一時期と比べあまり聞かなくなってしまったNPS(ネットプロモータースコア)でしたが、SaaS企業やSaaSツール導入が広く普及してき始めているここ数年で、耳にする機会が増えてきたように感じます。
NPSは2003年ごろからFred Reichheld(以下:フレッド・ライクヘルド氏)によって広められた、調査相手が調査対象に対して、どのように感じているかを調査するときに利用される指標です。比較的新しい指標のため、「NPSが何なのかよくわからない」という方も多いでしょう。そこで本記事では、以下の内容を詳しく解説します。NPSをどのように自社の事業の改善に役立てられるのか、具体的なイメージがつかめるようになるでしょう。ぜひ最後までお読みください。
NPS(ネットプロモータースコア)は、調査対象のロイヤルティを測定する指標です。調査対象の一例としては、製品サービスの買い手が挙げられます。
これまで「買い手が企業やブランドに対して、どれほどの愛着や信頼感を持っているか」は測定が難しいと考えられていました。ところがNPSを導入することで、ロイヤルティを具体的な数値として算出して、活用できるようになったのです。
しかも、NPSを測る方法はとてもシンプルです。調査対象に対して「この企業(製品サービス、ブランド)を友人や同僚に勧める可能性はどれくらいありますか? 」と質問して、その回答を集計するだけで、NPSを算出できます。
この質問はシンプルではありますが、類似した数多くの質問との比較を繰り返す研究によって、ようやく発見されたものです。発見の過程は、フレッド・ライクヘルド氏の著書「顧客ロイヤルティを知る「究極の質問」」で、詳しく解説されています。
(引用元:https://www.nttcoms.com/service/nps/summary/)
NPSが多くの企業で活用され、発展した背景には、企業が買い手のロイヤルティを測定する必要性に迫られていた状況がありました。企業の収益の大部分は、ごく一部のロイヤルティが高い買い手によってもたらされる傾向があります。
そのため、企業にとってはロイヤルティが買い手を増やすことが重要課題であり、買い手のロイヤルティを把握する手段が求められていたのです。
これは、新規顧客獲得は重要なことながらも、新規顧客獲得よりも既存顧客から販売を拡大する方が、売り手の費用対効果が良いという観点からもいうことができます。だからこそ、ロイヤルティを正確に把握することは大切です。ロイヤルティが高い買い手には、一般的に以下の特徴があります。
このように、ロイヤルティが高い買い手を増やすことは、収益面以外にも企業にさまざまなメリットをもたらします。だからこそ、多くの企業がNPSに注目するようになったのです。
また、NPSと混同されがちな指標に「eNPS(イーエヌピーエス)」があります。eNPSは、従業員ロイヤルティを測定するための指標です。従業員に対して「あなたの職場親しい知人や友人に勧める可能性はどれくらいありますか? 」と質問して、その回答を集計して算出します。
NPS(ネットプロモータースコア)は「顧客満足度」と混同されがちですが、両者は別物です。そこでNPSと顧客満足度の違いを3つ紹介します。きちんと使い分けたうえで、自社が調査対象からどのように評価されているのかを把握しましょう。
前述した通り、NPSはロイヤルティを計測するために生み出された指標です。「この企業(製品サービス、ブランド)を友人や同僚に勧める可能性はどれくらいありますか? 」という質問への回答を見れば、調査対象が自社にどれだけの愛着や信頼感を持っているかがわかります。
NPSがロイヤルティを反映する要因としては、NPSが「他人に勧める」という、ストレスの高い行動について聞いていることが挙げられます。友人や同僚に勧めることは、その人との関係性に悪影響を及ぼす危険がある行為です。
そのため、質問に回答する際には「その企業や製品サービス、ブランドは本当に信頼できるのか」と真剣に考える必要があります。自分の感情だけでなく客観的な視点からも考えることで、調査対象の心の奥底にある本音が現れて、ロイヤルティが反映されやすくなるのです。
その一方で「製品サービスに満足していますか? 」と満足度を聞かれた場合は、自分の中だけで思考が完結しているため、深く考えずに回答しがちです。すると、とくに大きな不満がなければ、安易に「満足している」と回答しやすくなってしまいます。
実際に、顧客満足度はロイヤルティとの関連性が低いことも、フレッド・ライクヘルド氏の研究から判明しています。調査対象が製品サービスに満足していたとしても、愛着や信頼感を持っているかは、また別問題なのです。
NPSは顧客満足度と比べて、業績との相関性が高いことが知られています。業績との相関性が高い理由としては、NPSが「心の満足」を反映していることが挙げられるでしょう。
人の満足には、理性による「頭の満足」と感情による「心の満足」の2つがあります。そして、調査対象が顧客満足度調査に回答する際には、この「頭の満足」のみが反映される傾向があるのです。
「頭の満足」では、「製品サービスが優れている」「価格が安い」といった点が評価されます。しかし、顧客満足度には「心の満足」が反映されにくいと考えられています。実際に「顧客満足度調査で「満足」と回答した人が直後に解約している」といったケースもあるようです。
一方で「心の満足」には、「自分を分かってくれている」「自分と価値観が合っている」などと、調査対象が企業に対して感じているかが反映されます。そして、こうした感情こそが、調査対象がリピート購入などの業績に直結する行動を取ってくれるかに、強く影響するのです。
NPSには調査対象の「心の満足」が表れているからこそ、業績との高い相関性があります。だからこそNPSは、業績を向上させるための指標として広く使われているのです。
NPSにはグローバルな基準があるのに対して、顧客満足度にはありません。この点も大きな違いです。
NPSでは、フレッド・ライクヘルド氏が所属するベイン・アンド・カンパニー社の測定法が、標準的な基準となっています。各社が調査対象に対して同じ質問をして、同じようにNPSを計算しているのです。そのため、NPSは他社との比較が可能であり、自社の施策を考える際に役立てやすいという特徴があります。
一方で、顧客満足度は企業によってアンケートの設問や回答方法がバラバラであるため、回答結果を他社と比較しても意味がない場合が多いでしょう。業界内での自社の立ち位置を把握したい場合は、NPSを算出して他社と比較するのが効果的です。
(引用元:https://markitone.co.jp/column/importance-of-nps/)
世界標準となっているNPS(ネットプロモータースコア)の計算方法を紹介します。まずは前述の通り、「この企業(製品サービス、ブランド)を友人や同僚に勧める可能性はどれくらいありますか?」と調査対象に質問します。その後の計算手順は以下の通りです。
NPSは表計算ソフトなどで計算することも可能ですが、SurveyMonkeyなどのツールを利用することが一般的です。ツールのテンプレートを利用すれば、ほとんど手間をかけることなくアンケートを作成できます。あとは調査対象からの回答さえ集めれば、NPSの計算はあっという間に完了するでしょう。
回答数を多く集めるほど、正確なNPSを算出できます。大量の回答数が集めるのが難しい場合もあるでしょうが、NPSの活用をあきらめる必要はありません。
NPSの誤差の程度は統計学の手法で計算できて、約400のサンプル数があれば、誤差は5%以内に抑えられるとわかります。また、400人分の回答を集められない場合でも、100人分の回答があれば、おおまかなNPSは把握可能です。誤差があることに留意すれば、回答数が少なくてもNPSを活用できます。
NPS(ネットプロモータースコア)は正しく扱わなければ、効果的に活用できなかったり、誤った判断につながってしまったりします。NPSを扱う際の注意点を4つ紹介するので、失敗を避けるためにお役立てください。
日本人のNPSは低くなりがちであることが知られています。その最大の原因は、日本人はアンケートに回答する際に、中心付近の数字を選ぶ傾向があることです。
つまり、日本人は0〜10の選択肢があった場合、「4、5、6」を選ぶ人が多いのです。勧める可能性についての質問でこれらを選んだ人は、前述の通り「批判者」に分類されるため、割合が高いとNPSは低くなります。
NPSを他社と比較する際には、海外企業のNPSと単純に比較することは避けた方がよいでしょう。比較対象には、日本の同業他社を選ぶべきです。
NPSは時系列での比較を重視しましょう。NPSは他社と比較可能な指標であるとはいえ、単純な比較が難しいケースも多いからです。前述した日本人の傾向も、比較を難しくする要因のひとつです。
NPSは業界や業種によって傾向に大きな差があることが知られています。下図は、アメリカ企業の業界ごとのNPSを調査した結果です。
(引用:https://www.netpromoter.com/compare/)
上図から、業界ごとのNPSをいくつかピックアップして紹介します。
このように大きな差があるため、異なる業界・業種の企業どうしの比較は避けるべきです。同じ業界・業種の企業であっても、NPSは以下のような要因に影響を受けます。
こうした要因の影響があるため、NPSを他社と比較することには限界があるのです。しかし自社内であれば、こうした要因をある程度はコントロールできますし、調査対象がアンケートに回答した際の状況を詳しく把握できます。
そのため自社のNPSこそが、最も有効に使えるデータだといえます。まずは他社との比較ではなく、自社内での時系列の比較でNPSを活用するとよいでしょう。
調査対象に回答してもらうアンケートは、設問数を少なくしましょう。アンケートを作成すると「せっかく回答してもらうのだから」と、あれこれ設問を増やしたくなるものです。しかし、設問を増やしすぎると、以下のようなデメリットが生じます。
また前提として、NPSを算出するためのアンケートでは「この企業(製品サービス、ブランド)を友人や同僚に勧める可能性はどれくらいありますか? 」という質問を最初に設置しましょう。他の質問項目の影響をできるだけ取り除くためです。
たとえば「受付の店員の対応に満足しましたか? 」という質問が直前にあると、調査対象は受付の店員をイメージしながら「勧める可能性」についての質問にも回答してしまう傾向があります。アンケートでは最初に「勧める可能性」について尋ねたうえで、その後の設問数は絞るように気をつけましょう。
NPSを算出する際には、アンケートに回答しなかった調査対象のことも考慮しましょう。NPSはあくまでも、アンケートに回答した調査対象からの評価のみを対象にして、算出されるものだからです。
アンケートに回答する調査対象は、製品サービスに満足している場合が多い傾向があります。製品サービスに不満持った顧客は、わざわざ企業のためのアンケートに時間を使わないことが多いからです。
つまり、NPSは実情よりも良いスコアになりやすい傾向があるといえます。アンケートへの回答率が低いほど、製品サービスに満足した人が回答者に占める割合が増えるため、この傾向が顕著になりがちです。
正確なNPSを測定するためにも、アンケートの回答率を上げる努力をすべきです。そして、アンケートの回答率を100%にすることは現実的に難しいので、アンケートに回答しなかった調査対象がいることを、つねに忘れてはいけません。
NPS(ネットプロモータースコア)とアンケートの他の質問項目を組み合わせることで、調査対象からのより詳細なフィードバックを得ることが可能です。NPSとフィードバックの具体的な利用シーンを3つ紹介します。
製品を利用してもらう以外に調査対象との接点が少ない場合は、NPSは「製品への満足度」とほぼ連動します。製品に満足さえすれば、調査対象は「友人や同僚にも勧めたい」と感じるからです。そうした製品の例としては、オンラインで購入された服や日用品が挙げられます。
この場合、NPSを向上させるためには、調査対象からのフィードバックを元に製品を改善することが大切です。たとえば「シャツのボタンがすぐに外れてしまう」「外箱が開けにくい」といったフィードバックを受けたら、問題をできるだけ早期に解決しましょう。そうすることでNPSが向上して、企業の業績も良くなると見込めます。
カスタマーサクセスの実現度は、多くの場合でNPSと強い相関性があります。他人に勧めるかを決めるうえで、製品サービスによって自分が期待した成果や成功を手に入れられたかが、大きな判断基準になるからです。
「期待した成果を得られなかった」という回答がアンケートで多かったのであれば、すぐに対策すべきです。具体的には、成果を得ようとした際に発生するであろう課題を予測して、その課題に先回りして解決しましょう。
たとえば、ソフトウェアのアップデートに手間取ることが予想されるのであれば、アップデートが必要になるタイミングで、わかりやすいマニュアルを作って送付すると効果的です。調査対象はアップデートをスムーズに済ませたうえで、ソフトウェアを使って成果を得ることに集中できます。結果としてカスタマーサクセスが実現し、NPSが向上しやすくなるでしょう。
NPSを向上させるためには、調査対象からのサポート体制に対するフィードバックに対応することも重要です。しっかりしたサポートが受けられない製品サービスでは「友人や同僚にも勧めたい」とは思えないからです。
とくにSaaSのように、アップデートなどによって操作方法の変更やトラブルが起こりやすいサービスでは、サポート体制の良し悪しがNPSに直結します。そのため、調査対象にアンケートへの回答を求める際には、サポート体制へのフィードバックを積極的に集めましょう。
アンケートでは「サポートのどの部分に不満を感じたか」といった質問をして、選択式ではなく自由記述形式で回答してもらうと効果的です。すると、自社では想定していなかった不満を調査対象が持っていたことを、明らかにできる場合があります。そうした不満を解消できるようにサポート体制を見直すことで、NPSと業績の向上につなげられるでしょう。
NPS(ネットプロモータースコア)は、調査対象のロイヤルティを測定する指標です。顧客満足度とは異なり、業績との相関性が高いという特徴があります。NPSにはグローバルな基準が存在するため、業界内での自社の立ち位置を探ることも可能です。
NPSは「この企業(製品サービス、ブランド)を友人や同僚に勧める可能性はどれくらいありますか? 」という質問への回答に基づいて算出されます。他のアンケート項目と組み合わせることで、自社の施策を考える際に役立てられるでしょう。本記事を参考にして、ぜひNPSをご活用ください。