2022年時点で、日本国内におけるSNS利用者は約1億人だと言われています。企業ブランディングや新規顧客獲得のためにSNSを活用することは、BtoCのみならずBtoB企業にとっても重要だと言えます。
SNSによる認知拡大に有効なのが、バイラルマーケティングです。適切な施策を行うことで、広告よりも低コストで自社の認知を広められます。さらにブランドイメージ向上やユーザーとの信頼関係構築にも役立つことから、さまざまな企業が活用しているマーケティング手法です。
そこで本記事では、BtoB企業やSaaS企業のマーケティング担当の方に向けて、バイラルマーケティングの概要や作り方、事例を解説します。
バイラルマーケティング(Viral Marketing)は、口コミやシェアなどによって「ウイルス(Virus)」が広まるように、自然に情報が拡散されていくことを目指すマーケティング手法です。
バイラルマーケティングでは、以下のSNSがよく利用されます。
ブログ記事に「友達に教える」「SNSでシェアする」といったボタンが付いているのを、見かけたことはないでしょうか。そうしたボタンを設置することも、バイラルマーケティングの一種です。
最初にバイラルマーケティングを行ったのは、アメリカの小さな企業Hotlineだといわれています。
Hotlineは新しいメールサービスである「Hotmail」を宣伝するため、すべてのメールに「Get your own free Hotmail at www.hotmail.com」という一文を挿入。結果として、たった1年でユーザー数を2万人から100万人に拡大したのです。
その後、現在では有名な以下のサービスが、バイラルマーケティングを駆使してシェアを拡大していきました。
こうしたサービスの成功は、世界中の企業にとって見本となりました。そしてSNSの普及にともない、バイラルマーケティングは幅広い企業に使われるようになっていったのです。
バイラルマーケティングの目的は、過度に宣伝することなく自社の認知を拡大し、ユーザーから信頼と支持を得ることです。
バイラルマーケティングでは、良質なコンテンツを投稿してユーザーからの反応や拡散を待ちます。「宣伝っぽさ」のないコンテンツのシェアが広まることで、ユーザーからの信頼が自然と高まっていくのです。
意図した通りに反応が得られるようになれば、広告よりも低コストで認知拡大やブランディングができます。
継続して発生する多額の広告費に悩まされているBtoB企業やSaaS企業は、少なくありません。無料で利用できるSNSを活用するバイラルマーケティングは、広告費を減らしたい企業にとって、効果的な施策になる可能性があります。
(バイラルマーケティングの手法)
バイラルマーケティングには、以下のような手法があります。
つまり、バイラルマーケティングのいち手法として、バズマーケティングがあると言えるでしょう。バズマーケティングは、爆発的な情報拡散を意図的に狙ったものであり、シェアや拡散に企業が積極的に介入します。特に、バズ(情報拡散)のプロセスでは、一般消費者の口コミの力を借りて拡散を狙います。
たとえば、よく見かけるバズマーケティングの例としてSNS(X=旧Twitterや、Instagram)での「ハッシュタグ投稿キャンペーン」「リポストキャンペーン」「その場でプレゼントが当たるキャンペーン」が挙げられます。
(出典:#アドビにゃん クリエイティブコンテスト2023開催 )
「ハッシュタグ投稿キャンペーン」は、企業が商品やイベントを宣伝するために、特定のハッシュタグを考案し、消費者にそのハッシュタグを使って投稿するよう促すキャンペーンです。
新商品の発売を記念して、「#新商品名_キャンペーン」といったハッシュタグで感想や写真を投稿すると、抽選でプレゼントがもらえるキャンペーンなどがよく見られます。参加者の投稿を通じて商品やイベントの口コミがSNS上で自然と拡散され、バズ(情報拡散)を期待できます。
「リポストキャンペーン」は、企業SNSが発信した特定の投稿(キャンペーン告知ポストなど)をリポストするキャンペーンです。参加者は、企業の投稿を自分のアカウントでシェアすると、プレゼントが当たるチャンスを得られます。情報拡散とともに、企業や商品の認知度向上に寄与します。
(出典:https://twitter.com/SalesforceJapan/status/1723871313906000285 )
「その場でプレゼントが当たるキャンペーン」は、参加者がSNS上で特定のアクション(キャンペーン告知投稿のリポストなど)を行うと、即座に当落結果が表示され、その場でプレゼントの当落がわかるキャンペーンです。
参加ハードルが低く、スピーディーに当落がわかる点が消費者の参加意欲を高め、情報の急速な拡散を促します。ただし「参加者のアクションをトリガーに、その場で当落を通知する仕組み」の構築は、SNS運用支援企業などと協業して、専用のシステムを導入する必要があります。
(出典:https://twitter.com/MoneyForwardME/status/1613732597519245314)
「インフルエンサーマーケティング」とは、インフルエンサーを起用して製品・サービスを宣伝してもらう手法です。
これもバイラルマーケティングのいち手法で、「企業側が情報拡散に意図的に関与する」なおかつ「SNS上で、影響力の強い特定の人に(一般消費者より、もっと相手を絞り込んで)宣伝を依頼する」という2点がポイントです。
インフルエンサーは特定のニッチなコミュニティ内で影響力を持つ人です。インフルエンサーマーケティングというとtoCの「化粧品」「料理」「アウトドア」などを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、toBでも「ガジェットやシステムの利用体験を宣伝してもらう」「IT企業が開発したAIにドレスを設計させ、ファッションショーなどで著名人に着用して宣伝してもらう」といったインフルエンサー起用事例はあります。
(出典:このドレスの美しさの半分は、IBM Watsonがつくりあげた | WIRED.jp )
企業はインフルエンサーに宣伝を依頼することで、自社製品・サービスに関心を持つ可能性のある潜在顧客に直接、製品の特徴をアピールできるでしょう。そして、インフルエンサーが特定の製品・サービスを推薦することで、「◯◯さんが愛用・おすすめしているからよいかもしれない」と、彼らのファンからの関心を獲得できる可能性が高まります。
ただし注意点もあります。インフルエンサーの行動や発言(たとえば、SNSでの不適切発言や配慮に欠ける発言など)がネガティブな反響を呼んでしまうケースもあり、それが直接企業のブランドイメージに影響を与えるリスクもあるのです。
そして、ステルスマーケティングにならないよう、十分な注意が必要です。「PR活動であること」を隠しているとステルスマーケティングとなり、景品表示法に抵触します。
よって、インフルエンサーに宣伝を依頼する際には「広告であること」を明確に示す必要があります。違反が発覚した場合、企業として信用を失うだけでなく、法的な罰則を受けるリスクもある点を理解しましょう。
バイラルマーケティングのメリット・デメリットについて詳しく解説します。
メリットとして、以下3点が挙げられるでしょう。
バイラルマーケティングは、ユーザーがSNS上などで関心を持ったコンテンツを自発的にシェアすることで、メインターゲット以外の関連のある潜在顧客層にもプラスアルファでリーチを望めます。
たとえば、BtoB SaaSを宣伝しようとする際に、「企業内で、システム導入の決裁権を持つ人だけをターゲットとして絞り込み、DMを送付する」といった手法も考えられます。しかしDM受信者がその製品に対して興味を持たなかった場合、それ以上の情報拡散は望めないでしょう。
一方、バイラルマーケティングに取り組んで、SNSやブログで「クラウド会計ソフトの会社が教える、確定申告をスムーズに進めるポイント」といった、ユーザーに役立つコンテンツを発信したとしましょう。
すると、クラウド会計ソフト導入を検討中の個人事業主だけでなく、元々はターゲットではなかった人(たとえば、フリーランスになったばかりで、会計処理についてこれから勉強しようとしている若いデザイナーなど)にも届く可能性が出てきます。
彼らがコンテンツを面白いと感じたり、価値を見出したりすると、コンテンツは自然とSNS上でシェアされるでしょう。その結果、そのブランドを広く知ってもらい、信頼を獲得するきっかけを作り出します。
バイラルマーケティングに取り組んだ結果、短期間で急速な情報拡散が起きれば、非常に高い費用対効果(ROI)を得られます。
たとえば、企業側が発信したひとつのコンテンツ(SNS投稿や、ブログ記事)がひとたび注目を集めれば迅速に広がり、広告費用を掛けずとも多数のオーディエンスにリーチできます。もとのSNS投稿やブログ記事を練り上げ、作り込む労力や時間は掛かるものの、広告費を支払ってSNS広告を出稿したり、DMを印刷したり、屋外広告など出す費用と比較すると、はるかに安価だと言えるでしょう。
短期間でコンテンツを多くのオーディエンスに見てもらえれば、ブランド認知度の向上、Webサイトへのトラフィック増加、その結果として、売上げにも良い影響を期待できます。
バイラルマーケティングは、ブランド認知度の向上に大きな効果をもたらすと言えます。
たとえば、ここ数年のMicrosoftの事例を振り返ってみましょう。
数年前、マイクロソフトが開発した対話型AIが、SNS上で予期せず不適切なリプライを連発した、というアクシデントが発生。これは、決してポジティブな例ではありませんが、このアクシデントが広く人々の関心をSNS上で集め、さまざまな意見が投稿されたことで、MicrosoftがAI技術の開発に向き合っている事実が世界中に知られる結果となりました。
(出典:米マイクロソフト、人工知能「Tay」の公開停止-差別的発言学習で - Bloomberg )
その後、MicrosoftはCopilotというAIアシスタントを開発。最近ではこの最新テクノロジーに対してSNS上で関心を表明したり、具体的な活用法などを話題にしたりする人が増えています。
この事例は、MicrosoftがAI開発の分野に果敢かつ継続的に取り組んでいることを人々に再確認させ、ブランド認知度をさらに高める効果をもたらしたと言えるでしょう。
そのほか、デザインツール「Canva」や、情報管理ツール「Notion」なども、バイラルマーケティングで製品の認知度を上げた例です。
インドネシアの若い女性環境活動家が、自身の考えをビジュアルを通してシェアするために「Canva」を活用していました。これに着目したCanvaの運営企業は、「次世代に影響を与える、世界的な環境保全組織をいかに立ち上げたのかをご覧ください」とCanvaの公式ブログで紹介し、その背景でCanvaが活用されていたことにも触れています。
「活躍している人の背景に、Canvaがあった」と間接的に製品をアピールし、認知度向上につなげた、というわけです。
「Notion」は、TikTokで大いに注目を集め、Z世代の学生をユーザーとして獲得することに成功しました。「Notion」を使うことで、ノートやメモの作成・管理、スケジュール管理、ToDo管理、データ/プロジェクト管理など、スマートフォンからでも、デスクトップからでも、シンプルに一元管理できます。
「画面のスタイリッシュさ」「直感的に操作しやすい点」などがTikTokで注目を浴び、Notion公式TikTokアカウントは12.5万人ものフォロワー(2024年2月時点)を獲得。ユーザーが急増し、飛躍的に製品の人気を高め、その結果として企業の評価額も大幅に上昇しました。
(出典:https://www.tiktok.com/@notionhq)
(出典:Microsoft Copilot | Microsoft AI )
メリットの一方、デメリットもあると言えます。具体的には以下の3点が考えられます。
ポジティブ/ネガティブいずれの場合も、どのような内容が拡散し、ターゲットからどんな反応・行動が起きるか、企業側では全てコントロールすることが難しいと言えます。
ポジティブな内容が拡散すれば、企業に大きなメリットをもたらしますが、消費者からのネガティブな発信が広まった場合、企業側で削除することは困難です。一度インターネット上に広まった情報は簡単には消えず、長期間にわたって企業のイメージに影響を与え続ける可能性があります。
一般的に消費者は良いニュースよりも、悪いニュースを広めやすい傾向にあり、ネガティブな情報には人々がより強く反応することが研究によって明らかにされています。
前項で、かつてMicrosoftの対話型AIに対して批判の声がSNS上で広がった事例を挙げました。Microsoftがここ数年、AI開発に挫けず挑み続ける姿勢は、結果的に消費者から好意的な評判を獲得していると言えますが、「失敗してもなお、何年も研究開発を続けられる」というのは、Microsoftという世界最大のIT企業(市場シェア・時価総額ともに)だからこそ成し遂げられたこと、とも言えます。
バイラルマーケティングは、成果を正確に評価するのが難しいというデメリットがあります。
たとえば、一件のSNS投稿や特定のブログ記事が、「どれだけの人の目に留まったか?」は、SNSのアナリティクス画面や、アクセス解析ツールで追跡できます。しかし、その情報拡散が、実際にどれほどの経済的利益をもたらしたか(例:リード獲得件数や、成約件数)を明確にするのは難しい課題です。
特定のSNS投稿やブログ記事から、自社サイトへの誘導を設定しておいて、ランディングページを用意して、そこにCTAを設定しておく…など、周到な準備をしておかなくては、測定は難しいでしょう。
バイラルマーケティングの効果を測定する際には、SNS上での「シェア数」や「いいね数」「コメント数」などの指標を用いることが一般的です。ただ、「成功をどのように定義し、測定するか」については企業ごとに異なる評価方法が採用されているのが現状だと言えます。
バイラルマーケティングが成功して、特定のコンテンツがいわゆる「バズった」状態が生まれた場合、企業は大量の問い合わせメールや、SNS上のリプライ・DMへの対応に追われます。問い合わせ窓口や、SNS運用を少人数で取り組んでいる場合、担当者に短期間で多大な業務負荷が集中してしまう懸念もあるでしょう。
よって、バズマーケティングに臨む前には、
・SNSで大量のリプライ・DMが来た場合、会社として対応方針をどうするか
・問い合わせメールが集中した場合、ユーザーに対して、どのような案内をするのが適切か
といったポイントについて、あらかじめ取り決めをしておき、社内で担当者と共有しておく必要があるでしょう。
バイラルマーケティングとして成功するコンテンツには、特徴があります。バイラルマーケティングと相性の良いコンテンツと悪いコンテンツについて解説します。
製品サービスの利用方法や役立つ知識などを解説したHow toガイドは、需要のあるコンテンツです。
BtoB企業やSaaS企業の場合、自社の製品サービスの使い方をわかりやすく解説するコンテンツを配信することで、企業の担当者の目に留まりやすくなるでしょう。そうしたコンテンツは、ユーザーのニーズに応えているため、Googleにおけるオーガニック検索で上位表示を取りやすい傾向があります。
(Benchmark Emailのツイート)
メール配信システムを提供するBenchmark Emailのこちらのツイートは、12件のリツートを獲得しています。共有された動画が有益だと感じたユーザーが、自発的にコンテンツを拡散してくれているのです。
ユーザーが価値を感じるHow toガイドを発信することは、バイラルマーケティングにおいて有効な手段だと言えます。
分量が適度に多いコンテンツは、バイラルマーケティングと相性が良いです。
CRMプラットフォームベンダーであるHubspotは、コンテンツのボリュームは2100語〜2400語が最も読まれやすいと公表しています。2019年に最も読まれた50の記事を調べたところ、中央値は2164語だったそうです。
ユーザーにシェアしてもらうには、そのコンテンツが有益だと感じてもらう必要があります。分量が適度に多く読み応えがあり、情報が詰まっているコンテンツは、有益だと感じられてシェアされる可能性が高まるでしょう。
(ferretのFacebook)
株式会社ベーシックが運営するWebマーケティングメディア「ferret」は、Facebookのアカウントを運営しています。メディアで公開した記事をFacebookに投稿することで、ユーザーによるシェアを生み出しやすくしているのです。
オウンドメディアを持つBtoB企業やSaaS企業であれば、その記事がSNSで拡散する流れを作れないか、検討してみるとよいでしょう。
口コミや共有を増やすために、トレンドに乗ることは重要です。トレンドになっている話題を積極的に盛り込めば注目を集めやすく、シェアもされやすいからです。
トレンドに乗る方法として代表的なのが、SNS上のハッシュタグを利用することです。投稿が多いハッシュタグを使うことで、ユーザーの目に留まる機会を増やせます。
(東京海上日動のInstagram公式アカウント)
個人だけでなく法人向けにも損害保険を提供している東京海上日動は、Instagramで人気のハッシュタグを活用しています。たとえば、こちらの投稿に使われている「#ぬい撮り」は、投稿数が241.9万件(2022年6月時点)と非常に多く、人気の高いハッシュタグです。
SNSに投稿する際には、活用できるハッシュタグがないか、探してみるとよいでしょう。
「宣伝っぽさ」が強いコンテンツは、バイラルマーケティングとは相性が悪いです。
あからさまに宣伝であることがわかるコンテンツは、広告効果は期待できても、ユーザーのシェアを促すことは難しいからです。広告とバイラルマーケティングは別物なので、分けて考える必要があります。
(DICのツイート)
インクや顔料などのメーカーであるDIC株式会社は、X(旧 Twitter)を運営しています。こちらのツイートでは社会貢献活動について投稿していますが、リツイートは1回もされていません。
企業としては多くの人に知ってほしいことであっても、ユーザーに拡散してもらいにくい場合もあります。コンテンツによっては、最初からバイラルマーケティングには期待せず、広告に注力する判断も必要です。
戦略的に手順を踏むことで、コンテンツのシェアや口コミを増やしやすくなります。ここでは、バイラルマーケティングを作るステップを解説します。
コンテンツ作成や配信手段の選択など、あらゆる場面における方針となるのがターゲット設定です。
BtoB企業やSaaS企業では、提供する製品サービスのターゲットが限られている場合も多いでしょう。
人物ペルソナや企業ペルソナを作成することで、ユーザーが求めるコンテンツが明確になり、コンテンツに対する反応を得やすくなります。
設定したターゲットに合わせて、コンテンツの配信プラットフォームを選択します。
プラットフォームの例は以下の通りです。
(引用元:https://www.soumu.go.jp/main_content/000765258.pdf)
総務省がまとめた「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」を読むと、各SNSと利用者層の相関性を把握できます。
上図を見ることで、X(旧 Twitter)とFacebook、Instagramでは、利用者層に以下のような違いがあることがわかります。
自社の製品サービスとユーザー層が似ているSNSを選んで発信すると、反応を得やすいでしょう。
また、バイラルマーケティングを成功させるには、ユーザーがコンテンツを簡単にシェアできることが重要です。ブログの場合は、「シェアする」「友達に知らせる」などの共有ボタンがつけられるサービスを選びましょう。
ターゲットとなるユーザーがシェアしたくなるようなコンテンツを作ります。
バイラル性を促進する6つの重要な要素についてみていきましょう。以下に挙げる要素は、アメリカのソフトウェア開発企業「Wrike」が提供するマーケティング関連のブログ記事を参考にしています。
人々は「自分を良く見せたい」という欲求があります。シェアすることで自分自身を「賢い」「先見性がある」などと見せることができるコンテンツは、人々は積極的に共有します。
たとえば
など、他人と共有することで「自分はこんな良い情報を、いち早く知ってるよ」とアピールできるような内容がよいでしょう。
ビジネスパーソンが日常業務で頻繁に遭遇する課題を切り取るコンテンツは、見る人の共感を呼びやすく、人々の中でそのコンテンツが強く印象に残り、結果としてシェアされやすくなります。
たとえば、「確定申告・年末調整で悩みがちな『あるある』」と、その解決策を具体的に提示するなど、共感を呼びつつ、見た人が次のステップに進みたくなるようなコンテンツがよいでしょう。
喜び、驚き、怒りなど、強い感情を引き起こすコンテンツは共有されやすいと言えます。「ネガティブな情報がSNS上で拡散されやすい」という研究結果もありますが、ビジネスの文脈で「見た人に、ビジネス上の課題解決策を提案する」「次のアクションを促す」「長期的に肯定的なブランドイメージを構築する」が目的なので、ポジティブな感情を引き起こすコンテンツの方が有効です。
たとえば、起業家の苦労話からの成功、製品開発の裏話、顧客の成功事例など、読者が共感しやすく、感動を与えたり、モチベーションの向上を促したりするストーリーがよいでしょう。
ブランドの視認性や認知度を高めるために、人々がビジネスシーンで使用し、同僚などに見せびらかすことができるアイテムやコンテンツもよいでしょう。
たとえばSalesforceはロゴ入り非売品グッズ(ポーチや、ステッカーやタオルなど)をIT展示会などで配布することがあります。これらのアイテムを手に入れた人がSNSに写真をアップロードしたり、社内の同僚などにオフラインで口コミしたりすることで、ブランドの存在を広く知らしめる効果的な手段となります。
BtoB SaaS企業が役立つコンテンツを発信して情報拡散させたい場合、実用的価値を提供することが鍵です。人々がビジネス上、直面している課題を解決するための知識や情報が特に重要です。また、コンテンツを通して新たな知識を得た人が、そのコンテンツをシェアすることで、「他人の役に立ちたい」という欲求も満たせるでしょう。
たとえば、特定の業界での成功事例、製品導入後の活用法、業界のトレンドや市場分析、ウェビナー開催情報などがよいでしょう。
物語(ストーリーテリング)を通じて情報をインプットすることで、より強い印象付けができ、共有を促します。たとえば物語の中に製品・サービスに関する情報を組み込むことで、「面白い読み物」としての価値を提供しつつ、間接的に宣伝することができます。
たとえば製品開発の背景や経緯、解決したい社会課題、製品がいかに顧客の成功に貢献したか、などをストーリー仕立てで伝えることで、単なる機能紹介に留まらず、読んだ人にポジティブな印象を与えられるでしょう。
コンテンツが作成できたら、事前に決めたスケジュールに従って投稿します。
SNSやブログなど各プラットフォームの投稿を連携させて、多くのユーザーにコンテンツを届けられるように工夫しましょう。
特に最初のうちは、コンテンツを投稿しても思い通りには拡散してもらえないものです。成果を得るまでには時間がかかると覚悟して、継続してコンテンツを投稿しましょう。
そのためには、バイラルマーケティングに取り組むための社内体制を構築しておくことが大切です。マーケティング担当者が少ないBtoB企業やSaaS企業こそ、SNSの運営に十分な人手を確保しておく必要があります。
配信したコンテンツで、どれだけ成果を得られたかを集計します。
分析結果に基づいてコンテンツを継続的に改善することで、バイラルマーケティングの成功確率を上げていけます。
たとえば、世界的に人気の言語学習アプリ「Duolingo」はTikTok上のマーケテイング戦略において、以下のように定量・定性の両方の指標を用いて効果測定をしているそうです。施策実行と効果測定を繰り返した結果、アプリのダウンロード数を大幅に増加させたと言われています。
(出典:https://ja.duolingo.com/ )
定量的指標
キャンペーンによってどれだけの人々に投稿がリーチしたかを計測。コンテンツが多くのユーザーの目に留まった結果、Webサイトのトラフィックがどれだけ増加したか数値で把握します。
いいね、コメント、シェア数や保存数を追跡し、コンテンツがどれだけ魅力的かを計測します。高いエンゲージメント率(人々がたくさん「いいね」や「コメント」「シェア」「保存」をしている状態)は、キャンペーンが大きな関心を集めていることを示します。
キャンペーンが注目を集めた結果、その後にアプリダウンロード、会員登録、サブスクリプション(有料プラン)の登録など、CVがどれだけ増加したかを測定します。
定性的評価
ソーシャルリスニングツールを活用して、ブランドに対するSNS上の反応を分析します。具体的には、SNS上の口コミを膨大に分析して、それらの声がポジティブなのかネガティブなのか傾向を捉える、といった取り組みをします。
キャンペーンを実施した結果、PR施策が人々にポジティブに受け止められているのか、それとも否定的だったのか洞察を行います。
キャンペーン前後のブランド認知度や評価(好意的か否定的か、他者推奨したいかなど)を測定する調査をし、ブランド認知度を明らかにします。
海外のBtoB企業やSaaS企業におけるバイラルマーケティングの事例を紹介します。
2008年にローンチしたストレージサービスDropboxは、8年後の2016年には世界中で約5億人ものユーザーを獲得するまでに成長しました。
ここまで急速に規模を拡大できた要因のひとつとして、「友人を紹介すれば、紹介者と紹介された人の両方に500MBの追加容量をプレゼントする」という仕組みがあります。
追加容量を得るためにDropboxを人に紹介するユーザーが増え、急速に利用者が拡大していきました。実際に、新たなユーザーのうち44%は、別のユーザーからの紹介によるものです。
バイラルマーケティングの効果の大きさが、よく表れた事例だと言えます。
(Volvo TrucksのYouTube公式チャンネル)
トラックメーカーのボルボ・トラックは、YouTubeチャンネルで動画を継続して配信しています。
動画は自社のトラックの性能を紹介する内容のものが中心です。シリーズ企画や命がけの実験などユニークな動画が多く、ファンを拡大しています。
YouTubeチャンネルの登録数は2022年6月時点で48.9万人であり、1番人気の動画の再生数は1.1億回にも達しています。こうしたYouTubeの人気が、トラックの販売にも好影響を及ぼしているのは間違いないでしょう。
(Zoom The Virtual Background ContestのFacebook告知)
コロナ禍でリモートワークの需要が一気に高まった2020年、Zoomはリモートワーカー向けにバーチャル背景コンテストを開催しました。スポンサー企業と提携し、優勝者に商品をプレゼントするという企画です。
このコンテストがSNSで話題となり、多くの参加者を集めた結果、Zoomは5万人以上もの新規ユーザーの獲得に成功しました。
また、いろいろな機能を試しながらコンテストに参加することで、楽しみながらZoomの価値に気づいてもらうことにつながったのです。
日本におけるバイラルマーケティングの成功事例を2つ紹介します。
SmartHRの交通広告キャンペーン「ハンコを押すために出社した」は、多くの人々の共感を呼び、SNS上で大きな話題となりました。
(出典:SmartHRの交通広告「ハンコを押すために出社した」の裏側と今後 - 宮田昇始のブログ )
この広告は、人事・労務担当者が日常業務の中で感じている煩わしさを、共感を呼び起こす切り口で表現。広告に強い印象を持った人が、看板の写真を撮ってSNSに意見とともに投稿した結果、1.5万リツイートと3万いいねを超えるツイートが複数発生し、「人事・労務担当者にもテレワークを」という広告のメッセージが広く拡散されました。
このキャンペーンの影響で、SmartHRに対する指名検索が2倍に増加するなど、ブランド認知度と興味を大きく高めることに成功しました。
会計freeeの「確定申告まつり」キャンペーンも、個人事業主向けのバイラルマーケティングで成功した事例だと言えるでしょう。2万リポストを獲得するなど、SNS上で大きな話題を呼びました。
(出典:https://twitter.com/freee_jp/status/1498121943400149001)
ターゲットである個人事業主が直面する「確定申告」という季節性の高いイベントに焦点を当てました。確定申告期には、多くの個人事業主が「本来の業務と並行して、決算処理にも取り組まなくてはならない」といったストレスを抱え、「できるだけ楽に申告処理を進めたい」という要望を持っています。
そのタイミングで、確定申告という話題に絡めて景品を提供することは、ターゲットの関心を集めるよい機会だったと言えます。
SNSを活用してリポストを促すことで、参加者自身がキャンペーンの拡散者となり、その結果、自然な形でバイラル効果が生まれました。手軽に参加しやすい仕組みと、共感や興味を引くコンテンツが、SNS上での拡散を加速させたと言えるでしょう。
バイラルマーケティングは、読者にとって役立つコンテンツや、ポジティブな感情を呼び起こさせるストーリーなどの提供を通じて、人々が自発的に情報を共有し、拡散させることを目指します。
一方、ステルスマーケティングは、広告であることを隠して製品・サービスを宣伝する手法を指します。
日本では2023年10月以降、ステルスマーケティングに関する規制が強化されました。違反した場合には罰則が課される可能性があることに、十分注意しなくてはなりません。
消費者庁が公開しているガイドラインによると、広告であることを明示せずに製品・サービスを推奨する行為は、消費者の誤解を招く不当な表示とみなされ、景品表示法に違反する可能性があります。
たとえば、インフルエンサーを通じて製品・サービスを紹介する場合は「背景には企業の依頼があって、SNS上でPR投稿を行っていること」を明確に投稿内に記載しなくてはなりません。
ただし、「個人の感想(ユーザーが自発的にSNSやブログ上に投稿した、製品・サービスへの感想)」といった、広告でないものは規制の対象外となります。線引きのポイントは、投稿内容について、企業側が、意思決定に関与しているかどうかです。
バイラルマーケティングは、ユーザーにコンテンツを拡散してもらうことで、自社の認知向上を目指す手法です。ユーザーが「有益だ」「おもしろい」と評価したものが自然と拡散されていくので、自社や製品サービスへの信頼が高まりやすく、効果的にブランディングを行えます。
事例で紹介した通り、バイラルマーケティングはBtoB企業やSaaS企業においても有効です。継続した動画コンテンツの配信やユーザーを巻き込んだ企画など、アイデア次第で大きな成果につながります。
特に広告費の負担に悩む企業は、本記事で紹介した手順を参考にしつつ、バイラルマーケティングの施策を試してみるとよいでしょう。