オウンドメディアを持つ企業は今や増加の一途です。マーケティング担当者がデジタルマーケティングを検討する際も、オウンドメディア運営は最も目につく戦略ではないでしょうか?
しかし、オウンドメディアの意味をよく知らないと、「なぜ自社メディアから集客や取引が起きるのか?」と懐疑的になる方も多いかもしれません。
今回はオウンドメディアを始めたいと考える企業の素朴な疑問に答えるべく、オウンドメディアとはそもそも何か? なぜ必要なのかなど、オウンドメディアを活用したビジネスモデルの基本をわかりやすく解説していきます。
企業がオウンドメディアを持つことはいろいろな実りをもたらしますが、成果を出すには半年~2年はかかる場合があります。しっかりと基本を理解し、オウンドメディアを育てていく姿勢で、ロードマップを作成してからスタートすることが成功のポイントです。
オウンドメディアとは、直訳すると「自社で保有している(Owned)メディア(Media)」。つまり、自社メディアのことです。本来はカタログや企業パンフレット、イベントなど、自社が保有する情報伝達媒体すべてを指します。
ただし、デジタルマーケティングの世界で言われているオウンドメディア(狭義のオウンドメディア)とは、自社で保有しているブログサイト、ニュースサイト、キュレーションサイトなどのWebメディアを指すことが一般的です。
今回のこの記事では、狭義のオウンドメディアにスポットをあてて解説します。
オウンドメディアが浸透し始めた背景には、インターネットの登場以降、誰もがデジタル上で自由に意見を表明できるようになったこと、そしてメディアを運営に活用できるプラットフォームが増えたことがあります。
企業目線では、「営業感の強いWeb広告に抵抗感を示す見込み客が増えたので、買い手の購買行動に合わせながら事業活動を行い、見込み客の認知拡大、製品やサービスへの理解に貢献するマーケティング手法を確立したい」という心情もあったでしょう。
2000年代中頃から、一部の企業がオウンドメディア運営により集客やブランディングに成功し、その実績が知られるにつれ、オウンドメディアマーケティングが急速に拡大していきました。
自社で自由にコンテンツ内容を決められるオウンドメディアは、さまざまな目的に活用できます。
2023年に全研本社株式会社が、オウンドメディア運用担当者300人を対象に行った「2022年オウンドメディアに関する調査」によると、日本の企業がオウンドメディアを運営する目的は以下のとおりです。
オウンドメディア運営の目的の第1位は「商品・サービス理解の促進」、第2位が「商品・サービスの認知向上」です。つまり潜在見込み客へリーチする目的で、オンラインメディアを活用する企業が最も多いと言えます。
以前は、見込み客獲得のためにもリスティング広告(検索連動型広告)やディスプレイ広告(ユーザー情報連動型広告)を活用して、ニーズを抱えているであろう企業担当者へアプローチすることが一般的でした。
しかしBtoBの場合は、商品の認知〜理解のために継続的に広告を出稿するとかなりの費用が発生します。伝えられる情報量も限られますし、何より営業色が強い広告を忌避する人が少なくありません。
オウンドメディアなら、自社の編集方針にのっとって見込み客に継続して役立つノウハウを提供したり、業界の最新情報を届けたりできます。営業色が強くないコンテンツなので、読みものとして気軽に目をとおしてくれるでしょう。
「今すぐニーズはないが何となく関心がある」という企業担当者の心理、購買フェーズに沿った一連のコンテンツを用意することで、商品の存在や長所を徐々に知ってもらうことができます。
立ち上げてから成果が出るまでの期間は、最低でも6カ月から1年以上、一般には2年程度必要です。ただ、記事が蓄積されてメディアとして認知されると発信力が増します。広告は予算がつきれば頭打ちですが、自社メディアは半永久的に情報を発信し続けるので、潜在見込み客の認知獲得につなげられるでしょう。
同調査の第3位には「リード(問い合わせ)の獲得」45.3%がきています。一般に、オウンドウンドメディアのコンテンツを通じて自社を知った、ニーズが顕在化した見込み客の何割かは、あるタイミングで問い合わせてくれます。
見込み客がオウンドメディアでお役立ち情報を発見し、検討段階でeBookをダウンロードし、お問い合わせフォームから連絡してくれるプロセスは以下のとおりです。
【Step】
プロセスは長いのですが「自身がコンテンツを求め発見」し「少しずつニーズが醸成される」ため、自然に商品や企業に詳しくなってもらえる点が長所です。好感度をもって問い合わせる担当者が多くなります。
コスト的にも立ち上げ~当初の1〜2年は、サイト制作・デザイン費用、記事制作費用、サイト保守費用、ツール代、メンバーの人件費などがかなりかかってくるので持ち出しになることが多いでしょう。ただ、リード醸成のサイクルができるようになれば費用対効果はよくなり、大量の広告を打ち続ける必要性が低下していきます。
以下は、HubSpotが提唱しているインバウンドマーケティングのステップ。前半工程の「ATTRACT(惹きつける)」「CONVERT(転換する)」のステージにおいて、オウンドメディアは強力な役割を果たします。
(出典:HubSpot)
メディアを持つということは、社会への影響力が強まることを意味します。
多くの企業は、自社なりのビジョンや世界観をもっています。商品それぞれに生まれた背景があり、世に出したい技術、変えたい不合理さがあるかもしれません。世界の人の助けになるようなサービスを開発した経営者もいるでしょう。
しかし、世の人々に知られなければ存在しないことと同じです。
メディアを持つのに莫大な費用がかかる時代は、無名の企業はいかに良い商品を作っても無名のままで終わることがほとんどでした。しかし、今はマスコミにとりあげてもらえなくても、自分たちのオウンドメディアで良いコンテンツを発信していけば、多くの人の目にとまります。
発信によって見込み客だけでなく一般層にも社名が知られます。中には応援する心情になる人もいるでしょう。もちろん、既存のお客様の信頼関係構築にもつながります。オウンドメディアによって企業イメージの向上、ブランディングに良い影響を与えることができます。
今は就職活動でも、求職者が企業のオウンドメディア、SNSの発信を熟読している時代です。メディアで社員の働く様子や社内の雰囲気などの情報を発信することで、求職者に安心感を与えることができます。
Indeedの調べでは、すでにオウンドメディアリクルーティングを実施しているのは6割です。
社会人経験がない学生は知っている企業が少なく、どうしてもCMや広告を出している一部のBtoC企業に魅かれます。知られている会社=立派な会社だと感じるからでしょう。ところがBoB企業はかなりの大企業でも、一般消費者向けにCMはあまり打たないので、就職戦線ではもともと不利です。
リクルートメディアもなかなか高額で、掲載期間が限定されます。その点、オウンドメディアなら採用メディアレベルのコンテンツをいつでも発信できます。自社プロダクト開発のストーリーやベンチャー企業が挑戦している姿をそのままみせれば、レアな面白いコンテンツとして多くの学生が興味を持つかもしれません。
単純な社員ブログであっても、どのような人たちが働いているか、どんな社風なのかは伝わるので自社にマッチングする個性の人が集まる可能性があります。入社後のギャップも少なくなるため、離職率低減にも効果的でしょう。
(出典:https://jp.corp-sansan.com/mimi/)
前述のようにオウンドメディアは、広義では企業が発信する有料無料のさまざまなメディアを意味しますが、細かく分類すると狭義のオウンドメディア、自社Webサイト、アーンドメディア、シェアードメディアとに別々に捉えることができます。
企業の基本情報、事業内容や理念などを掲載するホームページは広報色が強いのが特徴です。前提条件として、顧客、株主、取引先、社員など自社すべてのステークホルダーに情報発信する必要があるからです。
一般に次のようなコンテンツを掲載します。
ホームページは、いわゆる指名検索(会社の名前や商品のキーワードで検索)をしてくれる人たちが見るメディア、という暗黙の了解があります。ここが、指名検索がまだできない潜在見込み客の獲得やニーズの醸成などの役割を持ったオウンドメディアと目的が異なる点です。
1社の例を出して比較してみます。
以下は、日本アドバタイザーズ協会主催のWebグランプリの企業部門のグランプリを受賞した、日本ガイシ株式会社のオウンドメディア「NGKサイエンスサイト」。子どもたちに科学の楽しさを伝えるために運営しているサイト「フシギなTV」「おいしいフシギ」「120秒の科学」など科学的探究心をくすぐる見出しが並びます。
(出典:NGKサイエンスサイト)
一方、以下は日本ガイシ株式会社のホームページ。落ち着いたデザイン。NGK's SDGs、製品情報、研究開発、企業情報、IR情報、サステナビリティ、採用情報など企業の総合的な情報についての見出しがトップページに並びます。
(出典:日本ガイシ株式会社)
アーンドメディアとはレビューサイト、比較サイト、SNSなど自社を話題にしたり評価したりするサイトです。「earn」は稼ぐという意味なのですが、マーケティングでは「評判を稼ぐメディア」という位置づけで使われています。
コンテンツを発信するのはインフルエンサー、商品の利用者やファンなど。アーンドメディアに掲載されるのは第3者の意見なので、企業や商品の信頼度に大きく影響します。良い評判が拡散するので、オーガニック検索(自然検索)の増加につながる効果があります。
日本でIT製品についての大手レビューサイトはありませんが、米国では以下のG2.comのようなレビューサイトが、ソフトウエア購入者の判断に影響を与えています。
G2.com(Google翻訳で和訳)
各社のスコア表示、概要、ユーザー満足度、ユーザーコメントなどが表示されます。以下はHubSpotのスコアとユーザー満足度のページです。
ペイドメディアの「paid」は「払った」という意味。簡単に言うと有料メディアで、広告、CMが代表的です。SaaS業界でも、大手になるとテレビCM、タクシーCMなども活用しています。
オンライン上にも、総合ニュースメディア、ビジネスメディア、専門メディア、ポータルサイトなど無数のメディアがあります。
ペイドメディアは費用さえかければ露出可能なので、短期間で対象にリーチする方法として効果的です。ディスプレイ広告、記事広告、リターゲティング広告ほか多様であり、内容も都度変えられるので、目的に応じて細かい使い分けができます。
一例として、SanSanのCMとオウンドメディアを対比させてみましょう。SanSanのCMは面白さで目を引き、実際に名刺交換をしている多くのビジネスマンに商品を認知させる役割を果たしています。
(出典:YouTube Sansan2022「変化にやられた」篇 60秒 - Sansan, Inc.)
オウンドメディアではデジタル社会のトレンドをおさえたテーマの記事を展開し、購買担当者や経営層の信頼を得る効果があるでしょう。
ペイドメディアで一気に大多数に認知させ、オウンドメディアでは見込み客の責任者向けに役立つ記事を提供しています。CMはYouTube(シェアードメディア)でも拡散しており、前述のように採用メディアも別途出すなど、目的に応じメディアを使い分けています。
シェアードメディアとは、文字通りシェアされるメディア。フェイスブック、X(旧Twitter)、インスタグラム、YouTubeなどの各種SNSが該当します。アーンドメディアと同じに見えて混同するかもしれません。たしかに非常に近い意味です。
このあたりは、オウンドメディアが盛んになってからまだ歴史は浅い割に、メディアプラットフォームはスピーディに進化しているため、きっちり区分けするのが難しく定義が重複しているのが現状です。
(出典:Dreamstime 130253809)
すでにnoteのようなオウンドメディア+シェアードメディアの機能を持つプラットフォームも増えているので、今後は新たな分け方が出てくることも考えられます。ただ、このようにメディアの種類を区別して考えると、マーケティング戦略を組み立てやすくなることはたしかです。
参考までに、オウンドメディア、ペイドメディア、アーンドメディアの違いが比較されている、Forrester Research社の資料『Defining Earned, Owned And Paid Media』の表を翻訳したものを用意しました。
3つのメディアを比較すると、オウンドメディアの潜在的な見込み客にアプローチしやすいメディアだとわかります。
さらに、下図のように顕在的な見込み客、既存顧客といったステージごとに異なるコンテンツを配信することで、ファネル式にビジネスを進めていく効果もあります。
オウンドメディアを軸にして、それぞれのメディアの特徴を理解し、組み合わせてマーケティング施策を考えるとよいでしょう。
ここでは、オウンドメディアを成功させるためのステップを、立ち上げからスケールさせるフェーズまで工程ごとに解説します。
「オウンドメディアを立ち上げよう! 」となったときに、一番最初に行うのは以下の準備。すぐ記事を書くのではなく、まずはインフラを整えましょう。
運営メンバーの選定
まずは、誰がオウンドメディアを運営していくのかをはっきりさせる必要があります。メディア運営は長期にわたる業務。誰か空いている人が発信すれば、という曖昧な見込みだと、多くの場合頓挫します。
専任の担当者を設けるのか、兼務で対応をするのか、完全に自社社員で運用するのか、外部のコンサルに入ってもらうのかなどをしっかり決めましょう。
もしリード生成が目的なら、理想的には自社のサービスの営業経験(お客様の深い理解が必要があるため)があり、マーケティングに関しても知見がある担当者が理想です。
まったく知見がない場合は、代行会社、支援会社の助けを借りながら自社でノウハウを吸収していくとよいでしょう。
ペルソナ作成とは、オウンドメディアをどのような読者に向けて発信していくか明確にすることです。
ペルソナとは架空の一読者モデルととらえるとわかりやすいでしょう。以下のような項目を埋めていくと、ぼんやりとした読者像が明確になっていきます。
ペルソナテンプレートに書き込んで画像もつけて、記事作成の際に常に見るようにしましょう。
一からペルソナを作るのが大変なら、大手SaaS企業が公開している無料のペルソナ作成ツールを利用してもよいでしょう。必要な基本項目があらかじめ組み込まれているので、スムーズに仕上げることができます。
オウンドメディアの意義、どのような立ち位置にするのかを明確にします。付随的にいろいろな効果はでますが、最も重視する目的を決めましょう。なぜなら、Web上には膨大な人たちがいるので、コンセプトがあいまいだと自社の事業とはまったく無縁の方々に、広く訴求してしまう可能性があるからです。
BtoB企業のオウンドメディアの場合、大抵は以下を目標としてコンセプトを固めます。
例えばリード獲得といっても、企業によって理想のリードは異なるので、自社独自のメディアコンセプトが必要です。
を具体的に書いてみましょう。
いきなりまとめるのが難しいという人は、800以上のオウンドメディアが登録しているオウンドメディアライブラリで、他社のオウンドメディアの紹介文を読むと参考になります。
(出典:オウンドメディアライブレリ)
既存の自社HPやサービスサイトと、オウンドメディアとの関係性を明確にする必要があります。具体的には独自ドメインにして独立性を出すのか、すでに存在するサイトのサブドメインにするのかの選択です。
サービスに関わるオウンドメディアであれば、サービスサイトのドメインの中の「サブドメイン」に設定する必要があるでしょう。そうしないと動線がスムーズでなくもったいないからです。また、すでに信頼されているサイトのドメインパワーの恩恵を受けられるので、Googleで検索上位に上がりやすくなります。
ドメインパワーとは、検索エンジンがコンテンツの量や更新頻度などでサイトを評価している数値です。調べるツールはいろいろありますが、ahrefsというサイトでは無料で調べることができます。操作方法は簡単で、URLを入力してエンターを押すだけです。
(出典:ahrefs)
自社サイトのドメインパワーが強ければぜひ活用しましょう。逆に弱い場合はあまり気にする必要はありません。
企業によってはまったくの独立したメディアとしてドメインを確立する例もあり、かなりたってから「これはあの会社のメディアだったんだ」と驚くようなケースもあります。メディア事業として成り立たせたいケース、あるいは先々の事業を見越してなにか狙っているならよいでしょう。
実際にサイトの制作を発注する企業を決めます。どのようなデザインにするのか、CMSは何にするのかを、既存のサイトとの状況を考えて検討しましょう。
理想は、すべて一つのCMSで運用できるようにすること。理由は、効果測定の際に各CMSや測定ツールを見に行かなくてはならなくなると非効率で、データが分断されてしまうためです。
初心者におすすめは以下のHubSpotの無料CMS。IT担当者の手を借りなくても、オウンドメディアのコンテンツを直感的に作成・運用できます。
豊富なテンプレートがあり、ドラッグ&ドロップ操作でカスタマイズもスムーズです。
ウェブサイトのパフォーマンス、各ページの訪問者数、獲得したコンタクト、顧客数も見ることができます。セキュリティも強固ですし、無料期間の制限もありません。
(出典:HubSpot)
ここまでが準備であり、ここをすっ飛ばすと後で苦労します。急がば回れです。
オウンドメディアを運用しはじめる過程のステップを解説します。
コンテンツの方針がぶれないように、カスタマージャーニーを設計します。
カスタマージャーニー作成とは、お客様が購買のどの段階でどのような情報が欲しいのかを明確にすることです。以下のようなマップを例として、作成したペルソナを主人公に見立てて作ってみましょう。
カスタマージャーニーマップは心理学に沿ったテンプレートなので、それに合わせて発信・設置していくコンテンツをマッピングしていきます。
マップに沿って、自社の見込み客が商品を知って関心を深めて、資料をDLしてみよう、事例を集めよう、問い合わせてみようという気持ちになっていく流れで情報提供していくと、途中の離脱を少なくすることができます。
カスタマージャーニーを作るかどうかで、成果にどのくらい差が出るかみてみましょう。例えば米国のAberdeen Groupの研究論文では、適切なカスタマージャーニーを作成する企業はそうでない企業と比較して、コストを10倍抑制し、マーケティング効投資収益率を54%改善したというデータを出しています。
もちろん、限りなく良いデータの部類でしょうが、別の米Regalix調査でも76%がカスタマージャーニー上に顧客との接点をマッピングして、適切なコンテンツを配置することを重要と考えています。デジタルマーケティングにおいてカスタマージャーニー作成は欠かせないものと言えるでしょう。
まず、どのようなキーワードでコンテンツを作って発信していくのかを検討します。
キーワードの選定手順としては、まず検索ボリュームが多いキーワードを洗い出し、自社のサービスを考慮しながら優先順位を決めていきます。詳細は以下の記事をご覧ください。
・SEO対策におけるキーワードの考え方、選定前に考えておくべきことを解説
大事なのは、読者が検索しそうなキーワードを基に、どのような切り口でコンテンツ企画を考えるかということです。
例えば、ノウハウ記事やお役立ちコンテンツであれば、基本的には仕事のやり方がわからないところから入ってくることが多いと想像できます。
労務系担当者であれば「給与計算とは? 」や、「労働基準法とは? 」などから検索し始めてオウンドメディアにたどり着き、読んでいく中でいろいろな方法論に触れて、その中で課題喚起があり、そこでいろいろなソリューションを認識することが多いでしょう。
基本的にはその課題が各企業のプロダクト・ソリューションを知るきっかけになっていくという流れにする必要があります。オウンドメディアで「 給与計算の仕方はこうやったらいいのか! 」「でも確かに手計算って面倒だな……どうやら給与計算ソフトというものがあるようだ……! 」といった気づきを得られるような展開にします。
さらに、トピッククラスターというコンテンツを構造化する概念を意識することがポイントです。
トピッククラスターとは、ビッグワードを狙ったコンテンツに対して、10個以上のロングテールを狙ったクラスターコンテンツをひもづけること。そうすることでGoogleにそのテーマの専門家と認識されるため、SEO 効果も出てきます。
note記事でトピッククラスター戦略について詳しく紹介していますので参照ください。
実際に記事を書いてもらうライター陣を揃えます。
コンテンツを継続的に発信することでメディアとして評価されるので、ライターも何名か用意する必要があります。
特に、立ち上げ初期は記事のストックを用意しなくてはいけないため、その分ライターの人数も必要になってきます。ライターを探すにあたって自社に合うか(スキル面、知識面)とのマッチング、記事のいわゆるテイストが自社にあうかどうかも大事です。
数人依頼して継続は一人ということもありうるので、テストライティングを行い多めにライターの候補者を持っておくことも大切です。ライターが複数人いると制作工程に余裕を持つことができますし、同じテーマでもライターによって切り口や掘り下げるポイントに違いがあるので、コンテンツのマンネリ化を防ぐことができます。
ライター体制は、自社でライターを集めてマネジメントする方法と、クリエイティブ面をコンテンツ制作代行会社に任せる方法があります。採用する場合は求人サイトやクラウドソーシングプラットフォームを活用することが一般的です。
クラウドソーシングは無料で案件を公開したり、ライターにスカウトメールを送ったりすることができます。ライター、編集者、小規模の制作代行会社などが登録しているため、最初の体制のためのスタッフ探しには便利です。ただし、納品時点で約20%程度の手数料が毎回発生します。
例:ココナラ
(出典:ココナラ)
一方、定評があるコンテンツ制作代行会社に依頼すると、それなりの費用はかかるものの、最初からコンテンツの質は担保されていますし、作業的なことをすべておまかせできるメリットがあります。
良い内容のコンテンツを作成しても、見込み客が検索した際に表示されず見てもらえなければ意味がありません。基本的なSEOの理解は持っておきましょう。
ただし、あまり過度なSEO施策をすると面白くもなくユーザーの役にたたないコンテンツになり、読む側も面白くなく、有望な生成リードにつながらないといったことになりがちです。Googleも昨今はコンテンツの内容重視です。
基本を理解したら、あとはクオリティに力をいれましょう。
オウンドメディアを運営していく上で必要なKPIを設定します。
KPIは最初から難易度の高いリード獲得、ダウンロード数などをKPIにする必要はありません。流れとしては、投稿された記事が増えていく→トラフィックが増える→ダウンロードされていくという成長の仕方になるので、初期はまず、以下のようにオウンドメディアを継続して運用できるようなKPI がおすすめです。
立ち上げ期は、2つくらいが難易度的に適切でしょう。
そもそも初期に「リード獲得数」などの大きなKPIを設定しても、当面は達成できないでしょう。オウンドメディアがGoogleに認知されるにはある程度の記事の量と質が必要だからです。初期は、とにかくスムーズに質の良い記事を増やしていくことを意識しましょう。
KPIについては、以下のように1次~4次くらいまで構造化しておけば、簡易なKPIであっても成果に向けて進んでいることは間違いありません。メンバーのスキルに応じて易しいKPIから始めることをおすすめします。
オウンドメディアのKPIの構造化例
オウンドメディアは立ち上げてから運営が軌道にのるまでがひと山。まずはそこを超えたら、スケールするための施策を検討しましょう。
「土台はできたのでオウンドメディアのPV数やDL数を急成長させていこう! 」というフェーズで行う施策を紹介します。
スケールさせる段階では、これまで以上の工数が生じます。例えば更新頻度を2倍にすれば、従来の2倍に時間と工数が増えます。
これまで専任で一人でやっていたり、兼任でやっていたりすると厳しくなってくることがあります。その分人員を増やすか、外部ライターを増やすなど、組織を拡大させていくことを検討しましょう。
運用していく中で、どの記事がどのくらいの成果をあげているのかを明確にしていく必要があります。
記事の効果は、必ずしも記事のクオリティ感と比例するとは限りません。意外な記事がヒットし、力作の記事の反応が少ないケースもよくあります。
記事にもそれぞれいろいろな役割があり、関心をもってもらうきっかけとなる記事、知識を深堀りする記事、CVRにつながりやすい記事などが必要です。目安としてバズるのは1割ですが、他の記事も合わせて読まれていれば役立っているという理解で大丈夫です。
ただし、まったく読まれない記事が多いのなら、見込み客のペルソナを見直しましょう。
資料やノウハウを探すとき、人は最新情報を探します。2019年の記事よりは2023年の記事に期待するものです。
オウンドメディアのコンテンツは、資産として蓄積されます。しかし引用している統計、紹介している事例などが古いと、現在の環境に合わない可能性がありますので、定期的なアップデートが必要です。
ニュースや社会情勢、政治、法改正など情報の更新があった場合も、速やかにリライトしましょう。一部を変更し制作日と更新日を併記するだけで、一気に最新のお役立ち記事になります。
オウンドメディアは、企業にとってメリットの多い施策です。しかし成功例が多くなったがゆえに、簡単に結果が出るというイメージが先行し、失敗する企業も続出しています。
最も伝えたいのは、成果が出るまで時間がかかることです。SEOなどの技術的な面もあり、最低でも半年、一年、場合によっては3年かかります。そもそも、ある程度記事数のボリュームがないとメディアとして認識されません。粘り強く継続することが大切です。
参考までに、ちょっと古いデータですが株式会社ベーシックが2022年11月に行った調査によると、オウンドメディア運営担当者が成果を感じるまでにかかった時間の最多は「1年以上〜2年未満」で35.1%になっています。
(出典:株式会社ベーシック)
業界、ターゲットオーディエンスの大きさや競争状況によっても、リードの集まり方が変わるので、企業によってはもっと多くの時間がかかることがあるでしょう。
予算が先行して発生するので、最初の1年くらいで打ち切るケースが散見されますが、そのくらいの期間で打ち止めにするのは、ちょうど損益分岐点を超える手前のもったいないタイミングでもあります。2年見れるとよいのではないかと考えます。
2年計画を立てることで、コンテンツの品質向上やリード獲得のための努力を逐次実行し、着実な成果を上げるチャンスを増やすことが可能です。また、途中で戦略の調整や改善を行う余地もあります。
成功事例を研究し、適切な戦略を立てることが重要です。そして、忍耐強さとコミットメントを持って計画を実行することが、オウンドメディアの長期的な成功につながるでしょう。
特に初期は、数字の変化が見えづらいため、社内のメンバーからのオウンドメディア担当スタッフの見られ方に注意しましょう。
往々にして成果が出ない時期は、社内で必要性を疑う声がでたり、なんとなくシビアな目でみられたりします。担当者も数字で成果が出せない時期は、そのプレッシャーの中で迷いが出てしまうかもしれません。
メディア運営は華やかなイメージがありますが、実際の現場は苦行のような大変さがあります。株式会社SmartHRでオウンドメディアを急成長させた藤田隼さんのブログにも書かれていますが、階段上のメディアが成長するのではなく、ずっと低空飛行が続く死の谷と表現されている時期があります。
そのような中、周囲の理解が得られないとなるとモチベーションを保つのはなかなか大変です。人によっては挫折してしまいます。最初に変化が起きるまで時間がかかること、成果を出すために何をしているのかを、会社全体にしっかり発信していくことが大事です。
オウンドメディアは企業視点のコンテンツになってしまいがちです。私たちはこのような思いでこんなプロダクトを世に出している(ストーリーを語る)、こんな機能がある、今後の業界の展望を対談するなど、読み物としては面白いのですが、見込み客相手にコンテンツを作る場合は、それだけでは切り口が不足するかもしれません。
自分たちの業界であたりまえの基本的なことを、部外者がまったく知らないことは少なくありません。例えば、マーケティング領域にいるとリードジェネレーション、ナーチャリング、コンバージョンなどは基本用語に思えますが、一般にはあまり使われない言葉なので、この単語でキーワード検索する初心者は少ないでしょう。
比較的ジョブローテーションが多い日本企業では、その領域にまったく知見がない担当者、管理職が配属されて、一から仕事を学び始めることもよくあります。そのような人たちこそコンテンツをよく読み学ぼうとし、基本用語について「○○とは」と検索することからスタートします。そして、知識が増えるにつれ検索キーワードが変化するでしょう。
必ず見込み客のペルソナとカスタマージャーニーを作成して、彼らが何を知りたくてそのキーワードで検索をかけているのかを考えて、コンテンツを作りましょう。
Googleのガイドラインに違反すると、ペナルティをもらってしまうことがあります。ペナルティをもらってしまうと、メディア的に致命的な影響がでてしまうので、以下のようなブラックハットSEOには特に気を付けましょう。
Google は、以下の質問に対して「はい」の回答をした場合、コンテンツ作成を再評価する必要があると指摘しています。チェックシートとして活用しましょう。
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(出典:Google検索セントラル)
ここではオウンドメディアのお手本となる例を紹介します。
マーケティング担当者なら、何かを調べようと思ったときにHubSpotのブログに助けられたことは多いでしょう。
HubSpotはインバウンドマーケティングの提唱者だけあって、見込み客であるスモールビジネスの営業担当者、マーケティング担当者の悩みを解決するような、さまざまなコンテンツを惜しげもなく公開しています。
文章は平易でわかりやすく簡潔です。多くのオウンドメディアのように、訪問するとすぐポップアップでリード化 を促すようなこともありません。徹底した顧客目線で設計されています。
良いポイント
米国のトップマーケターNeil Patel(ニール・パテル)氏の、マーケティングのプロならではのブログです。複雑、曖昧で言葉の定義が何とおりもあり、理解するのが難しいデジタルマーケティングの世界を、明快に論理的にひもといてくれます。図解もうまく「なるほど、そういうことだったのか! 」と腑に落ちることが多いでしょう。
記事のテーマも幅広いので、初心者マーケターにもベテランにも役立ちます。
こちらは、日本語ページがないのでGoogleChrome でウェブページを翻訳して読んでください。
良いポイント
テーマが技術であれセールスであれ、その道のプロが作ったコンテンツは数あるオンライン上のコンテンツとは、専門知識の深さ、リアルな分析力、経験と知見をベースにした解決策の提示などのレベルが異なります。これは外部の書き手には難しいので、社内の書き手を想定しているときの理想モデルのひとつでしょう。
オウンドメディア運営は、もはや特別なことでも珍しいことでもなくなりました。多少なりともマーケティングに力を入れている企業にとって、むしろスタンダードな施策だと言えるかもしれません。
ここまで普及したのは、もちろん持つことのメリットが大きいためです。オウンドメディアは、ブランディング、リード生成、リクルーティングなど幅広い領域にポジティブな影響をもたらします。そして、長期で見れば有料メディアよりも費用対効果に優れています。
ただし、成果が出るまでには時間がかかることが欠点です。すぐにリードは増えません。先にお金が出ていくうえに、人材を育てる必要があります。単純に無計画にブログを書いていればよいというものではなく、基本的なSEO施策も必要です。おそらく最初は苦労ばかりだと感じるでしょう。オウンドメディア運営とは、典型的な「急ぎではないけれど重要な仕事」だと思います。しっかり覚悟して新規事業として少なくとも2年計画で取り組みましょう。