近年はBtoB営業の新規開拓手法も進化・枝分かれしており種類が増えています。
テレアポや飛び込みなどアウトバウンド型営業だけでなく、見込み客にWeb上で自社商品・サービスを選んでもらうインバウンド型営業を導入する企業、両方をバランスよく展開する企業も増えてきました。
背景には見込み客の購買行動の変化があり、ミレニアル世代が企業の中核を担うようになってきたことなど世代交代の影響もあります。今後もますます営業の主戦場がWebに移行する流れは加速するでしょう。
とはいえ、どの手法も効果があると評判になると多くの企業が参戦し激戦区となります。また、他社の成功事例の表面だけをまねて導入するとあまり成果は上がりません。本記事では、あらためてBtoBで新規獲得を最大化するための方法を紹介します。
売上・利益を上げるには、商品・サービスを適正な価格で数多くの顧客に販売する必要があります。どの程度売上高を上げればよいかは業界によって売上構造が異なりますので、まず自業界・自社の構造を理解しましょう。
BtoBビジネスの売上・費用(コスト)・利益について簡単に説明すると以下の通りです。
とくに「売上高営業利益率」は、企業の収益性を測る重要な指標です。
自社は何%位でしょうか? 財務省の公表する2018年度の全産業の売上高営業利益率の平均は4.4%です。製造業、非製造業別の資本金別のデータは以下の通りです。
(参照:財務省 「法人企業統計調査からみる日本企業の特徴」資料 2))
平均だけをみると10%以下ですが、実際は企業ごとの差が激しいのが実情です。IT業界であれば日本ファルコム、オービック、製造業でいえばキーエンスなどは営業利益率が50%を超えています。独自性のある商品・サービスを提供し、コストが人件費メインであるビジネスモデルの強靭さがうかがえるでしょう(キーエンスは工場を持たないファブレスメーカー)。
企業の収益には生産性向上だけでなく「価格決定力」も影響します。日本の中小企業の多くが大手企業の値下げ圧力に苦しんでいると言われています。実際には「利益」や「価格交渉する」という観念がそもそも希薄であり、自らあきらめてしまっている傾向もあるでしょう。
企業幹部の方は、新規開拓営業に力を入れる前に、そもそもの価格設定を「安すぎない」ように設定し、営業パーソンにも価格交渉で1%マイナスしたら、どの程度年間の収益に影響するかなどを教育することが大切です。売っても売っても利益が上がらないということはさけたいものです。
価格決定と付加価値
(参考:経済産業省 通商白書2017)
自社の組織構造をきちんと理解しておくことも大切です。企業の組織形態にはいくつかのモデルがあります。ピラミッド型組織にも数種類、さらに最近はティール組織など自律・分散ネットワーク型の組織にシフトする企業も出てきています。それぞれ特徴は以下の通りです。
1. ピラミッド型組織(機能別)
営業部門・管理部門・製造部門と職種ごとにわかれている組織モデルです。
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2. 事業部制組織
商品・サービスごとに事業部がわかれており、それぞれの事業部に営業部門、製造部門などがある組織です。同じ営業職でも事業部が違えば連携することはほぼありません。たとえば、大手電機メーカーの原子力事業部門と家電製品事業部などをイメージしていただくとわかりやすいと思います。
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3.ホラクラシー組織
2010年代から登場した部長、課長などの役職やヒエラルキー(ピラミッド型の階層組織)のないフラットな組織形態です。市場環境の変化に対応しやすいことから、日本でもITベンチャー企業などで導入する企業が増加中。広義ではティール組織の一種に含まれます。
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新規開拓営業を組織的に進める際に、他部門と協力しあう必要が出てきます。他社の成功事例を参考にしても、組織形態が違いすぎてそのまま自社にあてはまらないことがあります。そもそも他社にある部門が自社に存在しないこともあるため、そこを踏まえて参考にしましょう。
ここではBtoB営業の特徴を解説します。
BtoBビジネスは法人企業同士のビジネスですが、新規開拓営業では最終的には営業マンと発注担当者の合意のもと契約となるケースが一般的です。もちろん、BtoBでも簡易商材から大型商材、専門商材、無形商材などいろいろなジャンルがありオンラインで完結できる商材もありますが、多くは営業マンが介在します。
当たり前ですが、企業が何かを購入する場合は「欲しいから」という感情ではなく、必ず「課題」があって、その解決のための購入でしょう。よってBtoBの営業には以下の特徴があります。
特徴:
BtoBの営業はBtoCに比べれば個人の感情が入り込む要素が少なく、商品・サービスのメリットを伝えられれば成約可能性が高まるため、ある意味わかりやすい世界です。(もちろん、ある一定の基準を満たしたあとは担当者との相性なども影響しますし、経営者が担当者の場合は、必ずしも事例やデータだけに重きをおかず、経営者独自の勘や判断によって購入が決まるケースもあります)。
BtoBでは一度取引が始まると中長期的な取引になることが多く、大手企業対象の場合は1、2社担当しているだけで営業パーソンの年間売上げが達成できる規模にまで成長する場合もあります。
営業スタイルとしてはBtoCよりもコンサルティング営業の色彩が強くなります。長い取引となるためクライアント企業の社員よりも企業情報、業界動向に詳しい営業パーソンは少なくありません。
ここではBtoBの新規開拓営業を効率化するステップを解説します。
まず、営業戦略が重要です。自社の商品・サービスをどの業界のどの規模の企業に、あるいは業界に限らずどのような課題を抱えている企業に拡販していくかを決定します。
新規開拓営業においては、ターゲッティングこそがもっとも重要であり、営業パーソンの営業スキルよりもその後の営業効率を左右するといっても過言ではありません。
さらに、今の時代の営業にはWebが無視できないため、戦略は「リアルでのアウトバウンド営業」と「Web上で見込み客を集めるインバウンド営業」の2本立てで構築することが望ましいでしょう。
インバウンド、アウトバウンドごとの施策には以下があります。
アウトバウンド型では営業パーソンが自らアプローチして営業します。インバウンドでは一般にマーケティング部門などの営業支援部門がWebサイトや広告、メルマガなどを用意し、見込み客からのアプローチを軸に営業を行います。
上記の施策をすべて実行する必要はありませんが、顧客層を広げるために見込み客との接点を増やしていくことが大切です。さらに、各施策ごとの営業プロセスと営業ワークフローを標準化します。一連の業務をどの部門の誰が担当するかまでを落とし込みましょう。
マーケティング部門がない中小企業の場合は、営業部門内に新しいセクションを設けて営業パーソンをコンバートすることで対応します。デジタルマーケティングに詳しい人材は転職市場にもまだ希少で採用が簡単ではないためです。むしろ現場を知る人材にマーケティングを勉強してもらったほうがよいでしょう。
なお、どの経路であっても見込み客はWebサイトで企業の所在を確認するため、Webサイトの品質は極めて重要になります。
ある大手不動産会社のトップ営業マンの1日の平均商談件数は3.5件という話があります。多いとみるか少ないとみるかは判断がわかれるところですが、都心部の法人営業で移動時間も考慮すれば3.5件の商談はなかなか大変です。この様に業界と扱う商品・サービスによって成果を上げるための適切な行動件数は違います。
ただし、営業の成果が商談数に比例することは業界問わず共通しているでしょう。おそらく各社で常に営業成績上位に入る営業パーソンの平均商談数は、平均的な営業マンをかなり上回るかと思います。
売上目標を達成するためには、営業パーソンのKPIマネジメントを行う必要があります。目標達成のためには月に何件の商談が必要で、そのためには何件の新規アプローチ数が必要かを行動データから試算し、適切なKPIを設置することが重要です。
ここでは新規開拓時に成約率を高めるスキルを紹介します。新規開拓営業で基本的なビジネスマナー、傾聴スキルは当然必要です。さらに見極めのフレームワークを活用すると成約率が高くなるでしょう。
営業パーソンの時間は限られています。追うべき企業とフォローしても必要以上に深追いする必要はない企業、早々に引くべきニーズのない企業を見極めて行動してもらう必要があります。
見込み客が何を期待しているかの指標を確認します。たとえば商品・サービスを導入することで「Webサイトへの訪問者を30%増やすことができる」「業務コストを20%削減できる」「利益率を10%向上させる」など定量的に表せる指標を探ります。
質問例:
商品・サービスの導入を決める権限を持っている人を見極める必要があります。中小企業なら経営者が相当するでしょう。経営者への直接営業は最初のハードルこそ高いもののさまざまなチャンスを入手できます。企業規模が大きくなると部長クラス、課長クラスが相当することが多くなります。また、規模が大きいプロジェクトの場合は一人ではなく複数人存在する場合もあるでしょう。
質問例:
商品・サービスの導入を決定するときの動かない基準です。たとえばIT製品であれば既存のシステムとの適合にあたる「技術的判断基準」は重要です。ほかに、予算の上限、ROIなどの「ビジネス的判断基準」があります。
稟議がとおるまでの期間、意思決定に大きな影響を及ぼす関係者の数などです。
見込み客が最も解決したい課題のことです(例:商品・サービスを導入することでどのくらいの経費削減につながるか?もし導入しなかったらどれだけの経費がムダになるかなど)。
見込み客の社内で決裁権限者に影響を与えられ、かつ課題に対して強く関心を持っており商品・サービスの導入に強く賛同する人です。役職者かもしれませんし実際に商品・サービスを活用する現場の人材かもしれません。Championを見つけ出し支持を得ることができれば成約可能性が高くなります。
近年の見込み客は、営業マンと会う前に購買プロセスの約6割を完了していると言われます。ハーバードビジネスレビューの「ソリューション営業は終わった」というレポートが話題になったように「情報提供」で顧客の関心を持ってもらうのも難しくなっています。
見込み客の情報収集・検討のステージがWebにシフトしているため、Web上で自社の商品・サービスを見つけてもらう施策に力を入れる必要があります。そのため、マーケティング部門との連携が成果を上げるために重要になっています。
新規顧客獲得の領域で、マーケティング部門が果たせる役割は以下の通りです。
マーケティング部門が少なくとも1~3までを担当できれば、営業パーソンは営業に集中できます。営業パーソンにとって営業活動における最大の武器は「導入事例」です。事例の種類が少ないために訪問のきっかけを得られなかったり、コミュニケーションを深められない企業は多いのですが、なぜか施策に力を入れても事例作成が手薄になる企業は少なくありません。
企業として存続している以上自社の商品・サービスを活用している企業はかなりの数あるはずなので、大企業、中堅企業、中小企業など自社のターゲットとする層の導入事例を量産しましょう。事例こそが見込み客の信頼を集め、営業マンへの自信を深める最たるものです。
人は何かを購入するまでには一定の心理プロセスを経ます。営業活動においてもマーケティング活動においても、売る側ではなく見込み客の検討フェーズにあわせた適切な情報提供、提案を行うことが購買意欲につながるでしょう。
以下に、バーチェスファネルのTOFU(興味・関心を持った段階)、MOFU(検討段階)、BOFU(購入段階)それぞれのステージに適した施策や提供コンテンツをまとめます。
TOFUで興味を持った見込み客が、徐々に絞り込まれてBOFUまでたどりつきます。BOFUは営業活動でいえばクロージングの段階です。ファネルを見ておわかりのように、実はクロージング力というものは、あまり大きな影響力はありません。
何かを購入するかどうかは購買行動の一連のプロセスで適切な情報を得ることができ、商品・サービスのメリットを十分理解でき、さらには情報提供者(人もしくはWeb、メルマガ)を信頼できてはじめて決定されるのです。
いきなり見積もりを要求する見込み客よりも、ある程度時間をかけて検討していただいた見込み客のほうが成約しやすく、かつ長期の取引顧客になりるでしょう。
ドラッカー氏の有名な「経営とは顧客の創造」という言葉があるように、顧客を作るプロセスは企業の根幹にあるものです。もちろん、経営の上位概念として素晴らしい経営理念はありますが、その実現には新規顧客獲得という地道なプロセスが必要です。
テレアポからスタートするアウトバウンド営業であれ、Webやメールマガジン経由の集客であれ、手順を踏まえて必要な情報を必要なタイミングで提供していけば成約率は高くなります。
シンプルにいえば見込み客がフェーズごとに必要とするコンテンツ・事例を、適したタイミングで届けること。実はたったこの2つに力を入れるだけでも大きな成果につながります。