グロースハックとは? 従来のマーケティングとの違いと事例を紹介

2024/01/18
BtoBマーケティング グロースハック グロースハックとは? 従来のマーケティングとの違いと事例を紹介

グロースハックは、スタートアップ企業がひしめくシリコンバレーで生まれた概念です。限られた予算の中でもブランド認知度を急激に向上させ、顧客基盤を拡大するための手法として注目されています。

Dropbox、Airbnb、Uber、Canvaなどの有名企業も、グロースハックを活用して成長しました。多くの人が「グロースハックをどのように実施すればよいのか」や「従来のマーケティングと何が異なるのか」といった疑問を抱えています。

本記事では、グロースハックの基本概念、そのメリット、従来のマーケティングとの違い、そして成功事例を分かりやすく解説することで、これらの疑問に答えていきます。

グロースハックとは

グロースハックは、特にスタートアップや急成長中の企業において重要な役割を果たす製品やサービスの成長を加速させるための戦略や手法です。

この用語は「Growth(成長)」と「Hacking(工夫)」を組み合わせたもので、事業成長を促進するためのフレームワークやコツを発見することが目的です。グロースハックの父Sean Ellis(ショーン・エリス)氏は、グロースハックを次のように定義します。

「グロースハックとは、ビジネスを成長させる効果的な方法を発見するプロセスのことだ。その時々のビジネスにとって最適な成長機会を、集中的かつ迅速に実験するのだ」

グロースハックは従来のマーケティングやセールスと異なり、以下の特徴を持っています。

  • 短期間での成果を重視
  • データ分析やマーケティング技術の積極的な活用
  • 実験と検証のプロセスの繰り返し

では、グロースハックがなぜ誕生し、多くの企業で採用されているのかという背景に焦点を当ててみましょう。

グロースハックの発展の背景

2010年、シリコンバレーでは数多くのスタートアップが誕生し、その中でテック系の企業家であるShaun Ellis(ショーン・エリス)氏は、多くのスタートアップを支援する中で「グロースハック」という言葉を生み出しました。

この概念の重要なポイントは、資金が限られたスタートアップ企業が、伝統的な広告やマーケティング手法、高価な製品開発や調査に依存することなく、市場での急速な成長と影響力を獲得するための手段としての役割です。グロースハックは、データに基づいた仮説の設定、絞り込んだテストの実施、そして持続的な成長の繰り返しを特徴とします。

さらに、急速に変化する市場環境では、革新的なアイデアとテストが常に重要とされています。グロースハックは、新しいアイデアを試し、効果を測定し、迅速に改善するという文化を提供しました。スタートアップ文化、データ主導の意思決定、消費者行動の変化、イノベーションへのニーズなどが融合した結果、グロースハックは多くの企業に広く受け入れられるようになったのです。

グロースハックとマーケティングの違い

グロースハックとマーケティングの違い


グロースハックは、最適な成長方法を発見するプロセスを目標とし、カスタマージャーニーの全ステージを対象に迅速なテストと改善を中心に据えます。マーケティング、カスタマーサクセス、製品開発など多様な分野が関連するため、従来のマーケティングとは異なり、多種多様なスキルセットと職種が関与するのも特徴です。

また、成長を追求するためのテストと最適化に焦点を当て、確立されたマーケティングチャネルに依存しません。代わりに、テクノロジーやソーシャルメディアを活用し、A/Bテスト、バイラルマーケティング、紹介プログラム、インフルエンサーマーケティングなどの革新的で創造的な戦術を使用します。

グロースハックの大きなメリットは、そのコスト効率のよさとスケールアップの速さです。多くの戦術は無料または低コストで実装でき、スタートアップや予算の限られた小規模企業にとって理想的なアプローチとなります。しかし、未テストの戦術を使用するため、リスクが伴い、すべてのビジネスに適しているわけではありません。また、高度な技術的専門知識が必要な場合があります。

マーケティングとグロースハッキングの対象領域の違い

(出典:Growth Hackers

一方、従来のマーケティングは新規顧客獲得を目的とし、確立された手法や戦略を使用します。長期的な成果やブランド認知度向上に重点を置き、特定のチャネルや部門内での作業に限定されることが多いです。そのメリットは信頼性と確立されたアプローチにありますが、高コストであるため、小規模ビジネスには実行が難しい場合もあります。

企業が採用するべきアプローチは、目標、ターゲットオーディエンス、利用可能なリソース、事業フェーズによって異なります。

たとえば、SEOは短期間での急成長を期待できないものの、中長期的に持続可能な成長をもたらすことがあります。スタートアップや予算が限られた企業には、迅速なスケールアップとコスト効率のよさを提供するグロースハックが適していますが、事業が成長し予算に余裕ができれば、従来のマーケティング手法にも取り組むべきでしょう。

グロースハック5つのメリット

それでは、グロースハックを実施することでどのようなメリットを得られるのでしょうか。ここでは、5つのメリットを見ていきましょう。

1.限られた予算で実行できる

グロースハックは、特に資金力の低いスタートアップや中小企業が、効率的に成長するために生まれた手法です。伝統的なマーケティング手法と比較して、広告費やプロモーション費用が大幅に削減できるのが特徴です。

従来のマーケティング手法にとらわれない革新的なアプローチと、データ分析を中心とした意思決定を重視し、低コストまたは無料のツールやプラットフォームを駆使することにより、限られた予算でも実行できます。

2.限られたリソースで実行できる

グロースハックは、創造性と効率性に焦点を当てたアプローチのため、限られたリソースでも実行可能です。高価な広告キャンペーンや伝統的なマーケティング手法に依存せず、デジタルツールやプラットフォーム、ソーシャルメディア、コンテンツマーケティングなどの低コストまたは無料の手段を活用します。これにより、リソースが限られた企業も市場での存在感を築き上げ、迅速な成長を遂げることが可能です。

Hotmailの事例

(出典:Grow with Ward

たとえば、Hotmailはユーザーが送信する各メールの最後に「PS: I love you. Get your free e-mail at Hotmail」という簡潔なメッセージを加えることで、劇的にユーザーベースを増加させました。このアプローチにより、コストをかけずにメールの受信者にHotmailを紹介することに成功したのです。

また、「PS: I love you.」という親しみやすく印象的なフレーズは、人々の注意を引き、拡散を促進しました。このようにクリエイティブな戦略があれば、コストをかけずとも大きな成長を実現できます。

3.データに基づいた分析ができる

データ分析は、グロースハック戦略の重要なステップであり、どの戦略が機能しているのか、そしてなぜ機能しているのかについてのインサイトを特定できます。

Netflixはユーザー行動の膨大なデータを収集・分析して、各ユーザーの好みに合わせた映画やテレビ番組を推薦するアルゴリズムを開発しました。このパーソナライズされたレコメンドシステムは、ユーザー体験を大幅に向上させ、エンゲージメントを高める効果をもたらしています。

さらに、地域別のデータを分析することで、特定の市場や文化に合わせたオリジナルコンテンツの開発にも成功しました。これにより地域ごとのニーズに合わせたコンテンツ提供が可能になり、新たな顧客層を引き付けています。

このようにデータ分析は、グロースハックにおいて重要な要素です。データを基に意思決定を行うことで、効果的なマーケティング活動を展開し、リソースの無駄遣いを防ぐことが可能です。グロースハックに取り組めば、データ分析を通じて製品やサービスを持続的に改善できるため、市場の変化や顧客のフィードバックに迅速に対応し、製品の質を継続的に向上させられるでしょう。

4.柔軟な戦略を実行できる

グロースハックは、早期ステージのスタートアップが急速な成長を目指す短期戦略として使われていたこともあり、型にとらわれない柔軟な戦略を実行できます。たとえば、創業初期のAirbnbは、Craigslistというローカル情報を交換するための人気のコミュニティサイトに、自動で物件リストを投稿する機能を不正に組み込んだのです。

これにより、AirbnbのリストはCraigslistの大規模なユーザーベースにも公開され、コストをかけることなく大量の新規ユーザーを獲得できました。これは論理的な観点からは問題がありながらも、グロースハックにおける柔軟な戦略および短期間の急速な成長を代表する例です。

グロースハックを採用することで、異なる市場状況や競争環境、タイミングに迅速に対応できる柔軟性を得られます。特定の戦略がある企業で成功を収めたとしても、他の企業には必ずしも同様の結果をもたらすわけではありません。したがって、グロースハックには柔軟性が必要で、企業は状況に応じて戦略を調整し、革新的な手法を試すことができます。

5.市場に適合した製品の改善ができる

グロースハックを活用することで、市場ニーズに合った製品の改善を行えるのがメリットです。

これは、「プロダクトマーケットフィット」という概念を中心に展開されます。プロダクトマーケットフィットは、スタートアップ企業がターゲット顧客を特定し、適切な製品を提供することに成功した段階を指します。この基盤が整うことで、企業は迅速かつ持続的に成長することが可能になるのです。

グロースハックの父ショーン氏も「プロダクトマーケットフィットを得るまでにスケーリングすることは、スタートアップを死に至らしめる最も早い方法だ。しかし、プロダクトマーケットフィットを持ちながら、成長をうまくスケールさせる機会を逃すことは、さらに大きな悲劇かもしれない」と述べています。

グロースハックを活用することで、市場のニーズに合わせた製品の改善が可能です。市場の変化や顧客の要望に応じて製品を継続的に改善することで、顧客を満足させ、製品の市場適合性を高め、企業の持続的な成長を促進します。

特にスタートアップや急成長を遂げている企業にとって、プロダクトマーケットフィットを達成し、市場の要求に応じた製品開発を行うことは、成功の鍵となる重要な要素です。

グロースハックの重要フレームワーク:AARRRモデル

AARRRモデルは、グロースハックにおいて使用される重要なフレームワークです。顧客のライフサイクル全体を管理し、事業の成長を促進するために用いられます。このモデルは5つの主要ファネルから構成されています。

AARRRモデル

(出典:GrowthHackers

  • Acquisition(獲得):顧客獲得ステージで、自社に最適な顧客にアプローチすることが重要です。たとえば、PaypalはeBayに自社サービスを統合することで認知度を高めました。
  • Activation(活性化):獲得した顧客に製品やサービスを使ってもらうステージで、顧客が早期に価値を実感することが鍵です。オンボーディングの強化や使いやすいユーザーインターフェースの提供が有効です。
  • Retention(保持):ユーザーが製品を繰り返し使用するよう促すステージで、エンゲージメントと顧客サポートが不可欠です。定期的な更新や価値あるコンテンツ提供、フリーミアム戦略が効果的です。

Autopilotは、フリーミアム戦略を用いて、大多数の無料ユーザーに共通する機能を特定し、その機能に制限を設けました。無料ユーザーが制限に達すると、有料アカウントへのアップグレードを促す通知を送信。その結果24カ月の間に、2万4500人以上のトライアルユーザーと契約し、同時に前月比の収益が21%増加しています。

  • Revenue(収益):顧客生涯価値(LTV)の向上を目指すステージで、継続利用やアップセル・クロスセル戦略が中心です。一人当たりの収益を高めることが目標です。
  • Referral(紹介):リファラルでは、既存顧客にブランド情報を発信してもらう性質上、コストをかけず質の高い新規顧客を獲得できます。ニールセンの調査によれば、消費者の92%が「知人からの紹介や推薦を信頼している」と回答。また、82%のBtoBセールスリーダーは、リファラルが最良のリードを生み出すと信じています。

これらの調査結果が示すように、リファラルは成約率の高い顧客をもたらすのです。リファラルを促すには、既存顧客を満足させることは大前提としたうえで、紹介による報酬の提供や紹介プロセスの簡易化、コミュニティの育成などが効果的です。

グロースハック実行のステップ

ここでは、グロースハック実行の6ステップを見ていきましょう。

グロースハック実行のステップ

ステップ1:目標の定義をする

グロースハックにおける最初のステップは、具体的な目標の定義です。目標は、事業全体のビジョンや長期戦略に密接に関連している必要があります。目標定義の際は、以下5つの要素からなるSMARTの法則が役に立ちます。

  • 具体的(Specific)
  • 測定可能(Measurable)
  • 達成可能(Achievable)
  • 関連性(Relevant)
  • 時間的制限(Time-bound)

たとえば、ユーザー基盤の拡大と顧客のエンゲージメント向上を目指すために、四半期内に現在の5%のアップグレード率を10%まで向上させるといった具合です。

ステップ2:現状の課題と要因を分析する

次に設定した目標を達成するために、現在の状況、直面している課題、そしてそれらの原因を分析する必要があります。この分析は、データ分析、市場調査、顧客のフィードバック、競合分析などを通じて行われます。

先の例の続きを考えてみましょう。低いアップグレード率の課題を特定するために、以下の分析を実施します。

現状の課題と要因を分析する


これらの課題に対する要因分析を行います。たとえば、顧客が求める特定の機能が不足している、あるいは製品の利点が十分に伝わっていないなどが課題の原因となる可能性があるでしょう。このような分析を通じて、課題と課題を発生させている要因を特定します。

ステップ3:ブレインストーミングでアイディアを出す

グロースハックの成功は、革新的かつ創造的なアイデアによって推進されます。個々人が独自に思いつくアイデアには限界があるため、より広い視野でのアイデア発想が求められます。このため、異なる専門領域のメンバーを交えたブレインストーミングセッションが効果的です。

トロント大学ロットマン経営大学院の戦略経営学教授Sarah Kaplan(サラ・カプラン)氏による研究では、さまざまな部門や背景を持つ人々を結集させることで、ブレインストーミングの成果を高めることが明らかにされています。ただし多様性のみならず、対象トピックに関する深い専門知識が同時に必要であるとも判明しました。

ブレインストーミングを行う際には、異なる分野の専門家が参加することが重要です。それぞれの専門知識を持つメンバーが集まることで、従来の枠にとらわれない、斬新なアイデアが生み出されるでしょう。

ステップ4:仮説に基づき優先順位をつける

ブレインストーミングで生成されたアイデアから仮説を作成し、それぞれに優先順位を付けます。まずはブレインストーミングを通じて生まれたアイデアを詳細に評価し、そのアイデアが成功した場合に、どのような具体的な成果や影響をもたらすかについての仮説を立てましょう。この評価では、アイデアが企業の目標や市場の需要とどのように関連しているかを分析することが重要です。

優先順位をつける際は、顧客データ、市場の需要、競合分析、実現可能性、リソースの可用性などのデータをもとにしなければいけません。データ分析はグロースハックの根幹を担うため、必ずデータに基づいた意思決定をするようにしましょう。

ステップ5:仮説を実行する

このステップでは、仮説を具体的な行動に移します。まずは選択した仮説に基づいて、実行計画を立てます。計画には、目標とするKPI、期間、および予想される結果を含めることが重要です。これにより、仮説が実際にどのように市場や顧客行動に影響を与えるかを正確に測定できます。

次に、必要なリソースとツールを準備し、仮説を実施します。デジタルマーケティングツール、データ分析プラットフォーム、顧客関連管理(CRM)システムなど、適切なテクノロジーの使用が成功の鍵です。デジタルツールの活用は、正確なデータ収集と分析を実現します。

ステップ6:効果の検証・分析を繰り返す

ステップ6では、実施したグロースハック戦略の効果を検証し、その成果を分析することが中心となります。このステップは、継続的な学習と改善の過程であり、戦略の成功を確認し、必要に応じて調整を行うために重要です。

まず、実施した実験や戦略の成果を測定します。これには、設定したKPIや目標を用いて、実際の成果を客観的なデータとして収集することが含まれます。たとえば、ユーザー獲得数、コンバージョン率、売上げの増加、顧客エンゲージメントの向上などが測定対象となるでしょう。

次に、収集したデータを詳細に分析し、どの戦略が有効だったか、またどの領域で改善が必要かを特定します。この分析では、データのトレンド、パターン、異常値の特定などをし、実施した戦略の影響を正確に理解することが重要です。

さらに、効果の検証と分析は一度きりの活動ではなく、継続的なプロセスとして実施します。市場の変化や顧客の動向は常に進化しているため、定期的に戦略の効果を再評価し、必要に応じて新たな実験や戦略を立案し実行することが重要です。

効果の検証と分析を繰り返すことで、戦略の効果を最大化し、市場や顧客のニーズに迅速かつ柔軟に対応することが可能になります。これにより、常に最適なグロースハック戦略を展開し、競争優位を維持し続けることができるでしょう。

グロースハッカーになるための必要な代表的なスキル

企業の持続可能な成長を推進するグロースハッカーには、さまざまなスキルが求められます。ここでは代表的な4つのスキルを見ていきましょう。

基本的なテクニカルスキル(プログラミング)

グロースハックは、データに基づいて迅速なテストを繰り返し、製品やサービスの成長を促進する戦略だからこそ、プログラミングなどのテクニカルスキルが重要です。

基本的なテクニカルスキルがあることで、繰り返し行われるタスクやデータ収集、分析プロセスの自動化、A/Bテストの実装などが行えるようになります。特に、データ収集、分析、可視化、および意思決定において中心的な役割を果たす下記言語を身に着けておくとよいでしょう。

  • MySQL(データベース管理)

MySQLは、顧客データ、取引データ、ユーザー行動データなどの大量の情報を管理し、格納するための強力なデータベース管理システムです。これにより、グロースハッキングに必要なデータに簡単にアクセスできます。

  • SQL(Structured Query Language)

複雑なデータクエリを実行し、特定の分析やレポートに必要なデータを抽出します。

  • Excel(データ分析とレポート作成)

Excelでは、データの整理、加工、基本的な分析が可能で、チャートやグラフを用いてデータを視覚化できます。これにより、インサイトをより分かりやすく伝えることができます。

  • R(高度な統計分析)

Rは統計計算とグラフ作成のためのプログラミング言語であり、複雑な統計分析やデータモデリングに最適です。

  • Tableau(データ可視化)

データをインタラクティブなダッシュボードとして視覚化し、複雑なデータセットからインサイトを得ることが容易になります。また、ビジネスインテリジェンスツールとしても広く利用されており、データ駆動型の意思決定に大きく貢献します。

デザイン・UI/UXの理解

グロースハックにおいてデザインとUI/UXの理解が重要な理由は、ユーザー体験の質を直接向上させ、ユーザーの行動や意思決定に影響を与えるためです。良いデザインとUI/UXは、ユーザーにとって直感的で使いやすく、情報や機能へのアクセスを容易にし、最終的にはコンバージョン率を向上させます。

LiquidPlanner

(出典:LiquidPlanner

プロジェクト管理システムLiquidPlannerは、顧客エンゲージメントを高めるため、ダッシュボード作成プロセスを改善しました。従来の方法では、ユーザーがダッシュボードとウィジェットをゼロから作成する必要があり、低いエンゲージメントとLTVという問題を抱えていたのです。

そこでワンクリックでダッシュボードを作成できるUI/UXを導入することで、仕様の変更から30日以内にダッシュボードの利用を大幅に増加させることに成功し、顧客エンゲージメントとLTVが向上しました。

ユーザーからのフィードバックを活用してUI/UXを継続的に改善することで、製品やサービスをユーザーのニーズに適合させ、顧客満足度を高められます。デザインとUI/UXの優れた理解は、ユーザー中心のアプローチを取り、グロースハックの取り組みを成功に導く鍵となるでしょう。

コピーライティングスキル

グロースハックにおけるコピーライティングスキルの重要性は、コピーが製品やサービスのメッセージを伝え、ユーザーの感情や行動に強い影響を及ぼすためです。


AIがコピーを生成するCopy.AIを創業者がTwitterで紹介したところ、1400以上の「いいね」を獲得し、一週間で数百人のサインアップと最初の優良顧客を獲得しました。これは、ブランドの核となるメッセージを伝え、最初のユーザーや顧客を惹きつける、正確で説得力のあるコピーライティングの力を実証しています。

また、当時はクラブハウスのように閉鎖的なコミュニティが流行している中、無料トライアル/ベータ版なし/クレジットカードなしという、正反対のオープンなビジネスモデルがユーザーの興味関心を惹いたこともあるでしょう。

コピーライティングは、エンゲージメントやコンバージョン、ブランド認知度、ロイヤリティなどあらゆるグロースハック戦略とかかわるスキルです。

データ分析スキル

グロースハックにおいてデータ分析スキルが重要なのは、これが企業の意思決定を導く鍵であり、ユーザーの深い理解、効果的な戦略の策定、成果の測定と最適化、さらに市場のトレンドと機会の特定に直接関与するからです。

データ分析により、顧客インサイトを得て製品やサービスを改善したり、ターゲット市場を特定してマーケティング戦略を最適化したりできます。また、実施した施策の成果を測定し、継続的な最適化を通じて成長機会を最大限に活用するためにもデータ分析は不可欠です。

グロースハックの企業事例

最後に、企業がどのようにグロースハックで劇的な成長を遂げたのかを理解するため、3つの事例を見ていきましょう。

Dropbox

dropbox

(出典:Dropbox

Dropboxはクラウドストレージサービスを提供する企業で、創業当初から非常に競争の激しい市場に参入しました。それでいながらも大きな成功を収めた要因は、革新的な製品と巧みなマーケティング戦略の組み合わせによるものです。

Dropboxの最も成功し、最も有名なグロースハック戦略はリファラルプログラムでしょう。同社はユーザーに、新規顧客を紹介すると無料のストレージスペースを提供するというインセンティブを設けました。

ユーザーは容量を増やすために、積極的にDropboxを家族や友人に紹介したのです。結果、リファラルプログラムは口コミで爆発的な普及を促進し、短期間で大量の新規ユーザーを獲得することに成功しました。

また、非常にシンプルで直感的なユーザーインターフェースも成長要因です。これにより、ユーザーは容易にファイルをアップロード、共有、アクセスをし、Dropboxの価値を実感できます。Dropboxは創業初期において、競争が激しい市場で目立つ存在となり、短期間で大きな成長を遂げました。

Instagram

Instagram

(出典:Meta

あまり知られていませんが、Instagramの起源は地図ベースのチェックインアプリ「Burbn」にあります。Burbnは、ユーザーが位置情報を共有し、写真をアップロードできるアプリでした。しかし、このアプリは市場で大きな注目を集めることができずにいたのです。ユーザーデータを詳しく分析したところ、ユーザーは主に写真機能を活用しているとわかりました。

そこで「写真機能のある位置情報アプリ」Burbnから写真共有の機能に焦点を絞り、「位置情報機能のある写真投稿アプリ」Instagramとして再ブランドしたのです。リブランドから2カ月後には100万人ユーザー、約1年後には1000万ユーザーに到達しました。

特に、シンプルかつ直感的なインターフェース、独自のフィルター機能、ソーシャルメディアとのシームレスな連携は、Instagramを他のアプリと差別化し、その成功を後押ししました。これは顧客エンゲージメントを探り当て、的確なピボットをした事例です。

Slack

Slack (1)

(出典:Slack

Slackは、元々ゲーム会社であったTiny Speckによって開発された内部コミュニケーションツールでした。その後、独立した製品としてリリースされ、リリースから2年で3万以上のチームが導入、10億ドル以上の評価を受けるほど急速な成長を遂げました。

それにもかかわらず、SlackはEメールキャンペーンや広告などの従来のマーケティングに大きな力を入れていませんでした。それでは、Slackはどのようなグロースハック戦略を用いたのでしょうか。

Slackが大成功を収めた理由は、顧客からのフィードバックを真摯に受け止め、迅速にプロダクトの改善へと反映させたためです。初期にベータ版を導入し、限られたユーザーに対して製品のテストとフィードバックを行うことで、ユーザーのニーズや課題を直接理解し、製品改善に役立てたのです。

公式にリリースされた後も、Eメールやヘルプデスクに届く顧客の声に耳を傾け、製品を改善する貴重な機会として取り扱っています。月に8000件のヘルプデスクと1万件のツイートがありながらも、すべてに対応している事実は、Slackにフィードバックを重視するカルチャーが根付いていることの証です。

また、データ分析を通じて、2000通のメッセージの送受信が顧客の継続的な利用に大きく関連していることを発見しました。具体的には、2000通のメッセージのやり取りをした顧客の93%がSlackを継続的に利用していたのです。この「マジックナンバー」の特定により、新規ユーザーが迅速にこの行動指標に達するよう支援する機能や、ガイダンスを提供できるようになりました。

そのほか、ユーザーコミュニティの育成も重要な戦略でした。特に技術者やデザイナーなどの初期のアーリーアダプターは、他のユーザーにSlackの活用方法を示し、製品の価値を広める役割を果たしたのです。

これらの取り組みが組み合わさることで、Slackは急速な成長を遂げ、10億ドル以上の評価を受ける企業へと成長しました。顧客フィードバックの活用、データ分析に基づく戦略の実行、コミュニティの育成は、スタートアップの成長において極めて重要な要素であることが示されています。

まとめ

グロースハックは単なる創造的なアイデアを超えた、データに基づいたアプローチと徹底した顧客・市場分析によって成長を達成する戦略的なプロセスです。このアプローチの核心は、顧客の課題や製品使用方法の深い理解です。製品やサービスの基本的な価値提案を強化し、ターゲット顧客に最適な体験を提供することが目的とされています。

さらに、グロースハックの成功は迅速なテストと反復的な学習に依存します。顧客の行動やニーズを詳細に分析し、得られた洞察を基に製品とマーケティング戦略を継続的に改善することが求められます。成長が進んでも、常に市場環境を把握し、テストを重ねる姿勢こそが真のグロースハックの鍵と言えるでしょう。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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