従業員のロイヤルティを測定する指標として「eNPS(イーエヌピーエス)」が注目されています。しかしeNPSは比較的新しい指標であるため、どのように活用できるのか、まだ理解していないという方も多いでしょう。
そこで本記事では、以下の内容を解説します。
- eNPSとは何か
- 活用することで従業員が受けるメリット
- 顧客満足度との関係性
eNPSを使いこなして効果的に施策を行えば、従業員のロイヤルティを高めると同時に顧客満足度を上げ、企業業績の向上につなげることも可能です。ぜひ最後までお読みください。
eNPSとは
eNPSは「Employee(従業員) Net Promoter Score」の略称です。
eNPSが誕生する以前から、NPS(ネットプロモータースコア)という指標が使われていました。NPSは「製品サービスの買い手」などの調査対象が、商品やブランド等に対して、どの程度の愛着や信頼感を持っているかを測定するための指標です。
eNPSは、アップル社がNPSを自社の従業員に応用したことで誕生し、それが他社でも使われるようになったことで広まったといわれています。
eNPSを測定する方法はシンプルです。従業員に対して「あなたの職場を親しい知人や友人に勧める可能性はどれくらいありますか? 」と質問して、その回答を集めるだけで計算できます。
従来は測定が難しいと考えられていた「従業員が自社に感じている愛着や信頼感の程度」を、eNPSを測定することで把握できるようになりました。
発展の背景
eNPSが広く使われるようになった背景には、「従業員のロイヤルティが重要である」という認識が、多くの企業で共有されたことがあります。自社の製品サービスの魅力を顧客に伝えるためには、まずは「自分の会社が好きなんです」と表明する従業員が増える必要があると、多くの経営者が考えるようになったのです。
たとえば、自社製品の「スケジュール管理ツール」の利用者を増やすことが、重要な経営課題だとします。しかし、そのツールをユーザーに紹介する社員が、自社に対する愛着や信頼感を持っていないとしたら、ツールの魅力の説明にも熱が入らないと予想できます。結果として、スケジュール管理ツールの利用者は増えにくくなってしまうでしょう。
逆に、社員の会社に対するロイヤルティが高い状態であれば、ユーザーに自社のツールを熱心に説明するでしょう。そして、ユーザーを増やすことにもつながるはずです。
実際に下図の通り、「eNPSが高い企業ほど顧客評価が高まり、より高い業績を実現できる傾向がある」という調査結果もあります。
(eNPSと顧客評価および業績の関係)
こうした背景があるため、「eNPSの向上は業績に直結する経営課題である」と考える企業が増えているのです。
eNPSの全体像
eNPSについて、以下の項目を順に解説します。eNPSの全体像をつかむために、参考にしてください。
- スコアによる分類
- eNPSの計算方法
- 改善するための施策の例
- NPSとの違い
スコアによる分類
(引用元:https://www.b2binternational.com/research/methods/faq/what-is-employee-nps/)
前述の通り、eNPSは「あなたの職場を親しい知人や友人に勧める可能性はどれくらいありますか? 」という質問への回答から計算されます。従業員が回答する際に、勧める可能性は「0〜10」の11段階で評価してもらうのが重要な点です。
そして、「0〜10」のスコアに応じて、回答者を以下の3つに分類します。
- 0〜6は「批判者」
- 7と8は「中立者」
- 9と10は「推奨者」
この分類ごとの回答者の割合が、eNPSを算出する際に使われます。
eNPSの計算方法
eNPSを計算するために、まず推奨者と批判者のそれぞれの割合(%)を算出します。その後、推奨者の割合から批判者の割合を引いた値が、eNPSです。
eNPSは、-100%〜100%の間の値となります。そして、eNPSはマイナスの値となる場合が多いのです。そのため自社のeNPSを算出した結果、マイナスの値だったとしても、大きく落ち込む必要はありません。
eNPSがマイナスの値になりやすい理由を説明します。まず「あなたの職場を親しい知人や友人に勧める可能性はどれくらいありますか? 」という質問に対して、0〜10の選択肢があると、多くの人が中心の5付近を選ぶ傾向があります。
しかし、5付近の「4、5、6」を選んだ人は、すべて「批判者」に分類されてしまいます。そのため、eNPSはマイナスの値になりやすいのです。
eNPSを改善するための施策の例
ある企業では、1年でeNPSの値が-10%から58%に上昇したそうです。eNPSの計算方法を理解していると、「58%」がいかに驚異的な数字であるかがわかるでしょう。
この企業が行った具体的な施策の例を挙げると、以下の通りです。
- チームの人数を適正化する
- 管理職との兼務をなくす
- メンバーの給与を適正化する
- 目指す組織文化を事例とともに宣言する
- 部下が上司からの承認を得る負担を減らす
- トップダウンで業務量を減らす
- 部課長が管理職の業務に集中できる環境を作る
- NPSの定義の浸透をしつこく行う
社内での立場や役職によって、eNPSを改善するためにできることには、違いがあるでしょう。重要なことは経営層や管理職だけでなく、一般社員も含めた社内全体でeNPSの重要性を共有して、協力し合うことです。
施策を実行しても、すぐには成果が得られないことは多いものです。長期的な視点を持って、地道に取り組む意識を持っておくとよいでしょう。
eNPSとNPSの違い
NPSを調査する際に用いられる質問は、「この企業(製品サービス、ブランド)を友人や同僚に勧める可能性はどれくらいありますか? 」です。
「0〜10」の11段階で評価してもらうことや、その後の計算方法はeNPSと同様です。そのため、eNPSとNPSは同じようなものだと思われるかもしれません。しかし「回答の匿名性」の点で大きな違いがあります。
NPSでは「この企業を友人に勧めるか? 」の質問への回答が、特定の顧客と関連付けられることが一般的です。そのため、時間が経過してから同じ質問をされた際に、顧客の回答がどう変化するのか、追跡調査を容易に行えるのです。
その一方で、eNPSでは多くの場合、回答の匿名性が確保されています。「職場を友人に勧めるか? 」の質問に否定的な回答をしたことが会社や上司に知られると、従業員が不当な扱いを受ける可能性があるからです。
匿名性があると、個人の回答について追跡調査ができません。すると、eNPSの向上のために行った施策の効果を測定しようとしても、NPSよりも精度が低くなる傾向があります。
eNPSを通して従業員が受けるメリット
eNPSを導入することには、会社だけでなく従業員にとってもメリットがあります。メリットをきちんと説明することで、従業員から協力的な反応を得やすくなるでしょう。代表的なメリットを3つ紹介します。
メリット1:離職せずに済む
eNPSを測定して、その向上を目指して施策に取り組むことで、従業員の離職率は下がる傾向があります。従業員にとっても、不本意な離職をせずに済むことは、大きなメリットだといえるでしょう。
アメリカ企業のGALLUP社は、従業員の職場に対する愛着や信頼感が、どのような効果をもたらすかを調査しました。すると愛着や信頼感が高いチームは、低いチームと比べて下図の違いがあることを発見したのです。
(職場への愛着や信頼感が高いことによる効果)
図からいくつかをピックアップして紹介します。
- 離職率が18%低い(離職率が高い職場の場合)
- 離職率が43%低い(離職率が低い職場の場合)
- 欠勤率が81%低い
- 盗難が28%少ない
eNPSの導入によって職場環境が改善すれば、従業員と会社の双方にとって、大きな効果が見込めるでしょう。
メリット2:何が指標なのかを理解しやすい
何が指標なのかを理解しやすいことも、従業員にとってメリットです。
eNPSは「あなたの職場を親しい知人や友人に勧める可能性はどれくらいありますか? 」というシンプルな質問への回答に基づいて算出されます。しかもその結果は、明確なひとつの数字として表されます。そのため従業員にとって、非常に理解しやすいのです。
従業員の満足度を測定するために、多くの指標を複雑に組み合わせて使っている企業もあります。しかしその場合には、指標を扱う際に混乱やミスが起きやすくなってしまうという課題がありました。
従業員が理解しやすい指標に従って会社の施策や方針を決めることは、経営の透明性を高めることにもつながります。結果として従業員は、経営層や上司の決定に納得しやすくなるのです。
メリット3:長いアンケートにイライラしない
長いアンケートに答える必要がなくなることも、従業員にとって大きなメリットです。
eNPSの算出に使われる質問は、たったひとつだけです。そのため多くの質問への回答を求める調査に比べて、従業員の負担は小さくなります。
eNPSの調査は、四半期ごとに行うのが最も効果的であるといわれています。ひとつの質問に答えるだけだからこそ、年に4回の調査があっても従業員は協力しやすいのです。
eNPSと顧客満足度との関係性
eNPSと顧客満足度の関係性について、2つの視点を紹介します。eNPSと顧客満足度は強く結びついているので、両者を合わせて考える姿勢を持っておくとよいでしょう。
eNPSを改善することで顧客満足度が高まる
従業員のロイヤルティが高まると、顧客満足度や企業の業績にポジティブな影響を与えます。このことは感覚的に納得できるだけでなく、Foebes誌で紹介された研究結果からも明らかにされています。
従業員のロイヤルティと顧客満足度や、企業業績に相関関係があることは、過去の調査でわかっていました。しかし、「どちらが原因なのか」はよくわかっていませんでした。つまり「成功している企業だから、従業員が自社に愛着を持っている」という見方もできたのです。
この研究では「まず従業員のロイヤルティが高まり、その結果として顧客満足度や企業業績が改善する」という因果関係が示されました。顧客満足度を向上させたければ、eNPSを改善することに力を入れることが有効な方法です。
eNPSの改善に顧客満足度向上の取り組みを活用する
eNPSを改善する施策として、顧客満足度向上の取り組みを活用できます。つまり、eNPSと顧客満足度を別物として扱うのではなく、同時に引き上げることを目指せるのです。この方法については、こちらで紹介されています。
まず、顧客が従業員にかける感謝の言葉は、従業員の承認欲求を満たします。また、従業員どうしで「お客様が抱える課題をどう解決するか」を話し合うことで、以下の3つの効果が見込めるのです。
- 顧客満足度の向上
- 従業員の体験価値の向上
- 売上げや利益への貢献
つまり顧客満足度の向上を目指せば、自然とeNPSを改善することにつながり、その逆もいえます。しかも企業業績の向上にもつながるので、ひとつの活動が大きな価値を生むのです。
このように、顧客満足度向上の取り組みを活用しつつ、eNPSの改善にもつなげられれば、得られる成果は大きくなります。同様の施策が他にもないかを考えて、実行するとよいでしょう。
まとめ
eNPSは、従業員のロイヤルティを測定するための指標です。「あなたの職場を親しい知人や友人に勧める可能性はどれくらいありますか?」という質問に対する「0〜10」の11段階の評価を集めることで算出されます。
eNPSを向上させる取り組みを行うことで、従業員は職場で働きやすくなり、不本意な離職が減る効果を期待できます。また、eNPSの向上は企業業績にもポジティブな影響を与えるので、事業の売上げや利益の増加も見込めるでしょう。
eNPSは、たったひとつの質問から導き出されるシンプルな数字でありながら、大きな成果をもたらす可能性を秘めています。継続的な改善活動の指標として、eNPSを導入してみてはいかがでしょうか。