最近、コンテンツマーケティングに取り組む企業は増える一方です。しかし、いろいろな企業のマーケターの方と話すと、コンテンツ制作に力を入れているものの思うような成果があがらないという悩みを持っている人が少なくありません。
その成果とは、コンバージョンやMQLの創出など、ずばり収益への貢献です。
コンテンツマーケティングが収益拡大につながることが世に知られるなか、おそらく社内でのマーケティング部門へのプレッシャーも高くなっているのでしょう。
米国のWordPressVIP が最近リリースした「Content Matters 2023 レポート」でも、マーケターの 82% が「コンテンツを収益の原動力として使用することの重要性」が高まっていると述べており、優先順位も前年の5位から2位に上昇しています。
コンテンツマーケティングが収益につながらない要因として、最近よく見かけるのは「コンテンツをランダムに作り続けているパターン」です。品質自体は全体的に向上していると感じます。
そこで、本記事ではコンテンツマーケティング成功に欠かせない「コンテンツマップ」の基本や作り方を、弊社のテンプレートを用いて解説します。
コンテンツマップとは、文字通り「自社のコンテンツの地図」です。
マーケティング領域でのコンテンツマップの明確な定義は存在しないのですが、こちらのHubSpotの定義がわかりやすいでしょう。
和訳:コンテンツマップとは、適切なコンテンツを、適切な人に、適切なタイミングで提供するための計画です。コンテンツマップは、コンテンツを消費する人の特性やライフサイクルステージを考慮し、提供するコンテンツの種類によって、よりニーズに合ったものになるようにします。 (出典:HubSpot)
コンテンツマップとは、自社がどのようなコンテンツを、どのペルソナ向けに、どのように展開していくかという戦略を見える化するものだと言えるでしょう。
コンテンツマーケティングは、何よりも全体の設計がしっかりしていなければなりません。コンテンツマップを作成すると以下のようなメリットが得られます。
例えば、見込み客の「気付き」のステージのコンテンツのみ充実していて「検討」ステージに必要なコンテンツが少ないと、サイト訪問者は多くてもコンバージョン率は低くなるかもしれません。要は決め手にかけるのです。
逆に、「検討」ステージのコンテンツ、例えば事例コンテンツは用意しているけど、「気付き」ステージのコンテンツが少ないと、新たな見込み客層を流入させる力は弱まります。
自分の感覚だと多くのBtoB企業はこのパターン。決定段階のコンテンツが大半。オウンドメディアの記事は、PV数を指標としたビックワード狙いが中心です。
こうなると、決定段階のオーガニック流入の大半は既存のマーケティング施策でリーチできている人になり、「認知」ステージでは関連性が低い人の流入が増えます。
もちろんBtoBの鉄板コンテンツの事例から充実させるのは正解です。しかし、潜在層の見込み客のボリュームを増やすためには「認知」ステージも充実させる必要があります。コンテンツマップがあると、このようなコンテンツの偏りを防ぎ、バランスよくカスタマージャーニーに沿ってコンテンツを配置できます。
キラーコンテンツが単体でバズっても、それだけで見込み客は「よし、買おう」と決断するわけではありません。特にBtoBの場合、見込み客はさまざまな角度からベンダーやプロダクトをチェックします。
例えば、最近の調査ではBtoB購入者の 72% が、社会的責任のある企業から購入する可能性が高いと述べています。信用度を高めるコンテンツとは今ならSDGs、コンプライアンス方針、あるいはこれまでの業績の推移、レビューサイトの評価などでしょう。
特に中小企業の場合、このようなコンテンツは最初に計画していないとついつい制作が後回しになりがちです。コンテンツマップがあることで、コンテンツの総合力を発揮できるようなコンテンツの配置を考えることができます。
適切な場所に適切なコンテンツがあれば、見込み客は離脱せずランディングページ、問合せページにたどりつきます。また、問合せページ、ランディングページに到達したあと、多くの見込み客はそこで迷うものですが、そこで購入意欲を再度喚起させるようなコンテンツが配置されていると、問合せへのハードルが下がります。
コンテンツマップにもとづき、しかるべき場所にキラーコンテンツを配置できるとコンバージョンレートのアップを促進します。
現時点の、既存コンテンツのトピックをコンテンツマップにマッピングしてみましょう。
成果と照らし合わせて見ると、過剰になっているトピック、あきらかに欠落しているトピックに気づくかもしれません。一方、1割程度はキラーコンテンツがあるはずです。
コンテンツマップがあるとこれ以上は不要なコンテンツではなく、優先順位の高いコンテンツを作成したり、キラーコンテンツのトピックをアレンジして活用するなど、コンテンツの配置を最適化できます。ROIを向上させることができるのです。
(Content marketing institute、MarketingProfs)
コンテンツマップのテンプレートは多種多様です。ペルソナが一人の場合、直線型のテンプレートでもよく、Excelでも作成できます。フォーマットに正解はありませんが、ここでは弊社がコンサルで使っているテンプレートを例として説明します。
弊社では、複数のペルソナに向けたトピックを一目瞭然にできるように、円形のテンプレートを活用しています。ペルソナは4人まで設定できます。
各ペルソナの領域を、以下の位置に設定しています。
円は三重になっており、以下のとおりカスタマージャーニーの3つのステージに対応させています。
では、実際に福利厚生サービスを提供する企業向けに作成したコンテンツマップの例をもとに解説しましょう。
以下の3名のペルソナを対象に、コンテンツマップにトピックを配置します。同じサービスの見込み客であっても、このようにペルソナは何タイプか存在します。
ペルソナ3名は勤めている会社の規模や役職(社長、マネージャー、スタッフ)が違います。視座が変われば課題に思うことも違うため、最初に興味を持つトピックも異なります。そのため、外枠の円の気付きのステージには、ペルソナごとの「気付き」につながるであろうトピックを配置します。
中小企業人事総務の森沢さんのトピック(左上)
大企業の人事担当の柏崎さんのトピック(左下)
中小企業経営者の三崎さんのトピック(右下)
認知のステージにおいて、ペルソナは課題を解決する方法を情報収集をしています。ここで自社のサービスをみつけてもらうためには、ペルソナの問題解決のヒントになるコンテンツを展開していく必要があります。
ここでも3人のペルソナの知りたい主要な情報は異なるため、以下のように各ペルソナ向けのトピックをそれぞれの領域にマッピングします。
森沢さんのトピック(左上)
柏崎さんののトピック(左下)
三崎さんのトピック(右下)
サービスを絞り込む段階にくると、3名のペルソナともある程度共通したトピックに関心を持ちます。サービスの評判や価格、費用対効果、他社との比較などが気になってきます。以下のようなトピックを、テンプレートの中央の円にマッピングします。
3名共通トピック
弊社のテンプレートでは自社Webサイトと外部メディア、オウンドメディアのドメイン上のトピックの領域を色分けしています。
外部メディアやオウンドメディアとは、業界メディアや広告、各種SNS、プレスリリース、サブドメインの企業Blogなどです。潜在ニーズや課題を顕在化させる役割を持たせていることが多いので、外枠の円の気づきのステージ=オウンドメディアのトピックとしています。
中央の円は検討のステージ。事例やプロダクトの機能・特徴、企業情報についてのトピックが配置されています。このように切り分けると、主要トピックのどれをどのチャネルで展開するかを決める際にイメージしやすくなるでしょう。
ここでは、コンテンツマップの作り方を解説します。
まず、ペルソナを作成します。ペルソナとは「半架空の顧客プロファイル」。どのような製品・サービスにも顧客の傾向があります。「うちのクライアントにはこんな業界、こんな企業規模、役職はマネージャー、こんな考え方の人が多い」と何となくはわかっているでしょう。このような特徴を詳細にペルソナシートにまとめて架空の人物を作ります。
方法としておすすめなのは、自社のロイヤル顧客のインタビュー、顧客アンケート、営業パーソンからのヒアリングなどをもとに特徴をピックアップすることです。CRMデータの傾向なども参考になります。
ペルソナ用テンプレートは、オンライン上にたくさん公開されています。紙、Excelやパワーポイント、Adobeのオンラインテンプレート、HubSpotのペルソナ生成ツールなど無料ツールも豊富なので、使いやすいものを選び以下のような項目をもりこみましょう。
名前もつけて、いかにもいそうな人物にしてください。
(出典: 114534494 © Tatyana Merkusheva | Dreamstime.com)
次に、カスタマージャーニーを作成します。カスタマージャーニーとは、前述のペルソナ(自社の架空のお客様)が、最初にニーズに気付いてから自社のサービスを見つけて、関心を深めて購入し、活用していく過程での心理・行動を可視化するツールです。
カスタマージャーニーマップのテンプレートもさまざまですが、弊社では以下のように直線型で「気付き」「認知」「検討」「購入」「利用」ステージにわけて、顧客の気持ちや課題、動きを追うスタイルにしています。
カスタマージャーニーを作成すると、ペルソナの気持ちや行動パターンが時間の経過とともにどう変化するかが可視化できます。いつどのようなコンテンツトピックで興味を惹きつけ、どのようなコンテンツでリードに転換してもらうかなど、コンテンツの流れをどう組み立てるべきかが見えてくるでしょう。
カスタマージャーニーにそって各ペルソナごとの「気付き、」「認知」「検討」のコンテンツのトピックを作成します。トピックを考えるときの情報源は、ペルソナ作成のときに行った顧客インタビューやアンケートなどの情報です。
Googleのサジェストももちろん参考にしますが、それだけだと他社と似たコンテンツ企画しか生まれません。顧客の声などをもとに作成したトピックだからこそ、自社のサービスを好む見込み客を惹きつけます。
トピックについては、慣れている方ならテンプレートにそのまま書き込んでもよいでしょう。初心者マーケターや、チームでコンテンツマーケティングを行っている場合は、みなでトピックのアイデアをどんどん書いていきます。最初はできる限りリストアップして、その上で取捨選択して主要トピックを選ぶとよいでしょう。
主要トピックが決まればあとあと関連コンテンツを増やすことは比較的簡単なので、ここでは中心的なトピックを決めれば大丈夫です。
最後に、ペルソナごとのトピックをテンプレートのそれぞれの「気付き」「認知」の領域に配置します。
弊社の場合は、以下のように円形のテンプレートにマッピングしますが、1名のペルソナの場合は直線型のコンテンツマップにマッピングしてもよいでしょう。
すべてマッピングすると、各ペルソナのカスタマージャーニー上に途切れなくコンテンツトピックが配置できているかが判明します。もし1フェーズのコンテンツのみにトピックが集中している場合は、他のフェーズのコンテンツトピックを再考して増やしましょう。
意外にわすれられがちなのは、検討ステージにおけるDMU(バイイングセンター)向けのトピックです。BtoBでは稟議を上申すると役員、経営層ほか複数の購買関係者たちがチェックをします。「評判」「IR情報」などのトピックを入れておく必要があります。
現場が強い会社なら、「サポート」「FAQ」などのトピックも信頼性を高めるでしょう。
最近の英Inbox Insight社の「ABMのマーケティング調査レポート」では、コンバージョンを妨げる主な要因としてのひとつに「DMUのメンバー全員を織り込むことを怠った」ことをがあげられています。エンタープライズ向けのサービスは特に、ここで企業の信頼度を上げるコンテンツトピックを忘れないようにしましょう。
コンテンツマップを一度決定したらその方針でコンテンツ制作に入りますが、3カ月に1度ペースでミーティングを行って、みなでコンテンツマップを見直し、常に最適化し続けることが大切です。
社会の情勢が変わったり、革新的テクノロジーが登場したりするとペルソナの知りたい情報や課題は変化するからです。例えば、今ならChatGPTの影響などに関心する人が見込み客にも増えているかもしれません。また、マーケティングチームのメンバーの顧客理解が深まることで、新たなトピックを見つけることもよくあります。
一生懸命練ったコンテンツマップのトピックが外れることもあります。キラーコンテンツなど1割程度です。しかし、シナリオにのっとってコンテンツを作り、常にコンテンツマップを進化させていけばコンテンツマーケティングの成果は上がっていきます。
コンテンツマップは、コンテンツマーケティング全体の設計図のようなものです。
コンテンツマップがあることで、ペルソナに向けて、カスタマージャーニーの「気付き」「認知」「検討」のそれぞれのフェーズでしっかりした方向性のもとコンテンツを作っていくことができます。
コンテンツマーケティングでは、キラーコンテンツだけあっても大きな成果につながりません。一見地味ながら重要なコンテンツのトピックも最初から計画して、しっかりしたシナリオをもとにコンテンツを配置することで全体的な成果が向上します。
まずは、今時点の既存コンテンツのトピックをコンテンツマップに配置して、カスタマージャーニーにそって配置できているかを確認してみましょう。必要なトピックが網羅されていない場合は付け加えます。そうすることでこれまで作り上げたコンテンツもより威力を発揮するでしょう。