プラットフォームという言葉をよく耳にするようになりました。
実世界の時価総額ランキング企業の上位(2022.3.5時点)のほとんどがプラットフォーム企業です。Apple、フェイスブック、アマゾン、最近はMicrosoftも加わりGAFAMとよばれるBig5。また、中国に目を向ければ、BATと呼ばれるバイドゥ、アリババ、テンセントが存在します。ここ20年に急成長企業のほとんどが、プラットフォームビジネスといっても過言ではありません。
一体、このプラットフォーム企業とはどのようなビジネスモデルなのでしょうか?
少し調べた方はおわかりかと思いますが、プラットフォームというビジネスモデル自体はシンプルです。言ってはなんですが昔からある仲介業、小売り、マッチングビジネスのオンライン版のように見えます。
しかし、このシンプルなビジネスモデルが、IT化、IoT化と結びつきとてつもないスケールに発展してきました。そのため、近年はプラットフォーマーに活路を見出そうとする企業が日本にも増加中です。
自社は何かのプラットフォーマーになれるでしょうか? 巨大プラットフォーマーにならなくても、●●領域のプラットフォーマーというニッチ市場でのチャンスは残っているでしょう。それよりも、プラットフォームを活用して成功する道を選んだほうがよいでしょうか?
その前にビジネスモデルの特徴を理解しましょう。本記事では、プラットフォームの意味、プラットフォームのビジネスモデルの特徴や種類、代表的なプラットフォーム企業を紹介します。
プラットフォームとは、直訳すると「演壇、舞台」です。つまり何かの「場」を提供するのがプラットフォームです。ビジネス領域でのプラットフォームは、ビジネスが行える環境や仕組みが用意されており、大勢の人が集まる場といえるでしょう。
大量の人や情報が集まり、ルールがあり、そこにいけば何でも一通りあるような場がプラットフォームです。GAFAのように巨大化したプラットフォームもあれば、ニッチな領域のプラットフォーム企業もあります。
プラットフォームのビジネスモデル
ビジネス領域によってさまざまなプラットフォームがありますが、代表的なビジネスモデルは、おもに以下のパターンです。
商品やサービスを提供する企業と、顧客をマッチングさせるプラットフォーム。
例:Uber、Airbnb、求人サイト、不動産仲介サイト
多様なサービスのOSとして機能しアプリケーションを使う場、あるいはアプリケーションを開発構築する場を提供するプラットフォーム。
例:Windows、リナックス、App Store、Amazonの「AWS」
特定分野に特化したデジタルツール提供により支援するプラットフォーム。
例:PayPal、Visa等、DocuSignなど
(参考:『日本型プラットフォームビジネス』『プラットフォームの教科書 超速成長ネットワーク効果の基本と応用』)
上記以外にも、多種多様なプラットフォームがあります。共通するのは規模の経済であること。つまり、数多く集めることで優位性が出るビジネスモデルです。そして、プラットフォーマーになるということは、プラットフォーム内の取引のルールメーカーになるということです。
プラットフォームは古くからあるビジネスモデルです。昔の物々交換をしていた市場、ショッピングモールなどもプラットフォームです。
シンプルな仲介ビジネス、市場の機能が、ネットの普及により様相がかわります。インターネットの成長性に気づいた創業者により、Web上にさまざまなビジネスが登場します。また、製造業であった企業も、インターネットを活用しプラットフォームを形成し始めます。
(黎明期)
1995年 Amazonがネット書店を創業
1998年 Googleが創業
2004年 Facebookが創業
2008年 アップルがiPhoneを発売、App Storeを開設
2009年 Uberが創業
2010年半ば Apple、Googleが自動運転領域進出
情報が価値を持つ時代。膨大な情報を入手できる企業は、テクノロジーを活用しさまざまなことができます。AI、機械学習、IoTすべてのデータをつなげることで、次から次へと新しいビジネスを創造することができるのです。
もっとも、プラットフォームビジネスは勝ちすぎたため、各国の国家からも一般人からもアカデミックから警戒されている面もあります。
2014年、ノーベル経済学賞受賞者Jean Tirole(ジャン・ティロール)氏がプラットフォームの競争についてディスカッションペーパーを出して以降、プラットフォームに対する議論は深まります。EUのプラットフォーマーへ規制強化も進んでいます。Uberについては最近、フランスが業務委託の配達員を労働者という見解を出しました。
一般民も決して称賛しているだけではありません。Uberが事故を起こしたときに配達員とユーザーの自己責任と、すべて丸投げする姿勢は日本でもモラル上の批判を浴びました。
Appleも、App Storeでアプリを販売する際の手数料30%が「Apple税」と批判され、「今のAppleは昔のAppleが批判していたIBMのようになった」と言われます。
他の理由もあるかもしれませんが、Appleは2020年には15%に手数料値下げしています。続いて競合のGoogle Cloud Platform(Google Play)の手数料も15%に値下げされます。
プラットフォームは独占・寡占を生み出しやすいビジネスであり、あまりに巨大になると政治経済のトリレンマの法則にならい国家とぶつかります。また、あまりに搾取構造になるとユーザーの支持が低下します。まだまだ成長していくプラットフォームビジネスですが、ひとつの岐路を迎えていることはたしかです。
ただし、IoTプラットフォーム市場は、2020年に50億米ドル。2026年には280億米ドルに達すると予想されています。 健全なビジネスモデルの在り方を各国が模索しながらも、市場は大きく伸びていくでしょう。
ここではプラットフォームとソフトウェアの違いを説明します。
世の中には単なるマッチングサイト、ソフトウェアは山ほどあります。しかし、それがプラットフォームと呼ばれることはありません。あくまで、限定された領域のサービスです。
プラットフォームとは、大量のプレイヤー(企業、人)が集まる場です。国や都市は人が増えるほど発展するように、プラットフォームも参加者が集まるほど取引が活発になり、生産性が上がり、創造が生まれます。さらに人を惹きつけるためプラットフォームとしての価値が増大し、リテンション効果も高くなります。
ソフトウェアは何らかの処理を行うシステムで完結しています。
一方は、プラットフォームではソフトウェアサービスを提供しながらも、外部パートナーと積極的に連携しエコシステムを形成します。
競争が激しく技術革新のスピードが速いBtoBでは、ユーザーの事業を推進するという観点からも、自社サービスだけでなく有能なパートナー企業と数多く連携できるかが優位性につながります。Microsoft、Amazonは、40社以上と提携し、市場におけるポジショニングを確立しています。
オンプレミスのソフトウェアは買い切り型です。そのため、販売するとすぐ売上げがたちます。プラットフォーム型のビジネスはまず、大量の参加者を集めるために先行投資をかなりする必要があります。Amazonですらかなり長期間赤字だったように、投資が先行するため損益分岐点に到達するまで時間がかかります。
収益は手数料、広告料、使用に応じた課金などが一般的ですが、参加者が増えなえれば、売上げは大きくなりません。自社で何かを作って販売するのがソフトウェアビジネスです。
プラットフォームは、自社はあくまで組みや場を提供し、使用料、手数料という名目でプラットフォーム内のやりとりの上流工程に常にい続けるモデルです。そのため、規模が大きくなれば収益は爆発的に成長します。
(出典:https://about.facebook.com/ja)
Facebookは恐らく誰もが知っているSNSでしょう。全盛期は「人間関係のOSになった」「人間関係のハブ」になったとまで表現されました。
近年、使用者が減速していると言われますが、それでも1日あたりの利用者が19億2900万人を超えています。日本の人口が1億強、中国が約10億人と考えるとSNSが一国の政府より影響力を持つという言葉もリアリティを持って受けとめられます。
フェイスブックもSNSから多様なビジネスに手を広げています。2021年には社名を
Meta Platforms(メタプラットフォームズ)に変更。メタバースのプラットフォームという目的をストレートに表した社名であり、新たなテクノロジー領域のサービスの覇権を握ることにいかに本気かがうかがえます。
1995年、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏が、自宅ガレージで始めたオンライン書店は、2021年には売上げ:4698億ドル(約51兆円)となり、「世界で最も影響力のある経済的・文化的勢力の一つ」と称されます。
サービス展開国は18カ国以上。日本から近いアジア圏なら本が2、3日で、ガジェットが1週間程度で届く驚異的なサービスを提供しています。
アマゾンはECのイメージですが、非常に幅広い分野に進出しています。すでに宇宙開発も手がけています。米国Synergy Research Groupの調査においては、2021年時点でBtoBのクラウドプラットフォームとしてもマイクロソフト、Googleを押さえてシェアNo.1です。
Gmail、Google Map、YouTube、GoogleDrive、etc。Googleは、もはや人々の生活のインフラのような存在かもしれません。
検索エンジンのシェアは2020年で92.2%。あれほど他の領域で成長しているマイクロソフトですが、検索エンジンをBeingにしようという人はあまりいません。日本ではヤフージャパンを検索エンジンとして使う人が多いのですが、Yahoo!の検索エンジンはGoogleが提供しています。
近年は自動車業界のEV化、DXによる業界変革の流れのなか自動運転車の開発も手がけています。日本ではホンダがGoogleの車載OSの採用を決定しています。
マイクロソフトが提供するWindowsは、パソコンやサーバーを動かすオペレーティングシステム(OS)です。2021年時点で、デスクトップOSのシェアはWindowsが71%と圧倒的であり、ユーザーは選択する機会すらなく当たり前のようにWindowsを使っている状況です。
Word、Excel、PowerPointなどのOffice製品、クラウドサービスのMicrosoft Azureも順調に伸びている他、AppleやGoogle同様にコネクティッドカー領域にも進出。しかし、実際に車を作る気はなく「自動車業界でもプラットフォーマーの立場」にとどまってビジネスを提供したいと強調しています。
(出典:https://www.salesforce.com/jp/products/salesforce-platform/)
Salesforceは、公式HPに「世界No.1 CRMプラットフォームを拡張・強化する統合型サービス」と打ち出しています。
当初は営業領域のSaaSの会社としてスタートしましたが、現在は多様な領域のクラウドサービスを提供しています。
Salesforceで活用できるアプリ、ソリューションなどを扱うマーケットプレイスAppExchange では、あらゆる業界、部門に対応したアプリが提供されているため、ユーザー企業は業界固有の課題に即したアプリを見つけてインストールし、システムを拡張することができます。これがあるゆえに彼らはただのSaaSとの違いが創れています。
さらに、PaaS(Platform as a Service)という、ソフトウェアを構築・運用できるプラットフォームも提供しています。
SaaSの王者と言われますが、2021年度の実績をみてもプラットフォーム関連の売上げがSales、Serviceより高くなっています。SalesforceのPaaSには以下のメリットがあります。
2020年にはスラックを買収し、プラットフォームとしての基盤を強固にしています。
HubSpotは、中堅中小企業層を対象に、マーケティング、営業、コンテンツ管理、カスタマーサービスなどのクラウドサービスを展開してきた企業です。無料のCRMを中心としたHubSpotのCRMプラットフォームは、さまざまツールとの連携機能を備えています。
HubSpotのアプリマーケットプレイスでは、HubSpotと接続できる1,000を超える無料、有料のアプリが提供されているので、ユーザー企業はスピーディーにビジネスを拡張していくことができます。
着実にエコシステムを拡大し、プラットフォームとしての価値を高め続けています。
BtoBSaaS企業がいるIIoT領域のプラットフォームは錚々たるビッグプレーヤーがいるため、もうビジネスチャンスがあまりないように見えるかもしれません。しかし以下の図のように、プラットフォーム数は業界によってばらつきはあります。
ニッチな分野にしぼってプラットフォームになることを目指してもよいでしょう。
(出典:総務省)
プラットフォーム企業は成功すれば利益総どり、ビジネスの胴元のようなイメージがあります。非常に儲かるため、プレイヤーが搾取されているような印象もありますが、プラットフォームを活用するメリットも当然あります。だからこそ多くの人が活用しているのです。
例えば、ソフトウェアを作成する場合も、すでに環境が用意されているPaaSを活用することで導入コスト、時間、運用コストが削減できるでしょう。業務の効率化、可視化ができ、仕事が属人化しないメリットもあります。
コミュニティサイトを運営する際も、個人情報の管理、セキュリティ面をプラットフォームにまかせることで本来の仕事に集中することができます。そう考えれば手数料は安いものかもしれません。
もちろん、初期は活用して地力がついたらプラットフォームを目指してもよいでしょう。自社の戦力、予算、ステージを考慮して検討して適しているほうを選びましょう。
まだ歴史が浅く、大手企業がひしめき合っているとはいえ、チャンスも多いプラットフォームビジネス。日本でもプラットフォーマーを目指す企業、プラットフォームを積極活用して成長していく企業はますます増えていくでしょう。
DXすらなかなか進まない日本。BtoBSaaSでも、ニッチな領域に特化したプラットフォームビジネスで成功するチャンスは、まだまだ残っているかと思います。
繰り返しになりますが、プラットフォームのビジネスモデル自体はシンプル。ニッチな自社が特化している領域を発見して、プラットフォームを目指す選択肢は有りです。