リードジェネレーションとは「見込み顧客を創出する」ことであり、企業の新規顧客獲得活動の最初のフェーズにあたります。何事も0を1にするには相当なパワーが必要なもの。
OLD営業と呼ばれるテレアポであれ、先端デジタルマーケティングであれ多数の競合企業が存在するため、見ず知らずの見込み客と接点をもつことはそう簡単ではありません。
近年はDX化の流れやコロナウイルス感染症の影響により、B2B企業の多くがオンライン上でのリードジェネレーション(見込み客創出)にも力を入れるようになりました。
しかし、BtoBはターゲット層がBtoCよりかなり限定されるため、あいまいな戦略でマーケティング施策を行うと、労力に見合う成果が得られない可能性があります。
本記事では、BtoB企業がデジタルでリードジェネレーション(見込み客創出)を成功させるためのステップを解説します。
リードジェネレーション(見込み客創出)とは、「これまで接点を持っていなかった人たちに対して営業・マーケティング活動を行い、製品・サービスに興味をもってもらい、接点を作り出すこと」です。
営業活動でいえばDM、テレアポ、飛び込み営業などのフェーズがリードジェネレーションに相当します。営業プロセスの最初のステップです。
企業によりますがオフラインでのリードジェネレーションは営業が担当し、マーケティング担当は営業支援という立ち位置になることが多くあります。オンラインでは一般的にマーケティング部門が担当し、以下のようなフローで進められます。
この流れはIT企業やSaaS企業ととても相性が良い流れですが、高価な製品サービスを販売するBtoB企業やコモディティ化しやすいモノ売りに近しい業種や業態だと厳しいでしょう。オンラインでの情報量が少ないこと、情報の差別化が非常に難しい、などの理由から向かない場合もあります。
リードジェネレーションはマーケティング担当者にとって重要な課題であり、HubSpotの2019年のレポートでは、 65%の企業が「トラフィックとリードの生成」が最大のマーケティング課題であると答えています。
(出典:TrueNorth)
こちらはHubSpotの顧客を中心に行われている調査で、対象企業はいわゆる大企業などは含まれていません(はずです)。数百人以下の企業が中心であり、製品サービス単価が極端に高価ではない企業が多く、上記の例外パターンではない、と見てとれます。
オンラインでのリードジェネレーションは数を集めるだけであれば、ある程度マーケティング予算をかければ比較的容易に行うことができます。
しかし、マーケティング部門が事業成長に貢献するにはどれだけ売上に寄与するかという視点が非常に大切であり、数を稼ぐだけではない質の高い見込み客を集めることが何より大切。そのためには明確な顧客像の設定が必要です。
ここでは、リードジェネレーションを行う際に欠かせない準備について解説します。
質の高いリードジェネレーションを行うためには、必ずペルソナの設定をするようにしましょう。ペルソナとは「半架空の理想の顧客像」のことです。
「どのような企業が自社製品・サービスに価値を感じてくれるのか?」「どのような企業なら自社製品・サービスを活用して成果を上げることができるのか?」を明確にするために作成します。
ペルソナは、マーケティング部門でブレーンストーミングをしながらペルソナ作成シートなどに属性を書き込みます。
あわせて顧客インタビュー、顧客アンケート調査、営業同行、SNS調査、営業パーソンからのヒアリングなどを行うとより精度が高く、リアルな情報を混ぜ込むことができます。できるだけ現実的な仮の人物像を設定します。
ペルソナのプロフィール項目例:
多くのブログ記事やソーシャルメディアでも長らく議論されていますが、ペルソナとセグメンテーションは明確に異なります。
セグメンテーションは、会社属性や人口統計情報、役職や業界などの情報に基づき、特定の塊を分割(セグメント)することを指します。一方でペルソナは、他人から認識されたり一言で表現する際に用いられる特定の人物の特徴という意味が元の語源です。
このように、ペルソナを作る際に最重要な項目は、その人(ペルソナ)を表す特徴ということです。その事実を明確に意識することによって、リードジェネレーションを成功させるような(ペルソナにとって)自分ごと化しやすいコンテンツを作ることが可能になります。
ペルソナを設定したら、ペルソナがどのように製品サービスの購入につながるかを明確にする購買行動のフロー(カスタマージャーニー)を作成してみます。
カスタマージャーニーとはペルソナの行動や思考、感情を時系列に見える化し「旅」にたとえたもので、いわばペルソナの成長物語です。
購買行動を起こす前後でどのような課題を持っており、どのような感情の動きや思考があって、どのような行動を起こしていくかを時系列に書いていきます。
自社が何を発信したいかではなく、ペルソナを起点とした動きを明文化することで、顧客視点での課題が見つかり仮説や施策を考えられるようになります。
カスタマージャーニーマップを作成するメリットは以下の通り。
各種作成ツールが無料で公開されているので活用すると描きやすいでしょう。おすすめはUXPRESSIA無料版(日本語あり)、HubSpotが「Make My Persona(英語版)」。
ペルソナとカスタマージャーニーの作成については以下の記事をご覧ください。
次に、ペルソナと接点をもてるコミュニケーションチャネルを選定します。ペルソナの年齢、嗜好、行動パターンにそって、できるだけ見込み客に見つけてもらえるようなシナリオを立ててチャネルを選びましょう。
同一企業がマーケティングを行う場合でも、対象とするペルソナによってはオンラインに注力すべきか、オフラインに注力すべきか、などの力の掛け方のバランスが変わることはよくあります。
例えば、採用に関するソフトウェアを開発するSaaS企業を例にします。より現場よりのペルソナの場合、(コロナ禍でなければ)アナログ志向の方が多い傾向が強いため展示会や説明会などのオフラインでのコミュニケーションが好まれることがよくあります。
一方で、現場上役の意思決定者の場合は、展示会などのオフラインに足を運ぶことが少なく、より目線の高いカンファレンスが好まれたり、情報収集に力を入れたりします。
このように、同一企業であってもペルソナは異なるので、異なるコミュニケーションチャネルを利用しないといけません。
ペルソナとカスタマージャーニー、コミュニケーションチャネルを絞った後に行うのはコンテンツの企画です(実際はコミュニケーションチャネルの選定とほぼ同時に行うことが多いです)。コンテンツの企画をする際のポイントは、カスタマージャーニーの段階に合わせて、コンテンツの切り口を明確に変えることです。
例えば、ペルソナがカスターマージャーニーの旅の入り口にいる場合、御社を認識しておらず、課題にすら明確に気づいていません。その場合、コンテンツの企画目的は「いかに課題を顕在化させるか」ということであり、製品サービスを紹介する必要性はまだありません。
このようなカスタマージャーニーの段階を細分化し、企業活動に落とし込んでいるのがパーチェスファネルなどのモデル。ファネルのステージごとのKPIを明確にし、活動方針を設定するために非常に便利です。
BtoBのSaaS企業であれば、コンテンツの内容やフォーマットもある程度定番の形が存在しています。前職でよく行っていたコンテンツの内容とフォーマットは以下のようなものがあります。これらの内容をカスタマージャーニーに合わせて作成し、ファネルの各担当チームや担当者が作成していき対象となるKPIを追っていきます。
例):
ここまで来て初めてツールの選定を行うことが可能です。リードジェネレーションを行うためのツールはここまで書いてきたことができるツールであれば何でも良いというのが筆者の結論。ただし、絶対に忘れてはいけないのが運用担当者の人たちが本当に運用できるツールであるか?ということ。
よくある事例として、リードジェネレーションツールの組み合わせに、マーケティング部門はワードプレスでウェブサイトを構築、プラグイン(別ツールとの連携)でランディングページやメール配信システムを組み合わせ。
営業部門はマーケティング部門の利用するツールと分断されたCRMで顧客管理をする(エクセルCRMを含む)などがあります。
このような場合、部分的に安価なツールを利用しているために、マーケティングコストが低いように見えるのですが、異なるツールを専門的に理解する必要があるために人件費用や運用コストが非常に高くなります。
そのため、運用する人たちのレベルや、現状のマーケティング部門の人数なども考慮しながら、本当に必要なツールを選定することが大切です。
ここでは、代表的なリードジェネレーション施策を紹介します。
GoogleやYahoo!などの検索エンジンで上位表示を狙うための施策です。基本的な施策については検索エンジン最適化スターターガイドで公開されています。
(出典:Google)
自社の製品・サービスに関心をもちそうな発注担当者が、何のキーワードで検索するか想定して対策を行います。
たとえばBtoBの場合でも「〇〇とは?」「〇〇 事例」「〇〇 メリット」などといったキーワードで、各カスタマージャーニーのステージで様々な角度から検索することを想定し、その疑問の解答になるようなコンテンツを用意することがポイント。
コーポレートサイトには、「株式会社〇〇 製品」「株式会社〇〇 導入事例」「株式会社〇〇 価格」のように、指名検索を中心としたコンテンツを増加させてSEOを行うのが一般的。
一方で、非指名検索を増加させるためにはサブドメインやサブディレクトリ配下で課題軸のコンテンツを作りオウンドメディアにウェブトラフィックを寄せるなどの方法があります(後述)。
オンライン上の広告には、所定のキーワード検索結果のページに表示できるリスティング広告、バナー広告(ディスプレイ広告)、メディアの記事広告などがあります。
オフラインな広告とは異なり、広告を表示させたい層を絞り込み、効果測定も定量的に行いやすいという長所があります。加えて、SNS広告などは対象人物の特性に合わせて高度な広告の出し分けが可能です。またターゲットのSNS上の繋がりのある人たちにまで波及させることができるという特徴があります。
オフライン広告には新聞広告、雑誌広告、車内広告、SaaS企業がよく行うタクシー広告などがあります。紙メディアが衰退傾向とはいえ、ビジネス誌のクオリティについてはオンラインより紙媒体が高い傾向がまだあることも否めません。
またTV広告をすることでその業界のリーディングカンパニーというブランディング効果を狙うことも多くあります。企業の成長状況やステージなどを考慮し、バランスよく組み合わせて活用することがおすすめです(オフラインは特に広告費用が高価のため)。
近年のBtoCで検索するよりもSNSで情報収集する層が増えると言われています。SNSユーザーは増え続け、今後も増える見込みです。アカウントを作ってオウンドメディアの新着記事やイベント情報などを告知することで、宣伝効果もあればSNSユーザーを自社Webサイトやオウンドメディアに流入させることも可能。
ただし、SNSは検索エンジンとは異なり能動的な情報を探す場としての要素が少し弱いということを理解しておく必要があります。SNSで情報を摂取し始めるきっかけは、何かしらの課題がありそれとなくフォローしたり「いいね!」から始まることがほとんどです。
このように、SNSをザッピングしている際に対象アカウントから受動的に情報が流れ、アクションを起こすことが一般的。つまり、検索エンジンがより顕在的なニーズを探す傾向が強いのに対し、SNSは受動的な情報インプットを行っている潜在的なニーズを刺激する必要があるということを理解しましょう。
オウンドメディアは企業が運営するメディアです。前述したようにテーマを絞り課題軸の有益な情報を発信し続けることで非指名検索を増加させることが可能。
経験の浅いマーケティング担当者は「(オンラインでリードジェネレーションをするために)オウンドメディアを持っています!」と強調されることが多いのですが、オウンドメディアがテクニカルSEOの面から最適化されていないことが非常に多くあります。
また、コンテンツ制作を戦略的に行っていないケースも多く、それらの基礎的要素が抜け落ちているとオウンドメディアは絶対に効果を発揮しません。メディアとして影響力を持つのは100記事が目安という意見もありますが、必ず土台である基本的要素をカバーしなければ多大な努力や費用が無駄になりますので注意してください。
LP(ランディングページ)とは、リード情報を獲得することに特化したウェブページのことです。つまり、リードジェネレーションを行うには絶対的に欠かせないページ。
LPO(Landing Page Optimazation:ランディングページ最適化)という言葉があるように、リード情報を獲得するためにマーケティング担当者であれば全神経を集中させてウェブトラフィックを誘導し、リード情報を獲得しなくていけません。
資料請求や、無料小冊子、BtoBであればお問い合わせなどの一般的なランディングページが必要になるでしょう。
BtoCであれば、縦長の情報が雑多にちりばめられたランディングページを思いつくかもしれません。BtoBのランディングページは一般的にはさっぱりしており、特定のコンテンツを提供することを明示し、相性の良いウェブトラフィックを誘導すればリード情報を容易に獲得できます。
ナビゲーションなどの離脱要素を外すことを必須としなければいけないものの、最も注力するべきことはランディングページで提供するコンテンツに対して相性の良いウェブトラフィックをより多く誘導することでしょう。
DMは古くからある施策です。対象企業の役職者をリストアップし、カスタマイズした内容にて自社の役職者の名前を利用して送付することが一般的なDMの行い方。
アウトバウンドコールなどの方法では、ゲートキーパーなどと呼ばれる電話番を突破し、管理職や役職者に到達することは簡単ではなく、見込み企業の企業サイズが大きくなればなるほどその壁は厚くなります。
送り主の役職名を活用し、コストをかけた高品質のDMを送ることにより、受け取り主への到達率を高くすることが可能です。
ただし、コンテキスト違いや、あまりにもしつこすぎるDMの送付などは行わない方が、信頼関係が重要視されるBtoB業界として大切な姿勢と言えるかもしれません。
プレスリリースはメディアに向けて自社の新しい製品・サービスのリリースや、自社が実施した市場調査などをリリースすることです。上記で説明した施策とは異なり、プレスリリースで獲得できるリードは、対既存リードの掘り起こしの色合いも強くなります。
同時に、既存顧客の追加購入などに対しても効果的なため、純粋な新規リード獲得をしたい場合は上記施策を中心にリードジェネレーションの施策を進めます。余力があったらプレスリリース経由のリードジェネレーションを考える方が得策です。
また、事業成長を行うためには新規のリードジェネレーションを行い続ける必要があり、その仕組みを作り上げることが優先順位として高いでしょう(衰退産業は例外)。
見込み客にとってスマホからでも自宅からでも自由に視聴できるウェビナーは参加障壁が低く、企業側から見るとリードジェネレーション効果が比較的高い施策だと言えます。
ウェビナーやカンファレンスを利用したリードジェネレーションはハウスリストに対して行うパターン、広告やタイアップなどの別メディアへの露出などで行われるのが一般的。
後者の場合は競合企業の参加者などが混ざり込みやすく、業界をある程度知っている見込み企業が多く含まれるため、ウェビナーの内容は製品サービスによりがち。
商談へすぐに繋がるリードが必要な場合はウェビナーは一定の効果がありますが、リードの数を増加させたい場合はウェビナーより課題に焦点を当てたカンファレンス形式の方がより効果的です。
ここではリードジェネレーションがうまくいかないありがちな理由を紹介します。
BtoB企業のリードジェネレーションの戦略とは、どのようなリードに向けてどのようなメッセージをどのようなチャネルで展開していくかということです。
よくあるうまくいかない理由の一つは、顧客像があいまいなまま施策に取り組んでいるためリードの質が期待とかけ離れているケースです。前述のように事前にペルソナとカスタマージャーニーマップを作成することが対策になります。
また、安易に他社の成功事例をまねた戦略をとって失敗する例もあります。どの施策が有効かは業界、ビジネスモデル、企業規模、製品サービスの特性によって異なるため、さまざまなデータを参考にしつつも自社で検討し複数の施策を組み合わせた戦略を立てるのがベストでしょう。前述したように施策ごとの特性を正しく理解し、リードジェネレーションをコントロールできるようになることも大切です。
以下は、参考までに米国の調査結果です(BtoB、BtoC両方含む)。1位がSNSマーケティング、2位がメールマーケティングとなっています。
(出典:Hootsuite)
オンラインだけに偏らないことも留意しましょう。マッキンゼーアンドカンパニーの2020年の調査では、全く新しい製品やサービスを購入したいときには、B2Bのバイヤーの76%が、直接会って話をしたり、電話で話をしたりするのが便利だと考えています。
常にデジタルでのコミュニケーションを希望する人はわずか4%にとどまっています(商材の価格や特性もお忘れなく)。
早々にニーズが顕在化したリード(多くはなくても)には、速やかにインサイドセールスや営業がアプローチしたほうが効果的だということでしょう。
(参考:Finances Online)
オンラインでもリアルでも製品サービスに興味を持った人は、企業のWebサイトを必ず確認するためWebサイトの品質が重要。
せっかく訪れた見込み客が価値を感じるコンテンツがないとそのまま離脱をします。コストをかけて広告やSNSでメッセージを発信しながら最終段階のつめが甘く失敗するケースです。
例):
Webサイトやランディングページで個人情報を登録してもよいという気持ちになるような細かい配慮の行き届いたデザインにすることが大切です。
デジタルマーケティングの歴史はあまり長くないため、転職市場にも人材が少ないのが現状です。さらにマーケティング施策それぞれの領域の奥が深いため、バランスよくすべてをできる人材は稀有だといえるでしょう。
人材不足でマーケティング施策が上手くいっていない企業も少なくありません。中途採用でのミスマッチが起きているケースも見聞きします。
前述のペルソナ設定はリードだけでなく、採用したい人物像向けに作ることもできるため、まず自社のマーケティング人材の解像度を高くすることをおすすめします。
市場は人材不足ですが、若いデジタルネイティブ(Z世代)なら経験が浅くても適性は高い可能性があります。マーケティングのトレンドはどんどん変わるため実績も重要ですが新しい手法を学び続ける柔軟性のある人材が望ましく、むしろ伸びしろのある若手のほうがマッチするかもしれないからです。もちろん、その場合は教育にコストはかかります。
オンラインとオフラインのリードジェネレーションの違いはよく農耕と狩猟にたとえられます。オンライン上では営業担当が精力的に相手に働きかけることができません。あくまで見込み客の購買心理や行動パターンにそって接点を増やし、企業側が見つけてもらう地道な努力を続けていく必要があります。
今一度ペルソナ設定やカスタマージャーニーなどの基本を押さえて、見込み客の視点にたったマーケティング戦略を立ててみましょう。