多くの企業で営業部門とマーケティング部門は決してコミュニケーションが良好とは言えません。
何もこの2つの部門にかぎらず営業部門と技術部門、開発部門と製造部門などの対立もよく聞く話です。協力しあって同じ目的に進むべき社内のメンバーが、ときに競合企業よりも激しくお互いをライバル視することすらあります。
なぜ、そんなことが起きるのでしょうか? セクショナリズムは日本だけでなく世界各国で組織の規模が大きくなるにつれ起きやすい現象なので、いわば人間の本能に根差した行動かもしれません。また、縦割り組織の弊害ともいわれています。
もっとも希少ではあっても両部門が非常に上手く連携している企業も存在するのは事実。対策は組織改革、クロスコミュニケーションなどいくつかあります。
この課題を解決する考えとして、社内で「SLA(サービスレベルアグリーメント:Service Level Agreement)」を作成すると、上記のような部門間での争いを減らす効果があると言われています 。
今回はSLAの概要と営業部門とマーケティング部門でSLAを作成するメリット、手順をご紹介します。
SLA(サービスレベルアグリーメント:サービスレベル合意書)とは、もともとビジネスの発注者と受注者が契約する際に「サービスの品質に対する利用者側の要求水準と提供者側の運営ルールについて明文化する」ための資料です。
一般のビジネスでも発注書、契約書などを交わしていると思います。たとえばIT業界のように仕事の成果の定義がわかりにくいサービスでは、「顧客が何を受け取るかを正確に定義する」ために、契約書とは別にSLAを取り交わします。
一般的なSLAは以下の3種類です。検索すると、目的別にさまざまなフォーマットの無料テンプレート(英語版)やサンプルを見つけることができます。
顧客SLAとは、企業と顧客の2社の間で、ベンダーが提供するレベルのサービスを合意するための契約です。クライアントが期待するサービスを定義し、ベンダーが提供するサービスについて詳しく表記するため、後々の誤解やトラブルを回避するのに役立ちます。また、法的な問題が発生した場合の有効な証拠として使用できます。
以下は、ステータスを月ごとに報告できるシンプルなタイプのSLAのテンプレートです。
(参照:SampleForms)
内部サービスレベル契約は、顧客ではなく社内の部門を対象に設定するサービスレベルの契約です。
以下はHubSpot社が無償で提供している、営業部門とマーケティング部門が連携する際のSLAのフォームです。2部門がそれぞれ「目標」「時期ごとの取り組み」「コミュニケーションに使うチャネル」などについて合意の上、期待値を設定できるわかりやすいフォーマットです。
(画像引用:Free Tempate - SLA Tempate for Sales & Marketing - HubSpot)
マルチレベルSLAは、関係者が3社(3部門)以上になる際に活用するサービスレベル同意書です。以下は、複数のベンダーでサービスをサポートしている場合のビジネスの可用性の定義と、複数ベンダー間で責任の共有について「SLAを組み立てる方法」の例です。
(画像引用:Microsoft)
社内でマルチレベル SLAを作成するケースでは、一顧客に対して、営業部門とマーケティング部門とインサイドセールス部門、あるいはカスタマーサポート部門などが連携してサービスを提供する場合が挙げられます。
営業プロセスに携わるすべての部門でSLAを交わして連携することは、顧客満足度を高め、マーケティング部門が関わる商品企画、ブランディング施策にも良い影響を与えることが期待できるでしょう。
経済産業省はSaaS業界向けに「SaaS向けSLAガイドライン」を出しています。
これはSaaSが投資力が低い中小企業でも、大手企業並みの IT 環境を整備できるサービスである一方、重要なデータをベンダーに預けるサービスでもあるため、「利用者とサービス提供者間が事前に合意すべき事項や望ましいサービスレベルに関する指針」を示したものです。
SLAは、社外だけでなく社内の部署間でも設定することができます。もちろん、単純な部署間連携には必要ありませんが、営業部門とマーケティング部門のように売上げを上げるという目的は同じながら、アプローチ手法が異なる部署は必要になるケースもあるでしょう。
このように行き違いが起きやすい部署同士が連携するときに、SLAは非常に良い効果を生みます。
HubSpotの「2015 State of Inbound Marketing Report」によると、マーケティング部門と営業部門でSLAを設定している企業には以下の効果が出ています。
(参照:imagine)
また、HubSpot社は2019年にSLA導入効果のレポートを発表。営業部門とマーケティング部門の両方が具体的な数値目標に基づいて、お互いにサポートし合うためにSLAを導入した結果、65%の企業がインバウンドマーケティングの取り組みより高い投資収益率を得ていることを報告しています。
(参照:The Ultimate Guide to Service-Level Agreements (SLAs)-HubSpot)
取引先と仕事の成果を確認せず、言葉の解釈がお互い違っているとトラブルが起きやすいのはご存じの通りですが、これは社内も同じです。金銭的なトラブルにこそならないものの無益な争いが生じ、時間と労力、精神的エネルギーを消費することになります。
他部署の状況、仕事の内容、必要な知識やスキルなどは同じフロアにいてもさほどわからないもの。複数部署で行うプロジェクトの場合、ある種「別の会社と仕事をする」くらいのフラットな意識で合意書(SLA)を交わして取り組んだほうが、よほどお互いに理解しあえて仕事がスムーズに運ぶでしょう。
SLAの文脈がマーケティングや営業部門のみに使われるものと思われている方もいるのですが、本来はサービスを提供する側とされる側との間で取り交わされるものなのです。
もちろん、営業部門はマーケティング部門の「お客様」ではありません。マーケティング部門も、営業部門の「上司」では決してありません。あくまでSLAの考えを「メソッド」として活用するという意味合いです。
たとえば、営業部門とマーケティング部門の間でSLAを作成する場合、以下のような項目を取り決めます(詳細は後述します)。
SLAを作成することで使用する言葉の定義、共通の目的、役割分担などを明確に言語化できるため、お互いの意思疎通がスムーズになり、チームワークもよくなります。目標達成への道筋もはっきりするでしょう。
本記事の読者はマーケティング業務に関わっている方が大変多いため、一例を出すと、マーケティングの方は「営業チームからリードの質が低い」といったことを言われることがあるかと思います。このような場合は、概してマーケティング責任者と営業責任者との間にSLAの定義がありません。
たとえば、見込み客の定義が以下のように定まっていたとします。
この条件(は、ただの例ですが)を満たしている人たちを見込み客とした部門間同士のSLAで決定した場合、「質が低い」と言ってくることは明らかにお門違いになります。
これらの重要な見込み客のデータの定義を頻度高くいじってしまうことは、マーケティング施策の振り返りを阻害することになるため、SLAを決めたら一定期間はどのようなことがあっても固定することが大切です。
では、なぜマーケティング・営業間でSLAが大事なのか、その理由をさらに深堀りしてみましょう。ポイントとして、次の4点が挙げられます。
SLAは、マーケティングチームと営業チームが共通の目標を追求していくうえで重要です。共通の目標とは、広義ではKGI(例:事業収益、事業成長)、狭義ではKPI(例:リードや、アポイントの獲得数)です。SLAは、各チームに期待される役割を明確に定義し、互いに責任を持たせることで、両チームの連携を強化します。
たとえば、マーケティングチームがKPIで「リード数」を追いかけているとしましょう。しかしその中で、自らのミッションを達成すべく「数」だけを闇雲に追求し、営業チームにパスするリードの「質(例:製品・サービスの導入検討度合いなど)」に無頓着である場合、営業チームはパスされたリードをスムーズに商談・成約に結びつけることが難しくなるかもしれません。
よって、マーケティングチームと営業チームの両方が、最終的な共通のKGI(=ビジネス全体のゴール)を見据えながら動くことが重要です。そしてKGI達成の手前の段階として、各部署がKPIを達成するためには、共通の目標を念頭に置きつつ、日々アクションを積み重ねていくことも不可欠だといえます。
前章で述べたように、SLAは営業・マーケティング両チームがお互いを理解しながら仕事を進めるうえで重要な役割を果たします。両チームがSLAを理解したうえで、各々の仕事を進めることで、最終的には収益の成長が期待できるでしょう。
SLAは、マーケティングと営業間での定義の誤解・衝突を防ぐために重要な役割を果たします。
SLAによって、リードの定義(詳しくは後述)が明らかになります。また、両チームの取り組みに対して、定量的に追跡できる目標を設定するため、目指すべきアウトプットの基準も明文化されるでしょう。そして、各チームの責任範囲が明確になります。
たとえば、マーケティングチームから営業チームへどのようなステータス(検討度合い)のリードを提供すべきか、営業チームのほうが追求すべきはどのようなステータスのリードか、といった項目が具体的に決まり、双方の期待値を精緻にすり合わせできるようになります。
その結果として、効果的なリード管理や、無駄のない営業活動が可能になり、ビジネスの成功を支える基盤となるでしょう。
SLA(サービスレベルアグリーメント)は、マーケティングチームと営業チームが連動した施策を生み出すためにも重要です。
SLAを設定することで、マーケティングチームは、営業チーム側が求めているリードの質や量を明確に把握し、それに基づいて集客や新規獲得キャンペーン、コンテンツの内容を調整できるでしょう。
たとえば、マーケティングが特定のリードスコア(リードの行動を数値化し、有望見込み客を抽出すること)を満たす見込み客を生成し、それを迅速に営業に引き渡すことで、両チームの仕事の連動を促します。そうすることで、見込み客に対する適切なフォローアップ(たとえば、今まさに製品・サービスに興味がわいて情報を求めている人に対して、より興味を高める情報提供をできるなど)が可能になるでしょう。
その結果、リードの質の向上や、成約率の増加が期待できます。
SLA(サービスレベルアグリーメント)は、マーケティングと営業チームが互いにKPIを共有し、フィードバックをし合える体制を築くために重要です。
SLAのもとで各チームの目標が明確化されれば、未達の場合には具体的な指摘も可能になります。
たとえば、「マーケティング部門が獲得すべきリード数が足りない」といった未達ポイントが明らかになったとします。その後、マーケティング部門はリード獲得数をより最大化するための施策を実行すべきと、明瞭に判断できるでしょう。ビジネス全体の目標達成に向けて最優先で取り組むべきタスクを可視化できるようになるため、ビジネスの成果改善を後押しします。
継続的なフィードバックのサイクルを組織全体で構築できれば、生産性の向上と成果の最大化が期待できます。
SLA には必ず含めるべき構成要素があります。一般にIT業界では以下の6項目です。
(経済産業省「SaaS向けSLAガイドライン」をもとに作成)
社内SLAの場合は、同じ要素ながら表現は異なります。マーケティング部門と営業部門でSLAを作成する場合は、以下の項目を必ず含めましょう。
まず、2部門が連携して行う業務の概要を決めます。仕事の全体的な範囲、その中での営業部門、マーケティング部門それぞれの担当範囲及び責任範囲。認められるべき成果(どの成果がどの部署に紐づけられるか、あるいは共通の成果になるのかなど)、期間、参加メンバーなどを決めます。
なお、いきなり文書に概要を書き始めようとするのではなく、各部門のマネージャーが集まってまずは会議の場を持ち、要件定義をするとよいでしょう。
「会社全体の中で、マーケティング部門が担う役割とは?」「営業部門の役割とは?」といった議論から始めて、「定義した役割に基づいて、各部門が担当すべき範囲は?」「求められる成果は?」「その成果は、どちらの部門に紐づく? それとも、会社全体の成果として捉えるべき?」など議論をブレイクダウンしていきましょう。
お互いの目標を決めます。営業部門の目標は売上げです。マーケティング部門の目標も基本的に売上高であることが望ましいのですが、マーケティング部門は直接クロージングする立場ではないので、売上げへの貢献比率、質の高い案件創出数などを設定してもよいでしょう。要は同じ目線になれる目標が必要です。
目標を設定する際は、計測可能な指標を使用することが重要です。後から客観的に追跡・可視化できるため、成果の評価が容易になります。
また、「最低目標(例:「マーケティングチームが1カ月に最低50件はリード生成をする」など)」と「最適目標(ベストエフォート。(例:「営業チームは1カ月にできれば30件成約獲得できれば望ましい」など)を明確に設定することで、達成度の範囲を把握しやすくなります。
ただし、最終的に合意するサービスレベルは、現実的で定量化可能なものでなければなりません。「非現実的な目標」「定量化できない目標」を盛り込んでも、実際にまったく達成できなければ、SLAとして意味をなしません。よって、現実的で定量化可能な目標を定めることで、両チームが同じ目線で成果を追求できるようになります。
目標を達成するためにお互いが情報提供をしあう内容を決めます。
例1:営業部門が必要とする情報
見込み客引渡し時の顧客のスコア、詳細履歴情報、BANT条件、etc
例2:マーケティング部門が必要とする情報例
日々の仕事に活かせる営業部門からのフィードバック(パイプラインごとのリアルタイムな数値)、見込み客引渡し後の結果報告、etc。
目標を達成するためには、お互いのパフォーマンスを「可視化できる体制」を構築し、常に把握しておくことが重要です。両部門の活動がブラックボックス化することなく、どんな施策をどれだけ進めているのかを明確に理解できます。
たとえば、ExcelやGoogleスプレッドシートといったデータベースなどを活用するシンプルな手法でもよいので、相互監視の仕組みを作りましょう。重要なポイントは、互いのパフォーマンスを測定可能にし、正確に評価することです。
多くのメンバーで進める業務の場合、「どのセクションの誰が何を担当しているのか」が明確にわかるようにします。業務プロセスごとに担当者がわかる表や図を作成するとよいでしょう。
各担当者の目標達成状況を、「誰に聞けばいいか」整理しておくことが目的です。
定期的に成果報告を行う担当者がいる場合、その報告を基に次のアクションを起こす営業チームメンバーは誰か? といったポイントも考慮します。これは、スムーズに次のアクションに移れて、ビジネスの成果に効率よくつなげられるようにするためです。
たとえば「マーケティングチーム側から、確度の高いと思われるリードを営業にパスした。その後、商談に行くのは営業チームのうち誰か?」といったフローを明確に決めておきましょう。
このように、SLAにおける関係者一人ひとりの役割と関与の方法を明確にすることも、SLAの内容をチームメンバー全員に「自分ごと化」してもらううえで大切だといえます。
当初に立てた目標が達成できない場合の対応を決めておきます。対外ビジネスなら金銭面で決着をつけるわけですが、社内プロジェクトの場合は原因の把握→改善策立案→改善のプロセスとPDCAを回していきます。
「あらかじめ立てていた目標が達成されなかった」というのは、あくまでこれまでの取り組みの結果に過ぎません。その結果自体を両チームで互いに責め立てるなど、責任を追求して長時間の議論を展開することは、将来に向けて建設的とはいえません。
それよりも、「目標を達成できなかった要因は?」「では今後、どんなアクションを実行すれば目標を達成できるのか?」と思索を前へ進めることに時間を使うべきです。
そこで、指針とすべきがSLAです。SLAは両チームがビジネスの最終目標に互いにしっかりとコミットし、成果に向かって確実に行動を積み重ねていくための「足掛かり」として活用しましょう。
100%成功するプロジェクトはありません。また、正しい施策を実行しても稀に外部環境が激変する場合もあります。そのような場合は、勇気をもって現在のSLAを廃棄する決断をできるように、キャンセルの条件を先に決めておくことも大事です。
多くの企業で施策途中に失敗だとわかっても「予算が降りてしまった」「決まったことだからやめることができない」という理由だけで、無益な施策を続ける場合があります。変化しやすい市場に向き合っている営業部門とマーケティング部門のSLAに柔軟性を持たせることは重要です。
また、少なくとも年に1回はSLAを確認し、必要に応じて改訂する視点を持っておくことも重要です。
テクノロジーの進化が速く、外部環境が短期間で変化してしまう可能性もあるためです。たとえば、何かAI技術を使ったサービスを自社が提供していて、1年間に技術革新があって普及したら、市場の反応は1年前とは変わってしまうかもしれません。そうなると、マーケティングや営業のやり方も変えなければならないかもしれないし、目標値も変わってくるでしょう。
よって、SLAとは頻繁に見直しを実施し、古くなって意味をなさなくなる、形骸化してしまうのを防ぐ視点も持つ必要があります。
ここではSLAの設定手順を解説します。前提として、SLA作成プロセスの初回ミーティングには、部門長が参加することが必須です。基本は全員参加が望ましいといえるでしょう。
営業活動を前工程と後工程に分業するわけなので、部門長は全体の流れを理解しておく必要がありますし、各メンバーの役割分担も明確にする必要があるからです。その上で以下の項目を決めていきます。
見込み客のペルソナ(理想的なクライアントのプロフィール)とカスタマージャーニーを設定します。SLAを交わす上で、営業部門とマーケティング部門が自分たちが惹きつけようとしている対象は誰なのかについて共通認識を持ちましょう。
見込み客の定義は、ざっくりと分けると以下の分類になります。
リード(Lead)とは、通常はWeb問い合わせ、展示会、ウェビナーなどを経由して、基本情報が得られた段階の見込み客を指します。
日本語では「見込み客」とひと言で表現される場面が多いですが、見込み客のステージを細かく分けることで、その関心度合いや購買意欲の程度をより正確に把握することが可能です。
単に「リード」と言う場合には、多くはまだ購買意欲が低く、連絡先のみが入手できた段階の潜在顧客を指すことが多いといえます。特にオンラインで収集されるリードは量が多いものの、見込み度合はそれほど高くない場合が一般的です。
MQL(Marketing Qualified Lead)は、マーケティング施策を通じて獲得に成功した、購買意欲が比較的高いと判断できる見込み客を指します。
具体的には、Webサイト、SNS、ブログ、ネット広告などのチャネルを経由して収集したリードの中から、製品やサービスに強い関心を示す行動をとった見込み客がMQLとされます。たとえば、メールの開封率が高かったり、無料ウェビナーに参加したりするリードに対して、無料デモや期間限定キャンペーンなどの情報を提供し、さらなる関心を引き出します。
多くの企業では、有望な見込み客を絞り込むための基準として、資料請求や問い合わせなどの具体的な行動をとったリードをMQLと定義し、営業活動につなげています。
SAL(Sales Accepted Lead)は、日本語で「営業が承認した(受け入れた)見込み客」を意味します。
これは、マーケティング部門の施策によって創出された見込み客(MQL)の中から、営業部門が「実際に営業活動を行う価値がある」と判断した見込み客です。
よって、マーケティング部門はSALを増やすことを目的に、日々の活動を進める必要があります。成約につながる可能性を高めるために、SALの定義や選定基準を明確にし、営業部門と緊密に連携することが重要です。
SQL(Sales Qualified Lead)は、営業部門で「商談・クロージングを行う価値がある」と認定された見込み客を指します。
つまり、
が含まれ、インサイドセールスやフィールドセールスがリードの検討度合いを確認し、商談のステージに進める準備ができていると判断できたリードを指します。
この判断は、リードが自社製品・サービスに適した課題を抱えているかどうかを、直接の会話や、メール・電話などのやり取りで確かめることで行います。
たとえば、photoshopやIllustratorといったクリエイティブツールで知られるAbobe社では、SQLの基準として、
を挙げています。
SGL(Sales Generated Lead)とは、営業担当者が自ら創出した見込み客です。「引き合い」と呼ばれることもあります。
具体的には、テレアポや飛び込み訪問、業界の交流会やセミナーでの名刺交換、ゴルフコンペなどの社交活動を通じて、営業担当者が自ら関係を築き、獲得した顧客がSGLに該当します。
マーケティング活動を通じて見込み客を獲得する手法が主流になった近年でも、SGLを通じて売上げを上げる営業担当者も多く、その手法でトップセールスとなるケースもあります。
たとえばSalesforceのブログでは、「リード獲得の手法」をテーマにした記事内で第一の項目として「人からの紹介」を挙げています。
製品・サービスを既に利用して満足してくれている既存顧客が、「◯◯さんも、御社製品に興味がありそうでしたよ」などと、興味のありそうな別の人物を営業担当者に紹介してくれる場面を想像してみましょう。既に満足している人のクチコミ(他者推奨)から、新たなリードを獲得できるケースもあり得るのです。
このように、直接的な人間関係を基盤とした営業スタイルは今でも重要な役割を果たしており、SGLの獲得に大きな影響を与えているといえます。
上記の見込み客をセールスファネル(顧客の購買プロセス)に照らし合わせると、以下の図のようになります。
(ファネルの段階と対応する見込み客層)
このTOFU(興味・関心がある層)、MOFU(比較検討)、BOFU(購買段階)に相当するざっくりとした見込み客の詳細を定義しなければなりません。ここは、営業担当者ごとに感覚がかなり違うことが多く、時間をかけるところです。
ヒアリングのみに頼ると、営業担当者によって「見込みの精度が高いニーズが明確にある企業だけを渡してください」という場合もあれば「浅い見込みでもアポをとって引き渡してもらえればこっちでヒアリングからしますよ」と180度違う意見が出ることもあるため、必ず営業部門内でも見解を統一してもらうことがポイントです。
しっかり協議した上で平均的なスキルの営業担当者がアプローチできる段階の見込み客をイメージしてSQLを定義すると、後々の行き違いを減らすことができるでしょう。
見込み客の定義が終わったら、営業部門に引き渡すべきSQLの目標件数を設定。営業部門が売上げを達成するためにはSQLが何件あるべきかを判断します。さらに営業メンバーの人数、時間的余裕、営業力(実績)なども考慮して、受けられる上限もマーケティング部門に伝えます。
例):
マーケティング部門は定量的なSQLが決まれば、毎月営業部門に引き渡すべきSQL数→ファネルの各段階における目標人数→獲得すべきリード数(見込み客情報)→必要な施策と逆算して、計画を立てることができるでしょう。
ハンドオフとは、どの段階でマーケティング部門から営業部門へ見込み客を引き渡すか決めること。早すぎるとニーズが顕在化していない段階の見込み客が混在してしまい、営業効率が悪くなる可能性があります。逆にあまりマーケティング部門にとどめすぎることも、機会損失につながる可能性があるでしょう。
これも、営業部門の人数と営業担当者のスキルにより異なるため、見込み客の定義を決める段階で必ず具体的に決めて合意します。
各見込み客の対応を「工程ごとに、どの部門の誰が、どのように対応するか」を決めます。
例):
見込み客獲得、案件化、実際の商談の成果を振り返るために定期的なミーティングを持ちます。各部門のメンバーにKPIを設定し互いの状況を共有します。進捗確認のミーティングは月1回ペースで開催するとよいでしょう。それとは別に、SLA全体についての振り返りのミーティングを半年に1回程度のタイミングで設けましょう。
MQLからSQLに移行するまでには一定の期間が必要です。案件化したと判断して引き渡した見込み客(SQL)が、順調に商談が進んで成約となるまでにも期間が必要です。中長期的な視点でお互いが担当しているプロセスの進捗状況を共有し、振り返り、目標達成のため改善点を見つけていきましょう。
ここからは、SLAを作成したその後、どのように行動すれば適切な運用につながるのか(本当に、マーケティングと営業が緊密に連携してビジネスの成果を出せるようになるのか)、4つのポイントを紹介します。
SLAを適切に運用するためには、現実的な目標を設定し、その達成に向けて行動を継続することが重要です。高い水準の目標を掲げるのは一見、魅力的に思えます。しかし、現実的でない目標を設定すると、結果が伴わず、SLAが機能しなくなるリスクを伴います。
そのため、本記事の前半でも少し触れたように、SLAを作成する際には関係者を巻き込んだミーティング(アイデア・意見出し)の場を設けるとよいでしょう。
両チームが目指すべきゴールを描き、なおかつ、「かならず提供を約束できる範囲」を明確に定義することがポイントです。関係者全員が現実的な目標に同意し、「実際の業務を通して、実現可能だ」という見通しを立てられたら、SLAの円滑な運用に向けて確実な一歩を踏み出すことができるでしょう。
SLAを効果的に運用するためには、マーケティングチームと営業チームのすべてのメンバーが、その内容を十分に理解しておくことが重要です。このとき、「単に記載内容を理解しておく」のではなく「相手方のチームに求めるアウトプットが明確に、過不足なく記載されている」と満足できることがポイントです。
SLAの内容に関して関係者が納得していないと、後々トラブルの種になり、SLAを一から作り直さなければならない状況になるリスクもあります。(例:営業が「マーケティングには月最低50件リード生成してほしいのに、SLAに書かれている目標値が本来の期待とまったくズレている」と感じるなど)
そのため、SLAの草案を作成する段階で、すべての関係者からフィードバックを集め、潜在的な問題を事前に把握することが大切です。全員が納得できる内容に仕上げることが、SLAの効果を高め、長期的な運用の安定につながります。
SLA(サービスレベルアグリーメント)を運用するためには、目標と実績を明確に把握できるレポートを設定することが重要です。
まず、主要な指標を特定することが必要です。マーケティングや営業のSLAでは、生成されたリード数や成立した取引など、関連する測定基準を指標として設定します。具体的な指標を設定することで、成果を客観的に監視し、評価することが可能です。具体性が欠けると、目標達成度の判断が曖昧になり、効果的な評価が困難になります。
また、進捗状況を可視化するためには、スプレッドシートやデータベースなどのツールを利用するのが効果的です。関係者がいつでもリアルタイムで進捗状況を確認でき、問題が発生した際にも迅速に対応できるようになるでしょう。目標の明確化と進捗の可視化は、SLAの成功に向けて不可欠な要素です。
SLAは、マーケティングチームと営業チームのように、異なる部門間で緊密に連携しながら業務を進めるうえでの約束を明文化したものです。そのため、両部門の戦略(目指すゴール)と施策(具体的なアクション)が一致していることが重要です。戦略や施策がずれていると、SLAは適切に機能しなくなります。
たとえば、営業部門が「中小企業にターゲットを集中する戦略」を採用している場合、この戦略とマーケティング施策が一致するようにSLAの内容設定しておく必要があります。
マーケティング部門では、「中小企業をターゲットにして、検討度合いの高いリードをできるだけ数多く獲得できるコンテンツ戦略、広告戦略など」を実施する必要があるでしょう。また、営業部門からマーケティング部門へのフィードバックを迅速に行う仕組みを整え、「中小企業のうち、どのポジションの人物をターゲットにしてリードを獲得すべきか」など、具体的なリクエストを提供することも必要です。
さらに、SLAの運用中に両部門のニーズや状況が変わることもあります。その際にはSLAを見直し、両部門の新しいニーズに対応できるように更新しなくてはなりません。両部門のニーズを常に正確に満たしていることが、SLAの成功に不可欠です。
各業界のNo.1企業が「マーケティングがうまいだけで営業力は弱い」「営業は最強だがマーケティング力は弱い」と言われることはまずありません。必ずといっていいほど両輪が揃っているものです。
組織の仕組みと意志がそろえば、マーケティング部門と営業部門の連携は単なる理想ではなく、実現できるということだと思います。SLAの作成は組織改革に比べれば局所的な対策ではありますが、短期間で変化を起こせる実践的な手法です。マーケティング部門と営業部門のポテンシャルを高め、目標達成への大きな推進力となってくれるでしょう。