近年は「デマンドジェネレーション(営業機会の創出)」に取り組むBtoB企業のマーケティング部門が増えています。
デマンドジェネレーションの前半のプロセス「リードジェネレーション(見込み客創出)」「リードナーチャリング(見込み客育成)」については、すでに別記事でまとめましたが、今回はあまり目立たないものの重要な「リードクオリフィケーション(見込み客選別)」について解説していきます。
今やネット上で有益な情報を発信をすれば、世界中から興味・関心を持った人をリードジェネレーションできる時代です。実際、多くの企業が自社メディアを持ち多数のリードを集めているでしょう。しかし、BtoBの場合はそこから顧客になるケースは比率としては僅かです。
しかも、集まったリードには見込み客だけでなくライバル企業の社員、自社に何かをセールスしたい企業の社員、顧客対象にならないリードが混入、情報を入手して参考にしたいだけの人たちも多数含まれています。
しっかり分析して「どのリードが顧客になる可能性が高いか」を予測し、営業する優先順位を決めていくことはとても重要です。この記事では、リードクオリフィケーションの重要性と手法を紹介します。
リードクオリフィケーションとは、営業・マーケティング活動において、集めたリードが自社の理想的な顧客プロファイル(ペルソナ)に適合し、長期的な顧客になりえるかどうかを判断するプロセスです。
デマンドジェネレーションの概念図で説明すると、以下の図のように「リードジェネレーション(見込み客の創出)」「リードナーチャリング(見込み客との信頼関係育成)」のあとに、「リードクオリフィケーション(見込み客の選別)」に移行します。
(デマンドジェネレーションのプロセス)
もっとも現実の工程は図のようにカッチリと分かれているわけではありません。マーケティング初期のペルソナ作成は見込み客の選別に相当しますし、Web上で資料をダウンロードする際に細かく入力してもらう企業名、氏名などもリードクオリフィケーションの一部です。アウトバウンド営業なら、初回のテレアポや商談でもある程度見込み客の選別をできるでしょう。
ただし、いずれもリードジェネレーション段階の間口の大きさの差はありますが、一度接点を持ったリードをさまざまな指標で検証して、営業すべき企業の優先順位を決めていくところは同じです。この見込み客の見極め力、どこに営業のリソースを投下するかで生産性に影響するのはご存じの通りです。
米国の調査ですが、企業がオンラインで生成するリードの約73%が営業を受ける段階になく、約50%は購入する意思がないという結果がでています。
企業が見込み客を絞り込んでセールスすることで営業効率を高めるだけでなく、無用に企業イメージを低下させるリスクを避けられます。
ここでは、リードクオリフィケーションを行う意味をマーケティング部門、営業部門それぞれの立場から解説します。
従来のアウトバウンド営業の場合は、営業リスト作成段階から対象を選別できます。さらに電話や商談で相手の雰囲気をつかみ、的確な質問をすればニーズも確認しやすく比較的早期に優良見込み客を選別できます(下の図の右側のSales Pipelineをご覧ください)
一方、インバウンド営業の場合は、あくまで「相手に選んでもらう」姿勢。マーケティング戦略をたてるときのペルソナ設定はしますが、あとは見込み客がWebサイトで資料をダウンロードするときにフォーム記入情報(企業名、業界、氏名など)、メールの開封率、訪れたページなどの、定性的情報と行動情報を地道に積み上げ、マーケティング部門で定義した見込み客の段階を判断していきます。(図の左のファネルのフロー)。
簡単にいえば、テレアポなど最初のハードルこそ高いものの会えば識別が早いアウトバウンド営業のリードクオリフィケーションと(このようなリードをSales Acqured Leadと呼ぶことが多い)、リードジェネレーションをウェブなどから行う事になるインバウンドリードに対するリードクオリフィケーションは、あくまでリード主体であるため企業側ではコントロールの効かない「時間」が存在する、などの違いがあり、一長一短です。
(What is a Sales Pipeline? A Guide to Build and Manage Your Own)
近年は、オンライン上の見込み客をマーケティング部門が創出し、営業チームに案件を渡す分業型の組織が増えています。マーケティング部門が創出したリードは「マーケティングクオリフィケーションリード(MQL)」と呼ばれます。
具体的にはWebサイト、SNS、Blog、ネット広告などのチャネルを経由してリードジェネレーションしたリードから、メール開封率が高く、無料ウェビナーに参加するなど製品・サービスへの関心度が高そうな見込み客に無料デモ、期間限定のキャンペーンなどを案内します。
有望見込み客かどうかをチェックしながら絞り込みMQLと見なす場合、もしくは購買見込みが高いリードしかエンゲージメントしないようなコンテンツ、たとえば資料請求や問い合わせなどに対してアクションを起こしてみたリードをMQLと見なすなどの定義を持たせている企業が多いです。
インサイドセールス部隊がある場合は担当者がメールや電話で信頼関係を醸成し、ニーズが確認できた段階で商談のアポイントを取得して、営業部門に引き渡します。
(画像出典:Lead Boxer)
オンライン経由のリードは量は集めやすいのですが、潜在顧客が中心なため見込み度合はあまり高くありません。
HubSpotの調査では、マーケティング部門が創出した案件は、最初にターゲットを絞り込んでアプローチするアウトバウンド営業の案件と比べて16%と7%と半分以下でしかありません。この数字は、リードを獲得したコンテンツがカスタマージャーニーのどこに対して狙いをつけているかによりますが、一般的に低いです。この温度感の違いも社内で共有しておくことが大切です。
ただし、率は低いとはいえ正しいコンテンツを制作することによって、オンラインでのリードジェネレーションは成功すれば母集団を大きくします。適切なリードクオフィリケーションプロセスを構築すれば、売上にかなり貢献できるでしょう。
Gartnerの2019年の調査によると、BtoB企業の平均的なサプライヤーでもリードの43%をマーケティングから調達、最も成功しているB2Bマーケティング組織は60%を調達しています。マーケティング部門の収益への貢献度はすでにかなり高く、今後世界的にDXが加速すればその重要度はますます高くなるでしょう。
分業型の営業組織の場合、商談以降の段階からは営業担当者が引き続きリードクオリフィケーションを行います。
マーケティング部門から提供された営業案件に対して、従来の営業活動と同じように傾聴力、課題把握力、BANT条件の確認などを行いながら提案していきます。
分業型ではなく、すべて営業担当者が完結する営業組織の場合は、新規開拓のターゲット業界、企業規模、エリア、さらには景気の追い風を受けている業界などをしぼりこみ、将来、大きな取引につながる顧客にアプローチすることが可能です
withコロナ、afterコロナの時代には、BtoB企業の多くはハイブリッド型営業かオンライン営業中心になることが想定できます。アウトバウンド型の営業プロセスとともに、ITツールのスコアリングなどを活用するオンライン営業のリードクオリフィケーション手法についても理解を深めると、営業力がさらに向上するでしょう。
ここでは、リードクオフィリケーションの手法を紹介します。
注意事項としては、どの手法であっても前提として「自社の有望なリードの定義」を決めること。そのためには、現在の自社の顧客を理解し、ペルソナ(架空の理想の見込み客プロフィール)を何種類か設定しておくことがポイントです。
※ペルソナ作成については、こちらの記事をご覧ください。
その上で自社に適したリードクオリフィケーションの手法を選択しましょう。
リードスコアとは、見込み客のWeb上での「行動」や「属性」によって顧客になる可能性を数値で表したものです。マーケティングオートメーション(MA)やCRMのオプションパッケージなどのツールを活用し、特定のデータポイントをもとに見込み客の可能性をスコアリングできます。
例:行動によるスコアリング
例:属性によるスコアリング
見込み客の会社規模、業界、役職などをの情報をもとにします(Webサイトのフォーム入力情報などを参考にします)
上記のスコアリングを合計し、自社基準で一定値以上のスコアの見込み客に優先してアプローチします。
リードスコアリングは、営業に案件を渡してからも継続します。営業と見込み客とのメール、会話、ミーティングなどの活動を含めることでより精度が高くなるでしょう。昨今のAI搭載ツールの中には、営業担当者がスコアを確認しなくても「電話をかけるべき見込み客」をレコメンドしてくれるものもあります。
しかし、残念ながら日本ではあまりリードスコアリングを使いこなせていないという調査結果もあります。スコア設定が慣れていないと難しい点や、米国と異なり営業とマーケティング部門が連携することがあまりなかったため、社内にノウハウがないことも影響しているでしょう。
筆者の経験上、組織的に取り組まずにマーケティング部門、もしくは営業部門だけで取り組みをしようとする場合は、当然ながら成功しません。
とくに、リードスコアリングでリードクオリフィケーションをする場合は、膨大なリードの獲得に成功していることが前提条件です。そのような企業が少ないという事実も成功する企業が少ない事実に強く関係しています。
加えて、導入にあたっては使いこなせる環境があるか、人材がいるかもポイントです。また、そもそもリードを集められていない段階であれば、リードジェネレーションに先に力を入れましょう。
BtoB SaaS企業の成長率を高めるには、リードジェネレーションから顧客化までのオペレーションをテクノロジーで自動化していく必要があるため、データ管理(データマネージメント)にも着手していく必要があります。
ここでは、営業活動における見込み客の見極めのフレームワークを紹介します。
マーケティング部門から案件を引き継いだあとはもちろん、自力でアプローチする場合も役立ちます。製品・サービスの価格帯、対象とする見込み客の企業規模、営業担当者のスキルなどによって、適したフレームワークを活用しましょう。
BANTとは、IBM社が作成したフレームワークで、営業活動において見込み客のニーズ、予算、購入時期、発注権限があるかどうかを確認するフレームワークです。早期に以下4点を確認することで、その後の営業活動の力の入れ度合をコントロールできます。
CHAMPはBANTに比べると、見込み客がより課題(希望、ニーズ、ペイン)に向き合いやすく、社内での優先順位の高さも確認できる項目で構成されているフレームワークです。初期の見込み客の絞り込みには必要十分な内容でしょう。
GPCTBA/C&Iは、HubSpotが開発したフレームワークです。かなり詳細ですが、より担当者の本気度を測定することができるフレームワークです。
MEDDIC は、IT企業の社員が考案したフレームワークです。BtoBSaaSのように導入を決める部署と実際に活用する部署が異なり、社内の複数関係者に賛同を得ると導入決定や導入後のスムーズな運用につながる製品・サービスに適しています。
新規顧客の獲得で重要なのは、自社に合う属性の企業や今後成長が著しい企業にタイミングよくアプローチできるかです。しかし、インバウンド営業の場合はアウトバウンド営業のようなストレートなアプローチはできません。大量にリードをリードジェネレーションしたら自社の理想の顧客データに合う見込み客を絞り込んでいく、データをもとにしたリードクオリフィケーションの実施が不可欠です。
また、前提として見込み客の選別となる「自社の理想の見込み客の基準」があり、「リードジェネレーション(見込み客創出)」「リードナーチャリング(見込み客との信頼関係の醸成)」の段階で、リードの量と関連情報を集められていることがリードクオリフィケーションを成功させるポイントです。