マーケティング担当の方は「レベニューオペレーション(RevOps)」という用語をご存知でしょうか?日本ではあまり知られておらず、2023年6月にバーチャレクス・コンサルティング株式会社が行った国内初の「RevOpsに関する実態調査」でも認知度1割くらいのワードです。
レベニューオペレーションの意味は「Revenue(収益)」という単語を見ればある程度ご想像がつくかと思います。企業の各部門がスムーズに連携する体制を整えることで、お客様に素晴らしい顧客体験を提供し、組織全体の収益を最大化していく考え方です。
ボストン・コンサルティング・グループの調査によると、米国BtoBのハイテク企業では成長を加速させるためにレベニューオペレ―ションを実施した結果、営業の生産性が10〜20%向上したという結果が出ています。
米国では、収益向上に貢献したレベニューオペレーション担当者が毎年100人選出されメディアで紹介されるなど、ポピュラーな職種にもなりつつあり、2022年に公表された統計では48%の企業が収益オペレーション部門を設置しています。
本記事では、レベニューオペレーションの概要、レベニューオペレーションが普及してきた背景、レベニューオペレーションに取り組むメリットや導入事例などを解説します。
レベニューオペレーションとは、「組織全体の収益増加」のための総合的なアプローチです。
アプローチの手法はビジネスモデルによって異なります。
SaaS企業で言えば、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスなどの収益向上に影響を与える部門が連携し、お客様にシームレスで一貫性のある良質な顧客体験を提供することで収益拡大を目指すことを指します。
(参照:HubSpot)
企業の利益拡大を阻むものは何でしょうか? 競合他社の存在、製品・サービスの品質、人材の能力など実際の理由はさまざまです。
しかし、多くの企業で部門間のセクショナリズム、連携不足など社内体制が影響していることが大きな原因と思い当たる人は多いかと思います。
組織が大きくなればなるほど部門間の壁は大きくなり、情報は分断され、セクショナリズムがはびこります。また、その解決は簡単ではありません。「協力しあおう」と言い合うだけでは無理なのです。
レベニューオペレーション導入とは、単に概念を浸透させることではなく、実際にマーケティング、セールス、カスタマーサクセスが連携して動けるように、バックアップするレベニューオペレーションのチームを作ることを含みます。
レベニューオペレーションチームはさまざまな部門間の架け橋となり、情報のサイロを打破し、収益拡大に多方面からアプローチします。これにより各部門は情報やデータを共有でき、オペレーションやツールも統合され効率的になります。部門を超えて一丸となってお客様に向き合い、共通の収益目標に取り組めるようになるのです。
米SiriusDecisions(シリウスディシジョン社)の2019年の調査によると、収益拡大をサポートする連携体制が構築されている企業では、成長スピードが19%速く、収益性が15%高くなっています。また、リードの受け入れ率が10%向上、社内の顧客満足度が15%〜20%向上し、GTM費用の30%が削減されるなど数々の効果をあげています。
(出典:clari.com)
レベニュー・オペレーションが近年注目されるようになった背景には、ビジネス環境の複雑化、デジタル化、それに伴い顧客体験がより重要になったことがあります。
ご存知のとおり、ビジネス環境は2000年以降のグローバル化、デジタル化により大きく変化し続けています。変化のスピードは速く、中でもテクノロジーの進化のスピードはすさまじく、次から次へと新しいツールが登場しています。
一時はIT化によって、世の組織内の無駄な仕事はなくなり、情報はフラットに共有化され生産性が大きく向上するかのような期待がされていました。
しかし、現実はそうではなかったのです。次から次へと登場する革新的なテクノロジーを活用するどころか、キャッチアップし理解することが遅くなり、企業は常に最新のITリテラシーを持つ人材不足に悩まされました。各部門が独自で最適なテクノロジーを取り入れた結果、ますますサイロ化が進んでしまったケースも少なくありません。
どの部署でも、みな自部門の新ツールを運用して目標を達成するのに精一杯。全体的な収益を向上させる視点が大事なことがわかってもそこまで考えられず、むしろ手助けが欲しいくらいの現状でしょう。
このような現在のビジネス環境に対応するための組織として、米国では全体の収益を生み出すアプローチを行う「レベニューオペレーション(部署名はさまざま)」が注目されるようになりました。
デジタル化が進んだことで、企業内にビジネスで活用できるデータが膨大に蓄積されています。BtoB企業なら、マスデータ、トランザクションデータ(取引データ)、インテントデータ(Web上の行動データなど)があり、社内だけでなくサードパーティのデータも蓄積されているでしょう。
このようなデータを分析し、マーケティング戦略立案に活かす必要がありますが、ここでも人材不足の壁はあります。また、データは集めればいいというものではなく品質とその活用戦略が重要です。
例えば、米国ではデータ品質への投資を増やした BtoB 企業の 100% は全体的なパフォーマンスが向上、約 94% が販売・マーケティングのパフォーマンスも向上しています。
しかし日本の現状はどうかというと、ガートナー・ジャパンの調査によれば、データ活用で「全社的に十分な成果を得ている」と回答した企業の割合は2.2%。最近、マイナンバー入力時の住所表示に起因するミスが話題になりましたが、名寄せができていない企業は普通に存在します。
このような状況のなか、自社にとって重要なデータを見極め、全社的な戦略としてデータ活用を進められる部署や人材の必要性が増しています。
(出典:KoMarketing)
昨今、顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)は、ビジネスにとってますます重要になっています。顧客は企業とオンラインで取引を完結することも増えているため、いかに快適に情報に触れ、検討し、試し、購入し、ストレスなく活用できるかが、継続した取引ができるかどうかの大きなカギです。
しかし、複数の部門が異なるシステムやプロセスを使用していることが多く、連携がとれていないと顧客はストレスを感じ離脱します。
Webサイトの情報の探しやすさ、チャットの適切なレスポンス、無料デモの有無、営業スタッフの対応、導入後のオンボーディング、実際の商品の機能や使いやすさ、カスタマーサポートの対応、ほかの接点での顧客体験を管理する必要があります。
これらをスムーズに連携させLTV(顧客生涯価値)を高める機能としても、レベニューオペレーションが必要と考える企業が増えました。
レベニューオペレーション(RevOps)の構成組織は、SaaS業界であれば、営業、マーケティング、カスタマーサクセスの3部門のオペレーションです。以下に解説します。
セールスオペレーションとは、営業部門の能力を最大化させるためにできる、さまざまな戦略〜実行を指します。簡単に言えば、営業部門の包括的な支援を行う部門という位置づけです。企業によっては営業支援、営業企画、営業統括といった名称の部署かもしれません。
ここでは、HubSpotの定義を紹介します。
「セールスオペレーションはリードの管理、営業戦略、テリトリーの構成と調整から、セールスプロセスの最適化、報酬プラン、セールスオートメーション、トレーニング、データの分析と報告まで、すべてを担当します。」(出典:HubSpot)
具体的には以下の業務です。現状、営業上層部が行っていることもあるでしょう。しかし、これらの機能を、RevOpsの一貫として連携して実施することが重要です。
マーケティングオペレーションは、マーケティング部門の人材、プロセス、テクノロジー、データなどすべての面を管轄し、効率的な運営とマーケティングスタッフの生産性を最大化していく役割を指します。
また、テクノロジーを駆使し、マーケティング部門や、営業、カスタマーサクセスなど他部門担当者にインサイトを提供し、部門横断的なコミュニケーション、レポーティングを行うことも期待される役割です。
この部門では、マーケティングテクノロジーの専門知識と分析力・実行力が必要なため「マーケティングとITの架け橋」とも呼ばれています。
なにしろ、マーケティングテクノロジーの増加は著しく、Chiefmartec 社の調査では2023年現在1万1038 のソリューションを確認。また、AIが急速に進化しているため劇的な変化が起きることも予測されています。
ITとの架け橋であり、セールスやカスタマーサクセスとの架け橋にもなりうる非常に重要な機能です。
(出典:2023 Marketing Technology Landscape Supergraphic: 11,038 solutions searchable on martechmap.com)
カスタマー サクセス オペレーションは、CS施策が効率的かつ効果的に実施されるように、包括的にアシストする部門です。
具体的には、カスタマーサクセスのワークフローを最適化し、業務を遂行するために最適なデジタルツールを選択。運用を管理しながら、CSのオペレーションを常にサポートし、改善していきます。具体的には以下の役割が中心です。
(参考:vitally.io、https://customersuccessbox.com)
この3つの要素がバランスよく機能することで、収益を上げることができます。
ここで、「レベニューオペレーション(RevOps)の成熟度モデル」をご紹介します。これは、英国を拠点にエンタープライズSaaSのグロースを支援しているチャーリー・コーワン(Charlie Cowan)氏が提唱したものです。下図で示す22の要素を用いて「組織全体で収益を最大化していくための体制が、どのぐらい成熟しているか?」を評価します。
(出典:Introducing the RevOps Maturity Model and Assessment — RevOpsCharlie | Help your buyers to buy)
成熟度評価に用いる22の要素は、一つの大きな「フライホイール(はずみ車)」の中に内包されるイメージです。それぞれ、ビジネス推進に強く影響を及ぼす要素が挙げられています。(各要素の詳細は後述します)
この「フライホイール(はずみ車)」の中のどれか1要素に、「新たなエネルギーが加わって、何らかの変化がもたらされた」とします。すると車輪に推進力が生まれて、回り始めます。たとえば「数多くの成約(SaaSの新規契約)を一挙に獲得した」としたら、それはビジネスの推進に少なからず影響を及ぼすと考えられます。すなわち、フライホイールが回り始めることをイメージしてください。
逆に、どれか1要素に摩擦が生まれて思うように進まなくなる場合も考えられます。つまり、フライホイール全体に摩擦力が加わって、ビジネス全体が停滞してしまう、思うように進まないといったケースも想定されるでしょう。
なお、このフライホイールに内包された「22の要素」について、それぞれ「3段階の成熟度」があります。つまり、「フライホイールを推進する要素の大きさ」も重視します。理由は、ビジネスに何らかの変化が生まれたとしても、あまりにエネルギーが小さすぎては、フライホイールが勢いよく回り続けられないからです。
それでは「22の要素」「3段階の成熟度」について、「Introducing the RevOps Maturity Model and Assessment」を基に次項で詳しく紹介していきます。
まずは、「外部機能の11要素」を紹介します。
ここでいう「外部機能」とは、見込み客があなたの会社や製品・サービスについて知る際の体験、購入体験、製品導入、契約更新に至るまでの体験(つまり、顧客の関与なくしては進まない要素。解約体験も含む)を指します。
11要素、それぞれに3段階の成熟度があります。
それでは、11の要素を一つひとつ順番に見ていきましょう。
ここでいう「ダークファネル」とは、潜在顧客が購入決定前にたどる、企業側から把握・可視化しづらい経路のことを指します。「Web・SNS上のUGC」や「オフラインでのクチコミ」などがその一例です。つまり、企業側から把握・可視化しづらいファネルで自社に関するクチコミやレビューがあって、潜在顧客の関心を引ける状況がどれぐらいできているかということが問われています。
潜在顧客がどのような属性・人物像なのか、まだ特定できていない状態。自社側からユーザーに働きかけをしない限り(例:認知獲得広告を打つなど)、自社製品・サービスについて議論されることはない。また、SaaSに関するレビューを集約したプラットフォームなどとも提携できていない状況。
自社がターゲットにすべき詳細な人物像(=ペルソナ)は想定できている状態。SaaSのレビューサイトにも自社のページを開設。しかし、ユーザー側が製品・サービスについて自発的に言及・議論してくれず、クチコミやレビューが乏しい状態。
顧客が、周囲の人々と製品・サービスについてオフラインなどで積極的に議論・他者推奨してくれる状態。そして、製品・サービスに関するクチコミ、レビューもオンライン上に充実している状態。
ここでいう「Owned Content(自社コンテンツ)」とは、自社がWeb・SNSで発信する情報を指しています。たとえば、オウンドメディアの記事やSNSで日頃投稿しているコンテンツなどです。自社のWeb・SNS上での影響力、すなわち、顧客の悩みの解決に貢献できるコンテンツの充実度が問われています。
Web・SNS上で、会社紹介や、製品・サービス紹介のコンテンツしか提供できていない状態。
「わたしたちはこんな課題を解決できます」と潜在顧客にアプローチするコンテンツを提供できている。ペルソナ別にコンテンツを用意することや、セミナー・ウェビナーなどイベント情報も提供できている状態。
自社独自の情報を発信できていて、理想的な顧客が直面しうる広範な課題について学べる機会を提供している。顧客が具体的に課題解決できるよう、診断コンテンツ、ベンチマーク、シミュレーターなども提供している。
これは、購買体験のことです。見込み客にとっての「比較検討〜購買」の段階で、自社側から提供する体験を指します。たとえば、営業担当者の見込み客への接し方、問い合わせ対応のあり方(見込み客から見た快適さ)などを評価し、快適な購買体験を提供できているかどうかを問うものです。
営業プロセスが場当たり的で、営業チームが従うべきマニュアルも定義されていない状況。創業者がまだ多くの案件に関与しているなど、営業プロセスが属人化している側面が強いことが想定される。
営業プロセスは定義されていますが、リードを部門間で引き継ぐ中で、見込み客に対して案内する内容に一貫性がない。1件のリードに対して、部門間で案内する内容がちぐはぐ、といった状態。また部門間での引き継ぎに時間がかかり、見込み客が問い合わせを行った際に、すぐに回答を得られず待たされてしまう状態。
見込み客がWebサイトからマーケティング担当者、SDR、営業担当者、オンボーディングチームへと引き継がれる際でも、一貫した顧客体験を提供している。また、顧客が製品・価格などについて問い合わせた際にも、折り返しの電話など待たずに理解できるコンテンツも用意されている(例:資料ダウンロードなど)。
ここでいう「チャネル」とは、顧客の製品・サービス購買経路のことです。外部提携企業(ベンダー)を介した購買チャネルなど、経路が複数あることが望ましいとされています。つまり、外部パートナーと協業しながらビジネスを成長させる体制があるかどうかについて問われています。
顧客が製品・サービスについて知ったり、購入したりできるチャネルは1つだけ(例:Webだけ)。
通常、営業担当者またはWebサイトを通じて自社から直接購入してもらう状態。
コンサルティング会社や技術パートナーと提携関係を築くことができている。しかし、提携先のWebサイトでパートナーとして掲載してもらえているものの、積極的に宣伝してもらえている状態ではない。提携先からのリード提供を受動的に待つのみという状態。
さまざまな紹介パートナー、再販パートナー、コンサルティングパートナーがいて、自社の製品・サービスについての顧客向けのコンテンツを作成してくれている。外部の販売パートナーと共にビジネスを成長させる提携関係を確立できている。
契約書の運用のあり方を評価します。契約書を顧客とメールでやりとりしているのか、あるいはCRMと自動連携して効率的・自動的に契約サイクル管理をできているか、といったことを評価します。
重視すべきは「顧客ごとの契約管理をいかに効率的に、自動的にできているか?」という点です。契約管理をすべて営業担当者一人ひとりが属人的に行っていては、契約更改の時期がブラックボックス化するおそれもあり、1件ずつスケジュールを見て取引先にメールするといった労力も必要です。
会社全体で労働生産性を高め、収益を最大化させるために、「契約管理の効率化、自動化」が求められているのです。
メールで契約交渉を進め、契約書は文書(書面、Word、PDFなど)で交わしている。
契約文書作成にCRMを少しずつ活用し始めている。
契約書類の作成・運用・管理にCRMをフル活用し、契約サイクルもツールで管理できている。
オンボーディングとは、新規獲得できた顧客を軌道に乗せるよう(快適に製品・サービスを利用してもらえるよう)推進する取り組みです。ここでは主に、「成約前の提案、質疑応答など、顧客とどのようなやりとりをしていたか?」「それらを全部記録、可視化、共有できているか?」といったことが評価されます。「顧客が本当に望んでいることを、成約後に提供できる体制にしているか?」が問われています。
成約獲得できた案件は、オンボーディングチームに引き渡される。成約までに顧客とやりとりしたメールは、契約書とともにオンボーディングチームに共有される。プリセールス中(契約前の顧客への提案や、質疑応答のやり取り)の内容を文書化して記録を残しておくかどうかは、営業担当者の判断次第という状態。
製品のオンボーディングに必要な情報が、オンボーディングチームに抜け漏れなく引き渡されるよう、引継ぎテンプレートを使用する。引き渡しミーティングは自動的にスケジュールされている。また、すべての契約前の電話の内容が記録されている。
オンボーディングチームを営業プロセスの最終段階に参加させることで、スムーズな引継ぎができている。契約前の電話のプロセス全体の通話録音の分析が行われ、どのような営業プロセス、会話、アプローチだったかを記録している状態。
アダプションとは、契約した製品・サービスが顧客のもとで定着するまでのプロセスです。自社の製品・サービスを契約・導入してくれた顧客のサポートをできているかどうかが問われます。新規顧客がせっかく製品・サービスを導入してくれても、その後上手く活用できず、定着させられなければ後々解約されてしまうかもしれません。よって、「定着」に対する支援も重視するべきだといえます。
オンボーディング後、製品・サービスの定着を推進できるかどうかは顧客次第。自社内のカスタマーサクセスチームは、四半期ごとに顧客の様子を伺うコールをしている。
カスタマーサクセスチームは、顧客と協力しながら、活用定着に向けたプランを定義している。しかし、そのプランは主に自社側の成功(顧客の離反防止)を主眼に置いて作成されている。
カスタマーサクセスは、製品開発およびマーケティング・チームと協力し、顧客が製品から価値を享受できるよう、さまざまな定着支援やセミナー、資料、コミュニティなどを提供している。
「Testimonial」とは「顧客の声」を指します。ここでは、顧客の声(レビュー、クチコミ、導入実績記事など)を求め、集めて、公開する体制ができているかどうかを問われています。つまり、レビューやクチコミをWebサイトなどに掲載し、次なる潜在顧客を引きつける仕組みを整えていることが重要です。
「顧客の声」の提供依頼ができていない。時折、Webサイトなどに掲載する「導入事例」の記事作成をしますが、1件の作成に何カ月もかかっているような状態。
営業担当者一人ひとりが「顧客の声」の提供を、顧客に対して打診しています。得られた声はWebサイトの「導入実績」の欄へ順番に掲載している。「課題>解決策>結果」という同じフォーマットに従ってレビューページや導入実績ページを作っていますが、個別事案からのラーニングなどは提示できていない。
営業アプローチ中、契約後、オンボーディング後、そして新規顧客獲得時など、購買プロセスのあらゆる段階で、組織的に「顧客の声」を求める体制が確立されている。また、さまざまなペルソナから「声」を集めています。ビデオ、音声、テキストで「声」を得て、購入プロセスの初期段階における教訓やアドバイスも盛り込むことができている。
「Referral」とは「紹介」のことです。既存顧客から、「製品・サービスに興味の有りそうな、新たな見込み客」を紹介してもらう体制の有無が問われています。BtoB SaaSにおいて「紹介」は重要です。「既存顧客自身が、実際に製品・サービスを利用して満足しているので、他者推奨してくれる」ということを意味しているからです。
顧客に「新たな見込み客」の紹介を依頼する体制がない状態。
営業の場で「誰か他に、製品に興味の有りそうな人がいたら紹介してくださいね」といった声掛けはしているが、計画的・継続的ではない状態。
顧客が自社と取引を開始するまでの過程を通じて、計画的に紹介を依頼する体制があります。紹介に報いるための「紹介プログラム」を用意し、紹介を獲得する方法を確立できている。
「アップセル」は、「より高単価の製品・サービスを導入してもらうこと」、「クロスセル」は、「別の製品・サービスも追加で導入してもらうこと」を指します。
BtoB SaaSでいうと「アップセル=より高単価の上位プランに契約内容を移行してもらうこと」、「クロスセル=すでに利用しているシステムについて、有料プラグインやオプションサービスを導入してもらうこと」が挙げられるでしょう。
ここでは、アップセル/クロスセルの獲得体制があるかどうかについて問われています。アップセル/クロスセルは、顧客単価を上昇させるために重要な要素であるためです。
アップセルとクロスセルは、顧客のアフターサポートをしている営業担当者次第。アップセルとクロスセルを顧客にアプローチするプロセス(追加で買いたくなるよう、アプローチする仕組み、定まった手順)はない状態。
カスタマーサクセス部門が、営業チームと協力して既存顧客にアプローチし、アップセル/クロスセルを獲得できるよう活動している。
既存顧客からのアップセル/クロスセル獲得に注力できている状態。カスタマーサクセス担当者には、担当顧客の純収益維持に応じて報酬が支払われるなどインセンティブも考えて運用できている。
「Renewal/Churn」とは「契約更新」または「解約」を指しています。製品・サービスの契約更新や、解約が発生した際にどのような流れ・仕組みにしているかを問われています。単に「離反を防止し、契約更新してもらいたい」といった企業視点だけに偏るのではなく、「顧客はこの先、どのように行動したらよいか」について長期継続的に対話する体制をつくることが重要です。
「解約」はすなわち自社にとって、収益減を意味します。BtoB SaaSにおいて解約が発生するのは、製品・サービスの機能面や料金に関する問題だけではなく、サポート面が理由であるケースも考えられます。よって、万が一解約が生じた場合でも、カスタマーサクセスの観点から最後まで顧客と対話・伴走する体制を提供し、企業として信頼を獲得するアプローチが重要です。
契約が切れる1カ月前に顧客へ連絡を取り、更新契約の時期だと知らせている。
更改6カ月前から、翌年の計画について顧客と話し合いを始める体制ができている。しかし、その話し合いは主に「顧客のニーズ、課題」よりも「(企業視点での)契約更改」について行われている状態。
カスタマーサクセスや営業担当者を通じて、顧客の次年度の企業戦略について常に話し合っていて、契約規模が変わる場合も含めて早期に情報共有ができている状態。もし、顧客が更改しない判断をした場合でも、今後顧客はどのように考えて行動したらよいか(ビジネスを継続させるためのアイデアや指針)提案を提供している。
つづいて、「内部機能の11要素」です。
「内部要素」として、収益戦略と組織構造、システム、プロセス、データ活用などが挙げられます。つまり、快適な顧客体験(前項で紹介した11の要素)を提供するために、適切な能力が組織内で整えられているかどうかを問うています。
この11要素についても、仕組み構築の成熟度合いに応じて「ビギナー」「ビルダー」「アドバンスド」の三段階で評価します。
それでは、11の要素を順番に見ていきましょう。
Strategyとは「戦略」のことです。つまり、「ビジネスのゴールに向けて、どのように行動すべきか?」という道しるべが、組織内で明確になっているかどうかが問われています。
組織内で戦略について共通認識を持つことができていないと、部署や個人間で日々の行動がばらばらになったり、ムダ・ムラが生じたりする懸念もあります。よって、組織全体で効率よく収益を最大化させるために「戦略の共有」が問われているのです。
まだ、製品の市場ニーズを把握する実験段階にある。数カ月先にやるべきことを見据えてはいるが、市場投入に向けた明確な戦略をまだ描くことができていない状態。
企業としてのビジョンや、会社全体の今年の目標を立てることができている。しかし、組織内の各部門で戦略がバラバラで、チームもそれぞれの目標に向けて行動している状態。目標はPDCAのたびにアップデートされるため、組織内の各チームが、「いま、何に重点を置いて施策を実行すべきか?」を明確に説明することができない。
3年後の会社の姿を描いた明確なビジョンが策定されている。全社的な目標と、日々の行動指針が明確になっている。また、それらを組織内の全員が把握していて「今年の優先目標」を明確に説明できる状態。
「Org Structure」とは「組織構造」のことです。「収益最大化に向けて、組織構造は適切か?」ということが問われています。具体的には、「レベニューオペレーション(RevOps)の進捗・発展度合いを見るリーダーを置いているか?」「そのリーダーのもと、組織体制を適切に築くことができているか?」といったポイントを評価します。
製品の市場投入戦略を立てるのは製品担当者かその上司で、営業チームは1つしかなく、創業者がほとんどの営業プロセスに関わっている状態。レベニューオペレーション(RevOps)関連の職務に就いているのは1人だけの状態。
組織内の各チームが成長を続けており、現在ではマーケティング、セールス、カスタマー・サクセスの各チームを統括する上長を置いている。レベニューオペレーション(RevOps)関連の役割を持つ人が2〜3人いる。
マーケティング、セールス、カスタマーサクセス、この3部門が互いに強固な連携を取ることができている。レベニューオペレーションチームはCRO(Chief Reveniew Officer)によって率いられ、戦略立案も実行している。
「Systems」は、業務に使用するシステムを指します。業務効率化を図ろうとして、さまざまなシステムを社内に導入している場合もあるでしょう。しかし、あまりに数多くのシステムが乱立すると、操作やトレーニング、維持コストなど、さまざまな観点でムダが膨れ上がる恐れもあります。そこで、システムの運用に無駄がないかどうかが問われています。
ビジネスの課題解決のために、複数のシステムを導入して(チャットはSlack、顧客管理はデータベースソフトのように)いる状態。これらのシステムは互いに統合されておらず、利用に必要なユーザーIDをいくつも覚えておく必要がある。
CRMを収益システムの中核に据えることができている。しかし、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスの各業務を支援するシステムが複数あり、システムが乱立している状態。その結果、どのシステムもいまひとつ社内定着が進んでいない。
マーケティングから販売、そしてカスタマーサクセスに至るまでの業務をサポート可能なシステムを活用している。(例:HubSpotやSalesforceのように、CRMとSFAを連携させて使えるシステムなど)営業担当者はそのシステムを見ることで、これまでの顧客とのやり取り履歴を確認可能。また、SaaS管理ツールなどを導入・活用して、定着度合いをモニタリングし、無駄なシステムの見直しもできている。
「Enablemen(イネーブルメント)」とは社内の教育体制を指し、ここでは営業チームの教育・トレーニング体制の充実度が問われています。組織全体で収益を効率よく最大化するためには、営業スキル・ノウハウの属人化を防ぐことがポイントです。そこでこの項目では、営業プロセスの可視化・透明化が重視されます。
営業担当者は、創業者からのトレーニング(口伝)を通じて営業ノウハウを学んでいる。文書化されたマニュアルなどはない。また、業務に必要な文書はすべてパソコンかクラウドに保存されている状態。
営業マニュアルが整備されていて、特定の顧客セグメントに対するトークスクリプトや質問事項も明記されている。また、新入社員に向けてトレーニングコースも用意できている。
営業担当者の仕事の流れを、ITツールを活用して可視化・透明化・社内共有できている。また、CRMと統合し、案件に応じて、参考にすべき情報(例:活用すべきトークスクリプトなど)にアクセスできるようになっている。そして、すべての顧客との通話を録音し、コーチングや新人のオンボーディングのために後で振り返りをしてラーニングを得られるようにしている状態。
「Processes(プロセス)」とは、取引のプロセスを指します。たとえば、成約獲得に至るプロセスなどが一例として挙げられます。
「成約獲得までのプロセスに関しては、営業担当者にまかせている。たとえば、カスタマーサクセスチームは、「営業担当が日頃何をやっているのか、詳しくは知らない」といった社内の状況では、「顧客にいつ、何を伝えたか」といったアプローチ履歴が分からないため、部門間の連携をうまく図れないでしょう。
取引のプロセスを社内の誰もが理解していて、自社・顧客の双方にとって良い体験になっているか、いつでも意見・アイデアを社内で出して柔軟にアップデートできる体制があるかが問われています。
収益プロセスをまだ定義できていない。顧客によって、取引の種類によってプロセスのあり方が
さまざま。
マーケティング、セールス、カスタマーサクセスはそれぞれ独自の業務プロセスを定義している。ただし、それらのプロセスはチーム外には公開されていない。また、各業務プロセスを最適化するための施策も、まだ無い状態。
マーケティングからセールス、カスタマーサクセス、新規獲得からアップセル、クロスセル、更新・解約に至るまで、あらゆるタイプの取引をカバーできる収益プロセスを定義済み。一貫したフォーマットで作成され、組織内誰もがレビューしたり質問したりできるよう、公開されている。プロセスを通じて買い手と売り手の体験を向上させる方法を、常に模索している。
「Product & Pricing」とは、製品開発と価格設定について問う項目です。つまり、「製品開発と、価格設定の体制は明瞭か?」といったポイントを評価します。
具体的には、「製品の機能開発について、顧客の声を開発チームにフィードバックする仕組みがあるか?」「製品の料金設定について、社内の誰から見ても、なおかつ顧客から見ても、明瞭な体系があるか」といったことが問われています。
BtoB SaaSの顧客獲得後、契約を維持するためには、カスタマーサクセスだけではなく、製品の機能開発・アップデートや、価格面も重要な要素となります。そこで、製品開発と価格設定に関して、顧客のニーズを反映して定期的に見直す仕組みがあるかどうかが重要です。
創業者が、顧客との会話に基づいて、製品開発チームにフィードバックを提供しますが、属人的でフィードバックの仕組みが確立されていない。また、価格設定はかなり場当たり的で、顧客ごとにまちまち。
営業チームから、製品開発チームに向けた定期的なフィードバックの体制が確立されていない。また、価格設定はあるものの、固定的で定期的に見直されることはない。
各チームから製品開発チームに対してフィードバックを定期的に提供する仕組みが確立されている。フィードバックは製品の性能などに関してだけでなく、顧客体験も含まれる。価格設定は少なくとも四半期ごとに見直され、バンドル、契約期間、割引モデルなども検討している状態。
BtoB SaaSビジネスで収益を最大化させるためには、顧客データの管理・運用・分析が重要です。
たとえば、「新規顧客数」「売上げ」「新規顧客にメール配信を行って、オプションサービスの案内を送付した際の反応数」など定量的に振り返り、「現状の成果はデータで明らかになった。では、これからどのようにアクションしていくべきか?」といったPDCAを行っていくことが求められます。
そこで、社内における「Data(データ)」の取り扱いについて、「データを活用して収益最大化に役立てる体制があるか?」「どのようにデータを管理・運用しているか?」という点が問われています。
データ活用戦略が定められていない。各システムや顧客の製品使用状況などデータの蓄積自体は存在しているが、データ統合をできていない。データは、Excelやスプレッドシートで管理・分析している状態。
CRMシステムで単一の顧客データを運用していて、各チームがそのデータにアクセス可能。しかし、顧客の製品使用状況やサードパーティデータなど、未統合のデータソースもある。なお分析の際にはExcelやスプレッドシートも併用している。
データ活用戦略を策定し、保有データを統合、BIツールを活用している。BIツールで分析を行い、顧客や市場に関する洞察を得ることができている。
Comp Scheme(報酬体系)とは、「従業員に対する報酬体系」を指しています。つまり、「自社の報酬体系はどのように策定・運用されているか?」が問われています。
「報酬体系について、社内の誰もがいつでも参照できて、自分の来月や次期の報酬がわかる。そのことで、日々の行動モチベーションが高まる」といった体制が理想的だとしています。
従業員一人ひとりにとって魅力ある報酬体系を設定できているか、その体制によって、結果的に長期の事業収益につながる仕組みを構築できているか、が問われているのです。
Excelやスプレッドシートを使って報酬計算をしている。この手法には限界があり、各営業担当者の報酬を正確に計算するには、毎月末に手間と時間がかかる。そのため各営業担当者は、次期に支払われる自分の報酬や、具体的な成果を判断するのが難しい状況。
RevOpsチームで新たな報酬体系(会社全体で収益最大化に向けて成果を出せるように)を立案できている状態。しかし、従業員一人ひとりから見ると、(自身の働きぶりに応じて高い報酬を望んだとしても)報酬には上限が存在している。
優れた顧客体験を提供するために、自分が出した成果だけでなく、その仕事の後のプロセス(例:他チームへリードを引き継ぎ、パスする)に対しても報酬が支払われるなど、従業員一人ひとりが、できるだけ大きな報酬を得られるように報酬体系を策定できている状態。
ディールデスクとは「取引を一元管理する体制」のことです。各案件の取引を具体的に誰が、どのように承認するのか、一元管理体制の有無が問われます。
たとえば営業担当者が成約獲得に向けて動いている中で、その取引について把握している人物が「担当者の上長」しか居ない、という会社もあるでしょう。
しかし、そのような体制よりも「いま、進行中の取引について、一元管理しているマネージャーが居て
会社全体で常に収益最大化を見据えて意思決定を下す。顧客一人ひとりのニーズを理解し、取引ごとに最適なソリューションやバンドルを提案する」といった一元管理のほうが理想的だとされています。
取引をどのように進めるかの承認は、営業部門の上長が行う。一元管理に関する明文化されたガイドラインはない。
案件の価格設定と値引きに関して、明文化されたルールがある。マネージャー、副社長、そして最終的には創業者が一定のレベルで案件を承認できるようになっている。
取引を一元管理するチームが存在する。獲得案件が優良かどうかを確認し、必要に応じて顧客と対話。顧客に対して代替案、ソリューション、バンドルなどを提供することもあり、優良顧客獲得を支援している状態。
「Forecasting」とは、収益予測のことです。つまり、「収益予測の体制はどうか?」が問われています。ここでは特に「収益予測は手動ではなく、CRMやBIツールで自動化している」体制がよいとされています。
その理由は「手動計算では、予測実行のスピードが遅くなりがちで、非効率」「予測内容に、担当者による希望的観測が含まれて客観的とは言い難く、無駄が生じやすい」といった観点からです。組織全体で効率よく、収益最大化を図るためには「過去のデータに基づいた自動予測」が望ましいとされています。
収益予測は手作業で行っていて、マネージャーと営業担当者との間で定期的に、電話・口頭などで確認している状況。
収益予測は、CRMを活用して半自動化されている。マネージャーはCRM内の機能を使って、予測を確認してコメントを加えることもある。しかし、マネジャーの予測は人為的な要素(希望的観測など)が多く、その結果、月末に案件のずれが発生することや、再予測をしなくてはならないケースもある。
収益予測はITツールで自動化されている。過去の実績や見込み客とのやり取りをもとに自動で作成される。
「Reporting(レポーティング)」とは、社長や投資家に向けた、定期的なビジネスの進捗報告を指しています。どのような手段でビジネスの定期報告を行っているのか、その正確性や透明性が問われます。「ビジネス遂行上の主要KPIを大まかに報告する」といった報告の仕方を取っている会社も多いのではないでしょうか。
しかし、ここで推奨されているあり方は、「各部門がBIツールなどを使って詳細なレポートを迅速に出せる」ことです。組織全体で収益最大化を図る過程で、「各部門の働きが、具体的にどのような影響をもたらしたのか」について、社長も投資家も、そして従業員一人ひとりも、可視化・理解できることが重要です。
月次報告として、主要KPIの達成度の概要を社長に提出している。しかし、収益サイクルの構成指標について、詳細な洞察は行っていない。
マーケティング、セールス、カスタマーサクセスは、各部署で使っているシステムからそれぞれ独自にレポートを作成している。多くの場合、Excelやスプレッドシートを使用している。
BIツールなどを使って、各チームが最新の正確なレポートを提供できる状態。ビジネスの進行過程で何が起こったのか、自分たちの仕事がプロセスの他の部分にどのような影響を与えたのかも確認できる体制が整っている。
ここでは、実際にレベニューオペレーション部門を導入し、成功した企業事例を紹介します。
(出典:HubSpot)
多くのSaaS企業がお手本にするようなHubSpotですが、やはり成長過程でさまざまなことが起きるのは、他の企業とは変わりません。会社が急速に成長していくなか、部門間の軋轢が生まれ、顧客体験が低下する時期がありました。
会社の目標はどんどん大きくなり、各メンバーは自分の組織の目標を考え、顧客中心の考えができなくなっていました。
組織の壁を取り払うためにHubSpotが打ち出したのが、「フライホイール」という循環型のビジネスモデル。これは、顧客を満足させるほど、さらに多くの新たな顧客を惹きつけられる考え方です。
そして、部門間の摩擦を少なくするべく、各部門の連携体制を確立するレベニューオペレーションチームを新たに発足させました。
レベニューオペレーションチームが常に前面に立ち、マーケティング、営業、カスタマーサクセスという3つの部門にわたって収益目標の共通認識を醸成。各部門を横断して連携を取ることで一貫性のある顧客体験を提供し、顧客満足度を高めることに成功しています。
(参考:HubSpot)
(出典:GoSite)
GoSiteは、米国の中小企業向けのビジネスプラットフォームを提供するSaaS企業です。
同社は、広告管理、CMSなどの顧客接点となるチャネルにおいて、それぞれ異なるプロバイダーのツールを活用していたため、顧客管理が分断されており、リードの醸成にも課題がありました。
もともと、顧客管理にはHubSpot セールスハブを利用していたため、解決策としてHubSpotをすべてのデータを一元管理するためのプラットフォームとして活用することを決断。その結果データが一元管理できるようになり、プロセスが自動化され、担当者の負担がまず減りました。リード醸成もスムーズになり、GoSiteの売上高は過去最高を記録しました。(参考:HubSpot)
(出典:FORCAS)
ABMを支援するBtoBマーケティングプラットフォーム「FORCAS(フォーカス)」を提供する株式会社FORCAS社では、いわゆる「THE MODEL」型の体制をとっていました。
マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの4チームで分業することは効率的ではあるものの、部分最適化に陥り、社員の視野が狭くなるなどの弊害も起きてきました。
FORCAS社はMRR(月間収益)の最大化をミッションとする「CRO(Chief Revenue Officer)」という役職を新設。新CROは就任後セールスメンバーを半分に減らし、かつセールスから1人をマーケティング、1人を採用に配置転換しました。
レベニューの視点から組織編成を見直し、組織に横串を通す役割をCROが実施したことで迅速な意思決定が可能に。創業からわずか2年でMRRは5000万を超え、急速な成長を遂げました。(参考:Seleck)
レベニューオペレーション (RevOps)のアプローチは、ビジネスモデルによって多様です。必ずしも「レベニューオペレーション (RevOps)」という部署名でなくてもよいですが、以下の要素は共通して重要です。
レベニューオペレーションを統括する責任者、CROとは、Chief Revenue Officer(チーフ レベニュー オフィサー)の存在が必要です。人材の要素として幅広い部門を渡り歩いた方、関わりあったことがある方がベターです。その人材に相応の裁量権を渡す必要があります。
組織において全体的な視点で人材の配置を行ったり、活用するための最適なツールを採択したりすることは理想的ですが、実行は決して簡単ではありません。特に日本の企業は現場が強く、一般に上からの改革に協力的ではないのです。
CROは、経営層とコミュニケーションをとりながら、営業、マーケティング、カスタマーサクセスほか収益に直結する部門と調整し、各部門の収益だけでなく組織全体の収益増加のために、さまざまな決断をしなければなりません。これは難題です。
本人の能力が高いことは前提として、それぞれの部門の経験値が豊富なこと、そして組織内に実際に権限を持っていることがきわめて重要だからです。
収益を向上させるためには、部門の垣根を超えて調整する必要性や、コミュニケーションを取る必要性があります。できればレベニューオペレーション担当部門があり、責任者が明確だとよいでしょう。
繰り返しになりますが、組織において各部署にコラボレーションしましょうと奨励しても、理想的にことは運びません。これは米国でも同じで、レベニューオペレーションについての情報サイトRevopscoop.comの公式サイトでも以下のように説かれています。
「営業部門には固有の偏見があります。彼らは RevOps が自分たちを精査すると考えており、RevOps は経営陣に人々について苦情を言うでしょう。彼らは私たちが彼らをトラブルに巻き込むと考えているので、CRM 設定に関する洞察や問題を共有したくありません、彼らが販売している製品、またはその他何でも」
現場は常に数字に追われていますし、レイオフも頻繁にある米国であれば、協力することで足元をすくわれることや、自分を不利にしてしまうこともありうる世界でしょう。
日本でも似た状況の会社は珍しくありません。また、日本は営業部門が組織内でもともと強い立場なので、現状の組織のままでは他部門の越権行為に見えるかもしれません。そのため、組織編制から見直すこと、RevOps は現場経験者を据えることが望ましいと言えます。
その上で仕組みを整えることが重要。例えば、営業チームとマーケティングチームの協同関係を築くには、定期的なミーティングの実施、SLAの締結などがひとつの対策になります。
(出典: HubSpot)
収益向上のためには、明らかにしたいデータは何かを見極めることができ、そのためにどの部門のどの情報が必要か、各部門が使うツールは何が最適かを判断できなければいけません。
組織の規模が小さければ、ツールはCRMだけでも十分かもしれません。しかし、組織が大きくなるとこのようなツールをシームレスに連携させる必要が出てきます。
ChatGPTに代表されるように、昨今はAIツールの進歩がすさまじいので、トレンドを見極めて、必要なタイミングで次のフェーズのツールの導入を判断する必要もあります。ビジョンが素晴らしいだけでなく、最適なツールの選定、データ活用を実行できることが、レベニューオペレーションにおいて非常に重要です。
※「2022 RevOps Team Benchmarks」をもとに当社で作成
Revenue.ioほか3社が2021年に行ったベンチマーク調査「2022 RevOps Team Benchmarks」によると、レベニューオペレーションを導入した37%の企業は、年間経常収益 (ARR) が 500 万ドルから2500 万ドルの段階で RevOps 機能を導入しています。次に多いのが、ARR2000万ドルから5000万ドルの企業で25%を占めます。
これは、RevOps のメリットがARR500 万ドルに到達すると明らかになると言われているからです。
もっともARRの小さい企業も導入しています。収益向上は企業の規模を問わず重要な概念なので、早期から意識しておくことで、セクショナリズムやツールの統合性のなさなど、将来的な問題を未然に防ぐことが期待できます。
スタートアップなどは当面CEO、COOの目が届きますが、組織における「50人の壁」「100人の壁」などを理解しておき、しかるべきタイミングで導入を検討するとよいでしょう。
レベニューオペレーションを支える代表的なツールを紹介します。
(出典:HubSpot)
HubSpotは、2021年4月CRMプラットフォームの「Operations Hub(オペレーション・ハブ)」をリリースしました。
社内のオペレーション機能を統合し、事業全体で整合性のある戦略の策定、情報の一元管理、部門間連携の強化とサイロ化の防止、自律的な業務プロセスの構築を担う「レベニューオペレーション」機能を含む新プラットフォームです。
コーディング不要で簡単にアプリとデータを同期でき、顧客データの整理、データ集合の定義、ビジネスプロセスの自動化に1つのCRMプラットフォーム上で対応できる統合型のツールなので、レベニューオペレーション部門(RevOps)にとって効果的な活用が可能です。
無料ツールがあります。
(出典:Xactly)
Xactly インテリジェント レベニュー プラットフォームは、企業のレベニューオペレーション(RevOps)を支援するSaaSです。
テクノロジーやプロセス、データを使って、憶測に頼らない商談の良いタイミングを予測します。また、営業計画の策定、革新的な営業報酬管理、プロセスの自動化などを実現して営業担当者をサポート。企業が継続的に稼ぐ力を高めることを手助けし、利益と売上げの拡大に寄与します。
レベニューオペレーションは、企業のフェーズや課題によって最適なツールが異なります。必ずしも統合的なプラットフォームである必要はありません。将来的なツールの統合は意識すべきですが、ボトルネックになっている部門向けのツールの導入から考えてもよいでしょう。
例えば、営業部門にCRMを導入するなら、無料で活用するHubSpot CRM、トップシェアのSalesforce、社内Officeと連携しやすいMicrosoftDynamicsなどの選択肢があります。
また、マーケティング部門にマーケティングオートメーションを導入するなら、Adobe Marketo Engage、Marketing Cloud Account Engagement、HubSpot Marketing Hubなどがおすすめです。
カスタマーサポート(サクセス)ツールを導入するなら、定評あるZendesk、リーズナブルで使いやすく成長著しいFreshdeskなどがあります。いずれも、将来の拡張に対応できるエコシステムができているため、部分導入から進めても大きな問題はないでしょう。もちろん、他にも素晴らしいツールが存在します。
ただし、最終的にセールス・マーケティング・カスタマーサクセスのデータやツール連携がどのくらいスムーズにできそうかは、現時点の課題に沿ってでよいので可能な限り確認しましょう。スモールスタート時点から全体最適の視点でツールを選ぶことが肝心です。
日本では、まだあまりなじみがないレベニューオペレーションという概念。「2023年RevOpsに関する実態調査」でも、認知度は1割程度だったようです。
レベニューオペレーションは、SaaS業界で言えば、営業、マーケティング、カスタマーサポート(サクセス部門)が統合された動きをすることで顧客満足度を向上させ、収益を拡大していくことを可能にする機能です。
いわゆる「ザ・モデル型」ビジネスモデルの導入に伴って、分業体制の構築まではスムーズに進んだ企業でも、セクショナリズムが課題になってしまうケースを見聞きします。今一度、収益を上げるという本来の目的と、組織としての全体性に目を向けるときかもしれません。
日本人が部分最適化が得意で全体最適化が不得意というのは、昔から言われ続けてきたことです。これまでコラボレーションの重要性をいかに説いても、優れたツールを導入しても克服が難しかったのは、そもそも組織体制そのものに根ざした課題だったからだと考えられます。
収益向上のための実効的な取り組みとして、RevOpsを検討してみてはいかがでしょうか。