SaaS企業は、一般的なビジネスモデルとは異なり、損益分岐点が事業スタートからかなり先にあります。日本のユニコーンの代表格メルカリは、2021年までは赤字。Slackも相当期間赤字が先行しています。もちろん、その間も将来性大と評価されているのです。
SaaSには、先行き黒字になるかどうかを測る独特の重要指標があります。今回は、そのひとつ「CAC(顧客獲得単価)」について解説します。
一見簡単そうですが、マーケティングチャネルによっていろいろなCACがあるため、整理して正しい方法で算出・管理できるようにしておきしょう。
CAC(Customer acquisition cost)とは、顧客獲得に費やした総費用を意味する言葉です。
マーケティング領域では総額ではなく「顧客1人あたりの獲得コスト」を意味し、指標として用います。
ビジネスの原理原則は「売上 − 費用 = 利益」です。企業の大小問わず世界のどの国でも同様で、一般的にCAC(顧客獲得コスト)は、業界問わずビジネスの成否、成長の速度に影響を与える潜在的な変数であるとみなされます。
BtoB・SaaSビジネスは、一般的にセールスサイクルが長く、複数のステークホルダーが関与するのが通例。そのため、CACは比較的高くなりやすいとされます。
CACの最適化は、競合他社との競争においても重要な役割を果たします。低いCACを維持しつつ高品質なサービスを提供する企業は、市場での競争力を高めやすいのです。
CPA(Cost Per Acquisition)は、マーケティングの指標としてCACでよく使われる用語ですが、意味や使い方は異なります。
CPAは、特定のアクションや成果(例: サインアップ、ダウンロード、問い合わせなど)を達成するためにかかったコストを指し、以下のように計算されます。
CACは、長期的な顧客関係の価値を重視するビジネスモデル・施策で用いられることが多い一方、CPAは単発の取引や顧客のアクションを重視する場合に活用されます。
両者は異なる焦点を持つ指標であるため、ビジネスの特性や目的に応じて適切な指標を選択し、使用することが大切です。
CACは「LTV(Life Time Value)」と深い関わりがあります。LTVとは 「顧客生涯価値」を表す用語で、CAC と並んでビジネスの健全性や持続可能性を評価するための指標です。
LTVがCACよりも高い場合、これはビジネスが健全であり、持続可能であることを示しています。具体的には、顧客1人あたりの収益が、その顧客を獲得するのにかかったコストよりも高いことを意味しています。
逆に、CACがLTVを上回る場合、それは長期的には持続不可能なビジネスモデルである可能性が高く、コスト削減や収益向上の施策が必要です。
こういったCACとLTVの関係性は、「ユニットエコノミクス」の指標で表されます。詳しくは後述しますが、ユニットエコノミクスは1顧客あたりの経済性を表す「LTV ÷ CAC 」で計算される指標であり、「3」を超えた数値であると健全な状態です。
CACとLTVの関係性は、ビジネスの成長と持続可能性を評価・導く上で重要なものですので、これらの指標を適切に管理・最適化する意識を持ちましょう。
BtoB・SaaSのビジネスにおいて、CACは以下の観点から重要です。
次項より、それぞれ具体的に解説します。
マーケティングにとって、「成約一件当たりの獲得コストを最適化できるか」は重要なミッションです。その上では、現状の自社の獲得コストを理解し、最適化する努力をしていくことが求められます。
CACを把握することで、「現在のビジネスモデルが収益性を持っているか」「マーケティング・営業活動の効果がどれだけあるか」を評価できます。
結果的に「現状のどの部分を効率的に改善すれば、CACを下げられるのか」という方向性をみつけられるでしょう(例:広告のターゲティングやコンテンツの質、営業プロセスの改善など)。
BtoB・SaaSのビジネスモデルでは、初期の獲得コストが高くても、継続的なサブスクリプション収益によってそのコストを回収し得ます。
CACを計算することで、現在の新規顧客を獲得するための平均的なコストを正確に把握できるため、ビジネスの収益性や持続可能性を評価する基盤を築いた上で、「予算の配分や投資判断の際の指標」として活用できます。
「ユニットエコノミクス」とは、1単位の商品やサービスの収益とコストの関係を示す指標です。
ユニットエコノミクスは、顧客の生涯価値と顧客獲得コストのバランスを確認するための指標で、LTVをCACで割ることで算出可能。この比率が健全であれば、ビジネスは持続的に利益を上げ続けられます。
特に、SaaSビジネスはサブスクリプションモデルに基づいているため、一度獲得した顧客から継続的な収益を得られます。そのため収益性を最大化するためには、ユニットエコノミクスの正確な理解と管理が不可欠です。
順調なSaaS製品ほどユニットエコノミクスの数値が高く、例えば人事管理システム「カオナビ」の2022年3月のユニットエコノミクスは「8.6」です。
(出典:logmi Finance「カオナビ、4Qの売上高は前期比34.1%増と成長加速 中長期的な企業価値向上を目指して経営体制の変更を発表」)
BtoB・SaaS企業が外部からの資金調達を行う際、ユニットエコノミクスの指標は投資家やステークホルダーにとって非常に重要な評価基準です。
健全なユニットエコノミクスを持つ企業は、より魅力的な投資先としてみられることが多いため、CAC・LTVとあわせて意識しましょう。
CACを定期的に計算し、それを異なるマーケティング施策やチャネル別に分析することで、「どの活動が最も効果的であるのか」「どのチャネルが最も高いROIを持っているのか」を特定できます。
この情報をもとに、資源や予算の再配分を行い、最も効果的な施策やチャネルに焦点を絞って投資することで、全体のCACをより健全化していけるのです。
CACは一定期間に費やした顧客獲得費用を、その期間で獲得した顧客数で割り出します。
期間については目的に応じ1カ月、四半期、1年と自由に決めて計算しても問題ありません。例えば、1年で1000万円かけて100社を獲得した場合、CACは10万円です。
(画像参照:https://mtame.jp/marketing_foundation/CAC/)
CACの場合、コストの定義も重要です。マーケティング部門が担当するコストは、デマンドジェネレーションを例にとると、Marketing Qualified Lead(MQL)の獲得コストまで。つまり、「各広告出稿~トラフィック流入~リード化」の、営業へ案件を引き渡せる段階までのコストです。
MQLの獲得コストを最小限にするためには、マーケティングプロセスを分解して、以下のポイントのコストをチェックしましょう。これにより、どこに低コスト化の余地があるかがわかりやすくなります。
このように、CAC を計算する際には自社のマーケティング施策に応じたコスト設定を行うことが大切です。
BtoB・SaaSのビジネスシーンでも活用されるCAC の種類としては、以下の4つが存在します。
それぞれについて、以下より個別に解説します。
Organic CACは、有料の広告やプロモーションを勘案せず、オーガニック(自然)検索経由で接点が発生した顧客の獲得コストを指します。
特定の期間におけるキャンペーンや、折り込みチラシ、Web広告などのプロモーションを実施した場合、その効果を評価するために、顧客の増加数や獲得コストを計算します。しかし、キャンペーンや広告を実施せずに増えるCAC はOrganic CACに分類します。
Organic CACはSEOやコンテンツマーケティング、口コミなど、有料の広告活動以外でかかったマーケティングやセールスのコストを、その期間中に獲得した顧客の数で割ることで算出できます。
SEOなどのオーガニック検索施策は、長期的な取り組みが必要ですが、一度適切な戦略が確立されると、低いCACを維持し続けることが可能。BtoB・SaaS企業では、ブログやホワイトペーパー、ウェビナーなどを活用して、オーガニックトラフィックを増加させる戦略が多く採用されています。
Organic CACを無視して全体のCACを評価すると、真のマーケティングの効果を正確に捉えられないリスクがあります。そのため、Organic CACの概念についてもきちんと理解し、評価に取り入れることが重要です。
Paid CACとは、有料広告やその他のプロモーション活動を通じて、コンバージョンに至った顧客の獲得コストを意味します。
Paid CACの数値は、Web広告(例:リスティング広告やディスプレイ広告、SNS広告)やアフィリエイトマーケティングなどの費用を、これらの広告活動を通じて獲得した顧客の数で割って算出しましょう。
広告施策などは、短期的にはトラフィックや顧客獲得数を増加させることが可能ですが、広告の効果が続かないと、CACも高くなる傾向があります。そのため、効果的なターゲティングやランディングページの最適化が重要です。
BtoB・SaaS企業では、LinkedIn広告、Google Ads、専門の業界誌の広告など、ターゲットとするステークホルダーにリーチするための、有料チャネルを活用するのが一般的です。
BtoB・SaaSの製品は、BtoC向けのプロダクトよりも高単価であることが多いため、Paid CACも相対的に高くなることは珍しくありません。BtoBにおいて、見込み顧客の検討サイクルは長く、複数のステークホルダーの承認が必要な場合もあるため、接点構築から成約までの期間が長くなるためです。
Blended CACは、オーガニックとペイドの活動を組み合わせて計算される、顧客獲得コストの平均を指します。
Blended CACは、Organic CACやPaid CACを含む測定期間中のマーケティングやセールスの全コストを、その期間中に獲得した全顧客の数で割って算出します。
SaaSビジネスが急速なペースで成長することも珍しくありませんが、そのなかで多くの企業が直面する難題が存在します。
それは顧客基盤は着実に拡大しているが、利益が出せていないというケースで発生する「A:一時的に顧客の獲得を犠牲にして、収益を向上させるべきか? 」「B:あるいは顧客獲得のペースを優先し続けるべきか? 」という選択の岐路です。
継続的な赤字は企業にとって是が非でも解消したいものの、同時に顧客獲得の勢いを失うことも避けたい。このようなジレンマが生じた際、CACの詳細な分析は、適切な戦略の策定に役立ちます。
特に「顧客は増加しているが、利益が出ていない」という状態を解消するためには、Organic CAC、を増やす一方で、Paid CACをより最適化してコストを削減するという、2方向からのアプローチを同時に進めることが考えられます。
その結果、Organic CACの増加分よりPaid CACの減少幅が大きければ、Blended CACも低く抑えられます。
Company CACは、企業全体の運営コストをもとに計算される顧客獲得コストです。マーケティングや営業のコストだけでなく、関連する全てのコスト(例:人件費や研究開発費、設備費など)が含まれます。
実際の数値は、測定期間中の全運営コストを、その期間中に獲得した顧客の数で割れば算出可能です。
Company CACは、ビジネスモデル全体の効率性や持続可能性を評価する際に参考になる指標。特にスタートアップや急成長している企業では、この指標をしっかりと把握することが重要です。
BtoB・SaaS企業は、多層のセールスチームや専門のサポートチーム、カスタマーサクセスチームなど、顧客獲得と維持のためのさまざまな部門を有しており、これらの部門の運営コストもCompany CACに反映されます。
特に、スタートアップ企業なら組織図そのものが目まぐるしく変わっていくため、自社の事業活動に関連するコストをCompany CACとして把握しましょう。
ここからはCAC の計算例について、以下の施策別に解説します。
個別に説明する前に、CAC の基本的な計算方法を解説しますので、順番にみていきましょう。
CAC(顧客獲得単価)は、顧客を獲得するためにかかったコストを表す指標です。このコストがLTV(顧客の生涯価値)を越えてしまうと、ビジネスの持続性が危うくなっていきます。
SaaSビジネスの健全性を評価するためには、CACがLTVを超えていないかどうかが肝心な部分です。
ただし、「LTV > CAC」の状態のみをチェックするのではなく、定期的なベンチマーク設定(例:四半期ごと、半年ごと、年次など)を行い、それに基づく比較を通じて、自社ビジネスの健全性と成長性を判断する必要があります。
以上を踏まえて、基本的なCACの計算手順としては以下のとおりです。
デジタルマーケティングでは、以下の3種類のCACが重要です。
それぞれ具体的にみていきましょう。
オーガニックCACは、検索エンジン、ソーシャルネットワーク、口コミなど自然増の顧客の獲得コスト。計算式は前述したOrganic CACと同様で、以下のとおりです。
米国の、SEOのNo.1エージェンシー企業First Page Sageは、過去12年間のデータをもとに、米国SaaS企業の平均取得コストは 205 ドルと発表しています。以下のようにSaaS 企業のチャネル別のCACをグラフにしています(BtoBは青の棒)。
(出典:FirstPageSage「CAC by Channel」)
このようにオーガニックチャネルにもさまざまな種類があります。自社の顧客特性を精度高く把握し、常に最適なチャネルを選びましょう。
ソーシャルメディア(SNS)経由のCACは、FacebookやX(Twitter)、インスタグラム、リンクトインなど各ソーシャルネットワークから流入した顧客の獲得単価です。SNS広告ではなくて、あくまで投稿や第三者に自社が紹介されて流入した顧客のCACですので、以下のように計算しましょう。
ソーシャルメディア投稿は無料ですが人件費は発生します。投稿だけでなくレスポンスする必要も出てくるので、割と時間もとられるもの。外部に運用を委託する場合10~30万円ほどは発生しますが、それでも一般広告と比較するとCACは低めでしょう。
例えば、Slackは製品のローンチ当初からSNSを活用したコミュニケーションを行い、ユーザーコミュニティとの強固な関係を築いてきました。
これにより、Slackはソーシャルメディア経由での新規ユーザー獲得コストを最小限に抑え、ブランドの認知度を急速に向上させました。2017年の情報によると、月間訪問者1億860万人のうち、91.35% がWebサイトに直接アクセスしているとのことです。
(出典:OpenView Venture Capital「Peek Inside Slack’s Multi-Million Dollar SaaS Growth Strategy」)
同社は、地道な口コミマーケティングにより、CAC を大幅に健全化させていったことがわかる好例です。アプローチ対象が限られるBtoB・SaaS市場では、SNSを介したマーケティング戦略の優先度が低い企業も多く見受けられますが、製品特性や戦略次第では、Slackのようにソーシャルメディア経由のCAC を最適化することも可能なのです。
リファラル(紹介)経由のCACとは、企業がリファラルマーケティングを行い獲得した顧客の獲得コストです。リファラルマーケティングの手法には、リファラルキャンペーンの実施、アンバサダーマーケティング、インフルエンサーマーケティングなど、さまざまなものがあります。
算出方法としては、以下のとおりです。
リファラル経由はCACが低いのが特徴です。
例えば、オンラインストレージサービスを提供するDropboxは、シンプルなリファラルプログラムを導入し、ユーザーが友人を紹介することで追加のストレージを提供するサービスを実施しています。
(出典:Dropbox「The Dropbox Referral Program: 3900% Growth in 15 Months」)
ユーザーが自社サービスを友人や同僚に推薦する動機づけになる報酬をしっかりと整えることで、リファラル経由のトラフィックが増加し、獲得コストは大幅に削減されるでしょう。
デジタルマーケティングにおける広告経由のCACとは、ディスプレイ広告、SNS広告、ターゲティング広告などオンライン広告で獲得した顧客のCACです。
Paid CACと同じく、広告にかけた総費用と顧客獲得総数で計算するほか、各広告チャネルごとに計算してチャネルの良し悪しの判断材料にできます。
広告経由のCACは、広告業界のトレンドや変動要因に影響されやすいもの。例えば、GoogleやFacebookなどの主要な広告プラットフォームにおける競争が激化すると、CPC(クリック単価)が上昇し、結果としてCACが増加する可能性があります。
例えばオンライン広告において、違法広告が放置されているというガバナンスが働いていない状態は、20年近い歴史のなかで議論され続けており、2023年現在は違法広告に対する法的規制の厳格化も進んでます。
(出典:impress「ネットの違法広告への法規制厳罰化、広告担当者は『モラル・収益・法律』をどう考えるべきか」)
広告プラットフォームのポリシー変更やアルゴリズムのアップデートも、広告の配信やコンバージョンに影響を与える可能性もあるでしょう。そのため、定期的に広告のパフォーマンスをチェックし、業界のトレンドや変動要因にアラートを持つことで、CACの急激な上昇を未然に防ぐように努めることが大切です。
ダイレクト経由とは、参照元のないWebサイトへの顧客流入です。直接アドレスバーにURLを入力する、あるいはブラウザメール以外のメールソフト、QRコードの読み取りからの訪問などが考えられます。
流入理由が不明瞭であることから総コストの明確化はできないのですが、いわばマーケティングの成果を表すものですので、「その他のCAC」という位置づけでよいでしょう。
ここからは、オフラインチャネルを通じた施策に関わるCACについて、以下のものを紹介します。
それぞれ、個別に解説します。
展示会経由のCACとは、展示会来場者から獲得した顧客の獲得コストで、以下のように計算されます。
展示会の費用には出展費用だけでなく、ブースのデザイン、営業スタッフ、当日の応援要員の人件費などすべてが含まれます。
「獲得顧客」の定義には、展示会当日に名刺交換して商談した顧客だけでなく、当日名刺やアンケートを残した顧客をデータ化し、メールマガジン経由、あるいは営業マンのアプローチにより契約に結び付いた顧客も同様です。
特に、各人が個別に獲得した名刺情報などは、放っておくと社内で「散らばったデータ」としてサイロ化してしまいかねません。
そのため、CRMツールや専用のスキャナー、バーコード、QRコードなどを使用して、展示会で獲得した顧客情報を追跡するためのシステムや手法を整えて、CACを正確に把握できるようにしましょう。
セミナー経由のCACとは、セミナーをきっかけに獲得した顧客の獲得単価です。セミナーには、共催セミナー、自社運営セミナーなどがあり、費用としては参加費用、自社主催の場合は会場費、宣伝費といったものが含まれます。
計算方法は、次のようになります。
例えば、米Oracleは、定期的に製品やソリューションに関するセミナーを開催しています。同社のセミナーでは、実際の製品デモや顧客の事例紹介を行い、参加者とのQ&Aセッションも実施。開催後は、YouTubeなどの動画配信プラットフォームでアーカイブ配信を行うことで、獲得できるリード数を最大化する仕組みを整えています。
(出典: YouTube Oracle Japan Marketing Video Channel「Oracle Cloud Infrastructure 2018 Certified Architect Associate 資格試験対策ポイント解説セミナー パート1」)
このアプローチにより、Oracleはセミナー参加者からの高品質なリードを獲得しつつ、CACを低減できていることでしょう。
自社イベント経由のCACとは、自社のイベントをきっかけに顧客を獲得した際のCACです。自社企画の場合、内製化できる部分も多々ありますが、会場費や設営費が発生するケースも多々あります。
宣伝費は、対象リードをどれだけ抱えているかによります。メルマガ、ブログなどで大量の読者を抱えている場合は、比較的コストを抑えられ、CACも低くなるでしょう。
イベントが終了した直後は、参加者の興味や関心が高い状態。このタイミングを逃すと、顧客側の興味・関心が冷めてしまう可能性が高まります。イベント終了後は、なるべくフォローアップのアクションを行うことで、CACの最適化に近づけるでしょう。
前述した米First Page Sage社は、以下のようにPaid CACのチャネルごとの平均値も出しています(オンライン・オフライン込み)。青がBtoBで、CACが小さい上位にFacebook広告、PPC(クリック課金広告)、ダイレクトメールが並びます。
(出典:FirstPageSage「CAC by Channel」)
もちろん、多くの顧客は複数のチャネルを経由してから申し込みますので、完全にチャネルごとの数字が出せるわけではないでしょう。しかし、おおよその数値を把握できると、より正確にマーケティングプランを設計できます。
一般的に、中小企業にとって広告は割高ですので、CACを下げるためにコンテンツマーケティングやSNSマーケティング、リファラルマーケティングなどを上手に活用することが重要です。
ただし、CACはあくまで顧客獲得単価にすぎません。例えば、いかにリファラルのCACが低くても、リファラル経由で獲得できる数はあまり多くないように、「CACが低い = 売上に直結する」という訳ではないのです。SEOなどの安定的に数を確保できるチャネルと、うまく組み合わせていきましょう。
自社のCACを最適化させていく上では、以下の取り組みが重要です。
それぞれ、個別にみていきましょう。
BtoB・SaaS事業は、アプローチ対象が特定の業界や企業規模、役職に特化する場合が多いため、正確なターゲティングが重要です。適切なターゲット層を明確に定義し、それに基づいてマーケティングとセールスのアプローチを行うことで、無駄な広告費を削減し、CACを最適化することが可能です。
2023年、日本のBtoBビジネスではアカウントベースドマーケティング(ABM)の有用性について認知が広がってきています。ABMは、BtoBマーケティングにおけるアプローチ方法のひとつで、特定市場の、特定企業アカウント向けにカスタマイズされた戦略を組み立てる手法を指します。
従来型のマーケティングが「先に」見込み顧客の情報を取得した上で、ターゲットを絞り込んでいくのに対し、ABMはマーケティングの初期段階でターゲットの絞り込みを行います。そのため、選定されたターゲット群に対し、より最適なアプローチを行えるのです。
(出典: AIMultiple「Account Based Marketing in 2023: Increase B2B conversions」)
米Demand Metricが行った調査では、83%が「ABMによりターゲット アカウントとのエンゲージメントが向上する」と回答したほど、欧米ではメジャーな手法。日本のBtoB市場でも実施することで、CACを効率的に最適化していけるでしょう。
CRMやSFA、MAツールといったデジタルツールを活用することで、自社の持つ顧客情報やステータスに基づいて効率よくアプローチできるようになります。各ツールの概要については、以下のとおりです。
上記のうち、CRMを例にとって活用例をみてみましょう。CRMの代表的なツールとしてはSalesforceが挙げられ、リード管理やオポチュニティ管理、レポート機能、キャンペーン管理機能などが充実しています。
(出典:Salesforce)
Salesforceのリード管理・オポチュニティ管理機能を使えば、特定のキャンペーンやチャネルから獲得した顧客の質や量を評価し、どの施策が高いCACをもたらしているか、あるいはどの施策が最も効果的であるかを特定可能です。
さらに、レポート機能やダッシュボードを使用して、リアルタイムでCACをはじめとするマーケティング施策のパフォーマンスを視覚的にモニタリングすれば、迅速な意思決定や施策の調整を行えます。
数字と向き合う泥臭さは必要なものの、このようにデジタルツールを活用することで、CAC の最適化にかかる労力を大幅に削減できるでしょう。
BtoB・SaaSビジネスでは、LinkedInや業界固有のフォーラム、ウェビナーなど、特定のターゲットに到達するための特化したチャネルが存在します。これらのチャネルの効果を定期的に分析し、最もコスト効果の高いチャネルにリソースを集中させることで、CACを低減させることが可能です。
BtoB・SaaS企業向けのチャネルを挙げると、以下のとおりです。
CAC を最適化する上では、既存のマーケティングデータを分析して、どのチャネルが最も効果的であるかを特定しましょう。例えば、「CVR(コンバージョンレート)」「エンゲージメント率」「ROAS(広告費対収益)」などのKPIを評価することが含まれます。
BtoB・SaaSの商品やサービスは、専門性が高く機能が複雑であるため、見込み顧客に適切な情報や教育コンテンツを提供するためには、丁寧な情報提供が必要なケースも多々あります。
そのために必須ともいえるのがペルソナ作成です。ペルソナとは、特定市場や顧客セグメントの理想的な顧客像を具体的に描写したもの。ペルソナを使用することで、マーケティングや営業、製品開発などの取り組みをターゲット顧客に合わせて調整できます。
ターゲットのニーズや疑問点に応えるコンテンツを作成・配信することで、コンバージョン率を向上させ、CACを効果的に最適化できるでしょう。
マーケティング部門は、企業のなかではコストセンターという位置づけです。はたから見たら広告代理店、クリエイティブとタッグを組んで進める華やかな仕事に見えますが、実際には地道に数字とにらめっこするような仕事です。
マーケティングは、予算をかければいいというものではありませんが、あまり削減しすぎても成果は上がりません。適切なコスト配分が重要です。各チャネルごとのCACを押さえておくと、マーケティング目標に合わせた計画が立てやすくなります。
LTVを最大化して、最適なCACを追及する意識を持ち続けマーケティングの実力をつけていきましょう。これはいわば「入るを量りて出ずるを為す」という経営そのものに求められる力。企業のマーケティング担当としてだけでなく、いちビジネスマンとして、将来にわたって長期的に役立つはずです。