顧客とのコミュニケーション手段は昔と比べて大きく進化しており、メールだけでなく、SNSやSMSを通じても顧客と接触する機会が増えています。それにもかかわらず、BtoBの世界ではメールが依然として根強い文化を持っています。
BtoBでは、意思決定プロセスに複数の関係者が関わり、購入決定に至るまでの時間が長期に及ぶことが一般的です。メールをうまく利用することで、継続的なコミュニケーションを実現し、顧客との関係を強化、そしてビジネスの機会を拡大できます。加えて、メールマーケティングの費用対効果は非常に高く、海外では投資1ドルあたり最大40ドルのリターンが期待できるとされており、BtoB分野におけるメールマーケティングの重要性は計り知れません。
しかしながら、単にメールを配信するだけでは、期待する成果を得ることは難しく、場合によっては購読解除を招き、多くの潜在顧客を失うリスクも伴います。本稿では、メールマーケティングの基礎から効果的な戦略立案、実行に至るまでのプロセスを明確に解説し、読者に理解しやすい形で提供します。
メールマーケティングとは、メールを通して自社製品やサービスに関する情報をお届けするマーケティング手法です。メールは自社の顧客、もしくは自社に興味関心のあるリードとの重要な接点であり、関係性の維持をしながら、ナーチャリング(興味関心を高める)やアップセル/クロスセルの提案などを行えます。
特に、メールマーケティングはパーソナライズ化して、顧客ひとり一人に合ったメールを配信でき、送信コストは手ごろなため、費用対効果の高い施策として知られています。
ただし、メールと一口に言っても、プロモーションメールやナーチャリングメールなどその種類は多岐にわたり、目的や顧客の関心に合わせて使いこなさなければいけません。目的に応じて使い分けられるように、各メール種類の特徴は後述します。
BtoBにおいては依然としてメールは重要なチャネルです。そのことを示す統計情報をご紹介しましょう。
これらの調査が示すように、BtoBにおいてはメールマーケティングは費用対効果の高い重要な施策とみなされています。特に、オウンドメディアやウェビナー、展示会などで獲得したリードに対するナーチャリング目的で活用され、メールで関係性を強化して、質の高いリードを営業に引き渡す役目を担っているのです。
ソーシャルメディアやデジタルチャネルの台頭により、顧客の情報収集チャネルが多様化し、メールマーケティングは古いと考えられることがあります。しかし、それは本当でしょうか。
(出典:Benchmark Japan)
Benchmark Japanの「日本のメールマガジン購読状況調査 2023年度版」によれば、回答者の71.3%がメルマガを受信しており、年齢層が高くなるにつれて購読率が高くなると判明しています。若い世代はSNSなどさまざまなチャネルで情報収集をしますが、決裁者や意思決定者が多くいる40歳代以降はメールで情報収集をしているのです。
また、Litmusによれば、メールのROI(投資利益率)は1ドル当たり36ドルです。これを簡単に言えば、メールマーケティングに100円投資するたびに3600円の収益をあげられるということ。メールマーケティングが効率的なコストで顧客と直接コミュニケーションをとり、長期的な顧客関係を構築する強力な手段であることを示しています。
これらの調査結果からも、メールは依然として顧客にとって重要な情報収集チャネルであり、企業にとっては費用対効果の高いチャネルといえます。
さて、ここまでメールマーケティングの重要性を見てきましたが、具体的にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。メリット・デメリットを理解することで、戦略的なメールマーケティングを推進できるようになります。ここからは、メールマーケティングのメリットとデメリットを見ていきましょう。
メールマーケティングのメリットは以下の通りです。
先にお伝えした通り、メールマーケティングは1ドル当たり36ドルの収益を生むほど費用対効果が高い施策として知られています。費用対効果が高い理由のひとつは、メールマーケティングは比較的低コストで開始でき、自社に興味関心を持つリードにアプローチできるからです。
たとえば、メール配信システムの「Cuenote」の場合、メールアドレス数2000件までなら月額5000円で無制限にメール配信が可能です。もしくはHubSpot Marketing HubのStarterプランの場合、月額2160円で1000件のコンタクトに月当たり5000件(コンタクト数の5倍)のメール配信を行えます。追加コンタクト数は1000件当たり2160円で、フォームのオートメーションやチャットボット、メールの自動化などの機能も使えます。
また、適切にリードをセグメンテーションし、各セグメントに適したメールを配信することで、高い効果を見込めます。
メールマーケティングにおけるパーソナライズ化とは、特定のセグメントに属する顧客に対して、最適なタイミングで、最適なコンテンツを届けることを示します。たとえば、商品購入の有無、商品の購入回数、閲覧したページなどでセグメント分けし、セグメント別に配信メールを変更します。
(出典:Mckinsey)
現代においては、パーソナライズした施策が極めて重要です。Mckinseyの調査では、消費者の71%が「パーソナライズした体験に期待する」と回答しており、成長スピードの速い企業は、成長スピードの遅い企業に比べ、パーソナライゼーションによる収益が40%も高いと判明しています。またCampaign Monitorによれば、パーソナライズした顧客体験を提供することで売上げが20%増加するとのことです。
顧客やリードにパーソナライズしたメッセージを送れば、関係性を深められ、親しみや信頼を高められるでしょう。
メールマーケティングは容易に効果測定ができます。主要な測定指標としては、開封率、クリック率、配信解除率の3つがあります。開封率はメールがどれだけの受信者に読まれているかを示し、クリック率は受信者がメール内のリンクをクリックして特定のアクションを行った割合を示します。また、配信解除率は受信者がメールリストから退会した割合を示し、コンテンツの関連性や頻度の適切性に関する重要なインサイトを得られます。
たとえば低い開封率は、件名が魅力的でないか、受信者リストが関連性が低いことを意味するでしょう。高いクリック率は、メールコンテンツが興味を引き、関連性が高いことを意味し、効果的なコンテンツ戦略の証拠です。また、配信解除率が高い場合は、受信者リストを調整するか、コンテンツをよりターゲットに合わせる必要があるでしょう。
これらの指標を分析することで、メールマーケティングの効果を詳細に理解し、戦略を微調整して全体のマーケティング効果を最大化できます。
メールマーケティングにおけるエンゲージメントの向上は、マーケティング施策の中でも特に効果的なアプローチのひとつです。開封率やクリック率などの指標は、キャンペーンの成功を測る上で重要な要素です。これらの数値が期待に満たない場合は、件名の工夫やコンテンツの質の向上など、具体的な改善策を講じることができます。
効果的なEメールマーケティング戦略を実施するためには、過去のパフォーマンスデータや業界のベンチマークと自社のキャンペーンの成果を比較し、継続的な分析と改善を行うことが重要です。これにより、受信者の関心を引き、より高いエンゲージメントを達成することができるでしょう。
メールマーケティングのデメリットは以下の通りです。
メールマーケティングのデメリットのひとつは、メールが見られない、気づかれない可能性があることです。Benchmarkの調査によれば、平均開封率は23.4%とのこと。これは送信メールのうち、約5分の1が開封されますが、残りの大部分は未読のままであることを意味しています。
(出典:Benchmark Email)
メールマーケティングは多くの企業が取り組んでいます。日本ビジネスメール協会の調査では、ユーザーは1日当たり約50通のメールを受信しており、自社メールは大多数のうちの1つです。興味関心を惹く件名を作成できなければ、メールが読まれることはないでしょう。
メールを送りすぎると、迷惑メールとして見なされる可能性があります。総務省が発表した「電気通信事業者10社の全受信メール数と迷惑メール数の割合」によれば、2023年3月の迷惑メールの割合は38.99%です。以前と比べると、迷惑メールの割合は大幅に低下していますが、それでも自社メールが迷惑メールとみなされる可能性はあります。
迷惑メールとみなされる要因のひとつに、配信頻度が挙げられます。興味のないメールが受信箱を埋め尽くすシーンを想像してみてください。多くの方が、迷惑メール設定や配信解除をするのではないでしょうか。
(出典:WACUL株式会社)
ただし、WACUL株式会社が株式会社ラクスと共同で実施した研究によれば、1日1回以上メールを配信しながらも解除率が低い企業は存在し、それらの企業は受信者に興味関心にあったコンテンツを提供できているとのことです。また、開封率やクリック率などの水準を落とさない理想の配信頻度は週2〜3回と判明しています。
この調査結果を踏まえると、リストの興味関心に合ったコンテンツを制作するのは前提とし、週に2〜3回程度の配信にとどめるとよいでしょう。
メールマーケティングの最大のデメリットは、お客様に行動を起こしてもらうことが難しい点でしょう。実際に、Benchmarkの調査では平均クリック率が1.43%と判明しており、メールマーケティングの最終目的である「顧客の態度変容を促す」の達成が困難ということがわかります。
その主な原因として、メールが直接的な感情やリアルタイムの対話を通じて顧客に訴えかける能力に欠けることが挙げられるでしょう。メールは一方的なコミュニケーションであり、受信者はリアルタイムでの対話や感情的な反応を求めることが難しいため、顧客の行動を促す効果が低い傾向にあります。
メールマーケティングと一口に言っても、そのコンテンツの種類は多岐にわたります。顧客ステージや目的に応じてコンテンツを使いこなさなければ、期待した成果は得られないでしょう。ここからは、メールマーケティングのコンテンツの種類をご紹介します。
プロモーションメールとは、企業が製品やサービス、イベントなどを宣伝するためのメールです。具体例としては、新製品の発表、限定セール、割引クーポンの提供などがあります。プロモーションメールは、顧客に直接的な購入行動を促すことを目的としており、特定の製品やサービスに対する関心を高めるために用いられます。
(MarkeZineのイベントを宣伝するメール)
プロモーションメールはメール受信箱の「プロモーション」タブに自動分類されるため、「メインから外れると、あまり見られないのでは?」と思う方もいるでしょう。Benchmarkの調査によれば、受信者の約8割がプロモーションや新着タブなども閲覧しているため、プロモーションメールも見られる可能性は十分にあります。
プロモーションメールの効果を最大化するためには、ターゲットの関心やニーズに合わせてコンテンツをカスタマイズすることが重要です。たとえば、過去の購買履歴や閲覧履歴に基づいて個々の顧客に合わせた製品を提案する、特別なイベントや記念日に合わせてクーポンを配布するなどです。
また、プロモーションメールは製品の訴求をするため、魅力的な画像とわかりやすいCTAを用いるようにしましょう。そうすることで、受信者が興味を持ち、実際にアクションを起こす可能性を高められます。
ニュースレターは、会社の最新情報やブログ記事更新のお知らせ、業界の動向などの有益なコンテンツを発信し、顧客に自社の存在を思い出してもらいながら、顧客の関心を高めるコンテンツです。ニュースレターは受信者が求めるコンテンツのひとつであり、Benchmarkによれば受信者がメルマガに期待しているコンテンツの1位(60.2%)でした。
また、Content Marketing Instituteの調査では、BtoBマーケターの81%が「最も使用するコンテンツはニュースレター」と回答していることからも、メールマーケティングの定番の施策といえます。
HubSpotは、毎週月曜日にブログ更新情報やイベントアーカイブ配信情報などを届けています。青字部分をクリックすることで、ブログやLPに遷移する仕組みです。また、決まった時間帯に配信することで、受信者はメールのことを気にするようになり、開封率の向上を見込めます。筆者自身、「今日は○○のメールが届く日だ」と受信箱を確認することが多々あります。
セミナー・イベント招待メールは、特定のイベントへの参加を促すためのメールマーケティングの一種です。イベントの具体的な情報、特別なオファー、ゲストスピーカーの紹介など、イベントに関する情報を提供して、受信者の関心を引き、参加を促します。
イベント招待メールの成功は、適切なリストに配信することです。たとえば、製造業向けのセミナーを開催するにも関わらず、メルマガ購読者全体に招待メールを配信しても、開封率やクリック率は低下するでしょう。まずはセミナーやイベントのターゲットを明確にし、対象となるターゲットを含むリストを作成してから、メール配信をしなければいけません。
翔泳社のセミナー招待メールでは、セミナーの詳細やおすすめの人、受講者の声、講師プロフィールなどを簡潔にまとめています。件名も「人前で話すのが苦手なあなたへ」と呼びかけ形式にすることで、効果的に受講者の興味を惹けているでしょう。
リードナーチャリングメールは、リードと関連性の高いコンテンツをメール配信することで、リードとの関係性を深め、購買意欲を高めるメールです。
BtoBにおいては、複数の意思決定者が関与することもあり、購買期間が長くなる傾向にあります。定期的にコミュニケーションをとらなければ、自社の存在を忘れられてしまうでしょう。実際に、放置したリードの8割が2年以内に競合に流れることを示した調査があります。そして、メールはリードと定期的に接点を持たせる有効なチャネルです。
リードナーチャリングメールを成功させるためには、豊富なコンテンツを用意する必要があります。プロモーションメールやニュースレターだけではなく、メルマガ購読者限定のケーススタディ、業界レポート、ウェビナーのアーカイブ動画なども用意しましょう。コンテンツを用意したら、リードの興味関心やファネルに沿ってコンテンツを配信しましょう。
これはHubSpotのブログを何度か読んだ後に届いたメールです。Webサイト上での行動データをもとに、対象者の興味関心が十分に高まったと判断したら、自動でオンラインミーティングの予約を提案するメールを配信する仕組みだと思われます。このようにナーチャリングするだけではなく、インサイドセールスへの引き渡しや商談の提案をするタイミングの定義も定めましょう。
アンケートメールは、顧客のフィードバック収集を目的にしたメールです。顧客満足度調査(CSAT)、ネットプロモータースコア(NPS)調査、製品フィードバック調査、顧客サービスフィードバック調査、退会者フィードバック調査、オンボーディング調査、購入後の調査など、さまざまな種類があります。
どの種類のアンケートメールを配信するとしても、顧客が回答したくなる工夫が必要です。具体的には、アンケートの目的、所要時間と設問数、回答URLの明記をして、回答のハードルを下げるとよいでしょう。また、業務で忙しい就業時間中に送信すると、回答してもらえない可能性があるため、就業時間後に送信するのがおすすめです。
これはNewsPicksのアンケートメールです。件名にはわかりやすく「アンケートご協力のお願い」、ギフト券プレゼントというインセンティブを記載しています。また、メール本文にはアンケートの目的と所要時間も記載しており、しっかりと回答ハードルを下げられています。
ウェルカムメールとは、お客様に初めて送信するメールのことです。たとえば、メルマガ購読後や製品サービス登録後などに送信します。BtoBにおけるウェルカムメールの主な役割は、自社に興味関心を持った顧客に製品の特長やメリットなどを示し、実際に製品を使用してもらうことです。
SaaSビジネスでは、導入や使い始めの瞬間をいかにスムーズにするかが成功の鍵を握ります。「製品登録 → ウェルカムメール → オンボーディングの開始」という流れは、顧客が製品を容易に受け入れ、効果的に使用開始できるよう導く理想的なアプローチです。
数あるメールの種類の中でも、ウェルカムメールは非常に重要となります。なぜなら、MARTECHの調査によれば、ウェルカムメールは91%の確率で「メイン」タブに届き、平均読了率は34%と高いためです。さらに、ウェルカムメールを読まなかったグループの5%がその後のメールを読むのに対し、ウェルカムメールを読んだグループの18%がその後のメールも読むとも判明しています。
この調査結果が示唆することは、ウェルカムメールで有望なリードかどうかを見極められるということ。言い方を変えれば、読まれるウェルカムメールを作成することで、その後のナーチャリング効果や売上げなどを高められるのです。
こちらはDropboxのウェルカムメール。「さっそく大切なファイルを保存してみましょう」とユーザーに次の行動を促せています。このメールにより、ユーザーはDropboxの利用を開始し、その利便性やわかりやすい操作性を体感できるのです。
時事的なマーケティングメールは、季節のイベントや現在のトレンドにもとづいてカスタマイズしたコンテンツを配信するメールです。たとえば、クリスマスやバレンタインデーなどの特定の季節のイベントに合わせたプロモーション、流行しているトピックに関連したコンテンツなどです。
時事的なメールは、特定の時期に顧客の関心が高まるため、エンゲージメントやコンバージョン率を向上させる機会を提供します。ただし、時事的なメールの効果は、対象顧客の興味や業界などに応じて異なるため、戦略的な計画と創造的なコンテンツが重要です。
メールマーケティングを成功させるためには、以下のポイントをおさえましょう。
ここからは、各ポイントの詳細を解説します。
メールマーケティングでよくある誤った考えが、「多くの人に配信したほうがメールは読まれる」というもの。しかし、メールリストに含まれる顧客の中には、自社に興味を持ったばかりのリードやウェビナーにも参加した興味関心の高いリード、もしくはロイヤルカスタマーなどさまざまな層の顧客が混じっています。当然ながら、顧客ステージによって興味関心は異なり、各セグメントの顧客に適切なメール配信をしなければ、配信解除数が増えてしまうでしょう。
メールマーケティングのファーストステップは、顧客をしっかりとリストに分け、リストの興味と合ったコンテンツを作成すること。Campaign Monitorの調査によれば、メールのセグメント配信をすることで収益を最大760%向上できるとのことです。
業界やファネル、行動データなどをもとに適切にセグメンテーションし、リストに合ったコンテンツを発信するようにしましょう。
メールを開封してもらうためには、件名の磨きこみが欠かせません。Benchmark Emailの調査によれば、回答者の51.5%が「件名を見て開封するかどうかを決める」と回答しています。それでは、どのような件名が開封率を高めるでしょうか。
(出典:Benchmark Email)
まずは短く明確な件名にすることです。配配メールの検証によれば、20文字以内の件名の開封率は21.67%なのに対し、26文字以上になると19.95%にまで低下します。人間が一度に知覚できる文字数は13文字ということのため、件名は20文字以内におさえつつ、最初の13文字にキーワードを入れるとよいでしょう。
また、「○○様:」のようなパーソナライズした件名も開封率の向上に期待できます。実際に2014年の研究では、件名に受取人の名前を記載することで、クリック率が高まることが示されています。しかし、現在は多くの企業が件名のパーソナライズに取り組んでいるため、「○○様へ」のような単純にパーソナライズ化した件名だけでは不十分です。何度も件名をブラッシュアップし、受信者にとって魅力的な件名を作成しましょう。
メッセージのカスタマイズはメールマーケティングにおける重要な要素です。顧客の好みや行動に基づくパーソナライズは、顧客のエンゲージメントを高めることができます。
Experian Marketing Servicesの調査によると、パーソナライズされたメールは一般的なメールと比べて、取引率が6倍高いことが示されています。また、パーソナライズされたプロモーションメールは、非パーソナライズメールと比べて開封率が29%高く、クリック率が41%高いこともわかりました。
受信者は興味関心にあったコンテンツを望んでおり、その期待に応えることでエンゲージメントを高められるのです。
シンプルなデザインのメールとは、過度なビジュアルやテキストを避け、クリーンでわかりやすいレイアウトのことです。HTMLを使ったデザイン性の高いメールは、プロモーションタブに分類される可能性があります。下記画像はBacklinkoが配信し、開封率38.9%を達成したメールですが、余計なデザインが一切ないシンプルなテキストメールです。
(出典:Backlinko)
同社の創業者である Brian Dean(ブライアン・ディーン)氏は、このメールが成功した理由として下記を挙げています。
また、WACUL株式会社の調査ではテキスト量・画像の有無が反応率に影響を与えることはほぼないと判明しています。これらのデータを踏まえると、メールデザインはブランドロゴなど最低限必要なものにおさえ、重要なコンテンツ制作に時間をかけるべきだといえます。
受信者にとって最適なタイミングでメールを送信することで、開封率やクリック率を向上させられます。メールのタイミングは、受信者がメールを確認する可能性が最も高いときに合わせるべきです。複数の研究によると、週の中盤、特に火曜日と木曜日がメール配信に最適な日であることが示されています。
時間帯としては、午前10時や午後3時30分が最も効果的であるとされています。しかし、これはあくまでも参考にし、ターゲットの業界や就業時間などを考慮し、配信時間を決定しましょう。
どのマーケティング施策にも通じることですが、メールマーケティングが初めからうまくいくことは稀です。テスト、分析、改善の繰り返しによって、メールマーケティングの効果は高まります。件名、本文、デザイン、CTA、送信時間、リストなどあらゆる要素をA/Bテストしましょう。重要なのは、一度のテストや改善で完結するのではなく、継続的にPDCAサイクルを回して、メールマーケティングの効果を高めることです。
ここまで見てきたように、メールマーケティングを成功させるためには、単純にメールを配信するのではなく、適切なコンテンツ選定や配信先リストの作成などをする必要があります。この項では、メールマーケティングの戦略・実行のステップを見ていきましょう。
まずはメールマーケティングのゴールを設定します。リードナーチャリングや新製品のプロモーション、アップセル/クロスセルの提案、製品改善のためのフィードバック収集などが考えられます。明確な目標を設定することで、適切なリストの定義や必要なコンテンツ制作などを行うことが可能です。
「誰に」メール配信をするのかを決めます。リストのセグメンテーションにより、一般的なメッセージよりも関連性の高いパーソナライズしたコンテンツを配信できるようになり、結果として高い開封率やクリック率を見込めるようになります。たとえば、業界別、顧客の購入ステージ、過去の購入履歴、ウェブサイト上の行動、フォームの送信やイベント参加の有無などに基づいてセグメントを作成することが可能です。
まずは自社で蓄積している顧客データを整理しましょう。顧客データにもとづきリストの定義をし、メールリストを作成します。CRMやMAツールを活用することで、複数の条件やツール内で取得しているお客様の行動情報をもとに高度なリストを簡単に作成できます。
ここでは、メールマーケティングの成果を測定する具体的な目標を定めます。メールマーケティングにおいては、開封率とクリック率、配信解除率、そしてコンバージョン率が主な指標です。
しかし、クリック率と開封率は測定していながらも、コンバージョン率まで測定している担当者は少ない傾向にあります。実際にWACULの調査では、約8割の担当者が開封率とクリック率を測定していたのに対し、コンバージョン率を測定しているのは44%のみでした。
(出典:WACUL株式会社)
しかし、メールが読まれたり、メール内のURLがクリックされたりするだけでは売上げにはつながりません。企業活動の目的を大きく分けると、「売上げを上げる」もしくは「コストを下げる」のいずれかであり、メールマーケティングは売上げを上げる活動です。だからこそ、コンバージョン率まで測定し、メールの先にあるLPやフォームなどまで改善できるようにしましょう。
実際にメールの作成と設定、配信をします。先にお伝えした通り、シンプルなデザインのメール、短くて要点がまとまった件名、リストと関連性の高いコンテンツを作成するようにしましょう。ついつい時間をかけてデザイン性の高い画像や長文を作りたくなりますが、画像や文量はエンゲージメントに影響を与えません。むしろ情報量が増えることで、キーメッセージが伝わらない可能性があります。
メール配信で重要なのは、テンプレートを活用して作成業務を効率化し、週に2〜3回配信することです。これにより、受信者にとって最適なタイミングでメールが届く可能性を高められ、かつ分析に必要なデータを収集できます。
メールの配信頻度を増やすことで配信解除率が高まるのではと不安になられるかもしれませんが、すでにお伝えした通り、週3回までなら配信頻度が配信解除率に影響を与えることはありません。むしろ配信解除率が高くなるのは、誤ったリストへのコンテンツ配信、またはリストと関連性の高いコンテンツを配信できていないことが挙げられます。
毎回メールを作りこむのではなく、初めはテンプレート作成に力を入れ、その後は配信頻度を増やすようにしましょう。
メールマーケティングの指標を測定し、改善施策へとつなげます。開封率やクリック率のほか、バウンス率(配信できなかったメールの割合)、配信率(受信者の受信箱に実際に配信されたメールの割合)、コンバージョン率(メール内のリンクをクリックして特定のアクションを完了した受信者の割合)、およびメール送信ごとの収益(特定のメールキャンペーンから生成された合計収益を送信されたメールの数で割ったもの)も確認しましょう。
メールマーケティングは効果測定がしやすく、改善施策もそれほど多くはありません。そのため、PDCAを回して成果を高めましょう。
メールマーケティングを実施する際には、以下のポイントに気を付けましょう。
ここからは、各注意点の詳細を見ていきましょう。
スパムメールとは迷惑メールのことです。受信者のメールプロバイダーが自動的にスパムメールと判定することがあれば、受信者が手動で迷惑メール設定することもあります。Googleによると、スパムメールにならないためには、以下のポイントを守る必要があります。
やはり大切なことは、メーリングリストをセグメント化し、各セグメントと関連性が高く価値あるコンテンツを配信することです。
特定電子メール法により、企業から顧客へ送るすべてのメールには、配信停止(オプトアウト)をするための連絡先やURLを記載しなければいけません。オプトアウトを明記することで、受信者にリスペクトを示すと同時に、配信停止の選択肢が見つからず、結果的にスパムとして報告されるリスクを減らす効果があります。また、自社に無関心な受信者をメールリストから排除し、より関心のある受信者に焦点を当てることも可能です。
GDPRは、個人データの収集と処理方法を規制するEUの法律です。国内で事業展開をしていても、顧客がEUにいる場合、GDPRが適用されます。主な目的は、不必要なデータ収集、個人データの不正使用、データ漏えいから個人を保護することです。
メールマーケティングを行う場合、GDPRの主要な原則に従ってユーザーデータの収集、処理、保管を行う必要があります。
メールマーケティングにおいて信頼性のあるドメイン・プロバイダーは、ブランドの一貫性と専門性を高める重要な要素です。特に自社のドメインを使用することは、フリーメールアドレスを使うときに比べ、メールアドレスの信頼性を高め、ブランドの認識を強化するのに役立ちます。
たとえば、誰もが使用できるフリーメールアドレスの場合、迷惑メールや信頼性の低いメールと判断される可能性があります。自社ドメインを使用すれば、受信者の信頼性を高められ、真剣にビジネスに取り組んでいるという印象を与えることも可能です。
また、信頼性の高いメールホスティングサービスは、より高い稼働時間(アップタイム)を提供し、顧客サービスやチームコミュニケーションにおいて重要な役割を果たします。無料で利用できるホスティングサービスもありますが、そのようなサービスはセキュリティ対策が万全ではないリスクがあります。月にわずかの投資で、信頼性や高いセキュリティを得られるため、ドメイン・プロバイダー選定は慎重に行いましょう。
リードや顧客の規模が拡大している場合、マーケティングオートメーション(MA)ツールを活用することが有効です。たとえば、HubSpotのようなツールを利用することで、直感的なドラッグ&ドロップ機能によりメールの作成が手軽に行えるようになります。
定期的なブログの更新通知や新規登録者へのウェルカムメール、さらには顧客の行動を踏まえたフォローアップメールの自動配信も実現可能です。また、カスタマイズされたパーソナライズ要素も追加できるため、自動配信メールにも、より親近感を持たせられるでしょう。
マーケティング担当者が日々抱える多岐にわたる業務の中で、定型的なメール配信を自動化することは、より重要な業務に集中するためにも必要不可欠です。そのため、MAツールの導入を通じて、メールマーケティングの効率化およびその他の業務の自動化を図り、本質となる業務への専念を目指しましょう。
BtoB市場における高額な商材や長期にわたる購入プロセスでは、メールが中心となるコミュニケーション手段であることは間違いありません。メールマーケティングを通じて、定期的に顧客の記憶に自社を呼び起こし、購入意向を高めることができるのです。さらに、顧客との信頼関係を築く上でも極めて有効です。
ここで肝心なのは、セグメントに応じてリストを分類し、それぞれのニーズに合致する価値あるコンテンツを提供すること。また、メールマーケティングの効果を最大化するには、ひとつのメールのデザインなどを徹底的に作りこむより、量が重要であるという点にも注意が必要です。テンプレートの活用やメールの自動送信機能などを用いて、メール作成から配信までの業務を効率化し、週に3回は配信するようにしましょう。