マーケティングにかかわると見込み客の購買行動を分析するフレームワーク(ファネル)の存在を目にすることが多くなります。一口ににフレームワーク(ファネル)と言っても実は、パーチェスファネル、インフルエンスファネル、ダブルファネル、フライフォールなどさまざまなファネルがあります。
これらのフレームワークで、BtoBマーケティングに最も大きな影響与えたのが、SiriusDecisions(現Forrester)の「デマンドウォーターフォール」の存在です。マーケティングオートメーション(MA)やSFAを活用するためのフレームワークとしてのスタンダードといえるでしょう。
デマンドウォーターフォールは、一般のファネルよりやや複雑に見えるかもしれません。実際は、BtoBの現場に即した非常に実践的で活用しやすいフレームワークです(古いという意見もありますが、知っておくに越したことはありません)。本記事では、デマンドウォーターフォールの基本と活用方法をご紹介します。
デマンドウォーターフォールとは?
デマンドウォーターフォールとは、米国のSiriusDecisions(以下、シリウスディシジョンズ社)が提唱したBtoBマーケティングに特化したフレームワークです。一般のファネルよりもプロセスが詳細に分けられており、戦術とパフォーマンスの関連性がわかりやすく、近未来の収益を予測しやすいところが特徴です。
デマンドウォーターフォールは、世界中の多くのB2B企業で案件創出~成約までのパイプライン管理、収益予測、マーケティングプランの企画と実施後の効果測定、改善に活用されています。
シリウスディシジョンズ社は、2006年にデマンドウォーターフォールを発表してから、市場環境や顧客の購買行動の変化にあわせて、2012年、2017年にさらに進化したモデルを発表しました。現在、2006年版、2012年版、2017年版の3種類のモデルがあります。
施策の目的や業界、会社の規模、組織体制(マーケティング部門の有無、営業との関係性)などによって、3種類の中でどのモデルが適しているかは異なります。現状では、2012年に改定された「デマンドウォーターフォール」がもっとも世界に普及しているモデルだといわれています。
3種類のデマンドウォーターフォール
(画像出典:slideshare)
デマンドウォーターフォールができた背景と目的
デマンドウォーターフォールは、BtoB取引のフレームワークであり、目的はデマンドマネジメント(需要の創出~成約までの最適化)です。売上・収益を最短で拡大していくために、BtoB取引の構造やプロセスを可視化してわかりやすくしたフレームワークです。
デマンドウォーターフォール以前にもさまざまなファネルは存在し、現在も存在しますが、シリウスディシジョンズ社が「カオスを終わらせる」と表現しているように、BtoBマーケティング、セールスにおけるデマンドジェネレーションのプロセスに整合性と一貫性を持つフレームワークの決定打(英語)として、デマンドウォーターフォールを世に出したようです。
2006年に発表されたウォーターフォールは、「Inquiries(問い合わせ)」→「Marketing Qualified Leads(マーケティング部門が担当するリード)」→「Sales Accepted Leads(営業部門が受け入れたリード)」→「Sales Qualified Leads(営業部門が担当するリード)」→「Close/Won business(クロージング/成約)」の5プロセスで構成されたシンプルなフレームワークです。
日本でもそれなりに普及しているため、すでに目新しさを感じない人も多いかもしれません。
2012年には、現時点でスタンダードといっていい「Rearchitectedデマンド・ウォーターフォール」が発表されました。2006年版が改定された背景には、マーケティング・オートメーションを導入する企業の増加、インバウンドマーケティングの台頭、予測分析とインテント・モニタリング、営業部門が創出するデマンドの重要性の認識(英語)があるといわれます。
このモデルでは、インバウンドだけでなくアウトバウンド(営業部門のテレマーケティング活動)からの経路も統合され、マーケティング部門、インサイドセールス部門、営業部門の役割分担(誰がどのフェーズで活動するか)が具体的に可視化されています。BtoB取引の全体図を俯瞰でき、非常にわかりやすく世界各国のBtoB企業に歓迎されました。
2017年にシリウスディシジョンズ社は、「Demand Unit Waterfall(デマンド・ユニット・ウォーターフォール)」を発表します。
すでに世界的スタンダードになっていた2012年版のモデルを大きく変化させた理由については、株式会社マーケティングシンフォニーの庭山さんのコラムで、シリウスディシジョンズ社の研究チームの方と対話した内容が書かれていますが、「ABM(アカウントベースドマーケティング)」の影響があるようです。
デマンド・ユニット・ウォーターフォールは、見込み客を1人ではなくユニット(複数人の購買グループ)ととらえて進行状況を追跡できるところが特徴です。バイインググループのペルソナと関心に基づいたマッピングが追加されています(英語)。
ABM(アカウントベースドマーケティング)に対応できるように、ユニット(見込み客購買グループ)との直接接触する前のターゲティングのプロセス(ターゲットデマンドおよびアクティブデマンドの段階)で、進行状況を追跡するステージも導入されています。
ステークホルダー(マーケティング、営業、インサイドセールス部門の担当分け)が分離されたシンプルなフレームワークであり、どのような組織体制の企業にも、多様な施策にも活用しやすい汎用性の高いモデルになっています。
デマンドウォーターフォールの構成
デマンドウォーターフォールは、問い合わせから成約までの複数のステージで構成されています。ここでは、最も普及している「Rearchitectedデマンド・ウォーターフォール」を例に説明します。
(参照元:SiriusDecisions)
まず、大きく4つのステージで構成されています
- Inquiry(問い合わせ、最初の接点)
- Marketing Qualification(マーケティング部門がリードにかかわる段階)
- Sales Qualification(営業部門がリードにかかわる段階)
- Close(クロージング)
詳細を見ると、1のInquiry(問い合わせ)を2つに分けています。
- インバウンド(広告やWebなどの反響/問い合わせ経由)
- アウトバウンド(営業部門の新規開拓)
2のMarketing Qualification(MQL)を以下の4つに分けています。
- マーケティング部門が有望と考えるリード「AQL」
- インサイドセールス部門も同様に有望と考えるリード「TAL」
- 営業に引き渡せる段階のリード(TQL)
- インサイドが獲得したアポイント
3のSQLを以下の3つに分けています。
- Sales Accepted Lead(SAL)/営業部門がマーケテイング部門から受けたリード
- Sales Generated Lead(SGL)/営業が日頃の活動から作ったリード
- Sales Qualified Lead(SQL)/上記2つの合計パイプラインで管理すべきSQL
BtoBでマーケティングや営業に携わる方なら、このモデルがいかにBtoB取引のフローや標準的なBtoB組織の体制(マーケティング部門とインサイドセールス部門、営業部門の関係性)を踏まえて作られているかおわかりになるでしょう。
デマンドウォーターフォールの活用方法
デマンドウォーターフォールは、マーケティング施策全体の設計、個別施策の設計、営業部門の管理プロセスほかさまざまな用途に活用できます。
デマンドウォーターフォールを活用することで、目標達成に向けて何をどのくらい行動すべきか、ボトルネックはどの段階のどのセクションになるか、現時点での収益予測などをつかめます。ここでは2006年版を用いて説明します。
例)逆算して目標達成へのシナリオを立てる
・10件の受注が必要
↓
・50件の商談できる案件(Sales Accepted Lead)が必要
↓
・100件の営業引き渡し案件(Sales Qualified Lead(SQL))が必要
↓
・180件のマーケティング部門基準をクリアした見込み客(Marketing Qualified Lead)が必要
↓
・5000件の問い合わせが必要
上記のように、自社のこれまでの実績にもとづいたデータから売上や受注件数から逆算して行動計画やパイプラインごとのKPIを設定できます。マーケティングや営業担当者は各工程での実数、次の工程までの期間、コンバージョン率などを把握することで取引を適切に管理できます。
どのウォーターフォールモデルを選ぶべきか?
中小企業で、見込み客も中堅・中小企業の部門の場合、マーケティング施策や営業管理に活用するには、シンプルな2006年版が活用しやすいでしょう。一般的には、中小企業であれば組織の成熟度が低く、組織を高度に分業化することが難しくなります。
2012年版のデマンドウォーターフォールモデルだと、かなり高度に分業化が進んでおり、これを裏返すとそれだけ明確な数字指標が各担当者にふられている(つまり分業化された箇所にマネージャーが必要になる可能性が高い)ということになります。
見込み客が大手企業でありABMを導入している企業や、高度に分業化が進んでいる企業であれば、2012年モデルや2017年版が良いでしょう。
これもあくまで組織のサイズからの判断となってしまいますが、その企業が抱えている課題(As is)と理想の姿(To be)を理解し、そのGAPを埋めるためのモデルとして活用しましょう。
組織の形をデマンドウォーターフォールのモデルに当てはめる前に、まずは自社のAs is、To beを理解することに注力するようにしてください。
デマンドウォーターフォールの問題点
前述のように、デマンドウォーターフォール以外にもさまざまなファネルが存在します。
SNS社会を反映して成約して終わりではなく、顧客維持からリードジェネレーションに再びつながる「ダブルファネル」「フライホイール」などのフレームワークも活用されています。そのため「ファネル(じょうろ型)が終わった、時代遅れ」という声も聞こえます。
ダブルファネル
フライホイール
(参照元:フライホイール)
現実には、複数のファネルの経路で到達する見込み客が混在している状態です。SNS時代、多くのBtoB企業もSNSの影響を受けるようになっているのでこの指摘は当たっているでしょう。
デマンドウォーターフォールも、そのモデルのように見込み客が直線的な動きをすることはほとんどありません。あくまで、全体像を把握し、企業活動に穴がない内容にするためのモデルと理解する方が良いです。
上記のフライホィールやダブルファネルのように一目で循環型社会に対応していることがわかる一方、2017年のデマンド・ユニット・ウォーターフォールは、ビジネスSNSの台頭も意識しているようですが、ターゲッティング段階におけるLinkedIn活用という趣旨であり、顧客化後のデマンドジェネレーションではなさそうです。
「Inquiry」からではなく「Taget Demand」から始まること、Demandの5階層分けなど、前半工程の見込み客の分類を重視しており、ABMに最適(英語)という記事はよく出ています。
(画像出典:Forrester)
しかし、こちらもわかりやすいとは言い難い印象。フレームワークの目的が思考を最短距離で整理し目的を達成することだとを踏まえると、現時点でのわかりづらさ、活用しづらさは課題だといえるでしょう。
また、一点注意して欲しいのが、シリウスディシジョンズ社の「顧客像」は、あくまで大企業が多いということ。つまり彼らの情報自体の発信対象先は大企業であり、彼らの説明は中小、スタートアップ、新事業に対して適応できるものではない、ということです。
そのため、先ほどの繰り返しになりますがAs is、To beと顧客理解を進め、どのモデルが最適なのかをあくまで顧客目線、自社の課題目線で選定するようにしてください。
まとめ
インターネットが普及し、さまざまなSNSやメディアが登場し見込み客の行動は複雑化しています。また、SNSの影響で企業と顧客の関係性が変わり顧客がリードジェネレーションを自然に担うような社会になりました。ビジネス環境が変化すればそれに適したフレームワークが登場してきます。
デマンドウォーターフォールは、その中でもBtoBに特化しており活用しやすいフレームワークです。目的に応じ3種類のモデルを上手に使い分けましょう。