日本国内のBtoBマーケティング領域において「デマンドジェネレーション(Demand Generation)」を見聞きする機会が多くなりました。デジタルマーケティングサービスを提供する者として喜ばしいことであるのと同時に、日本のマーケティング界にとって大きな変革の時であると感じます。
しかしながら、デマンドジェネレーションの本質やその他のマーケティング用語の違いが正確に理解され、いち担当者レベルまで浸透するには少し時間がかかるでしょう。
今回は、マーケティング初学者からよく質問を受けるデマンドジェネレーションの本質をおさらいし、「リードジェネレーション(Lead Generation)」との違いについて解説していきます。
BtoBマーケティング領域では重要項目なので、ぜひこの記事でデマンドジェネレーションの知識を固めてください。
デマンドジェネレーションとは「需要(Demand)を創出する(Generation)ためのマーケティングプロセス」を意味します。
日本国内では、シンフォニーマーケティングの庭山氏が長いことデマンドセンターの必要性を説き、ここ数年でマーケティング部門の重要性に注目が集まり始めました。
一方で、欧米では2000年代から提唱されたマーケティング概念であり、十数年かけて進化してきた経緯があります。
以下のモデル図は、Sirius Decisions(現在は世界有数の調査・アドバイザリー会社であるForresterが買収)が提唱した「デマンドウォーターフォール」と呼ばれるものです。
(出典:How personalization takes the scary out of your demand unit waterfall)
デマンドウォーターフォールが最初に提唱されたのが2006年のことなので、実に15年以上の歴史があります。また、時代と共にデマンドジェネレーションのマーケティングプロセスが大きく変化したことも分かります。
初期のデマンドウォーターフォールでは、連絡先を取得したリード(Inquiries)、営業に引き渡せるマーケティングリード(Marketing Qualified Lead)、営業案件としてアプローチできるリード(Sales Aquired Lead)、営業が商談可能なリード(Sales Qualifed Lead)、そして受注とビジネス目標の達成(Closed/Won Business)とシンプルな構造です。
これらはファネル(漏斗)状でBtoBマーケティングの大まかな流れを表現しており、下のプロセスに向かうほど対応できるリード数が減っていくことを表しています。
2012年の改訂では、デジタルマーケティングの発展により複雑化した見込み客の動きを細かく定義化するため、上記のプロセスが複雑化し、マーケティングとセールスの連携について細かく記載されています。現在で言うところの「インサイドセールスとフィールドセールス」のような分業制の関係を表しています。
そこから5年後には、デマンドウォーターフォールは形を変えてデマンドユニットウォーターフォールという形に変化をします。これはユニット単位で社内のメンバーがチーム化され、各ユニットを担当するチームがその段落にいる様々なタイプの見込み客のデマンドに対応することです。
2017年のファネルは、既存の優良顧客を抽出し、関係構築・維持による収益性をアップを狙うABM(Account Based Marketing)の思考によく似ています。マーケティングの初期段階から「手当たり次第に」ではなく、優良リードを見定め、効率良く収益性を高めていくためのモデル図です。
実際、2014年頃からアメリカBtoBマーケティングでムーブメントを起こし、定着していったABMの流れを組んで改訂されたのだと考えられます。
デマンドジェネレーションの理解を深めていただくために、「デマンド(Demand)」「ニーズ(Need)」「ウォンツ(Want)」の違いをご説明します。いずれもジェネレーション(創出)が必要とされるマーケティング要素であり、似通った言葉ではありますが明確な棲み分けがあります。
ここでは、マーケティングの父と呼ばれるPhilip Kotler(フィリップ・コトラー)氏が著書『マーケティング原理 第9版―基礎理論から実践戦略まで』で提唱したそれぞれの言葉の定義を参考にします。
また、デマンドについては次のように説明しています。
「人間の欲求には限りがないが、それを満たす資源には限りがある。そのため、人は自分で買うことができるもののなかから、最高の価値と満足が得られる製品を選択する。欲求が購買力を伴うと需要となる。」
つまりデマンドというのは、上記3つのマーケティング用語のうち「商品やサービスに対する欲求が最も強く現れた感情であり、購買意欲が最大限に高まっている状態」を指しています。このデマンドを創出し、実際の購買とリピートへと繋げていくのがデマンドジェネレーションが目指すところです。
前掲のSirius Decisionsが過去に公表した、興味深いデータがあります。それは「BtoB購買プロセスの67%はオンラインで完結し、それまで営業と顧客決裁者が接触することはない」ということです。BtoBマーケティングに関わる方なら、誰もが耳にしたことがあるはずの情報でしょう。
しかしこれには、ちょっとした語弊があります。確かにBtoB購買プロセスの67%がオンラインで完結しますが、そこに達するまで営業の接触機会が全くないわけではありません。これはForresterのブログでも語られていることで、多くの方が「マーケティング神話」として誤解しています。
Sirius Decisionsの統計データが言わんとしているのは、「BtoBの購買プロセスは大きく変化し、半分以上がオンラインへと移行しました。だから、購買プロセス全体を一つの旅のように捉えて、その時々にマッチした手法・情報でリードに接触することが大切ですよ」ということです。
こうした現代マーケティングで最重要とも言えるのがデマンドジェネレーションであり、直接的な接触機会が減ったBtoB購買プロセスにおいて、如何にして「この商品・サービスを買いたい」と思ってもらえるマーケティング戦略を実施するかが、成長の鍵になります。
では、デマンドジェネレーションがなぜ日本のBtoB企業に必要と言われているのでしょうか?その答えは極めてシンプルです。
「1990年代のアメリカBtoB企業は現代日本のようにマーケティングの個別最適化に陥り、その状況を打開したのがデマンドジェネレーションだから」
百貨店王と呼ばれ、1889年にはアメリカの郵政長官を務めたJohn Wanamaker(ジョン・ワナメーカー)氏は、マーケティングの先駆者としても知られています。
彼は過去に「私は広告費の半分が無駄になっていることは既に分かっている。問題は、半分のうちどちらが無駄になっているかが分からないことだ」という言葉を残しています。
現代日本のBtoBマーケティングは、まさにこの状態に陥っていると考えられます。展示会、セミナー、ブログ、メルマガ、SNSなどのチャネルを複数の組織がバラバラに運用している状態では、「何が売り上げに貢献したのか?」の判明が極めて難しくなります。
そんな中、アメリカではリードジェネレーション、リードナーチャリング、リードクオリフィケーションという3つのマーケティング活動を見込み客の動きを中心に総合的に捉えたデマンドジェネレーションの概念が発足され、あらゆるマーケティング施策を包括的にまとめた戦略が実践されるようになりました。
アメリカのBtoBマーケティングは確かに先進的であり、時には雲の上のような存在として語られることもあります。しかし、アメリカも現代日本と同じ悩みを抱え、それを解決してきた経緯があることも事実であり、日本のBtoBマーケティングはその轍を踏みながら進めば、もっと効率的に現状を改善できるのではないか、と感じます。
では、この記事の本題である「デマンドジェネレーションとリードジェネレーションの違い」をご紹介します。前述の通り、デマンドジェネレーションはリードジェネレーション、リードナーチャリング、リードクオリフィケーションという3つのマーケティング活動を包括したBtoBマーケティング戦略です。
3つのマーケティング活動は串刺し的に連なったプロセスであり、各活動の最適化と全体を俯瞰しながらの試行錯誤がデマンドジェネレーションを実現させます。
リードジェネレーション(Lead Generation)は、これまで面識のなかった企業へアプローチし、リード(見込み客)の創出に注力するマーケティングプロセスです。オンラインとオフラインにおけるあらゆる接触手段でリード創出を目指します。
オンラインのリード創出方法
オフラインのリード創出方法
SaaS/BtoBソフトウェアの評価プラットフォームであるFinancesOnlineが実施した調査では、リードジェネレーションに関して次のような事実が判明しています。
(参考:53 Key Lead Generation Statistics for B2B Marketers(BtoBマーケターによる、リードジェネレーションにおける53個の重要統計)))
調査によればリードジェネレーションに最も効果的な手段はイベント、次いでセミナーとオフライン施策が並んでいます。ただしそれとは反対に、リードジェネレーションの成功率を上げるための最も効果的な手段はコンテンツ作成となっており、オンライン施策が重要であることも示しています。
ただし、こちらの調査では調査対象の企業規模が明らかになっていませんが、一般的にリードジェネレーションの効果的なチャネルは自社のビジネスモデルに起因することがあります。たとえば、リード数がもともと限られているような製品サービスのSaaSなどであれば、オンラインでリードを無尽蔵に創出することは不可能であり、より効果的かつ効率的なチャネルは展示会などになりがちです。
そのような前提条件を理解した上で、リードジェネレーションは大量のリードを獲得することよりも、質の高いリード(ホットリード)を獲得することに重点を置くのが肝要です。質の低いリード(コールドリード)ばかり創出してしまうと、忙しくはなりますが収益性は当然下がります。
ホットリードをより多く創出するにはペルソナとカスタマージャーニーマップを上手く連携させ、リードの購買プロセスに存在するいくつもの接点を把握し、その時々で適切な手段で、有益な情報を届けることが重要です。
リードジェネレーションの詳しい方法は『BtoB企業がリードジェネレーション(見込み客創出)を成功させるためのステップ』にて解説しているので、ぜひ参考にしてください。
デマンドジェネレーションの次なるステップは、リードナーチャリング(Lead Narturing)によって創出したリードの購買意欲を育てていくことです。つまり、デマンドを本格的に創出していく段階になります。
大量のリードを獲得した場合は、スクリーニング(リードの分別)を実施した上でセグメント(属性が似通ったリードの集団)を作り、セグメントごとに個別最適化されたナーチャリング施策を展開することです。
ペルソナとカスタマージャーニーマップはこのプロセスにおいても重要指標であり、リードジェネレーションとの整合を図ることも非常に大切です。つまりは、「最初から最後まで一貫した購買体験」を提供することでリードのニーズ・ウォンツ、そしてデマンドを育て、需要を創出していくことへ繋げていきます。
リードナーチャリングの重要性について判明している事実を以下にご紹介します。
(出典:Maketing sherpa)
リードを創出するプロセスは重要ですが、それ以上に重要なのがやはりリードナーチャリングです。『BtoB企業がリードナーチャリング(見込み客育成)を成功させるためのステップ』ではその方法を詳しく解説しているので、リードジェネレーションと合わせてご確認ください。
デマンドジェネレーションの最後のプロセスが、リードクオリフィケーション(Lead Qualification)と呼ばれるリードの抽出段階です。リードナーチャリングを実施しても、全てのリードの施策がハマるわけではありません。
より効率的な受注を目指すには、受注確度の高いリードを絞り込み、抽出し、SQL(購買見込みの高いリード)として引き渡す必要があるのです。
ここからの一般的な流れは、マーケティング(インサイドセールス)部門がリードクオリフィケーションによって有望リードを抽出し、営業(フィールドセールス)部門に引き渡して営業クロージングを行い、受注を獲得することになります。
その際に注意すべきは「SQLの質」のについて部門間で事前に協議し、SLA(品質保証)条件を決めておくことです。SQLの質が悪いと営業効率も悪くなり、ひいては収益性が下がります。
また、SQLの質に対するSLAがないと「マーケティングが打ち上げてくるSQLの質が悪い」「営業のクロージングが弱い」といった責任のなすり付け合いに発展し、両部門の確執になる可能性があります(実際、そうした確執に悩む企業はたくさん存在します)。
マーケティングにおけるSLAについては『SLA(Service Level Agreement)とは?マーケティングと営業部門で効果的なSLAを作るには』にて解説しているので、ぜひ参考にしてください。
リードクオリフィケーションの重要性を示す事実が、BUSINESS 2 COMMUNITYが過去に公表した以下の情報です。
(出典:15 Need-To-Know Lead Qualification Stats for B2B Marketers (with Takeaways)))
営業クロージングへ持っていく前段階の、重要なプロセスだと分かります。『リードクオリフィケーションとは?その方法と考え方を徹底解説』では、リードクオリフィケーションの意味や重要性、活用できるフレームワークなどを詳しく解説しています。成約率と収益性を高めるため大切なプロセスなので、ぜひご一読ください。
デマンドジェネレーションのプロセスはSQLの抽出をもって終了しますが、営業クロージング後のリテンション(リピーター創出)も重要であることを忘れないでください。また、失注案件は再度リードとして管理し、デマンドジェネレーションを実施することで受注案件へと繋がる可能性は十分にあります。
デマンドジェネレーションについて理解する上で欠かせないのがMA(マーケティングオートメーション)の存在です。すでに導入されている企業も多いMAは、今やデマンドジェネレーションの中核を成すツールです。
先ほど解説したリードジェネレーション、リードナーチャリング、リードクオリフィケーションという3つのプロセスは個別最適化を実施するのと同時に、一貫性のあるプロセスでなければ質の高いデマンドの創出は実現しません。
アメリカのBtoBマーケティングが1990年代に苦慮していた理由は、「プロセスを個別最適化し過ぎた」のが原因です。そして前述のように、日本国内のBtoBマーケティングでは今まさに同じようなことが起きています。
MAは獲得したリードを一元的に管理し、スクリーニングを実施し、デジタルコンテンツを駆使したリードの育成を実施できます。全てを自動化するわけではないものの、従来はマーケターが手作業で行っていた定型作業をMAで自動化することで得られる効率化は計り知れません。
また、リードの行動をトリガーとした情報発信もリードナーチャリングでは有効です。
リードクオリフィケーションにおいては、スコアリング機能によって各リードのオンライン上での行動を評価し、自動的なSQLに発見・抽出に役立てられます。これだけの作業を、マーケター自身の手で実施するのはやはり不可能な話です。MAはこれを強力に支援します。
しかしながら、MAがデマンドジェネレーションを完成させる最後のピースというわけではありません。MAを導入しただけではマーケティング施策を効率良く回すことはできず、常に大切なのは「人」と「コンテンツ」です。
MAというツールは「エンジン」であり、コンテンツはその「燃料」です。それを「ハンドリング」するのがマーケターです。デマンドジェネレーションにおけるMA活用は、このことを念頭に置きながら取り組みましょう。
日本国内のBtoBマーケティングにおける、デマンドジェネレーションへの取り組みはまだ始まったばかりです。しかし、BtoBマーケティング先進国であるアメリカが築いたガイドがあるので、個別最適化などのマーケティング課題を解決する日はそう遠くありません。
さらに、日本式ビジネスにマッチさせたマーケティング施策へと昇華させることで、日本のデマンドジェネレーションはさらに進化するものと考えられます。
この記事でデマンドジェネレーションについて、少しでも知識が深まったと感じていただけたのなら幸いです。次に取るべき行動は、「自社におけるデマンドジェネレーション実現に向けて出来るのは何か?」を考えることです。
時代と共に変化する部分もありますが、「一気通貫したマーケティングプロセスで、需要を創出する」というデマンドジェネレーションの本質は変わりません。
この機会にぜひ、自社におけるデマンドジェネレーションについて熟考してみてください。