方は、特に競争が激しいSaaS市場において、企業の成功に不可欠です。
自社顧客のLTVを向上させていくのは大変な取り組みですが、以下のような恩恵があります。
それぞれ、個別にみていきましょう。
LTV分析を行うことで顧客維持率(リテンションレート)の向上が図れます。
顧客維持率とは、元々は「Customer Retention Rate」を訳した言葉で「既存顧客が一定の期間に取引を続けている割合」を指します。計算式については、以下のとおりです。
顧客維持率を向上させるためには、まず顧客の生涯期間を延長する必要があり、これは「顧客がサービスを利用し続ける期間」を意味します。長期にわたる顧客関係を構築し、LTVを高めていけば、必然的に顧客維持率もアップするという理屈です。
実際、Harvard Business Reviewよると、新規顧客の獲得には既存顧客を維持するコストの最大25倍かかることがあり、顧客維持率をわずか5%向上させるだけで、企業収益を25〜95%増加させられると報告されています。逆説的に、顧客維持率を上昇させられるLTVの重要性の示唆にもなっているでしょう。
一般的に、製品価格が高単価になればなるほど、顧客維持率も高い方が好ましいといわれています。
(出典:OpenView「2019 Expansion Saas Benchmarks」)
これはつまり、商材単価が高いほど、各顧客にかける営業コストも大きくなるため、簡単に解約されては費用対効果が悪化することを意味します。自社商材が高単価であればあるほど、LTVの向上を図りつつ、顧客定着率もアップさせましょう。
LTVが高い顧客に対して、顧客ごとの課題感に寄り添った営業活動ができれば、製品のリピート購入だけでなく、アップセルやクロスセルを行うチャンスも増えるでしょう。
アップセルは、顧客に対してすでに選択した製品よりも機能が豊富でより高価な代替品を提示すること。クロスセルは関連製品の追加販売を行う営業手法で、どちらもBtoB SaaS企業にとって収益成長を促進するための重要な戦略です。
例えば、Dropboxはユーザーのストレージ容量がいっぱいになった際に「ファイルを削除する」「友人を招待する」「サービスを有料のサブスクリプションにアップグレードする」などの選択肢を提示することで、アップセルを実施しています。2015年、同社は収益の67%をユーザーへのサービス提供に投資することで、その後2年間で利益率を劇的に向上させています。
(出典:GO PRACTICE「How to calculate customer Lifetime Value. The do’s and don’ts of LTV calculation」)
アップセルは、追加の機能が必要なとき、例えば特定の成功のマイルストーンを達成したタイミングや、使用量に基づいている場合(Dropboxの例のように)に最も効果的です。
新規顧客に対する販売プロセスは、既存の顧客ベースに対する販売よりも通常長くなりがち。一方で、LTVの高い既存顧客はすでに製品の価値を認識し、ブランドを信頼しているため、追加オファーに関する商談もスムーズに行いやすいでしょう。
LTVは顧客が自社にもたらす利益の指標ですので、LTVの高い顧客を多く持つことは、そのまま自社の利益向上に繋がります。
例えば、CRMツールをはじめとするソフトウェアを提供するSalesforceは、顧客に合わせたカスタマイズプランやサポートを提供していますが、これにより顧客満足度が高まり、長期的な契約や高額なアップグレードが促進されていると予測されます。事実、同社の解約率は10%代と非常に低くなっています。
(出典:freebell「SalesforceのNYダウ採用と、収益安定性の関係をデータで読み解く〜B2B事業のためのデータサイエンス」)
加えてLTV向上を図り、自社顧客の収益性を分析すれば、効果的なリソース配分にも繋がります。LTVが高い顧客グループを特定し、ターゲットを絞ったアプローチを行うことで、マーケティングや営業活動をより効率化し、コストを抑えつつ高いROI(投資対効果)を達成することが可能です。
高LTV顧客のフィードバックや利用パターンを分析することで、製品やサービスの改善点を見極められますので、「既存顧客のLTVアップの施策が新規見込み客の成約率にも寄与する」という結果も生み出します。
このように、LTVをさらに向上させるための施策は、BtoB SaaS企業の収益全体にポジティブな影響を与え得るのです。
では、実際問題としてLTVはどのように向上させていけばよいのでしょうか。具体的な方法としては、以下のものが考えられます。
次項より、個別に解説します。
BtoB SaaS企業においてLTV(顧客生涯価値)を向上させるためには、「オンボーディングの質を高める」ことが重要です。オンボーディングとは、顧客が初めて製品やサービスを購入した後、顧客自身がツールに精通し、自社で運用を内製化してもらえるようスキルや知識を身につけてもらう取り組みを指します。
効果的なオンボーディングプロセスは、顧客が製品やサービスの価値を理解し、長期的な関係を築く上で非常に効果的です。
その上では、顧客の過去の購入履歴や好みに基づいて、オンボーディングをパーソナライズしていくとよいでしょう。例えば、個々の顧客のニーズに合わせた活用ノウハウを提供し、フォローアップを通じて、「顧客が自社製品を使いこなせているかどうか」「導入後のサポートに不備はないか」を確認するのです。それにより、顧客の製品導入後の満足度を大幅に向上させられます。
この際、HubSpot Service Hubなどのツールを使用すると、顧客ごとにパーソナライズされたオンボーディングプログラムを作成し、効率的に各顧客の課題感に即した価値提供を行うことが可能です。
(出典:HubSpot「How to Calculate Customer Lifetime Value (CLV) & Why It Matters」)
オンボーディング終了後は、顧客からフィードバックを収集するためのアンケートを実施しましょう。ここから得られるフィードバックを基に、オンボーディングプロセスの改善点を特定し、その他の顧客の体験価値を向上していけます。
顧客ロイヤルティプログラムやリワードプログラムの実施は、顧客を自社との取引に長く引き止めるのに効果的な戦略のひとつです。
顧客ロイヤルティプログラムは、顧客がブランドに対して長期的なロイヤルティ(忠誠心)を持ち続けるように促すための戦略。例えば「ポイント付与の報酬システム」「VIP待遇の提供」などで繰り返し、自社ビジネスやブランドへと長期的にコミットメントする顧客に、特典を提供するといった手法があります。
対するリワードプログラムは、顧客に特定の行動を取らせるためのインセンティブを提供する戦略。具体例としては、「リファラルプログラム」「マイルストーン」などが挙げられるでしょう。航空業界やホテル業界などで多く用いられる手法ですが、BtoB SaaS企業にとっても有用な施策です。
参考として、BtoB ECカート(web受発注システム)「楽楽B2B」は、パートナープログラムを実施して自社製品やサービスの販売と制作パートナーを募集しています。この制度では、パートナー登録を行った代理店やサービスプロバイダーは、楽楽B2Bの製品をエンドクライアントに販売できるようになります。
(出典:楽楽B2B)
パートナー企業は、紹介による「初期費用の10%~20%」「月額費用の20%を最長5年間」受け取ることができ、「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」のパートナーティアに応じて異なる収益の割合が適用されます。
マーケティング・営業の戦略だけでなく、カスタマーサクセス・サポートの品質を向上することも、LTVの向上を図る上では重要です。厳密には、カスタマーサクセスとカスタマーサポートはその目的やアプローチ手法が大きく異なり、それぞれ以下のような違いがあります。
BtoB SaaS製品では、カスタマーサクセス部門の活動・能力を最大化するためのカスタマーサクセスオペレーション(CS Ops)が求められます。CS Opsは顧客ニーズを特定し、能動的にアプローチを行っていきますので、LTVアップに寄与しやすいのです。
ただし、カスタマーサポートも顧客の満足度を高める上では大切な要素。カスタマーサクセスの実施には、必要なリソースやノウハウの比重が大きくなることも事実ですので、自社ビジネスの特性やフェーズなどを鑑みて、事業の時間軸を捉えた適切な取り組みを心がけましょう。
前述のアップセル・クロスセルを積極的に行うことで、さらなるLTVのアップに繋がります。例えば、コミュニケーションツールとして知られるSlackは、基本プランから始めて、企業の成長に合わせてより多くの機能が必要になるにつれて、アップセルの提案を行っています。
チャット履歴の保存期間の延長、統合可能なアプリの数の増加、セキュリティ機能の向上などの恩恵を受けられる上位プランをわかりやすく提示することで、顧客単価のアップを図っているのです。
(出典:Slack)
さらに、ソフトウェアやカスタムアプリをSlackに直接連携させるカスタムインテグレーションも行っており、クロスセルの導線設計も充実しています。
(出典:Slack)
ただし、アップセル・クロスセルは闇雲に実施するだけでは、顧客視点からみれば「単なる押し売り」になりかねません。そのため、顧客のビジネスモデル、現在の課題、目標を深く理解することが重要です。
その上では適切なタイミングで、顧客のニーズに合致するソリューションを提案する必要があります。顧客の利用データや行動パターンを分析し、営業やカスタマーサクセスオペレーションと連携をとりつつ、アップセルやクロスセルの機会を慎重に見極めましょう。
加えて、長期的な信頼関係の構築を重視し、ウェビナーやワークショップ、ケーススタディなどでの情報提供を通じて、顧客に製品の追加機能や新サービスを定期的に訴求することも有効です。
「CRM(顧客管理システム)」や「MA(マーケティングオートメーション)」などのデジタルツールの活用により、見込み客の導入前後でのニーズの把握、データの記録、サポート業務の効率化を行えます。
CRMやカスタマーサクセスツールには、見込み客フォローを行うための便利な機能がありますので、営業の業務効率化に繋がり、より多くの顧客のニーズに即したアプローチが可能。MAやSFA(営業支援システム)のなかには、マーケティング・営業が受注前までに見込み客とコミュニケーションをとった内容やニーズ、問い合わせ理由について記録されています。
例えば、Zoho CRM Plusは、BtoB企業がLTVを引き上げるための多様な機能を備えたCRMで、「360度視点の顧客管理」を行えるのが特徴です。具体的には、リアルタイム通知機能により、メールの開封、問い合わせ、ソーシャルメディアの反応など、顧客の反応をすべて検知し、担当者に通知します。
営業、マーケティング、カスタマーサクセスで一元化された顧客情報の管理を行うことで、顧客の背景情報を十分に理解した対応が可能となり、顧客満足度の向上に繋がるでしょう。
(出典:Zoho CRM Plus)
こういったツール群を活用して、顧客ニーズを把握しつつパーソナライズされたアプローチを見込み客ごとに行えば、満足度を向上させつつ、LTV上昇に繋げられるでしょう。
企業組織でLTVの向上を図っていく上では、以下のような課題が発生します。
次項より、詳しく解説します。
LTV分析を行う上での大きな課題のひとつは、LTVを正確に分析するのが難しいという点です。
まず、正確なLTVの算出を行うためには、その計算に用いるための詳細な取引情報の記録と管理が必須。取引に関する財務情報の追跡はもちろん、算出したLTV分析結果を活かすためには、前述のようにデジタルツールを活用した詳細な顧客情報の管理も不可欠でしょう。
BtoB SaaS企業の場合、顧客層は規模、業種、製品の使用パターン、購買力などにおいて大きく異なるケースがあります。このような購買パターン・収益性の変動性は、LTVの正確な予測を困難にします。例えば大企業顧客は、小規模ビジネスと比較して異なる価格構造と意思決定プロセスを持つため、LTVの予測をより難しくするのです。
LTVを分析する際の注意点について、米GoPracticeは「収益に基づいて計算すべきではない(LTV should not be calculated based on Revenue)」と述べています。
これはつまり、粗利と実際の収益の間に大きな差がある場合、収益ベースで算出したLTVを基にマーケティング施策を組み立てると、費用対効果の悪化に繋がりかねないということです。
CPとの違いの項でも説明しましたが、LTVは「顧客の将来的な貢献度」を予測するという性質上、想定外の事態(例:顧客の突然の倒産)などといった事態は考慮されません。
LTVをもとに事業の方針を決定する際には、LTV結果に加え、これら不測の事態をある程度見込んでおくなど、意思決定者側にも裁量が求められるでしょう。
LTV分析では「分析の規模によって重要な点が隠れてしまう可能性がある」という課題もあります。
例えば、複数の顧客を含むセグメント単位でのLTV分析を行った場合、少数の取引先が抱えている課題や重要な問題点を見落としてしまいかねません。
このような分析のエラーや誤った方針決定を避けるためにも、LTV分析を行う前に、「何を目的として分析を行うのか」を明確にし、目的に沿った分析規模や期間の設定、事前の顧客セグメンテーションを正確に行いましょう。
社員の数、時間的な制限、会社の立地など、さまざまな要因から満足するマーケティングや営業の効果が得られないと感じている企業は多いのではないでしょうか。そのような場合は、まず自社の既存の取引先のLTV分析をし、現状を把握しましょう。
「自社に大きな利益をもたらしている取引先はどこなのか」「どの取引先へのアプローチにリソースを割きどこの優先度を下げるべきか」など、自社顧客がもたらしてくれる収益が、各コストに見合ったものになっているかどうかを確認することは、非常に重要です。
LTVはわかりにくい数値であるため、マーケティングにおける意思決定を左右する要素としては、優先順位が低くなりがちかもしれません。確かに、事業のスタート直後などは、見込み客の獲得数や商談化率、月毎の売上げなどの要素を追った方が賢明です。
しかし、事業を長期目線で成長させて行こうとした場合は、LTVを伸ばしていく施策も求められます。本稿でご紹介した方法も試しつつ、見込み客のLTVの最大化を図っていきましょう。