最近は、BtoB企業でもコンテンツマーケティングに力を入れる企業が増えました。
一方で、「コンテンツマーケティングを始めたけど、思っていたような成果が上がらない」「トラフィックは多いけど、どうもリード創出が今ひとつ……」「営業からリードの質がよくないと言われる、BtoBには向いていないかも……」などなど、運用上の課題を感じているマーケターの話も聞きます。
もし同じような問題を抱えているのであれば、コンテンツマーケティングのKPIを見直すべき時期かもしれません。
予算と時間をコンテンツマーケティングに同程度に費やしていても、方向性がずれていれば、成果はかなり違うからです。
本記事では、コンテンツマーケティングのKPIと、よくある間違いの例を紹介します。また、あわせてコンテンツマーケティングのタイプや、なぜ今の時代にBtoB企業がコンテンツマーケティングを実施すべきなのかも解説します。
コンテンツマーケティングとは、商品・サービスを売り込むのではなく、見込み客に役立つ情報を発信していくことで、自社を見つけてもらい、興味・関心を持ってもらい、最終的に購買につなげるためのマーケティングです。
なお、コンテンツとは企業Blog、オウンドメディアだけでなく、ウェビナー、SNS、プレスリリース、動画、ホワイトペーパー、電子書籍、メールマガジン、成功事例、販促資料など企業が作成する制作物すべてを指します。
米国のコンテンツマーケティング専門サイトContent Marketing Instituteによると、コンテンツマーケティングの定義は、以下のとおりです。
『コンテンツマーケティングとは、価値あるコンテンツを作成し、配信することで、明確に定義されたオーディエンスを惹きつけ、維持し、最終的に有益な顧客行動を引き起こすことに焦点を当てた戦略的マーケティングアプローチです。』
(出典:Content Marketing Institute)
コンテンツ マーケティングという言葉は、1996年に米国新聞編集者協会のジョン・F・オッペンダール氏によって生み出されました。もちろん、昔からコンテンツマーケティングに相当することは行われていましたが、概念が定義されたことにより広く浸透し始めます。
タイミング的にインターネットが登場したころでもあり、コンテンツマーケティングはオンライン上のメディアの発展とともに進化してきたと言えるでしょう。企業はさまざまなチャネル、手法で情報を発信するようになりました。
コンテンツマーケティングのトレンドの移り変わりは速く、ここ数年だけでも以下のように変化しつつあります。
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2022年時点のContent marketing instituteの調査で、BtoBマーケターが過去1年でもっとも成果につながった手法は、以下の順位で動画、ウェビナーの躍進が目立ちます。ただ、テキストコンテンツの成果も安定しています。
2位 リサーチレポート、短い記事(3000文字未満) ※同率2位
3位 Ebook、ホワイトペーパー
(出典:Contentmarketing institute)
インターネット登場以降、企業の購買スタイルが大きく変化したのはご存知のとおりです。昔は、企業の発注担当者の情報源は限られており、展示会、営業担当者、業界新聞、せいぜい業界内のダークソーシャルでした。
ところが、現在はオンライン上に多数の情報源があります。業界メディア、レビューサイト、各種SNS、各企業のWebサイト、etc。オンライン上で十分な情報を入手できます。
2020年の米国の統計によると、B2B企業のバイヤーのカスタマージャーニーの70%近くを、見込み客がベンダーにコンタクトする前に完了しています。48%が購入を決定するための調査やROI分析をベンダーのWebサイトに依存し、さらに53%は購入プロセス中にSNSをリソースとして使用しています。
お客様の購買フロー(企業にとっての営業フロー)は大きく変化し、前半ステージの主戦場はオンラインになったのです。
各企業の商品・サービスをまだ見ておらず、営業マンとも会ってない段階でベンダーを絞り込むとなると、Webサイトやblog、事例など企業が発信しているコンテンツの品質や量が重要になってきます。
2019年のBtoBマーケティングについての統計では、B2Bバイヤーがベンダーを選んだ理由のトップ 3 は「ソリューションとビジネス環境に関するベンダーの知識 (69%)」「バイヤーの会社とニーズに関するベンダーの知識 (65%)」「ベンダーが作成したコンテンツを提供する能力(62%)」です。
コンテンツは、今や企業の能力を測る際の重要な基準になっているのです。
(81 Relevant B2B Statistics: 2021/2022 Market Share Analysis & Data- Finance Online)
コンテンツマーケティングが重要だからといって、単純にオウンドメディアやTwitterを始めればよいというものではありません。目的をしっかり決めてから始めないと、手段ありきになりがちです。たくさんのオウンドメディアが読者を集めながらもCloseしたのは、そのためではないかと思います。
コンテンツマーケティングにはいくつか型があります。ここでは、書籍『Webコンテンツマーケティング サイトを成功に導く現場の教科書』の「4つの方向性からビジネスゴールを設定する」の章から4つの種類を紹介します。
どのような型が自社の目的にあっているか確認しましょう。
(出典:CONTENTMARKETING LAB)
ブランド認知(名前を覚えてもらう)とは、企業や商品・サービスのブランドを認知してもらうことを主な目的とするコンテンツマーケティングです。「知っているか知らないか」が、購入決定の大部分の要因になる商品・サービスの場合の目標として適しています。
BtoBでいうところの、よく使われる社名認知(ブランディング目的)のコンテンツマーケティングです。
ブランドロイヤリティ型のコンテンツマーケティングは、既存顧客からの口コミや紹介などを重視する場合の目標として適しています。BtoBでいうところのリテンションでよく使われるコンテンツマーケティングです。取引期間の長いBtoBの場合、既存顧客とコミュニケーションを深め、信頼関係を構築することはさまざまなメリットがあります。
カスタマーエデュケーション型は、商品・サービスの検討期間が比較的長い商品・サービスの場合に有効な目標設定です。
売上向上だけでなく、顧客の知識が向上することにより、自社商品・サービスをより活用してもらうことや、簡単な内容の問合せの削減にもつながります。BtoBでいうところの、アクイジションでよく使われるコンテンツマーケティングです。
カスタマーエンゲージメント型とは、継続的な見込み客・顧客とのコミュニケーションにより、自社や商品・サービスにエンゲージメント(愛着、親しみ)を持ってもらうことを目的とするコンテンツマーケティングです。
生活者と関わり合うことが重要な商品・サービスの場合に有効と言われます。シャープ社の「死ぬほど嫌いな家事をおしえて」というTwitter投稿に、1万人以上の回答があり話題になりましたが、それが顕著な例と言えるでしょう。
※なお、本記事ではBtoBのペルソナに対して強い知識を持ってもらい、自社を選んでもらうこと(新規見込み客獲得)を目的とする「カスタマーエデュケーション」型を中心に話を進めていきます。
型が決まったらコンテンツマーケティングのKPIを決めていきます。コンテンツマーケティングの型によって、当然KGI(目的)は変わり、KPIもそれぞれ変わってきます。
KPIツリーとは、KGIから逆算してKPIを決めるフレームワークです。図のように、KGIを達成するためのKPIがあり、つまり1次KPIは2次KPIのKGIとなります。同様に2次KPIを達成するために3次KPIがあり、KPIは1次、2次、3次、n次とどこまでもブレイクダウンできます。
この構造はマーケティングだけでなく、他のビジネスでも個人の目標設定においても同じなので理解しておきましょう。
もちろん、簡単な目標ならこのように複雑に設定する必要はありませんが、マーケティングのように長く複雑な工程の業務目標をチームで達成する場合は、このように構造化することが非常に重要です。
※上記は、あくまでカスタマーエデュケーション型のKPI設定の一例です。
ファネルとは、見込み客が商品・サービスを初めて知ってから購入するまでの購買行動を可視化したフレームワークです。以下はパーチェスファネルといって、購買プロセスを「TOFU(認知)」「MOFU(興味・関心)」「BOFU(比較・検討)」の3段階に分けたファネルです。
自分が何かを新しく買うときの心理になるとわかりやすいと思いますが、その方面に詳しくない場合は、人気ランキング、比較サイト、軽いブログ記事や、使っている人の感想をSNSで探すなど、ざっくりした情報から探すと思います。これがTOFUのステージです。TOFU用のコンテンツには入門ガイド、ブログ記事などがあります。
概要がわかると、次は具体的にどんな感じで使うのか、自分が求めている機能があるか、手に届く価格か、具体的にどんなことまでできるか、買うメリットが本当にありそうかなどを検討します。これがMOFUの段階です。MOFU用のコンテンツには、導入事例、ホワイトペーパー、セミナー/ウェビナーなどがあります。
さらに興味を持ち「購入してみたい」という意欲が強くなると、どの会社の商品がベストかを絞り込むために、無料トライアルを試したり、価格プランを比較したり、各プロダクトの事例を読み込んだりします。また、見積もりを依頼したり、問い合わせたりもするでしょう。これがBOFUの段階です。
コンテンツマーケテイングでは、このようなTOFU、MOFUなどそれぞれのステージに向けたコンテンツを用意する必要があります。もしTOFUが手薄なら、リード獲得に苦労し、MOFUが手薄ならリードは途中で他社に関心を移し離脱していくからです。
どのようなコンテンツを発信していくかを決めたら、ファネルのステージの施策ごとにKPIを設定。顧客の変容をアシストできているかを常に確認します(KPIについては後述)。
ここではコンテンツマーケティングのKPIの例と、よくある間違いについて解説します。
TOFUの汎用的なKPIのひとつは、獲得リード数です。
リード獲得数を1次KPIとすれば、2次KPIにあたるのが獲得トラフィック数です。まず、何よりもサイトへの訪問者が十分でなければならないからです。獲得トラフィック数を達成するための3次KPIとして、チャネルごとのトラフィック数を設定します。
チャネルごとのKPI:
トラフィックからリードへの転換率(CVR)も重要です。トラフィックが大量に集まってもすべてが見込み客ではありません。転換率をKPI設定することで各チャネルに見込み客が多いのか、コンテンツのメッセージは適切かなどを判断できるからです。
チャネルごとの転換率KPI:
以下の図のように「トラフィック数」「転換率」の数値を改善できるとリード創出数が増えます。
上記タイプのコンテンツマーケをしていく理由は、オーガニックでのリード獲得やMQL獲得をすることです。正しくコンテンツを作れば、トライフィックやリード数は前月比で必ず成長します。その成長率こそが「隠れKPI」として鍵になります。
「ブログ更新数」「ebookの数」「SNSへのエンゲージメント」などは、上記KPIを達成するためのさらに下層のKPIにしかすぎません。マーケティング初心者に設定するKPIとして問題ありませんが、この下層KPIをあたかもコンテンツマーケティングの施策のKPIにするのは間違いです。
MOFU(興味・検討段階)のKPIは、「獲得MQL(マーケティング部門が有望と見なす見込み客)」の数です。
MOFUの下層KPIは、リードの関心度が高まっていることを示すアクションの中心となります。一般に検討段階に入ったリードが気になるのは、製品サービスの詳細情報や価格、事例、提供体制などです。
ページごとのKPI:
上記トラフィックと転換率の前月比、資料請求ページや問合せページのトラフィック数が伸び、リードからMQLへの転換率が向上していれば、前月よりMQL数は増加します。コンテンツマーケティング施策が順調に運用できているかどうかを判断できます。
ウェビナー・セミナー参加数は、上記KPIを達成するためのさらに下層のKPIにしかすぎません。ウェビナーはどこからでも簡単に参加、視聴できるので、ハードルが低く、勉強目的の方も多いからです。KPIを構造化したときに下層にあると理解しておきましょう。
コンテンツマーケティングは、売り込むのではなく、見込み客に役立つ価値のあるコンテンツを作成し配信することで、見込み客を惹きつけて、最終的には問合せをしてもらう(購入してもらう)マーケティングです。
近年のBtoB企業の発注者は、購買プロセスの約70%をオンライン上で完結します。SNSも購買中に参考にしています。そして、Googleや各種SNSの検索、ウェビナー参加などで出会うコンテンツによってベンダーを評価します。
コンテンツマーケティングで成果を上げるためには、自社のビジネス・ゴールに適したコンテンツマーケティングの型を選ばなければなりません。
また、マーケティング活動の方向性を明確にした上で、測定可能な目標(KPI)を設定し、追跡することが重要です。KPIはシンプルに一つ設定するのではなくKPIを1次、2次、3次、n次と構造化し、それぞれの施策において、担当者が何をすべきか見える化しましょう。