Webマーケテイングは、大きな企業に対して中小、中堅規模の企業が先んじて見込み客にリーチする、最も費用対効果の高い方法と言われています。
しかし、決して簡単ではありません。日々Web上には新たなチャネル、メディアが増え、テクノロジーも凄い勢いで進化していきます。検索エンジンのアルゴリズムも、すぐアップデート。マーケターは常に変化やトレンドをキャッチしながら見込み客とつながり、成果が上がるマーケティング手法を選ばなければなりません。
とはいえ、Webマーケティングはターゲティングが細かく指定できて、広告は成果報酬がメイン、SNSやBlogなど無料でできる打ち手が多いので、リアルなマーケティングより手堅く成果を上げやすいのはたしか。予算が少ない企業のマーケターにとってWebマーケティングスキルを高めることは必須です。
本記事では、Webマーケティングの戦略を立てる際の基本、Webマーケティングの有力な手法などを解説します。
Webマーケティングとは、Webを活用して商品・サービスを売っていくマーケティング施策です。
※Webは「World Wide Web(URLのwww)」の略であり、本来はインターネットを通じてアクセス可能な公開ウェブページの相互接続されたシステムを指します。ただ、一般にはWeb=インターネットという意味で浸透しているので、Webマーケティング=インターネット上のマーケティングという意味で活用して問題ないでしょう
デジタルとはパソコン、スマホ、ゲーム機器、CRM、SFA、最近だとAR、VR、ブロックチェーンなどインターネットに接続する電子機器を指します。テレビ、ラジオなどオフラインの電子機器を含む解釈もあります。
ですので、デジタルマーケティングには、CRMマーケティング、ARマーケティング、ビルボードマーケティング、(場合によってはテレビCM)なども含む広範な概念です。
その一方でWebマーケティングは、広大なデジタルマーケティングの一領域です。
今後、IoT化が進めばAlexaのようなスマートスピーカーを活用したマーケティングやIoT家電(お掃除マシン等)を活用したマーケティング手法など、さらにデジタルマーケティングは拡張していくでしょう。
ここでは、Webマーケティングの戦略を立てるときの基本を解説します。
まず、BtoBマーケティングの全体像の中での、Webマーケティングの位置を理解しておきましょう。以下の図の「インバウンド型」に相当する領域です。
Web上での見込み客の発掘からリード化、選別、最終的には営業へ引き渡す案件獲得までを行います。
Webマーケティングの戦略を立てる際に、まずすべきことは「適切な目標設定」です。当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、適切な目標設定は意外にできていないものです。この考えは、施策を簡単に実行でき、打ち手が数多くあるWebマーケティングやデジタルマーケティングの施策では特に重要になります。
たとえばBtoB企業であれば、打ち手として一般的な展示会の施策の場合、獲得した名刺から商談創出数を最大化する際、ブースに立ち寄る展示会一般参加者の数の増加、話しかける数の増加、名刺の獲得数の増加、というように、比較的商談創出に影響を与える変数が分かりやすく少ないという特徴があります。
一方で、Webマーケティングは広告にしてもWebサイト上での施策にしても、Web訪問者が気の赴くまま検索をし、SNSを見て、Webサイトを訪問。さまざまなコンテンツを摂取することが可能で、変数が限りなく増えていくため、明確な目標設定が必要になります。
では、正しい目標設定は、どのようにすべきでしょうか。ダイエットを開始する前に自分の体重を知るように、Webマーケティングでも、現在の自分たちのレベルを正しく把握する必要があります。今のWebマーケティングの状況はどうでしょうか?
Google AnalyticsやSEOの月間検索ボリュームを測るツール、SNSのインプレッション数を測るツールetcなどを使っている場合、重要指標(リード創出数、トラフィック、CVR率など)を数値で出してみましょう。
そして、現状を理解した上で自分たちが理想とする数値、理想の状況を描きます。フレームワーク「As Is」と「To Be」を活用すると便利です。現状、理想(目標)を明らかにし、ギャップを埋めるための具体的な施策を書き込んでいきましょう。こうすることで、何を優先して取り組むかがわかります。
SMARTゴールの設定
マーケティング目標を立てます。目標は、具体的でなければなりません。目標設定の基本フレームワーク「SMARTの法則」を意識しましょう。以下の5つの構成要素は「成功因子」とも呼ばれ、5項目に沿って目標設定すると、成功可能性が高まると言われています。
5つの成功因子
マーケティング戦略で打ち出すべき、自社の優位性、独自性を把握しましょう。つまり、見込み客に「うちはこういう会社でこういう価値がある」というコンセプトです。
自社の価値は自社視点で考えるのではなく、客観的に俯瞰してとらえましょう。
活用できるフレームワークはいくつかありますが、ここでは大前研一氏が開発した「3C分析」を紹介します。「顧客」「競合会社」「自社」の視点で自社を分析する、シンプルながらバランスの良いフレームワークです。
市場・顧客の分析:
問:市場は今後も成長するか? 顧客のニーズ・課題・ペインは?
競合企業(ライバル)の分析:
問:どのような製品戦略か? 価格戦略か? どのようなマーケティング手法か? 強み?
自社の分析:
問:顧客から何が評価されているか? 技術力は高い? 高価格帯か、低価格帯か? 他社に比べてどう使いやすいか? 買いやすいか?
このように自社の特徴を整理した上で、バリュープロポジションを構築します。
バリュープロポジションとは、「顧客が求めている価値」「自社が提供できる価値」「競合他社が提供できない価値」を両立できる領域が、競争優位性につながる領域です。バリュープロポジションはマーケティング活動だけでなく事業の核でもあります。
手順:3Cでピックアップした要素から、バリュープロポジションに相当することを、すべて抽出します。さらに、その特徴を重要な価値として言語化します。そのためのフレームワークも複数存在するので活用しましょう。
最終的なステートメント作成は、外部のコピーライターに作成依頼してもよいでしょう。同じ内容でも研ぎ澄まされた表現になり、自社の価値が明確になります。
ペルソナとは、自社の理想的な顧客プロファイルです。Webマーケティングでは直接見込み客と会うことがないため、見込み客像を明確にできるかどうかがマーケティング成果に大きく影響します。
紙のテンプレートでもペルソナ作成ツールでもどちらでもよいので、自社の理想の顧客とはどのような業種、企業に勤めていて、役職は何で、購入するサービスは何を重視していて予算感はどのくらいか、悩んでいる課題は何か? などを明らかにしていきましょう。メッセージを届けたい人のイメージが焼き付くように顔写真もつけます。
以下は、HubSpotの2015年位のペルソナの一人「マーケティングのマリー」です。HubSpotを好む中規模企業に勤めるマーケターという設定。いかにもいそうな人物ですが、架空のプロファイルです。
(出典:HubSpot)
ペルソナは、自社の見込み客の特徴を分類して何人か作るとよいでしょう。「アンチペルソナ」といって、まったく顧客になる可能性がないタイプの見込み客のペルソナも作成しておくことも、仕事の効率アップにつながります。
カスタマージャーニーとは、ペルソナが何か課題を発見してから、自社商品・サービスを知り、購入にいたるまでの行動パターンを可視化したものです。
広告を出すにも、SNSでメッセージを発信するにも、見込み客がいるチャネルでなければ意味はありません。ペルソナが検索エンジンで何のキーワードで検索するか? SNSやメディアは何を好むのかなどを、カスタマージャーニーに書いていきましょう。
さらに、各段階でどんな事例が必要かなども明確にしていきます。このようにペルソナの心理や行動の変化を時系列にまとめると、計画的で的を射たマーケティングプランを立てられます。
ここまでできてから、具体的なWebマーケティングの施策を決めていきます。
ここでは、主なWebマーケティングの打ち手を紹介します。
検索エンジン最適化(SEO)とは、所定のキーワードでのGoogle、Yahooなどの検索結果の順位を向上させることです。自社の商品・サービスを求めている見込客(ペルソナ)が、「どのキーワード」で検索するかを把握し、そのキーワード検索における上位表示を目指します。
SEO対策ではキーワード選定が非常に重要です。検索エンジンのアルゴリズムは定期的にアップデートされますが、基本は検索する人の探している情報を網羅しているサイトが上位に来ます。
ただし、どのキーワードで検索するかは、ペルソナのタイプ、検討段階によって一般に以下のように異なるので、前述のカスタマージャーニーに沿ってキーワードも選定しておく必要があります。キーワード設定についての詳細はこちらをご覧ください。
各ペルソナごとのキーワードを想定し、マップにまとめておくと理解しやすくなります。
例:人事向けSaaSのキーワード
(各ペルソナに対するキーワードマップ)
オンライン広告は、Webマーケティングの施策の中でもスピーディに見込み客とつながることのできる施策です。また、成果報酬型プランが多いので、安心して取り組める打ち手のひとつです。ここでは主要なオンライン広告を4件紹介します。
ディスプレイ広告とは、Google、Yahoo!などのポータルサイトやWebメディアの広告枠に表示される広告です。メディアのコンテンツと関連性の高い広告を配信できるので、「コンテンツ連動型広告」とも呼ばれます。
潜在層向けの広告手法であり、多くの人が自然に目をとめられる位置に広告展開するため、派手な印象があるでしょう。ただ、ユーザーの年齢、性別、関心を持つページなどをもとにした詳細なターゲティングができますし、他のオンライン広告同様、価格も成果報酬型プランが中心なため、ROIが高くなりやすい手法です。
(Yahoo! JAPAN天気・災害に表示されたディスプレイ広告)
リスティング広告は、GoogleやYahoo!などの検索画面に表示されるテキスト広告です。ユーザーが検索したキーワードに応じて広告が表示されます。
以下のように検索結果の頁の一番上に表示されるため、検索エンジンからサイトへの流入を増やすことができます。一般に公式HPやオウンドメディアをSEO対策などで上位表示させるには、それなりの期間がかかりますが。リスティング広告は費用さえかければ、すぐ掲載できる速効性が長所です。
記事広告とは、掲載する媒体(メディア)の記事と同じフォーマットで作成される広告であり、ネイティブ広告の一種です。記事のように第3者的なスタンスで打ち出しますが、実際は広告であり、記事本体や見出しには、「広告」「PR」「AD」などが明記されます。
記事広告は、ブランディングにつながるところが長所です。記事のフォーマットと同じためメディアや取材記事に掲載されている企業と同等の印象を持たれやすいからです(その代わり、コンテンツ制作にはメディアごとにいろいろなルールがあります)。
何より、ユーザーの目に自然にとまるため、閲覧率が高くなるところが長所です。SEO効果にもつながります。
(出典:ダイヤモンド・オンライン)
注意点としてはメディアの選び方を間違えないこと、必ず「AD」などクレジットを記載することです(ないとステルスマーケティングと捉えられます)
リターゲティング広告は、自社サイトに訪問履歴のあるユーザーに、GoogleやYahoo!、SNSなどのプラットフォームを通じて、再度広告を配信する手法です。配信する際は自社に合った媒体を選ぶことができます。
近年はネット上の情報が膨大なので、一度興味を持って閲覧したサイトもネットサーフィンしているうちに探せなくなるケースがあります。リターゲティング広告によって複数回見ることができれば、認知度が高くなる可能性があるでしょう。
しかし、リターゲティング広告は配信先選びやコントロールが難しいので、マーケティング初心者には難しい手法です。中級者もしくは外部委託向きです。
SNSマーケティングは、SNS上で情報を発信し、ファンを増やしたりブランド認知度を向上させたり、売上獲得につなげていくマーケティング手法です。
無料で企業アカウント、社員アカウントを作成し、見込み客に役立つ情報を継続的に発信できます。SNSのユーザーは年齢、性別、住まい、企業なら業種、概要などを登録しています。詳細で巨大なデータベースをもとにアプローチでき、さらに拡散効果まであります。
株式会社ニュートラルワークスが、2022年9月にWebマーケティング担当者106人に実施した意識調査によると、Webマーケティング担当者として、最も得意と感じる領域は「SNS運用」「SNS広告」です(BtoCも含む)。近年、SNSマーケに力を入れる企業が増え、また比較的成功していることがうかがえます。
2021年9月のファベル カンパニー社調査によると、BtoB企業が活用するSNSのトップは、YouTube(28.9%)。次がFacebookで(22.5%)、Twitter(21.5%)。もちろん、あくまでペルソナが愛用している必要がありますが、こういったトレンドも参考にしましょう。
(出典:ミエルカコネクト)
LPOとは、ランディングページ最適化またはコンバージョン最適化(CRO)と呼ばれる、マーケティング手法です。ランディングページとは見込み客がオンライン広告や検索結果をクリックした際に最初に表示されるページであり、見込み客がリードに変わる重要なポイントです。コンバージョン率が上がりやすいランディングページの特徴は以下の通りです。
例: Moosend社
(出典:https://moosend.com/email-marketing/)
Eメールマーケティングとは、メールアドレスを保有するリードに対し、メールで継続して情報を送り、見込み客との関係性を育てて問合せ、商談に結びつけるマーケティングです。
カスタマージャーニーの初期〜商談にいたるまで一貫して活用できる使い勝手の良さも魅力。Facebook や Twitter などのプラットフォームと比較して、コンバージョン率が40% 優れているという海外データもあります。具体的な活用方法は以下の通りです。
メールマーケティングは、大がかりなコンテンツを作成する必要がなく手軽で、費用対効果がよい点が長所。さまざまな企業のWebマーケティングのROI調査において、SEOと共に毎回上位です(1位か2位になることが多い)。
(出典:B2B marketing trends for more leads and sales in 2021|Smart Insight)
BtoBは専門性が高いので、他社の成功例を参考にしつつも自社のペルソナとカスタマージャーニーに沿って施策を決めるのが基本です。
ただ、チャネルのパワーは変化していくので、国内外のトレンドもある程度参考にしましょう。例えば、前述の2調査を見ると国内外ともSNS広告・SNS運用が支持されてきています。
迷う場合は、資源配分の黄金比率「70対20対10の法則」を参考にするとよいでしょう。70%は実績のある打ち手、20%は新しい打ち手、10%は実験的な打ち手に配分すると、成功体験にとらわれすぎず新たな挑戦もできバランスがよくなります(ベンチャーなら50対30対20も可)。
ここでは、Webマーケティングの特徴を解説します。
Webマーケティングは、お金をあまりかけずに始めることが可能です。
例えば広告なら、以下の価格プランを選択すれば初期投資を押さえられます。
SNS投稿は無料ででき、Eメールマーケティングも人件費以外はそれほどかかりません(いずれも成果が出るまで時間はかかりますが)。これがリアルだと、地域のフリーペーパーの広告でも結構な費用。お金をかけて反響ゼロということもあります。Webマーケティングはリスクの少ない施策なのです。
Web上は、リスティング広告であれSNS広告であれ、ターゲティングが可能です。見込み客の属性に応じた広告を配信できるからこそ、無駄なコストがかからず、費用対効果(ROI)も高くなります。
前述のようにSNSなどはかなり詳細なデータベースを保有。BtoB企業のプロダクトは万人向けではなく特定の人たち向けなので、以下のようにターゲティングを細かくできることは、大きなポイントです。
昔は、テレビ・ラジオのCMを出せるような企業はBtoCの大手企業が中心でした。大手メディアが取材してくれない企業、広告を出せない企業はなかなか世に知られず、世界的シェアを持っていても無名ということが珍しくありません。
しかし、今はWeb上に無料で告知できるメディアが多々あります。自社の得意領域にしぼって集中的にマーケティングすれば、その領域のソートリーダーシップになることは可能です。幸い、今の人はSNS上での評判やレビューサイトのスコアなどを広告などより評価します。
ニッチな市場にしぼってマーケティングを他社より早く始めることで、社名、カルチャー、自社のプロダクトを知ってもらいブランディングにつなげることが可能です。Google検索上位に出てくる企業は規模は小さくてもある程度信頼されます。Twitterなどを活用して信頼度を高めて、仕事が受注できている企業も少なくありません。
Webマーケティングは、オンライン上のユーザーの動きを定量で把握できるため、マーケティング施策を検証しやすいところも長所です。
トラフィック数、クリックスルー率(CTR)、インプレッション数、コンバージョン数などの指標をモニターしていると、どの領域がボトルネックか見えるので、施策の改善も容易です(チャネルの問題なのか、原因が導線なのか、コンテンツか)。
例えば、より迅速に効果を出す必要が出てきているのであれば、広告に予算を振り替えるなど素早くプランを修正できます。継続して数値を追いながら、マーケティングキャンペーンを最適化できる点は、オフラインの手法と大きく違うところでしょう。
しかも、Google Analytics、Google Search Console、Twitterアナリティクスなど無料ツールを活用できます。ユーザーは複数のチャネルを経由するので、確実にこの施策の成果とは言えないケースはあるものの、マーケティングキャンペーン全体の検証は可能ですし、オフラインマーケティングと比較すると、はるかに成果評価をはっきりできます。
(出典:Google)
Webマーケティングには、SEO、広告、メールマーケティング、SNSマーケティングなどさまざまな手法がありますが、共通しているのはリアルなマーケティング手法と比べると、それほど費用をかけずに始められることです。
さらに、今は分析・検証ツールも検索エンジンやSNSプラットフォームが無料で出しており、リード管理のCRMにも無料ツールがあります。それこそ意欲さえあればどんな中小企業でもWebマーケティングをスタートできるでしょう(成果が上がるまで時間はかかるので継続する力は必要)。
トレンドが速いのでマーケターは常に勉強しなければならないですし、頭脳と感性を使う大変な仕事ですが、会社として手掛ける価値は十分あります。まずは、自社のマーケティング部門のレベルを確認し、適切な目標設定をして、手掛けやすい打ち手から始め、段階的にマーケティングスキルを向上させていきましょう。