インターネットが広く流通した現代、ウェブサイト、ブログ、SNSなどを駆使して多くの見込み客(リード)の創出や育成に成功している企業は増えてきているものの、まだまだ少数なのが実態です。さらにBtoBビジネスにおいて、それらの見込み客の中から受注につながる選別がうまくできている企業は、さらにごく僅かです。
ウェブサイトなのでデジタルチャネルから単に膨大なリードを集める企業が増えていますが、ただ無闇に増やす場合、その中に全く受注につながる見込みのないものだけでなく、ライバル企業による敵情視察や自社に対するセールスが目的のものなど、「異物」が多く混入してしまっている可能性も否めません。
集めたリードをしっかりと分析評価しアプローチの優先順位をつけること、そしてどの段階のリードに対し、マーケティングや営業など、どの部門がアプローチを担うべきかを明確に分類することはとても重要です。
この記事では、BtoBビジネスのマーケティングと営業部門に的を絞り、リードのクオリファイ(評価・選別)の重要性と定義の仕方について紹介します。
BtoBマーケティング・営業における「クオリファイ」とは、「リードクオリフィケーション(Lead qualification)」とも呼ばれ、顕在化した見込み顧客(リード)から自社製品の購入もしくは契約成立の可能性の高いものを選別・絞り込むための評価プロセスを指します。
リードクオリフィケーションを活用した顧客管理は、全体を通した成約率を向上させることが大きな目的です。自社の製品やサービスの受注確度の高いリードを絞り込み評価していくことで、マーケティング部門→営業部門→カスタマーサクセス部門へと、部門間のリードの受け渡しをスムーズに行うことができます。
リードクオリフィケーションは、新しい見込み客との接点の創出から信頼関係の醸成、商談・受注、そして受注後も長く取引を続けてもらうための一連のアプローチの流れを表す「デマンドジェネレーション」のプロセスの一部として認識することができます。
このデマンドジェネレーションの流れを「THE MODEL型」に代表されるデジタルセールスの部門別に振り分けていくと、以下の図のようになります。
(出典:『THE MODEL / 福田康隆』)
大まかに言うと、リードの創出〜育成までを行う「マーケティング」、育成されたリードを引き継ぎさらに醸成・選別を深める「インサイドセールス」、受注確度の高いリードに対し優先的に商談、クロージングを行う「フィールドセールス」、そして受注後のアフターケア・アップセル・クロスセルを受け持つ「カスタマーサクセス」(デマンドジェネレーション図におけるリテンションの部分)という流れになります。
ただし、マーケティング部門やフィールドセールス部門ではクオリファイを行わないのか? というとそうではありません。
リードを次の部門へと効率よく受け渡していくためには、部門間でリードの評価値に一定の基準やルールが必要となります。そのため、クオリファイはデマンドジェネレーションの他のプロセスとは違い、限られた部門が一時的に行うステップとしてではなく、全ての部門において常に行っていく必要があるものとして認識するのがよいでしょう。
マーケティングと営業におけるクオリファイの重要性は、デマンドジェネレーションの流れをより詳細に分析した「デマンドウォーターフォール(Demand waterfall)」をみるとわかります。
デマンドウォーターフォールは、米国のSiriusDecisions社(現Forrester社)が提唱したBtoBマーケティングに特化したフレームワークで、世界中の多くのBtoB企業で活用されています。今回は数種類あるそのウォーターフォールの中から、特に普及している「Reachitected Waterfall」を例に説明します。
(出典:SiriusDecisions)
Reachitected waterfallは、大きく4つのステージで構成されています。
各部門でのクオリファイについての詳細は後述しますが、問い合わせや最初の接点で発生したリードをマーケティング→インサイドセールス→営業(フィールドセールス)と各部門で評価・選別していき、最終的に「受注確度が高い」と認定されたリードのみに絞り込んでクロージングをかけ、成約を勝ち取るというのが大まかな流れです。
リードを次のステージ(部門)へと効率的に送るためには、あらかじめ各部門においてどのようなリードを「クオリファイド(Qualified、認定済み)」とするか、クオリファイの基準・ルールを詳細に決めておく必要があります。この基準が曖昧だと「マーケティングのリードの質が悪い」「営業の成約率が悪い」など、部門間のトラブルを引き起こしてしまう可能性があります。
このような無用のトラブルを避け、各部門が受注という同じゴールに向かって一体となれるよう、マーケティング・営業部門間で「SLA(Service level agreement)」を締結するというのも重要な手段のひとつです。
(出典:HubSpot)
SLAについては当ブログのこちらの記事でも紹介していますので、ぜひご一読ください。
それでは、マーケティング部門が行うマーケティングクオリフィケーションと営業部門が行うセールスクオリフィケーションについて、先ほどのデマンドウォーターフォールの詳細をみていきましょう。
マーケティングクオリファイリード(MQL、Marketing-qualified lead)とは、Inquiry(問い合わせ、最初の接点)で発生したリードの中からマーケティングが評価し営業へ引き渡して良いと認定したリードのことです。
デマンドウォーターフォールでは、このMQLを4つに分類しています。注意すべきは、このフレームワークではインサイドセールスが行うクオリフィケーションをMQLに含めている点です。インサイド「セールス」というワードに引っ張られて後述するSQLと混同しないようにしましょう。
Inquiryで発生したリードはまずマーケティング部門で評価選別され、有望とされるものが「AQL」となります。AQLはリードの質や組織の体制などによってそのまま営業(フィールドセールス)部門に引き渡されるか、インサイドセールス部門に引き渡されます。
インサイドセールスが正式にマーケティングから引き受けを承諾(Accept)したリードは「TAL」となり、インサイドセールスによる更なる評価・選別の結果、その中から有望とされるもののみがフィールドセールスへ引き渡される「TQL」へと昇格します。
またInquiryで発生したリードとは別に、インサイドセールスの活動の中で新たに創出されたリードに関しても、評価・選別の上有望とされるものは「TGL」とされ、フィールドセールスへと引き渡されます。
セールスクオリファイリード(SQL、Sales-qualified lead)とは、マーケティング・インサイドセールスから引き継がれたリード、または営業部門で新たに創出されたリードのうち、営業部門の評価・選別を経て、商談・クロージングを行うべき優良なリードであると認定されたものをいいます。
MQLが営業部門で引き受けられ、最終的にSQLに昇格されるまでには以下のステップを踏みます。
マーケティングからのAQL、インサイドセールスからのTQLおよびTGLのうち、営業(フィールドセールス)部門にて正式に引き受けを承認されたものは「SAL」となります。
これに、営業の活動の中で新たに創出されたリードである「SGL」が加えられ、営業活動を通した評価・選別を経て、最終的に営業が「商談・クロージングへと進むべき」と認定した優良なリードのみが「SQL」となり、営業部門はこの確度の高いSQLに対して優先的に受注のためのアプローチを行う、というのが理想的な流れです。
部門間のリードの引き渡しを円滑に行うため、クオリファイにはどのような基準やルールを設けるべきなのでしょうか?
各部門の「クオリファイリード(Qualified lead)」の認定基準や定義についていくつか例を紹介します。前述した部門間SLAの作成にも参考になる点があるかと思いますので、ぜひご活用ください。
マーケティングにおけるMQLの認定手段として代表的なのが、リードスコアリング(Lead scoring)です。
リードスコアとは、見込み客の「行動」や「属性」によって受注につながる可能性を数値で表したものです。マーケティングオートメーション(MA)や顧客情報管理(CRM)のツールなどを活用し、特定のデータポイントをもとに見込み客の可能性をスコアリングできます。
例:行動によるスコアリング
例:属性によるスコアリング
注意すべき点として、リードスコアリングでリードクオリフィケーションをする場合は、膨大なリードの獲得に成功していることが前提条件です。そもそものリードの絶対数が多くなければ、ツールを使用したリードスコアリングで自動化を行うことのメリットが薄れてしまいます。
リードの絶対数がまだまだ少ない企業は、まずリードジェネレーションに力を入れることを検討しましょう。リードジェネレーションについてはこちらの記事で紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
ここでは、営業活動における見込み客の見極めのフレームワークを紹介します。インサイドセールスのクオリファイはデマンドウォーターフォールではマーケティングに含まれますが、直接的にリードから情報を聞き出すという点で活動内容は営業よりとなるため、ここでは営業としてひとまとめにして説明します。
(出典:Sales Odyssey)
BANTとは、リードからの直接ヒアリングで得た情報を以下の4つの要素に分類して、そのリードがどれくらい有望であるかを分析するフレームワークです。
もともと1950年代にIBMで考案された営業のヒアリングテクニックでしたが、近年においてもリードクオリフィケーションにおける信頼度の高い指標のひとつとされており、現在でもIBMのビジネスガイドラインである「Business Agility Solution Identification Guide」に含まれています。
IBM以外の世界中の企業がこのフレームワークをこぞって模倣していることも、BANTの効果の大きさを物語っています。
BANTについてはこちらの記事でも紹介していますので、ぜひご一読ください。
GPCTBA/C&Iは、HubSpotが開発したフレームワークです。かなり詳細ですが、より担当者の本気度を測定できるフレームワークです。
基本的にはBANTをもとに、現代の情報収集力に長けたリードを対象としたクオリファイの指標として適用できるよう、改良・発展させたフレームワークです。そのためBANTと同じく、リードからの聞き取り情報を以下の要素に分類し、リードの受注確度や優先順位をはかる指標とします。
CHAMPはBANTに比べると、見込み客がより課題(希望、ニーズ、ペイン)に向き合いやすく、社内での優先順位の高さも確認できる項目で構成されているフレームワークです。初期の見込み客の絞り込みには必要十分な内容でしょう。
昨今のBtoBマーケティング、特にSaaS業界においてはインバウンドを主体としたマーケティングおよび営業活動が主体となっており、膨大なリードの中から適切なクオリファイを通して、優先的にリソースを割くべきものを抽出していく動きが受注率向上のためには不可欠です。
とはいえ、リードのクオリファイを成功させ効率よく受注率を高めるには、まずリードジェネレーション・リードナーチャリングの段階で、リードの絶対数と最低限の関連情報を集められていることが必要な前提条件となります。
今回紹介した内容を参考にしてみてもリードクオリフィケーションで成果が出にくいと感じる場合は、見込み客の創出と育成・醸成のステップに改善点がないか同時に目を向けてみるとよいかもしれません。