エンゲージメントとは?マーケティングにおける例をわかりやすく解説

2023/02/08
BtoBマーケティング エンゲージメント エンゲージメントとは?マーケティングにおける例をわかりやすく解説

「エンゲージメント」と聞くと、どのようなことを思い浮かべるでしょうか?

プロポーズをする際に恋人に送る「エンゲージメントリング」でしょうか? もしくは、戦闘機のパイロットが空戦開始時に発する「Engage!」と言うセリフが浮かんだあなたは、かなりコアな映画ファン(もしくはミリタリーファン)かもしれません。

今回の記事では、マーケティングにおける「エンゲージメント」および、それを活用した「エンゲージメントマーケティング」と呼ばれる手法について解説します。「エンゲージメント」の意味や重要とされる理由、実際にエンゲージメントを高めるための手法、実例などを確認していきましょう。

ぜひ最後まで読んで自社の戦略立てにご活用ください。

エンゲージメントとは

その定義と意味合い

エンゲージメント(Engagement)は、直訳すると「(強い意志を持って)何かしらの行動を起こすこと」という意味です。そのため「エンゲージする」という動詞は前述したとおり、たとえば誰かと結婚することを決める際や、(戦争などで)戦闘にこれから参加する、というような強い意思表明をする際によく使用されます。

また「エンゲージメント」は、このような誰かの「強い意志や意欲」そのものを表す名詞としても使用されます。たとえば「彼はこのプロジェクトに対して強いエンゲージメントを持ち合わせている」という言葉は、プロジェクトに対する参加意欲が高く、強いコミットメントを持っている人物であるという意味です。

「エンゲージメントマーケティング(Engagement marketing)では、顧客のこのような「強い意志や意欲」を意図的にかき立てます。そして顧客の自発的な興味や購入意欲を、自然と自社のブランドや製品に向けることに重きを置いたマーケティングアプローチです。

エンゲージメントマーケティングでは、顧客を自社のPRを受け取るだけの「受動的な存在」として捉えるのではありません。顧客が率先して自社の製品開発やマーケティングのキャンペーンなどに参加・干渉できるようにしたうえで、顧客が自ら「能動的に」ブランドとの関係性(ブランドロイヤルティ)を深めていくようなアプローチを行います。

マーケティングがエンゲージメントを考慮することが大切な理由

顧客が企業やブランドに対して抱く強い「熱意」や「つながり」のことを「顧客エンゲージメント(Customer engagement)」といいます。

ブランドへのエンゲージメントが高い顧客は、単に製品を購入する可能性が高くなるばかりでなく、その高いブランドロイヤルティから周りに製品を勧めるなど、結果的に自ら率先してマーケティング活動を行なってくれる可能性も高くなります。

このように顧客エンゲージメントを考慮することは、それだけで企業のマーケティング効果を何倍にも引き上げる重要なポイントです。

さらに近年においては、顧客の購買行動の複雑化や、買い手の購買力の増加、製品・サービスの解約の簡易化が、マーケティングにおけるエンゲージメントの重要性を高めています。

購買行動の複雑化

近年マーケティングにおけるエンゲージメントの重要性を高めている要因のひとつが、顧客の購買行動の複雑化です。

インターネットが現在ほど発展していなかったほんの15年ほど前、顧客(買い手)の購買行動はほぼ一本道、かつ企業(売り手)の提供する情報の上に成り立っていました。インターネット普及前の買い手の購買行動を表した下図と併せて見ていきましょう。

MOT

(出典:『Winning the Zero Moment of Truth eBook (2011)』)

まず、売り手が発する広告やPRなどが「Stimulus(刺激)」となり、買い手の購入意欲を煽ります。テレビのCMで最新のカメラを見て「カメラいいな。買おう。」となる姿を想像するとイメージしやすいかと思います。

次に、買い手は売り手が用意した選択肢の中から、自分に最も合う製品を選択します。この、買い手が売り手の価値判断をする瞬間のことを「Moment of Truth(MoT、真実の瞬間)」といい、上図の2つ目の、製品を選択し購入する段階は「第1の瞬間(First Moment of Truth、FMoT)」です。

製品を購入した後にもMoTが発生します。この段階は「第2の瞬間(Second Moment of Truth、SMOT)」と呼ばれ、買い手が実際に購入した製品を使用(経験)する段階です。購入時の印象と比べて製品が期待以上であったのか、期待はずれだったのかを買い手が実際に経験することで、今後もそのブランドの製品を買うか否か、買い手のブランドロイヤルティが決定する瞬間でもあります。

ではインターネットが普及した現在、買い手の購買行動はどのように変化したのでしょうか?下図と併せて解説します。

ZMOT

(出典:『Winning the Zero Moment of Truth eBook (2011)』)

インターネットにより情報の共有が容易になった現在。買い手は実際に製品を手に取り自分で比較する(FMoT)前に、ネット上に大量に存在するクチコミやレビュー情報から製品やブランドに対するおおよその価値判断を行うことが可能です。

この、FMoT前に買い手が入手可能となった事前情報のことを「第0の瞬間(Zero Moment of Truth、ZMoT)」といいます。ZMoTは言い換えれば、他の誰かがすでに経験したSMoTであり、拡散される情報先は、ネット記事やブログ、Twitter、youtube、……など数えればキリがありません。

自社ブランドに対する顧客エンゲージメントはどのチャネルで発生しているのか? 買い手の購買行動が複雑化しているなか、企業のマーケターは以前にも増して注意深く分析する必要があるでしょう。

買い手の購買力の増加

インターネットの発展による情報入手の簡易化で、買い手の購買力が高まっていることもエンゲージメントの重要性を高める要因のひとつです。

前述したZMoTを含め、企業から提供される情報を受け取るよりも前に、買い手が自ら得られる事前情報の量は増えています。下図はTrustRadius社がテック系BtoBバイヤーの製品の購買意思決定時に参考にする情報のソースについて、2020年にリサーチしたものです。売り手による製品デモやセールスPRにならび、ユーザーレビューやウェブサイトなど買い手の自発的なリサーチが上位に食い込んでいることがわかります。

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(出典:TrustRadius

BtoBビジネスにおいてはすでに、「売り手の営業担当者が買い手から引合い連絡を受ける以前ですでに買い手の購入意志の57%は固まっている」(『The Invisible Sale』より)というのは通説であり、さらには「BtoBバイヤーが売り手の営業担当と接する時間は購買行動全体のうちたった17%に過ぎない」(Gartner)というデータもあります。

customer_purchase_power

顧客の購買行動は、以前は「売り手が提供するものの中から買い手が選んで買う」といった売り手主体のものでした。現代では「買い手が望んで情報収集しているものに合わせて売り手が製品を提供する」といった顧客主体のものに変化してきていると言え、購買における売り手と買い手の力のバランスに変化が起きています。

これは、顧客のエンゲージメントについても顧客自らの情報収集によるものの比重が大きくなっていることを示すため、企業のマーケターもこれまでと意識を変えて対応していくことが求められるでしょう。

エンゲージメントを高めるためのマーケティング活動の手法

企業のマーケティングにおいて顧客のエンゲージメントの重要性は高まっています。しかし、顧客エンゲージメントを高めるためには実際にどのような手法が考えられるでしょうか?

ここでは、顧客エンゲージメントを高めるために企業がとれるマーケティング施策について、いくつか例を挙げながら紹介していきます。

コミュニティマーケティング

コミュニティマーケティング(Community marketing)とは、企業とユーザーが相互に交流できるコミュニティを新たに作ること。もしくは既存のコミュニティを利用し、コミュニティ内で企業対ユーザーあるいはユーザー対ユーザーのブランド体験の共有を促し、顧客エンゲージメントを高めるマーケティング手法のことです。

前述した通り、ブランド体験の共有(ZMoT)は、近年の顧客行動あるいは顧客エンゲージメントにおいてとても大きな比重を占めるものです。そして、ユーザーが自由に体験の共有を行えるコミュニティを用意してあげることには2つの利点があります。1つめは、ユーザーがブランドへのエンゲージメントを高めやすくなること。2つめは、さまざまなチャネルに拡散される可能性のあるSMoTをコミュニティ内にコントロールした上で最大化できることです。

コミュニティを設置できる場所はさまざまあります。以下にいくつかSaaS企業の実例を挙げていきましょう。

  • ヘルプデスクソフトのLiveAgentは、Facebook上にコミュニティを設置しアップデートや新機能をアナウンスするとともに、ユーザーからのダイレクトなフィードバックをキャッチしています。
  • 同じくヘルプデスクソフトのZammaは、GitHubTwitter上にコミュニティを設置。GitHubではオープンソースプロジェクトを実施し、コミュニティメンバーと共同作業で自社ソフトのバグの修正や新機能の基礎を作り上げています。
  • ライブチャットやチャットボットなどのマーケティングソリューションを提供するTidioは、Facebook上にコミュニティを設置し、プロダクトアップデートを共有すると同時にユーザーからのダイレクトフィードバックをキャッチしています。

また企業の規模にもよりますが、既存のコミュニティ企業を買収するというのも近年大手SaaS企業にみられるトレンドです。

このように、SaaS企業にとってコミュニティは、顧客エンゲージメントを高めるための貴重なアセットであり、大手企業ほどその重要性に着目し早期に手を打っていることがわかります。

SNS

SNSは近年著しい成長を見せており、エンゲージメントマーケティングにおいても目が離せない領域となっています。

顧客の情報入手のソースは非常に多岐にわたり、複雑化していることは前述しましたが、その情報入手のソースの大きな割合を占めているのがSNSです。

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(出典:Hootsuite

事実としてHootSuiteが発表したデータでは、インターネットユーザーの約半分(43.3%)がブランドリサーチの手段としてSNSを挙げており、これはブランドや製品のウェブサイト訪問を上回っています。

またSNSではユーザー・企業間でタイムリーな相互コミュニケーションを取りやすいため、前述したコミュニティマーケティングを展開する場所としても最適です。

SNSを駆使しているSaaS企業の事例として、HubSpotがあります。Hubspotは自社のコミュニティのひとつをLinkedin上に設置し、業界のトレンドとなり得る情報やリサーチ記事、リーダーシップに関するトレーニング記事などをコンスタントにアップしています。

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(出典:everyonesocial

これらの記事にはユーザーから毎回100件以上のコメントが寄せられ、ユーザー同士が自らの意見交換を行ったり、各コメントに対してHubSpotチームからのスピーディな返答があったりと、セミナー的なコミュニティが形成されています。

ポッドキャスト

ポッドキャストを活用したマーケティングアプローチも、顧客エンゲージメントを高める手法として有効です。

ウェブサイトやSNS、動画コンテンツなどでの「視覚」によるリサーチは、集中して文字を読んだり映像を見たりと、どうしてもユーザーの時間を拘束してしまいがちです。しかし、ポッドキャストのような「聴覚」による音の情報は、たとえば車を運転しながらでも散歩をしながらでも、イヤホンなどを使えば入手することができます。

そのため忙しくて時間に余裕がない、または別の作業と並行して情報をインプットしたいといった買い手にとって、ポッドキャストによる音のリサーチは十分選択肢になり得るのです。

Hootsuite_Podcasts_2022

(出典:Hootsuite

また、上図はHootsuiteによるリサーチですが、25〜34才のミレニアル世代の約4人に1人は、少なくとも週に一度はポッドキャストを聞いていることがわかります。

ミレニアル世代の割合はアメリカでは労働人口の35%を占めており、すでにテック系BtoBバイヤーの約60%を占めるといわれています。彼らがよく利用するチャネルに向けてマーケティングアプローチをかけるのは道理といえるでしょう。

自社でポッドキャストのチャンネルを設立するのもひとつの手ですが、既にあるSaaS系のチャンネルにゲスト出演するというのも有効かもしれません。

SaaStr_Atlassian

(出典:Spotify

たとえば、SaaStrというSaaS専門チャンネルには、NotionのCPDやBoastの共同創立者、AtlassianのCROなど、そうそうたるメンツがゲスト出演しホストと議論を繰り広げており、リスナーには彼らのブランドや取り組みなどが深く印象づいていると予想ができます。

エンゲージメント率を高めるには?

最後に、エンゲージメント率を高めるために企業のマーケターが意識すべき重要なポイントについていくつか紹介します。

質の高いコンテンツの作成

エンゲージメントマーケティングを成功させるためには、顧客に自発的にブランドとのつながりを持とうと思ってもらうことが重要です。そのためには顧客にとって魅力的な質の高いコンテンツを提供する必要があります。

先に挙げたHubSpotのSNS事例のように、業界のトレンドや最新のリサーチなど、ターゲットとする顧客が興味を持っているであろう情報を提供したり、時には疑問を投げかけることで顧客同士の意見交換を促したりと、コンテンツに対する顧客の関与を促すような工夫が必要でしょう。

またコンテンツの内容のほかにも、「リッチコンテンツ」と呼ばれる音声や音楽、動画やアニメーションを活用した動的なコンテンツを盛り込むこともひとつの選択肢です。

リッチコンテンツを使用することで、コンテンツがより顧客の印象に残る、直感的にわかりやすいものとなる、また顧客の感情に訴えやすいものになるなど、顧客のコンテンツへの関与をより強く訴求できる可能性があります。

リッチコンテンツについては当ブログのこちらの記事でも紹介しておりますので、ぜひ併せてご一読ください。

ペルソナとカスタマージャーニーの正しい理解

エンゲージメントマーケティングを効率よく実施するには、顧客の購買行動を深く理解し分析することが大切です。そして顧客の購買行動を理解するためには、今回紹介した内容のほかに「ペルソナ」と「カスタマージャーニー」についても正しく理解しておく必要があります。

ペルソナとは、製品やサービスのターゲットの代表として企業が設定する架空の顧客像のことです。さまざまな媒体(チャネル)から情報入手が可能となった現代では、顧客は自身の環境や嗜好などにあわせて情報の入手元を自由に選択します。そんななか、、幅広い層に向けたアプローチを一様に行っても高いエンゲージメント効果は期待できません。

チャネルごとのターゲットにピンポイントに刺さるアプローチをするため、具体的な顧客の人物像(ペルソナ)を設定することは、エンゲージメントマーケティングを行う上でも避けては通れないでしょう。

また、設定した各ペルソナがどのような行動や思考、感情や体験を経て自社の製品購入にいたるのかをマッピングしたカスタマージャーニーを把握することも、顧客の購買行動の理解に直結する重要な要素のひとつです。

ペルソナについては当ブログのこちらの記事で、カスタマージャーニーについてはこちらの記事でそれぞれ紹介していますので、ご確認ください。

定量的目標の設定

どのマーケティング施策を実施する際にも言えることですが、実施する上で何を目標とするのか? 何をもって成功度合いを測るのか? といった定量的目標および評価指標の設定はとても重要です。

このような定量的目標は「KGI(Key Goal Indicator、重要目標達成指標)」、評価指標は「KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)」とそれぞれ呼ばれます。

KGIやKPIという名前が分かったところで定量的な目標および評価指標を設定するのは簡単なことではありません。どうしても難しいという場合には「SMARTの法則」を使ってみることをお勧めします。

smart-goals

(出典:Toolshero

SMARTの法則とは、

  • Specitic:具体的に
  • Mesuarable:測定可能に
  • Achievable:達成可能に
  • Relevant:関連的に
  • Time bound:期限を決めて

の目標設定における5つの成功因子の頭文字をとった法則で、定量的で達成可能、かつ具体性のあるゴールおよび評価指数を設定することに長けたフレームワークです。

KGI・KPIについては当ブログのこちらの記事で、SMARTの法則についてはこちらの記事でそれぞれ紹介しています。ぜひご一読ください。

まとめ

BtoBの購買における売り手と買い手の力関係の変化により、買い手の選択肢はもはや売り手が提供する情報のみにとどまりません。それどころか、買い手はインターネットを通じて自由に情報を入手することが可能で、むしろ売り手には自身の意思決定の最後の「答え合わせ」しか望んでいない、というのがデータが示す現代の購買行動です。

だからこそ、今回紹介したエンゲージメントマーケティングのように、顧客の購買行動の初期の環境から寄り添い、顧客に自社ブランドを「自発的に」リサーチしてもらうような取り組みが大切になってきます。

しかしこれはエンゲージメントマーケティングだけでなく、当ブログでこれまで紹介してきた他の現代的なデジタルマーケティングの多くに共通することです。

〇〇マーケティング、△△マーケティング、とそれぞれを全く違うものと捉えるのではなく、さまざまな角度からBtoBのマーケティングを見つめる視点として捉えていただき、当ブログの他の記事の情報と併せて、自社に最適なマーケティングアプローチを見つける手助けとしていただけたら幸いです。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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