ネットワーク効果とは? プラットフォームの成長に重要なネットワーク効果の種類と事例を解説

2024/02/29
BtoBマーケティング ネットワーク効果 ネットワーク効果とは? プラットフォームの成長に重要なネットワーク効果の種類と事例を解説

ネットワーク効果とは、製品やサービスの価値がその使用者の数に比例して増加する現象であり、現代ビジネスにおける成長戦略の核心をなす要素です。米Apple、米Facebook(現Meta)、米Salesforce、米Dropboxといった著名企業がこの効果を駆使し、顕著な成長を遂げた事例は広く知られています。

NFXの研究によると、テクノロジー業界における企業価値の大部分(約70%)はネットワーク効果によって生み出されているとのこと。これはユーザー数の増加が企業の価値を高めることを意味し、顧客基盤の拡大が成長に重要な役割を果たしていることを示しています。

ビジネスリーダーにとって、ネットワーク効果の理解は不可欠です。多くの方が「ネットワーク効果とは何か、その種類や具体例は?」と疑問に思うでしょう。本記事では、ネットワーク効果の基本概念、その種類、重要性、代表的な事例について詳しく説明します。この概念を理解することで、成功を収めた企業の背景を理解し、それを自社の戦略に反映することが可能になります。

ネットワーク効果とは

ネットワーク効果とは、製品やサービスが利用者の増加に伴いその価値を増す現象です。例として、GoogleやYahoo!のような検索エンジンは、利用者数の増加によりその価値が向上します。利用者が多い検索エンジンは、広告主にとって重要な広告掲載の場となり、広告収入の増加を実現するためです。

このようなネットワーク効果は、特にテクノロジー分野、通信ネットワーク、ソーシャルメディアプラットフォームで顕著です。

ネットワーク効果のイメージ図

(出典:総務省

ネットワーク効果を持つビジネスモデルは、顧客基盤の急速な拡大によって市場で強い地位を築きやすいです。一方、これは新規参入者にとっての市場進出障壁を高めることにもつながります。なぜなら、既に大規模な顧客基盤を持つ企業との競争において、新規参入者は同等の価値を提供するために必要なユーザー数の獲得が難しいためです。したがって、ネットワーク効果の理解と活用は、現代のビジネスにおいて重要な戦略的要素となります。

ネットワーク効果の歴史

ネットワーク効果の歴史は、技術の革新とその普及の過程に深く根差し、経済と社会の発展において重要な役割を果たしてきました。この概念は、通信技術の黎明期、特に19世紀後半に登場した電話に遡ります。

【電話の出現とネットワーク効果】

1876年、Alexander Graham Bell(アレクサンダー・グラハム・ベル)が電話を発明した際、当初はその普及が緩やかでした。しかしユーザー数の増加に伴い、電話の価値が拡大し、これは後に「メトカーフの法則」として知られるようになりました。この法則は、ネットワーク内の接続の潜在的な数がそのネットワークの価値を決定するというものです。

【鉄道網の拡大によるネットワーク効果】

19世紀から20世紀にかけての鉄道網の拡大も、ネットワーク効果の例として挙げられます。鉄道網の拡張によって交通の便が向上し、経済価値が増大しました。鉄道網の拡大により、市場へのアクセスの提供と大きな経済成長を実現したのです。

【インターネットの台頭】

1990年代、インターネットの普及はネットワーク効果を新たな高みへと引き上げました。インターネットは世界中の人々を接続し、情報の流れを根底から変えました。ウェブの発展により、電子商取引、ソーシャルメディア、オンラインコミュニケーションが可能になり、これらのプラットフォームは利用者数の増加と共に価値を増しました。

【ソーシャルメディアの出現】

2000年代に登場したソーシャルメディアは、ネットワーク効果のもう一つの顕著な例です。Facebook、Twitter、LinkedInなどのプラットフォームは、利用者数の増加に伴いコミュニケーションの価値を高めました。

【デジタル経済の成長とネットワーク効果】

現代では、ネットワーク効果はデジタル経済の基盤となっています。UberやAirbnbなどの共有経済プラットフォーム、オンラインマーケットプレイス、クラウドコンピューティングサービスは、ネットワーク効果を活用して急成長を遂げました。

以上のように、ネットワーク効果は、コミュニケーション、交通、インターネット、ソーシャルメディア、現代のデジタル経済など、多岐にわたる分野で重要な役割を果たしてきました。これらの技術の発展とともにネットワーク効果の理解も深まり、今日では経済学、マーケティング、戦略計画における中心的な概念となっています。

ネットワーク効果の種類

ネットワーク効果はその発生メカニズムや影響の種類によって、いくつかの異なるカテゴリに分けることができます。以下はネットワーク効果の主要な種類とそれぞれの特徴です。

ネットワーク効果の種類

(出典:ResearchGate

直接的ネットワーク効果(Direct Network Effects)

直接的ネットワーク効果は、ネットワークの参加者数が増えることによって、製品やサービスの価値が直接的に増加する現象です。例として、FacebookやLINEなどのソーシャルネットワークやチャットツールが挙げられます。これらのプラットフォームでは、ユーザー数が多いほど、他のユーザーにとっての価値が増します。

間接的ネットワーク効果(Indirect Network Effects)

間接的ネットワーク効果は、製品やサービスの価値がユーザー数の増加によって間接的に高まる現象です。特定の製品やサービスが広範囲に普及することにより、関連する補完製品やサービスの需要が増えることで生じます。

たとえば、特定のオペレーティングシステム(OS)のユーザー数が増えると、そのOS用のアプリケーション、ソフトウェア、周辺機器の市場も拡大します。これにより、開発者やメーカーにそのプラットフォーム向けの製品を開発するインセンティブが与えられ、結果的にOSの価値はさらに高まるのです。

両面ネットワーク効果(Direct + Indirect Network Effects)

両面ネットワーク効果とは、市場において二つの異なるユーザーグループ間で相互に価値を生み出す現象を指します。一方のグループの参加者数が増えることが、もう一方のグループにも価値をもたらし、その結果、全体のネットワークの価値が増大するのです。

たとえば、Amazonや楽天市場のようなオンラインマーケットプレイスでは、買い手と売り手という二つの異なるユーザーグループが存在します。買い手の数が増えれば、より多くの売り手がプラットフォームに参加する価値を持ちます。逆に、売り手が多ければ、買い手はより多くの商品選択肢を持つことができ、プラットフォームの利用価値が高まるのです。

ローカルネットワーク効果(Local Network Effects)

ローカルネットワーク効果は、製品やサービスの価値が利用者の直接的なつながりや地理的な近さによって影響される現象です。製品やサービスの全体的な利用者数よりも、個々のユーザーの周囲にいる利用者の数や質がより重要となります。

たとえば、家族や友人とのつながりを重視するFacebookの場合、プラットフォームの全世界の利用者数よりも、個々のユーザーが持つ個人的なネットワークの規模や活動性が、そのユーザーにとってのサービスの価値を大きく左右します。ユーザーが友人や家族とどれだけ密接に結びついているか、またそれらのつながりがどれだけ活発かが、サービスの体験の質を決定する要因となるのです。

ローカルネットワーク効果は、特にソーシャルネットワーキングサービスや通信アプリケーションで顕著に見られます。ユーザーが地理的に近い人々や、密接な関係を持つ人々との間で製品やサービスを利用する際に、その利用価値が高まります。

正のネットワーク効果と負のネットワーク効果の違い

ネットワーク効果は、「正のネットワーク効果」と「負のネットワーク効果」という二つの主要な形態を持ち、これらはユーザー基盤の拡大が製品やサービスの価値に与える影響の性質によって区別されます。

正のネットワーク効果は、製品やサービスのユーザー数が増加するにつれて、その価値がユーザーにとって増加する現象を指します。より多くのユーザーが関連する製品やサービスを使用するほど、全体のネットワークの価値が向上します。たとえば、ソーシャルメディアプラットフォームやコミュニケーションツール、オンラインマーケットプレイスなどが典型的な例です。

正のネットワーク効果と負のネットワーク効果

(出典:Mirror

一方、負のネットワーク効果は、製品やサービスのユーザー数が増加すると、その価値が逆に減少する現象を指します。過度の利用や人気が混雑、品質の低下、あるいはユーザー体験の劣化を引き起こすことで発生します。たとえば、オンラインプラットフォームでユーザー数が増えすぎると、サーバーの過負荷、スパム、プライバシー問題などが生じ、ユーザー体験が低下する可能性があるでしょう。また、交通渋滞も負のネットワーク効果の一例で、道路の利用者が増加すると渋滞が発生し、道路を利用する価値が低下します。

このように、正のネットワーク効果はユーザー数の増加による価値の増大を意味し、負のネットワーク効果はユーザー数の増加による価値の減少を示す違いがあるのです。正のネットワーク効果が強いビジネスは急速に成長する可能性がありますが、負の効果によってビジネスのスケーラビリティやユーザー体験に制約が生じることもあり得ます。

ネットワーク効果がプラットフォームの成長に重要な理由

ネットワーク効果がプラットフォームの成長にとって重要な理由は、その直接的な影響と拡大効果に由来します。ここからは、2つの理由を見ていきましょう。

雪だるま式のユーザー拡大

ネットワーク効果があるプラットフォームでは、ユーザーが増えることで他の人々に対する価値が増します。たとえば、少数の友人や知人しか利用していないソーシャルネットワークサービスの魅力は限られますが、多くの友人や知人が利用していれば、そのプラットフォームを使用するインセンティブが高まります。

また、FOMO(取り残されることへの恐怖)の感覚は、特に現代においては「みんなが使っている製品やサービスを使っていない不安」を生み出し、更なるユーザーを引き寄せます。これにより、一定のユーザー基盤を確保すると、ユーザー数が雪だるま式に増加し、プラットフォームは大きく成長するのです。

データとインサイトの蓄積

データは21世紀の石油」と言われるほど価値を高めています。顧客基盤が拡大すると、プラットフォームは大量のデータを収集できるようになります。このデータは、製品やサービスの改善、ユーザー体験のカスタマイズに活用され、競合他社が容易に模倣できない独自の価値を提供することが可能になるのです。

豊富なデータをもとに、新たなビジネス機会や収益源を発掘することも可能。このようにして、プラットフォームはデータを効果的に活用し、サービスの質を向上させ、顧客基盤の拡大と長期的な成功を達成します。

ネットワーク効果は参入障壁確立にどのような影響をあたえるのか

ネットワーク効果は、市場における参入障壁を形成します。この効果がもたらす参入障壁の特性を理解することは、新規参入企業や競合分析において非常に重要です。ここからは、ネットワーク効果が参入障壁に与える影響を見ていきましょう。

市場の支配とロックイン

ネットワーク効果が強いプラットフォームは、ユーザー数が増えるにつれて、自然と市場の支配的地位を築く傾向があります。ユーザーが増加すると、プラットフォームはさらに魅力的になり、新たな利用者を惹きつける可能性が高まります。これにより、既存の競合他社が市場に参入する障壁が高くなり、独占的または寡占的な状況が生まれやすくなるのです。

研究論文「Lock-Ins in Network Effect Markets -- Results of a Simulation Study」によれば、ネットワーク効果の強さと参加者間の関係の密度がロックインを引き起こす可能性があることが示されました。別の研究では、市場が既に確立された業界リーダーによって支配されている場合でも、質の高い製品やサービスを提供すれば新規参入者でも3~5年以内に市場支配を達成できる可能性があると示唆されていますが、同時にそのようなケースは極めてまれであることも指摘されています。

Job総研の調査

(出典:Job総研

たとえば、イーロン・マスク氏がTwitterを買収したことをきっかけに、Meta社は類似したSNSアプリThreadsを発表しました。しかし、XからThreadsへ移行した人は少ないのではないでしょうか。Job総研 「2023年 SNS利用の実態調査」によれば、Threadsを知っていると回答したのが50.5%であるのに対し、登録していると回答したのはたったの27.5%です。

XとThreadsの事例のように、ネットワーク効果が強いプラットフォームでは、新規参入者が市場を支配するのは困難でしょう。

ユーザーの習慣化と依存度の増加

それでは、なぜネットワーク効果が強いプラットフォームではロックインが起こりやすいのでしょうか。その理由のひとつに、ユーザーの習慣化と依存が挙げられます。

プラットフォームが大規模な顧客基盤を持つようになると、ユーザーの日常生活に深く組み込まれるようになります。実際に、SNSやAmazonを日常的に使用している方は多いのではないでしょうか。また、使い慣れたプラットフォームから新たなプラットフォームへ移るには、「スイッチングコスト」と呼ばれる手続きや心理的負担が生じます。

たとえば、Amazonのヘビーユーザーの場合、よほどのことがない限り楽天市場に移ることはないでしょう。おそらくですが、Threadsがユーザー数を伸ばせなかった原因もスイッチングコストが関係していると考えられます。

一度ユーザーの生活に深く組み込まれると、ユーザーはそのプラットフォームに依存し、他の代替品への移行が困難になることが多いです。結果的に、長期的な顧客ロイヤルティと収益の持続性をもたらします。

参入コストの増加

強いネットワーク効果を持つ既存のプラットフォームに対抗するためには、新規参入企業は高額なマーケティング費用を必要とします。既存のプラットフォームからユーザーを引き離すためには、効果的な広告やマーケティング施策が必要であり、これが参入障壁を高めます。ただし、革新的なアイデアや独自の価値提案があれば、資金力に劣る新規参入企業でも市場で競争することが可能です。

ブランドと信頼の構築

大規模なネットワークを持つプラットフォームは、一般的に強いブランド認知と信頼を構築します。まず大規模なユーザーを抱えるプラットフォームは、ユーザーデータを分析し、さらなる顧客体験向上へとつなげられます。

また、多くの人々が利用しているという事実自体が新規ユーザーに安心感を与え、「多くの人が使っているから安全・信頼できる」という心理を生み出すのです。これは、新規参入者が市場で知名度を築くために克服しなければならない重要な障壁です。

エコシステムの発展

成熟したプラットフォームは、周囲に独自のエコシステムを築くことがよくあります。アプリ開発者、サービスプロバイダー、コンテンツクリエイターなどがプラットフォーム上で活動することにより、プラットフォームは多様で豊富な製品やサービスを提供するようになります。

noteのトップ画像

(出典:note

たとえば、「note」はクリエイターやライター、アーティストが自身の作品や考えを共有し、フォロワーと直接的な関係を築くことができるプラットフォームです。これにより、「note」は多様なコンテンツを提供する豊かなエコシステムを形成しています。

エコシステム内のアクターは、新しいアイデアやサービスを生み出し、プラットフォーム全体のイノベーションと発展を促進します。また、プラットフォームとエコシステム内のアクター間には相互依存の関係が生まれ、これがさらなる成長と発展を実現するのです。

「note」上のクリエイターはプラットフォームを通じて作品を広め、ファンベースを拡大することができます。一方で、「note」はこれらのクリエイターによって提供されるユニークなコンテンツにより新規ユーザーを引き付け、既存ユーザーのエンゲージメントを高められています。

ネットワーク効果のタイプ

ネットワーク効果は多様で、さまざまなビジネスモデルや市場環境で異なる形態をとります。以下にそのタイプを紹介します。

物理的ネットワーク効果 (Physical Network Effect)

物理的ネットワーク効果は、ネットワークの物理的な拡張により価値が増大する現象を指します。この効果は、特に通信網や交通網など物理的な接続が重要なシステムで顕著です。

物理的ネットワーク効果

(出典:NFX

電話網の例では、加入者数の増加により、より多くの人々との通信が可能となり、ネットワーク全体の価値が向上しました。

プロトコルネットワーク効果 (Protocol Network Effect)

プロトコルネットワーク効果は、共通の規格やプロトコルの採用によってネットワークの価値が向上する現象を指します。共通プロトコルにより、互換性や接続性が向上し、ネットワークの有用性が高まります。

プロトコルネットワーク効果

(出典:NFX

BluetoothやWi-Fiの普及は、この効果の良い例です。これらの技術は、異なるデバイス間の通信を容易にし、多様なデバイスの互換性を高めています。

個人の実用性ネットワーク効果 (Personal Utility Network Effect)

個人の実用性ネットワーク効果は、特定の製品やサービスの価値が、利用者の個人的な使用や経験にもとづいて増加する現象を指します。

個人の実用性ネットワーク効果

(出典:NFX

ユーザーの参加数よりも、個々のユーザーが製品やサービスをどのように活用し、個人的な価値を感じるかが重要です。たとえば、言語学習アプリDuolingoを使ったユーザーがその体験を共有することで、他の人々もそのアプリを使ってみようという動機付けが生まれます。

個人的ネットワーク効果 (Personal Network Effect)

この効果は、ユーザー間の個人的な関係や相互作用がプラットフォームの価値を高める現象です。

個人的ネットワーク効果

(出典:NFX

ソーシャルネットワーキングサービスにおいて特に顕著で、ユーザーが多くの人々とつながることで、情報共有、コミュニケーション、ネットワーキングの機会が増え、プラットフォームの魅力が高まります。たとえば、FacebookやLinkedInでは、ユーザーが友人や同僚とのつながりを通じて価値を得ます。

市場ネットワーク効果 (Market Network Effect)

市場ネットワーク効果は、市場全体の規模が成長するにつれて、プラットフォームやサービスがより価値を持つようになる現象です。

市場ネットワーク効果

(出典:NFX

ユーザーが増加することでプラットフォームの価値が高まり、そのプラットフォームを利用することがさらに魅力的になるというネットワーク効果の一種です。ただ、ここでのポイントは、市場全体の成長が個々のプラットフォームやサービスの価値を高めるという点にあります。

たとえば、Uberなどのライドシェアリングサービスは、ドライバーと乗客の両方が増えることで価値が高まります。

  • 乗客の視点:より多くのドライバーがいることで、待ち時間が短縮され、サービスの利便性が向上する
  • ドライバーの視点:より多くの乗客がいることで、ドライバーはより頻繁に乗客を拾う機会があり、収入を増やすことができる

マーケットプレイスネットワーク効果 (Marketplace Network Effect)

マーケットプレイスネットワーク効果は、オンラインマーケットプレイスにおいて、売り手と買い手の相互作用が価値を生み出す現象です。

売り手が増えることで商品やサービスの選択肢が豊富になり、これがさらなる買い手を引き寄せます。たとえば、AmazonやeBayのようなオンラインマーケットプレイスでは、商品の多様性と販売チャンネルの拡大によって、プラットフォームの成長と強化が促進されます。

マーケットプレイスネットワーク効果

(出典:NFX

マーケットプレイスネットワーク効果は、消費者にとっての選択肢の多様化とともに、売り手にとっての販売チャネルの拡大に貢献します。これにより、プラットフォームは継続的な成長と強化を遂げることができるのです。

プラットフォームネットワーク効果 (Platform Network Effect)

これは、複数のアクター(開発者、ユーザー、サービス提供者など)間の相互作用によって、プラットフォームの価値が高まる現象です。

プラットフォームネットワーク効果

(出典:NFX

iOSやAndroidのようなモバイルオペレーティングシステムがその例で、開発者が多様なアプリを提供することで、ユーザーの選択肢が広がり、エコシステムが拡大します。プラットフォームネットワーク効果は、プラットフォームの多様性とイノベーションを促進し、全体的な価値を高めます。

漸近的マーケットプレイスネットワーク効果 (Asymptotic Marketplace Network Effect)

漸近的マーケットプレイスネットワーク効果は、マーケットプレイス(市場)の規模があるポイントに達した後、追加のユーザーや参加者がもたらす価値の増加が減少または安定する現象を指します。この効果は、市場が一定の成熟度に達すると、新しいユーザーや参加者がもたらす相対的な価値の増加が小さくなることを意味します。

たとえば、LinkedInやIndeedがこの現象のよい例でしょう。初期段階で、新しい求職者や雇用者が参加することにより、市場の価値は大幅に高まります。しかし、市場が一定の規模に達すると、新しい求職者や雇用者が加わっても市場の全体的な価値の増加は比較的小さくなります。これは、既に多くの求職者や雇用者が存在するため、一人ひとりの追加ユーザーがもたらす相対的な影響が小さいためです。

データネットワーク効果 (Data Network Effects)

データネットワーク効果は、ユーザーから収集されたデータがプラットフォームの価値を高める現象です。ユーザーが増えるほど、より多くのデータが収集され、これによりプラットフォームのサービスや製品を改善できます。

データネットワーク効果

(出典:NFX

代表的な例はGoogleの検索アルゴリズムでしょう。Googleはユーザーの検索データを活用して、検索結果の精度を高め、パーソナライズされた体験を提供します。

データネットワーク効果は、プラットフォームがユーザー体験をカスタマイズし、より効果的なサービスを提供するための鍵となります。

技術性能ネットワーク効果 (Tech Performance Network Effects)

技術性能ネットワーク効果は、ある技術や製品がより多くのユーザーに使用されることで、その性能や効率が向上する現象を指します。この効果は、技術の普及とともにユーザーからのフィードバックやデータが蓄積され、それが製品の改良やサービスの最適化に活用されることによって生じるのです。

技術性能ネットワーク効果

(出典:NFX

Google Mapsなどのナビゲーションアプリは、ユーザーからのリアルタイムの交通情報を集めてルート案内を最適化します。ユーザーが増えるほどより多くの交通データが収集され、交通状況の予測が正確になり、効率的なルート提案が可能になります。

言語ネットワーク効果 (Language Network Effect)

言語ネットワーク効果は、特定の言語やコミュニケーション方式が広く採用されるほど、その言語や方式を使用する個人や組織にとっての価値が増大する現象です。この効果は、言語の普及度が高まることで、その言語を話す人々やその言語に対応するプロダクトやサービスの価値が高まることを意味します。

言語ネットワーク効果

(出典:NFX

英語は最も顕著な言語ネットワーク効果の例です。世界的に広く話されていることで、英語は国際ビジネス、科学、教育、外交の主要言語となっています。英語を話せることは、世界中のさまざまな文化や国々とコミュニケーションを取る能力を意味し、個人や企業にとって大きな価値を持ちます。また、英語に対応した教育プログラム、メディアコンテンツ、ソフトウェアなどの需要も高まるのです。

言語が広く普及するほど、その言語を話すコミュニティや関連するプロダクトやサービスの価値が増すことを示しています。

信念ネットワーク効果 (Belief Network Effect)

信念ネットワーク効果は、共有された信念や価値観を持つユーザー群がプラットフォームやサービスに付加価値をもたらす現象です。共通の信念や目標を持つことにより、ユーザーはより深くサービスに関与し、コミュニティを形成しやすくなります。

信念ネットワーク効果

(出典:NFX

わかりやすい例が、ヴィーガニズムや植物ベースの食生活への関心の高まりです。世界中でヴィーガンやベジタリアンの人口が増加するにつれて、ライフスタイルへの社会的な受容度が高まり、関連する製品やサービスの市場が拡大します。また、ヴィーガンコミュニティは、彼らの信念がより多くの人々に受け入れられるにつれて、より結束力を持ち、影響力を強めています。

信念ネットワーク効果は、ある信念や観念が社会的に広がることで、その信念を共有する個人やコミュニティの間での一体感や行動の促進を生み出す現象を示しています。この効果は、社会的な運動、価値観、またはライフスタイルの選択に関連して頻繁に見られます。

ネットワーク効果を活用した事例

ネットワーク効果を活用し、大きな成長を遂げた事例を見ていきましょう。

Amazon

Amazon

(出典:Amazon

Amazonはネットワーク効果を巧みに活用して巨大なオンラインマーケットプレイスを構築し、成長を遂げた典型的な事例です。Amazonはさまざまな業界の販売者に開かれたプラットフォームを提供し、誰もが自由に商品を出品できるようにしました。

これにより消費者にとっての選択肢が拡大し、プラットフォームの魅力が増大します。商品の種類が増えると、それを求めるより多くの消費者がAmazonを利用するようになり、その結果、さらに多くの新規販売者が参入する好循環が生まれるのです。当然ながら、販売者が多くなると価格競争が生じ、競合他社には真似できない低価格を実現しています。

また、顧客レビューシステムを導入することで、顧客は購入前に貴重な情報を確認してから、信頼を持って購入を決断できます。さらに、ユーザーの購買履歴や閲覧履歴を分析し、個々のユーザーに最適な商品を推薦するアルゴリズムを開発しました。このパーソナライズされた体験は、ユーザー満足度を高め、リピート購入を促進しています。

Salesforce

Salesforce

(出典:Salesforce

Salesforceは、顧客関係管理(CRM)ソフトウェアとクラウドベースのアプリケーションのリーディングカンパニーです。Salesforceのネットワーク効果は、主にその広範なエコシステムとプラットフォーム戦略によって生まれます。

Salesforceは「AppExchange」と呼ばれるSalesforce用のアプリの開発から提供、ダウンロードまでできるエコシステムを構築しています。全顧客の88%がアプリを利用していることからも、AppExchangeは開発者、パートナー企業、最終ユーザーをつなぐ強力なネットワークを形成しているといえるでしょう。

これにより、多様なアプリケーションやサービスが提供され、プラットフォームの価値が増大します。さらに、プラットフォームが成長するにつれて、新たなユーザーや開発者が惹きつけられ、顧客固有のニーズに応えられるアプリが開発されるようになるのです。

核となる機能は自社開発し、そのほかの機能は外部パートナーに任せることで、効率よく顧客ニーズに合った機能を提供し、顧客満足度を高められています。

Facebook(現Meta)

Meta

(出典:Meta

Facebookの成功の根底には、顧客基盤の急速な成長があります。Facebookは、ユーザーが家族や友人、同僚と繋がり、コンテンツを共有し、互いにコミュニケーションするためのプラットフォームです。

顧客基盤が拡大することで、Facebookの魅力や価値が高まり、新規ユーザーが集まります。Facebookが全盛期だったころには、「Facebook持っている?」といった具合の会話が日々行われていました。

また、Facebookの巨大な顧客基盤は、ビジネスや広告主にとって魅力的です。企業はFacebookを利用してターゲットオーディエンスにリーチし、ブランドの認知度を高め、製品やサービスを宣伝します。広告主の参入により、プラットフォームは収益性を高め、さらなるサービス向上への投資が可能になるのです。

そのほかにもデータ駆動型のアプローチ、新機能の導入により、Facebookはユーザーに対して持続的な価値を提供し続けています。

Airbnb

Airbnb

(出典:Airbnb

Airbnbは、宿泊施設の提供者(ホスト)と旅行者をつなぐオンラインマーケットプレイスであり、その成長と成功はネットワーク効果の活用によるところが大きいです。

Airbnbは、個人が自分の家やアパートメントを短期間貸し出すことを可能にしました。ホストの数が増えるにつれて、旅行者に提供される宿泊オプションの多様性と質が向上します。この多様性が、さらに多くの旅行者を惹きつけ、プラットフォームの魅力を高めたのです。

また、ホストと旅行者双方が互いにレビューを残せるシステムの導入により、新規ホスト・ユーザーが安心して利用できる信頼性の高いコミュニティを構築することに成功。旅行者が訪れる地域の文化やコミュニティを体験できるような独特の宿泊体験を提供することで、ホテルでは得られないユニークな価値を旅行者に提供し、さらに多くの旅行者の関心を引きます。

同社のCEOであるBrian Chesky(ブライアン・チェスキー)氏は、現在のホストの36%が以前のゲストであったという事実を指摘し、ゲストがホストに、ホストがゲストになることでネットワーク効果が強化されていると述べています。

また、プラットフォームの90%のトラフィックがダイレクトトラフィックであることも指摘し、Airbnbが単なる休暇用の賃貸物件に留まらず、都市部や国境を越える旅行にも及ぶグローバルビジネスであると説明しています。

Apple

Apple

(出典:Apple

Appleの最大の強みのひとつは、独自のエコシステムの構築にあります。iPhone、iPad、Mac、Apple Watchなどの製品は、互いにシームレスに連携し、ユーザーに統一された体験を提供します。

この相互運用性は、一度Apple製品を購入すると、他のApple製品にも容易に移行できるため、顧客のロイヤルティを高めます。見方を変えれば、他の製品には容易に移行できないスイッチングコストを生み出しているのです。

Appleのエコシステムにおける重要な要素はApp Storeでしょう。多くの開発者がiOS向けにアプリを開発することで、iPhoneやiPadのユーザーには豊富なアプリの選択肢が提供されます。これにより、iOSデバイスの魅力が増し、さらに多くのユーザーと開発者を引き付けます。

また、Appleは強力なブランドイメージと高い顧客ロイヤルティを築いています。Appleの製品を使用することは、特定のライフスタイルやステータスの象徴と見なされることがあり、これがコミュニティの結束力を高め、新しい顧客を引き付けます。

さらに、Appleはテクノロジーにとどまらず、音楽(Apple Music)、映像コンテンツ(Apple TV+)、クラウドサービス(iCloud)、支払いシステム(Apple Pay)など、多様なサービスを提供しており、これらはすべてAppleのエコシステム内でシームレスに機能します。これにより、ユーザーはAppleのエコシステム内に留まるインセンティブを得られるのです。

Dropbox

Dropbox

(出典:Dropbox

Dropboxは、クラウドストレージとファイル共有サービスの分野において、ネットワーク効果を効果的に利用して成長した事例です。Dropboxの主要な機能のひとつは、ユーザー間で容易にファイルを共有できることです。

ユーザーが多ければ多いほど、人々はより多くの人とファイルを共有できます。たとえば、会社でDropboxを導入すると従業員がユーザーになり、これをきっかけに従業員は家族や友人とDropboxでファイル共有をするかもしれません。

また、Dropboxはフリーミアムモデルを採用しています。基本的なサービスを無料で提供し、高度な機能や追加ストレージには料金を課しています。ユーザーがDropboxを他のユーザーに紹介すれば、紹介相手1人につき500MBの容量を無料で得られる報酬制度も、新規ユーザーの獲得に貢献しています。

この報酬制度によって、既存のユーザーは自然とDropboxのプロモーション活動に参加することになり、新規ユーザーの獲得が加速するのです。このような口コミによる拡散は、Dropboxのブランド認知度と利用率の向上に大きく貢献しています。

さらに顧客基盤の拡大は、サービスの改善や新機能の開発にもつながり、より多くのユーザーを引き付けることになります。この自己増殖的なネットワーク効果が、Dropboxの急速な成長の鍵となっているのです。

まとめ

ネットワーク効果は、製品やサービスがより多くのユーザーに採用されるにつれて、その価値が増す現象を指します。この現象を理解し、戦略的に利用することで、企業は市場での優位性を確立し、持続的な成長を達成することが可能です。

しかし、ネットワーク効果に過度に頼ることはリスクを伴います。市場が飽和状態に達すると、新規顧客の獲得が難しくなり、成長が停滞する可能性があります。また、ネットワーク効果が強い製品やサービスは、一旦優位な地位を築くと、新規参入者にとっての障壁となり、市場の競争力を低下させるリスクもあるためです。

ネットワーク効果を活用する際には、顧客のニーズや行動の変化に対応しなければいけません。顧客データを分析し、企画や機能に反映させることで、顧客満足度を高められます。顧客満足度を高めることは、ネットワーク効果を生み出すための基盤であり、顧客満足を追求することが企業の持続的な成長への鍵となります。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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