「企業が制作した動画コンテンツを目にする機会が増えた」と感じている方も多いのではないでしょうか。
総務省による調査で2013年以降は映像系ソフトの市場が拡大していると、明らかになっています。動画や音声などを用いたコンテンツを「リッチコンテンツ」と呼び、動画市場の拡大に応じて利用が伸びています。
BtoB企業やSaaS企業が提供するコンテンツの代表的な例としてブログがありますが、それだけでは他社との差別化が難しく、買い手の購買行動に沿わない状況が来る日もそう遠くはないかもしれません。リッチコンテンツによるコンテンツマーケティングに取り組むことで、他社との違いをアピールしやすくなるでしょう。
本記事では、BtoB企業やSaaS企業のマーケティング担当者に向けて、リッチコンテンツの概要を事例を交えながら解説します。リッチコンテンツを用いたコンテンツマーケティングを実施する際に、押さえておくべきこともお伝えするので、ぜひ最後までお読みください。
リッチコンテンツとは?
リッチコンテンツとは、ビデオやオーディオなど、視聴者のコンテンツへの関与を促す高度な機能を備えた広告を指すデジタル広告用語です。
テキストや静止画像のみのコンテンツではなく、動画(CGやアニメーション含む)や音声を使用して、表現豊かに製品サービスをアピールするコンテンツを指します。(引用元:Google Help)
BtoB企業やSaaS企業がリッチコンテンツを活用することで、買い手に関心を持ってもらい、製品サービスの販売につなげやすくなります。
発展の背景と現状
2000年代の動画コンテンツといえば、FLASHが主流でした。ですが当時は通信速度が遅く、読み込みに時間がかかってしまったため、ユーザーが快適に動画を視聴できないケースも多かったのです。
その後、高速通信が可能になりYouTubeの人気が高まったことで、動画コンテンツが普及してきました。
(引用元:https://www.soumu.go.jp/main_content/000755994.pdf)
2021年に総務省が発表した「メディア・ソフトの制作及び流通の実態に関する調査」によれば、2015年から2019年の間、コンテンツの市場規模は一貫して増加してきました。なかでも音声系と映像系ソフトの割合が大きく、2019年の時点で全体の75%を占めています。
また、2022年に株式会社サイバーエージェントが発表した国内動画広告の市場調査によると、2020年時点で動画広告市場は2,954億円。これが2025年には1兆465億円と、3倍以上も拡大すると予想されています。
リッチコンテンツのメリット・デメリット
リッチコンテンツを活用するために、メリットとデメリットを把握しておきましょう。
リッチコンテンツのメリットは以下の通りです。
- 製品サービスや企業理念をわかりやすく直感的に伝えられる
- テキストや画像のみのコンテンツに比べ、滞在時間が長い
- 直感的にわかりやすく伝えられる
SaaS製品では、新規導入の際に「操作や設定方法が難しそうだ」とユーザーに感じられてしまう場合があるかもしれません。その対策として、動画などのリッチコンテンツを用いてわかりやすいマニュアルを作ることで、製品サービスへの心理的ハードルを下げやすくなるでしょう。
一方リッチコンテンツのデメリットとしては、以下が挙げられます。
- 制作に費用や時間のコストがかかる
- 読み込みに時間がかかる場合がある
静止画やテキストのみのコンテンツに比べて、リッチコンテンツの制作にはコストがかかります。リッチコンテンツの展開によってコストを上回る利益を得られるように、事前に戦略を練ることが大切です。
また、ユーザーの通信環境によってはリッチコンテンツの読み込みに時間がかかり、ストレスになる場合もあります。通信容量が大きくなりすぎないための工夫も必要です。
リッチコンテンツと”いわゆる”コンテンツマーケティングとの関係
コンテンツマーケティングを効果的に行うためには、リッチコンテンツの活用が欠かせません。
BtoB企業やSaaS企業が意識すべき、コンテンツマーケティングとリッチコンテンツの関係について、詳しく解説します。
コンテンツマーケティングによる関係構築が重要
コンテンツマーケティングは、ユーザーにとって有益な情報を発信することで自社のファン(見込み客)を増やし、将来的に購買へとつなげるマーケティング手法です。
企業の売り込みによってではなく、ユーザー自らが主体的に検索して企業や製品サービスにたどり着く「顧客主導」の風潮が強まってきたことが、発展の背景として挙げられます。この風潮をGoogleは「Zero Moment of Truth(ZMOT)」と呼んでいます。
BtoBの製品サービスは、購入までの検討期間が長いものの割合が高いです。大掛かりな基幹システムや社内体制を構築し直す必要のある管理システムでは、製品サービスの仕組みや導入メリットを十分に理解してもらう必要があります。
コンテンツマーケティングは、リードジェネレーションやリードナーチャリングの段階で特に有効です。ユーザーは製品サービスの理解を深められ、企業との信頼関係が構築されていきます。
導入コストが大きい製品サービスであるほど、コンテンツマーケティングが必要不可欠だといえるでしょう。
(引用元:https://backlinko.com/hub/content/b2b)
BtoBの製品サービスでは、ユーザーの70%が企業のWebサイトから、67%がインターネット検索から情報収集しています。
こうしたユーザーに効果的にアプローチするためには、インターネット検索からの流入が見込めるオウンドメディアを運営することが有効です。BtoC企業だけでなくBtoB企業にとっても、オウンドメディアを運営する意義は大きいといえます。
リッチコンテンツの活用で期待できる効果
リッチコンテンツを活用することで、以下の効果が期待できます。
- 印象に残りやすいため、企業ブランディングに役立つ
- 自社製品サービスの利用イメージを持ってもらえる
- 問題解決のイメージを持ってもらいやすい
- 感情に訴えやすい
(SansanのCM公開ページ)
企業データベースなどを手掛けるSansan株式会社のCMは、リッチコンテンツを活用した好例です。企業内の困り事がSansanのサービスを使うことでどのように解消されるのか、わかりやすくインパクトのある動画を通じてユーザーに伝えています。
著名なマーケティングコンサルタントであるDan Kennedy(ダン・ケネディ)氏の言葉に「人は感情で買い、理論でそれを正当化する」があります。これはBtoBやSaaSの製品サービスにおいても有効な考え方です。
コンテンツマーケティングによって企業に対するよいイメージや信頼感を醸成しておくことで、見込み客の感情に訴えることができ、購買へとつながりやすくなります。
リッチコンテンツの中でも動画が活用しやすい
BtoB企業やSaaS企業が活用しやすいリッチコンテンツが動画です。コンテンツマーケティングの手段として、多くの企業がYouTubeでの動画配信に取り組んでいます。
BtoB企業やSaaS企業が制作する動画には、主に以下の種類があります。
- 製品の使い方の説明
- 業界や市場動向の解説
- 企業のイメージ動画
- 事例・顧客インタビュー
コンテンツマーケティング全体の戦略を考えたうえで、どの種類を選んで制作するかを決めることが大切です。
(SalesforceのYouTubeチャンネル)
YouTubeを用いたコンテンツマーケティング事例のひとつが、顧客管理ソフトなどを販売するSalesforceのYouTubeチャンネルです。自社製品の設定方法や使い方を動画で配信しており、「製品の導入後にマニュアル動画を見ながら操作できる」という安心感をユーザーに与えています。
動画コンテンツを制作する際には、以下の点に注意しましょう。
- 思いつきで作るのではなく、戦略に沿ってコンテンツを展開する
- 企業の意思決定者や決裁権限者など、ターゲットを明確にする
コンテンツに一貫性がなかったり、ユーザーにとって有益でない内容であったりすれば、せっかく制作しても無駄になってしまう恐れがあります。コンテンツマーケティングの全体戦略を立てたうえで、ターゲット設定を綿密に行い、コンテンツを提供し続けることが大切です。
リッチコンテンツの種類とその特徴
リッチコンテンツの種類とその特徴を、事例と共に5つ紹介します。
- ポッドキャストの音声コンテンツ
- 画像付き予約・アンケートフォーム
- ケーススタディ動画
- マンガコンテンツ
- 3Dモデル
リッチコンテンツ1:ポッドキャストの音声コンテンツ
(ALL STAR SAAS FANDのポッドキャストコンテンツ)
ポッドキャストを利用することで、見込み客が知りたい情報を「ながら聞き」が可能な音声として届けられます。文章よりも発信者の人柄や思いをユーザーに感じてもらいやすい点も、音声コンテンツのメリットです。
事例としては、SaaS企業向けベンチャーキャピタルALL STAR SAAS FANDによるポッドキャストコンテンツが挙げられます。SaaSに関して豊富な知識を持つスピーカーが専門的な内容を語ることで、他社には真似できないオリジナルなコンテンツを生み出しています。
ポッドキャストで有益な音声コンテンツを継続して提供することで、信頼感の構築やブランドイメージの向上につながるでしょう。
リッチコンテンツ2:画像付き予約・アンケートフォーム
(anybotで作成したアンケート:「ferret」の記事から引用)
画像付き予約・アンケートフォームは、写真やイラストを用いることで、ユーザーが選択や入力に迷わないようにサポートします。文字だけでは伝わりにくい情報を補足することで、ユーザーが快適に回答しやすくなるのです。
接客ツールの開発・販売を行っているエボラニ株式会社は、画像付き予約・アンケートフォームを導入できるツール「anybot(エニーボット)」を提供しています。利用することで、LINEなどで使える予約・アンケートフォームを簡単に作成できます。
ユーザーが使いやすいフォームを提供することで、予約数の増加やアンケートの回答率向上といった効果が見込めるでしょう。
リッチコンテンツ3:ケーススタディ動画
(KANTARが制作したケーススタディ動画)
ケーススタディ動画は、自社が手掛けた事例を紹介するために利用する動画です。自社に発注した際のイメージを見込み客に持ってもらうことで、お問い合わせなどの行動につなげやすくなります。
市場調査やコンサルティングなどを行うKANTARグループは、サムスングループと協業したケーススタディをアニメーションのコンテンツとして制作・公開しました。複雑なコンセプトをわかりやすくインパクトのあるアニメーションで、生き生きと表現しています。
すでにケーススタディを文章の記事として公開している企業であれば、あらためて動画でも作成し、YouTubeなどで公開する方法もあります。動画にすることで、より多くの見込み客にアプローチすることが可能です。
リッチコンテンツ4:マンガコンテンツ
(「マンガで分かる!ニットーはこんな会社です」)
マンガは視覚的に目立ちやすく、気楽に読めるため、ユーザーに興味を持ってもらいやすいコンテンツです。また、複雑な事柄をわかりやすく整理したり、ストーリーを伝えたりするのにも適しています。
金型などの設計開発を行っている株式会社ニットーは、マンガコンテンツ「マンガで分かる!ニットーはこんな会社です」を自社サイトで公開しています。
BtoB企業やSaaS企業にとって、会社紹介のページをじっくりと読んでもらうのは、一般的に難しいといえるでしょう。しかし、ニットーではマンガコンテンツを取り入れることで、訪問者に興味を持ってもらう工夫をしているのです。
リッチコンテンツ5:3Dモデル
(トーガシの展示会ブースの3Dモデル)
3Dモデルを活用することで、まるでその場にいるかのような感覚をユーザーに味わってもらえます。見込み客に現地へ足を運んでもらうことが難しい場合に、活用すると効果的です。
展示会の運営サポートなどを行っている株式会社トーガシは、展示会の自社ブースを3Dモデルとして公開しています。Webサイト上で操作することで、ブースの中を移動したり興味のある展示を詳しく見たりできて、実際に展示会を訪れるのに似た体験が可能です。
多くのBtoB企業やSaaS企業にとって、展示会は見込み客と接する貴重な機会です。特に感染症の影響が心配される場合などには、見込み客に効果的にアプローチするために、3Dモデルの活用も検討するとよいでしょう。
まとめ
動画や音声などを使用するリッチコンテンツは、ブランディングやユーザーの興味づけに役立ちます。
イメージ戦略として使えるだけでなく、動画を使った製品マニュアルを公開することで、ユーザーに安心感を与えられるでしょう。文章だけよりも感情に訴えやすい点も、リッチコンテンツのメリットです。
一方、制作コストがかかるというデメリットがあります。制作したリッチコンテンツを無駄にしないためにも、活用するための明確な戦略を立てたうえで、コンテンツマーケティングに取り組みましょう。