マーケティングの記事を読むとアップル、スターバックス、Nike、日本だとユニクロなど、BtoC企業の事例ばかり出てきます。誰もが知っているメーカーであることや、そもそもBtoC企業は広告宣伝に多大な予算を費やしてきたので、マーケティング巧者が多いという理由もあるでしょう。
BtoBの公開事例を探すのはなかなか困難です。成功していないわけではもちろんありません。世界では多くのBtoB巨大企業が存在します。日本でも世界シェア1位のBtoB企業は珍しくありません。
BtoBビジネスに携わっているビジネスマンたちも、取引のスケールの大きさ、社会的貢献度の高さから、仕事に誇りとやりがいを持っています。にもかかわらず露出度が低いため社会に知られておらず、専門性が高いため同じBtoBであっても市場が違えば門外漢といった感じで、全体像が見えづらいのがBtoB市場だと言えるでしょう。
そこで本記事では、BtoBビジネスの構造、BtoCビジネスとの違い、BtoBビジネスの購買プロセスについて解説します。
BtoBビジネスとは
BtoBビジネスとは、法人向けのビジネスを指します。
一般には企業間ビジネスを指しますが、企業以外にも政府自治体、学校法人、医療法人、NGOなどの非営利組織を対象したビジネスを含んで解釈されているので、「組織対組織のビジネス」と理解するとわかりやすいでしょう。
細かく言えば、国・自治体向けのビジネスは「BtoG」というカテゴリーになります。しかし、現実にはBtoB企業の一事業であることがほとんどです。国や行政のプロジェクトは莫大な予算が投下されるため、BtoB企業の稼ぎ頭の事業でもあります。
産業分類、中分類、小分類
日本には約367万の企業が存在します。原材料や素材を売る企業、完成品を売る企業、仲介する企業、サービス業など非常にさまざまで、総務省の産業分類で大分類20、中分類99、小分類 530、細分類 1460と業種が分けられています。
つまり、日本には1460業界360万社のBtoBマーケットが存在しているのです。なお、グローバルでは国連による国際標準産業分類(ISIC ) が存在します。
BtoB企業の顧客は、BtoB企業の場合もあればBtoC企業の場合もあります。しかし、例えばBtoCの自動車メーカー、アパレルメーカー、小売り企業などのサプライチェーンにもBtoB企業は入り込んでおり、さまざまな部品、原材料などを供給し消費者市場を下支えしているのです。
(出典:業種コード表(日本標準産業分類)| 三重県)
BtoBビジネスとBtoCビジネスの違い
BtoBビジネスとBtoCビジネスは構造が違います。見込み客の立場、取引規模、取引が決まるまでの時間、購買基準などがそれぞれ異なります。
そのため、BtoBとBtoCではマーケティングやセールスの重要なポイントも異なります。BtoBマーケターは、BtoB購買者について詳しく理解しなければなりません。
BtoBビジネスに関わる購買者の行動特徴
自分の車を買う、スマホを買うといったBtoCなら個人の嗜好、欲しいという欲求で何かを買っても問題ありません。
しかし、BtoBビジネスの購買担当者は、あくまで組織のために購買しています。何かしらの組織の課題を解決するために、組織をよりよくするための購入であり合目的です。
そのため、一般的に購買者は以下の行動をとります。
- 課題・ニーズがあるときに購買する
- 情報収集に熱心である
- 複数の企業から1社を選定する
- 費用対効果を重視する
- 多角的に検討する
- リスクヘッジに余念がない
- 稟議というプロセスを経る
仕事で購買する以上責任は重大。また、自分の評価にもつながるので失敗したくないという心理も働くでしょう。判断で優先されるのはまず必須要件、機能要件。個人の嗜好、ベンダーの営業担当者との相性なども影響することはありますが、あくまで一定レベルの基準をクリアしたあとの話です。
(書籍『BtoBマーケティングの基礎知識』P14の図をもとに作成)
BtoBビジネスに関わる購買者の状況特徴
BtoB企業の購買者が何かを購入するシチュエーションは、主に以下3パターンです。
- 日常的な購買:
電気、水道、通信、オフィス用品等の再購入。調達担当者が日常的に行っていることである。このような購買も初期にすでに厳しく選定されているため満足度は安定しており、不良品など問題が発生しなければ取引は長く継続していく。
- 修正購買:
PC、クラウドサービス、コンサルティングサービス、社用車など、ビジネスそのものに活用するツールなどは、ビジネスに直結する商品・サービスの購入は自動的に取引が継続されることは少なく、再度担当者が購買プロセスを経ることが一般的。
※アクセンチュアの2019年の調査によると、B2B バイヤーの80%はサプライヤーに不満を抱えており、2年に1回はサプライヤーを切り替えています。新たなベンダーも含め、仕様、価格、アフターサービスなどを総合的に検討し選定されるので、新規参入企業にとってはチャンス。
- 新規購買:新しく導入する機器、システム、サービス等。あるいは新しいオフィス、工場の建設等。これまでに購入したことのない製品やサービスの購買には、情報収集をはじめさまざまなタスクが必要。金額が大きければ大きいほど、リスクが高ければ高いほど意思決定参加者の数が増え、慎重に検討される。
3つの購買シチュエーション(製造業の例)
(フィリップ・コトラー氏の書籍『Marketing (English Edition)』242P のThree types of Industrial buying situationをもとに作成)
BtoBビジネスに関わる購買者達
BtoBビジネスでは購買に関わる人が複数います。このような購買グループのことを「DMU(購買意思決定ユニット)」と呼び、以下6つの役割を担うメンバーが存在します。
- The initiator(イニシエイター)
製品の購入を提案する人。SaaSであれば実際にシステムを活用する現場のマネージャーなど、ツールの必要性を理解し社内で声を上げる人。経営者の場合もあります。
- The deciders(決裁者)
決裁者とは、購入の最終的な決定をする人です。導入を決める社内的な権力、実力を持っている人であり、キーマンです。
- The purchaser(購入者)
部品や資材など物販の場合は、企業の購買部が担当することが多く、SaaSなどのサービスになると、プロダクトを使うユーザー部門の責任者です。
- Influencers(インフルエンサー)
購入に大きな影響力を持つ社内の実力者、自社にとってメリットのある新しい情報をいち早く感知し、良い提案であれば後押しします。
- gatekeepers(ゲートキーパー)
直訳すると「門番」。購買部門のマネージャー、SaaSであれば社内のIT部門のマネージャー、法務部門等。提供する企業や契約内容に問題がないかを監視します。
- users(ユーザー)ユーザー とは、製品・サービスを活用する部署の人達です。
それぞれカスタマージャーニー上で、登場するタイミングも違います。以下は一例(決裁者が所属長の場合)ですが、後半になるほどいろいろなチェックが入ります。
BtoBビジネスで購買に影響を与える要素
BtoBビジネスの購買にはさまざまな変数が存在します。企業の購買担当者はその影響を受けながら、サプライヤーを選びますし、最終的には購買担当者の価値観、個性も購買の意志決定に影響します。
以下に主要な影響を与える要素を記載します。
- 外部環境:
まず、景気の変動、今後の市場の動き、規制の動向など外部環境を気にします。景気が大きく落ち込むなら経費は抑えなければと考えますし、法規制が変われば対応するためのツールが必要になるかもしれません。すぐは購入しなくても先を予測して、何が今後必要になり不要になるかを考えます。
- 内部環境:
組織の中からの影響もあります。金額の大きい購買は、経営層、経理の理解は必須です。プロダクトによっては関係部署への社内調整も必要になります(SaaSなどのITツールであれば、すでに使用しているシステムとの連携も重要)。
- 担当者の個性:
BtoBの購買は、BtoCに比べれば論理的・客観的に決まりますが、購買担当者の個性も変数として影響します。特に、どのサプライヤーでも大差ないというケースでは担当者の価値観が色濃く反映されます。価格の安さで選ぶか、ブランドで選ぶか、ベンダーの担当者能力で選ぶかなどは担当者の考え方によります。
BtoBビジネスの購買プロセス
BtoBビジネスの購買プロセスには、型があります。一般に新規商品の購買プロセスは以下の流れで進みます。
- 課題の認識
課題は、担当者が業務上感じていたり、社内から声が上がったりするなど内部から発生する場合もあれば、展示会やカンファレンス、メールマガジンなど外部の情報に触れて気づくこともあります。ダークソーシャル(仲間内のコミュニティ)から、成功事例、サプライヤーの評判を聞いて興味を持つ例などがあります。
- ニーズの整理
課題・ニーズを認識したバイヤーは、そのニーズがどの程度の強さか、具体的に何が必要かを整理してまとめます。
- 製品仕様
社内のニーズをもとに、購買すべき製品の仕様を決定します。
- 情報・サプライヤー検索
ニーズに基づき、情報収集します。インターネットで検索しベンダーを探し、SNSやレビューサイトの評判なども考慮し、機能と価格が条件内の数社程度に絞り込みます。
- 提案募集
絞り込んだベンダーに提案書の作成や見積もりを依頼します。あるいは各社の無料トライアルをテストします。
- サプライヤーの選定
社内でサプライヤー選定手続きに入ります。機能、価格、操作性、アフターサービス、実績の豊富さなどを踏まえて1社に選定します。
- 発注仕様決定
正式発注を決定し、詳細な仕様を再度決め契約手続きに入ります。
BtoB担当者を取り巻く環境と、その中で担当者が行うべきフローを図にすると以下のような感じです。
変化する購買スタイル
2020年の米国の統計で、B2Bバイヤーはカスタマージャーニーの約70%をベンダーに連絡する前に完了しているというデータがあります。少し前までの他調査では50〜60%でしたが、オンライン上でできることが広がるにつれ、購買プロセスもよりデジタル化していることがうかがえます。
また、Webサイトはもちろん、最近だと53%のBtoBマーケターが、購入プロセス中にソーシャルメディアをリソースとして使用しているというデータも出ています。BtoB―EC市場も物販、サービス、デジタル分野で急速な伸びを示しています。この近年の変化は、皆さんの肌感覚も近いのではないでしょうか? 今後も、オンラインに置き換えられるところはどんどん移行していくかと思います。
情報収集元の割合
(引用元:https://backlinko.com/hub/content/b2b)
変化すべきマーケティング・セールス
購買フローが大きく変わったのであれば、営業フローも変えなければなりません。
もちろん、取引規模の大きなBtoBビジネスでは、展示会や営業担当者はいまだ重要で強力なチャネルであることも事実です。
今後も、リアルが強力なチャネルになるビジネスモデルなら、見込み客の購買フローの前半領域から、営業部門とマーケティング部門の連携をますます強める必要があります。
余談ですが、この両部署が対立しがちなのは、御社や日本だけでなく海外でも同じであり、フィリップ・コトラー氏が2000年代前半に「営業とマーケティングの壁を壊すー 連携の密度が業績に直結する」という論文を出しているくらいです。
営業部門の存在感の大きさも、BtoBビジネスの特徴です。何千万円以上の取引をオンラインで簡単に決められるものでもなく、専門性の高いプロダクトであるほど購入後のリレーション、コンサルティングが必要です。売り切り型が多いBtoCとは大きく違うことを意識して、営業・マーケティング体制を組み立てましょう。
まとめ
マーケターでも営業マンでも、BtoCからBtoBあるいはその逆に転職すると、なかなか当初から力が発揮できないことがあります。セールスサイクル、顧客の購買基準などがかなり異なるからです。営業だと好かれる個性も変わってくるのではないかと思います。
クリエイティブスタッフも、BtoBの広告制作は得意だけどBtoCは苦手、その逆のパターンがあります。「論理」か「感情」のどちらが優位になるかは、思いのほかいろいろなところで違いを生み出すのかもしれません。
世の中に出回っているマーケティングノウハウには、BtoC向けの内容が多いので、BtoBマーケターはBtoBビジネスの特徴、BtoB購買者の立場、重視している判断基準を意識してマーケティング戦略をたてる必要があります。
「感情でなく論理」「複数の購買関係者がいる」「購買の約6-7割がオンラインで完結する」「営業部門との連携が重要」といったBtoBビジネスならではのポイントを押さえておきましょう。