SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスとは?オンボーディング設計の手順も合わせて解説

2024/01/01
BtoBマーケティング カスタマーサクセス SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスとは?オンボーディング設計の手順も合わせて解説

SalesforceやHubSpot、Slack、Sansanなど、SaaS分野で著しい成功を収めた企業たちには、一つの重要な共通点があります。それは、顧客の成功を重視するカスタマーサクセスへの注力です。SaaSビジネスモデルでは、顧客との関係は製品購入時に始まり、その後の顧客エンゲージメントがブランド成長と持続可能性のキーとなります。

このビジネスモデルの核心は、顧客が製品やサービスから得られる価値にあります。顧客にとっての成功を最大化することが、LTV(生涯顧客価値)の向上、アップセル・クロスセルの機会拡大、そして既存顧客から新規顧客への紹介を促進し、ビジネス成長を加速させるのです。

この記事では、SaaSビジネスを手掛ける担当者向けに、カスタマーサクセスの基本原則、その重要性、役割、そしてオンボーディングの設計について詳しく解説します。

SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスとは

カスタマーサクセスは、顧客が求める成果を実現するために、継続的なサポートを提供する役割を果たします。SaaSビジネスにおいて、顧客は期待通りの成果を得られなければサービスを離れる可能性が高く、そのためにもカスタマーサクセスの重要性は計り知れないのです。

SaaSビジネスの核心にあるカスタマーサクセスは、しばしばカスタマーサポートや営業と混同されがちですが、それぞれは独自の役割を持っています。ここでは、これらの機能間の違いと、カスタマーサクセスオペレーションの役割について説明します。

カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い

カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い

カスタマーサポートは、顧客からの具体的な問い合わせや問題に対応する部門です。たとえば、顧客が製品の使い方について疑問を持った場合、カスタマーサポートはその問い合わせに対して迅速かつ正確に回答します。カスタマーサポートは基本的に「受動的」であり、顧客の問い合わせを起点として動き始めます。主な目的は、問題解決の効率性と顧客満足度の向上です。

対してカスタマーサクセスは、顧客の成功を促進するための予防的かつ計画的なアクションを目的としています。カスタマーサクセスは、データ分析を通じて顧客の課題を把握し、それを先回りして解決する「能動的」なアプローチをとります。

たとえば、顧客がまだ利用していない機能がそのビジネスにとって有用であることを見出し、その活用を促すといった具合です。このような活動を通じて、顧客生涯価値やリテンション率の向上を目指します。

このように、カスタマーサポートが問題発生後の対応に焦点を当てるのに対し、カスタマーサクセスは顧客の成功を計画的にサポートすることで、より長期的な関係の構築とビジネス成果の最大化を目指しています。

カスタマーサクセスと営業の違い

カスタマーサクセスと営業の違い

カスタマーサクセスと営業の違いは、役割と目的の面で顕著ですが、SaaSビジネスではこれら二つの部門間の密接な連携が非常に重要です。

従来のビジネスモデルにおいて、営業の主な目的は売上げの獲得にあります。営業チームはマーケティングチームから引き継いだリードにアプローチし、製品やサービスを売り込むことに集中するため、主に短期的な売上げの増加に貢献するのです。

一方で、カスタマーサクセスは既存顧客との関係を深め、継続的な収益を生み出すことに焦点を置きます。カスタマーサクセスチームは、顧客が製品やサービスを最大限に活用できるようにサポートし、顧客満足度を高め、維持率の向上を目指します。

カスタマーサクセスもまた売上げの獲得に貢献しますが、目標はあくまでも長期的な関係の構築であり、それの延長線上に売上げの増加があるのです。

SaaSビジネスにおいては、営業とカスタマーサクセスの間の連携が特に重要です。その理由は以下の通りです。

  • 収益拡大:カスタマーサクセスの働きにより、顧客の製品への満足度が高まると、更新やアップセルのチャンスが生まれます。営業とカスタマーサクセスが連携することで、顧客のコミュニケーションデータを基に、最適なタイミングで更新やアップセルの提案が可能になります。
  • 解約率の低下:どれだけ優れたカスタマーサクセスチームがあっても、顧客が自社の製品やサービスに適切でない場合、いずれ顧客離れが発生します。営業チームが正しい顧客を獲得することは、オンボーディングコストの節約やチャーン率の低下に直結します。データ分析を活用して、どのような顧客が長期的に製品やサービスを利用するかを理解し、営業が適切な顧客に焦点を当てることが重要です。

これらの理由から、カスタマーサクセスと営業の間には相乗効果があり、両部門の連携はSaaSビジネスの成功にとって不可欠です。営業による売上げの獲得とカスタマーサクセスによる既存顧客の維持・拡大は、共にビジネスの持続可能な成長に貢献します。

カスタマーサクセスとカスタマーサクセスオペレーションの違い

カスタマーサクセスとカスタマーサクセスオペレーションの違い

カスタマーサクセスオペレーションは、カスタマーサクセスチームが効率的かつ効果的に機能するための、サポートシステムとプロセスに焦点を当てています。オペレーションチームは、データ分析、業務プロセスの最適化、ツールの管理、顧客情報の追跡など、カスタマーサクセスチームの背後での作業に注力します。

たとえば、顧客情報管理システム(CRM)を最適化することで、カスタマーサクセスチームが必要な情報に簡単にアクセスできるようにするのが、カスタマーサクセスオペレーションの仕事です。

このように、カスタマーサクセスは顧客の成功に直接的に貢献する活動に集中するのに対し、カスタマーサクセスオペレーションは、それを可能にするシステムやプロセスを構築し、チームの効率と効果性を高める役割を担っています。この両者の協力により、SaaSビジネスは顧客の成功を最大化し、結果としてビジネスの成長と持続可能性を実現することができます。

SaaSビジネスにとってカスタマーサクセスはなぜ重要なのか

SaaSビジネスがカスタマーサクセスに注力すべき理由は、以下の3つです。

  • 解約率を下げることができる
  • LTVを高めることができる
  • ユーザーの繋がりやベンダーとの関係構築ができる

以下では、それぞれの理由を解説します。

解約率を下げることができる

SaaSのような定期収益ビジネスでは、収益の大部分は最初の売上げのあと、つまり更新やアップセル/クロスセルなどで生まれます。例として、Salesforce社のケースは示唆に富んでいます。2005年当時、Salesforce社は急速な成長を遂げていましたが、同時に高い月当たりの解約率(8%)に直面していました。

これは年間で見れば、約63.2%の顧客を失うことになり、新たな顧客を大量に獲得しなければならない状況を意味しています。Salesforceのケーススタディは、顧客の維持がいかにSaaSビジネスにとって重要かを浮き彫りにしました。

このような状況に直面し、Salesforce社はカスタマーサクセスに注力することで、解約率の低下と収益の増加を実現し、最も成功したSaaS企業のひとつとなったのです。

マッキンゼーの調査

(出典:マッキンゼー)

マッキンゼー社のレポートによると、カスタマーサクセスの効果的な戦略を実行する企業は、そうでない企業に比べてより速い成長を遂げています。特に上位25%に位置するSaaS企業は、平均的な企業と比べてはるかに低いネット収益の解約率を維持しており、顧客の維持を通じて収益の拡大と安定化を実現しています。

このように、カスタマーサクセスへの注力は、解約率を下げ、既存顧客からの収益を増加させる効果があるのです。これは、新規顧客の獲得に重点を置くのではなく、既存顧客の価値を最大化することによって、より持続可能かつ効率的なビジネス成長を促進するアプローチと言えます。

LTVを高めることができる

LTV(Life Time of Value:顧客生涯価値)とは、一人の顧客が企業にもたらす収益の総額を指し、高いLTVは顧客が長期にわたり企業にとって価値ある存在であることを示します。

各法則を表した図

顧客獲得コストと比較して、既存顧客の維持コストが低いこと(1:5の法則)や、わずかな解約率の低下が利益率に大きな影響を与える(5:25の法則)という事実は、SaaSビジネスにおいてLTVの最大化がいかに重要かを強調しています。顧客の長期的な維持は、新規顧客の獲得よりもコスト効率がよく、長期的な成長を促すのです。

カスタマーサクセスは、顧客との長期的な関係を築く上で不可欠な役割を果たします。たとえば、動画配信サービスのユーザーが期待しているコンテンツが配信されない場合、解約につながる可能性が高まります。

同様にBtoBビジネスにおいても、顧客が期待する価値を提供できなければ、サービスの利用をやめることが多いです。カスタマーサクセスは顧客の期待に応え、それをプロダクトに反映して、継続的な利用を促進することで、LTVの向上を実現します。

また、顧客のニーズは時間とともに変化します。初期段階では満足していた顧客も、ビジネスの成長や市場環境の変化により、異なるニーズを持つようになることがあるでしょう。

カスタマーサクセスの活動により、顧客の変化に敏感に対応し、満足度を維持することが可能です。これは解約率の低下、アップセルやクロスセルの機会の増加、新規顧客の紹介などを通じて、LTVのさらなる向上に繋がります。

ユーザーの繋がりやベンダーとの関係構築ができる

カスタマーサクセスが、ユーザーとの繋がりやベンダーとの信頼関係構築に果たす役割は、単なる直接的な売上げの増加を超えた、より大きな価値を生み出します。顧客やベンダーとの強固な関係は、継続的なビジネスの成長と「二次収益」の創出に大きく寄与するのです。

二次収益とは、アドビ・エコサインの元CEOJason・Lemkin(ジェイソン・レムキン)氏が提唱した概念で、顧客からの追加収益が新規顧客獲得に必要なコストや労力を必要とせずに得られる、という考え方です。

また、HubSpotが提唱する「フライホイール」モデルは、ビジネス成長と顧客関係構築の相互作用を表します。このモデルでは、顧客獲得、エンゲージメント、喜びの各フェーズが互いに関連し合い、一つのフェーズが他のフェーズを強化します。結果として、良好な顧客体験が新たな顧客を引き付け、リピートや推薦を通じてビジネス成長を加速させる循環が生まれます。

フライホイールモデル

(出典:HubSpot)

たとえば、顧客が製品に満足していれば、顧客は転職しても同じ製品を選び、また、その製品を他人に紹介する可能性が高まります。比較サイトでのポジティブな評価を通じて、新規顧客の導入決定に影響を与えることもあるでしょう。

さらに、信頼関係を築いたベンダーは、その製品を自らのクライアントに推奨するのです。このようにユーザーやベンダーとの強固な関係構築は、新たな顧客を引き付け、ビジネスの大きな成長へと貢献します。

SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスの役割

SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスの役割は主に以下4つです。

  • オンボーディング
  • 顧客との目標・目的の目線合わせ
  • 定期的な運用レビュー
  • プロダクト改善へのフィードバック
  • アップセル/クロスセルの実施

ここからは、各役割の詳細を見ていきましょう。

オンボーディングの実施

オンボーディングは、SaaSビジネスにおける顧客体験の基盤を形成し、顧客満足度とリテンションの向上に直結する重要なプロセスです。

オンボーディングのプロセスは、顧客が製品やサービスを理解し、最大限に活用するために必要な指導やトレーニングを提供します。具体的には、製品の使い方説明、ドキュメンテーションの提供、対話型のチュートリアル、サポートリソースへのアクセスなどです。

オンボーディングの実施

Gainsight社によれば、潜在顧客の74%が「オンボーディングが複雑であれば他のソリューションに切り替える」、顧客の86%が「オンボーディングと継続的な教育が整っていれば、その企業へのロイヤリティを維持する」と回答しているとのこと。この調査が示すように、オンボーディングを重視する顧客は多いです。

また、オンボーディングの重要性は、顧客が製品から迅速に価値を得たいというニーズに基づいています。特にSaaSビジネスでは、顧客が製品を導入した後、短期間でその価値を実感できなければ、更新時に製品の使用を止める可能性が高まります。

実際にブレインシャーク社のCCO、Diane Gordon(ダイアン・ゴードン)氏は、オンボーディング期間と初回更新の可能性には、相関関係があると述べているのです。

効果的なオンボーディングを通じて、顧客に製品の操作方法やベストプラクティスを提供すれば、製品の価値を早い段階で実感してもらえるでしょう。これは顧客のエンゲージメントを高め、長期的な顧客満足と製品の継続利用につながります。さらに、顧客が製品を十分に理解し活用することで、その製品の真の価値を体験し、リテンション率の向上を見込めます。

オンボーディングは単に製品の使い方を教えるだけではなく、顧客が製品を通じて成功を収めるための基礎を築くプロセスです。したがってSaaSビジネスにおいては、この初期段階の顧客エクスペリエンスに注力することが、長期的な顧客関係とビジネス成長の鍵となります。

顧客との目標・目的の目線合わせ

カスタマーサクセスにおける顧客との目標・目的の目線合わせは、顧客の成功と製品の効果的な利用を促進する上で重要な役割を果たします。多くの顧客は具体的な目標や成果を期待して製品を導入しますが、その目標達成には適切な計画と段階的なアプローチが必要です。

顧客が持つ長期的な目標やKGI(Key Goal Indicator)は、短期間で達成することは困難です。たとえば、顧客が「製品を導入して収益を○○%伸ばしたい」「○○%業務を削減したい」といった目標を持っている場合、これらを一度に達成しようとすると、早期の価値創出が難しくなります。

ここでカスタマーサクセスが果たす役割は、これらの長期的な目標を分解し、達成可能な小さなKPI(Key Performance Indicator)を設定して、顧客が段階的に目標に到達できるようサポートすることです。

一部の顧客は自分自身で達成可能な目標を設定しているかもしれませんが、多くの場合、顧客は具体的な目標設定に苦労します。カスタマーサクセスは、顧客が持つ抽象的な期待や目標を、具体的な数値や成果に変換しなければいけません。その際、他の顧客の成功事例や指標を示すことで、顧客が自身の目標をより明確に理解できるようになるでしょう。

定期的な運用レビューの実施

カスタマーサクセスチームにおける定期的な運用レビューの実施は、顧客との持続的な関係構築とビジネス成果の最大化に不可欠です。カスタマーサクセスの中心的な概念である「カスタマーヘルス」は、顧客の製品利用状況や満足度を数値化し、顧客の状態を把握するための重要な指標です。

カスタマーヘルスの評価は、以下のような要素を考慮に入れることが一般的です。

  • 製品定着率: 顧客がどの程度製品を定期的に使用しているか
  • カスタマーサポート利用頻度: 顧客がサポートチームに問い合わせる頻度
  • マーケティング施策へのエンゲージメント: Eメールマーケティングなどに対する反応
  • コミュニティへの参加度: 製品やサービスに関連するコミュニティへの参加状況
  • 契約金額の増減: 顧客との取引規模の変化

顧客のニーズや満足度は常に変化するため、これらの指標を定期的に監視し、必要に応じて迅速なサポートや介入を行うことが重要です。

特に大口顧客に対しては、月に1回以上の直接コミュニケーションを行うことが望ましいでしょう。これにより、カスタマーサクセスチームは顧客との定期的な対話を通じて、製品の使用状況、満足度、直面している課題などを深く理解することが可能になります。

このような対話は、顧客の成功を促進し、長期的な顧客関係を構築するための貴重な機会です。定期的な運用レビューを通じて、カスタマーサクセスチームは顧客に合わせたサービスを提供し、顧客体験を向上させることができるのです。

プロダクト改善へのフィードバック

カスタマーサクセスは、顧客の成功を支援し、その過程で収集されたフィードバックをプロダクト改善に活かす重要な役割を担います。このプロセスは、顧客のニーズと直接的に繋がっており、プロダクトの進化と顧客満足度の向上に直結します。

顧客との日々のコミュニケーションを通じて、カスタマーサクセスチームは「操作性が悪い」「特定の機能が欠けている」などプロダクトに関するさまざまなフィードバックを受け取るでしょう。このようなフィードバックは、顧客が製品に期待する価値を満たすための貴重な情報となります。

HubSpotの製品アップデートページ

(出典:HubSpot)

たとえば、CRMプラットフォームを提供するHubSpotは、定期的な製品アップデートを通じて、顧客からのフィードバックを積極的に取り入れています。このようなアプローチにより、プロダクトは常に顧客のニーズに合わせて進化し続けることができます。

カスタマーサクセスの究極の目標は、サポートがなくとも顧客が製品を十分に使いこなし価値を得られるような製品を開発すること。そのためには、顧客のニーズとフィードバックを理解し、それをプロダクト開発のプロセスに組み込むことが不可欠です。このアプローチにより、顧客が実際に求めているプロダクトを提供することが可能になります。

アップセル・クロスセルの実施

アップセルやクロスセルの実施はカスタマーサクセスの重要な部分であり、これによって既存顧客からの収益を増やすことができます。重要なのは、アップセル・クロスセルを顧客視点で行うことです。

顧客が既存の製品やサービスに満足している場合、アップセルやクロスセルの提案に対して肯定的に反応する傾向があります。逆に、まだ製品を十分に使いこなせていない顧客に対してアップセルを提案しても、成功確率は低いでしょう。これは、顧客が追加投資を行うためには、既存のプロダクトで成功を実感している必要があるためです。

マッキンゼーがインタビューしたある経営幹部は、「顧客との関係が強ければ強いほど、クロスセルは成功する」と強調しています。さらに、この言葉を裏付けるように、あるテクノロジー・サービス企業では、強い関係性を築いた顧客に対して、1年以内に80%のクロスセル率を達成しているのです。

企業側から見れば、アップセルやクロスセルは売上げ拡大のチャンスですが、顧客にとっては「製品やサービスからさらなる価値を得るための投資」となります。既存のプロダクトに満足していない場合、顧客がさらなる購入を検討することはほとんどありません。

カスタマーサクセスの取り組みにおいては、単にLTVを伸ばすことも重要ですが、それ以上に顧客にとって最適なタイミングでアップセルやクロスセルを提案することが重要です。顧客の利用状況や満足度を適切に評価し、ニーズに合わせた提案を行うことで、アップセルやクロスセルの成功率を高められます。

SaaSビジネスのカスタマーサクセスが見るべき指標

ここでは、SaaSビジネスのカスタマーサクセスが見るべき指標をご紹介します。

解約率(チャーンレート)

解約率は、一定期間内にサービスを解約した顧客の割合を示し、顧客ロイヤリティと製品の市場適合度を反映します。高い解約率は、顧客の不満や市場ニーズとのミスマッチを示唆する可能性があります。解約率の計算方法は以下の通りです。解約率(チャーンレート)

月初に1000人の顧客がおり、その月に50人がサービスを解約した場合、解約率は(50 ÷ 1000) × 100% = 5%となります。これは、全顧客の5%がその月に解約したことを意味します。

顧客維持率

顧客維持率は、一定期間内に維持された顧客の割合を示します。高い維持率は、顧客満足度の高さを示します。顧客維持率の計算方法は以下の通りです。

LTV(顧客生涯価値)

月初に1000人の顧客がいて、その月に新たに100人の新規顧客を獲得し、50人が解約した場合、顧客維持率は、(1050 - 100) ÷ 1000 × 100% = 95% となります。これは、その月に95%の顧客が維持されたことを意味するのです。

サービスの活用度合い

顧客が、サービスをどれだけ積極的に利用しているかを示す指標です。高い活用度は、顧客のエンゲージメントと満足度の高さを示唆します。具体的な計算方法は、ログイン頻度、機能使用率、ユーザーの活動レベルなど、複数の指標に基づいて定義されます。

たとえば、顧客が平均して週に5回サービスにログインし、主要機能を定期的に使用している場合、これは高い活用度合いを示しており、製品が顧客にとって価値あるものであることを意味します。

LTV(顧客生涯価値)

LTVは、顧客がビジネスにもたらす総収益の予測値です。この指標は、顧客の長期的な価値を測定し、マーケティングや顧客サービスの投資の最適化に役立ちます。LTVの計算方法は以下の通りです。

LTV(顧客生涯価値)

顧客が月額1万円を支払い、平均して3年間サービスを利用する場合、LTVは 1万円 × 12カ月 × 3年の36万円です。これは、一人の顧客が平均して36万円の収益をもたらすことを意味します。

NPS(ネットプロモータースコア)

NPSは、顧客がビジネスを他人に推奨する確率を測定する指標です。高いNPSは、顧客満足度が高く、口コミや紹介による新規顧客獲得の可能性が高いことを示しています。NPSの計算方法は以下の通りです。

NPS(ネットプロモータースコア)

たとえば100人の顧客がいて、70人が推奨者(9-10点)、20人が中立的(7-8点)、10人が批判者(0-6点)だとします。この場合NPSは、70% - 10% = 60%であり、これは顧客の半数以上が製品サービスを高く評価していることを意味します。

カスタマーサクセスのオンボーディング設計の手順

カスタマーサクセスにおいて最も重要なプロセスのひとつが、オンボーディングです。オンボーディングで最適な支援を提供できれば、顧客はスムーズに製品を利用開始し、長期的な関係構築の基盤を築けます。ここでは、オンボーディング設計の手順を見ていきましょう。

オンボーディング担当者の選定

オンボーディングプロセスの成功は、適切な担当者の選定から始まります。オンボーディング担当者は、顧客が初めて接触する人物であり、そのためにブランドの代表とも言える存在です。CustifyなどのSaaS企業のオンボーディング担当者の募集要項から、オンボーディング担当者には以下のような資質とスキルが求められると言えます。

  • 高い感情知能と共感スキル: 顧客の話を深く理解し、共感する能力
  • 強力なコミュニケーションスキル: 顧客の視点を把握し、実行可能な解決策を提供するためのコミュニケーション能力
  • 分析的かつ目標志向のマインドセット: プロジェクト管理スキルを持ち、目標に基づいたアプローチをとる
  • ポジティブなカスタマーリレーションシップの維持能力: 顧客からのサポートリクエストに対応し、良好な関係を維持する能力
  • 高度なIT知識と学習能力: 新しいソフトウェアツールを迅速に学ぶ能力と技術的な知見
  • システム統合と移行の経験: クライアントのビジネス目標に合わせて、既存のシステムを新しいソフトウェアソリューションに統合し、移行した経験がある

顧客はプロダクトに対価を支払っており、最終的にはそのプロダクトが顧客に価値をもたらさなければいけません。したがって、オンボーディング担当者はプロダクトに精通している必要があり、これにより顧客がプロダクトを最大限に活用し、その価値を実感できるように支援できます。

顧客が抱える現状の課題を掘り下げる

顧客が直面する課題を深く理解しなければ、効果的なサポートは提供できません。顧客理解は、顧客のニーズに応じてカスタマイズされたサービスを提供するために不可欠であり、顧客との信頼関係を築く上でも重要です。

多くの場合、顧客はすでに営業担当者に具体的な課題を伝えています。そのため、カスタマーサクセスチームは、営業からの情報引継ぎを通じて、顧客の課題やニーズを予め把握する必要があります。これにより、顧客に同じ質問を繰り返さず、プロフェッショナルなアプローチを取ることができます。

たとえば、顧客が販売サイクルの長さに悩んでいる場合、カスタマーサクセスチームは顧客の販売プロセスを詳細に分析し、時間がかかっている具体的な段階を特定することが重要です。

その後、特定した問題点を解決するための戦略を立てます。これには、プロダクトを活用してリードの質を向上させたり、見込み客のフォローアッププロセスを最適化したりなどの、具体的な改善策が含まれることがあります。

顧客の課題を掘り下げることで、カスタマーサクセスチームは顧客との初めてのミーティングを有意義なものにできます。

プロジェクトの目標と計画を決める

オンボーディングプロセスの初期段階で、具体的な目標と計画を設定することは、顧客が早期に成功を実感し、製品の価値を最大限に活用するために非常に重要です。このプロセスには、以下のステップが含まれます。

  • 具体的な目標の設定: 顧客が早期に成功を実感するためには、実現可能で具体的な目標を設定する必要があります。目標は定量的で測定可能であるべきです。たとえば、新しいCRMシステムのオンボーディングでは、「最初の2カ月でユーザーの50%がシステムの基本操作を完全に理解する」という具体的な目標を設定できます。

  • ロードマップの作成: 目標達成のための段階的な計画を立てます。上述のCRMシステムの例では、初週にオリエンテーションと基本操作のトレーニングを実施し、その後4週間にわたって週1回のフォローアップセッションを設けるなどが考えられます。

  • 進捗のモニタリングと調整: 目標達成に向けて進捗を定期的に確認し、必要に応じて計画を調整します。顧客のフィードバックや使用状況をモニタリングし、トレーニングやサポートの内容を適宜調整することで、効率的な学習と理解を促進します。

これらのステップにより、オンボーディングプロセスは顧客にとってより価値あるものとなり、製品やサービスの早期導入と利用促進に貢献します。

どのようにサポートしていくのかを決める

オンボーディングにおけるサポートの提供方法を決定する際は、ハイタッチ、ミドルタッチ、ロータッチという異なるセグメントを考慮しなければいけません。

一般的な顧客タッチポイントによる顧客セグメント

  • ハイタッチへのアプローチ: このアプローチでは、カスタマーサクセスマネージャーが直接、顧客との密接な関係を築きます。これには、頻繁なコミュニケーション、パーソナライズされたトレーニングセッション、個々の顧客のニーズに合わせてカスタマイズされたサポートが含まれます。複雑な製品や高価値の顧客、特に重要な大口顧客に適しています。

  • ミドルタッチへのアプローチ: ミドルタッチでは、定期的なチェックイン、グループトレーニングセッション、定期的なニュースレターの送信など、個別のサポートと自動化されたサポートのバランスをとります。

  • ロータッチへのアプローチ: 自動化されたメール、オンラインリソース、ウェビナーなどを利用してサポートを提供し、低コストで多くの顧客にサービスを提供します。比較的シンプルな製品を提供する企業や多数の小規模な顧客を持つ企業に最適です。

まずは顧客をセグメントに分類し、それぞれのニーズと期待に合わせて適切なサポートレベルを提供することが重要です。また、オンボーディングを効果的に実施するためには、多角的なアプローチが欠かせません。以下は基本的なオンボーディングの内容です。

  • アカウント設定の支援
  • データ移行の支援
  • 個別トレーニングの実施
  • 早期の成功指標の設定
  • 継続的なサポートとコミュニケーション
  • 成功事例の共有

定期的な運用レビュー状況の確認と報告

オンボーディングが始まると、定期的な運用レビューが重要な役割を果たします。このプロセスでは、顧客が計画通りに製品を使用しているか、目標に対して進捗しているかなどを確認し、必要に応じて調整を行います。

特に重要なのは、顧客の重視する指標が変わることが多いため、これらの指標を定期的に確認し、最新の状況に合わせたサポートを提供することです。

ライトサクセスとディープサクセスとは

この段階では「ライトサクセス」と「ディープサクセス」という概念の理解が役に立ちます。ライトサクセスは、業務課題を解決し、現場が満足する状態を指します。これに対しディープサクセスは、経営課題の解決と製品の業務現場への完全な定着を意味し、経営層が満足する状態を実現します。

ディープサクセスは通常、顧客の企業文化や業務オペレーションを変革させることを含み、その達成には2〜3年以上の年月を要することが多いです。一般的には、ライトサクセスで現場に業務改善効果を体感させ、それを増幅させてディープサクセスへとつなげていきます。

しかし、多くの企業は顧客の利益を最大化しようとディープサクセスに重点を置きすぎ、ライトサクセスを軽視する傾向にあります。

したがって、オンボーディングプロセスでは、ライトサクセスの重要性を認識し、顧客が製品を実際に使っている現場レベルでの成功体験を、最初に確実に達成することが重要です。これにより、長期的なディープサクセスへの道のりを効果的に進めることができます。

オンボーディング後の定期的なフォロー

オンボーディング後の顧客サポートは、顧客が通常業務に戻った後でも、プロダクトの価値を継続的に実感し、長期的な関係を築くために重要です。オンボーディングの完了は、顧客との関係の終わりではなく、むしろその関係を深めていく新たなスタート地点と捉えるべきです。

オンボーディング後のフォローでは、顧客との定期的なコミュニケーションを維持し、製品の利用状況や顧客の満足度を確認しましょう。顧客からのフィードバックを受け入れ、問題や懸念に対処することで、顧客にとって価値あるサポートを提供できます。

まとめ

SaaSビジネスでは、期間・売上げ当たりの顧客単価は小さいため、多くの顧客に継続して製品やサービスを継続してもらわなければ、事業の成長にはつながりません。しかし、サブスクリプション型ビジネスは容易に導入・解約できるため、顧客は期待した価値を得られなければ、すぐに離脱してしまいます。だからこそ、カスタマーサクセスへの注力が重要です。

顧客の成功を目標とし、能動的に成功を支援しましょう。顧客は期待した以上の成果と体験を得られれば、継続的な活用やアップセル・クロスセル、新規顧客への自社ブランド紹介などをしてくれ、結果的に自社の成長を実現できるのです。競争の激しい市場を生き抜くためにも、カスタマーサクセスを推進しましょう。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

サービスを詳しく知りたい方はこちら

資料請求