「これからは、AIを使ったビジネスに力を入れましょう」と誰かに提案されたら「わかっているが人材と予算などリソースの問題」「他社も挑むなかどう差別化できるかだ」と苦笑する経営幹部の方は多いのではないでしょうか?
いかに成長市場への参入タイミングがわかっても、自社にリソースがなければ絵空事に終わります。経営戦略におけるポーターVSバーニー論争をご存じでしょうか? 競争に勝つためには市場でのポジショニングが重要という理論と、企業が持っているリソース(内部資源)の強みや独自性こそが重要とする理論の論争です。
この記事では、競争優位の源泉を企業内部のリソースに求める理論「リソース・ベースト・ビュー(RBV)」に基づくフレームワーク「VRIO分析」を紹介します。
VRIO分析とは、企業のリソース(経営資源)の競争優位性を評価するフレームワークです。組織が保有するリソースを以下の4指標で分析します。
内部環境分析フレームワークの一つで「模倣困難性」や「組織」という指標がある点が特徴。自社のリソースや組織の実力を現実的に把握できるため、さまざまな戦略立案に役立ちます。サービスのライフサイクルが短く競争が激しい現代において、ますます有用なツールだといえるでしょう。
VRIO分析は、1991年にユタ大学経営大学院教授のJay B.Barny(ジェイ B.バーニー氏、以下バーニー)が提唱したフレームワークです。
バーニーは、競争優位の源泉として企業内部資源の活用を重視する(競争に勝つには自社のリソースを理解し最大限に活かすことが最も重要という考え方)「リソース・ベースト・ビュー(RBV)」という理論をもとに、VRIO分析を提唱しました。
その当時、経営戦略の領域においては、5Forces分析、3つの競争戦略などを提唱したマイケル・ポーターの競争戦略論が支持を集めていました。こちらは、企業が競争に勝つには伸びる市場を選ぶことや、業界内でのポジショニングが重要とする考え方です。
しかしポーターの理論では、同じ業界でも企業ごとに成功や失敗の差が出る理由を十分に説明できない部分があったため、VRIO分析は非常に注目されます。
これ以降、「ポーターVSバーニー論争」「ポジショニング派とケイパビリティー派」と表現されるように、両者の理論は一時期対立軸で語られます。とはいえ、次第にVRIO分析も、外部環境の変化に対応しきれないなど弱点が指摘されるようになりました。
現在、両氏の理論は異なる視点から戦略を捉える補完的な関係にあるという理解が進み、フレームワークも目的に応じ組み合わせて活用されています。
SWOT分析もVRIO分析も、マーケティング戦略策定の初期に活用されます。また、一部領域は共通しています。
ただし、SWOT分析は外部環境と内部環境、企業の強み・弱みなどを幅広く分析する汎用的なフレームワーク。VRIO分析は、企業の内部環境(企業内部のリソース)に特化し、競争優位を分析するフレームワークです。
一般に経営戦略を立案する際は、外部環境分析(社会環境や業界)→内部環境分析(自社)→戦略立案のプロセスで進めます。SWOT分析は外部環境も内部環境もまとめて分析できるので便利ですが、より自社の強みを詳細に分析したい場合は、VRIO分析も組み合わせると効果的です。
マーケティングプロセス例:
VRIO分析の4つの構成要素を解説します。この4要素にあてはまるものを社内から見出すことが重要であるため、分析するときに問いかけるチェック用の質問も記載します。
自社が持つ経営資源が顧客にとって価値があるかを分析します。経営資源とは「人」「モノ」「カネ」「情報」、それらが組み合わさったリソースを指します。たとえば、技術力、商品企画力、サービスレベルの高さなど。以下のような問いかけをして評価します。
問いかけの質問
市場でそのリソースが希少かどうかを分析します。リソースが市場で希少価値をもっていれば競争優位に立てます。競合他社も同じ強みを持つ場合希少とはいえませんし、優位に立てません。
問いかけの質問
他企業が簡単に模倣できない、または模倣するのに高いハードルのあるリソースかを分析します。たとえば並外れた営業力、技術力、企業DNAともいうべき独特の企業文化、卓越した実行能力(オペレーショナルエクセレンス)、長年の歴史で培われたブランド力、地理的条件、特許、知的財産権、商標など。
歴史、人間関係、文化、社会的背景が融合して生まれるリソース、因果関係が不明なリソースは特に模倣困難です。
問いかけの質問
経営資源(リソース)を活かせる組織体制かどうかを分析します。オフィシャルな組織体制だけでなく、組織文化などのカルチャーも強みに該当します。
たとえば、戦略に紐づいた組織構造、変化に対応できる組織体制、優れたオペレーション能力、人材を活かす人事制度、よい組織文化などがあります。
問いかけの質問
VRIO分析のメリットとデメリットを解説します。一般にフレームワークは他フレームワークと組み合わせて長短をカバーしつつ活用するため、しっかり理解しましょう。
VRIO分析は、新規事業立案、既存事業分析、自社の強みの棚卸、リストラクチャリング、他社分析などいろいろなシチュエーションに役立つフレームワークです。特に自社の競争優位となる強みの発見ができることがメリットです。
VRIO分析をすることで、顧客にとって価値があり、市場において希少で、模倣されにくく、自社組織で活かせるリソースを特定できます。
「希少性」「模倣困難性」という指標があることで、そのリソースが市場において優位性を発揮し続けられるか、「組織」という指標で自社がそのリソースを生かせるかを判断できます。4つの視点で多角的に分析するので真の強みを明確化できるでしょう。
他社の成功例を真似て新たなビジネスモデルを導入しても、上手くいかない例はよくあります。これは持っているリソースが企業によって異なるからです。
しかし、VRIO分析で社内のリソースを正しく評価できると、自社の強みに基づく戦略をイメージしやすくなります。リソースを無視した見当違いの戦略を立ててしまうリスクが減り、実現可能な成長戦略を描けるのでプロジェクトの成功率も上がるでしょう。
競争優位の源泉を見出すこともできるので、今後の成長戦略のヒントも得られます。
模倣困難性という指標によって、強みと思い込んでいたリソースが、すぐキャッチアップされるとわかったり、市場で優位性を発揮できる期間が想定できたりします。
一方で、強みと認識していなかった企業文化、プロセス、現場対応力などが競争優位の源泉だとわかることもあるでしょう。自社独自の資源を重視するようになり、戦略にも独自性が出てきます。
VRIO分析は、経営資源を最大限に活用するために作られたフレームワークです。
たとえば新規事業企画の際は、VRIO分析で優位性が高いと判明した領域にリソースを集中させ、弱みをアライアンスパートナーに補ってもらいながら展開することができます。
組織改革のために、技術開発力、営業力、販売力など自社の全部門を分析することも可能です。これにより社内で適切なリソースの配分ができます。
VRIO 分析はマーケティングフレームワークの中では難しい部類です。リソースを正しく分析するためには、正しいデータを収集する必要があるので時間もかかります。外部市場の変化をカバーできない点、主観の影響が出やすい点もデメリットです。
VRIO分析は内部分析ツールとしては有用ですが、外部市場の大きな流れを捉えるフレームワークではありません。昨今の海外の戦乱、コロナ、日本の少子化などでわかるように、マクロな外部環境の変化はビジネスに大きな影響を与えます。
何より新規ビジネスは時流に乗ることが重要。内部資源が優れていても他社より遅すぎる参入は不利です。早すぎても市場が成熟しておらず利益が上がる時期まで体力が持たないかもしれません。
そのため、VRIO分析だけで戦略を立てるのは危険です。PEST分析、5Forces分析、SWOT分析と組み合わせるなど工夫が必要です。
VRIO分析ではまず、自社の強みを洗い出しリソースを定義する作業から入ります。ところが、そのピックアップ時点で、主観による影響が入ることがあります。
顧客に価値を提供しない自社のリソースを強みと捉えたり、よくある話ですが自分の部署のみ優位性が高いと評価し、他部門の強みを軽視したりすることがあります。模倣困難性についてもデータでの検証をあまりせず、主観で一時的な優位性を高く評価することも少なくありません。
その結果、新規事業がうまくいかなかったり、リストラチャリングの際に自社の強みであった部署をアウトソースしてしまったりします。主観が影響しやすいので、分析する人材にそれなりの能力が必要です。
VRIO分析は、会社全体を対象にすることも、一事業部の分析にも、1リソースの分析にも活用できます。
どのような目的であれ、目的設定→分析するリソース(経営資源)の定義→必要なデータの収集→VRIO分析→戦略・戦術への反映というステップで進めます。一度だけではなく定期的に分析しましょう。
まず、VRIO分析を行う目的を明確にしましょう。たとえば、新規事業に向けて強みを分析する場合と、リストラクチャリングのためにあらゆる部署を分析する場合、一事業部を分析する場合ではリソースの対象や数、必要なデータが異なるからです。
目的例:
目的にそって自社のリソース(経営資源)を洗い出します。人(スキル、モチベーション、資格保持者数)、モノ(原材料、設備等)、金(資金力、収益性等)、情報、その他(企業文化、知的財産等)などのカテゴリーからまずは思いつく限りピックアップしましょう。
洗い出しが終わったら、リソースを定義します。組織全体のリソースを分析したいのであれば、部署名や〇〇力などシンプルな表現でよいでしょう。無形のリソースはわかりやすいように1〜2行のセンテンスにしてもかまいません。
リソースの数にルールはなく目的によります。リストラクチャリング目的であれば、ぬけ・もれがないよう数が多くなります。しかし、事業企画用に分析する場合は、対象が多いとかえって結果がわかりづらくなるため、1〜5にしぼりこんでもよいでしょう。
《定義の例》
定義したリソースを、 VRIO フレームワークの指標(価値、希少性、模倣困難性、組織)を使って市場で優位性を発揮できるか分析しましょう。
表のようにどこでNOが出たかで、「競争劣位」「競争均衡」「一時的な競争優位」「持続的な競争優位」「最大限の持続的な競争優位」の5つ状況のどこに該当するか判断します。
※順番は決まっており、必ずフレームワークの並びのV→R→I→Oの順番で行います。
リソースが市場から見て価値があるかを、以下のような質問にYESとこたえられるかで判断します。この時点でNOなら市場に評価されないということなので、強みではなく「競争劣位」にあたります。
次に、希少性を評価します。唯一でなくてもかまいません。希少(めったにない)強みかどうかを自問してください。ここでNOが出た場合「競争均衡」です。
競合他社が模倣するのは難しいか、模倣した場合にかかる時間やコストを分析します。真似ができない、真似をするのにかなり時間がかかる場合は、優位性を発揮できます。
ここでNOが出た場合「一時的な競争優位」です。
組織がその強みを効果的に活用できるような状態かを分析します。組織の規模、体制、社風などを評価します。ここでYESなら「最大限の持続的な競争優位」。ここでNOなら「持続的な競争優位」で、競走優位性は持っているものの組織に課題があり、リソースを活かしきれていない状態です。
複数のリソースを分析した場合は、結果を一覧表にしてみましょう。自社のどのリソースが競争優位なのかよりわかりやすくなります。
結果をもとに戦略を構築したり、リソースを配分したりします。
新規市場進出の検討のために分析した場合、結果が「最大限持続的な競争優位」ならGOサインでよいでしょう。「持続的な競争優位」なら組織をリソースを活用できる体制に変革することが必要です。子会社を作る選択肢もあります。
結果が「一時的な競争優位」だった場合、同業がすぐキャッチアップする可能性が高いので差別化要因を探すか、常に先行して市場を開拓していくスピード感のある実行プランが必要。「競争均衡」「競争劣位」という結果なら、そのリソースを軸にした新規事業はリスキーです。
既存市場をVRIO分析した場合も上記とほぼ同じ判断です。ただし、すでに事業を展開しているので「競争均衡」という結果であっても他社との差別化要因を探すなど、まずは事業継続のための改善策を考える必要があります。「競争劣位」なら事業撤退を検討します。
リストラクチャリングのためにVRIO分析を行った場合、コアコンピタンスを定義し「競争劣位」にある要素はアウトソーシングを検討してもよいでしょう。他社分析をした場合は、他社の弱みの部分(NOの要素)に着目し、自社が優位に立てる戦略の参考にします。
市場は常に変化しますので、VRIO分析も定期的に実施しましょう。今はAIが進歩しているので、以前は「模倣困難」であったこともすぐキャッチアップ可能です。するとリソースの価値や希少性も変わります。
「組織」も経営者や役員が変われば良くも悪くも変化するものです。消費者の意識が変われば、以前は価値を感じていたものを評価しなくなります。逆に価値が再認識され、新たに強みとして浮上するリソースが出ることもあるでしょう。
定期的にVRIO分析を実施することで、自社の現在のリソースを正しく把握できます。これが持続的な競争力向上につながります。
ここでは、VRIO分析の具体例を紹介します。スターバックスとユニクロ。世界中に多くのファンを抱える社会的にも価値を認められている企業です。
(出典:スターバックス公式サイト)
スターバックスは、1971年にアメリカ・シアトルで創業し、2023年時点で世界で3万8038店舗を展開する世界最大のコーヒーチェーンです。スターバックスは強みの数多い企業ですが、ここでは以下3つのリソースをVRIO分析してみます。
スターバックスは、世界中で高品質のコーヒーやサイドメニューを提供してきました。近年はコーヒー文化の枠を超えて、さらに多彩で革新的な商品を提供するようになりました。
季節ごとに変わるフラペチーノは今やスタバの人気商品。美味しさと見た目の華やかさで人気を呼び、コーヒーをこれまで飲まなかった層にも愛されています。ザクザクした触感を楽しむアフォガートなど、コーヒーの新しい飲み方も提案しています。
また、InstagramやXで季節限定商品をアピールするSNSマーケティングも巧み。スタッフの対応はいうまでもなくハイレベルです。価値、希少性、模倣困難性、組織ともYESで「最大限の持続的な競争優位」の状態にあります。
価値 |
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模倣困難性 |
組織 |
競争優位の状況 |
YES |
YES |
YES |
YES |
最大限の持続的な競争優位 |
ではコーヒーそのものの味はどうでしょうか? スターバックスのコーヒーは高品質の豆を使っており美味しく世界的に評価が高いのはもちろんですが、各国の調査を見るとトップレベルの人気はあるものの、昔も今もどの国でも常にコーヒーの美味しさで1位というわけではありません。
コーヒーの美味しさは個人の嗜好が決める評価なので難しいのですが、一部調査結果を抜粋します。各メーカーにファンがおり、顧客の評価は拮抗しています。
市場で評価されているので価値はYES。しかし希少性については、日本でもコメダ珈琲店は短期間に順位を上げていますし、ドトールも人気です。フラペチーノなどに惹かれない純粋なコーヒーファンから見れば、スターバックスの味が断トツではないと思う層も少なからずいると判断できます。
価値YES、希少性はNOで、コーヒーの味だけ見れば「競争均衡」と解釈できます。
価値 |
希少性 |
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組織 |
競争優位の状況 |
YES |
NO |
- |
- |
競争均衡 |
ブランド力はさまざまな要素で構成されています。商品の品質、サードプレイスという独自のコンセプトを実現した居心地のよい空間、高いレベルの従業員のサービス、それを支えるグローバルサプライチェーン、根底にある創業者の哲学などがミックスされたものです。
スターバックスのブランド力は価値、希少性、模倣困難性、組織すべてYES。「最大限の持続的な競争優位の状態」です。
価値 |
希少性 |
模倣困難性 |
組織 |
競争優位の状況 |
YES |
YES |
YES |
YES |
最大限の持続的な競争優位 |
最後に結果を一覧にしてみます。スターバックスは、純粋なコーヒーの美味しさだけに依存しているわけではありません。サードプレイスという独自のコンセプト、それを体現する革新的な商品開発力、インテリア空間、スタッフのハイレベルなサービスなどで構成されるブランド力、つまりは総合力で成功しています。
価値 |
希少性 |
模倣困難性 |
組織 |
競争優位の状況 |
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多彩な商品開発力 |
YES |
YES |
YES |
YES |
最大限の持続的な競争優位 |
コーヒーの美味しさ |
YES |
NO |
- |
- |
競争均衡 |
ブランド力 |
YES |
YES |
YES |
YES |
最大限の持続的な競争優位 |
(出典:株式会社 ファーストリテイリング)
ユニクロ(UNIQLO)は、2024年8月時点で、国内約800店舗、海外約1700店舗を展開するグローバルアパレルメーカーです。以下をVRIO分析してみます。
ユニクロのアパレルは定番デザインが中心。誰にでもある程度に合う派手さを抑えたデザインが多く、トレンドに左右されすぎない「定番」ならではの魅力があります。また、定番のデザインでリーズナブル。そのうえ品質が高いことで「安心感」や「信頼感」があり、消費者から支持されています。価値はもちろんYESです。
しかしRarity(希少性)はNO。定番だからこそ他メーカーも数多く、ユニクロに近い価格帯の似たブランドには無印良品があります。また、定番デザインは真似されやすい点がデメリットであり中国のコピーブランドは有名です。
最近も大手中国ブランドSHEINをバッグのデザインで訴訟しています。定番の場合、模倣の判定が難しい面もあり、今後も似たデザインのメーカーは登場してくるでしょう。
価値 |
希少性 |
模倣困難性 |
組織 |
競争優位の状況 |
YES |
NO |
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- |
競争均衡 |
ユニクロの「フリース」「ヒートテック」「エアリズム」などの機能性商品は軽く、冬は温かく、夏は涼しく、着心地が良く多くの年代の消費者に好まれています。ユニクロの服は定番デザインながら、素材の優れた特徴とリーズナブルな価格設定によって市場から高く評価されています。
この機能性商品は、ユニクロと繊維メーカーがテクノロジーを活用して共同で開発、改良し続けている独自素材を使っており希少。開発にかなりの投資が必要なので他社は簡単に真似できません。
また、開発の成功には真の顧客満足を追求する従業員の探求心、高度なテクノロジーを持つアライアンスパートナーとの協力体制など組織の強みも影響しています。
価値、希少性、模倣困難性、組織ともYESで「最大限の持続的な競争優位」の状態にあります。
価値 |
希少性 |
模倣困難性 |
組織 |
競争優位の状況 |
YES |
YES |
YES |
YES |
最大限の持続的な競争優位 |
SPAモデルやグローバルサプライチェーンは、多くのアパレル企業が採用しているビジネスモデルで珍しくはありません。しかし、ユニクロはSPAモデルを非常に高いレベルで緻密に展開しています。
ユニクロのSPAモデルは単なる垂直統合ではなく、デジタルと人的支援を組み合わせたもの。店舗データをリアルタイムで把握し、トレンド商品を把握、生産量の調整に生かします。
また、世界中の協力工場には「匠チーム」と呼ばれる日本人技術者を派遣し、技術指導を行っています。「品質の良い服を、必要な時に、手頃な価格で」という顧客価値は、ユニクロの高レベルなSPAモデルによって支えられています。
SHEIN、TEMUなどの中国ブランドのSPAモデルのスピードと効率性は素晴らしいものがありますが、ユニクロレベルの高品質な商品を出す水準ではなく、仮に模倣するとしても相当に時間がかかるでしょう。倫理的な問題も懸念されています。
ユニクロSPAモデルは、価値、希少性、模倣困難性、組織すべてYES。「最大限の持続的な競争優位」にあります。
価値 |
希少性 |
模倣困難性 |
組織 |
競争優位の状況 |
YES |
YES |
YES |
YES |
最大限の持続的な競争優位 |
ユニクロは、トップダウンとボトムアップを組み合わせた独自の組織文化を築き上げています。
オーナー会社は批判されることも多いのですが、優れたオーナーがいる企業は決断が速い点、長期的な視点で組織にプラスの判断ができる点が長所。加えて社員の優秀さ、積極性も知られる組織です。このカルチャーがイノベーションを促進し、事業を拡大する組織の原動力となっています。
価値はもちろんYES。柳井氏というオーナーの才能、経営哲学という個人特有の要素が影響した組織なので、希少性、模倣困難性、組織もYESで「最大限の持続的な競争優位」にあります。
価値 |
希少性 |
模倣困難性 |
組織 |
競争優位の状況 |
YES |
YES |
YES |
YES |
最大限の持続的な競争優位 |
結果を一覧にしてみます。ユニクロが勝ち続けている理由に顧客満足を徹底して追求する姿勢、それを実現する商品開発力、高度なSPAモデルがあります。さらにさまざまな強みを根底で支えているのが、オーナーシップと組織の実行力であり、現在のユニクロの競争優位の源泉だと分析します。
価値 |
希少性 |
模倣困難性 |
組織 |
競争優位の状況 |
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デザイン性 |
YES |
NO |
- |
- |
競争均衡 |
斬新な商品開発力 |
YES |
YES |
YES |
YES |
最大限の持続的な競争優位 |
高レベルのSPAモデル |
YES |
YES |
YES |
YES |
最大限の持続的な競争優位 |
オーナーシップ+組織の実行力 |
YES |
YES |
YES |
YES |
最大限の持続的な競争優位 |
バーニー氏が提唱した内部分析フレームワーク「VRIO分析」は、マイケルポーター氏の外部分析フレームワーク「5Forces分析」などとともに、戦略立案の際にマーケターの方が必ず知っておくべき、有用なフレームワークです。
一般に、新規プロジェクトの失敗率は9割といわれるほど厳しいのですが、このような内部や外部を分析するフレームワークを活用することで成功率を上げることができます。
海外事例も有名企業の成功事例も、自社とは違うリソース(人材、ブランド、組織カルチャーなど)に基づくことが大半です。VRIO分析によって、まず自社の優位性がどこにあるかをつかみましょう。
なお、やや難しめのフレームワークなので、新人マーケターはまず1リソースに絞って分析に慣れることが大切。正式な報告用だけでなく、普段の自分の思考をまとめる際などにも有効活用しましょう。