イノベーター理論(普及学)とは?キャズムと理解すべきこと

2022/01/19
イノベーター理論 キャズム イノベーター理論(普及学)とは?キャズムと理解すべきこと

マーケティングの究極的な目的は、製品をヒットさせて売上げに貢献することです。

しかし、新商品がヒットする確率は0.3%ともいわれる難易度の高い仕事。何しろ素晴らしい機能がある、革新的という理由だけでは大ヒットにつながりません。

その理由のひとつは、あまりに革新的だと多くの普通の人がなかなか理解できないからです。海外に比べて保守的な日本だとなおさらでしょう。SaaS業界もコロナ禍が後押しする状況がもし起こっていなかったら、まだまだ営業に苦労したはずです。

本記事では、マーケターが知っておくべき「イノベーター理論(普及学)」「キャズム理論」を紹介します。どんな製品・サービスでも、マジョリティに浸透するまでには結構な時間がかかります。また、当初は順調に売れていても、あるタイミングで「売れなくなる時期(キャズムの谷)」が訪れます。

製品・サービスが普及するプロセスを理解し、必ずぶつかる課題に対する対策も考えておきましょう。

イノベーター理論(普及学)とは

イノベーター理論(普及学)(Diffusion of Innovation)とは、1962年に米スタンフォード大学のEverett M. Rogers(以下、ロジャース)教授が提唱した「アイデアや製品が社会に普及していく要因や、段階を時間軸で分析した社会科学の理論です。

以下の図のように、新しい概念や製品・サービスは、まず「イノベーター」といわれる層が購入します。その次が「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティー」と徐々に一般層に広がり、最後には頑固で保守的な層に広がっていきます。なお、これはあくまで普及する場合であり、多くは途中で拡散しなくなり市場から撤退します。

イノベーター理論

(画像出典:NEDO

ロジャースは、新しい製品・サービスが広く普及するかどうかは、初期の採用者であるイノベーター2.5%%とアーリーダブター13.5%(合計で全体の16%)が鍵になるとし、初期採用者へのマーケティングの重要性を説く「普及率16%の論理」を提唱しています。

イノベーター:革新的採用者

アーリーアダプター:初期採用層

アーリーマジョリティ:初期多数派

レイトマジョリティ:後期多数派

ラガード:遅滞層

発展の背景>

イノベータ理論は「イノベーション」の研究から生まれた理論です。

1911年にオーストリアの経済学者Joseph Schumpeter(ヨーゼフ・シュンペーター)氏が「イノベーション」という概念を定義してから、イノベーションについて、さまざまな研究が進みます。

1954年には、Peter F Drucker(ピーター・F・ドラッカー)氏が著書『現代の経営』にて、「企業の目的は顧客の創造であり、そのために行う企業の最も基本的な活動がイノベーションである」と提唱し、多くの企業経営者に影響を与えます。

そして、ロジャーズは1962年に『Diffusion of Innovation』において、イノベーションはどのように普及するかについて分析した「イノベータ―理論」を提唱し、大きな反響を呼びました。また、後述するGeoffrey A. Moore(ジェフリー・A・ムーア)氏をはじめ、多くの学者に影響を与えます。

書籍『Diffusion of Innovation』

(出典:Amazon

邦訳版の「イノベーションの普及」は、現在第5版目です。ただ、ICT、ソーシャルマーケティングなど現在のトピックを盛り込まれているなど、50年前に発行されたとはいえ決して古典的な内容ではなく、現役マーケティング担当者の実務に役立つ内容が盛りだくさんです。

キャズムとイノベーター理論(普及学)

イノベーター理論(普及学)から派生した理論に、米国のジェフリー・A・ムーア氏が提唱する「キャズム理論」があります。

ハイテク業界のマーケティングコンサルタントでもあったムーアは、自身の経験から、ハイテク業界においては、ロジャースが定義した各層の間に「断絶」があること。特に、初期市場とメインストリーム市場の間に「深い溝(casm)」があるとし、「キャズム理論」を提唱しました。

ムーアは、革新的な製品・サービスは自然発生的に異なる社会グループに普及するのではないため、個々の層に対する異なるマーケティングアプローチが必要と説いています。

特に初期の採用と後期の採用者は、構成する人々の特徴も、ニーズも大きく異なります。このキャズムを超えるためには、「アーリーマジョリティ」に対してのマーケティングが重要であることを説いています。

どちらが正しいということではなく、ロジャースのイノベーター理論(普及学)は、農村社会学の研究がベースであり、ムーアのキャズム理論は自身のハイテク業界における拡散プロセスを提唱しています。

現在にあてはめるなら、BtoCのフード業界などであれば専門性など不要であり、拡散は自然発生的だと考えることもできます。ただBtoB SaaSであれば、キャズム理論はしっくりくるかと思います。もちろんキャズム理論は、ハイテク業界以外でもあてはまる製品・サービスは多いでしょう。

キャズムの図

プロダクトアダプテーションサイクルとイノベーター理論(普及学)

プロダクトアダプテーション(Product Adaptaion)とは、既存の製品のカスタマイズや修正に基づいて、市場に適応させるプロセスのことです。

顧客のニーズ、好み、文化などを踏まえて、特定の地域や社会グループで人気のある製品を修正するプロセスであり、輸出企業がよく使う戦略です。

例えば、ファーストフード各社(マクドナルド、ケンタッキーフライドチキン等)が海外進出する際に各国の宗教、食文化に配慮しメニューを一部変更しています。製品の中核は同じですが、よりきめ細やかに顧客ニーズを捉え世界に浸透しています。

このプロダクトアダプテーションサイクルと、イノベーター理論(普及学)をかけ合わせて考えることで、新製品を市場に普及させていく鍵となります。

5つの異なる社会のグループにあわせてどのように製品・サービスをカスタマイズしていくか、マーケティングアプローチをどう変えるかによって、製品・サービスがマジョリテイにまで行き渡るかが決まります。

(参考:marketing91smallbusiness.chron.com

イノベーター理論(普及学)の5タイプ

ここでは、イノベーター理論(普及学)で出てくる5タイプの採用者(購入者)の特徴を解説します。

イノベーター

イノベーターを直訳すると「革新者」ですが、マーケティング領域では「新たに現れた商品やサービス、ライフスタイルなどを、最も早い段階で受け入れる者」を指します。

イノベーターとは新しい技術、考え方、アイデアなどを真っ先に評価して使い始める層です。事例や世間の評判などではなく、自分自身の興味で購入します。ただ、その分野のリテラシーが高いこと、その領域では革新的な製品・サービスを好み、リスクを問わないことは共通しているでしょう。全体の2.5%の割合で存在します。

イノベーターの特徴は、あまり世間の表に出ない存在であることです。テクノロジー業界であれば純粋に技術のみに関心があり、自身を大々的にPRすることはあまりありません。

アーリーアダプター

アーリーアダプターは、イノベーターに続いて新しい製品・サービス、テクノロジーなどを早期導入する初期段階の顧客です。

製品・サービスの品質やサポート体制などに率直に役立つフィードバックを提供することから、「ライトハウスカスタマー (灯台顧客)」とも呼ばれます。暗い海を照らす灯台のように、市場の先を照らす存在という意味です。

アーリーアダプターは革新的な技術、アイデア、潮流を理解する能力を持ちます。しかし、まったく根拠もなく飛びつくのではなく、先進的なイノベーターが使い始めた段階で強い関心を持ちます。

発信力や影響力が強く、大多数からみてトップグループ、業界のリーダーに見えるところが特徴です。ビジネス誌によく登場する識者、インフルエンサーなどが該当します。このアーリーアダプターの行動は、アーリーマジョリティに大きな影響を与えます。

アーリーマジョリティー

アーリーマジョリティは、イノベーターやアーリーアダプターが新しい製品・サービスを導入しているのを目にしてから使い始める層です。どちらかというと保守的ですが、新しい製品・サービスへ、平均より早く興味を持ち導入する人たちであり、全人口の約3分の1の割合で存在します。

アーリーマジョリティが製活用する段階になると、製品・サービスの普率率が50%に到達します。アーリーマジョリティにまで製品・サービスが普及する企業は、他社の参入前に、初期市場シェアを獲得した企業が多いと言われます。

サービスの革新性と共に、安心感、信頼感、メリット重視する傾向があり、BtoBでいえば、事例が十分に出そろった段階で導入するごく一般的な企業です。

レイトマジョリティ

レイトマジョリティとは、社会の半数以上がその製品・サービスを使うほど一般化した段階で使い始める人たちです。

保守的で、新しい製品・サービスに対してそれほど興味がなく、かといって拒否反応を示すほどでもない層です。ただ、リスクを避けたいため、できるだけ現状維持を志向する傾向が強く、新しい製品・サービスを購入する際はレビューなどをしっかり読み込み時間をかけて検討します。

ラガード

ラガードは、新しい製品・サービスにあまり関心を持たず、周囲が使っているからという理由で歩調を合わせることもしない層です。

狭いコミュニティから出ることも少なく、他の層に対する影響力もないと言われます。何かを変えることをとことん嫌い、昔からのやり方を踏襲する企業、個人などが該当します。

ラガードの特徴はレイトマジョリティとは異なり、ラガードなりの信念、合理的な考え方がベースにあることです。例えば、ガラケ―愛用者であれば「電話は通話のみに使用できればよい」という理屈です。

イノベーター理論(普及学)の溝「キャズム」を乗り超えるには?

多くの新商品は、アーリーアダプターまで到達した段階で力尽きてしまう傾向があります。広く普及させるには、前述のキャズムを乗り越えなければなりません。

キャズムを超えられるかどうかは、大きな課題です。例えば、日頃使っているFacebook、TwitterなどのSNSなどは、すでにキャズムを超えているでしょう。しかし、TikTokはまだ超えていないかもしれません。音声SNSのclubhouseは一挙に日本でも盛り上がったものの、越えられていません。

ここ1~2年で日本でもキャズムを超えた、あるいは超えるか超えないかといわれている新しい概念、プロダクトには以下があります。

なお、キャズムはどこかが認定するわけではないので、統計数字から後々判断するか、ざっくり2人に1人が知っているという肌感覚で判断することになります。

キャズムを超えるためには、まずは初期市場でシェアを確立して知名度を上げる必要がありますが、その後は各層にフォーカスしたマーケティング施策を繰り出すことが重要です。

イノベーターに知ってもらい、アーリーアダプターに拡散してもらい、その後はマジョリティ層に安心してもらうもしくは危機感を持ってもらうことがポイントです。

以下に各層に対するマーケティングのポイントを解説します。

対イノベーター

製品・サービスの機能が革新的であれば、強い関心を持ってもらえます。製品・サービスのテスト段階で特別価格で活用してもらい、フィードバックを得ながら製品のカスタマイズに活かすなど、協力関係を築くアプローチをとるとイノベーターと企業双方にとってメリットがあり、良い関係性を築けます。

  • ベータ版(無料試作バージョン)のリリース
  • ユーザーコミュニティでイノベーターに特典付与

対アーリーアダプター

新しい情報、新しい概念、新しいテクノロジー、トレンドなどに敏感であり、自分自身で積極的に情報をとりにいく層です。また、アーリーアダプタ層もベンダーに対して積極的にフィードバックをしてくれたり、周囲にそれを拡散したりすることに長けた層です。対策としては以下があります。

  • ホワイトペーパーなどで詳細な情報提供
  • モニター、インフルエンサーとしての登用
  • 業界の潮流がわかるような先端のセミナー開催

対アーリーマジョリティー

平均よりは新しい物好きな層ですが、リスクは好みません。安心、安全な製品・サービスを好むので、何よりも事例が重要です。また、製品・サービスについての専門知識はあまりないことが多いので、わかりやすいサクセスストーリー、導入ガイド、サポート体制のアピールなども効果的です。

  • 先進的な企業(アーリーアダプター層)の事例
  • わかりやすい導入ガイド
  • 企業のメディア露出(サクセスストーリー、開発秘話等)
  • SNSマーケティング

対レイトマジョリティ

新しい概念、変革などに懐疑的です。大多数が使っている段階になってようやく製品・サービスに関心を持つ層です。言いかえれば、周囲の大多数に合わせて動く傾向があります。そのため、レイトマジョリティがどう動くかは、アーリーマジョリティへのマーケティング施策が影響します。

リスクを嫌い多数派のレビュー、信頼する人の評価、口コミなどを重視します。レイトマジョリティ対策には以下があります。損をしない価格的なメリットを提示することもポイントです。

  • リスクのないことを強調
  • 豊富な実績があることを強調
  • レビューサイトへのレスポンス
  • リファラルマーケティング

対ラガード

現状維持を好み、変化を嫌うマーケティングの難しい層です。新しいことへの関心があまりありません。この層には、通常積極的にマーケティングをしないケースが多いと言えます。

アプローチする場合は、導入しないことに対するリスクの強調、すでに大多数が活用していることを示すデータが必要です。

まとめ

SaaSもここ1~2年、ようやく「SaaSはキャズムを超えていく」、「SaaSはもはやキャズムを超えた」と表現されるようになってきました。自社の製品・サービスはいかがでしょうか?  現在、イノベーター理論(普及学)のどこの段階に位置しているかを確認してみましょう。 

マーケットは常に変化します。イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードの特性を理解し、自社製品・サービスが今どの段階にあるかを意識してマーケティング活動を行うことがポイントです。

戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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