プロダクトマーケティングとは?マーケティング領域の”縁の下の力持ち”がすべきこと

2021/03/30
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日本企業はここ20年以上も「技術力はあるのにマーケティングが弱い」とよくいわれてきました。「プロダクトアウトだから駄目なのだ」「行き過ぎたマーケットインだからいけないのだ」とさまざまな解説がされてきたと思います。

もちろん、イノベイティブな製品・サービスを生み出せない理由にはさまざまな要因が絡み合っているものですが、総務省の平成30年版情報通信白書を見ると、残念ながらマーケティング力のなさもかなり影響していると裏付けるようなデータが出ています。

「ICT導入や利活用とイノベーション実現は付加価値増加にどう結びつくか」という調査において、日本は「マーケティング・イノベーション」が特に営業利益増加に直接つながる傾向があり、米国では「プロダクト・イノベーション」が特に営業利益増加につながる傾向がありました。

 

日米におけるICT導入とイノベーション実現の関係性

(出典:総務省

 

これに対する総務省の考察を要約すると、以下の通りです(元は長文ですのでこちらでご覧ください)。

  • 米国企業ではマーケティングが当然のように行われるためマーケティングの差よりもプロダクト・イノベーションの実現によって営業利益増加の差が生じている
  • 日本企業はプロダクト・イノベーションによって新製品を創出しても安易な価格競争に陥るなど価格設定や他社との差別化がうまくいかないことが多い。マーケティングへの取組の有無で営業利益の増加に差が生じていることも一因である

価格設定や他社との差別化はまさしくプロダクトマーケティングの領域。日本企業については、素晴らしい新製品を開発するだけでなくその価値を世に伝えていくプロダクトマーケティング力を高めることが営業利益増大につながるという示唆が得られているといえます。

本記事ではプロダクトマーケティングとは何か? プロダクトマーケティングを行うタイミング、進め方について解説していきます。

プロダクトマーケティングとは

プロダクトマーケティングとは、簡単にいえばプロダクトを市場に浸透させる一連のマーケティング戦略の策定・実行を行うことですが、企業によって取り組み方は実に多様です。

ある企業では、プロダクトマーケティングは製品・サービスの宣伝活動という狭義の解釈がされているかもしれません。

本格的にプロダクトマーケティングに力を入れている企業であれば、発売前からプロダクトマーケティング担当者が開発部門にかかわり新製品・サービスのコンセプト設定に参画。

開発後は、プロダクトの価値を営業メンバーに布教し販売する気運を高めていきます。製品・サービスをローンチしたあとは、市場からのフィードバックを開発部門に届けて、さらなる品質改善および売上げ拡大につなげているでしょう。

しかし、プロダクトマーケティングにおいて何が重要かについては概ね共通しています。

以下はHubSpotの元プロダクトマーケティングディレクターRick Burnes(リック バーン)氏が、自社のプロダクトマーケティングについて説明したスライドシェアにある1文ですが、インバウンド型組織でなくてもこのメッセージにつきるのではないかと思います。

Great product marketing is a great product story(優れたプロダクトマーケティングとは、優れたプロダクトストーリーである)

 

HubSpotのPMMによる説明(参照:HubSpot

 

プロダクトマーケティングにおいて重要なのは、開発者の発見やアイデア、誰かの役に立ちたいという強い思いと、市場にいる誰かにとっての素晴らしい体験の接点を見つけだし新しいストーリーを紡ぎだしていくことにほかなりません。

プロダクトマーケティングの位置づけ

プロダクトマーケティングの仕事の領域は相当に幅広いため、各企業のビジネスモデル、マーケティング組織のタイプによっても最適化され実情はさまざまでしょう。

大事なのは、確実な定義が何かということよりも、事業を成功させるために最適なマーケティング組織を編制し、自社のプロダクトマーケティングの定義を決めることです。

たとえばIT企業のプロダクトマネージャー向けSaaSを提供するAha!社はマーケティング組織を商品別チーム、エリア別チーム、市場別チームなど7パターン紹介しています。以下は機能別のマーケティング組織の例です。

・Marketing function(機能別チーム)

 

マーケティング組織図(機能別編)

(参照:Aha.io/

 

HubSpotの「The CMO's Guide to Marketing Organization Structures」でもZendeskなど先端企業のマーケティングチームの組織が7パターン紹介されています。以下はインバウンド型マーケティング組織であるHubSpotの例です(2010年代前半の組織図と思われ、少し古く、現在のようなCRM、セールス、サービスのプロダクトができる前の、マーケティング製品のみの時のチーム編成)。

自社と業種が同じあるいは目指している組織の世界観が近いと参考になるのではないかと思います。

 

マーケティング組織図(HubSpot編)(参照:Modernmarketing

 

プロダクトマーケティングと(一般的な)デマンドジェネレーションを行うマーケティングの違い

プロダクトマーケティングの仕事の領域を知ると、一般的なマーケティング、たとえばデマンドジェネレーションなどとは何が違うのか? と疑問に思われるかもしれません。

それも当然で、マーケティングプロセス上この2領域は隣接しており重なっている領域もありますし、企業によっては同じ人が担当している場合もあります。小さなスタートアップ企業などで相当に能力が高い人材がいる場合、(後述しますが)プロダクトマネジメント、プロダクトマーケティング、デマンドジェネレーションを統括しているかもしれません。

しかし、企業規模が大きくなると担当が分かれることが多くなります。ご存じのとおりどの領域にも高い専門性が必要なためです。ここではプロダクトマーケティングとデマンドジェネレーションを対比して解説します。

プロダクトマーケティングとデマンドジェネレーションの対比

 

ストーリーを作るVS.戦略・実行

プロダクトマーケティングもデマンドジェネレーションも市場に製品・サービスを浸透させていく目的は共通であるものの役割は分担されます。

プロダクトマーケティングは、製品・サービスのコンセプト設計、ユーザーに対するメッセージ、届けるためのコンセプトを作成します。製品・サービスをローンチするにあたり、誰に(見込み客)にどのようなメッセージやストーリーをどのようなタイミングで伝えたいかの方向性を出します。

デマンドジェネレーション(見込み案件創出)は、その次のフェーズに行うマーケティング戦略です。デマンドジェネレーション領域の担当者(マーケティングの各施策担当者、営業メンバー)は、製品コンセプトをもとに最適なチャネルを選択し広告、イベント、コピー、Webサイト、ブログ、動画、パンフレット、営業トークなどさまざまなチャネルにおける施策とストーリー通じて、デマンド(需要)を高めていきます。

マネジメントVS.プロフェッショナル

プロダクトマーケティングの担当者は製品・サービスの販売に対する責任を担い、革新的なテクノロジーあるいはアイデアを生み出したエンジニアの意思と顧客のニーズを理解し、それらの変化を予測、最適なコンセプトを構築する能力が求められます。

社内外のさまざまな関係者と接触し協力体制を構築し、関係者のエネルギーを製品の成功に向けていく役割です。マーケティング・営業計画全体に関わるため、事業戦略の根幹を担うポジションともいえます。

筆者のHubSpotでの経験では、プロダクトマーケティング担当は、プロダクトローンチで必ずプロモーションのプランを考えるところまでを担当していました。

デマンドジェネレーションの担当者(マーケティング、営業部門の各スタッフ)は、プロダクトマーケティング担当者のプランをもとに、効果的な施策を実行していくプロフェッショナルという位置。顧客と触れ合う前線で活躍する重要な役割ですが、各担当者は一般には設定されたKPI、個人の売上数字など局所的な責任を持ちます。

プロダクトマーケティングを行うタイミング

プロダクトマーケティングを行うタイミングは一般にはPMF(Product-Market Fit/プロダクトマーケットフィット)に達してからです。PMFとは市場に受け入れられるプロダクトができている段階です。新製品・サービスのローンチまでのプロセス全体の中では、以下の図にあるフェーズです。

 

プロダクトマーケティングのフェーズ(出典:Slide Model

 

PMF(Product-Market Fit/プロダクトマーケットフィット)のタイミングを見極めること自体が難しく、いかに素晴らしい製品・サービスでも「ちょっと時代より早すぎた」ことで失敗することがあります。

PMF(Product-Market Fit/プロダクトマーケットフィット)の見極めについて、ここでは当社ブログでも紹介しているHarvardHBS教授で元HubSpotのCROであるMark Roberge(以下ロバージ )氏が推奨する手法を紹介します。

ロバージ氏は、米国の比較的優秀な企業はPMF(Product-Market Fit/プロダクトマーケットフィット)のインジケーターに「長期的な顧客定着率」を活用しており、さらに特別に優秀な企業はリーディングインジケーター(先行指標)を活用して「顧客定着率」を「予測」していることに着目。

以下のフレームワークを応用することであらゆる企業で最適なインジケーターが定義できるとしています。

顧客の(P)%が、期間(T)以内に(E)を達成すれば[カスタマーサクセスのリーディングインジケーター]は「True」

・P:リーディングインジケーターがTrueになるために必要な顧客の割合
・T:期間

たとえば、この式をHubSpotで採用されているリーディングインジケーターにあてはめると「顧客の80%が60日以内に同社プラットフォームの25の機能のうち5つを使用する」タイミングとなります。詳細は、以下の記事をご覧ください。


The Science of ReEstablishing Growth :成長戦略に再び舵を切るタイミングは? 科学的アプローチから考える

 

顧客定着率の早期インジケータを達成した割合

 

プロダクトマーケティングにおいてはPMF(Product-Market Fit/プロダクトマーケットフィット)、つまり最初のスタートのタイミングは極めて重要です。さらに、アジャイル型のサービス、SaaS企業などのようにプロダクトを市場投入してからも製品の新機能追加やアップデートを行い続ける企業であれば、その後もプロダクトマーケティングを細かく行い続けなくてはいけません。

プロダクトマーケティングマネージャーとプロダクトマネージャー(オーナー)の違いとその役割の違いについて

最近は「プロダクトマネージャー」というポジションも増えています。プロダクトマネージャーとプロダクトマーケティングマネージャーの2つは一見相違点が見えづらいため違いを解説します。

プロダクトマネジメント、プロダクトマーケティング、デマンドジェネレーションの領域は以下の図のように近接しているため、前述のとおり小さい企業などでプロダクトマーケティングマネージャーとプロダクトマネジャーを実質兼務している場合もあるかもしれません。別々の場合でも、お互い協力しあって仕事をする関係性にあります。

プロダクトマネジメントとプロダクトマーケティングとデマンドジェネレーションの関係

品に責任Vs.製品の販売に責任

プロダクトマネジメントは「商品企画」「製品開発」と呼ばれることもあります。プロダクトマネージャーの職責はあくまで製品管理。市場に受け入れられる素晴らしいプロダクトを開発することであり、おもに製品ロードマップの作成、管理を行います。製品戦略についてはプロダクトマーケティングマネージャーや営業部門と共に取り組みます。

プロダクトマーケティングマネージャーは「製品の販売に責任」を持ちます。市場調査や競合するプロダクトの分析、他社と差別化するコンセプトの立案、マーケティングチームや営業チームに製品のストーリーを的確に伝えること、新規の見込み客や顧客を引き付けるためのマーケティング施策を立案することがおもな役割です。

(ただし、社内の各部門の力関係、プロダクトマネージャー、プロダクトマーケティングマネージャーがどちらかしかないなどの条件によって業務の割合は異なるでしょう)。

内向きVs.外向き

プロダクトマネージャーとは製品に対する責任者であり、社外よりは社内に向かって動くことが多いポジションです。

まず、製品戦略を決めて開発ロードマップを作成し進捗管理するなど開発部門との関わりが深いことはもちろん、役員、経営者に対し事業計画の承認を得て営業チーム、他マーケティング担当者と連携していきます。

顧客の意見を開発部門にフィードバックし品質向上に努めますが、その情報はマーケティング部門からのフィードバックに頼ることが多くなります。

一方、プロダクトマーケティングマネージャーは、製品の価値を最終的に市場に伝え売上を拡大していくことが責任です。そのために、製品・サービスのコンセプトやストーリーをマーケティング担当者とセールス担当者に伝え、効果的なマーケティングキャンペーンや営業活動を実施。代理店、アライアンス企業との関係構築も行っていきます。

一般に、多くの会社で新しいプロダクトを世に送り出すときには社内横断的なプロジェクトチームが組まれます。新しいテーマで誰もが他部署の領域にもジョイントするかたちで仕事をするため、仕事の領域は杓子定規にはいかないことが多いでしょう。

このようなコラボレーションはイノベーションを生む源泉ですが、新規事業を成功させるためには、隣接する業務の役割分担があいまいになってしまわないことが大切です。

役割を超えていけないということではなく、「自分の役割を超えて誰かが協力してくれている」ことをお互いが理解することが良好なコミュニケーションを維持し、さらにコラボレーションを促進していくことにつながります。

プロダクトマーケティングの始め方とは

ここではプロダクトマーケティングを進めていく手順を解説します。

  1. 発売前は開発チームに協力

    プロダクトマーケティング担当者は、製品の発売前から開発者と協力します。既存のお客様から得られるさまざまなインサイト、市場調査や競合プロダクトの情報、既存顧客の意見などを開発者に伝え、プロダクトのテストにも参加し意見を出し、ともに最終的な製品・サービスの市場でのポジショニングを決めていきます。

  2. マーケティングの4Pにそってマーケティング戦略を策定します

    ・Product(製品):コンセプト作成
    ・Price(価格):適切な価格設定
    ・Promotion(促進):メディア、イベント、SNSなどの販促
    ・Place(流通):最適な流通経路

    また、マーケティングの4Pの対になるとも考えられるマーケティングの4Cを考えることも大切です。

  3. 製品・サービスのストーリー作り~マーケティング戦略構築

    新しいプロダクトの価値やストーリーを、誰にどのように伝えていくかを決めます。ペルソナ(半架空の理想の顧客増)やカスタマージャーニーマップを作成し、自分たちがプロダクトを届けたい層を絞り込んでいきます。また、どのようなチャネルでメッセージを届けていくかを明確に描いていきます。

  4. 多様なコンテンツを用意します

    プレスリリース、メディア広告、ブログ、SNS、ランディングページ、ポッドキャスト(音性や動画)、メールマガジン、事例、営業用パンフレットなどさまざまなチャネルに合わせたコンテンツを用意していきます。
    多様なチャネルに多様な表現をする場合でも、一貫したメッセージが伝えられるようにマネジメントします。

  5. 製品ローンチまでの進行管理

    適切なマーケティング施策、製品立ち上げまでの計画書を作成したら、各マーケティング施策担当者に準備をしてもらいます。営業チーム、代理店などの関係者に理解と協力をえるべく説明会を開催し、新プロダクトローンチまでに十分な体制を整えて製品・サービスについて理解を深めてもらうようにアシストしていきます。

  6. マーケティングキャンペーンの実行、モニタリング、検証

    マーケティングキャンペーンをスタートします。施策がスタートした後もプロダクトマーケティング担当者は各施策をモニタリングし、結果を開発部門(またはプロダクトマネージャー)にフィードバックしさらに高い品質のプロダクトに改善する手助けをします。良好なマーケティング施策、結果の思わしくない施策の要因をつきとめてしかるべき対策をうっていきます。

  7. 顧客エンゲージメントの向上

    近年はSNSが台頭したこともあり、顧客満足度の向上が宣伝効果や売上げに直結している時代です。顧客はベンダーや営業担当者よりも購入者、実際に活用している人の意見を参考にする傾向が強くなっています。そのため、これまで以上に製品・サービスについてのコミュニティを大事にする必要があるでしょう。

コミュニティは自然発生する場合もあれば企業がプラットフォームを提供する場合もあるかと思います。そこでの意見を真摯に捉えて製品・サービスの品質改善に活かすことで顧客エンゲージメントの向上が期待できます。

可能な限りコミュニティを支援し、イベントや情報提供で継続して価値を提供し、顧客の声を聴き続けていきましょう。

まとめ

新製品の発売を成功させるには商品力だけでなく、計画的なプロダクトマーケティングを行うことが必要です。製品・サービスのコンセプトやストーリー創り、ローンチのタイミング、適切なチャネル選び、コンテンツ制作など製品が発売前から発売後にわたるプロダクトマーケティングの領域をフレームワークなども活用し、時代に合わせて最適化していきましょう。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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