Googleドキュメント、Microsoft 365、Zoom……今や仕事で数多くの人がSaaSを使っています。しかし、BtoB SaaSと聞いてすぐ意味がわかる人はどのくらいいるでしょうか?
SaaSは、そのまま製品名で呼ばれるか「クラウド」「アプリ」と表現されることが多いため、言葉の認知度はそこまでは高くないのが実態です。そのため、どのようなビジネスモデルなのか一部の人には知られていません。
加えて、SaaS業界はカタカナ用語や英語の専門用語が多いため、メディアの記事を読んでも難しい印象を持たれがちです。しかし、実際SaaSは特別難しいビジネスモデルではありません。使われている英文字も、かんたんな英単語の組み合わせがほとんどです。
ただし、SaaSは部分的にこれまでのビジネスモデルとはかなり違う点もあり、SaaSならではの重要指標やSaaS独特の用語があるのも事実です。
そこで本記事では、初めてBtoB SaaS事業に関わる人に知っておいてほしいSaaSの基本知識を解説します。
SaaS(サース)とは、Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)の略であり、インターネットを経由して活用できるソフトウェアサービス(クラウドサービス)のことを指します。
ユーザーは、以下の図のようにベンダー(サービス提供企業)が開発したソフトウェアを、インターネットを介して利用できます。前述のように、現在SaaSはかなり普及しているので、多くの企業で人事・経理・調達・営業支援・マーケティング・カスタマーサービス・交通費精算システムなどの幅広い領域でSaaSが使われています。
(画像出典:総務省)
SaaSのメリットは、ソフトウェアをパッケージで購入したり、一から開発しなくても活用できることです。
初期コストが不要、すぐ活用できて価格も一般に低価格、解約も容易です。サーバー管理やセキュリティ対策をベンダー側が行うため、社内にサーバー管理者がいなくても問題ありません。ITリテラシーが高くない中小企業でも手軽に導入できます。そのため、オンプレミス(自社開発のシステム)ではなく、SaaSに切り替える企業は年々増加しています。
なお、SaaSの定義については、「クラウドサービス全体をSaaSと呼ぶ場合」と「クラウドで提供するソフトウェアサービス」に限定する場合があります。たとえば、総務省の通信白書では以下のように分類して統計を出しています。SaaSの統計数字を見る際は、その調査でのSaaSの定義を確認しましょう。
(参照:総務省)
SaaSが生まれた背景には、インターネットの登場と高速化、技術革新があります。
ソフトウェア市場は、下図のように汎用コンピュータ→パソコンへのダウンサイジング→クラウドコンピューティングと進化してきました。
(出典:経済産業省)
1990年代のインターネットの登場により、インターネットを介してソフトウェアを利用できるASPサービスが登場しました。機能・用途は現状のSaaSと同じです。しかし、インターネットも今ほど高速でなく、ユーザーのコンピュータにソフトウェアをインストールする必要があるなど活用するハードルは高く、広く普及するまでには至りませんでした。いわゆるオンプレミスの時代です。
2000年半ば、高速化したインターネット回線が普及したタイミングで登場したのが、クラウドコンピューティング(Software As a Service)です。いわばASPサービスの進化版ですが、ここでSaaSという言葉が登場し各ベンダーが活用するようになりました。
ユーザーは、高速なインターネットを経由してストレスなくソフトウェアを活用できるようになったため、SaaSは急速に普及しました。さらに、近年はAI、機械学習などの技術が登場し、SaaSの機能はより高度になり、SaaSから徐々にPaaS(Platform as as service)といわれるプラットフォーマーに進化をし始める企業も生まれています。
SaaSは、世界的にも日本国内でも急成長が予測されている業界です。総務省の令和2年版情報通信白書によると、SaaSの世界的な市場規模は2022年には1082億ドル(クラウドサービス全体をSaaSと定義する場合3954億ドル)に達すると予測されています。なお、こちらはCOVID-19勃発以前の予測値です。
(参照:総務省)
2020年の米国の統計では、世界のSaaS市場は年平均成長率18%で推移し、2023年までに6,230億ドルに達すると予想されています。SaaSについての統計は数多くありそれぞれの予測値は異なりますが、いずれも成長を予測している点は同じです。
もちろん、日本国内でもSaaS市場は拡大しています。株式会社MM総研の2020年5月時点での予測では、国内BtoBのクラウド市場は、2024年に5兆円を超えるとされています。
また、同調査では従業員規模に関わらず7割以上の企業が「新規システム構築に何らかの形でクラウドを利用する」と回答しています。
(参照:「国内クラウドサービス需要動向調査」ー株式会社MM総研)
株式会社富士キメラ総研の「ソフトウェアビジネス新市場 2020年版」では、「2022年度にはSaaS市場がパッケージ市場を上回ると予測されており、日本でも急速にSaaSの浸透が進んでいることがうかがえます。
皆さんの日常の業務において新しいソフトウェアが徐々に増えていると感じることはないでしょうか。それらの大半はSaaSと呼ばれるソフトウェアであることがほとんどで、これらの市場が伸びていることがわかるかと思います。
BtoC SaaSとは、Facebook、Amazonなどに代表される消費者にソフトウェアをクラウドで提供しているサービスのことです。BtoC SaaSは個人がお客様なので、購入の理由に嗜好、感情が重要な影響を与えます(FacebookやAmazonにはBtoBサービスも存在します)。
同じSaaSでも、BtoBのお客様は企業であるため、論理的で専門的なアプローチが必要です。稟議やそれに準ずるプロセスがあるため、関係者が多く購入決定までのセールス・プロセスは長く複雑です。また、BtoB SaaSの場合は、長期的な取引になることが多く、信頼関係はより重要となるでしょう。
SaaSとしての共通点はもちろんありますが、BtoBとBtoC 、マーケティングオートメーションの観点で見ると以下の違いがあります。
たとえば、以下の米Bridg社の図をみると、B2B SaaS の大きな目標のひとつはリードジェネレーション。マーケティングオートメーションはマーケティングプロセスを自動化し、見込み客とのやり取りを管理します。また、適格な見込み客を増やしリードの質を向上させ顧客獲得につなげるために活用されます。おもに使われる機能は、CRM統合・メールマーケティング・リードスコアリングです。
一方、B2C SaaSではブランディングが大きな目標となっています。そのため、おもにメール+ソーシャルマーケティング、ロイヤリティの醸成するためのレピュテーション・マ ネジメントに活用されます。
(画像出典:Kraftblick)
上記の例でいうと、Salesforceに買収されたExactTargetは、BtoC寄りの製品として存在し、BtoB寄りの製品としてPardotが存在するように、同じマーケティングオートメーションという分類の製品によっても立ち位置が全く異なります。
日系企業のマーケティングオートメーションでいえば、B-DashはBtoCに寄っており、SatoriはBtoBに寄っているなどの違いがあります(※2021年5月現在)。
ここまで業界の概要を説明してきましたが、わかりづらいと思うので実例をもとに説明します。SaaS事業を展開する企業には2000年前後に創業し、時代の波にのって急成長した企業が目立ちます。BtoBやSaaSに限ったことではないのですが、事業モデルにはVertical(バーティカル)とHorizontal(ホリゾンタル)が存在しています。Vertical(バーティカル)の意味は少々分かりずらいため、本章ではHorizontal(ホリゾンタル)に絞って代表的になBtoB SaaaSをご紹介していきます。
まずは、「SaaSの王者」と呼ばれるセールスフォースから。
(画像出典:Salesforce.com)
1999年の創業からわずか20年で従業員5万人、売上高約212億ドル(日本円で2兆円以上)までに成長しフォーチュン500社入りを果たした「SaaSの王者」と呼ばれるのがSalesforceです。
とくにCRM領域に強く、世界No.1のシェアを誇ります。営業部門の顧客情報や案件情報、営業マンの活動などを効率化し生産性を高めるプラットフォームは、先進国の大手企業から強く支持されています。
SalesforceはM&A戦略にも非常にたけており、有力なベンチャーを積極的に買収しシステムを革新し続けています。2021年には277億ドル(約2兆8900億円)でSlackを買収して話題になりました。
事業の領域:CRM(顧客管理システム)、カスタマーサービス、マーケティングオートメーション、アナリティクス、プラットフォームほか
対象となる部門:営業、カスタマーサービス、マーケティング、アナリティクス、IT部門
メインターゲットの企業サイズ:エンタープライズ。近年はSMB市場も強化
(画像出典:HubSpot)
HubSpotは2006年に設立し2014年にIPOと、急成長したSaaSスタートアップ企業です。インバウンドマーケティングの提唱者としても知られています。2020年は、米国企業レビューサイト「Glassdoor」で働きたい会社のNo1に選ばれるなど、従業員側から支持されている企業でもあります。
事業の領域:マーケティング、営業、カスタマーサービス、ウェブサイト管理のプラットフォームを提供
対象となる部門:マーケティング、営業、カスタマーサービス
メインターゲットの企業サイズ:SMB市場がメインですが、昨今は完全無料のCRMを提供したり、Marketing Hub EnterpriseとSales Hub Enterpriseの機能を大幅に拡張するなどエンタープライズ市場にも注力。
(画像出典:Adobe)
Adobeは、もともと 「Photoshop」や「Illustrator」などのパッケージソフトを提供していたIT企業ですが、2012年よりSaaSモデルに転換を進めることで大きく成長しました。
事業の領域:デジタルメディア事業、デジタルエクスペリエンス事業、出版事業。
対象となる部門:マーケティング部門、クリエイティブ部門
メインターゲットの企業サイズ:大企業~個人事業主まで
(画像出典:Microsoft)
MicrosoftのSaaSの種類は多様です。Word、Excel、PowerPointなどをクラウドで提供する「Microsoft 365」。CRM・ERPの統合ソリューションの「Microsoft Dynamics 365」。プログラミング言語、ツール、フレームワークが利用できる「Microsoft Azure」を提供しています。
Microsoftは、クラウド事業が中核となりつつあり、2020年3Qの決算でもクラウド部門がグループ全体を牽引しています。
事業の領域:ソフトウェア、クラウドサービス、デバイスの営業・マーケティングなど
対象となる部門:営業、マーケティング、カスタマーサービス、フィールドサービス、管理、経営ほか
メインターゲットの企業サイズ:大企業~中小企業まで
(画像出典:Zendesk)
Zendeskは2007年に設立、2014年にIPOを果たしたSaaS企業です。カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を重視したオムニチャネルのカスタマーサービスプラットフォームを提供し、世界の幅広い規模の企業から支持されています。近年はセールス領域にも力を入れています。
事業の領域:カスタマーサービス領域、顧客管理領域
対象となる部門:カスタマーサクセス、カスタマーサポート部門、営業部門
メインターゲットの企業サイズ:大手グローバル企業~スタートアップからレガシーな中小企業まで
(画像出典:カオナビ)
カオナビは2008年に創業、2012年にSaaS事業をスタート、2019年にマザーズ上場したベンチャー企業です。人事部門の経験、勘で行われていた人材の配置・活用に、顔写真を切り口とした人事管理システム「カオナビ」を提供することで、幅広い規模の企業から支持を受け急成長しました。
売上高:26億2500万円(2020年3月期)
事業の領域:人事領域
対象となる部門:人事部門
メインターゲットの企業サイズ:大手企業~中小企業まで
(画像出典:SmartHR)
SmartHRは、2013年に設立したSaaSユニコーンを目指すスタートアップです。「2週間かかっていた入社手続きを1日に」「1.5間かかっていた雇用契約締結が10日に短縮」など劇的な業務効率化につながるシステムが多くの企業に高く評価されており、サービス利用継続率99%を誇ります。
提供企業:株式会社SmartHR
事業の領域:人事労務にともなう煩雑な労務手続き「入退社の書類作成」「社会保険・労働保険の各種手続き」などを効率化するクラウドソフトを提供
対象となる部門:人事労務部門
メインターゲットの企業サイズ:従業員2人~数万名規模の企業まで対象
次にBtoB SaaSビジネスの特徴を解説します。
SaaSの特徴は、売り切り型のビジネスモデルではなく、サブスクリプションといわれる積立式収益構造のビジネスモデルであることです。年契約の月払いが基本で、それゆえ(月間)価格が低いため新規顧客獲得は比較的容易ですが、これまでのオンプレミスのように何百万円単位の金額が一度に売り上げられるわけではありません。
1アカウントあたり月額10,000円程度のサービスを継続して多くのユーザーに使ってもらい続けることで収益を生み出す構造です。
ただし、ユーザー課金や従量課金など料金制度には異なる特徴を持っていることがあります。加えて、一般的なSaaSは価格帯が複数、大体は3つ持っていることがセオリーとされており、HubSpotなどだとStarter、Professional、Enterpriseなどの3料金形態、製品によっては従量課金とユーザー課金などのさまざまな分岐が存在します。
契約期間は最低1年間で、途中解約などを行うことができないと言うのが基本原則。それゆえ、契約数が増えるごとに毎月収益が積み上がっていく構造になっており、積立式収益構造などと表現されています。
使う側にとって初期コストがかからず解約も容易な使い勝手のよいサービスですが、裏を返せば、SaaSベンダーにとっては「新規開拓は比較的容易だがすぐ顧客に去られるリスクがある」ということでもあります。
また、SaaS企業の初期は赤字であることが大半で、積立を重ね中長期的に黒字化を目指すモデルでもあるため、SaaSにおいては一般ビジネスより顧客維持がかなり重要になります。可能な限りチャーンレート(解約率)を下げて、積立の規模を大きくしビジネスを拡大させることがSaaSビジネス成功のキーポイントになります。
米国の2019年の統計では、SaaSビジネスの年間収益の解約率の中央値は13.2%です。また、2017年の小規模ビジネスをターゲットにしているSaaS企業は解約率を毎月3%から4%の間に設定することを目指すべきという調査結果が出ています。
(参照:finances online)
前述したように、顧客維持が非常に重要となるため、BtoB SaaSは売り切り型のビジネスモデルをフレームワーク化した(旧式の)デマンドウォーターフォール型ではなく、ビジネスモデルが循環型のフライホイール(whywheeel)型のような循環型の組織構造が望ましいといえます。
マーケティング、営業、サービス(サービスとサクセス)モデルが必要で、エンジニアとバックオフィスも、顧客を中心に連携していく必要があります。
環境が変わり、見込み客の購買行動が変化した以上、組織構造も新しい環境に合わせて編成することが望ましいでしょう。
フライホイールの考え方は、獲得した新規顧客に紹介やリピート購入を行なってもらうことでさらに売上が上がっていく循環を作り出すこと。既存顧客の継続利用や、口コミによる新たな顧客の獲得のためには、カスタマーサポートに力を入れる必要があります。
たとえば、顧客がサービスを継続するかどうかを決める導入後6ヵ月目や、更新のタイミングなどにアプローチを行う「能動的な支援」の視点が大切になります。解約する顧客のヒアリングを行って原因をつきとめ、解約率を下げる施策を各部門が連携してとれる組織構造が求められます。
(参照元:フライホイール)
これまで説明してきたように、BtoB SaaSは今までの事業とは異なるビジネスモデルです。そこに気づかずSaaSビジネスに携わると力の入れどころを間違い、成果につながらないことがあります。ここでは、BtoB SaaSビジネスを行う上での注意点を解説します。
SaaSビジネスでは顧客が継続してサービスを利用してくれるかどうかが生命線です。どのような事業でも顧客とのリレーションシップは重要ですが、SaaSビジネスではよりリレーショナルになる必要があります。
いわゆるリレーションシップマーケティングに積極的に取り組む必要があります。SaaSビジネスは、新規のユーザー獲得からツール利用までが循環する構造であり、既存ユーザーなどのコミュニティ運営などを通し、リファラル効果を得やすいビジネスモデルなのです。
BtoB SaaSビジネスの場合は「既存顧客との信頼性強化=新規顧客の増加」という図式が成り立つことを重々意識しましょう。単価の低いサブスクリプションモデルにおいては継続と紹介を力強く循環させることが必須。営業、カスタマーサポート部門の品質を向上させるだけでなく、以下のようなリレーショナルな施策が必要です。
できる限りリファラル(口コミ)で新規リードが発生し、新たな顧客の紹介が増え続けるサイクルを自然形成することが必要です。
(画像出典:BUSINESS 2 COMMUNITY)
BtoB SaaSのマーケティングは、オンラインマーケティングの比重が高くなります。オンラインマーケティングは、リアルな営業活動とは異なり相手の顔が見えません。そのため、徹底的に数値で見込み客の動向を把握する必要があります。
オンライン上では広告であれ、ウェビナーであれ、オウンドメディアであれ告知したい対象をあいまいにすると、見込み客以外の人にも訴求してしまいます。
事前にペルソナを設定し、チャネルを選択し、目標数字を逆算してKPIを設定しましょう。施策を進めながらPDCAを回し、より精度の高い手法を追及し続けていくことが必須であり、実はかなりシビアな計算が必要な世界です。
たとえば、単に展示会を増やしたり、オウンドメディアを始めればすぐ売上になるということでは決してありません。どんぶり勘定で運用していても成果にはなかなかつながりません。地道な数値管理が必要です。
SaaSは契約が確定した段階では利益が出ず、損益分岐点が12ヶ月以上先になることも珍しくないビジネスモデルなため、「ユニットエコノミクス」という経営指標を見る必要があります。
マーケティング部門が徹底して見続けなければならない指標の全体像は、以下の図のように多岐にわたります。
循環型の組織では、セクショナリズムが命取りになります。部門間で単独行動をすると、循環型組織が崩壊してしまい成果が上がらなくなるからです。
企業における部門間の協力はかんたんではありません。多くの企業が製造と営業、管理部門と現場、本店と支店などが連携するどころか、ときに対立する課題を抱えているでしょう。
ベンチャー企業であれば組織体制を変革することができても歴史ある企業はそうそう大鉈は振るえません。そこで必要になるのが「SLA(サービスレベルアグリーメント)」です。
社内の部門同志であっても、外部の企業と同じように目指対象に設定するサービスレベルの契約です。「目標」「行うべき取り組み」「成果指標」などについて合意し期待値を設定して仕事をすることで、協力関係が築きやすくなります。
以下はHubSpot社が無償で提供している営業部門とマーケティング部門向けのSLAのフォームです。
(画像引用:Free Tempate - SLA Tempate for Sales & Marketing - HubSpot)
たとえば、営業部門とマーケティング部門で以下の項目を取り決めます。
一般に見込み客という言葉ひとつとっても、きちんと定義しないと各個人がさまざまに解釈するものです。SLAを交わすことで誤解が減り、お互いの役割分担が理解できるため無用な摩擦も減り、部門間の連携がスムーズになります。
ここでは、BtoB SaaSでよく用いられる基本的な用語を解説します。
Leads(リード)とは、製品・サービスに関心を示し「個人情報」を提供してくれた見込み客のことです。Webから資料をダウンロードをする際に個人情報を登録したり、メールマガジンに登録したり、展示会のブースに名刺をおいていったなどががリードに該当します。
また、MQL(Marketing Qualified Lead)などのさらに一段深い興味を示してくれた見込み客を表現する用語も存在します。
Conversion(コンバージョン)とは、サイトを訪問したユーザーが、商品を購入したり、資料請求を行ったりなど何かしらのアクションを起こすことです。何をもってコンバージョンと見なすかは、以下のように目的によって設定してかまいません。
コンバージョンの設定例
CVR(コンバージョン率)とは、Webサイト訪問者からコンバージョンにつながった率です。Conversion Rateの略語であり、「コンバージョンレート」と読む場合もあります。CVRは、コンバージョン数をサイト訪問者総数で割って算出します。
CVRは、業界によって平均値が異なります。米国の調査ですが、CVRを「企業のウェブサイトを訪れた人のうちマーケティングに適したリードとなった人の割合」と定義した場合、業界別のデータは以下の通りで、B2B SaaSのCVRは1.1%となっています。
(参照:firstpagesage)
MRRとは、月間経常収益のことです。「Monthly(月の)」「 Recurring (繰り返し発生する)」「Revenue(収益)」の英単語の頭文字を組み合わせた略語です。SaaS月額の利用料の合計を顧客数で割って算出します。
ARR(年間経常収益)とは、Annual Recurring Revenueの略で、一年間で得られる売上のことを指します。SaaSの年間プラン利用料合計を顧客数で割って算出します。
一般ビジネス同様、SaaSにおいても月次利益、年間利益は重要指標ですが、SaaSは解約が容易であるため、新規契約ARR(MRR)と解約ARR(MRR)を加減することで得られる収益を把握します。
チャーンレートとは契約を解約したユーザーの割合、つまり解約率です。
サービスの加入も解約も容易なSaaSビジネスでは重要な指標です。いくら新規顧客が増えても短期で解約する顧客が多ければ利益は積みあがらないからです。SaaSビジネスでは可能な限りチャーンレートを下げる努力が必要です。
Web広告を出す際、クリック1回につき発生する単価のことです。Cost Per Clickコストパークリックの略語です。
コストパークリックが低いほど、広告費に対してクリック数が多かったということなので、広告の費用対効果は高くなります。
CPAと(Cost Per Acquisition)とCAC(Customer Acquisition Cost)は、いずれも1社あたりの顧客獲得単価です。※Acquisition=獲得という意味です。たとえば、広告の費用対効果を出す際は以下の計算式でCPA(CAC)を算出します。
顧客でなく「見込み客(リード)」を獲得するコストを出す際も使用します。その場合、以下の式で計算します。
近年は、SaaSへの投資が活発です。海外にも著名なVCはありますが、ここでは日本の事業者に対して主に投資を行っているVCを紹介します。
(画像出典:DNX Ventures)
東京、シリコンバレーを拠点にアーリーステージのBtoB企業に投資しているベンチャーキャピタル。富士通、キヤノン、日立をはじめ日本の大手企業も多数出資しています。
主な投資領域:クラウドSaaS、フィンテック、サイバーセキュリティー、リテールテック、フロンティアテック等の領域
実績:日米100社以上のスタートアップ企業へ投資。13社のエグジット(2020年9月時点)
フォローすべき中の人:Twitterでフォローすべきは、米Salesforce Ventures(セールスフォースベンチャーズ)、StriveなどでもSaaSを中心に10社以上のB2Bスタートアップへの出資経験がある湊 雅之(@Masayuki Minato)氏。Twitterでは、海外SaaSについて最新の情報をアップデートされています。
$1B以上の海外バーティカルSaaS企業数(上場/未上場)は64社。産業別にみると、金融、小売、ヘルスケア、不動産で全体の70%。規制業種多い。
— Masayuki Minato | 湊 雅之 (@Masayuki_Minato) May 11, 2021
【産業別SaaS unicorn数】
1.金融 13社
2.小売/EC 12社
2. ヘルスケア 12社
4.不動産 7社
5.ホスピタリティ 5社
6.教育 3社
7.物流 2社
7.製造 2社
その他 4社
米セールスフォース・ベンチャーズ、STRIVEにて、SaaSを中心に10社以上のB2Bスタートアップへの出資、並びに成長支援を担当。VCキャリアの前は、米戦略コンサルティングファームBCGにて、ヘルスケア、自動車、ケミカル、産業材のB2B領域を中心に中期戦略立案。
(画像出典:Coral Capital)
2020年3月の設立ながら、1年で運用ファンド総額は120億円を超え、投資先企業数は58社、投資先企業の資金調達累計総額は340億円に達した、成長中のベンチャーキャピタルです。
投資先とスタートアップをつなぐミュニティやイベントも運営しています。
主な投資領域:シリーズA以前の企業なら、エンジェル、プレシード、シード、ポストシードなどステージを問わず3000万円〜1億円まで投資
実績:株式会社SmartHR、株式会社カケハシ、株式会社カミナシ、株式会社Zehitomoほか
フォローすべき中の人:
・Coral Capitalの創業パートナー澤山 陽平さん(@yohei_sawayama)
Coralのミッションは、
— 澤山 陽平🐠Coral Capital (@yohei_sawayama) February 19, 2021
We Help Extraordinary People Build A Better Future
この「Better」が重要で、僕らは起業家が未来を作るのを加速するけど、単なる未来ではなく、「より良い未来」を作るのをサポートしたい。だから誠実でない人や、人を幸せにしない事業には投資しないと決めている。
・Coral Capital 創業パートナーCEO James Riney(@james_riney)。2016年Forbes Asia 30 Under 30 の「ファイナンス & ベンチャーキャピタル」部門に選出されたベンチャーキャピタリスト。Twitterでは、起業や調達の相談を受け付けておられます。
スタートアップの世界では、「進捗の幻想」を意識すべきだと思う。イベントで登壇したり、ツィッターでバズったり、メディアに出たりすると「進捗してる」と感じてしまいますが、バランスを取らないと本質的な進捗をせずに幻想になってしまいます。
— James Riney🐠Coral Capital (@james_riney) May 17, 2021
(画像出典:ALL STAR SAAS FUND)
シンガポールを拠点とするBEENEXT Capital Management Pte. Ltd.の前田ヒロ氏が中心となり、日本、アメリカ、インド、東南アジアのSaaSスタートアップに投資するベンチャーキャピタルです。
「起業家とともに、100年続くSaaS企業をつくる」をミッションに、資金提供だけでなく、採用、組織の立ち上げなど人を中心とした支援にも力を入れています。戸栗も2020年よりマーケティングメンターとして参画しています。
主な投資対象:シードからグロースまでSaaSベンチャー。ARRゼロ~ARR100億円以上のSaaS企業まで
実績:株式会社SmartHR、株式会社POL、株式会社リフカム、株式会社Refcome、株式会社カミナシ、株式会社HRBRAINほか
フォローすべき中の人の紹介:
「ALL STAR SAAS FUND」マネージングパートナー前田ヒロさん(@djtokyo)。2016年『Forbes Asia』が選ぶ「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門に選出された1人。投資実績:SmartHR、Kurashiru、ANDPAD、HRBrain、PoL、Karakuri、Fril、Qiita、Fond、WHILL、Giftee、Viibar、Locari、Voyagin、Instacart、Slack、Everlane、Thredup、Lob他多数
ALL STARは一流のチーム戦にこだわりを持ってます。
— 前田ヒロ ⭐ALL STAR SAAS FUND ⭐ (@djtokyo) May 14, 2021
投資、採用、イネーブルメント、PRが一丸となって支援先のサポートを展開しています。PDCA回すのめっちゃ早いです!
リスペクト出来る仲間と総力戦でスタートアップに貢献したい方からのご応募お待ちしております!https://t.co/ZvmvSkh7kz
SaaS業界は世界的な成長市場です。また、国内外に日本のSaaS企業に投資したいと考えるベンチャーキャピタル、投資家が存在します。起業、事業拡大が大変なことはもちろんですが、近年は日本でも起業家を支援するエコシステムが急速に整ってきているため、一昔前よりはるかにチャンスで満ち溢れている時代だといえるでしょう。
BtoB SaaS事業にチャレンジしたい方は、自身で努力するだけでなく、各ベンチャーキャピタルが運営するイベント、コミュニティ、勉強会などにも参加しSaaSビジネスを学び、人脈を構築していくとよいでしょう。