2019年にインターネット広告費がテレビ広告費を上回るなど、マーケティング環境は近年大きく変化しています。変化に対応して適切なマーケティングを行っていくためには、「ROI」や「ROAS」などの指標を使って広告の効果を把握し、施策の改善を重ねていくことが欠かせません。
そうは言っても「実は広告の費用対効果が把握できていない」と悩みを抱えるBtoB企業のマーケティング担当者は、少なくないでしょう。特にSaaS企業では、熟練のマーケティング担当者が少ないこともあり「広告がどれだけ利益につながっているのかよくわからないが、とりあえず続けている」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、BtoB企業やSaaS企業のマーケティング担当者に向けて、以下の内容を解説します。
用語の意味だけでなく具体的な考え方もお伝えするので、自社にとって最適なマーケティング戦略を考えるための助けになるはずです。ぜひ最後までお読みください。
BtoB企業やSaaS企業のマーケティング担当者が広告運用をする際には、必ずコストを意識すべきです。その理由を解説していきます。
一般的にBtoB企業やSaaS企業においては、マーケティングにかかる費用の必要性が、経営層に理解されにくい傾向があります。そのため、マーケティング部門は「コストセンター」だと思われがちです。
2008年のリーマンショック以後、問題を抱えたブランドにとって、マーケティング予算を削減することは標準的なアプローチになりました。そのためCMO(マーケティング最高責任者)には、予算削減を防ぐために、目に見える成果を出すプレッシャーがつねにかかっています。
しかしマーケティングには、定量的に効果を測定することが難しいという特性があります。たとえば、多額のコストをかけた大々的なキャンペーンによってブランドの認知度が高まったとしても、それが実際に売上げにつながるまでには時間がかかるものです。しかも、具体的にどれだけの時間が経てばどの程度の効果が表れるのか、誰にもわかりません。
成果を説明することの難しさを反映して、CMOの平均在任期間は43ヶ月であり、他の経営メンバーよりも短いというデータもあります。マーケティングにはこうした厳しい目線が向けられていることを、担当者はまず理解しておく必要があるでしょう。
ただし、マーケティング部門が生み出したリードから実際の収益が生まれていることが見えており、予算とのバランスが保てている場合、マーケティング=プロフィットセンターとなり得ます。
マーケティング予算を増やしたいのであれば、コストを改善することを意識すべきです。「少ないコストで多くの成果を出している」と経営層に認識してもらえば、マーケティング予算の増加が見込めるからです。
まずはコストを減らして広告などの費用対効果を上げ、「もっとマーケティングに費用をかければ売上げも利益も増やせそうだ」と経営層に判断してもらう必要があります。
逆に「予算を回してもらえれば成果を出してみせる」といった姿勢では、予算の増加は期待できないでしょう。経営層は「コストセンター」であるマーケティング部門には、できるだけ予算をつけたくないと考えているからです。
マーケティングの費用対効果を正確に把握し、また経営層に説明するために、さまざまな指標が生み出されてきました。指標については、後ほど具体例を挙げながら詳しく解説していきます。
マーケティング担当者は、営業部門が生み出した売上げを「使わせてもらっている」という視点を持ち、コストを削減することを意識しましょう。そうすることで、営業部門との関係が良くなり、マーケティングの成果を得やすくなります。
一般的にマーケティング担当者と営業部門は、お互いの貢献を過小評価している場合が少なくありません。営業部門は「マーケティング担当者は市場で実際に起こっていることに疎い」と考えがちです。一方マーケティング担当者は「営業部門は近視眼的で、個々の顧客の経験にこだわりすぎ、より大きな市場を十分に認識しておらず、将来に対して盲目である」などと考えています。
しかし、企業としての業績を上げるためには、両者が協力すべきなのは言うまでもありません。マーケティング担当者が営業部門に歩み寄るには、「自分が使っているマーケティング予算は、営業部門が商品・サービスを販売することで得たお金だ」と考えるとよいでしょう。そして、予算を大切に使うために、マーケティングのコストを削減する必要があるのです。
ここからは、マーケティングの費用対効果を把握するための指標を、順番に紹介していきます。まずは、BtoB企業やSaaS企業のマーケティング担当者が知っておくべき、「ROI」について解説しましょう。
(画像引用:https://airregi.jp/magazine/guide/2260/)
ROIは「Return On Investment」の略称であり、日本語では「投資利益率」などと訳されます。ROIの計算方法は以下の通りです。
ROI = 利益額 ÷ 投資額 × 100
ROIの単位は「%」であり、数字が大きいほどマーケティングの投資が成功しているといえます。もし損失が出て利益がマイナスとなれば、ROIもマイナスの値となります。ROIの計算例は以下の通りです。
(例)
投資額:100万円
利益:120万円
この場合のROIは
ROI = 120万円 ÷ 100万円 × 100 = 120 %
ROIを使う長所は、前述したようにマーケティングに投じた費用がどれほど利益に貢献したのか、ひと目で判断できることです。ROIという共通した指標を使うことで、時期ごとの変化を追ったり、プロジェクトどうしを比較したりすることも簡単になります。企業が最終的に目指す「利益」を計算に使っているため、プロジェクトの中止などの判断で参考にしやすい点もポイントです。
一方で短所としては、視野が短期的になりやすいことが挙げられます。ROIを計算する際には、特定の期間における利益と投資額の数字を使いますが、その期間外についてはまったく計算に含まれないのです。
また、一般的なROIは計測期間はその期で測ることが多いのですが、マーケティング部門によっては、マーケティングが収益に貢献と仮定する期間を、マーケティングがリードを生み出してから顧客化になるまでの期間が数ヶ月以内、などのように区切っている場合もあります。
これはたとえば展示会やコンテンツによってリードを獲得した場合、本当に直接的に購買に影響を与えたのか? という、一種の決めを設定しておかないと、展示会から獲得したリードが5年後に顧客化したとしても展示会からもたらされたROIとなってしまい、その信頼性が揺らいでしまうためです。
マーケティング施策には、費用をかけてから効果が表れるまでに、時間がかかるものが少なくありません。ROIだけを見ていると、長期的な効果が期待できる施策を「無駄な投資」だと誤認しやすくなります。ROIを扱う際には、マーケティング投資による適切な期間を見ながら効果を考慮することが大切です。
ROIと同様にBtoB企業やSaaS企業のマーケティング担当者が知っておくべき、「ROAS」について解説します。
(画像引用:https://kotodori.jp/strategy/what-is-roas/)
ROASは「Return On Advertising Spend」の略称であり、日本語では「広告費用の回収率」などと訳されます。ROASの計算方法は以下の通りです。
ROAS = 広告経由の売上げ ÷ 広告費 × 100
ROASの単位は「%」であり、数字が大きいほど広告が成功しているといえます。ROIが「利益」に基づいて計算されるのに対し、ROASは「売上げ」に基づいている点がポイントです。そのためROASの値はマイナスになることはなく、最悪の場合の数字は0%です。ROASの計算例は以下の通りです。
(例)
広告費:100万円
売上げ:300万円
この場合のROASは
ROI = 300万円 ÷ 100万円 × 100 = 300 %
ROASを使う長所は、広告がどれだけ効果的に売上げに貢献できているかを、わかりやすく判断できることです。リスティング広告やSNS広告など、形式の違う広告を複数出稿していたとしても、ROASという1つの指標ですべてを比較して評価できます。
また、ROIの計算で使う「利益」と比べると、ROASの計算で使う「売上げ」の方が把握しやすい数字です。コストの算出が難しいためにROIが計算できない場合でも、ROASなら計算できる場合があります。
一方ROASを使う短所は、利益を考慮に入れていない点にあります。BtoB企業やSaaS企業が扱う商品・サービスによっては、いくら売上げが増えても利益につながらないことがあるでしょう。たとえば多額の人件費がかかるサービスを、赤字覚悟で格安にて提供するケースなどです。
企業が最終的に目指すのは、たいていの場合は売上げよりも利益です。ROASを使う際には、利益への目配りも忘れてはいけません。
ROASは広告を前提とした指標であるため、ROASを気にしすぎると、広告に関係しない施策に目が向きにくくなるという面もあります。たとえば、新サービスのリード(見込み客の連絡先)を獲得するために、広告を出稿しているとします。しかし実は、既存サービスのリードに対してプロモーションメールを適切に送ることで、新サービスのリードへ転換できる場合もあるのです。
広告と並行して、こうした「広告費が不要な施策」に取り組むことで、ROASを改善できる場合があります。「広告の費用対効果が低い」とお悩みの場合には、広告以外にも視野を広げて考えてみるとよいでしょう。
ROIやROASと似ている指標として「CPA」や「CAC」があります。これらについても解説するので、混同しないように理解しておきましょう。
(画像引用:https://www.itreview.jp/blog/archives/8905)
CPAは「Cost per Acquisition」または「Cost Per Action」の略称であり、ここでは前者の「顧客獲得単価」に触れます。CPAは主に広告に関して使われる指標で、以下の計算方法で算出されます。
CPA = 広告費 ÷ コンバージョン数
CPAは金額を表すので、単位は「円」です。CPAを使えば「顧客1人を獲得するためにどれだけ費用がかかっているのか」をひと目で確認できます。CPAはROIやROASとは異なり、数字が小さい方が好ましいので注意しましょう。
広告で目指すコンバージョンとしては、たとえば以下が挙げられます。
CPAは資料請求のような「すぐに利益や売上げを生むわけではないコンバージョン」も対象とするのがポイントです。利益や売上げを計算の前提とするROIやROASとは、この点が大きく違います。
すぐには利益や売上げが発生しないコンバージョンを目的に広告を運用する場合は、ROIやROASよりもCPAの方が活用しやすいでしょう。
(画像引用:https://mtame.jp/marketing_foundation/CAC/)
CPCは「Custmer Acquisition Cost」の略称であり、日本語ではCPAと同様に「顧客獲得単価」と訳される場合が多いです。CACは以下の計算方法で算出されます。
CPC = 顧客獲得にかかった費用の総額 ÷ コンバージョン数
CPCの単位は「円」です。広告費だけでなく、人件費なども含めた「顧客獲得にかかった費用の総額」に基づいて計算を行う点が、CPAと異なるポイントです。費用の総額を正確に計算するために、CPCは特定の広告などの施策ごとではなく、以下のような一定の期間ごとに計算します。
CPCは、こうした期間単位で売上げが得られるサブスクリプション型のビジネスモデルと相性が良いので、SaaS企業で重視される傾向があります。
たとえば月額1,000円のサービスがあり、「ユーザーは平均して6ヶ月間課金を続ける」とデータから判明しているとしましょう。この場合、CPCが1,000 × 6 = 6,000円よりも低ければ利益につながりやすいため、マーケティングが成功していると考えられます。
ROIやROASとは異なり、CPCの計算には利益や売上げが含まれていない点には注意が必要です。サブスクリプション型のビジネスモデルであれば、ユーザー平均の課金継続期間が短くなると、利益や売上げが減少します。すると、CPCを低く抑えられていたとしても、マーケティング戦略を見直すべき場合があります。
CPCだけを見ていたのでは、判断を誤りかねません。CPCを利用する際には、利益や売上げも考慮に入れましょう。
BtoB企業やSaaS企業において、マーケティングに関する費用は、経営層や営業部門から「コスト」と認識されやすい傾向があります。営業部門と良い協力関係を築くためには、マーケティング担当者は「限られた費用で最大限の成果を得る」意識を持ち、コストに敏感になっておく必要があるでしょう。
また、マーケティングの費用対効果を把握するための指標を、4つ紹介しました。
これらの指標を状況に応じて使い分けることで、マーケティング施策の改善方針を決めやすくなります。さらに、マーケティングの成果を経営層や他部署にわかりやすく伝えられるので、ぜひご活用ください。