SMARTの法則とは、具体的で達成可能な目標を設定するためのフレームワークです。
目標を明確にし、効果的に達成するための手法として、ビジネスや自己成長の場面で幅広く活用されています。特に、組織の業績向上や個人のキャリアアップを目指す人にとって、限られた時間とリソースの中、合理的かつ戦略的な目標設定を行うための必須知識といえます。
しかし、「目標は立てたものの、途中で挫折してしまう」「目標が漠然としていて、どこから手をつければよいかわからない」といった課題を抱えている人は多いのではないでしょうか。目標が抽象的すぎたり、実現可能性を考慮していなかったりすると、行動に移しづらく、結果として達成できないまま終わってしまうケースが少なくありません。
本記事では、SMARTの法則の基本的な考え方や具体的な活用方法を解説し、実際に目標を設定するための手順や具体例を紹介します。
これにより、「具体的な行動につなげやすい目標を立てたい」「達成率を高めるための実践的な方法を知りたい」という方が、より効果的に目標を管理し、成果を最大化できるようになるでしょう。
SMARTの法則は、組織内で目標を立てる際に使う手法です。George T. Doran(ジョージ・T・ドラン)氏の1981年の論文「There's a S.M.A.R.T. way to write managements's goals and objectives」で発表されました。
SMARTの法則では、以下の5つの指標をもとに、個人やチームで達成すべき目標を設定します。
上記の構成要素は成功因子とも呼ばれており、この5つの項目に沿って目標を設定することで、事業成功の可能性が高まるといわれています。
SMARTの法則のメリットは、達成可能かつ具体性のあるゴールを設定できることです。ゴールに到達するための行動計画が立てやすくなり、従業員のパフォーマンスとモチベーション向上が期待できます。
ただし、あまりにも容易に達成できる目標を設定したのでは、望ましい効果は得にくいでしょう。適切な難易度を設定してこそ、従業員のエンゲージメントが高まり、事業の好成績につながりやすくなります。
目標設定をする際に基本となるのが、「As Is」と「To Be」の考え方です。
現状と理想を明らかにすることで、そのギャップを埋めるための具体的な施策を考えられるようになります。
(As Is とTo Beのテンプレート)
As IsとTo Beを明確にするために、上図のようなテンプレートを用いて必要事項を書き出してみましょう。
(テンプレートを使ったAs Is とTo Beの例)
上図は、あるBtoB企業の営業部を想定して設定したAs Is とTo Beの例です。To Beには、営業利益1億円やリピート率80%といった、具体的な数値を書き出しています。
As IsとTo Beを明確にすることで、理想の状態になっていない理由が見えてきます。それを整理して「課題」の欄に書き出し、解決するための具体的な施策を考えましょう。
As IsとTo Beが不明確なままでは、何をどう改善すればよいのかがわかりません。課題が見えなければ、具体的な施策を立てたとしても実現不可能なものになってしまいやすいため、注意が必要です。
代表的な目標設定の手法の土台に、実はSMARTの法則があります。
<代表的な目標設定の手法>
OKRは「Objectives and Key Results」の略で、米インテル社が発明し、GoogleやFacebookも導入している目標設定法です。「達成目標(Objectives)」を明確にし、それを実現するための「主要な成果(Key Results)」を設定します。
達成目標と主要な成果を決める際には、目標設定の手法であるSMARTの法則が欠かせません。
一方、KSFは「Key Factor for Success(重要成功要因)」の略で、事業を成功させるために重要となる要因を割り出す手法です。KSFを活用した施策を考える際には、SMARTの法則を使って実現可能な目標を設定することになります。
KGI・KPIを設定する際には、SMARTの法則を使って、定量的かつ達成可能な目標を考える必要があります。そうでなければ、現状を踏まえた現実的な値を設定できないためです。
このように、代表的な目標設定法を用いる場合も、土台としてSMARTの法則を活用します。すべての基本として、SMARTの法則を押さえておくべきなのです。
それでは、なぜSMARTの法則が重要なのでしょうか。以下では、その理由を詳しく解説します。
曖昧な目的を設定した場合、現場のメンバーは「何をすべきか」がわからず、場当たり的な対応をせざるを得なくなります。
たとえば、「売上げを伸ばす」「顧客満足度を向上させる」といった抽象的な目標では、具体的な行動につなげにくく、メンバーの認識もバラバラになりがちです。ある人は「新規顧客の開拓が最優先」と考え、別の人は「既存顧客のフォローが重要」と判断する、といったように方向性のズレが生じる可能性があります。
SMARTの法則を適用し、「2025年12月までに、新規リード獲得数を前年比20%増加させる」といった目標を立てれば、「いつまでに」「何を」「どの程度達成すべきか」が明確になり、行動指針として機能するわけです。
このように、「いつまでに、どのような方法で、何を達成するのか」を明確にすることで、チームメンバーの意識が統一され、個々の行動が目標達成に直結しやすくなります。
目標達成には、定期的な進捗確認が不可欠です。SMARTの法則では、目標の「測定可能性(Measurable)」が重視されるため、達成状況を数値や指標で可視化しやすくなります。
「月間ウェブサイト訪問者数を20%増やす」といった目標を設定すれば、Google Analyticsなどのデータを活用して、現状の進捗を数値で把握できるようになるでしょう。もし目標達成に遅れが生じた場合、その原因を特定し、柔軟に施策を調整することが可能です。
このような進捗管理の重要性は、企業のパフォーマンス管理でも強調されています。米国のリーダーシップ開発企業Zenger Folkmanの調査によると、明確な目標を持つ企業は、そうでない企業と比較して業績が20%向上することが明らかになっています
多くのビジネスパーソンが目標を立てても途中で挫折してしまう原因のひとつは、現実離れした目標設定にあります。「1カ月で売上げを50%増やす」といった目標は、達成が極めて難しく、結果としてモチベーションの維持ができないでしょう。
しかし、「SMARTの法則」にもとづけば、目標の「達成可能性(Achievable)」を考慮しながら現実的な範囲で設計できるため、挑戦できる目標を設定できます。「半年以内に売上を10%増加させる」といった具体的かつ実現可能な目標を掲げれば、小さな成功体験が積み重なり、モチベーションの維持にもつながるでしょう。
さらに、「期限(Time-bound)」の明確化により、目標達成に向けた行動を継続しやすくなるという心理的なメリットもあります。Journal of Applied Psychologyに掲載された研究では、期限付きの目標を設定した人は、そうでない人に比べて達成率が大幅に高かったと報告されています。
また、Harvard Business Reviewの調査によると、職場で明確な目標を持つ従業員の63%が仕事に積極的に取り組んでいるのに対し、明確な目標を持っていない従業員ではその割合が23%にとどまりました。
このように、達成可能で明確な目標を設定することは、単なるモチベーション維持だけでなく、仕事への意欲や生産性の向上にも直結するのです。
企業やプロジェクト単位でSMARTな目標を設定することで、チーム全体が同じ方向を向く上に、業務の優先順位が明確になり、成果を最大化できます。
営業部門が「年間契約件数を前年比15%増加させる」というSMARTな目標を掲げれば、各営業担当者は自分のKPIを明確にし、日々の行動を調整しやすくなります。一方、マーケティングチームが「ウェビナー経由のリード獲得数を四半期ごとに30%増やす」という目標を設定した場合、リードの質や量を向上させる施策に集中できるはずです。
さらに、部門ごとのSMARTな目標を全体戦略と連携させることで、事業成長が加速します。マーケティング部門が「ウェビナー経由のリード獲得数を四半期ごとに30%増やす」という目標を設定した結果、営業部門が受け取るリードの質と量が向上すれば、営業チームはより効率的に契約獲得へとつなげられるでしょう。
このようにSMARTの法則にもとづけば、各部門の目標が組織全体の戦略と一致しやすくなります。そして、限られたリソースを目標達成のために無駄なく活用でき、部署間の連携も強化されます。
SMARTの法則の5つの構成要素について、その意味と設定方法を具体的に解説します。
「S」は、目標を具体的に立てることを意味します。人によって解釈や評価が分かれてしまうような目標では、達成したかどうかの判断ができませんし、行動計画も立てにくくなってしまうでしょう。それを避ける必要があります。
以上のような目標は具体的ではありません。なぜなら、売上げや流入をどれくらい増やせばよいのか、SaaSサービスの新機能をいくつ実装すればよいのか、定量的な情報がないからです。
以上のように、具体的な数値とともに目標を設定しましょう。
「M」は目標を詳細に数値化し、測定可能なものにすることを意味します。具体的な行動につなげるために、理想に対して現状がどれだけ不足しているのかを明確にして、測定できる数値で目標を設定する必要があるのです。
このように数値化することで、以下のような具体的なアクションを計画できます。
どれだけの改善が必要なのかを定量的に把握することで、PDCAサイクルを効率良く回せるようになるでしょう。
「A」は達成可能な目標を立てることを意味します。非現実的な目標を設定すると、従業員のモチベーションやパフォーマンスが下がる原因になるため、注意が必要です。
たとえば、1年に1つずつ提供サービスを増やしてきたSaaS企業が、「毎月新サービスを開発する」と目標を決めたとします。しかし、人員も予算も従来のままなのであれば、目標を達成するのは難しいでしょう。無理に目標を達成しようとすれば、従業員に大きな負荷がかかり、サービスの品質が悪化する恐れがあります。
目標を設定した後には、それが達成可能かどうか、あらためて検証するようにしましょう。
「R」は目標の達成と得られる成果の関連を、明確にすることを意味します。
「目標の達成が事業の成功や個人の成長につながる」と社内で共有されることで、社員のモチベーション向上が期待できるでしょう。
<関連性のある成果の例>
「T」は目標をいつまでに達成するのか、期限を決めることを意味します。具体的なアクションを確実に実行していくためには、明確な期限を設けることが大切です。
<期限の例>
期限までに目標を達成できるように逆算して考えることで、いつまでに何をすべきか、無理のない計画を立てられるでしょう。
SMARTの法則は、ビジネスの目標設定だけでなく、個人のキャリア形成や生活習慣の改善など、さまざまなシーンで活用できます。
以下では、具体的な活用シーンを挙げながら、SMARTの法則がどのように役立つのかを詳しく解説します。
ビジネス成長には、従業員が個人として成果を上げるだけでなく、チームや組織全体として目標を達成することが不可欠です。
たとえば、BtoBマーケティングの領域では「リード獲得を増やす」といった曖昧な目標ではなく、以下のようにSMARTの法則を適用することで、より実現可能な目標にできます。
【マーケティング部門の目標】
営業部門でも同様に、SMARTな目標を設定することで、成果を最大化できます。
【営業チームの目標】
このように、職場での目標設定にSMARTの法則を活用すれば、KPIに直結する成果を生み出しやすくなります。
ビジネスパーソンにとって、自己成長やキャリアアップを実現するための目標設定は重要です。しかし、「なんとなく学習を続ける」だけで、成長の実感が得られず、途中で挫折した経験のある方は多いのではないでしょうか。
そこで有効なのが、「SMARTの法則」を活用した目標設定です。米国心理学会によると、SMARTの法則にもとづき目標を設定した人は、そうでない人に比べて、目標を達成する確率が42%高いとのことです。
具体例を見てみましょう。
【英語学習の目標】
【リーダーシップスキルの向上】
目標が具体的であるほど、達成に向けた行動がとりやすくなり、モチベーションの維持にもつながります。ビジネスパーソンは忙しい日々を過ごしており、限られた時間を有効活用し、自己成長を実現するためにもSMARTの法則を用いるとよいでしょう。
多忙なビジネスパーソンは、健康管理や生活習慣の改善が後回しになりがちです。しかし、睡眠不足が続くと判断力が鈍り、運動不足は慢性的な疲労につながります。バランスの取れた食事を摂らなければ、エネルギーレベルが低下し、仕事中の集中力も低下するでしょう。
そこで、SMARTの法則を活用して、無理なく生活習慣を改善する方法を考えてみましょう。
【運動習慣の目標】
【睡眠習慣の改善】
具体的で達成可能な目標を設定することで、忙しい中でも健康管理を継続しやすくなります。
経営層やマネージャーにとって、チームの生産性を向上させることは重要な課題です。
プロジェクトの進捗管理や業務の最適化を図るためには、目標を明確にし、具体的な行動指針を定めることが欠かせません。SMARTの法則を活用した目標設定の例を見てみましょう。
【プロジェクト管理の目標】
【チームの生産性向上】
SMARTの法則を活用することで、部門・チームの目標が明確になり、各メンバーの役割や業務の優先順位が整理されます。 結果的に無駄な作業が減り、業務の効率化が進むだけでなく、チームの一体感も向上するでしょう。
SMARTの法則を最大限に活用するためには、単に各要素を満たす目標を立てるだけでなく、具体的なプロセスに沿って目標を設定し、実行、評価、改善を行うことが重要です。以下では、SMARTの法則にもとづいた目標設定の手順を詳しく解説します。
まずは「何を達成したいのか?」を明確にしましょう。
ポイントは、曖昧な表現を避け、具体的な成果や行動を含めることです。目標が抽象的だと、メンバー間で認識のズレが生じたり、達成に向けた行動が不明確になったりするため、可能な限り具体的に設定する必要があります。
たとえば、「営業成績を向上させる」という目標では、何をどう改善すればよいのかわからず、行動につなげにくくなります。
× 悪い例:「営業成績を向上させる」
○ 良い例:「半年以内に新規顧客の契約件数を前年比15%増加させる」
また、「なぜこの目標を達成する必要があるのか?」を考えることも大切です。限りあるリソースを有効活用するためにも、目標に優先順位をつけ、重要性の高いものから取り組むべきです。
目標が測定可能でなければ、進捗の確認や改善が難しくなり、達成できたかどうかの判断も曖昧になります。具体的な数値やKPIを設定し、目標達成の進捗を管理できるようにしましょう。
【例:営業目標の測定可能な設定】
× 悪い例:「新規顧客を増やす」 → どのくらい増やせば達成なのかが不明確
○ 良い例:「半年以内に新規契約件数を前年比15%増加させる」 → 明確な数値目標がある
【例:業務改善目標の測定可能な設定】
× 悪い例:「業務の効率を上げる」 → どの業務をどの程度効率化するのかが分からない
○ 良い例:「3カ月以内に定型業務の自動化を進め、月間の作業時間を20%削減する」 → 具体的な成果指標がある
また、目標の進捗を確認するために、週次や月次などでKPIを評価する仕組みづくりが重要です。
目標を設定する際には、現実的に達成可能な範囲で設定することが重要です。
あまりにも高すぎる目標を掲げると、途中で挫折しやすくなり、チームのモチベーション低下にもつながります。一方で、簡単すぎる目標では成長の機会を逃してしまうため、挑戦しがいがありながらも実現可能なバランスを見極めることが大切です。
では、どのようにすれば達成可能な目標を設定できるのでしょうか。
ポイントは、過去の実績や市場環境を考慮することです。前年の売上成長率やマーケティングKPIなどのデータをもとに、実現可能な目標を設定することで、現実とかけ離れた目標設定を避けられます。
また、業界全体の成長率や競合他社の動向と比較することも重要です。自社が属する市場が年間5%の成長率で推移している場合、前年比40%の成長を目標とするのは非現実的でしょう。
さらに、自社のリソースを十分に考慮することも大切です。
たとえば、「リード獲得率を前年比40%伸ばす」という目標は、広告予算を十分に投下すれば達成できるかもしれません。しかし、予算が限られている場合、達成は困難になります。
同様に、人員が不足している、必要なスキルが社内にない、時間的な余裕がないといった要因を無視して高すぎる目標を設定すると、業務負担が増大し、かえってパフォーマンスが低下するリスクがあります。そのため、現在のリソースで達成可能な範囲かどうかを慎重に見極めることが重要です。
このように、過去の実績、市場環境、自社のリソースを総合的に判断しながら、実現可能な目標を設定することで、目標達成に向けた確実な道筋を描くことができます。
目標を設定する際、それが自分の将来や企業方針とどのように結びついているのかを確認することが重要です。わかりやすくいえば、SMARTの法則にもとづく短期目標はKPIであり、将来のビジョンや企業の長期的な方向性はKGIにあたります。
短期目標が大きな目標と関連していなければ、取り組む意義を感じにくくなるでしょう。「何のために頑張っているのかわからない」 という状況に陥り、モチベーションの低下につながります。そのため、目の前の目標が最終的なゴールにどのように貢献するのかを明確にすることが大切です。
具体例を見てみましょう。
自社が「市場シェアを拡大する」という方針を掲げている場合、営業・マーケティングチームの目標は「新規顧客数の増加」「市場認知度向上」など、最終的なゴールにつながる指標を設定する必要があります。
関連性の高い目標を設定するためには、大きな目標から逆算するのが有効です。「なぜこの目標を達成する必要があるのか?」「本当にこの目標達成が必要なのか?」という視点で考えることで、長期成長につながる目標設定を行えます。
「思考は現実化する」で知られるNapoleon Hill(ナポレオン・ヒル)博士は、「目標は、期限を設定した夢である」と述べました。
「いつか成功したい」「いつかキャリアアップしたい」といった願望は、具体的な期限がないため行動に移せず、ただの夢で終わってしまいます。しかし、明確な期限を設定することで、目標達成へのプレッシャーが生まれ、行動を起こす動機が高まるのです。
これは「パーキンソンの法則」にも通じます。仕事は与えられた時間をすべて満たすまで膨張する、というこの法則は、期限がない仕事ほど無駄な時間を使いやすくなることを示しています。逆に、期限を設定すれば、必要な時間内で効率的に作業を進めようとする意識が働くのです。
目標の期限を決める際には、現状のリソースやスケジュールを考慮し、無理のない範囲で設定しましょう。
短すぎる期限では現実的に達成が難しく、ストレスの原因になります。一方で、長すぎると緊張感が薄れ、行動を後回しにしてしまうリスクが高まります。そのため、適切な期間を見極めたうえで、具体的な計画を立てる必要があります。
SMARTの原則に沿って目標を設定しただけでは、達成に向けた道筋が明確になっているとはいえません。目標を実現するためには、具体的なアクションプラン(行動計画)を作成し、一つひとつのステップを実行していくことが重要です。
このステップで有効なツールが、KPIツリーや大谷翔平選手が使用したことで有名なマンダラチャートです。どちらのツールも、大きな目標を細かく分解し、実行可能なタスクに落とし込むという共通点があります。
たとえば、マーケティング部が「1年でリード獲得数を2倍に伸ばす」という目標を立てたとします。
この目標を達成するためには、SEO、広告、ウェビナーなどのさまざまな施策が考えられます。しかし、リソースや期限を踏まえると、SEOと広告は短期間では成果が出にくいため、より即効性のあるウェビナー施策に注力することが現実的な選択肢となります。
この場合、ウェビナーを活用した具体的な行動計画として、まず開催数を月3回から5回に増やすことを検討できます。その上で、参加率を向上させるために録画動画の配信や参加特典の提供といった施策を組み込むことで、リード獲得の最大化を図れるでしょう。
目標を立てるだけでなく、それをどのように実現するのかを具体的なアクションレベルに落とし込むことで、明確な指針を持って行動に移せるようになります。
行動計画を策定する際には、「どの施策が最も効果的か」「リソースと期限のバランスは適切か」「進捗をどのように管理するか」を意識しながら、実行可能な戦略を立案しなければいけません。
設定した計画を実行したら、定期的に進捗を確認し、必要に応じて調整しましょう。計画通りに進まないことは多々あり、状況によっては当初の目標やアプローチを見直す必要が出てきます。
たとえば、営業部門が「3カ月以内に新規契約件数を前年比15%増加させる」という目標を設定した場合、毎週の進捗確認を行い、新規顧客のアプローチ数・商談数・契約数をチェックすれば、目標達成に向けた行動が適切かどうかを評価できます。
アプローチ数が不足している場合、営業活動の時間を増やしたり、ターゲットリストを見直したりする必要があるかもしれません。商談数は増えているものの契約につながらない場合は、提案内容や価格設定を再検討します。また、競合に負けるケースが多い場合は、競合分析を強化し、自社の強みをより明確に伝える戦略が有効です。
進捗を確認し、改善を進めるためには、定期的に振り返る機会を作ることが重要です。週次や月次のミーティングで進捗状況をチェックし、課題を共有することで、迅速な対応が可能になります。
また、「順調」「問題あり」といった曖昧な評価ではなく、具体的な数値で進捗を測定することで、より正確な判断を行えます。さらに、設定した目標や戦略が現状に合わなくなった場合は、早めに見直しを行う柔軟な姿勢も必要です。
SMARTの法則は、さまざまな部署で活用することが可能です。
これらの部署でどのように利用できるのか、具体的な例を紹介します。
マーケティングの場合、SMARTの法則を使って以下のような目標を設定できます。
(Marketing Cloud Account Engagement)
売上げアップに向けた中間目標として、リード創出の数をKPIとして設定するとよいでしょう。リードを成約につなげるためには、SalesforceのMarketing Cloud Account EngagementのようなSaaSのマーケティングオートメーション(MA)ツールを使って、管理するのがおすすめです。
MAツール上のレポートと、SMARTの法則で設定した定量的な目標と照らし合わせれば、目標達成までの進捗度合いを把握しやすくなります。
BtoB企業の営業担当者の場合、SMARTの法則を使って、以下のような個人目標を設定できます。
(Digima)
営業に関する目標は、DigimaのようなSaaSの営業支援システムを使って管理するとよいでしょう。営業チーム内の他メンバーの営業状況を共有できるようになり、連携を取りやすくなります。
BtoBサブスクリプションサービスの営業担当は、既存の買い手によるリピート売上げと新規の買い手の売上げを個人の目標として設定している場合が多いでしょう。SMARTの法則を使って「リピート」と「新規」の売上げのそれぞれについて目標を数値化することで、より具体的な施策を考えられます。
SaaS企業のカスタマーサクセスの場合、SMARTの法則を使って以下のような目標を設定できます。
(Backlog)
たとえばBacklogのようなSaaSの工数管理ツールでは、買い手にツール導入が成果につながったことを実感してもらい、継続利用につなげることが重要です。そのためカスタマーサクセスでは、買い手とのコミュニケーションを密にして、困りごとをすぐに解消するなど、解約防止のための施策を取る必要があります。
継続率を上げるには、買い手の満足度を向上させることはもちろん、早いタイミングで契約継続の決定を促すことも有効です。
BtoB企業のカスタマーサポートの場合、SMARTの法則を使って以下のような目標を設定できます。
(Concur)
たとえばConcurのように機能が多いSaaS製品は、買い手からの問い合わせ内容が多岐にわたり、問題解決に時間がかかることが多いです。
問題解決までの時間が長いと買い手の満足度が低下し、解約される危険性が高まります。カスタマーサポートでの問題解決の時間を短縮するために、SMARTの法則を使って定量的に目標を設定しましょう。
また、カスタマーサクセスやカスタマーサポートの場合、買い手の満足度の向上が目標として設定される場合が少なくありません。ただし、「満足度の向上」という漠然とした目標を立ててしまうと、何をすればよいのかが不明確なままになります。SMARTの法則を活用して、定量的な目標を立てることで、具体的な行動を起こせるようになるでしょう。
ビジネス環境の変化が激しく、従来の計画通りに進めることが難しくなっている現代においては、SMARTの法則にいくつかの課題があると考えられています。以下では、SMARTの法則の課題とそれを解消するポイントについて解説します。
SMARTの法則は、具体的で測定可能な目標を設定する性質上、環境の変化に柔軟に対応しにくい という課題があります。
デジタルマーケティングの例を挙げると、競合の動向や検索エンジンのアルゴリズム変更、消費者行動の変化などの不確定要素が多く存在します。そのため、事前に設定した目標に固執すると、変化に適応できず、成果につながらないかもしれません。
この課題の解決策としては、目標を適宜見直し、アジャイル型アプローチの導入が挙げられます。たとえば、Googleは「OKR(Objectives and Key Results)」 という手法を採用し、短期間で目標を修正しながら柔軟に対応しています。
SMARTの法則では、「Achievable(達成可能)」を強調するため、安全な目標を設定しがちです。しかし、企業の成長やイノベーションを促進するためには、あえて挑戦的な目標(ストレッチゴール)を設定し、チームのポテンシャルを最大限に引き出すことも重要です。
Googleの場合、目標を70%達成できれば成功といえる目標を設定しているとのこと。100%を達成できる目標は設定レベルが低く、メンバーのポテンシャルが十分に発揮されていません。もし自身の能力を低く見積もる傾向にある場合は、上司やマネージャーなどの管理職と共に目標を定めるとよいでしょう。
SMARTの目標設定は、「達成すべきゴール」を明確にするのに有効なフレームワークですが、その一方でプロセス(成長・学習・試行錯誤)に対する視点が弱いという課題があります。
目標が「達成」されるかどうかに焦点が置かれるため、その過程で得られる学びやスキルの向上といった成長要素が軽視されがちであり、そもそも目標設定に満足して行動に移さないというケースもあるかもしれません。
この課題を補うためには、成長や学習の視点を組み込んだ目標設定を行うことが重要です。
「半年以内に新規契約件数を前年比15%増加させる」という目標に加えて、「その過程でクロージングスキルを向上させる」「商談の成功率を過去のデータと比較し、改善点を明確にする」といったスキルの向上や試行錯誤のプロセスを組み込むことで、短期的な目標達成に終わらず、長期的な成長につなげることができます。
また、目標を振り返る際に、「なぜ成功したのか」「なぜうまくいかなかったのか」「どのスキルが伸びたのか」という点を分析し、今後の学習や改善につなげる仕組みを作ることも重要です。定期的に「学びの振り返り」を行い、「次回の目標設定にどう活かすか」を考える時間を設けることで、SMARTの目標が単なる数値目標ではなく、成長につながるものへと進化します。
SMARTの法則を利用して、定量的かつ達成可能な目標を設定することで、事業の成功につなげられます。
上記の5つの構成要素に沿って目標を設定し、達成するための具体的な施策を考えましょう。
OKRやKSFといった他の目標設定法を用いる場合も、その土台にはSMARTの法則があります。SMARTの法則を用いることで、さまざまな目標設定をスムーズに行うことが可能になるでしょう。
目標を数値化しやすい営業やマーケティングはもちろんのこと、カスタマーサクセスやカスタマーサポートでもSMARTの法則が応用できます。すぐに実践でき、チームだけでなく個人目標の設定にも使える法則なので、ぜひ活用してみてください。