いまさら聞けない「ターゲティング」とは?売り手が買い手にアプローチをするときの基本を解説

2022/06/01
STP分析 マーケティング ターゲティング いまさら聞けない「ターゲティング」とは?売り手が買い手にアプローチをするときの基本を解説

「世界中の人に必要とされる製品を提供したい」こんな企業キャッチコピーを見たことはないでしょうか?

志が高く素晴らしいキャッチコピーですが、この企業理念を自社のマーケティングに落とし込むのは賢明ではないといえます。その理由は「ターゲットが不明瞭だから」です。

不明瞭なターゲティングは自社製品のマーケティングの方向性を見失う危険性を含むほか、顧客側からしても「なぜそのブランドから製品を購入する必要があるのか」が分かりづらいというデメリットがあります。

そこで本記事では、BtoB企業のマーケティングに重要となる「ターゲティング」について、基本知識と期待できる効果、密接な「STP分析」との関係性や併用できる手法について、詳しく解説していきます。

ターゲティングとは?

Targeting

(出典:Search Engine Journal)

マーケティングにおけるターゲティング(Customer targeting)とは、自社製品を購入する可能性のある潜在顧客をそれぞれの特性により分類し、分類した中から自社製品にマッチすると思われる層に狙いを定め、その層に最適とされる方法や戦略を用いてアプローチすることを言います。

ターゲティングを行う利点

ターゲティングを効果的に行うことで、以下のような効果が期待できます。

特定層の潜在顧客へ深く刺さるアプローチができる

自社のブランドに対する見方や、必要とする価値観は顧客によってさまざまです。特定の人が共感を覚えるストーリーやスローガンに対して、別の層は全く違った共感の仕方をすることもあるでしょう。かといって、全ての人に好印象を与えることを目的とした「広く浅い」アプローチでは、顧客一人一人に与える満足度も低くなってしまいがちです。

より細かくターゲティングを行うことで、特定の層のニーズを正確に把握し、その層を十分に満足させられるような効果的なアプローチ方法の策定が行えます。

より見込みの高い潜在顧客へアプローチが可能

ターゲティングでは、そもそも自社製品を購入する可能性の高い潜在顧客に狙いを絞ってアプローチを行います。そのため広い層に向けたマーケティングと比べ、より見込みの高い潜在顧客へのアプローチが可能です。

自社製品にマッチする見込みの高い潜在顧客に絞ってアプローチを行うことで、コンバージョン率や受注成約率のアップに繋げることができます。

自社ブランドの差別化ができる

他社が目をつけていない、もしくは苦手とする層にターゲティングすることで、同じ業界にいるライバル企業との明確な差別化を図れます。

例えば、「同じ〇〇でもよりスタイリッシュなのは□□」といったように、特定層に刺さる明確なブランドイメージの構築も、ターゲティングに期待できる効果のひとつです。

顧客ロイヤルティを高められる

より明確なブランドイメージの構築と他社との差別化ができれば、それらに共感する一定の顧客層の自社ブランドに対するロイヤルティを高められるでしょう。

特定層の顧客の満足度を高め、「〇〇を扱うブランドは多数あるけれど、自分の価値観に合うのは□□」と感じてもらうことができれば、自社製品を再度購入してもらう可能性が高まり、結果として顧客維持率を高く保つことにつながります。

自社製品の改善や新製品の企画につながる

より細かいターゲティングを行い、特定層の満足度を向上させるようなアプローチを模索していると、その層が抱える「悩み」や「課題」を新しく発見できることがあります。

新しく発見した課題を解決できるように製品の改善もしくは新製品の開発を行うことで、その層の顧客をより一層満足させられます。ほかにも、同じ課題を抱える別の層に向けたアプローチが可能となることにも期待ができ、結果としてより広い層への売上げ拡大につながるかもしれません。

ターゲティングの考え方:STP分析

ターゲティングを理解する上では、同時に「STP分析」についても知っておく必要があります。

STP

(出典:Oxford College of Marketing)

STP分析(STP理論)とは、アメリカの経済学者で「近代マーケティングの父」とされるPhilip Kotler(フィリップ・コトラー)氏が提唱したマーケティング理論および分析手法のことです。コトラー氏は、企業のマーケティングにおいて重要となる過程を「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」に分けて考えることが大切であると説いています。

本記事で紹介している「ターゲティング」とはまさに、このSTP分析におけるターゲティングのことを指します。便宜上「ターゲティング」や「セグメンテーション」の一言で、3つのプロセスの一部もしくは全てをひとまとめに含めているケースもありますが、全体の流れとしてSTP分析についても理解しておくとよいでしょう。

そこでまずは、STP分析について以下にざっと解説していきます。

STP分析の全体像について、詳しくは当ブログのこちらの記事でも紹介しているので参考にしてください。本記事と併せて一読いただくと、内容がより深く理解できるかと思います。

S:セグメンテーション

セグメンテーション(Segmentation)とは、市場や顧客を細分化し評価することです。これから自社や自社の製品が参入する市場を細かく分類し評価することで、自社製品にマッチしている市場や顧客の層と、そうでないものを分類でき、次のステップであるターゲティングへ繋げることができます。

市場を細分化する際に指標となり得る要因は、企業の業種や形態によってもさまざまです。なので、ここではセグメンテーションを行う際に使われる代表的な指標を4つ紹介します。

Market-segmentation

(出典:Oberio)

1. 地理的属性情報(Geographics)

地理的属性情報とは、国や市町村、その地域の気候や文化など、潜在顧客の住んでいる地域に関する情報のことです。住んでいる地域によってはアクセスできる場所や情報に限界があったり、気候による需要の偏りや、文化的に好まれる行動や敬遠される行動に特徴があったりします。

例えば、「この地方は雨が全く降らないから〇〇は売れないな……」など自社製品にマッチしない市場を排除することや、「この離島に住んでいる人は〇〇が欲しくても手に入らないのでは?」など、逆に自社製品にプラスとなる要素が見つかる可能性もあります。

2. 人口統計学属性情報(Demographics)

人口統計学属性情報とは、潜在顧客の性別や年齢、職業、収入、学歴や家族構成など、その人個人に関する統計的情報のことです。ある性別や年齢層にしか購入されない製品があったり、そもそも価格的にある一定層は手が出せない製品があったりと、人口統計学属性情報からも市場を分類するのに役立つ情報は多く手に入ります。

BtoBビジネスにおいては、顧客を一人単位で考えることを難しく思ってしまうかもしれません。その場合は、例えば購買担当者などキーマンとなる人物一人に焦点を当ててみる、企業単位(業界や規模など)で考えてみる(例:「業界的にうちの製品にマッチするな……」「会社規模からして予算的にうちの製品は検討しないだろう……」)などの手法が取れる可能性があります。

3. 行動的属性情報(Behaviorals)

行動的属性情報とは、購入頻度、買い換えのタイミング、情報収集の方法、購入決定の要因など、製品購入におけるキーとなる、過程上の潜在顧客の過去の行動履歴などから割り出せる特性や傾向のことを言います。

例えば、潜在顧客が現在使用している製品は何年前に購入されたものか、その製品の寿命はいつ訪れるか、いつ頃からどのように買い替え製品の検討を行うか、更には現行製品を購入するに至った重要な要因は何か、などを把握することで、自社製品の購入を検討してもらえる可能性を予測できます。

4. 心理的属性情報(Psychographics)

心理的属性情報とは、顧客の好み、性格、趣味、関心ごと、立場、意見、価値観、ライフスタイルなど、心理的な背景や要素に関する情報のことです。行動的属性情報と似ていますが、行動的属性情報が購入頻度など事実ベースでの顧客の行動「結果」を追うのに対し、心理的属性はその結果に至る前の、心理的な「背景や理由」を重視します。

例えば、以前「低価格を理由に製品を購入(行動的属性)」した潜在顧客がいたとして、その背景は「当時は立場も低く、欲しい機能を主張できなかった(心理的属性)」だったかもしれません。その後に心理的属性に変化があった場合、「低価格」を売りにしたアプローチが同じく刺さるとは限らないでしょう。

行動的属性情報と心理的属性情報は共に、顧客の行動原理や需要を評価、予測するのに適している指標です。自社製品の購入に至るまでの顧客の行動プロセスをマッピングする「カスタマージャーニーマップ」を作成するのにも役立つため、HubSpotではこれらの属性情報に重点を置くことを推奨しています。セグメンテーションを行う際には、特に重点を置いてみてはいかがでしょうか。

カスタマージャーニーマップについては、当ブログのこちらの記事でも紹介しています。ぜひ目を通してみてください。

T:ターゲティング

セグメンテーションの次のステップであるターゲティング(Targeting)では、分類した市場(セグメント)から、自社が狙うターゲットとすべきセグメントを選択します。

3C分析とSWOT分析

STP分析におけるターゲティングでは、「3C(市場、競合、自社)」の視点で分析を行うのがおすすめです。

3Cs

(出典:123RF)

市場(Customer)

分類したセグメントを業界や市場規模、成長の見込み、収益可能性などの視点から評価し、ターゲティングを行います。

業界がマッチしているが市場の規模がそもそも小さく売上げが期待できない、もしくは現在の市場規模は小さいが今後急成長する可能性があるなど、市場の分析から得られる情報はさまざまです。市場参入する際の方向性を間違わないためにも、市場の分析は綿密に行いましょう。

競合(Competitor)

そのセグメントの中にどのような競合企業がいるかの分析も、ターゲティングの際に重要な視点のひとつになります。

すでに数多くの競合がいる、とても敵わない強力な競合がいるなど、すでにレッドオーシャンと化しているセグメントをターゲットとするのは賢明ではないかもしれません。逆に一見するとレッドオーシャンでも、競合を分析した結果、自社にしかない強みを活かし棲み分けが可能と判断できる可能性もあるでしょう。

自社(Company)

最後に自社へ目を向けて分析を行います。自社や自社製品の強みは何かなど、他の2つのC(市場と競合)と見比べ、そのセグメントにアプローチするための材料が揃っているかを確認します。

自社の分析を行う際には「SWOT分析」が有効です。SWOT分析は、ハーバード・ビジネススクールで確立されたフレームワークで、ビジネスにおける戦略策定プロセスに使用されます。SWOT分析では、自社を取り巻く環境を「内部環境」と「外部環境」に区分し、さらに内部環境を「強み(Strength)」と「弱み(Weakness)」、外部環境を「機会(Opportunity)」と「脅威(Threat)」の計4つに振り分けて分析を行います。

SWOT-analysis

(出典:Capital.com)

SWOT分析については、当ブログのこちらの記事で詳しく取り扱っております。併せてご確認ください。

P:ポジショニング

STP分析の3つ目、ポジショニング(Positioning)とは、ターゲットとして選択したセグメント内における自社の立ち位置を明確にし、適切なマーケティング戦略を練るステップです。

Positioning

(出典:HubSpot)

  • 和訳
    • Brand Positioning Map

ブランドポジショニングマップ

    • X軸:Largest (Smallest) Service Area

サービス規模 大↔︎小

    • Y軸:Most (Least) Reliable

品質:高↔︎低

    • Open Market Opportunity for Paws & Tails

例:「Paws & Tails」社が参入できる余地

これまでのステップで、ターゲットとするセグメントの特徴や需要、競合するライバルの存在などについて把握ができていることを前提とし、ポジショニングのステップでは、そのセグメントの中で自社製品がどの位置に属しているのか(もしくはどの位置を狙うべきか)を、「顧客目線で」考えます。

上図では例として「サービス規模」と「品質」の軸に従ってマッピングを行っていますが、ポジショニングマップのX軸とY軸は選択したセグメントが製品に対して求める要因である必要があります。

正確にポジショニングマップを作成するためには、これまでのステップで各セグメントにおける「製品選択の要因」、「競合が成功(または失敗)している部分」、さらには「自社の強み(または弱み)」をしっかりと把握していることが大切です。

ポジショニングによりセグメント内の自社の立ち位置が正確に把握できれば、そのセグメントに対する最適なアプローチを検討することができます。

ターゲティングと併用できる手法

バリュープロポジション

バリュープロポジションとは、顧客が求めているが競合他社では提供できず、自社だけが提供できる、いわゆるオンリーワンの価値のことです。アメリカの超大手コンサルティングファームであるMcKinsey & Company社のMichael・Lanning(マイケル・ラニング)氏とEdward・Michaels(エドワード・マイケルズ)氏による論文で使用されたことがきっかけで世に広まりました。

バリュープロポジション

バリュープロポジションは、顧客のニーズを起点にし、製品の機能や品質、企業文化やブランドの信頼性などの領域において、自社だけが提供できる価値であり、同一セグメント内に存在するライバルたちから自社を明確に差別化するポイントとなります。

自社のバリュープロポジションを明確化することは、他社が真似をできない「強み」に磨きをかけることであり、競合に対する事業や製品の優位性を保つことはもちろん、ターゲットとするセグメントにおける自社のマーケティングの方向性を決定するのにも役立ちます。

バリュープロポジションについて、詳しくは当ブログのこちらの記事で紹介していますので、ぜひ一度読んでみてください。

バリュープロポジションを導き出すステップは、本記事のターゲティングひいてはSTP分析のステップとよく似ています。

例えば、顧客が求める価値を把握するためには、潜在顧客のセグメンテーションを行い、各セグメントの特徴を把握することが有効にはたらくでしょう。競合他社や自社が提供できる価値については前項「T:ターゲティング」で挙げた「3C分析」や「SWOT分析」を行うことでより正確に分析ができます。また、バリュープロポジションを明確化するステップは、競合他社と比較した際のセグメント内の自社の立ち位置を決める「ポジショニング」と共通します。

どちらもそれだけでも十分に有効とされるフレームワークですが、同時進行で併用することでさらなる相乗効果を生み、より大きなマーケティング効果が期待できるかもしれません。

まとめ

フィリップ・コトラー氏はマーケティングの本質を説く一文として、このような言葉を残しています。

Marketing is the ability to hit the mark(マーケティングとは、的に当てる技術のことだ)”

的を「知る」ことから始まり、当てられる的を「選び」、その的に当たる手法(他が真似できない方法)で「射る」。マーケティングにおけるターゲティングはそう言い換えることができるかもしれません。

「近代マーケティングの父」が「的に当てる」ための技術として提唱するSTP理論およびターゲティング、ぜひ自社製品のマーケティングにご活用ください。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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