広報、PRという言葉は、「広報=プレスリリース、PR=宣伝」がもはや一般的な捉え方かもしれません。実はこの用語は、戦後アメリカから入ってきた外来語が日本で定着していく過程で、日本独自の解釈がされていったため、元々の意味とはだいぶ異なります。
もちろん言葉は変化するものですし、部署名にいたっては企業の自由なので、狭い世界で対話する分には自社の定義でまったく問題ありません。ただ、外部の人と話すときのために、広報、PRの歴史、元々の意味などを知っていると、ミスコミュニケーションが避けられるでしょう。
また、PRの本来の意味を知ると、凄みのある施策を立てることができるようになるかもしれません。本記事では広報とPRの本来の意味と、勘違いされがちな広告との関係性を解説します。
広報とPRはしばしば混同されがちです。しかし、それぞれの役割や活用の仕方には、微妙な違いがあるといえます。
日本では「広報」というと、主に外部に向けたプレスリリースの発信などを指し、「PR=広告宣伝」の意味合いで捉えられがちです。
しかし、海外では「PR(=Public Relations)」とは「広告宣伝」という意味合いではなく、個人や組織が、一般大衆をはじめとするステークホルダーに向けて情報を管理・発信し、その社会的認知に影響を与える活動を指します。
PRの歴史は、20世紀初頭の米国・ボストンでPR会社「パブリシティ・ビューロー」が設立されたことに始まります。PRは第一次世界大戦において、米国、英国、ドイツでプロパガンダの(敵国を悪者にして国内の支持を集める)ツールとして発展。その後、ビジネス領域においても普及しました。
実は、近年でもPRは戦争に活用されています。たとえば、数々の賞を受賞した『ドキュメント 戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争』は、ボスニア・ヘルツェゴビナが米国PR会社の力を借りて国際社会を味方につけ、セルビアを悪と仕立て上げ紛争を有利に導いた内容です。
背後にいたのは、アメリカの凄腕PRマン。PR活動とは、恐ろしいほどの影響力がある情報戦、戦略的な活動でもあるのです。
(出典:ドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争 (講談社文庫) | 高木 徹 |本 | 通販 | Amazon )
日本におけるPRの導入は、戦後GHQによるもので、主に行政の民主的運営を目的としていました。その後、企業経営においても情報公開の重要性が高まり、広報・PR活動が重要視されるようになりました。
しかし、日本のPR活動は欧米に比べ戦略的なものが少ないとされ、これは歴史の違いや(GHQが直近まで敵国だった日本にPRを導入したため、情報戦であるPRの部分は伝えていないもと考えられます)、自己主張の強くない民族性なども影響していると考えられます。
現在も、グローバルな舞台では情報戦の重要性が増しており、世界各国がPRに大きな力を注いでいます。
広報(public information、public relations)とは、企業、自治体、NGOなどの組織が自社の活動、製品・サービスについての情報発信を行うことです。
主な対象は自社のステークホルダー(顧客、株主、取引先、従業員等)です。広報は広告とは異なり、企業が費用を払うことはありません。あくまで、価値のある興味を引くような情報を発信して、自社を知ってもらう活動です。
一般に無名の企業、中小企業の広報活動は「知名度を上げる」ことを目的に行われます。昔からメディアを上手に活用して、社名を売って成功したベンチャ―企業は少なくありません。
一方、大企業になると広報は危機管理の比重が強くなっていきます。たとえば、高杉良氏の『広報室沈黙す』という実話をもとにした本では、不祥事が発覚しそうなときの広報マンと知人の記者との心理戦、各々が職務に忠実であろうという思いと相手への情で葛藤する様子が、巧みに描かれています。
(出典:Amazon)
内部リーク、派閥争いの話もあり、広報という業務が見かけの華やかさとは違い、企業のどろどろした部分にも関わっていることがわかります。
刊行から30年以上「危機管理のバイブル」として、読み継がれているおすすめの本です。何が言いたいかというと、メディアでの扱われ方にも少なからず人間の感情が影響するため、メディアリレーションズは重要な仕事ということです。
広報は、大きく社外広報と社内広報に分けられます。いずれも重要な活動です。
社外広報とは、社外のステークホルダーに情報を発信する活動です。企業によって総務部門や経営企画部門が発信することもあれば、販売促進部門が発信することもあります。
社外広報は、一昔前は新聞、雑誌などのオールドメディアを経由する活動がメインでしたが、現在はデジタル上の社外広報の手段も増えております。
社内広報は、組織が大きくなればなるほど重要な広報活動です。なぜなら企業組織が大きくなると、いわゆるサイロ化がおき、セクショナリズムが蔓延しがちだからです。
経験のあるビジネスマンは多いと思いますが、サイロ化が激しくなると社員は競合他社
よりも身近な社内のメンバーをライバル視することが多々あります。世界を目指すどころか、社内政治に終始してしまうことが少なくありません。
社内広報は、従業員に自社が置かれている状況を的確に伝えたり、社内でどのようなことが起きているかを伝えたりすることで企業ビジョンを浸透させ、クロスコミュニケーションを促進させ求心力を強める働きがあります。
PR(パブリック・リレーションズ)とは、組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、自社の評判を維持をするマネジメントです。
公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会の定義は以下のとおりです。
『広報・パブリックリレーションズは、“関係性の構築・維持のマネジメント”である。企業・行政機関など、さまざまな社会的組織がステークホルダー(利害関係者)と双方向のコミュニケーションを行い、組織内に情報をフィードバックして自己修正を図りつつ、良い関係を構築し、継続していくマネジメント』
企業にとってのパブリックとは、以下の図のように一般大衆、顧客、取引業者、株主、債権者、銀行などの金融関係、政府諸機関など多様です。
この図を見ると、単純に顧客や従業員だけを見ていればよいものではないことがわかると思います。たとえば、良い製品・サービスを市場に出していても、公害を垂れ流している企業は地域住民の評価が低くなります。
近年は、CSR・SDGs・ESGの観点からも企業は厳しくみられるようになっているため、PR活動を細やかに行っていかなければ社会から支持されません。
前述の広報の業務に加え、以下の業務も入ってきます。
自己PRという言葉は、よく就職の面接で「自己PRしてください」と言われるように、自分の長所をアピールすることと捉えられます。PR=アピールと語呂も似ていることから定着してしまった感があります。一方通行のイメージですね。
しかし、本来のPRは単純なアピールではないうえに、直接コミュニケーションには限定されません。さまざまなチャネルを通して、関係者と良好なコミュニケーションをとる手法です。
とはいえ、言葉は時代とともに変化します。外来語が本来の意味とは異なる解釈をされて定着することも珍しくありません。実務上日本独自の広報とPRの解釈でもおそらく問題ないでしょう。
ただ、マーケティング担当者なら、PRの本来の意味を知っていると、より仕事を極められるのではないかと思います。
広報・PRと、マーケティングや広告の違いをわかりやすく見てみましょう。
と定義します。以下では、それぞれのターゲットや目的などの項目に合わせて違いを紹介していきます。
広告は、新規顧客・既存顧客の両方をターゲットとします。自社の製品・サービスについて知らないお客様に企業側からの発信で存在を知ってもらう。また、既存顧客に対しては、自社の継続的な認知をとっていき、信頼関係の構築やアップセル/クロスセルを促すことができます。
一方、マーケティングは顧客だけでなく、マーケティング活動を行う上でのステークホルダーもターゲットです。マーケティングには、「製品戦略」から「販売促進」「価格設定」といった総合的なプロセスが含まれます。そのため、製品戦略の関係者であるサプライヤーや事業を運営していくにあたっての株主などもターゲットに含まれます。
そして、広報・PRは、既存顧客、従業員、投資家、メディアがターゲットとなります。つまり、企業に対して日頃からポジティブな印象を持っていてほしい相手です。社会でのさまざまな立場のステークホルダーと関係を構築し、企業のポジティブな印象を創出するためには、自社の積極的な情報発信やメディア掲載が重要です。発信していくためには各メディアとの関係性も大事になりますので、目を向けてもらえるようなコミュニケーションをとる必要があります。
広告の目的は、製品・サービスを知ってもらい、興味を持って購入してもらうことです。「1度の広告で、なるべく多くの顧客を効率的に獲得する」など、効率性(CPA)も重要な目標となります。
一方、マーケティングでは、獲得した顧客に対して、開発、マーケティング、営業、サポートなどの社内各部署が連携し、顧客が長期的に繰り返し満足できる体験の提供を目指します。それゆえ顧客のロイヤルティを高め、生涯顧客価値(LTV)を上げることも、しばしば重要な目標とされます。
一方、広報・PRは、直接的な販売を目的としません。売上げを作るという点よりも、企業イメージの向上させることや外部メディアで自社の露出を増やすことを目指す取り組みです。
広告やマーケティングの取り組みの主導権は企業側にあります。広告制作やマーケティング戦略の策定過程で外部の協力会社と連携するケースもあり得ますが、施策検討や実行の有無は自社内で判断をしていきます。
一方、広報・PRは、メディア側で記事を書くか、取り上げるかの判断がされるため主導権はメディア側に依存します。ただ、メディア編集者や記者との良好な関係構築ができていたり、メディア側の興味関心のある内容のコンテンツだったりすれば、可能な限り取り上げられるように努めることが可能です。
広告は、企業が望む情報を発信するために、お金を支払って広告枠を購入する施策です。広告を目にするオーディエンス(消費者)は、その内容が「企業にとって有利な主張や強みを強調している可能性がある」と懐疑的に捉える側面もあります。
また、有料広告枠以外で展開されるマーケティング(たとえば、SNS担当者が、自社の取り組みについて、継続的に投稿することなど)もあります。
SNS上の企業投稿は、たとえば「我が社独特の社内制度紹介」など、オーディエンスが共感・好意をもって受け止めてくれる機会も多いといえます。しかし、先述したように情報発信の主導権は自社にあります。担当者の投稿する文章が、読み手側に対する配慮に欠けたものになってしまうとたちまち炎上し、企業イメージが損なわれるケースも多々あるのです。
一方、広報・PRでは、自社がリリースした情報を、記者・編集者が精査して記事にしてくれます。この記事が好意的であれば、オーディエンスは「(製品・サービスに対する)メディアのお墨付き」と受け取ることができます。
たとえ記事にシビアな意見が含まれていたとしても、「記者による正直な声」として読者に認識されるでしょう。第三者の視点から精査された情報を提供できるため、オーディエンス(読者)の信頼をより獲得しやすいといえます。
広告は、短期的な効果を目指します。広告との接触を通じて、オーディエンスが製品・サービスについて知ってもらい、購入・利用を起こすことで、短期間での顧客獲得を目的とします。
一方、マーケティングは比較的長期的な視野で行われるものです。ロイヤルティの高い顧客(ロイヤルティとは、継続的なCRM活動などを通じて育むもので、一朝一夕に成果が得られるものではありません)を増やし、利益を維持し、向上させることを目指します。
また、広報・PRも長期的な取り組みです。第三者による情報の精査、編集、発信を長期にわたって継続し、ステークホルダーの間で自社のポジティブなイメージを創出し、定着させることを目指しています。
ここまで広報・PRとマーケティング、広告との違いを解説してきました。定義や違いの軸など細かく複雑なところもありましたので、これまでの内容の要点を改めて以下でまとめます。
(参考:PR, Marketing and Advertising: What is the Difference?、Advertising and Public Relations: Do You Know the Difference? https://marshallpr.com/advertising-vs-public-relations-difference)
広報・PRとマーケティング・広告は、それぞれ異なる役割を持ちながらも、類似点があるといえます。よって、それぞれの取り組みを個別に考えて取り組むのではなく、相互連携させることで、自社にとってより良い効果を期待できます。たとえば、以下のようなポイントで相乗効果が見込めるでしょう。
広報・PRも、マーケティング・広告も、どちらもターゲットの関心を中心に置いた取り組みであるべきです。
広告・マーケティングは、新たな顧客を見つけ出したり、維持したりすることに重点を置きます。その一方で広報・PRは、既に関心を持ってくれているステークホルダー(顧客だけに限定せず、従業員、投資家、メディアも含む)との関係を良好に保つことに焦点を当てます。
たとえば、広告であれば「このメッセージングを通して見込み客は、問い合わせや資料請求などのアクションを起こしたくなるか?」といった視点が不可欠です。また、プレスリリース配信で他企業から協業の問い合わせを期待するならば「新ソリューション提供開始で、〇〇業界の課題を解決」など、ターゲットが端的にメリットを理解できるよう記述することが重要です。
広報・PR施策と広告施策とでは、別の施策と思われターゲットも変わって来るのではないかと思われがちですが、同じターゲットにアプローチすることは少なくありません。むしろ、互いを連動させることで、さらに効果を高められる可能性があります。
たとえば、広報・PR部門がSNSを用いて新製品モニターを募集し、正直な感想を共有してもらう施策を行ったとします。一方、マーケティング・広告部門もSNSで新製品発売キャンペーンを実施した場合、これらの訴求に反応してくれるのは、どちらも新製品に興味のあるお客様のはずです。
このように考えれば、モニター施策を通して獲得できたUGC(クチコミ)を分析して、その結果をまた別の広告施策などに反映させるなど、異なる施策どうしの相乗効果も想定できます。
広告は、たとえばYouTube広告やSNS広告など特定の施策を通じて、製品・サービスの認知を獲得し、コンバージョンにつながる行動を促し、より多くの利益と収益を得ることを目指します。KPIとして、リード数や商談化率、獲得単価、ROIなど明確な成果が重要視されます。
一方で、広報・PRはメディアとの関係を構築することにより、自社の評判を向上させることが目標です。一見「自社の評価」という定性的な目標になってしまいそうですが、成果を測定するために、たとえば次のような定量的な指標を見ることをおすすめします。
このように、定量的な成果を追跡しておくことで、社内に成果を報告しやすく、評価を獲得しやすくなります。
広報活動を実行するには、戦略的かつ組織的なアプローチが必要です。ここでは、目的の達成に向けて重要な7つのステップを紹介します。
まずは、広報の目的を決めましょう。企業の成長段階や、今後目指したいゴールに応じて、「誰に」「何を伝えたいのか」を明確にすることが重要です。
そして、広報活動を成功に導くためには、この段階でKPIを設定すること(施策実行後、定量的に計測可能なもの)も重要です。KPIを設定すべき理由は、単に、PDCAサイクルの実行によって、施策の質を向上させることだけではありません。
広報・PR分野では、成果が見えにくいとされます。そこで、具体的な目標やKPIを設けることで、活動の成果を明確にし、社内で評価をしやすくなります。他部門や経営陣からの理解と支持を得やすくなるという利点もあるのです。
広報の目的を定めたら、次は「リサーチ」の段階に進みます。
まずは、自社の過去の成功例や失敗例から分析を始めましょう。具体的には、以下のような項目を改めて書き出してみて、現時点での評価をしてみるとよいでしょう。
さらに、競合他社がどんな広報活動を行っているかを調べてみましょう。同じ業界内で、どのような取り組みが広報施策として有効か、調べて分析してみるとよいでしょう。
最後に、製品の変更、市場の動き、政治や経済の状況など、自社に影響を与えうる内外の要素を洗い出しましょう。内外要因の洗い出しにはSWOT分析というフレームワークを活用することをおすすめします。自社をとりまく環境を整理し、現時点でのチャンスと脅威を把握可能で、現状分析に活用できる手法です。
次に、戦略立案です。
戦略立案の際は、「メディアやオーディエンスにとって価値ある情報」を着眼点として、発信すべき内容を精査しましょう。
オーディエンスの心を動かす話を集めることが、メディアに取り上げられるきっかけになりやすいでしょう。
広報活動実施に向けてどのようにアクションしていくか、具体的にできることから考えて、準備を進めていきましょう。
次に、メディア関係者(編集者や、記者)との積極的な関わりを持ち、自社の情報が広く伝わるよう取り組みましょう。
メディア関係者が日常的にSNSを利用している現在、SNS上での活動は、取材への扉を開く鍵となり得ます。
しかし、SNSだけに留まらず、メディアへの直接アプローチも重要です。たとえばプレスリリースの配信や、魅力的なプレスキットの提供は基本です。一例として、メルカリやSansanは、メディア担当者がいつでも自由に企業ロゴやデータをダウンロードできるよう「プレスキット」を日頃から整えていて、メディア側が取り上げやすい状況を作っているといえます。
(出典:Sansan)
これに加えて、特定のメディアに向けたパーソナライズされたメッセージを送ることで、より深い関係を築くことができます。たとえば、メディア(例:自社が属する業界に関係の深そうなWebメディアや、雑誌)ごとにメールなどで直接リリースを届けるか、記者クラブなどに配布します。
配布して終わりではなく、アフターフォローを忘れずに行いましょう。リリースを配信したメディアに直接電話などをして、リリースの到着確認や、追加情報の提供などをします。
全く知らない会社からのニュースリリースを受け取っても、記者はすぐに記事を書くことはまず無い、と考えられるためです。はじめて接触する媒体にはニュースリリースを配信した後に、直接電話で話をすることが、記事化や取材につなげるために有効だといえます。
また、業界のイベントやカンファレンスに参加し、直接メディア関係者と交流する機会を持つことも、関係構築のために有効だといえるでしょう。
SNSでは、定期的に業界の最新情報や自社のニュースを発信し、フォロワーとのエンゲージメントを高めるよう工夫するとよいでしょう。自社の情報がフォロワー、そして新たなオーディエンスにまで届くよう、オウンドメディアやブログで独自の記事を発信し、幅広い人に関心を向けてもらう取り組みもおすすめです。
メディアによる取材の機会を獲得し、自社にとって意義のある情報発信をしてもらうためのポイントを押さえましょう。
取材が決まったら、まずは製品・サービスの具体的な成果を示すデータや、顧客の肯定的なフィードバックを準備しておくとよいでしょう。たとえば、製品・サービス導入による業務効率化の具体例や、顧客満足度の向上を示す数値などが有効です。
また、実際にサービスを利用しているユーザーの声を引用することで、サービスの価値をよりリアルに伝えることができます。成功事例を紹介することで、サービスの効果をより具体的に理解してもらいやすくなるでしょう。
取材後のフォローアップも非常に重要です。取材をきっかけにメディア関係者との関係を深め、定期的に業界の最新情報や新しいサービスのアップデートを共有することで、長期的な関係を築くよう努めましょう。たとえば、新機能のリリース情報や、業界に影響を与える可能性のあるトレンドなどを提供することで、メディアからの関心を持続させることができます。
そして、広報活動の成果を評価し、その結果をもとに改善策を繰り返すPDCAサイクルを忘れずに実施しましょう。広報活動がビジネスの目標にどの程度貢献しているかを明確にするうえで不可欠です。
たとえば、マーケティング部門がセミナーの盛況を目指していて、広報活動でその後押しをするケースを考えてみましょう。「集客促進」や「イベント後の情報拡散」を大きなゴール(KGI)として設定します。そして「セミナー告知や、フォローアップ記事のPV数」や「メディアでの露出数」など、具体的な数値(KPI)で成果を測定します。
さらに、各部署(ここでいえば、マーケティング部門)のリーダーから、フィードバックをもらうようにしましょう。それを定性的な評価と位置づけ、広報活動が自社にもたらした影響を、総合的に把握します。
「プレスリリースを配信したので、ミッション完了」「メディアによる取材の機会を獲得できたから目的達成」などと捉えるのは誤りです。PDCAのプロセスを必ず設けることで、戦略的な広報計画の立案から実行、評価、改善が実現し、ビジネスの目標達成に貢献する広報活動につながるでしょう。
ここでは、BtoB SaaS企業による広報・PRの取り組み事例を2つ紹介します。
(出典:無料オンラインフォームビルダー&フォーム作成|Jotform )
JotFormは、フォーム作成ツールです。SalesforceやPayPalなどと連携し、簡単にさまざまなフォームを作れます。
しかし、多くの人にはまだ知られていないため、JotFormはPRに力を入れています。その方法として、報道関係者と専門家を結びつけるためのサービス「Help a Reporter Out」を利用したり、Webメディアや出版物への寄稿などを行い、JotFormの名前を広めています。
特に、大手メディアに取り上げられることを目指し、ブランドの認知度向上に成功しました。このPR戦略により、JotFormは教育者やデザイナーなど、さまざまな分野の人々に利用される信頼できるツールとしての地位を築くことができたのです。
(出典:Qlik )
Quilkはデータ活用プラットフォーム(BIツール)を提供する会社です。彼らは、データリテラシーの重要性を世界に広めるために、PRに注力しています。
Quilkは「データリテラシープロジェクト」を立ち上げ、コンサルティング会社のAccentureやCognizantなど他企業と協力して、データリテラシーを社会全体に広めるための活動に取り組みました。
(出典:The Data Literacy Project )
プロジェクト専用のWebサイトを立ち上げ、パートナー企業の募集、メディア向けのプレスキットなどを作成し、世界のPR代理店に向けて配布。情報を発信するために、さまざまな試みを実施しました。
その結果、Quilkおよび「データリテラシープロジェクト」は、データリテラシー向上の先駆者として認識されるようになりました。プロジェクトのWebサイトはGoogle検索で「データリテラシー」のトップに表示され、30万人以上の訪問者を獲得、6万人がデータリテラシーの学習コースをサイト上で受講して、認定データリテラシー証明書を取得したそうです。
さらに、このキャンペーンは広報・マーケティングの取り組みを表彰する複数の賞を受賞し、その成功が証明されています。
ソフトバンクの孫正義氏は、日本を代表する経営者です。しかし、その孫さんも40代くらいまでは、自らベンチャー企業のイメージを向上させようと、パソナ会長、HIS会長などとともに「ベンチャー三銃士」と自称し、自らが広告塔となってメディアに露出していたものです。もちろん本業があってこその成功ですが、PR、広報戦略も実に巧みでした。
マーケティング予算が乏しい企業にとって、広報・PR活動は非常に重要です。現在はSNSもあれば無料のプレスリリースプラットフォームもあります。しっかりした戦略のもと取り組めば、お金をかけずとも社会のさまざまな人に自社を覚えてもらえるでしょう。
基本的に広報とマーケティングは別な職種ですが、少人数のスタートアップや、間接部門に人員をさかない日本企業では、「来月から広告宣伝部門で広報もやってください、よろしく」となり、マーケティング担当者が広報兼任となることも十分ありえます。
その際は、ぜひPRの本質を理解し、戦略的なPR・広報を推進してください。